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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科50巻3号

1996年03月発行

雑誌目次

特集 第49回日本臨床眼科学会講演集(1) 特別講演

小児の網膜硝子体疾患の発生進行の特異性

著者: 大島健司

ページ範囲:P.237 - P.243

はじめに
 乳幼児の網膜剥離,特に周産期の病変に起因する網膜剥離は通常の成人の網膜剥離と異なり,しばしば水晶体後面に達するまで高く剥離し,いわゆる白色瞳孔の状態となることが知られている。
 しかし,なぜこのような型の網膜剥離が生ずるかはいまだに明確にされていない。この原因を,発育途上にある乳幼児の眼球の特異性によると安易に考えてしまってはならない。もちろん,この小児の眼球の特異性も関与していることは疑いを入れないところであるが,これにそれぞれの疾患による特徴的な変化が加わってこのような型の網膜剥離をきたしたものと考えられる。

学会原著

上眼瞼のメルケル細胞癌の1例

著者: 塙本宰 ,   二階堂寛俊 ,   津村清 ,   岡野伸二 ,   秀道広 ,   武島幸男 ,   米原修治

ページ範囲:P.245 - P.248

 81歳女性の上眼瞼メルケル細胞癌を経験した。腫瘍は充実性で表面は平滑,暗赤色調で血管拡張を伴っていた。瞼板を含めた眼瞼広範囲切除と硬口蓋粘膜を用いた再建術を行い,術後は耳下腺部リンパ節に50Gyの予防的放射線照射を行った。摘出した腫瘍の組織検査では小型で円形な腫瘍細胞が,真皮から皮下脂肪組織にかけて不規則な胞巣状に増生し,リンパ管内にも腫瘍細胞の浸潤があった。腫瘍細胞の核細胞質比は大きく,核は繊細なクロマチンを有し,核分裂像があった。特殊染色ではGrimelius染色で陽性,免疫組織化学染色ではkeratin, neuron specific enolase, chromogranin, S−100蛋白で陽性所見であった。

エキシマレーザー角膜屈折矯正手術後のコントラスト感度

著者: 関口淳子 ,   石川隆 ,   中安清夫 ,   金井淳

ページ範囲:P.249 - P.252

 エキシマレーザーを用いた近視眼に対する角膜屈折矯正手術(PRK)の術前術後のコントラスト感度(CS)の変化について検討した。全症例の平均では,術前後に変化をみなかったが,個々の症例をみると術後上昇した症例が予想以上に多くみられた。また,術前等価球面度数−6D未満と以上,3か月後の遠見矯正視力1.0未満と以上,角膜上皮下混濁(Fantes分類)のgrade 1以下とgrade 2以上,センタリングのずれ1.0mm未満と以上の群にそれぞれ分けて検討したところ,条件め悪い群では,条件の良い群に比べ,術後CSは低下していた。さらに−10Dを越える強度近視例では術後CSの著明な上昇をみた。

狭隅角眼におけるレーザー虹彩切開術後の中央前房深度,隅角角度の変化および眼軸長との相関

著者: 王英泰 ,   上野聡樹 ,   高橋邦昌 ,   風間成泰

ページ範囲:P.253 - P.256

 狭隅角眼44例72眼に対しレーザー虹彩切開術を行い,術前,術直後,1週間後,1か月後における隅角角度と中央前房深度の変化を前眼部画像解析装置で比較検討し,眼軸長との相関も検討した。術前と比較すると隅角角度,中央前房深度ともに,術直後より有意に増加した。術後は隅角角度に関しては有意な経時変化がなく,中央前房深度に関しては経時的にやや減少していく傾向があった。症例の多くは短眼軸長眼であったが,眼軸長との関連では,中央前房深度増加率,4方向の隅角角度の和が眼軸長と相関した。短眼軸長眼では水晶体後面と前部硝子体膜との間の空間容積が相対的に狭いと考えられた。

エキシマレーザー屈折矯正術におけるアルゴリズムの重要性

著者: 加藤恵利子 ,   冨井聡 ,   木下茂

ページ範囲:P.257 - P.260

 エキシマレーザー屈折矯正術(photorefractive keratectomy:PRK)を,同一機種で術後のcentral island (Cl)の発生予防を目的に改良を施したものとそれ以前のものとの2種類のアルゴリズムを用いて,それぞれ術前の矯正視力が1.0以上の23眼に施行し,治療成績を比較検討した。裸眼視力,矯正視力,屈折度測定,角膜形状解析を術前術後に行った。改良後には術後の角膜変形指数は小さく,Clの発生もなくなり,矯正視力の回復も速やかであった。アルゴリズムの改良により術後の角膜形状の安定性,矯正視力の回復時間が著明に改善し,PRKにおけるアルゴリズムの重要性が示された。

アクリルソフト眼内レンズの光学特性変化

著者: 大鹿哲郎 ,   塩川安彦

ページ範囲:P.261 - P.265

 アクリルソフト眼内レンズに種々の操作を加えた場合の光学特性および形態変化について検討した。光学特性は,水を満たした模型眼中で測定した空間周波数特性(modulation transfer function:MTF)とveiling glare下での解像度を指標として評価した。30秒間の折り曲げ直後は,低周波数領域を中心とした強いMTF低下がみられたが,20℃では6分,37℃では4分で回復した。長時間(10, 20,60分)連続して折り曲げて開放30分後に測定した場合はMTFに変化はみられず,veiling glare下の解像度も60分間連続把持した場合のみ影響を受けた。20分以上の連続把持で,把持のピンセットに沿った部分の素材破損が生じた。非常に強く折り曲げた場合は,30秒の操作では変化がなかったものの,5分間の操作で中高周波数領域のMTFと解像度が軽度低下した。カッターで光学部表面中央の3mm領域に傷をつけた場合,MTFは傷10本まで,解像度は傷20本まで影響を受けなかった。中央に強い圧痕をつけた場合は,4分までMTF低下がみられたものの,以降回復し,解像度や形態にも変化はみられなかった。以上から,臨床的に考えうる範囲を極端に逸脱しなければ,アクリルソフト眼内レンズの光学特性は大きな影響を受けないものと結論された。

