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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科50巻4号

1996年04月発行

雑誌目次

特集 第49回日本臨床眼科学会講演集(2) 学会原著

当科における無硝子体白内障手術の工夫と成績

著者: 前谷悟 ,   福原雅之 ,   松浦啓太 ,   中西清二 ,   奥田隆章 ,   清水一弘 ,   濱田潤

ページ範囲:P.471 - P.474

 硝子体手術後に生じた白内障に対しては超音波乳化吸引術が勧められるが,チン小帯の断裂や脆弱化などのために前房深度が保たれにくい。灌流圧を3通りに設定して,無硝子体の28眼に対して白内障手術を行った。通常の75cmよりも20,25,30cm下げて比較した結果,25cm下げることで望ましい成績を得た。また,envelope法で前嚢切開したあと,十分なhydrodissectionを行えば,対面圧出法で安全確実に核を娩出できた。

眼科受診を契機としHIV感染と診断されたサイトメガロウイルス網膜炎の1症例

著者: 大越貴志子 ,   遠藤紳一郎 ,   勅使河原剛 ,   草野良明 ,   佐久間敦之 ,   山口達夫 ,   神吉和男 ,   岡田定

ページ範囲:P.475 - P.479

 眼科受診を契機とし,後天性免疫不全症候群(AIDS)と診断された1例を経験した。症例は68歳男性で,視力低下を主訴に受診し,右眼の硝子体混濁と眼底に白色滲出斑,出血を認めた。入院後,発熱,カンジダ症,下痢が出現し,さらにCD4リンパ球減少が決めてとなりHIV検査を施行し,陽性と判定されるに至り,サイトメガロウイルス網膜炎と診断された。本症例は網膜症の発生を契機に,HIV感染が判明した本邦での初めての報告と思われた。本症例のように血友病もなく,かつ同性愛者でもなく高齢であっても,AIDSである可能性があるゆえ,今日原因不明の網膜炎をみた場合,年齢や背景を問わずに,AIDSを疑って検査を進めるべきと考えられた。

網膜中心動静脈閉塞症を呈した抗リン脂質抗体症候群の1例

著者: 志水敏夫 ,   森岡籐光 ,   西信元嗣

ページ範囲:P.480 - P.482

 網膜中心動脈閉塞症と網膜中心静脈閉塞症の合併という,きわめて稀な病態を呈した抗リン脂質抗体症候群の1症例を報告する。症例は58歳女性で,左眼の急激な視力低下を主訴に近医より紹介され,即座に線溶療法開始するも改善せず,光覚弁となった。抗核抗体,抗DNA抗体陽性等よりSLEが疑われたが診断基準を満たさず,ループスアンチコアグラント,抗力ルジオリピン抗体陽性より抗リン脂質抗体症候群と診断された。これまでSLEや分類不能膠原病に網膜血管閉塞症を合併した症例は数多く報告されているが,今後このような症例には本症候群を念頭に入れて検査,加療する必要があると思われる。

異なる角膜内皮像を示したKearns-Sayre症候群の2症例

著者: 山本恭代 ,   岡山欣彦 ,   鳥崎真人 ,   上野良樹 ,   瀬野晶子

ページ範囲:P.483 - P.485

 Kearns-Sayre症候群の2症例において,腓腹筋を用いたSouthern blot法とPCR法にてミトコンドリアDNAの大欠失を認めた。非接触式スペキュラーマイクロスコープによる角膜中央部の角膜内皮細胞密度は両症例とも同年代の健常者群に比べて著明に少なかった。角膜内皮は症例1ではほぼ均一な細胞面積を示したが,症例2では細胞面積の大きい群と小さい群が混在する所見を呈し,両症例間では角膜内皮像は異なっていた。

3460遺伝子変異をもつレーベル視神経症の視機能回復

著者: 周正喜 ,   高橋広 ,   古川元 ,   秋谷忍 ,   緋田芳樹 ,   真島行彦

ページ範囲:P.487 - P.490

 ミトコンドリアDNA (mtDNA)の3460変異をもつレーベル視神経症の症例において,視力の自然寛解を経験し,視力回復後の視機能について評価した。症例は14歳男性,両眼の視神経炎として当院へ紹介され,レーベル視神経症を疑いmtDNAを検索し,3460変異(+)であった。発症後約1年より次第に回復し,視力が右眼1.2,左眼O.9まで回復した。しかし,視力回復後む色覚,フリッカー値には回復なくゴールドマン視野でも中心暗点を残していた。ハンフリー視野では絶対暗点のなか限局した範囲での回復があり,SLOによるスコトメトリーでも絶対暗点に囲まれたなかに中心窩を含む回復を確認できた。絶対暗点と回復した範囲で検眼鏡的な差異は認められなかった。

内外同時眼窩切開により摘出した眼窩内静脈瘤の1症例

著者: 石井清 ,   小島孚允 ,   兼子耕

ページ範囲:P.491 - P.495

 眼窩内静脈瘤が筋円錐内に存在し,内外同時眼窩切開にて摘出し,良好な視力予後を得た1症例を経験した。症例は48歳女性で右眼球突出,視力低下を主訴とし紹介受診。CT, MRIより筋円錐内に腫瘤を認めたが,臨床症状,検査所見より悪性像は得られなかった。入院管理後症状が悪化し,内外同時眼窩切開による腫瘍摘出術を施行した。眼窩内静脈瘤が筋円錐内に存在する場合,手術による治療は合併症の発生率が高く,手術予後は必ずしもよくないといわれ保存的治療が主体とされているが,今回施行した方法は,術野を安全にかつ十分得ることが可能であり,今後症例によっては積極的に行ってもよい手術術式であると考えられた。

広範囲の毛様体皺襞部裂孔網膜剥離に対する2段階手術

著者: 渡部美博 ,   藤井孝 ,   飯島幸雄

ページ範囲:P.496 - P.500

 毛様体皺襞部裂孔による網膜剥離において皺襞部裂孔が小さい場合には,ジアテルミー凝固とインプラントによるバックリングにて良好な手術成績が報告されているが,裂孔が半周を越える広範囲に存在する場合については手術方法は確立されていない。
 症例は両眼の裂孔原性網膜剥離にて当科を受診した15歳のアトピー性皮膚炎患者で,両眼にバックリング手術を施行,網膜裂孔は閉鎖されたが,両眼とも半周を越える広範囲の毛様体搬嚢部裂孔により網膜剥離が再発した。これに対し,まず両眼の強膜輪状締結術を施行,網膜下液の消失した1週間後にバックル上の毛様体扁平部と最周辺部の網膜を全周光凝固した。術後経過は良好で,両眼とも網膜は復位し,その後他院にて両眼のアトピー性白内障の手術を受けるも網膜剥離は現在のところ再発していない。
 毛様体皺襞部裂孔が半周を越える広い範囲にあったり,その疑いがある場合には,眼球の全周にわたり鋸状縁の前後で網脈絡膜瘢痕を作るとともに永続するバックル効果を残す必要があると考えられる。この場合,2段階手術は全周にジアテルミーや冷凍凝固を行うのに比べ,手術侵襲も少なく安全な方法と考えられた。

