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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科50巻2号

1996年02月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

脈絡膜病変のICG螢光造影所見(2)

著者: 松永裕史

ページ範囲:P.108 - P.113

多発性後極部網膜色素上皮症
 多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)は,後極部の網膜が扁平に剥離し,下方周辺部には胞状の網膜剥離をみる。後極部網膜にはドーナツ型の黄白色滲出斑が多発する(図13)。フルオレセイン螢光造影(フルオ造影)では,滲出斑に一致して脈絡膜から網膜下への著しい色素漏出がみられる(図14)15)
 インドシアニングリーン螢光造影(ICG造影)では造影早期に滲出斑は低螢光で,脈絡膜静脈は拡張し,静注後5分経過すると脈絡膜血管から著しい色素漏出によって後極部全体がびまん性の過螢光になり,その中に網膜下への色素漏出を示す過螢光がみられる(図15)。

眼の組織・病理アトラス・112

網膜色素線条と弾性線維性仮性黄色腫

著者: 猪俣孟 ,   千々岩妙子

ページ範囲:P.116 - P.117

 網膜色素線条はブルッフ膜の断裂によって特徴的な線条が眼底にみられる疾患である。線条は通常赤褐色または黒褐色で,乳頭を囲む輪状の部分とそこから放射状に伸びる部分からなる。その走行があたかも血管のようにみえるので(図1),angioid streaksと名付けられた。わが国の眼科学では,これをその色調から網膜色素線条と呼んでいる。線条の両側には灰白色の帯を伴い,乳頭周囲では線条を取り囲むひとで様の外観を呈する。さらに,後極部眼底の特徴として,萎びたみかんの皮peau d'orange (わが国では,これを梨地眼底と呼ぶ)類似の色調や割れた卵の殻cracked egg shellの模様を示す(図1)。
 線条が黄斑部に及ぶと,視力障害や変視症などが生じる。ごく軽い外傷でも黄斑部に出血を起こすことがある。しかし,視力障害の主因は,網膜下血管新生,網膜色素上皮剥離および黄斑変性で,老人性円板状黄斑変性症と類似の病像を示す(図2)。螢光眼底造影検査を行うと,線条部は動脈期から著明な過螢光を示す。

眼科図譜・349

結節性硬化症の一卵性双生児例

著者: 桐渕恵嗣 ,   原田敬志 ,   神原行浩 ,   山崎真吾 ,   丹羽隆史 ,   馬嶋慶直

ページ範囲:P.120 - P.122

緒言
 結節性硬化症(プリングル病)は,多系統疾患で母斑症の1つであり,遺伝性疾患とされる1)。桐渕ら2)は,1992年本症の100例12家系をまとめて発表したが,この中にも一卵性双生児の症例は含まれていない。
 海外では,一卵性双生児に発症した本症の報告が数例1)あるが,稀有な症例であることには,変わりはない。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・85

屈折矯正白内障手術—一対のAKを組み合わせる上方小切開創白内障手術

著者: 吉富文昭 ,   原優二

ページ範囲:P.124 - P.125

はじめに
 なぜ白内障手術同時Astigmatic Keratotomy(以下,AK)が好まれないのか。これにはいくつかの理由がある。理由の一番目は,そもそも強角膜切開にしろ透明角膜切開にしろ,これら白内障切開もAKも角膜減張切開である以上,切開の本数と長さが増えるにしたがって術後予測性predictabilityが低下するからである。倒乱視例に対する上方白内障切開は実質的に弱主経線上に置かれた角膜減張切開であるのでAKの効果を減殺するのである。二番目の理由は,術後のAKと違って眼球に軸を決めるためのよい目印がないため容易に軸ずれが起こって斜乱視を形成するからである。筆者の5.5mm上方強角膜切開+一対AKのシリーズの場合,術後斜乱視の発生率は30%弱であった。

臨床報告

網膜前黄斑線維症を伴う網膜色素変性症眼底の走査レーザー検眼鏡所見

著者: 山口克宏 ,   山口慶子 ,   佐藤武雄 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.127 - P.131

 網膜前黄斑線維症を伴う網膜色素変性症患者2症例の黄斑を,走査レーザー検眼鏡を用いて観察した。アルゴンブルーでは,乳頭黄斑間神経線維が不鮮明で,不整な膜様反射と網膜ひだが認められた。アルゴングリーンでは,この膜様反射と放射状網膜ひだはやや不明瞭となったが,黄斑に点状の高輝度がみられた。ヘリウムネオンでは,黄斑の膜様反射と放射状網膜ひだはさらに不鮮明となり,点状の高輝度および低輝度がびまん性に混在する粗な画像を呈した。ダイオードでは,黄斑に顆粒状高輝度および低輝度がモザイク状に混在して認められた。このように,SLOでは検眼鏡では得られない眼底所見が得られ,網膜の層別解析に有用であった。