アクリル製眼内レンズの挿入後に生じたcapsular block症候群

著者: 向井聖 ,   武田知佳 ,   細川勝司 ,   古本淳士

ページ範囲:P.266 - P.268

 白内障超音波乳化吸引術およびアクリル製眼内レンズ移植後に,capsular block症候群が2例に生じた。2例ともに,術前の前房の深さは正常であった。術翌日に浅前房となり,眼内レンズが嚢内の最前方に移動し,後嚢と眼内レンズとの間に間隙を生じ,後嚢が後方に拡張していた。術創からの房水の漏出はなく,眼圧も正常であった。YAGレーザーによる後嚢切開を行った。直後から前房が深くなりはじめ,3日後に近視度は術前の予想値近くまでに改善した。眼内レンズによる水晶体嚢ブロックは,アクリル製眼内レンズでも起こりえた。

緑内障眼における視野障害と網膜神経線維層厚

著者: 白柏基宏 ,   阿部春樹 ,   沢口昭一

ページ範囲:P.269 - P.272

 緑内障27例54眼に対してスキャニングレーザーポラリメーター(Nerve Fiber Analyzer)により視神経乳頭周囲の網膜神経線維層(NFL)の厚さの測定とHumphrey Field Analyzer (中心30-2プログラム)によりmean deviation (MD)値の測定を行った。同一症例のMD値の左右差とNFLの厚さの左右差との間に統計学的に有意な正の相関があった(n=27, r=O.45, p<0.02)。また,各症例から1眼ずつ無作為に選択した27眼において,MD値とNFLの厚さとの間に統計学的に有意な正の相関(r=0.55,p<0.003)があった。以上から,スキャニングレーザーポラリメーターにより測定された緑内障眼のNFLの厚さは,視野障害の程度をある程度反映することが示された。

緑内障日帰り手術の成績

著者: 千原悦夫 ,   董瑾 ,   劉驍 ,   橋本雅 ,   落合優子 ,   落合春幸

ページ範囲:P.273 - P.276

 最近2年間に行った緑内障の日帰り手術と入院手術の成績について比較検討した。日帰りによる緑内障手術は14眼,入院手術は31眼に行われ,手術術式と術後ケアに注意さえすれば術後合併症の頻度と眼圧コントロールは両者の間に有意差がなかった。症例を選べば緑内障手術においても日帰り手術は可能と考えられた。

超音波白内障手術後6か月間の眼圧変動

著者: 鈴木亮 ,   黒木伸二 ,   藤原紀男

ページ範囲:P.277 - P.280

 白内障手術術後の眼圧の変化は白内障手術の方法や術者の技能,緑内障の有無と関係している。1人の術者(NF)が行った通常の6mm切開超音波白内障手術のうち,術前眼圧が25 mmHg未満,van Herick 3度以上で,緑内障がなく他の眼手術の既往のない症例1,118眼を術前および術後6か月にわたって両眼で調べた。術前眼圧を5mmHg単位で分類すると,特に術前眼圧(mmHg)が20以上25未満の眼では,術後1週(19.90±9.62),1か月(15.09±4.85),3か月(13.00±3.10),6か月(13.17±4.25)と眼圧下降が顕著であった。また全群でも標準的な超音波白内障手術で眼圧は術後下降した。術後の眼圧下降は予想以上に大きく,この眼圧下降率は術前眼圧に依存していた。

トラベクロトミーと白内障同時手術の術後成績

著者: 本庄恵 ,   谷原秀信 ,   谷口朋子 ,   本田孔士

ページ範囲:P.281 - P.285

 投薬のみでは眼圧コントロール不良であった緑内障に併発した白内障眼55例60眼に対して,初回手術として施行されたトラベクロトミー・白内障同時手術の術後成績を,白内障術式ごとに比較検討した。無投薬および投薬を用いて最終受診時眼圧を21mmHg以下にコントロールできたのは60眼中56眼(93%)で,術式ごとでは超音波核乳化吸引術(PEA)施行群13眼中13眼(100%),計画的嚢外摘出術施行群36眼中32眼(89%),計画的嚢内摘出術施行群11眼中11眼(1OO%)であった。併用白内障手術としてPEAは併発症も少なく,緑内障・白内障同時手術に適していると考えられた。

ベーチェット病とVogt—小柳—原田病における可溶性接着分子および可溶性細胞表面マーカーの動態

著者: 松本年弘 ,   内尾英一 ,   石岡みさき ,   田中俊一 ,   大野重昭

ページ範囲:P.287 - P.291

 ベーチェット病(BD)20例とVogt—小柳—原田病(VKH)20例の血清中の可溶性ICAM−1(sICAM−1),可溶性CD4(sCD4),可溶性CD8(sCD8)および可溶性インターロイキン2レセプター(sIL−2R)を測定し、疾患活動性を評価する指標となり得るかどうかを検討した。slCAM−1は,BDおよびVKHの急性期に,対照より有意に上昇し,BDでは寛解期に眼発作期より有意に上昇していた。sCD4とslL−2Rは,活動性BDおよびVKHの急性期に対照より有意に上昇し,疾患活動性に相関した変動もみられた。sCD8は活動性BDとVKHの急性期および回復期で対照より有意に上昇していた。可溶性マーカー相互ではsIL−2RとsCD4が,BDおよびVKHの両者で有意な相関を示した。以上からこれらの可溶性マーカーはBDおよびVKHの活動性を示す指標になり得ると考えられる。

7年間経過を観察した脈絡膜悪性黒色腫の1例

著者: 齋藤あゆみ ,   大平明弘 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.293 - P.296

