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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科5巻8号

1951年08月発行

雑誌目次

綜説

網膜の特殊構造

著者: 宇山安夫

ページ範囲:P.479 - P.483

 網膜の生理,化學方面の研究は,近來頓に活况を呈しているのに較べて,解剖及び組織學の面に於ては,今世紀の初頭以來餘り見るべき進歩を示していない。其原因には種々あげられるであろうが,元來網膜は光刺戟を感受する部分と,其刺戟を中樞へ傳達する部分とから出來ている。即ち光感覺と傅達との装置が,あの薄い1枚の綱膜の中に壓縮されて存在しているのである。從つて他の感覺器と同樣に,網膜の主要なる部分は,光感覺の部分で,傳達の部分は其重要さに於ては,寧ろ從と考えられ易いのである。從來人々の注意が専う光感覺部,即ち視細胞の部に向けられ,生理,化學の面から其機能を明かにしようとして,此方面の進歩を促したことは否めない事實である。
 然しながら綱膜は,他の感覺器,例えは皮膚の知覺などゝは著しく異なり,知覺された刺戟が,共儘知覺神經によつて中樞に傳達されるのではなく,刺戟が網膜を離れて視束に移るまでには,幾つかのノイローンによつて,極めて複雑な經路をとつていることは衆知の如くである。從つて網膜内に於ける傅達装置の研究の重要さは,感覺装置の重要さに較べで決して優劣はないのである。

臨床實驗

炎症に對する治療に就て(1)—結膜炎の治療

著者: 呉基福

ページ範囲:P.484 - P.486

緒言
 臨床と理論は常に兩車輪の如くに回轉して始めて實際的の効果が擧げられるものである。治療の理論的裏付けは極めて重要であって,吾人の最も頻繁に遭遇する炎症に就ても炎症の形態學的變化及び本態と治療の間には正しい關連がなければならない。しかしながら炎症の本態に就ては尚明確なる解決が與えられていない。しかも尚吾人は毎日炎症の治療に從事しなければならないのである。此處に於て私は嚢に正常角膜周擁毛細血管の血流,透過性,構造,トーヌスに就て,又炎症時に於ける角膜周擁毛細血管の血管新生,循環障碍,滲出,トーヌスの變化に就て諸種藥剤を點眼しつつ細隙燈顯徴鏡を用いて生體顯微鏡的觀察を行つたのであるが,其の目的は角膜の榮養と炎症時に於ける循環障碍,滲出,血管新生等の形態學的諸變化及び炎症の本態に關する諸問題の究明であつた(日眼參照)更に進んで私は炎症に對する治療に就て諸種藥劑の結膜炎及び角膜炎に及ぼす効果を臨床的に細隙顯微鏡を用いて視察したのである。前者の諸實驗の結果は勿論炎症に野する知識に1小資斜を提供するものにすぎず,後者に就ては臨床經驗の淺い私にとつては經驗的裏付けが弱く十分によく爲し得る所のものではない。從つて今茲に述べんとする所のものは今迄の小實驗の綜括であり,又此實驗により導出された結論が治療と如何なる關連を保つべきであるかを極めて總論的に局所的藥劑的治療の立場より論ぜんとするだけである。

麥粒腫の發生樣態

著者: 小島克

ページ範囲:P.487 - P.489

 麥粒腫は葡萄状球菌感染による點は周知の如くである。唯,塚原氏實驗にもある樣に單に菌塗布のみでは發現しない。發生を助長すべき,體況的な面があろう。これらの一部としての「ツ」皮内皮應に就いて調べた所を茲に記したい。
 1.「ツ」皮内反應は,77例でみると(−)25例32%(40.5-33.4%)1-9mm21例27%(31.3-20.2%)10-19mm25例32%20mm以上6例(14.6-4.3%)となり,(+)以上は,77例中31例,40%(49.07-31.7%)であつた。

麥粒腫の再發者

著者: 小島克

ページ範囲:P.489 - P.491

 麥粒腫患者の「レ」線胸部所見及び再發者での2-3につき茲に記載したい。
 1.麥粒臆71名の「レ」線胸部所見は,胸膜胼胝7名(9.8%)〔17.3-5.6%〕肺所見ある者25名(35%)〔44-27%〕であつた。この25名は,既往罹患,入院療養中の者,氣胸者を含めて8名,肺野浸潤5名,肺尖鏡骨下浸潤9名(新鮮4名,増殖性5名この中空洞3名)肺門部浸潤3名等である。從つて嚴密には30%より幾分少ないが,偶然,眼科を訪れて空洞を見る等,その際に肺沈患を見出される者が可成りある。