デスメ膜破裂より角膜浮腫を生じたHallermann-Streiff症候群の1例

著者: 安達和彦 ,   伊藤久太朗 ,   石原美香 ,   山崎厚志 ,   瀬戸川章 ,   玉井嗣彦

ページ範囲:P.503 - P.506

 Hallermann-Streiff症候群に角膜浮腫を生じた1例を経験した。症例は30歳女性で,すでに僚眼は緑内障により著明に視力低下し,患眼は角膜浮腫以外に下方菲薄化が認められた。その他,両眼の小眼球,先天性白内障,眼振,および球状角膜も認められた。角膜保護剤,コルチコステロイド剤,抗生剤,5%高張食塩液の点眼,炭酸脱水酵素阻害剤(ダイアモックス®)の内服を施行したが効果はなかった。発生1か月後にデスメ膜破裂が認められ,圧迫眼帯も行い,さらに1か月後には浮腫は治癒した。特異的なphotokeratoscope所見は得られなかったが,球状角膜を原因としたデスメ膜破裂より角膜浮腫を生じた1例と考えられた。新鮮例では,保存的療法も効果があるものと思われた。

進行性網膜下線維増殖を伴った多発性脈絡膜炎の1例

著者: 森村佳弘 ,   平形明人 ,   堀田一樹 ,   森智之

ページ範囲:P.507 - P.510

 Muitifocai choroiditis with progressive subretinal fibrosisと考えられる1例を報告した。症例は24歳女性。右眼変視を主訴に来院,黄斑部にFuchs斑様の変性を認めた。その後急速な網膜下線維性増殖と同心円状に散在する白色斑が出現し,視力は0.04まで低下した。右眼後部硝子体腔には一時期炎症性細胞浸潤を認めた。初診から1年半後には左眼黄斑部にも白色斑が出現した。フルオレセイン螢光造影で病変部は過螢光を示したが,明らかな新生血管は認めなかった。インドシアニングリーン螢光造影では初期より低螢光で,一部過螢光の部分も認めた。ステロイド内服の効果は不明だが,比較的早期に投与できたと思われる左眼は経過良好であった。

黄斑円孔手術後に生じた重篤な視力障害

著者: 角田和繁 ,   中静隆之 ,   高塚忠宏

ページ範囲:P.511 - P.514

 特発性黄斑円孔に対するビトレクトミー,SF6ガス注入術施行後に,著明な視力低下を来した2症例について検討した。症例1は65歳男性。術後7日目に視力低下を訴え,視力は手動弁に低下した。視野検査にて中心暗点を認め,眼底に著明な網膜血管の狭細化を認めた。症例2は66歳女性。術後10日目に視力は手動弁に低下,眼底に網膜動静脈の著明な狭細化および周辺部の網脈絡膜萎縮を認めた。2症例とも術中に合併症を認めず,術後眼圧は正常,円孔は術2週間後にはほぼ閉鎖していた。これらの症例に認められた変化は,術後に生じた網脈絡膜,および視神経の循環障害に起因すると推測された。

視神経乳頭黒色細胞腫2例の長期経過

著者: 谷瑞子 ,   今西昶子 ,   植村祐子 ,   中村真理子 ,   尾山直子 ,   秦誠一郎 ,   野田徹 ,   清水敬一郎

ページ範囲:P.515 - P.518

 長期にわたる経過を観察し得た視神経乳頭黒色細胞腫の2例を報告する。症例1は62歳の男性で,右眼に発症。16年の後に腫瘍の隆起が減少した。症例2は39歳の女性で,初期には右乳頭炎と診断された。7年後に乳頭上の黒色色素が明瞭化し,9年後には色素病変は拡大し,視神経萎縮が著明となり,視力は手動弁に低下した。乳頭深部の黒色細胞腫が長い経過の間に周囲の神経線維を圧迫しながら成長し,視神経萎縮をもたらし,視機能が失われたと考えられた。

星状神経節ブロック後の角膜中心厚の変化

著者: 澤田達 ,   木村亘 ,   木村徹 ,   菅英毅 ,   大手昭俊 ,   広兼賢治 ,   山西茂喜 ,   北浦道夫

ページ範囲:P.519 - P.522

 角膜の厚みに対する交感神経系の関与を検討するため,循環改善を期待した治療目的で星状神経節ブロック(以下SGBと略す)を行った10例を対象に,超音波角膜厚測定装置を用いSGB前後の角膜中心厚変化を測定した。結果としてSGB施行側角膜中心厚は施行後30分にて施行前角膜中心厚に比べ有意に増加し,また非施行側角膜中心厚も増加傾向を示した。これは,角膜の厚みを規定するひとつの因子として交感神経系の関与を示唆する所見と考えられた。しかし,交感神経系の角膜に対する働きはまだまだ不明な点が多く,確証にはさらなる検討が必要である。

スキャンタイプ・エキシマレーザーによる近視矯正術のpredictability

著者: 高橋圭三 ,   寄井秀樹 ,   岡部ナギサ ,   前岡重寿 ,   上甲武志 ,   大橋裕一

ページ範囲:P.523 - P.527

 スキャンタイプ・エキシマレーザー近視矯正術の定量性について検討した。対象は35例50眼,全例6か月以上経過観察された(29例29眼は1年以上)。全症例の術前平均等価球面度数は−8.ODであり,レーザー矯正度数は平均−6.1Dであった。術後6か月,1年時の目標矯正度数に対する誤差は各々平均+0.1D,−0.2Dであった。術後1年時目標矯正度数±1D以内に矯正された症例が29眼中24眼(83%),±2D以内が29眼中27眼(93%)であった。−10Dまでの矯正では,85%が目標矯正度数±1D以内に矯正された。本機による近視矯正術は高い予測性predictabilityを有するものと考えられる。

エキシマレーザー屈折矯正手術後の角膜上皮下混濁の定量的検討

著者: 神谷和孝 ,   平林多恵 ,   国富由紀子 ,   丸尾敏之 ,   松田修実 ,   征矢耕一 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.529 - P.532

 エキシマレーザー屈折矯正術を施行した21例24眼について,術後12か月において前眼部解析装置EAS−1000®を用いて角膜上皮下混濁を定量的に評価した。角膜上皮下混濁は,散乱光強度測定により定量化した。散乱光強度と臨床的な上皮下混濁分類(Fantes分類)との相関,ならびに散乱光強度に切除深度,年齢,性別が及ぼす影響について検討した。また散乱光強度とコントラスト感度の関連についても検討した。散乱光強度とFantes分類による上皮下混濁程度は有意な相関を認めた(r=0.64,p=0.003)。散乱光強度と切除深度は有意な相関(r=0.71,p=0.003)が認められた。散乱光が強い症例では,夜間視中心グレア下のコントラスト感度が低下する傾向にあった。

Heidelberg retina tomographを用いた緑内障眼の視神経乳頭解析—乳頭パラメータと視野体積との相関

著者: 本松薫 ,   藤澤公彦 ,   久保田敏昭 ,   田原昭彦

ページ範囲:P.533 - P.535

 Heidelberg Retina Tomograph (HRT)を用いて緑内障患者30例51眼の視神経乳頭を解析した。得られた網膜高のプロフィールから,51眼を通常の緑内障性陥凹を示す乳頭群(非傾斜乳頭群)25眼と近視性傾斜乳頭群26眼に分け,それぞれの群の乳頭パラメータとゴールドマン視野(GP)の体積との相関係数を求めた。非傾斜乳頭群では,相関係数はC/Dratioで0.719,cup areaで0.718,cup volumeで0.709と比較的強い相関がみられたが,傾斜乳頭群では,すべてのパラメータで相関は弱かった。緑内障の進行度を知る上で,HRTで得られた乳頭パラメータを用いる場合は傾斜乳頭の有無を考慮する必要がある。