 われわれは偶然発見された脈絡膜悪性黒色腫を,本邦では初めて7年間もの長期にわたって定期的に経過観察し,腫瘍が増大してきたため眼球摘出をした1例について報告した。症例は54歳男性。偶然左眼眼底の異常を指摘され受診。左眼眼底後極部に2乳頭径の灰白色の隆起性病変があり,螢光眼底造影では点状螢光漏出が認められた。悪性黒色腫を疑ったが腫瘍は小さく,視力は矯正1.5と良好であったため経過観察とした。しかし徐々に腫瘍が増大してきたために結局眼球摘出術を施行した。病理組織学的検査では悪性黒色腫との確定診断を得た。眼球摘出後1年2か月後の現在再発および転移はない。

眼合併症に伴う併発黄斑円孔に対する硝子体手術

著者: 中野徹 ,   直井信久 ,   澤田惇

ページ範囲:P.297 - P.300

 強度近視4眼,増殖糖尿病網膜症2眼,ぶどう膜炎1眼,外傷2眼に併発した黄斑円孔に対して円孔底網膜色素上皮除去を併用した硝子体手術を施行し,その手術成績および視力予後について検討した。強度近視1眼に再手術を要したが,最終的に全例で解剖学的な円孔閉鎖が得られた。強度近視4眼中2眼,ぶどう膜炎1眼,外傷2眼中1眼で2段階以上の良好な視力改善が得られたが,その他は不変であった。併発黄斑円孔に対しても硝子体手術は有効であるが,視力予後については黄斑円孔の原因となった黄斑部の病変の状態によって異なり,手術適応に関しては個々の症例で慎重に検討する必要があると考えられた。

クリスタリン網膜症の螢光眼底造影所見の経年変化

著者: 政岡則夫 ,   野崎桂 ,   岸茂 ,   上野脩幸

ページ範囲:P.301 - P.304

 62歳の女性で,角膜クリスタリンを伴わないクリスタリン網膜症の1例を経験した。フルオレセイン螢光眼底造影(FA)では,約6年前の写真と比較して,周辺部に向かって網膜色素上皮の変性が進行していた。また,後極では脈絡毛細管板の萎縮の範囲が拡大していた。今回は,インドシアニングリーン螢光眼底造影(IA)も同時に施行した。脈絡毛細管板の障害の少ない部では,その検出においてFAよりIAのほうが有利と考えられた。本症はゆっくり進行するため定期的経過観察が必要であり,FAとともにIAを施行することで,脈絡毛細管板の萎縮度を推測できる可能性が示唆された。

網膜静脈閉塞症における原発緑内障の合併頻度

著者: 比嘉利沙子 ,   若倉雅登 ,   石川哲

ページ範囲:P.305 - P.309

 網膜静脈閉塞症に原発緑内障の合併頻度が高いとの報告が欧米で散見される。過去12年間に当科を受診した網膜中心静脈閉塞症(CRVO)および分枝閉塞症(BRVO)の1,208例のうち249例につき原発緑内障(GL)の合併頻度をretrospectiveに調査した。GLには,開放隅角緑内障(POAG)と正常眼圧緑内障を含めた。CRVO 72例の19.5%がGL (うちPOAGが92.8%),8.3%が疑いであった。BRVO 177例の3.4%がGL (うちPOAGが100%),4.5%が疑いであった。日本人においても,CRVOとGLの合併頻度は高率と考えられる。

原田病のインドシアニングリーン螢光眼底造影による長期経過観察

著者: 丸山耕一 ,   中尾雄三 ,   松本長太 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.311 - P.315

 走査型レーザー検眼鏡を用いてインドシアニングリーン螢光眼底造影を,原田病の11症例に対し,急性期,治療開始3か月後,6か月後に施行し,造影所見の経時的変化について検討した。急性期に全例にあった脈絡膜血管の充盈遅延や,9例にみられた脈絡膜中大血管の不明瞭化は3か月後にはすべて改善していた。斑状低螢光はほとんどの症例で6か月後も残存していた。急性期に7例において顆粒状低螢光と過螢光の混在が観察され,治療とともに3か月後には全例消失した。以上の結果から,インドシアニングリーン螢光眼底造影による原田病の長期経過観察は,発症急性期,治療経過観察中の脈絡膜の病的変化の把握に有用である。

アトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離の手術

著者: 岸本直子 ,   西村哲哉 ,   河原澄枝 ,   今泉正仁 ,   松島正史 ,   宮代美樹 ,   山田晴彦 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.317 - P.320

 最近6年間に当科で手術を行ったアトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離43眼について調査した。網膜剥離の状態は2型あった。1つは弁状裂孔や萎縮性円孔による赤道部型の網膜剥離20眼で,強膜内陥術で網膜剥離は復位した。他は鋸状縁断裂や毛様体上皮裂孔によるアトピー性皮膚炎に特徴的な眼底最周辺部型の網膜剥離23眼で,強膜内陥術を83%,硝子体手術を13%に行い,網膜剥離は復位したが,5眼は新しく毛様体上皮裂孔が発生して再剥離した。最終的には網膜剥離は全例復位した。アトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離の基本術式は輪状締結術だが,症例により硝子体手術が必要である。本疾患も適当な手術で充分治癒せしめることができ,治療成績は良好であった。

網膜静脈分枝閉塞症の合併症に対する硝子体手術

著者: 望月弘嗣 ,   熊谷謙次郎 ,   桂弘 ,   野村昌弘

ページ範囲:P.321 - P.324

 網膜静脈分枝閉塞症に続発した硝子体出血、裂孔原性網膜剥離、牽引性網膜剥離に対して硝子体手術を施行した40例40眼の手術成績について検討した。牽引性網膜剥離は硝子体出血を長期間放置していた症例に多くみられた。術中合併症は医原性網膜裂孔のみで牽引性網膜剥離例の4眼において増殖膜処理の際に生じた。術後網膜剥離は4眼に認め,3眼は鋸状縁断裂、1眼は医原性網膜裂孔によるものであった。視力は85%の症例で改善し,最終視力0.5以上が60%と比較的良好であったが,牽引性網膜剥離例では視力不良例が多かった。以上の結果より,吸収不良の硝子体出血例では早期に硝子体手術を考慮すべきであると考えられる。