リンパ管内皮腫の1例

著者: 荒木利子

ページ範囲:P.492 - P.493

 眼瞼に發生する腫瘍の中で,リンパ管内皮腫は比較的稀なものである。我が國に於ける眼瞼内皮腫の報告は,從來小島寛氏,澤正年氏,秋田宗次氏關冠武氏,高木諦一,德田虎之助兩氏の5例であつて,其の中でリンパ管内皮腫は,關冠武氏と高木諦一,德田虎之助兩氏の2例のみである。歐米に於いても餘り報告例は多くない。私は珍しい形をした眼瞼のリンパ管内皮腫を經驗したので,其臨床所見竝びに組織學的所見を報告したいと思う。

製鐵工場に於ける角膜異物(公傷)の統計的觀察

著者: 瀨戸山陽

ページ範囲:P.494 - P.497

 工場災害としての眼疾患は色々ありますが,眼外傷の頻度は,工場の種類,竝に職種の如何により差があります。眼外傷中最も多いものは角膜異物であることは,臨床上,又現在迄の諸家の等しく認めている所であります。
 殊に炭坑,鐵道,工場の如く特種なる環境を對象となす病院等では,角膜異物患者に屡々遭遇するわけで,工業の發達とともに増加することは明かであります。偶々小生製鐵所病院に勤務しその機會を得ました故,昭和10年より昭和24年までの15年間の角膜異物患者,ことに公務と關係ある公傷患者のみを茲に統計的に觀察を試みたので,先年當所の眼科傷の銃計觀察をした田中初男氏の成績と比較し,その成績を報告し諸家の御批判を仰ぐ次第です。

興味ある視野異常を示した腦下垂體疾患の1例

著者: 淸水光太 ,   高橋衞

ページ範囲:P.497 - P.499

 私共は腦下垂體疾患の1例を經驗したが,その視野の變化が聯か興味深く思われるので簡單に報告したいと思う。

Akkommodotonieの1例

著者: 淸澤兼久

ページ範囲:P.500 - P.502

 Akkommodotonieとは調節器の緊張,弛緩に要する時間の何れか一方のみ或は兩者共に延長せるものを言い,患者は佳良な視力,年齡相當の調節力を有しながら視線を遠近に轉じた際に暫時明視し得ないもので從來はTonische Akkommodation,Myotonische Akkommodation等と呼ばれ,1902年Strassburgetの記載に始まるがその何れも瞳孔緊張症に附隨したものであつた。然るに昭和7年日眼總會に於て,林勝三氏は本症の單獨に現われるものに就いてAkkommodotonieなる名稱を以て報告された。私も最近その1例を經驗したので追加報告する。

最近10年間に於ける角膜實質炎の統計的觀察

著者: 片岡省策 ,   木村正

ページ範囲:P.503 - P.505

緒言
 昭和15年1月より昭和24年12月に至る10年間に,大阪鐵道病院を訪れた角膜實質炎患者を統計的に觀察した。時恰も今次大戰による動亂時代を經過し,途に悲慘な敗戰の苦杯を嘗め,全く虚脱の状態に陷つた時期である。而してその90%以上が,先天梅毒に起因すると云われている角膜實質炎が,如何なる樣相に於てかゝる時代の消長に對所して來たであろうか。かゝる觀點より,この種疾患の統計的觀察を實施する事は興味ある事と思う。

間歇性内斜視の精神分析學的考察

著者: 岩田秀三

ページ範囲:P.506 - P.506

 私は昭和14年眼臨及び昭和25年臨眼において,間歇性内斜視の合計3例を報告して,本病は間歇性に起る内直筋の痙攣によるか,或は解部的内斜靜止位にあるものに融合力に抑制が加ることによつて起る1種の定期性内斜視で,間歇性に起る原因は恐らくヒステリー性のものであろうと述べておいた。ここに更に間歇性に起る原因について,精神分析學的見地から少しく立ちいつて説明を加えて見たいと思う。
 精神分析學において同一視及び攝取の心的機制といわれるものがあるが,次に丸井教授の著書より引用してこれを説明してみることにしよう。同一視とは野蠻人及び兒童は,彼等自己を對象とし客觀的に見て,これを彼等の色々の經驗より區別する事が出來ない。即ち彼等は自己に屬する事と他人或は環境の他の状況に屬するものを區別し抽象する事が出來ないのである。例えば兒童は遊戯に於て,彼等及び彼等の所持する人形を色々の人々と同一視し,後になつて若い男女は,彼等の好愛する教師と自己を同一視し,この先生の聲,態度,手眞似,服装迄も模倣する事は珍らしくないと言うが如き場合である。