アクリルソフト眼内レンズを用いた白内障・緑内障同時手術の術後早期成績

著者: 中野正夫 ,   宮崎明子 ,   青柳睦美 ,   櫻井真彦 ,   土田覚 ,   田島康弘

ページ範囲:P.537 - P.542

 アクリルソフト眼内レンズを用い,白内障と線維柱帯切除術との同時手術を施行し術後3か月以上経過観察できた58例70眼の術後早期成績について検討した。手術は結膜弁,強膜弁作成,マイトマイシンC塗布洗浄,前嚢切開,強膜弁下よりPEA,IOL挿入,trabeculectomy,強膜弁,結膜弁縫合という手順で行った。術後3か月の視力は58%で0.5以上を得た。術後3か月および6か月時の15mmHg以下の無投薬眼圧コントロール率は98%および90%であった。術後フィブリン析出が21%,浅前房が20%,脈絡膜剥離が26%,一過性眼圧上昇が10%,低眼圧黄斑症が4.3%にみられた。本術式は緑内障手術以外の創口をほとんど必要とせず,IOLに起因する合併症や重篤な合併症がないことより有用と考えられた。

13項目の問診による白内障患者術前・術後の訴えと患者の視機能

著者: 中泉裕子 ,   阿部健司 ,   徳田美千代 ,   藤沢来人 ,   浅野浩一 ,   市岡弘光 ,   佐々木一之

ページ範囲:P.543 - P.547

 白内障患者の視機能低下,改善の状態が患者の自覚からどの程度評価出来るかを,筆者らが独自に作成した13項目にわたる問診(金沢医大式問診)により検討した。対象は片眼,または両眼の白内障手術を受けた23歳から94歳(平均69.8歳)までの57症例で,全例に術前の問診を,同一対象者の中の48症例については術後4週を経た後に同じ問診を再度施行した。白内障の病型・程度分類は白内障疫学研究班分類に従った。施行した眼科的検査は遠・近距離視力測定,グレアテスト,コントラスト感度テスト,前眼部画像解析システムによる水晶体撮影,その他の一般眼科検査である。これとは別に術前,VF−14 testによる問診も同時に行った。術前の訴えの全ては眼科検査により眼科医側からもとらええるものであった。患者の訴えは(遠・近)視力に限らず多彩であることを改めて確認した。術後の視機能も患者のQOLの観点から考え直す時期に入ったと考える。

Visual analogue scaleを用いた白内障手術時の疼痛についての検索

著者: 眞鍋洋一 ,   杉田達 ,   安田明弘 ,   山口達夫

ページ範囲:P.548 - P.550

 患者にとって,より痛みの少ない麻酔法を見出すため,visual analogue scale (VAS)を用いて白内障術中の痛みについて検討した。(1)球後麻酔+瞬目麻酔,(2)テノン嚢麻酔,(3)点眼麻酔の3群間において白内障術中の痛みに差を認めなかった。麻酔方法の選択は,痛み以外の要因を基準とし,行ってよいと考えた。

両眼水晶体脱臼を合併したアトピー性皮膚炎の1例

著者: 草野暢子 ,   吉野幸夫 ,   国年雅人 ,   石崎千明

ページ範囲:P.551 - P.553

 外傷に起因すると考えられた水晶体脱臼を合併したアトピー性皮膚炎症例を報告した。症例は62歳男性。幼少からアトピー性皮膚炎に罹患。皮膚炎増悪時に顔面の掻痒が強く,激しく顔面を殴打していた。右眼視力低下を自覚し眼科受診,両眼に水晶体脱臼がみられ右眼は硝子体内に完全脱臼,左眼は亜脱臼。右眼は硝子体腔内で落下水晶体を切除吸引,眼内レンズ2次縫着,左眼は水晶体全摘と眼内レンズ縫着を行い,術後経過は良好である。本例の水晶体脱臼は,眼球の強い打撲によって加齢のため比較的脆弱なチン小帯が断裂し生じたものと考えられた。

真菌性眼内炎に併発した裂孔原性網膜剥離の2例

著者: 若野裕子 ,   砂川光子

ページ範囲:P.555 - P.558

 内因性真菌性眼内炎に裂孔原性網膜剥離を併発した2症例を経験した。症例1は,胆石,胆嚢炎,十二指腸閉塞にて胆嚢摘出および十二指腸空腸吻合術後,中心静脈高カロリー輸液(IVH)を長期留置していた。症例2は,Sjögren症候群,続発性腎性尿崩症,遠位尿細管性アシドーシス,急性膵炎および急性心内膜炎にて副腎皮質ステロイド療法およびIVHの長期留置を行っていた。2例とも,抗真菌剤の全身投与と手術により網膜の復位を得た。真菌性眼内炎に併発した網膜剥離を認めた場合,牽引性のみならず裂孔原性も存在し,しかも,その手術予後は比較的良いと考えた。

両眼性網膜毛細血管炎を伴う小児の虹彩毛様体炎

著者: 松尾俊彦 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.559 - P.562

 1985年4月から1995年9月までの10年6か月間に岡山大学医学部附属病院ぶどう膜炎外来を受診した,他に全身異常がなく両眼性網膜毛細血管炎を伴う虹彩毛様体炎を呈した小児18例の免疫学的および臨床的特徴を調べた。発症時年齢は9歳から16歳で,18例中12例が女性であった。両眼に豚脂様角膜後面沈着物を伴った虹彩毛様体炎がみられた。螢光眼底造影にて視神経乳頭および中間周辺部を中心とする網膜毛細血管からの螢光色素の漏出がみられたが,嚢胞様黄斑浮腫はなかった。全身的に異常はなく,眼炎症は副腎皮質ステロイド薬によく反応した。初回炎症の消退後再発がみられたり,軽微な前房炎症が数年にわたり続いたが,合併症をきたすことなく視力予後も良好であった。HLA-DR6およびCw7の頻度が有意に高く(Yates補正によるカイニ乗検定,P<0.0001),視細胞間レチノイド結合蛋白に対する末梢血リンパ球幼若化反応が,18例中5例において陽性であった。これらの臨床的および免疫遺伝学的特徴は,従来からいわれている疾患とは異なり,別の新しい疾患単位と考えられる。便宜上,両眼性網膜毛細血管炎を伴う虹彩毛様体炎,bilateral iridocyclitis with retinal capillaritis (BIRC)と命名した。

一過性に浅前房を生じた原田病患者の毛様体,脈絡膜剥離

著者: 川野庸一 ,   田原昭彦 ,   西岡木綿子 ,   巣山弥生 ,   坂本英久 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.563 - P.567

 浅前房を呈した原田病患者2症例の前眼部を超音波生体顕微鏡(UBM)で検索し,通常の眼底検査では発見が困難な毛様体,脈絡膜剥離が両眼の全周に明瞭に観察された。この毛様体,脈絡膜剥離はステロイド治療によって軽快し,浅前房も改善した。1例では治療中に再発した浅前房が,毛様体,脈絡膜剥離の再発とともに生じていた。原田病の経過中に生ずる浅前房の成因は,炎症に起因した毛様体の浮腫によると考えられていたが,炎症によって生じた滲出液が上脈絡膜腔に貯留して毛様体,脈絡膜剥離となり,チン小帯が弛緩し,水晶体が膨化前進することが主因と考えた。