蝶形骨の単独骨折を伴った眼窩先端症候群の1例

著者: 山本憲明 ,   加藤良枝

ページ範囲:P.133 - P.137

 外傷性の眼窩先端症候群の1例を報告した。症例は59歳の男性で,2mの高さから転落して顔面を打撲し,2日後眼科に紹介された。初診時の左視力は光覚弁で,瞳孔は散大,眼瞼は下垂し眼球運動は全方向に高度に制限されていた。CT検査により蝶形骨大翼の単独骨折が判明した。受傷2日後から,副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)のパルス療法を開始し,4日後に前頭開頭視神経管開放術が行われた。術後,左角膜の知覚低下および顔面の知覚異常が確認され眼窩先端症候群と診断された。1年後,視力は0.6に改善し,角膜の知覚低下は消失し顔面の知覚異常もほぼ消失。眼球運動も正常近くまで改善し,良好な予後を示した。

健常人眼の房水動態の日内変動

著者: 高松倫也 ,   三嶋弘 ,   塙本宰 ,   木内良明

ページ範囲:P.139 - P.142

 健常人眼での房水動態の日内変動を把握するために,フルオロフォトメトリーを用いて房水流量,線維柱帯房水流出率,ぶどう膜強膜流出量の測定を行った。対象は健常ボランティアの16名16眼。フルオロフォトメトリーで房水流量を測定するとともに,Yablonskiの方法に準じてacetazolamideの内服で房水産生量を変化させて,線維柱帯房水流出率とぶどう膜強膜流出量を算出した。測定は同一日に12時間の時間差で2回,日中と夜間に行った。各測定値の平均は,房水流量は日中が2.18±0.60μl/min,夜間が1.72±0.65μl/min,線維柱体房水流出率は日中が0.21±0.31μl/min/mmHg,夜間が0.11±0.41μl/min/mmHg,ぶどう膜強膜流出量は日中が0.45±2.00μl/min,夜間が1.21±1.2μl/minであった。各測定値について比較検討した結果,房水流量は朝から夜で有意に低下していた。房水流出率とぶどう膜強膜流出量は朝と夜とで有意差がなかった。

超音波白内障手術における,点眼麻酔,テノン嚢内麻酔とテノン嚢下麻酔の比較検討

著者: 徳田芳浩 ,   恩田健 ,   内海榮一郎 ,   堀江武 ,   吉富文昭

ページ範囲:P.143 - P.147

 超音波白内障手術と眼内レンズ挿入術の同時手術において,テノン嚢内麻酔とテノン嚢下麻酔の痔痛抑制効果を,点眼麻酔のみによる場合と比較した。麻酔深度の比較は,アセチルコリン剤(縮瞳剤)投与時の疼痛反応を指標とした。疼痛の程度は,まったく刺激を感じない0度から,強い痛みを感じる3度までの4段階に分類した。点眼麻酔群(114例,114眼)では,0度が1眼(0.9%),1度が43眼(37.7%),2度が48眼(42.1%),3度が22眼(19.3%)みられた。テノン嚢内麻酔群(116例,116眼)では,0度が34眼(29.3%),1度が66眼(56.9%),2度が15眼(12.9%),3度が1眼(0.9%)みられ,点眼麻酔群と比べて,疼痛は有意に軽減していた。テノン嚢下麻酔群(115例,115眼)では,テノン嚢内麻酔群とほぼ同等の結果を示し,点眼麻酔群と比べ痔痛の程度に有意な軽減をみた。しかし,テノン嚢内麻酔とテノン嚢下麻酔の比較では有意差をみなかった。また,両浸潤麻酔法ともに,今回用いた刺激に対する完全な疼痛抑制効果をみなかった。

遺伝子解析で診断された眼窩悪性リンパ腫の1例

著者: 中沢雅美 ,   川本潔 ,   宮永嘉隆

ページ範囲:P.149 - P.152

 遺伝子解析で診断できた眼窩原発悪性リンパ腫の49歳男性を経験した。左上眼瞼腫脹を主訴に来院した。臨床症状,画像検査,病理学的検査で悪性リンパ腫が疑われたが確定診断に至らず,サザンブロッティング法を用いた遺伝子学的検索を施行した。正常健常人対照DNAでは認められない再構成バンドが確認でき,B細胞性悪性リンパ腫と診断された。リンパ系の腫瘍性増殖である悪性リンパ腫は,反応性増殖による病変との鑑別に苦慮することがあり,遺伝子解析を用いた診断法の有用性を報告した。