眼イヌ回虫症再燃例に併発した網膜剥離

著者: 満田久年 ,   玉木智子 ,   湖崎亮 ,   生野恭司 ,   湯浅武之助 ,   塚本尚哉

ページ範囲:P.325 - P.328

 保存的治療でいったん寛解し,硝子体混濁を伴って再燃したのちに,広範な増殖組織を形成して網膜剥離を併発した若年者の眼イヌ回虫症2例に対して硝子体手術を施行した。比較的急速に伸展する後極部増殖組織と,術後の周辺残存硝子体による二次的な増殖性変化がみられた。硝子体混濁を伴う若年者の眼イヌ回虫症再燃例では,より早期に硝子体手術に踏み切り,後極から周辺部の増殖組織の伸展拡大を防止する必要がある。二次的な周辺部増殖性変化を考慮して,初回手術時からより水晶体切除のうえ,周辺硝子体を可及的に処理し,幅広バックルを設置して周辺の牽引を解除することが望ましい。

網膜血管閉塞症における血清脂質,リポ蛋白,アポ蛋白,Lp(a)レベル

著者: 大平明弘 ,   朔啓二郎 ,   武田由紀子 ,   津田恭央 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.329 - P.332

 リポ蛋白代謝と網膜血管閉塞症との関係を調べるために,血清脂質,リポ蛋白,アポ蛋白,Lp (a)レベルの検討を行った。患者群は網膜血管閉塞症として網膜中心動脈閉塞症2例,網膜中心動脈分枝閉塞症4例,網膜中心静脈閉塞症3例,網膜中心静脈分枝閉塞症13例,計22例である。対照は,年齢と性にマッチングする正常群の49例である。正常群に比べ患者群の中性脂肪,アポB,アポEは統計学的に有意に高値を示した。Lp (a)は患者群のほうが高かったが,統計学的有意差はなかった。網膜血管閉塞症はLp (a)に代表される血液線溶系の異常よりも全身の動脈硬化の指標に一致することが示された。

未熟児網膜症の年次推移

著者: 斎藤哲哉 ,   新飯田裕一

ページ範囲:P.333 - P.336

 未熟児網膜症が国際分類stage 3以上に進行する危険性と全身的管理との関係を,1994年までの8年間の,出生体重が2,500g未満の758児につき,前半4年間の405例と後半の353例とに分けて比較検討した。前半と後半との主な違いは,新生児科医による立ち会い分娩による新生児仮死への対応の強化,急性期の呼吸循環状態の安定化,無呼吸発作のパルスオキシメーターによる監視の強化と積極的防止,100〜120 ml/kg/日の水負荷制限,plus diseaseのみに対する眼科的な早期治療にある。これらの結果,生存限界は前半が在胎24週+4日,後半が22週+4日となった。Stage 3以上に進行する頻度に有意差はなかったが,stage 3でのzone Ⅰ,Ⅱの眼と,治療後の瘢痕期2度中等度以上の眼は減少した。これは,未熟児管理の改善が,未熟性の高い児の生存を可能にしたことと,未熟児網膜症の軽症化をもたらしたと評価される。

網膜前増殖膜構成細胞におけるTGF—β受容体の発現

著者: 山本禎子 ,   加藤秋成 ,   加藤光保 ,   菊池方利 ,   山下英俊

ページ範囲:P.337 - P.340

 網膜前増殖膜形成過程におけるTGF—βの関与を検討するためにTGF—βⅠ型受容体の発現を増殖糖尿病網膜症,増殖性硝子体網膜症,網膜静脈分枝閉塞症,Coats病症例の手術時摘出膜について組織化学的に観察した。その結果,形成から時間の経過していない増殖膜ではTGF—βⅠ型受容体発現細胞は多数観察され,経過の長い増殖膜では受容体発現細胞は少数か,あるいは観察されなかった。網膜前増殖膜の形成過程では,初期の細胞成分の多い時期にTGF—β受容体発現量の多い細胞が出現し,経過の長い増殖膜には少ないことから,増殖膜形成にはTGF—βの関与が示唆された。

眼科受診を中止した糖尿病網膜症患者についての考察

著者: 北岡隆 ,   小川月彦 ,   宮村紀毅 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.341 - P.344

 眼科受診を途中でやめる糖尿病網膜症患者の実体を調べるため,1994年12月までの6年間に当眼科糖尿病網膜症外来を受診し,途中で受診しなくなった患者401人を対象としてアンケート調査を行い,151人から回答が得られた。このうち死亡していた15人を除く136人(男性74人,女性62人)を対象とした。血糖コントロールは83%の患者が良好であると思っており,網膜症の重症度では56%の患者が軽症もしくは網膜症はないと思っていた。88%は内科通院をしており,受診状況は良好であったが,眼科受診を勧める内科医は少なかった。43%は眼科を受診していなかった。受診しなくなった理由として,通院の不便さを挙げるものが多かったが,なかには網膜症が治っていると思っている患者がいた。