加齢性黄斑変性症網膜下血腫型の視力予後

著者: 安藤秀夫 ,   白柏麻子 ,   安藤伸朗 ,   阿部春樹

ページ範囲:P.569 - P.571

 過去6年間に当科で加齢性黄斑変性症(ARMD)網膜下血腫型と診断された33眼の,視力予後について検討した。血腫が中心窩を含む22眼(中心窩群)と,中心窩を含まない11眼(傍中心窩群)に分け,以下の3項目で有意の差を認めた。1)最終視力0.1以上;中心窩群22眼中4眼,傍中心窩群11眼中9眼(p<0.0l),2)網膜下血腫の吸収に要した期間:中心窩群27.5週,傍中心窩群16.6週(p<0.01),3)黄斑下線維性痕痕または円板状病巣:中心窩群(確認できた)20眼中18眼,傍中心窩群11眼中3眼(p<0.01)。中心窩型のARMD網膜下血腫型は,傍中心窩型に比較して出血の吸収が遅く,線維性瘢痕や円板状病巣が形成されやすく,視力予後は不良であった。

汎網膜光凝固による黄斑浮腫に対する追加黄斑凝固

著者: 春山洋 ,   今井雅仁 ,   塚原重雄

ページ範囲:P.573 - P.576

 汎網膜光凝固の影響で黄斑浮腫が増悪し視力低下をきたした糖尿病網膜症症例について,追加黄斑凝固を施行した19眼と経過観察のみ行った33眼に分類し,視力経過について検討した。視力低下3か月後の視力改善は追加黄斑凝固群32%,観察群30%,12か月後はそれぞれ28%,32%であった。また,汎網膜光凝固開始前視力の12か月後の維持率は,追加黄斑凝固群33%,観察群36%であった。いずれの結果においても2群間に有意差はなく,追加黄斑凝固が必ずしも有効でないことが確認された。

血清自己抗体が証明されたCancer-associated retinopathy

著者: 鈴木利根 ,   佐藤洋子 ,   藤田恒明 ,   小原喜隆 ,   一和多俊男 ,   斎藤元護 ,   内山照雄

ページ範囲:P.577 - P.580

 患者は63歳女性で,2年前に肺小細胞癌の診断で化学療法を受けた。視力障害(暗黒感)を主訴に当科を初診し,視力は右0.5(0.9),左0.6(n.c.)で,視野は両眼の著しい求心性狭窄を示した。前眼部,中間透光体は正常で眼底は軽度の網膜血管狭細のみを認めた。発病初期の螢光眼底写真にて網膜血管炎の所見があり,ERGは両眼とも消失型であった。Western blot法で患者血清中に,分子量62kDの網膜抗原に対する抗体が証明された。ステロイド治療にても,視力は6か月後には光覚弁に低下した。これまで分子量23kDの抗原(CAR antigen)に対する抗体の報告が最も多い。本例の抗体が血管炎の直接の原因かは不明だが,経過とともに血管狭細に至ったと推定される。

ガンシクロビルとレーザー光凝固を併用して有効であったサイトメガロウイルス網膜炎

著者: 橋本知余美 ,   松浦豊明 ,   湯川英一 ,   原徳子 ,   原嘉昭 ,   西信元嗣

ページ範囲:P.581 - P.583

 症例は21歳男性,血友病を伴うhuman immunodeficiency virus (HIV)抗体陽性患者で,後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)発症による日和見感染のため,1994年11月左眼にサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)網膜炎を発症した。ガンシクロビル点滴療法を行ったが,副作用の骨髄抑制が生じたため投与量を減量したところ,CMV網膜炎の悪化による硝子体出血が生じ30cm手動弁となった。その後,右眼に発症したCMV網膜炎に対してガンシクロビル点滴療法とレーザー光凝固の併用を試みた。適切な時期にレーザー光凝固を行えば硝子体出血を予防でき,有効であると考えられた。

網脈絡膜血管病変を伴った先天性アンチトロンビンⅢ欠損症の1例

著者: 藤井千雪 ,   高橋幸男 ,   赤木好男 ,   河原謙一

ページ範囲:P.585 - P.587

 多臓器に血栓症を生じた先天性アンチトロンビンⅢ(AT Ⅲ)欠損症の39歳,男性にインドシアニングリーン螢光眼底造影(IA)を施行した。眼底検査で両眼の網膜動脈の蛇行があった。フルオレセイン螢光眼底検査では,網膜動脈の蛇行以外に閉塞性および虚血性疾患を疑わせる所見はなかった。IAにより,脈絡膜の比較的太い血管の途絶と脈絡膜循環不全を疑わせる扇状の低螢光の所見が得られ,先天性AT Ⅲ欠損症の脈絡膜循環動態の検索にIAが有用であった。

血液凝固第XI因子が低下した若年性網膜前出血の1例

著者: 池田俊英 ,   藤井清美 ,   田村周子 ,   井上新 ,   小川憲治

ページ範囲:P.589 - P.592

 13歳男児が突然の視力低下を主訴に来院し,右眼底に黄斑部を覆う網膜前出血,網膜出血が認められた。薬剤の服用や外傷の既往はなかった。一般血液検査においても異常がなかったが,一般止血検査において部分卜ロンポプラスチン時間のみ軽度延長を認めた。さらに特殊検査である血液凝固・線溶系因子を測定したところ,血液凝固第?因子が低下しているのが判明した。突発性の若年発症の網膜前出血をみた場合,血液凝固系の精査が必要である。

視覚誘発脳磁図におけるパターン刺激の方法

著者: 松橋正和 ,   熊谷徹 ,   遠藤博史 ,   小柳宏 ,   武田常広

ページ範囲:P.593 - P.596

 64チャンネルの生体磁気計測装置を用いて,パターン刺激による多チャンネル視覚誘発脳磁図を測定した。パターン刺激の呈示法として,CRTディスプレイに表示した場合と,液晶プロジェクタを背面投射式プロジェクタとして用いて透過型スクリーンに表示した場合の,2方法を比較,検討した。結果は,いずれの呈示法とも良好な反応が記録可能であったが,CRTディスプレイ呈示ではシールドルーム内で2mまで接近させると脳磁場の約1万倍の大きさのノイズ混入がみられるため設置距離に制約があり,一方,透過型スクリーン呈示は設置位置は自由であった。特にノイズ混入に関連して,視覚誘発脳磁図のパターン刺激装置としては透過型スクリーンが優っていると考えられた。

刺激輝度の変化が及ぼす視覚誘発脳磁図への影響

著者: 小柳宏 ,   遠藤博史 ,   松橋正和 ,   熊谷徹 ,   武田常広

ページ範囲:P.597 - P.599

 64チャンネル生体磁気計測装置を用いて,luminance刺激の刺激輝度の変化による反応を測定した。方法は,刺激光源として赤色発光ダイオードを使用し,その前にNeutral Density (ND)フィルターを加入し輝度を変化させ測定を行った。対象は眼疾患のない3名とした。測定の結果,代表的なセンサーにおいてND3より刺激輝度の上昇に伴い,振幅が増大し,頂点潜時が短縮した。これは,視覚誘発電位でも認められる変化であったが,今回のデータにばらつきがあり,今後刺激条件を検討していく必要があると思われた。