眼筋麻痺性偏頭痛の1例—特に腦動脈撮影により頭蓋内内頸動脈瘤を證明せる症例に就て

著者: 岩永敏男 ,   小野勤

ページ範囲:P.507 - P.508

 眼筋麻痺性偏頭痛(Charcot)と名附け,或は週期性(又は反覆性)動眼神經麻痺と稱えられる疾患は外國では多數の記載があるが,わが國には比較約少なく過般教室からも松原氏(昭23)がその定型的の1例を報告し,その後數氏の報告があるが現在尚20例を僅かに越す程度に過ぎず,その本態は依然として不明である。
 余等は最近又かゝる症例に遭遇し,これに腦動脈撮影法を試みたところ偶々内頸動脈瘤を證明,内頸動脈結紮により治癒し後つて本動脈瘤に起因すると考えられるところの症例を得たのでこゝに報告するものである。

腦動脈撮影により頭蓋内内頸動脈瘤を證明せる特發性搏動性眼球突出症に就て

著者: 岩永敏男 ,   小野勤

ページ範囲:P.509 - P.511

 搏動性眼球突出症は外國には多數の報告あるも,本邦では未だその數多からず,殊に特發性に至つては10指に逹しない有樣である。
 余等は最近本症の1例を經驗し,腦勤脈撮影により動脈藩陰影を證明し,總頸動脈結紮により輕快した症例を得たのでこゝに報告する。

狂犬病豫防接種後麻痺における視束症状の意義—Virusによる實驗的球後視束炎への示唆

著者: 桑島治三郞

ページ範囲:P.512 - P.515

 さきに私は中心暗點を伴う球後視束炎の病原をVirusと考えで,その發現機序を考察する時,より合理的な説明をなし得る病型のあることについてのべた(本誌5卷7號)。
 曾てvirusの特長として擧げられた不可視性と濾過性という大いさの上の特長は,今日もはやその絶對性を失い,生活細胞を加えない人工培地によつては培養が不可能であるという生物學的特長だけが,この微生物の唯一の特長として残されるに到り,この特性こそが頑固な細胞趨向性と表裏一體をなすものであり,Virusが特定の生活細脈の榮養と庇護の下においてのみ増殖を營み得るという事實,換言すれば,この事實が必然的にVirusの臓器親和性と直結して臨床症状と不可分の關係を保つものであることが明かにされ,この意味から臨床症状の評價が特に重要視される。視束が胎生學上ならびに神經學上,あるいは解剖學的にも腦および脊髓と極めて近い相似關係に立つことは周知の事柄である。一方,多くの原發性炎性中樞神経疾患の病原として多數のVirusが明かにされつつある今日,上記の相似性から類推しで,Virusを病原とする球後視束炎の發現を推論することは容易に共感をよぶことができるものと信ずる。然し,これを實験的に證明することは上述せるVirusの特性から考えても極めて多くの困難を伴うものであることは,これまた容易に肯定される處である。

抗生物質その他によるトラコーマの集團治療

著者: 桐澤長德 ,   岡田茂 ,   德田久彌 ,   小池和美 ,   北村修

ページ範囲:P.516 - P.519

 オーレオマイシン,テラマイシン等の新抗生物質がトラコーマの治療に對して,劃期的な進歩を齊らしたことは既に周知の如くであつて,我々もさきにこれを報告したが,これら相互の比較を多數例について行つた報告は業だ殆ど文献に接しない。我々は今夏(昭和25年)以來これらの抗生物質やその他の藥劑を特殊集團の定型的トラコーマ約300症例について比較使用したので,その臨床的經過を比較することによつてこれらの效果判定に資したいと思いこゝに報告する。

勤勞學徒の眼疲勞—特に夜勤め影響に就て

著者: 藤邑守人

ページ範囲:P.520 - P.522

緒言
 戰時中學徒がやむを得ず工場へ進出したが,私は勤勞學徒の眼疲勞に就て,特に調節機能に影饗するところ大と思われる夜勤を選び,ささやかな觀察をしたことがあるので,何かの參考になるかとも考え甚だ不充分ではあるが其の成績を報告しておきたいと思う。