糖尿病網膜症と尿中微量アルブミン

著者: 山田利津子 ,   小松章 ,   宮崎正人 ,   太根節直 ,   水野究紀 ,   石井明治 ,   山田誠一

ページ範囲:P.345 - P.349

 糖尿病患者の尿中微量アルブミンは腎症初期から鋭敏に検出され,網膜症病期の進行に伴って増加を示すことが知られている。今回は,糖尿病腎症と網膜症の関連を再検討する目的で酵素抗体法を用いて尿中アルブミンを測定し,免疫比濁法による結果と比較した結果,両測定法による測定結果は有意水準0.1%以下の有意な相関を示した。尿中アルブミン値はクレアチニンクリアランス値と有意な負の相関を示し,網膜症を有する患者で有意に高値を示し,網膜症病期コード値と有意な正の相関を示した。酵素抗体法による尿中アルブミン検査が腎症・網膜症の進行を知る上で,一般検査室における測定法として有用であることが考えられた。

ビデオマイボグラフィーによるマイボーム腺の観察

著者: 松岡徹 ,   都村豊弘 ,   上枝宏和 ,   長谷川榮一

ページ範囲:P.351 - P.354

 市販の安価なペン型ライトを光源としたマイボグラフィーを施行し,マイボーム腺の構造を高感度白黒CCDカメラで撮影記録した。正常眼19例28眼,自覚症状の有無に関係なくマイボーム腺に異常を認めた症例24例32眼に対し施行した。同時に涙液層破壊時間(BUT)をカラービデオモニター上で測定した。正常眼では整然と並んだマイボーム腺の腺小葉と導管が良好な画像として観察記録できた。マイボーム腺機能不全の症例では,腺小葉の脱落や導管の拡張など多彩な変化が観察記録でき,有意なBUTの短縮も認めた。マイボグラフィーは高感度白黒CCDカメラを用いて撮影することにより,マイボーム腺の構造を容易かつ明瞭に録画できる。使用する光源も簡易なペン型ライトで十分に目的を果たせるなど,低コストに加交利点が多い.

ぶどう膜炎の既往のあるらい患者の白内障手術

著者: 上甲覚 ,   宮田和典 ,   沼賀二郎 ,   藤野雄次郎

ページ範囲:P.355 - P.358

 ぶどう膜炎の既往のあるらい患者の白内障18例20眼に超音波水晶体乳化吸引術(PEA)を行い,19眼に眼内レンズを挿入した。経過観察期間は6〜18か月(平均12.1か月)であった。術後全例で視力が改善し,0.5以上の症例は16眼(80%)であった。術後視力が0.5未満の4眼は術前よりみられた角膜混濁が,視力不良の主な原因であった。術後,1眼にぶどう膜炎が再燃したが,重篤な合併症はなかった。らいのぶどう膜炎に併発した白内障でも,PEAは有効な術式であると考えられた。

糖尿病網膜症に合併したインターフェロン網膜症

著者: 酒井達朗 ,   西山功一 ,   岡本進 ,   戸張幾生

ページ範囲:P.359 - P.362

 糖尿病網膜症を伴った慢性C型肝炎に対するインターフェロン(IFN)投与後にIFNにより眼底所見の悪化した症例を2例経験し,若干の考按を加えた。IFNによる出血は,乳頭周囲の表在性出血が特徴で糖尿病網膜症による深在性出血と区別ができ,また保存療法で消退傾向がみられた。また症例により糖尿病網膜症の悪化が主体のものとIFN網膜症が主体のものとに違いがみられたが,これは年齢,糖尿病罹患年数,IFNの種類・投与方法の関与が考えられた。発生機序はC型肝炎ウイルス,IFNどちらの関与も考えられた。

特発性黄斑円孔の走査レーザー検眼鏡による螢光造影所見

著者: 浅原茂生 ,   伊比健児 ,   古川元 ,   秋谷忍

ページ範囲:P.363 - P.366

 特発性黄斑円孔の硝子体手術の前後に走査レーザー検眼鏡(SLO)を用いたフルオレセイン螢光造影(FA)をおこない,手術前後の造影所見について検討した。術前のFAでは,4例中3眼に嚢胞様黄斑浮腫(CME)様の花弁状過螢光を認めた。術後のFAでは,CME様の花弁状過螢光はすべて消失した。この術前のCME様の花弁状過螢光は円孔周囲のcystic spaceの造影所見と考えられ,術後花弁状過螢光が消失したことから,この造影所見は硝子体による網膜牽引の証拠であると思われた。SLOを用いたFAは特発性黄斑円孔の硝子体手術の成果ならびにその病態を検討する上で有用であると結論された。

糖尿病網膜症の螢光眼底所見と血糖コントロール

著者: 太田勲男 ,   加藤雅史 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.367 - P.370

 光凝固治療の既往のない糖尿病網膜症を有する糖尿病患者70例を対象に,螢光眼底所見と全身的背景因子の関連について検討した。網膜毛細血管床閉塞とHbA1c値との間に関連がみられ,これは中間周辺部において顕著であった。また,後極部においては網膜毛細血管床閉塞と6か月以内の内科的治療強化との間にも関連があった。血糖コントロール不良や内科的治療強化は,網膜毛細血管床閉塞の危険因子となることが推測された。

無眼科医村における眼科検診の試み

著者: 今澤光宏 ,   神戸孝 ,   今井雅仁 ,   柏木賢治 ,   宗像利幸

ページ範囲:P.371 - P.374

 眼科診療施設までの交通の便が悪い無眼科医村において,デイサービスセンター通所者に対し眼科検診を行った。5年間の検診受診者は175名で,その80%に眼疾患がみられ,病院受診を指導されたものが30%に上った。しかし,そのうち病院受診をしたものは38%にすぎなかった。検診では裸眼視力を測定したが,精査加療を要すると考えられたものの視力は0.1以下の占める割合が大きかった。施設通所者に対する検診は眼疾患発見のために有用であるが,検診後の診療を受けず放置している例が多いことが問題であり,診療施設の整備あるいは診療施設までの交通機関の確保が必要であると考えられた。

人間ドックにおける後極部眼底写真読影の意義

著者: 東由直 ,   引地泰一 ,   坂上晃一 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.375 - P.377