多病巣性線維性硬化症の1例

著者: 池田晃三 ,   冨田一之 ,   白井正一郎

ページ範囲:P.601 - P.604

 多病巣性線維性硬化症(multifocal fibrosclerosis)は,種々の部位に線維性病巣を生ずる原因不明の疾患である。症例は35歳の女性で,排膿を伴う右眼瞼の発赤・腫脹があり,MRIで眼窩腫瘤が認められた。血液検査で,CRPの上昇と血沈の亢進があり,経過中激しい腰痛が出現し,腹部MRIで大動脈を巻き込む後腹膜腫瘤がみられた。腹部腫瘤の生検で,病理組織学的にリンパ球と形質細胞の浸潤を伴う線維症の像が得られ,眼窩腫瘤と合わせて多病巣性線維性硬化症と診断した。副腎皮質ステロイドの全身投与を行ったところ,右眼窩および後腹膜腫瘤は縮小し,現在も経過観察中である。

慢性関節リウマチにおける眼合併症の頻度

著者: 河野玲華 ,   松尾俊彦 ,   松尾信彦 ,   大石和弘 ,   江澤和彦 ,   棗田将光 ,   宗田憲治 ,   江澤英光

ページ範囲:P.605 - P.608

 慢性関節リウマチ患者111例において,眼合併症の頻度および眼合併症と全身の活動性との関係について検討した。乾性角結膜炎が19例(17.1%)に,強膜炎が1例(0.9%)にみられた。自覚症状のない乾性角結膜炎は19例中6例であった。乾性角結膜炎のある患者では,ない患者と比較してリウマチ因子(Mann-Whitney's U-test p=0.0048)と免疫グロブリンM (p=0.0484)が有意に高く,HDLコレステロール(p=0.0191)は有意に低かった。慢性関節リウマチの全身的活動性を示すランスバリー活動性指数,C反応蛋白,赤血球沈降速度と乾性角結膜炎の間には有意な関係はなかった。慢性関節リウマチ患者の眼科的経過観察は,眼局所病変の早期発見のみならず,全身的経過観察の上でも有用である。

アデノウイルス結膜炎の迅速診断法の臨床的意義

著者: 齋藤和香 ,   伊藤典彦 ,   大野重昭 ,   大嶋彰 ,   中嶋治彦 ,   石古博昭 ,   谷口奈津子 ,   青木功喜

ページ範囲:P.609 - P.612

 臨床的にウイルス性結膜炎を疑われた患者49例を対象とし,polymerase chain reaction (PCR)法とrestriction fragment length polymorphism analysis (RFLP)法を組み合わせたPCR-RFLP法,分離培養法および酵素抗体法を行い,アデノウイルス(Ad)結膜炎診断における有用性を比較検討した。さらにPCR法陽性例をAd結膜炎とし,非Ad結膜炎と臨床症状を比較した。その結果,PCR法では63%,分離培養法では59%,酵素抗体法では33%が陽性であった。分離培養法陽性例および酵素抗体法陽性例はいずれもPCR法陽性であった。また,Ad結膜炎は非Ad結膜炎より重症であった。今回の成績からPCR-RFLP法は偽陰性がなく,Ad結膜炎の正確な診断法と考えられる。

失明眼より対側眼への自己角膜移植を行った1症例

著者: 井上幸次 ,   根津永津 ,   蔡由喜 ,   趙容子 ,   切通洋 ,   大黒伸行

ページ範囲:P.613 - P.617

 失明眼より対側眼への自己角膜移植を行い,中央部の内皮の状態を20か月にわたって経時的に観察した症例を経験したので報告する。症例は36歳男性で,視神経網膜炎で失明した右眼より,角膜移植後拒絶反応にて水疸性角膜症となった左眼に自己角膜を移植し,右眼にドナー角膜を移植した。移植後,左眼の自己角膜移植片は透明性を維持していたが,右眼は2度にわたって拒絶反応を発症した。自己角膜移植眼では術後徐々に内皮細胞密度が減少し1年後に48.5%にまで低下したが,以後は減少傾向は停止した。ドナー角膜移植眼では最初の6か月間は,内皮細胞密度は減少しなかったが,拒絶反応を契機に急激に減少した。自己角膜移植眼での内皮数減少の一要素として,角膜中央部から周辺部への内皮細胞の移動が関与している可能性が示唆された。

マルファン症候群に先天緑内障を合併した1例

著者: 田中尚子 ,   富永美果 ,   松坂有紀

ページ範囲:P.619 - P.621

 斜視の疑いで20か月の女児を紹介された。初診時に両眼に角膜拡大,角膜のHaab線,隅角の虹彩高位付着があり,眼圧は右24mmHg,左26mmHgであった。緑内障手術の際に両眼の水晶体偏位を発見した。身長と体重は標準で,循環器系に異常がなく,血漿と尿のアミノ酸分画は正常であった。母に水晶体偏位,高身長,細長い上下肢,くも指があった。これらの所見から,本症例をマルファン症候群と診断し,先天緑内障を合併した非定型例と考えた。

AIDSに合併したサイトメガロウイルス網膜炎のガンシクロビル治療

著者: 山本成径 ,   村上喜三雄 ,   福與貴秀 ,   冨田美智子 ,   尾碕憲子 ,   菅田安男

ページ範囲:P.623 - P.626

 AIDSに合併したCMV網膜炎患者11例にガンシクロビルを全身投与した。初期療法(10mg/kg週7回投与)により7例に網膜炎の完全な鎮静化を,3例に部分的な鎮静化を認めた。1例は治療に反応しなかったため,foscarnetを併用し部分的な鎮静化を得た。しかしその後維持療法中に網膜病変の拡大や新病変の出現を10例中3例に認めた。ガンシクロビルの副作用である骨髄抑制のためすべての症例に白血球減少を認め,1例で治療の中断を余儀なくされた。ガンシクロビルの全身投与はCMV網膜炎に効果のある治療であったが,長期にわたる継続治療が必要であった。

走査レーザー検眼鏡を用いたmicroperimetryと自動視野計での絶対暗点の検出の比較

著者: 松井淑江 ,   原茂人 ,   沖波聡 ,   大野新治

ページ範囲:P.627 - P.630

 SLOスコトメトリーとオクトパス自動視野計(プログラム31)とによる絶対暗点の検出結果を37名43眼において比較検討した。結果は,1)スコトメトリーで検出された絶対暗点が1乳頭径(1PD)より小さい場合,10眼中8眼においてオクトパスでは検出できず,2)絶対暗点が約1PDであった4眼中2眼で,オクトパスでは検出されなかった。3)スコトメトリーで絶対暗点が1PDより大きい場合は16眼全例においてオクトパスでもこれを検出した。4)スコトメトリーでは絶対暗点が検出されず,オクトパスによってはじめて絶対暗点が検出された症例はなかった。以上,スコトメトリーは,後極部の微細な視機能を正確にとらえるのに有用であった。

発病初期からインドシアニングリーン螢光眼底造影を施行した原田病の1例

著者: 益田裕朗 ,   丸山耕一 ,   国吉一樹 ,   高田園子 ,   松本長太 ,   中尾雄三 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.631 - P.634

 滲出性網膜剥離が生じる以前の原田病発病初期の症例に対し,フルオレセイン螢光眼底造影(FA),および走査型レーザー検眼鏡を用いたインドシアニングリーン螢光眼底造影(IA)を施行した。
 症例は45歳,男性。初診時のFAでは脈絡膜螢光の充盈遅延,視神経乳頭の螢光染を認めるのみであった。一方IAでは脈絡膜血管の充盈遅延に加え,小斑状低螢光の散在,脈絡膜中大血管の不明瞭化がみられた。1週間後に滲出性網膜剥離を生じ,髄液検査より原田病と確定診断された。これらの所見より滲出性網膜剥離が生じる以前の脈絡膜に循環障害が存在したことが示唆された。