腺熱(傳染性單核細胞増多症)に合併した急性球後視神經炎の2例

著者: 村岡重人 ,   小黒昭六郞

ページ範囲:P.523 - P.526

 腺熱(傳染性單核細砲増多症)の眼合併症としては,從來種々の記載があるが,混神經變化にするものは甚だ少く,殊に吾國に於ては未だ報告を見ざるものゝ如くである。余等は最近相次いで急性球後視神經炎を合併せるもの2例に遭遇したので茲に報告する。

臨床講義

蠶蝕性角膜潰瘍(其の治療效果比較,特に手術療法に就て)

著者: 淺山亮二

ページ範囲:P.527 - P.531

症例
A 63才 ♂ 農,(表1,No.11)昭和25,11,23初診
 主訴:兩眼の疼痛及び視力障碍。

談話室

白内障剔出手術の歴史(その2)

著者: 山賀勇

ページ範囲:P.532 - P.534

 1745年,ジャック・ダビエルによつて開かれた白内障剔手術は,その後大いに他の外科,眼科醫を刺戟し,種々の改良が加えられて今日の手術の基礎をなすに至つた。常時は未だ患者を椅子にかけさせ,術者はこれに相對して手術を行い,又角膜の切開は下方に先ず鎗状刀を用い次でこれを角膜全周の3分の2程も擴大する方法がとられていたのである。當時の状景は,マルセイユ市美術館に藏せられるダビエル白内障手術の圖に見られる通りである。
 先ず白内障刀については,殆ど無數の諸氏考案のものが作られ,角膜切開を1回ですませようと努めた。その中1792年ウィーンのBeerの用いた内障刀は,今日我々が別の目的にではあるが愛用する所のものとなつた。

外文抄録

最近の開明手術

著者: ,   森島生

ページ範囲:P.534 - P.535

 最近の新開明手術が醫學誌上に大分と注意を惹いてきた。それには眼科醫の證明がついているからだ。その事は角膜移植以上の事柄である。眼球上に出來た薄膜が白翳である盲に關する限り誠に此上もない解答であると多くの専門外科醫は信じている。此所謂眼球上の薄膜とは實際にそれを科學的に謂うなら,それは眼球の表面の膜即ち角膜の薄膜樣に見えるものである。それは眼の外側にあるのである。屡々それを普通人は白内障として解されているものである。然し白内障は眼球の表面でなく眼球内部の不透明なものをいうのである。此2つの不透明型に區別するのは専門家には極めて簡單なことである。
 正常には角膜は眼球前面にあつて清き透明の組織であり,それは眼球の後方は光線を通過させる窓の樣に作用するのである。此物は全身中で2つの血管の無い部分であり非常に感受性があつて解剤學上最も冷たいものの1つである。それは眼の白色の部分乃ち鞏膜に續いており同樣な構造を有している。之等の膜が一緒になつて薄くはあるが其中に精緻なる内容を守るために丈夫な保護包として役立つている外衣を形成しているのである。眼球それ自身は頭蓋内の比較的大きな骨の開孔部に懸垂されており直脛1インチ程の小さな球形のゴム毬の如くあるものである。後方は視神經によつて腦と連接し,其神経は細い莖乃ち枝の外見を爲している。其球内には虹彩があり之れが自動的に寫眞のシヤツターであつて眼に各人固有の色彩を與えている。

緑内障(その1)

著者: ,   須田

ページ範囲:P.536 - P.537

1.原發性緑内障
A.機轉
 原發性緑内障起因の機轄に關して今日も尚2學脈がある。其の1は眼の神経血管系の障碍によるとなす學説で他は機械的障碍説である。

手術メモ・ⅩⅩⅢ

網膜剥離手術

著者: 中村康

ページ範囲:P.538 - P.539

 網膜剥離は從來難治であうで,治療困難とされていたがGonin氏が網膜裂孔焼灼法を發表して以來網膜剥離の治癒率は非常に高まつた。そして其後此方面の研究もつみ色々の方法が考察された。此治療の第1要點は網膜裂孔の發見にある。此は次のようにする。
 裂孔の位置を,視野計にて,度數を以て脛線と緯線とで求める。徑線の角度(射視角度)により,角膜中心から裂孔迄の距離を知る。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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