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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科5巻9号

1951年09月発行

雑誌目次

綜説

眼精疲勞に就て

著者: 加藤金吉

ページ範囲:P.541 - P.546

緒言
 眼の使用ということは人間の健康な状態に於ては殆ど全く無意識の中に行われているのであるが,何等かの原因で意識的に努力しなければならず,又努力しても目的を達し得ないようになることがある。斯る時の1つの症状群に對して1843年にSir William Mackenzieが初めてAstheno-piaという名を提唱した。其の原因に關してはDondersが1864年に屈折状態及び調節との重大關係を指摘したのが始まりで,其の後v.Graefe等によつてAsthenopia muscularisなる言葉の下に内直筋及び毛樣體筋の關與が強調され,更にStevens等によつて斜位に原因するものの研究が行われ,最近に至つてAmes等によつて不等像Aniseiconiaにるものが追加され,現在ではW.Mackenzieの提唱したAathenopia (以下As.と書く)なる言葉は非常に廣範な症候群を意味するに至つたのである。
 現在我邦ではAs.は通常As.accomonodativa,As. muscularis, As. nervosa, As. symptomaticaと大體其の原因によつて4種に分類され,從來の文献を通覽しても殆ど全てがこの分類に從い,且つ殆ど完全に分離して箇々別々に取扱つている者が多い。

臨床實驗

炎症に對する治療に就て(その2)—角膜炎の治療

著者: 呉基福

ページ範囲:P.547 - P.549

緒言
曩に私は正常角膜周擁毛細血管の血流,透過性構造,トーヌスに就て,又炎症時に於ける角膜周擁毛細血管の循環障碍,滲出,トーヌスの變化に就て諸種藥剤を點眼しつつ細隙燈顯微鏡を用いて生體顯微鏡的觀察を行つた。(日眼參照)
 更に進んで私は炎症に對する治療に就て,諸種藥剤の結膜炎及び角膜炎に及ぼす效果を臨床的に細隙燈顯徴鏡を用いて觀察したのであるが,第1報「結膜炎の治療」は綜眼誌上に發表した。次に第2報として「角膜炎の治療」を茲に報告せんとするものであるが,其の内容は結膜炎に對する治療の場合の如く從來の私の研究範圍内に於ける結果,即ち角膜炎に對する局所的藥剤的治療法を極めて總論的に述べんとするものであつて,全身治療,手術療法及び特殊療法は論外である。實驗方法は從來の諸實驗と同じく患眼に諸種の治療藥剤を投與しつつ,其の效果を細隙燈顯徴鏡を用いて觀察する。

Graenblad-Strandberg Syndromの遺傳家系

著者: 小島克 ,   近藤敬一郞

ページ範囲:P.550 - P.551

 網膜色素線條と彈力纎維性假性黄色腫を併有し,且つ高度近視を有する2例が,血族結婚家系にみられたので記載したい。本邦眼科では河本氏,肥後氏,張氏の3家系があるが,各異つた所を示している點本症例も追加の意義があろう。
 網膜色素線條はPlange (1891)に始まり,Graenblad-Strandberg (1926)によりPseudo-xanthoma elasticumとの共存が注目された。本邦では色素線條は内藤達氏(明32)によつて注目され,昭和7年石川含氏により兩者共存の例を見るに到り現在は30有餘例ある。然も遺傳家系は既述の如く寥々としている。

瞼腺炎發生の樣態

著者: 小島克

ページ範囲:P.552 - P.554

 瞼腺炎は,所謂内麥粒腫や,急性霰粒腫と時に紛らはしい。麥粒腫の樣に毎常葡萄状球菌を塗抹標本でみる事は案外少なく,レーベル氏細胞樣の者さえ散見する事があり,急性霰粒腫の1系をなす場合も考えられる。麥粒腫と霰粒腫(急性)系疾患とは臨床上中間的な關連性を有する感があり,然も發生年齡も3者共近明である。「ッ」反應その他より軆況的な面でみた所を茲に記したい。
1)「ッ」皮内反應,2000倍ッ液48時間値でみる。42例中(—)8例(19%)〔35-10.9%〕1-9mm 9例(21%)10-19mm15例(35%)20mm以上10例(23%)であり(+)以上は,42例中25例(59.5%)〔70-47%〕である。