硝子体手術を実施した特発性黄斑円孔の固視点

著者: 古川元 ,   伊比健児 ,   浅原茂生 ,   秋谷忍

ページ範囲:P.635 - P.637

 硝子体手術を実施した特発性黄斑円孔3例4眼に対して,手術前日および手術の3か月後に走査レーザー検眼鏡のスコトメトリーにより,円孔およびその周辺の感度を測定して,同時に固視点を記録した。全例で円孔は閉鎖され視力は改善した。固視点は手術前では,4眼すべてfluid cuff上に存在し,手術後では,4眼すべて中心窩方向へ移動し,4眼中3眼で閉鎖された円孔内に認めた。視力の改善は,単にfluid cuffの機能改善だけでなく,円孔の閉鎖に伴い視細胞層が中心窩方向へ移動して,視細胞の密度が上昇することも関与していると考えられた。

全層黄斑円孔を合併した定型網膜色素変性症の2例

著者: 野見山豪 ,   野見山香奈子 ,   秋葉純 ,   梯彰弘 ,   石子智士 ,   吉田晃敏 ,   古屋文康

ページ範囲:P.638 - P.640

 網膜色素変性症の黄斑部変化として,中心窩反射の消失,網膜上膜の形成,萎縮巣,浮腫がみられるが,黄斑全層円孔の合併は稀である。筆者らは,定型網膜色素変性症に黄斑円孔を合併した2症例を経験したので報告する。一般に網膜色素変性症では10歳代でも高率に後部硝子体剥離がみられるが,本症例では後部硝子体が未剥離であったこと,また円孔周囲に網膜上膜がみられたことから,網膜色素変性症に合併した黄斑円孔の病因として,特発性黄斑円孔と同様に,硝子体牽引の関与が示唆された。

陳旧性裂孔原性網膜剥離の手術成績

著者: 武田憲夫 ,   水野谷智 ,   三田奈津子 ,   長谷川規子 ,   渡邉悌

ページ範囲:P.641 - P.643

 発症後1年以上を経過して手術を施行した,裂孔原性網膜剥離7眼につき検討した。無症候性の網膜剥離は除外した。年齢は20歳から82歳に及び,性差はなかった。術前視力は全例0.1以下であり,同時手術を要した白内障・硝子体混濁など,透光体の混濁が3眼にあった。増殖性硝子体網膜症のために硝子体手術を必要とした症例はなかった。全例が治癒し,視力は4眼が2段階以上向上した。放置した場合の晩期合併症を考慮するとき,陳旧性の症例に対しても積極的に手術を施行すべきであると考えられた。

強膜バックル手術後の前眼部虚血

著者: 佐野英子 ,   出田秀尚 ,   横山光伸 ,   中村弘 ,   村田友紀 ,   熊谷和之

ページ範囲:P.644 - P.649

 1991年8月から1994年12月までに,裂孔原性網膜剥離に対して強膜バックル手術を施行した1,101眼のうち,11眼(1.0%)に前眼部虚血(ASI)が発生した。術前の特徴は赤道部に位置する広範囲の網膜格子状変性に多発性の馬蹄型裂孔を有するものが多かった。手術は赤道部に広範囲のシリコン埋没術を行ったものや,複数回の手術を施行したものに多かった。ASIの特徴として,可逆性角膜浮腫,一過性浅前房による隅角閉塞と眼圧上昇,遷延性炎症,虹彩萎縮と癒着,白内障の進行がみられた。網膜は復位しているにもかかわらず術後視力の低下するものが多かった。

視交叉近傍腫瘍の3幼児例

著者: 高村真理子 ,   原田公幸 ,   澤村豊 ,   加藤英夫 ,   吉田和彦 ,   山口淑子 ,   陳進輝 ,   大橋勉

ページ範囲:P.650 - P.652

 視交叉近くの視神経膠腫を幼児3例で診断した。年齢は5か月,1年,4年であった。初発症状は眼振または斜視であった。腫瘍は組織学的にpilocytic astrocytomaと同定された。

眼球内容除去術後に発生した平滑筋肉腫の1例

著者: 市川美奈子 ,   溝田淳 ,   木村毅 ,   麻薙薫 ,   長尾孝一

ページ範囲:P.653 - P.655

 78歳女性の平滑筋肉腫の1例につき報告する。約20年前,両絶対緑内障のため眼球内容除去術の既往がある。今回,前方に突出した眼窩腫瘍を認め,組織診にて平滑筋肉腫を疑われたため,眼窩内容除去術を施行された。その病理組織所見では,好酸性細胞質を有し核の大小不同を持つ紡錘形細胞が束状に配列していた。免疫染色では抗平滑筋actin filament抗体陽性であった。電顕所見では細胞質内のmyofilamentやdense patchなど平滑筋由来の細胞の特徴を有し,不連続な基底膜やpinocytotic vesi—clesに乏しいことなどは悪性腫瘍細胞の所見とみなされた。本腫瘍は下眼瞼原発と推測され,眼球内容除去術との関連はないものと考えられた。

鼻性視神経炎が疑われた篩骨洞悪性リンパ腫の1例

著者: 田村周子 ,   藤井清美 ,   池田俊英 ,   井上新

ページ範囲:P.656 - P.659

 初期に鼻性視神経炎が疑われたが,組織学的に篩骨洞悪性リンパ腫と診断した25歳の男性の症例を経験した。篩骨蝶形骨洞炎の疑いのもとで,複視を主訴に当科を受診した。左視神経乳頭浮腫があり,鼻性視神経炎を疑い,抗生物質とステロイドの投与,さらに篩骨洞開放術を施行し,一時軽快した。その後,瞳孔異常,眼球運動障害,眼瞼下垂,眼球突出,顔面神経麻痺が出現した。再度内視鏡下篩骨洞生検により,悪性リンパ腫と診断した。化学療法および放射線療法を施行したが両眼視神経乳頭浮腫に至った。片眼の視神経乳頭炎に加えて多彩な脳神経症状がある症例には,副鼻腔の悪性リンパ腫も念頭におぐべ去である。

全身麻酔下でのフェニレフリン含有散瞳薬の結膜下注射による血圧変動

著者: 川村博久 ,   池田恒彦 ,   安田冬子 ,   内堀恭孝 ,   白井説子 ,   鄭勝之 ,   久富義郎

ページ範囲:P.660 - P.662

 全身麻酔下でのミドリンP®(0.5%フェニレフリンと0.5%トロピカミドの混合剤)の結膜下注射による血圧変動を,ミドリンM®(0.4%トロピカミド)と比較して30眼について検討した。ミドリンP®では,結膜下注射10分後に収縮期で平均22mmHg,拡張期で平均12mmHgの有意な血圧上昇を認めたが,ミドリンM®では収縮期,拡張期ともに6mmHg前後の血圧低下を認めた。また,高血圧の既往と血圧変動とのあいだには有意差はなかった。全身麻酔下でのミドリンP®の結膜下注射の際に,含有剤のフェニレフリンによって血圧上昇をきたすので,注意する必要があると考えられた。