 総合健康診断(人間ドック)の際に眼科検査として無散瞳後極部眼底写真撮影を行った7,268例を対象に,その意義を検討した。442例(6.1%)が異常ありと判定された。緑内障疑いが197例(2.7%),網膜出血性病変が48例(O.7%),網膜変性性病変が32例(O.4%)であった。異常ありと判定され精密検査を受けた110例のうち,61例(56%)が眼疾患を有すると診断された。緑内障疑いと判定された症例の49%が緑内障または高眼圧症と診断された。また低眼圧緑内障が原発解放隅角緑内障の約3倍であった。後極部眼底写真読影は,緑内障などの後極部眼底に変化を示す疾患のスクリーニングに有効と考えられた。

連載 今月の話題

緑内障の新薬

著者: 三嶋弘

ページ範囲:P.217 - P.224

 従来の眼圧下降の作用機序を持つ薬剤と異なり,房水の流出促進の作用機序を持つ薬剤が新しい緑内障治療薬として大いに注目されている。これにはPhar—macotrabeculoplastyの働きをするエタクリン酸,α—キモトリプシンなどと,プロスタグランジン群(Prostaglandins:PGs)の2種類がある。Pharmacotrabeculoplas—tyは現時点で臨床上の実用化が難しいので,ここではPGsについて述べる。

眼科図譜・350

B型肝炎ウイルス抗原抗体複合物によると考えられた網膜血管炎

著者: 松尾俊彦 ,   杉本佳代子 ,   松尾信彦 ,   熊代修

ページ範囲:P.226 - P.228

緒言
 B型肝炎ではその感染急性期あるいは慢性期(B型肝炎抗原保因者)に,ウイルス抗原とそれに対する抗体から形成された抗原抗体複合物(免疫複合体)によってさまざまな血管炎が起こることが知られている1,2)。こうした患者の血清中に出現した免疫複合体には,実際にB型肝炎抗原が存在することが証明されており3),関節炎,多発性血管炎や糸球体腎炎の原因としても注目されている4,5)
 筆者らは,分節状の閉塞性網膜血管炎を呈した症例において,B型肝炎抗原の保因者であり,しかもその血清中の免疫複合体が高度に上昇していることを見いだした。B型肝炎ウイルスの抗原抗体複合物による網膜血管炎と考えられたので,ここに報告する。

眼の組織・病理アトラス・113

黄色板

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.230 - P.231

 黄色板xanthelasmaは眼瞼皮膚に生じる黄色扁平な軟らかい腫瘤(図1)で,しばしば両側の眼瞼に対称的に生じる。上下眼瞼の内眼角付近にみられることが多い。xanthelasmaはギリシャ語のxantho—(黄色)とelasma(飾り板)を語源にしたものである。本態性高脂血症 essential hyperlipidemiaや糖尿病などによる続発性高脂血症secondary hyperlipidemiaでは,皮膚に黄色腫xanthomaを発症しやすい。眼瞼に生じる黄色腫を特に黄色板と呼ぶ。
 黄色板は,病理組織学的には,黄色腫細胞xanthoma cellが真皮に浸潤貯留したものである(図2)。黄色腫細胞は脂肪を含有する組織球foamy histiocyteで,泡沫細胞foam cellとも呼ぶ。この泡沫細胞はマクロファージで,細胞内に脂肪を貪食したものである。ときには,脂肪を含む多核巨細胞やコレステロール結晶もみられることがある。凍結切片を作って脂肪染色を行うと,細胞内の空胞は脂肪を含んでいることがわかる。血管の周囲に集塊をなして存在するので(図3),組織球に含まれている脂肪は血管から血管周囲に遊離したものと考えられている。毛根の周囲に集塊を作ることもある(図4)。黄色腫細胞が真皮に貯留して時間が経過すると,その周りは線維性結合組織で取り囲まれ,組織球は分葉状の集塊を形成する。各分葉は単核もしくは多核の組織球からなる。病変は真皮に限局し,皮膚深部にまでは広がらない。

眼科手術のテクニック—私はこうしている・87

流涙の検査—綿糸法・濾紙法・tear meniscus height

著者: 栗橋克昭

ページ範囲:P.234 - P.236

 涙道は涙小管・涙嚢・鼻涙管からなる。涙道閉塞の患者は流涙を訴えることが多いが,その訴えがどの程度のものであるかを術前に知ることは重要である。

今月の表紙

インドシアニングリーンによるパノラマ広角螢光造影

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.229 - P.229

 対象は−3Dの近視がある正常眼。脈絡膜の血管構築が鮮明にみられ,その大部分が静脈。黄斑部では血管密度が高く,脈絡毛細管板も背景螢光に参加している。渦静脈が4個あるのは例外で,この例では5個となっている。

眼科の控室

小児の診察

著者:

ページ範囲:P.382 - P.382

 ほとんどの子供は本能的に医師を好みません。とくに眼を診られるのは嫌がるものです。むかし学生の頃の小児科学の教科書にも,「眼の診察は最後にすること」とあったのを覚えています。
 眼科の外来で,子供が患者で来た場合に,泣かれては診察ができません。なんとかして子供を泣かせずに診る工夫が必要なのです。子供といっても,3歳から5歳の就学前の年齢層のことですが,いままで実行していて,うまくいっている方法をご紹介します。

臨床報告

サルコイドーシスによる視神経乳頭肉芽腫にステロイド剤パルス療法を行った1例

著者: 高橋光生 ,   吉川浩二 ,   小竹聡 ,   笹本洋一

ページ範囲:P.393 - P.396

 サルコイドーシスによる視神経乳頭肉芽腫に対して副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)のパルス療法により治療した。症例は22歳女性で,左眼の視朦感を主訴に当科を受診した。初診時の視力は両眼とも矯正1.0と良好。両眼に前部ぶどう膜炎と隅角結節,左眼には虹彩結節と視神経乳頭浮腫を認めた。眼所見よりサルコイドーシスを疑い,内科的検査を行ったところ,経気管支肺生検にてサルコイドーシスの確定診断が得られた。初診から2週間後に,左視神経乳頭上に肉芽腫様病変が出現し,徐々に増大,周囲に新生血管が発生した。ステロイドのパルス療法を行ったところ,乳頭肉芽腫は徐々に消退した。投薬は7か月で中止したが,肉芽腫の再燃はなく経過良好であった。