IgA腎症に合併した網膜色素変性の1例

著者: 辻一夫 ,   明尾潔 ,   吉井大 ,   榎敏生 ,   沖坂重邦 ,   上山泰淳

ページ範囲:P.153 - P.156

 症例は18歳の女性で13歳の時にネフローゼ症候群が認められ,腎生検実施後,IgA腎症と診断された。その後腎機能が悪化し,腹膜透析導入となった。この頃より夜盲,求心性視野狭窄を自覚し,当科にて網膜色素変性の合併が確認された。眼底は骨小体様色素沈着を伴う定型的網膜色素変性で,scotopic ERGとsingle flash ERGは消失,flicker ERGは著明に減弱していた。視野も中心視野を約5度残すのみで視機能の低下が著しかった。これまで網膜色素変性とIgA腎症の関連を述べた報告はなく,本症例ではIgA腎症を伴っていることが視機能の悪化に関与していることが疑われた。

両眼自己眼球摘出した1症例

著者: 熊埜御堂隆 ,   中西眞美 ,   味木幸 ,   神園純一 ,   木村淑恵 ,   野村総一郎

ページ範囲:P.157 - P.160

 眼球に対する自傷行為は,欧米で多く見られるが本邦での報告例は少ない。今回,自己の手指により両眼の眼球を摘出した1症例を経験したので報告する。症例は分裂病の診断を受けていた37歳女性。他院精神科入院中に手指で両眼の眼球を摘出したため当院眼科を受診した。眼瞼には外傷等の異常を認めず,眼窩内には結膜および血腫を認めたが,視神経および外眼筋は観察されなかった。受診時圧迫止血されていたため,入院の上外科的処置は行わず経過観察とした。摘出眼球の形状は保たれ,外眼筋は付着部付近で切断されていた。視神経は約25mm付着しており視神経管入り口付近で切断されたと思われた。両眼摘出例の報告は本邦では稀と思われた。

脈絡膜静脈血の後極部流出路

著者: 高橋京一 ,   村岡兼光 ,   須藤憲子 ,   池田史子 ,   小林秀雄 ,   山口由美子

ページ範囲:P.161 - P.167

 脈絡膜静脈は,各象限の赤道部にある4個の渦静脈に集まり,眼外に流出するとされている。しかし渦静脈が5個以上存在する事例や,後極部に渦静脈類似の血管が存在する事例が時に観察され,脈絡膜静脈の還流経路は変化に富んでいる可能性がある。正常ならびに各種疾患220眼を対象とし,走査レーザー検眼鏡に+30Dレンズを併用する広角赤外螢光造影およびパノラマ血管像を作製し,人眼脈絡膜流出路を検索した。
 その結果,渦静脈は4個ではなく,一眼あたり4〜10個,平均6.5個あった。渦静脈は大,小に区分され,大きな渦静脈は4個で赤道部にあったが,その他に小さな渦静脈や後極部の静脈流出路が発見された。後極部に静脈流出路がある事例は220眼中26眼あり,うち11眼では傍乳頭,5眼では黄斑近くの後極部,10眼では乳頭への流出路であった。後極部に静脈流出路があった例は,軽度の遠視から強度近視までさまざまであったが,-10D以上の強度近視が35%を占め,また両眼性が約60%であった。網膜剥離手術後の1眼で,赤道部の大きな渦静脈に縮小化がみられた。
 従来,脈絡膜静脈血の流出路は4個の渦静脈であるというのが定説であったが,渦静脈は4個ではないこと,ならびに従来考えられていたより高頻度に後極部に流出路があることが赤外螢光造影によって証明された。

Galactosialidosis成人兄弟の長期経過

著者: 木内貴博 ,   関根康夫 ,   臼杵祥江 ,   本村幸子 ,   木村淑子 ,   小泉智三 ,   久原真 ,   庄司進一

ページ範囲:P.173 - P.177

 Galactosialidosisは,cherry-red spotと角膜混濁を同時に伴う代謝疾患として最近注目を集めているが,その長期観察報告例はほとんどない。今回酵素学的に本疾患と診断された同胞例について,約10年間の長期観察が可能であった。症例は34歳(症例1)と30歳(症例2)の男性で,全身的な理学的所見や検査所見にほとんど進行はなかった。眼科的にはいずれもcherry-red spotと角膜混濁があり,視力は症例1では変化なく,症例2では2段階の低下を認めるにすぎなかった。本症例の眼科的異常は緩やかな進行を示していた。