眼瞼マイーボム氏腺に原發した脂肪性癌腫の1例

著者: 三根享

ページ範囲:P.554 - P.556

 眼瞼に發生した癌腫に就ては多くの報告があるが,マイボーム氏腺に原發した癌腺は極めて稀なものとされている。筆者は最近本症の1例に遭遇したのでここに報告する。

モルガニ氏白内障剖檢例補遺

著者: 曲直部正夫

ページ範囲:P.557 - P.559

 モルガニ氏白内障は醫學普及した今日では比較的稀に遭遇する事。乳状液化した皮質中に褐色の核が自己の重さで下方に沈降するが,眼球運動と共に興味深く游動する事,時には重篤な合併症の惹起される事。且つ其の摘出手術時に周到な注意を拂わないと意外な困難に逢う事等によつて臨床的に注意を引く。私は偶ゝこの經驗した1例を嚢内全摘出し視力が恢復したばかりでなく,其の摘出した水晶體に就て組織擧的檢索をも試みたから茲に知見を報告し數少いモルガニ氏白内障剖檢例の補遺たらしめようと思う。

下眼瞼圓蓋部結膜嚢腫に就て

著者: 片岡省策 ,   木村正

ページ範囲:P.560 - P.562

緒言
 下眼瞼圓蓋部に發生せる結膜嚢腫に就ては,Saquer (1877)が報告して以來,左程珍しいものではないが,最近その報告に接しない樣である。私はその1例を經驗したので報告し,最後に昭和15年より,昭和24年に至る10年間に本邦文献に見た結膜嚢腫中,下眼瞼圓蓋部に發生せる13例に本症例を加え,總括的觀察を試みた。

松毛虫に因る虫毛性眼炎の2例

著者: 濱崎克己

ページ範囲:P.562 - P.564

 毛虫の毛に因る虫毛性眼炎或は結節性眼炎とは虫體の直接接觸に依り,虫毛が眼組織中に侵入し,屡々異物性の結核樣結節を作り,重篤なる眼内炎症を惹起する傾向があつて,多くは増惡と輕快の反復を以て經過するを特徴とする眼炎であるが,本症はSchoen氏(1861年)の報告を嚆矢とし,次でPagenstecher氏(1883年Raupenhaarophthalmie).Wagenmann氏(1890年Pseu-dotuberculose Entzundung durch Raupenhaare).Saemisch氏(1904年Ophthalmia nodosa)等の報告に依り,虫毛に因る眼炎なる事が確認されて以來,外國に於ては比較的多數の報告を見るも,本邦に於ては比較的尠く,明治40年荻生氏1例)の報告以來,美甘氏(5例)辻本氏(1例)菅又氏(1例)田村氏(2例)窪田氏(1例)等の報告があるのみである。而して美甘氏,田村氏の各1例及び辻本氏の例を除けば他は總べて松毛虫の毛に因る眼炎である。其他Wagenmann氏は毛虫の虫體自身の接觸なく然も虫毛は刺入することなく通常両眼に起る風土病的結膜炎の存在を報告し,鈴木氏は松毛虫の死毛が風に吹かれて眼に入り1眼に起る刺毛性角膜炎の15例を報告した。著者は最近松毛虫の虫體が直接眼に接觸してより起つた本症の2例を観察したので茲に追加報告する。

針付カットグットを用いた斜視手術の成績其他について

著者: 井上正澄

ページ範囲:P.565 - P.567

緒言
 1948年から1951年に至る最近4年間に著者は米國より東京に飛來した3人の眼科專門醫の手術を手傳つて得た手術方式を追試して良好な成績を得たので此處に述べて見よう。Dr.Byron Smith (New York City),DrNorman L Cutler (Delaware),眼手術學に定評あるDr.Spaeth,教室出身,Dr.Forrest E.Hull.,の以上の3人である。

點状表層角膜炎の豫防的治療とThygesonの分類法

著者: 井上正澄

ページ範囲:P.568 - P.571

 流行性角結膜炎に伴う點状表層角膜炎の豫防的治療は屡々困難をきわめ,此の種の角膜炎が起りそうな危險を感じて色々と手を盡しても往々にして避け得られない。
 流行性結膜炎の炎症の最盛期を過ぎた時に點状表層性角膜炎が起り易く,眼脂の分泌が減少して羞明,流涙,霧視の症状が増惡し,輕症の場合はスリツトランプ検査により初めて見出され,重症の場合は斜照法にて容易に見得る點状の角膜上皮の溷濁を生じる。著者は検査の際に,フルオレスシン又はマーキロクロームを用いると經過に惡影響を及ぼす樣に見えるため,着色剤の使用を避けている。一旦角膜炎を生じた症例では經過は長期に亘り,Thygesonの言う如く3年もかかつて角膜溷濁が吸牧する例もあると言う事は著者も同感である。