片眼性網膜色素変性症患者眼底の走査レーザー検眼鏡所見

著者: 山口慶子 ,   山口克宏 ,   佐藤武雄 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.397 - P.403

 片眼性網膜色素変性症の2症例を,走査レーザー検眼鏡(SLO)の単色光で観察した。両症例とも,罹患眼では健眼に比べて,乳頭黄斑間の視神経線維が疎で不鮮明であった。1例では,罹患眼の黄斑の低輝度領域が健眼よりも広く,視力が正常な他の1例では,罹患眼と健眼とで差がなかった。この2例間の黄斑所見の違いは,黄斑部での網膜変性の進行程度を反映したものと解釈された。

高齢で初発したベーチェット病の1例

著者: 広兼賢治 ,   木村徹 ,   木村亘 ,   澤田達 ,   菅英毅 ,   大手昭俊 ,   山西茂喜

ページ範囲:P.405 - P.410

 高齢で初発したぶどう膜炎患者で,ベーチェット病不全型と診断したが,遺伝的疾患抵抗性因子の1つであるhuman leucocyte-associated antigen(HLA)—B44が陽性であった1例を報告した。患者は74歳の女性で,両眼の視力障害を起こした。初診時の矯正視力は右0.3,左0.05で,両眼とも軽度の虹彩炎,硝子体下方の混濁,著明な乳頭浮腫,乳頭周囲網膜の浮腫と線状出血を伴った網脈絡膜炎があった。皮膚紅斑,口内アフタが出現したことからベーチェット病不全型と診断した。検査所見ではHLA-B51が陽性であったが,遺伝的疾患抵抗性因子の1つであるHLA-B44も陽性であった。ベーチェット病の遺伝的疾患抵抗性因子は高齢発症とも関係していると考えられた。

検査用点眼薬の汚染度

著者: 秋葉真理子 ,   吉田逸朗 ,   秋葉純 ,   吉田晃敏 ,   友田豊 ,   橘峰司

ページ範囲:P.411 - P.414

 検査用点眼剤の汚染の実態を明らかにするために,外来で使用中の点眼薬(ベノキシール®,ミドリンP®,サイプレジン®,ネオシネジン®)を23施設から回収し,瓶ノズルおよび残存液から菌の分離同定を行った。125本中23本(18%)から菌が検出された。瓶ノズルは20本(16%)が汚染しており,残存液の3本(2%)に比べて有意に汚染されていた(p<0.01)。薬剤間,使用期間で汚染率に差はなかったが,一部の施設に汚染が集中していた。検出された菌種はグラム陽性菌のみで,球菌は29%であり,その約半数が多剤耐性菌であった。検査用点眼薬が用いられる患者には,オキュラーサーフェィスの防御機能が低下している患者が多いので,汚染した点眼薬が院内感染の源となる危険性があり,医療スタッフの検査用点眼薬の汚染に対する正しい認識が必要であると考えられた。

放射線による網膜症と視神経症の4例

著者: 小成賢二 ,   鈴木純一 ,   中川喬

ページ範囲:P.415 - P.419

 上顎癌2例,鼻咽頭癌1例,神経膠芽腫1例の放射線照射後に発生した放射線網膜症および視神経症を経験した。これら4例は56Gyから64Gyの放射線照射を受け,治療終了から発症までの期間は平均1か月から36か月(平均16.5か月)であった。網膜症では網膜出血,軟性白斑,硝子体出血などがみられ,血管新生緑内障が1眼にみられた。組織学的検索(症例4)では網膜血管の肥厚,虹彩新生血管,隅角閉塞がみられた。視神経症では視神経乳頭の蒼白,浮腫あるいは乳頭炎の所見を示していた。

ヒルシュベルグ法による眼位測定の限界

著者: 長谷部聡 ,   大月洋 ,   田所康徳 ,   岡野正樹 ,   古瀬尚 ,   田中剛

ページ範囲:P.421 - P.424

 Hirschberg法による眼位計測の信頼性を検証するため,眼科医,視能訓練士10名を対象に,実験的に読み取り精度を調べた。被検者の注視方向(シミュレートした斜視角)に対するHirschberg法による読み取り誤差は検者毎に差があったが,読み取り値の95%信頼区間は,平均的には±5.3°(±9.3プリズムジオプター[△])であった。さらに,測定にもの差しを用いても読み取り誤差は改善がなかった。角膜反射のずれの有無のみを判断する場合の読み取り値の95%信頼区間は,平均的には±1.8°(±3.1△)であった。Hirschberg法は,顕性斜視を検出するためには簡便で精度がよい。しかし斜視角の定量法としては,この方法は角膜反射像のずれを読み取る際の制約が大きい。

涙嚢鼻腔吻合術後の組織型プラスミノーゲンアクチベーターによる涙道洗浄

著者: 雑賀司珠也 ,   大亦哲司 ,   森田展雄 ,   岡田由香 ,   小畑栄 ,   大西克尚

ページ範囲:P.425 - P.427

 鼻涙管閉塞に対する涙嚢鼻腔吻合術(DCR)後,涙点からの通水が不通であった2症例に,吻合部閉塞を解除する目的で組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)による涙道洗浄を行った。tPAを涙点から注入し,60分後に再度通水した結果,鼻腔への疎通が得られた。tPAを用いた通水は,DCR後の疎通不良症例での涙道洗浄として有用であった。また,本剤で吻合部の疎通が得られたことから,DCR後早期の吻合部閉塞には術中,術後の出血が関与していると考えられた。