安全で簡単な毛様溝縫着術の検討

著者: 渋木宏人 ,   新井純 ,   北島秀一 ,   石原淳

ページ範囲:P.663 - P.665

 後房レンズの毛様溝縫着術はさまざまな術式が報告されているが,術後無水晶体眼で角膜内皮細胞1000/mm2以上の50例53眼に対して,Lewisらの原法に準じ比較的容易な方法を試みた。術中毛様溝通糸時の出血を2例,術後脈絡膜剥離を2例認めたが,両者とも軽度で術後短期間で消失し術後視力に影響はなかった。本術式では硝子体切除を術終了前にレンズ上で必要最小限に行っただけであるが,網膜剥離など重篤な合併症は認めていない。また,臨床上問題となるほどのレンズの偏位や傾斜も認めていない。本術式による眼内レンズ毛様溝縫着術は,特殊な器械を必要とせず比較的容易で安全に行うことができ,術後経過も現在のところ良好である。

新たなる三次元アニメーションでみる健常角膜形状の変化

著者: 青山裕美子 ,   上野聡樹 ,   三好力

ページ範囲:P.667 - P.670

 角膜形状解析装置の表示法はカラーコードマップによる平面画像が主流であり,角膜形状変化を立体的にはとらえにくい。のみならずそのデータ解析は各症例ごとに一般的なテキストファイルに変換するため,データ解析には膨大な時間と労力を要する。そこで今回,膨大となった角膜形状データの作業効率を考え,より詳細な情報が得られる立体表示を可能とし,希望通りのデータ解析を短時間で行うことを目的として,topographic modeling system (TMS)固有形式のファイルをマッキントッシュコンピュータ上で一般的なテキスト形式に変換し,必要な指数を算出するプログラムを開発した。本プログラムにより多量のデータをmagnet optical disk (MO)を用いて直接的にかつ効率的に解析することが実現化され,さらにデータの立体表示や疑似アニメーションにより角膜形状変化を視覚的かつダイナミックに把握することが可能となった。それによりカラーコードマップによる平面画像では認識されなかった角膜形状の変化が明らかになった。健常眼においても角膜は時々刻々と立体的に形状変化をし,その変動は測定誤差の範囲を超えて認められることが立体表示で把握することができた。また角膜形状は両眼性に変動しているという所見も得られた。本プログラムを用いれば,多量の角膜形状データが効率的に解析でき,必要な指数の算出が可能となり,今後のさらなるデータ解析の一助となりうると考えられる。

医療機関とリハビリテーション諸機関との連携における問題点

著者: 吉田美直子 ,   田中恵津子 ,   守田好江 ,   平形明人 ,   樋田哲夫 ,   藤原隆明

ページ範囲:P.671 - P.674

 Quality of Lifeの考え方が浸透しつつある今日,眼科医療におけるリハビリテーション(視障リハ)が重要視され始めている。しかしながら,医療機関からリハ訓練施設へ患者を受け渡すシステムは,いまだ確立されていないのが現状である。今回,実際に患者をリハ施設に受け渡しする際に経験した問題点を検討した。症例は,入所による視障リハ訓練を希望した3例であった。主要な問題点は,入所までの待機期間が長く,その間の待機場所がないこと,重複障害者のための施設が少ないこと,施設入所までの手続きが複雑であることであった。対策として,視障リハの早期介入,文書による情報交換,ロービジョン外来の設置および担当者の養成が必要と思われた。

今月の表紙

原田病の53歳女子の発症3日目所見

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.451 - P.451

 原田病の毛様体の断面。53歳女子の発症3日目の所見で,超音波顕微鏡UBMのBモードで観察したもの。図の左端に角膜と虹彩根部があり,前房が浅く,狭隅角である。図の大部分を占めている毛様体と周辺部脈絡膜は,強膜から剥離し,さらに層間分離のために約5層に分かれてタマネギ様に見える。原田病の初期では,後極部に多発する漿液性網膜剥離が特徴的な所見であるが,超音波顕微鏡で検索すると,かなりの高頻度で毛様体と周辺部脈絡膜に漿液性剥離ないし浮腫があることを示す典型例である。

連載 今月の話題

放射状角膜屈折矯正手術の現況

著者: 清水公也

ページ範囲:P.459 - P.462

 屈折矯正手術は,今後発展する領域と考えられ,中でも角膜への手技であるRK・PRK・LASIK等が有望視されている。コスト/パフォーマンスの点からも,mini-RKとエキシマレーザーPRK・LASIKはともに広く受け入れられるものと考えられる。

眼の組織・病理アトラス・114

眼内髄(様)上皮腫

著者: 猪俣孟 ,  

ページ範囲:P.464 - P.465

 眼内髄(様)上皮腫intraocular medulloepith—eliomaは二次眼胞secondary optic vesicleすなわち眼杯optic cupから生じる胎児性腫瘍である。腫瘍細胞は神経管原基の髄質上皮に相当する細胞medulloepitheliumからなる。眼内髄上皮腫は,毛様体上皮細胞(図1),網膜色素上皮細胞,グリア細胞,硝子体などの正常眼組織を構成する成分からなる純粋な髄上皮腫“pure”medulloepith—eliomaと,正常眼球には存在しない硝子軟骨(図2),脳(図3),横紋筋などを腫瘍内に含む奇形髄上皮腫teratoid medulloepitheliomaに分類される。いずれも良性と悪性がある。前眼部に発生するものが多く,腫瘍細胞が毛様体上皮類似の特徴をもち,網目状に配列する傾向がある。それで,ギリシャ語の網を意味するδικτνυにちなんだdiktyomaの別名もある。髄上皮腫が視神経乳頭付近から発生する場合があり,これは視茎opticstalkから出たものである。胎児型髄上皮腫em—bryonal medulloepitheliomaと,成人型髄上皮腫adult medulloepitheliomaに分けるものもあるが,この分類は,髄上皮腫という言葉そのものが胎児性を意味するのに,それを胎児型と成人型に分けている点で矛盾があり,適当でない。
 眼内髄上皮腫は主として5歳前後の幼児の片眼に発生する。男女間や種族間で発生頻度に差はない。臨床症状としては,眼痛,視力低下および白色瞳孔である。前房出血の繰り返しや緑内障を起こして発見されることもある。多くの例は網膜芽細胞腫の診断で眼球が摘出され,術後の病理組織検査ではじめて本症と診断される。

眼科手術のテクニック・88

涙道ブジーの挿入法(probingの方法)

著者: 栗橋克昭

ページ範囲:P.467 - P.470

はじめに
 涙道閉塞のほとんどはprobing (ブジーの挿入),direct silicone intubation (DSI),涙嚢鼻腔吻合術(DCR),あるいはそれに準じる術式で治癒するが,それぞれ単独に,あるいはそれらを組み合わせた術式で行う。1995年8月に刊行された『眼科診療プラクティス19』(初版)の中の筆者の論文1)において「涙道閉塞のほとんどはprobing(ブジーの挿入)で治癒する」と記載されているが,これは不十分な校正によるもので,上記のように訂正すると同時に深くお詫びします。prob—ingでほとんど治癒するのは先天性鼻涙管閉塞のときだけである。今回は,涙道手術の中で最も重要なテクニックのひとつであるブジーの挿入法,すなわちprobingについて述べてみたい。

眼科の控室

散瞳する前に

著者:

ページ範囲:P.676 - P.676

 外来で新患の患者さんを診るときに,すぐに散瞳する医師がいます。一般に若いドクターほどその傾向があるようです。もちろん眼底をしっかり見るには散瞳も必要ですが,その前にしてほしいことがいくらもあります。
 まず第一には,矯正視力をきちんととってください。遠方だけでなく,視力がでない人の場合には,近方視力も当然必要です。