伊東式暗室灯の細隙裝置とスキアスコピー用小型無孔平面鏡と手さぐり用板付レンズ

著者: 井上正澄

ページ範囲:P.572 - P.573

1,伊東式暗室灯の細隙裝置
 細隙灯角膜顯微鏡は検眼鏡と共に是非共眼科醫が設備せねばならぬ必需品であるが,新視開業の場合などは高價に過ぎる。良く見える裝置で値段も廉く得られると言う目的で此の裝置を作り,半年間試用したが,調子よく使えるので此處に述べてみよう。
1)伊東式暗室灯は從來のまゝ使用し得る。第1圖の如く,奥行50cm又はそれより少し大きな机に載せて使用する。光線の進行順序は第2圖に示す。

眼結核の化學療法—第1報 結核性虹彩毛樣體炎に對するストレプトマイシン前房内注入の效果

著者: 今泉龜撤 ,   二宮以敬

ページ範囲:P.574 - P.579

緒言
 ストレプトマイシン(以下ストと略す)が,抗結核劑として如何に病巣に作用するものであるかを,如實に觀察し得るものは,病巣自體を直接肉眼的に觀察出來る眼科醫を措いては他に餘りあるまい。此の度我が教室に於て,明らかに結節を證明する結核性虹彩炎3例4眼に對して,ストの前房内注入を試み興味ある結果を得たので報告したいと思う。ストの前房内注入例は,本邦に於ては未だ之を見ない状況にあるので,僅かな症例であるがその詳細を記載し幾分でも諸賢の參考となれば幸甚である。

昭和26年度宇部市の赤ちゃん大會に於ける母子トラコーマ罹患状態に就て

著者: 大石省三 ,   佐々木佐

ページ範囲:P.580 - P.581

 トラコーマ(トラ)の發病は主として乳幼兒期に母親(時に祖母)のトラより感染して起るものと云われている。私共は宇部市學童のトラに就て各方面より研究しつっあるのでその調査の一部分として,當市で今春行われた赤ちやん大會に參集した母子を市内の3地區で檢査し,母子トラの相關と乳兒トラの發症に就て知ることが出來た。大石等は曩に奉天某孤兒收容所で乳兒トラの罹患状態を調査したことがあるので,その成績と比較し私見を述べたいと思う。

各種視神經疾患に於ける髓液,血液並に腦液中のビタミンB1含有量の消長に關する研究—第2報 各種視神經疾患に於ける髄液並に血液ビタミンB1含有量の消長に就て

著者: 水田厚正

ページ範囲:P.582 - P.584


著者は第1報に於て正常健康人の髓液V.B1含有量並に各種視神經疾患特に急性又は慢性球後視神經炎(交叉部蜘網膜炎)及び脊髓癆性視神經萎縮症の髓液,腦液中のV.B1含有量,又髓液血液同時測定時のV.B1含有量の消長を比較檢討し其の意義,其の他の症状との關係に就て述べたり。本報に於ては更に症例範圍を擴大しあらゆる視神經疾患に就て髓液並に血液V.B1含有量を同時測定しその消長を比較し各種視神經疾患に於ける髓液並に血液V.B1含有量の増減の意義,他症状との關係に就て檢討し第1報とやや趣を異にせる興味ある知見を得た

學校ト・ラコーマの集團治療效果—第2報 軟膏單獨療法にて治癒せざりしトラコーマに對する結膜擦過後のテラマイシン,オーレオマイシン,クロロマイセチン,及びプロミン軟膏療法

著者: 今泉龜撤 ,   服部而立

ページ範囲:P.585 - P.589

Ⅰ.緒言
 曩に吾々は第1報としてテラマイシン,オーレオマイシン,クロロマイセチン及びプロシンの諸軟膏による集團治療效果の比較に就て發表したが,其の後引續いて實施した結膜擦過後の上記藥劑療法の成績が判明したので,第2報として報告する。