アルゴンレーザー虹彩切開術後に生じた水晶体融解緑内障の1例

著者: 山田麻里 ,   白井正一郎 ,   佐野雅洋

ページ範囲:P.178 - P.181

 症例は79歳の男性で,10年来左眼視力は不良であり,1週間前から右眼霧視が出現したため当科を受診した。両眼とも老人環があり,狭隅角で,右眼は後嚢下および皮質白内障,左眼は過熟白内障であった.左眼の予防的アルゴンレーザー虹彩切開術後,水晶体融解緑内障を発症した。老人環のため虹彩切開部が瞳孔縁寄りになったこと,過熟白内障のため融解した水晶体皮質が微細な前嚢の損傷部から前房内へ流出したことが,発症原因と考えられた。レーザー虹彩切開術後,まれに重篤な合併症を生じることがあるので,症例の選択,手術手技,術後の経過観察などには十分な注意が必要である。

眼窩静脈圧亢進による脈絡膜循環の再構成

著者: 須藤憲子 ,   村岡兼光 ,   高橋京一 ,   池田史子

ページ範囲:P.183 - P.190

 広角赤外螢光造影により,特発性頸動脈海綿静脈洞瘻の4例4眼について,静脈圧亢進時の脈絡膜循環を検索した。全例に脈絡膜静脈の選択的拡張と渦静脈の狭小化があった。一部の渦静脈は消失し,残った渦静脈は膨大部が消失し,周辺へ向かう静脈が拡張していた。長期観察例では,当初あったびまん性静脈拡張が7週後には選択的な脈絡膜静脈拡張となり,その静脈の一部は,ヘアピン状の走行をとって乳頭方向に向かった。経過とともに拡張した静脈の数が減少し,血流路の変化が続いた。造影初期には,渦静脈から後極へ向かって拍動性に静脈が逆流した。乳頭周囲には,4眼中3眼で脈絡膜血流の新流出路が形成された。7か月にわたる長期観察例では初診の15週後から,周辺部に脈絡毛細管板の閉塞と考えられるベール状螢光の欠損部が多発した。持続的な静脈圧亢進により,脈絡膜静脈の選択的な拡張,血流路の変化,乳頭周囲での新流出路の形成などを内容とする一連の反応が起こることが示された。

眼科の控室

隅角検査

著者:

ページ範囲:P.170 - P.170

 隅角検査は緑内障の場合だけとは限りません。ぶどう膜炎や外傷の既往がある際には不可欠な検査ですし,糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症でもこれを実施していただきたいのです。ぶどう膜炎ならば,どのような型の炎症なのかがこれで判定できることがよくあるし,糖尿病網膜症などでは隅角のルベオーシスが現在ある場合にはもちろん,過去にこれがあったかどうかも判断できるからです。
 隅角検査には隅角鏡が必要です。できれば,ゴールドマンの一面鏡よりも三面鏡のほうを使うようにしてほしいのです。一面鏡は,隅角が著しく狭いときだけに限ることとし,線維柱帯などの詳細な所見は三面鏡で見てください。

連載第2回

前房隅角構造の研究

著者: 瀬川雄三

ページ範囲:P.193 - P.197

日眼総会の宿題報告演者に選ばれる
 一応正常人眼の前房隅角組織を観察したので,そろそろ緑内障眼の前房隅角組織を観察してみようと思っていた折,はからずも昭和50(1975)年に京都で行われる日眼総会の宿題報告「緑内障の諸問題について」の演者に選ばれたので,最終目標を原発開放隅角緑内障に定め,まずは痔痛のため摘出された絶対緑内障眼を走査ならびに透過電顕にて観察することにしました。

米国の眼科レジデントプログラム

6.眼科マッチングプログラム

著者: 綾木雅彦

ページ範囲:P.202 - P.203

 アメリカでは自分が卒業する大学とは無関係に,眼科研修を受ける施設を自分で選び申し込む必要がある。マッチングプログラムはそのような就職活動を効率的に行うためのシステムで,ほとんどの眼科研修施設がこれに加盟している。マッチングプログラムについて紹介する前に,アメリカで眼科の研修を受けるために医学生がとる手順は次のとおりである。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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