カラー臨床報告

インターフェロン網膜症の発症因子

著者: 菅澤啓二 ,   萩原実早子 ,   岡見豊一 ,   高橋寛二 ,   宇山昌延 ,   弘田登志也 ,   奥野裕康

ページ範囲:P.385 - P.389

 インターフェロン網膜症の発生機序を明らかにするために,慢性C型肝炎の治療にα型インターフェロンを投与された26例と,老人性円板状黄斑変性の治療にβ型インターフェロンを投与された12例を比較検討した。網膜症の発症率は,α型で47%,β型で42%であり,ほぼ同率であった。血液の検査所見には,両群それぞれの発症者と非発症者との間に有意差がなかった。この結果から,網膜症の発症原因は,インターフェロン自体が網膜微小循環系に直接作用することにあると考えられた。

連載第3回

前房隅角構造の研究

著者: 瀬川雄三

ページ範囲:P.429 - P.433

亡くなった弟が与えてくれた後半生の研究
 何かいい方法はないかと考えあぐねていた昭和55(1980)年8月6日午前8時すぎに私の心臓は呼吸とともに停止してしまいました。心筋梗塞の発作です。女房を除くほとんどすべての人が“駄目だ”と思ったようですし,たとい生還しても植物状態になるものと思われたようですが,麻酔学教室の皆様の蘇生術が効を奏して植物状態になることもなく生還してきました。
 日時が50年前の原爆投下と同じで,爆心地近くの中学校舎内で亡くなった弟の死亡時刻と同じ時間だったので,ひょっとすると弟が私をあの世に呼ぼうとしたのかもしれませんが,まだまだこの世でまともな働きをしていない兄貴を見て,「もう一度この世で働いて来い。やり残した緑内障の研究でもしてこい」と送り返したのかもしれません。

米国の眼科レジデントプログラム

7.ベイラー医科大学

著者: 綾木雅彦

ページ範囲:P.434 - P.435

臨床研修プログラム
 眼科のレジデントプログラムは3年間の研修からなる。毎年6名の1年目のレジデントが7月1日から研修に入る。このプログラムは専門家としての眼科医を育成し,一般診療,特殊診療,学術活動の面において業績を挙げることを目的としている。アメリカ眼科専門医委員会に従って,初年度の研修を始める者はPGY−1(インターン)を終了しておかなければならない。プログラム終了後専門医試験の筆記試験を受ける資格を得る。

第49回日本臨床眼科学会専門別研究会1995.11.10宇都宮

色覚異常

著者: 市川一夫 ,   北原健二

ページ範囲:P.436 - P.437

I.特別講演「着色眼内レンズの特徴」
 最近着色眼内レンズが2種市販されるようになり,色覚異常研究会としても,着色眼内レンズの特性をつかんでおくことは重要であるので,北原教授に「着色眼内レンズの特徴」と題する特別講演をお願いした。水晶体の分光透過特性の求め方について生体で測る方法と摘出水晶体から直接測る方法があり,前者は生きたままの分光特性が求められるが光透過率の絶対値がわからないこと,後者は非生理的分光透過率を求めていることを示された。2種の着色眼内レンズと非着色眼内レンズを挿入したときの色の見え方の変化をCIEの色度図上にパネルD15の色がどのように変化するかを示し,非着色眼内レンズが明らかに青色方向に色が変化するのに対し,現在市販の着色眼内レンズはいずれも非着色眼内レンズに比べより生理的であることが示された。着色眼内レンズでは,先行するメーカーのものが20Dの標準レンズで後発のメーカーが10D以下の薄いレンズで,それぞれ色が正常より少しずれることが示され,改良の余地があることが指摘された。質疑応答では,瞳孔径と着色程度の問題,対象患者年齢と着色程度の問題,白内障術後の色変化について,これを是とするか否とするかについてまでの議論がなされた。

視野

著者: 鈴村弘隆

ページ範囲:P.438 - P.439

 今回は計13題の演題に対し活発な討論がなされた。途中,日本視野研究会会長大鳥利文教授から1996年のInternational Perimetric Society Meetingに多数演題を提出されたい,また,視野の用語集について現在改定中であるとの話があった。座長は勝島晴美講師(札幌医大),前田修司博士(前田眼科),松本長太講師(近畿大),岩瀬愛子講師(多治見市民病院・岐阜大)にお願いした。発表は新しい視野計,視野影響因子・検査法,網膜・視路疾患,緑内障の各セクションに分け行った。

眼先天異常

著者: 馬嶋昭生

ページ範囲:P.440 - P.442

1.Seckel症候群の1例 山田浩三・他(島根医大)
 症例は16歳の女性で,在胎37週体重は890gで出生した。受診時の身長91cm,体重13.5kgで,低身長であったが均整がとれていた。頭囲42cmと小頭を呈し,高い鼻,小さい下顎,歯のエナメル質の形成不全,および右橈骨の変形がみられた。眼位は外斜位で,視力は右0.2(O.4×+2.50D cyl+2.75D Ax80。),左0.3(0.6×+2.OD cyl+2.75D Ax125°)であった。角膜曲率半径は右6.06mm,左6.23 mm,角膜径は両眼9 mm,眼軸は右16.89,左17.04 mmであった。ほぼ同程度の身長の女児15例の眼軸の平均は20.7mmで,両眼の小眼球症と考えられた。眼底は両側の視神経乳頭の軽度の蒼白がみられた。眼球運動,対光反射,輻輳反射,視野,網膜電位図,視覚誘発電位は正常であった。視神経障害をきたす頭蓋内疾患もみられないことから,両眼の視力不良は小眼球症による遠視性乱視のための屈折性弱視が原因と考えられた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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