結核性眼疾患に對する「メチルプロミゾール」の使用經驗

著者: 樋渡正五

ページ範囲:P.590 - P.600

 近時化學療法剤の目醒ましい發見發達につれて,結核性疾患の領域には多數の新藥が登場して,著しい治療效果を擧げつつあるが,各藥剤とも夫々一長一短があつて何れも萬全のものとは言い難い。私は昨年その作用が,胸部結核及び皮膚結核に對して,從來のズルフォン剤より效果が強いと言われているメチルプロミゾールの使用機會を得たので,之を私の專門領域たる,所謂結核性眼疾患と通常稱せられるもの及び眼結核の幾らかに就いて使用し幾分の成果を得た。
 現在,尚臨床研究を續行中であるが,使用開始以來,相當日數を經過し觀察し得た症例も100例に及んでいるし,現在迄の所眼科領域では僅かに小原及び生井氏の報告があるのみであるから,ここに之迄の經驗例を纒めて報告することとする。

臨床講義

眼窩血管腫

著者: 萩原朗

ページ範囲:P.601 - P.603

 今日は入院している2人の眼窩血管腫の患者を供覽する。
 他の科に對して診斷の正確さを誇る眼科にも診斷に困難な疾患がいくつかあるが,眼球突出程診斷のつけにくい病氣も餘りない。經過を觀察するとか,或は治療して初めて確實な診斷がつく場合が多く,時には診斷がつかない中に治癒して了うものも稀ではない。此處に供覽する眼窩血管腫は,しかし,眼球突出の中でも比較的特異な症状を揃えているので大體の見當はつくが,之とても矢張り處置を行つて見た上でなければ,確實なことは分らないのである。

妊娠中毒症と眼底疾患

著者: 中村康

ページ範囲:P.604 - P.607

 本日妊娠中毒症と眼底疾患との關係に就て,患者の病歴を述べながらお話しをしようと思います。
例1:キテ,30才

談話室

檢眼鏡發明百年を記念す

著者: 山賀勇

ページ範囲:P.608 - P.612

 古くは西洋でも東洋でも,瞳孔は黒いものとしか理解出來なかつたので,時々犬や猫の眼が暗夜に光ることは知られたが,只怪しいこととして,その理由は全く不明であつた。1668年パリーのMariotte初めて人眼も亦光るべきことを唱えたが,主として動物についての實驗を行い,人眼についての追及をしなかつたのは惜しいことであつた。このようにして19世紀に入つてもなお,知名の博物學者さえこれは動物の眼に發光機能があるためだと唱えて多くの人々がこれに從つた。1810年ジュネーブのPrevostは動物眼の光るのは,投入光線の反射によることを確め,1812年ミュンヘンのGruithuisenもこれと無關係に眼底網膜の反射によることを知つたがまだ一般には信ぜられなかつた。
 一方病的眼について,1735年ロンドンのDuddelは白兒眼の眼底の光るのは白色家兎と同樣に脈絡膜に色素のないためであると發表し,1837年エルランゲンのMichael Jager は虹彩缺損患者の眼底の光ることを發見して光線の反射によることを確め1792年ウィーンのJ,Beerは眼底の新生物のためにも光ることを發表し,これを黒内障性猫眼(Amaurotisches Katzenauge)と名ずけた。

外文抄録

緑内障—その2

著者: 須田

ページ範囲:P.613 - P.614

 血管神經説と機械説と相容れない考えは急性鬱血性(狹角性)緑内障の機轉である。前者では血管神經障碍のため毛樣體に浮腫を生じその結果隅角が狭くなるのだと假定するに對し,後者は先ず解剖學的に隅角が狭く何等かの原因で虹彩周邊部が押されて隅角をふさぐので發作が生ずる。何等かの原因とは暗所にて散瞳する樣な單なる機械的のことでもよし,又輕度の外傷や感情の變動により毛樣體が鬱血する樣な神經血管因子からでもよい。暗所で眼壓が上昇するのは促進作用が機械的であることを暗示していると考えている。
 Duke-Elderの發表即ち發作時以外の隅角檢査では急性鬱血性緑内障の20%が隅角は開いているとの發表に對し多くの隅角研究者は不賛成である。

手術メモ・ⅩⅩⅣ

視神經疾患手術

著者: 中村康

ページ範囲:P.615 - P.615

 後療法:腦脊髓液採取後及パンピング後は頭痛,眩暈,嘔吐等を訴えるので術後5-6時間は安靜にしていることが良い。穿刺の頻度は週1回とする。
 腦腫瘍のあるものに腰椎穿刺を行い減壓すると此爲め急に延髓が壓迫され直接中樞麻痺を起すことがあると言われる此時の注意は液の採取を徐々に行い終壓と初壓との差をなるべく小さくする事によつて危険を少くすることか出來る。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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