鼎談

日眼100年・草創期の若き群像—日本眼科学会百周年記念講演の聞きどころ

著者: 塚原勇 ,   三島済一 ,   宇山昌延 ,   編集室

ページ範囲:P.680 - P.688

 日本眼科学会は1987年(明治30年)に創立,第1回学会の開催以来,この5月の総会で第100回を数える。日眼では百周年記念行事の一環として,きたる5月18日の午後,三島済一氏の「日本眼科学会創立の頃の日本の眼科」,塚原 勇氏の「中心性漿液性網脈絡膜症と日本の眼科」の二つの記念講演を予定している。
 歴史はもちろん,疾病研究の進歩にも造詣の深いお二人に,本誌編集委員の宇山昌延氏が講演にさきだち,かくれたエピソード,ご苦労話などその聞きどころを伺っていただいた。(誌面の都合で,お二人のお話のうち,かなりの部分を割愛せざるをえなかった。本番の記念講演をご期待下さい。)

臨床報告

二重プルキニェ眼位計測法によるphoria adaptationの機能評価

著者: 長谷部聡 ,   大月洋 ,   田所康徳 ,   渡辺聖 ,   岡野正樹 ,   河野玲華

ページ範囲:P.690 - P.694

 Phoria adaptationの働きを明らかにするため,二重プルキニェ眼位計測法で,正常者と斜視術後症例計28名を対象に,輻輳刺激に対する融像除去眼位の変化を測定した。刺激時間は240秒間,刺激方法としては,1)12prism diopters基底外方プリズム,2)片眼遮閉と片眼−3Dレンズ,3)両眼−3Dレンズ,4)片眼遮閉(対照)を用いた。融像除去眼位の平均(±標準偏差)変化量は正常者と斜視症状で差はみられず,それぞれ2.6±1.2,1.3±0.8,−0.3±0.5,0.3±0.5度であった。各輻輳刺激に対するphoria adaptationの応答の違いは,Schorの制御工学的神経モデルを支持する結果であった。

梅毒性視神経炎の2例

著者: 今澤光宏 ,   神戸孝

ページ範囲:P.699 - P.703

 両眼の乳頭浮腫と視野障害を主症状とする梅毒性視神経炎が,36歳と48歳の女子2例に発症した。梅毒血清反応陽性と髄液細胞数増加から,梅毒性髄膜炎に伴う視神経炎と考えられた。1例では乳頭浮腫が高度で片眼の視力低下があったが,他の1例では視力低下がなく,梅毒性の視神経鞘炎と解釈された。2例とも駆梅療法で,視機能が改善し,乳頭浮腫が消退した。

網膜打撲壊死3例のインドシアニングリーン螢光眼底造影所見

著者: 三浦嘉久 ,   上野眞 ,   三浦恵子 ,   増田光司

ページ範囲:P.704 - P.710

 インドシアニングリーンビデオ螢光眼底造影indocyanine green video angiography (IA)を施行した網膜打撲壊死の3例を経験した。そのIA所見では,病変部局所の脈絡膜動脈の閉塞ないしは痙縮,および脈絡膜毛細血管板の閉塞がみられた。感覚網膜・網膜色素上皮の障害のみならず,脈絡膜外層におよぶ循環障害が証明されたと考えられた。網膜打撲壊死においては,脈絡膜の循環動態を把握するためにIAは有用な検査と思われる。

増殖性硝子体網膜症に対する硝子体手術成績

著者: 石田政弘 ,   竹内忍 ,   江畑理佳 ,   中原正彰 ,   塚原逸朗 ,   清原尚 ,   葛西浩

ページ範囲:P.711 - P.716

 最近2年3か月間に経験した増殖性硝子体網膜症77例79眼について硝子体手術成績を検討した。初回手術で61眼(77%)が復位し,最終的には74眼(94%)が復位した。初回手術非復位(18眼)の原因としては再増殖が11眼と最も多かった。再増殖の予防のため術中,塩酸ダウノルビシンを9眼10回に使用し7回で有効であった。術後0.1以上の視力を得た例は46眼(58%),0.05以下は26眼(33%)であり,視力予後では比較的良好な例が多数みられた。最終視力が指数弁以下の例は,非復位であった例が4眼,網脈絡膜萎縮および視神経萎縮による例が4眼,低眼圧による例が3眼であった。

5年間のHbA1c値の推移と糖尿病網膜症の発症率

著者: 湯口琢磨 ,   海谷忠良

ページ範囲:P.717 - P.722

 初診時,網膜症を認めない187例のインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)患者のHbA1c値を5年間測定し,網膜症の発症率をHbA1c値の推移パターン別に算出し,罹病期間,治療内容の影響について検討した。推移パターンは高値持続型,増加型,変動型,減少型,低値安定型に分類した。罹病期間の長さにかかわらず,高値持続型,増加型,変動型での発症率は,低値安定型と比較し有意に高く,特に罹病期間が長期のものほど,高値を示した。また,治療内容にかかわらず,高値持続型,増加型,変動型で高い発症率を示したが,インスリン群では,低値安定型でも高い発症率を示した。以上から,特に罹病期間が長くインスリン未使用治療のものほどHbA1c値を長期間低値に抑えることが,網膜症発症防止に重要であり,5年間のHbA1c値の推移パターン分類は,NIDDM患者の網膜症発症率の予測に有用であることが示唆された。

カラー臨床報告

広範な網膜剥離を伴ったvon Hippel病の1例

著者: 村山耕一郎 ,   高綱陽子 ,   津山嘉彦

ページ範囲:P.695 - P.698

 片眼性のvon Hippel病と考えられた孤立性網膜血管腫に広範な滲出性剥離と牽引性網膜剥離を伴った31歳男子を報告した。硝子体手術,membrane peeling,輪状締結術を施行後,色素レーザーで2〜3乳頭径大の血管腫に光凝固治療を行った。網膜は復位し,血管腫は縮小したが,黄斑部に二次的に沈着した硬性白斑のため視力は0.1にとどまった。術前より存在した滲出性網膜剥離の部位では,術後も視野の回復はなく,予後を左右するものとして術前の滲出性網膜剥離の程度が重要な因子の一つと考えられた。

連載最終回

前房隅角構造の研究

著者: 瀬川雄三

ページ範囲:P.723 - P.726

エラスチンの究明
エラスチンの局在を追って
 ご存知のとおり線維柱組織内のいわゆる弾性線維は,ブルッフ膜や篩状板に存在するものとは趣きを異にするため,いまなお弾性様線維(elastic like fiber)と呼ばれたりしております。そこで免疫電顕的手法を用いてエラスチンが局在しているのは線維柱組織のなかのどの部位なのかを観察することにしました。はじめてその電顕像をみたときには,金粒子の局在部位がelastic like fiberと呼ばれていた線維のなかの細線維の存在しない空白部分に見事に限局しているのに驚嘆しました。昔アデノウイルスの結晶状配列を結膜上皮細胞の核内に認めた時のような感動を覚えました。またこれがエラスターゼ処理により消失することも確認しました。これらのことにより,線維柱組織内にも確かにelastic like fiberではなく弾性線維が存在することが実証されました。

米国の眼科レジデントプログラム

8.マンハッタン眼科耳鼻咽喉科病院

著者: 綾木雅彦

ページ範囲:P.728 - P.729

眼科の紹介
 研修プログラムは,眼科部長と選出または契約した教育担当医からなる委員会とが協力して運営される。レジデント教育主任と数名の非常勤のレジデント指導医が毎年任用されている。当科は200名以上の眼科医を擁し,全米で最大規模である。当院ではほとんどのスタッフの手術に入る機会があり,レジデントが自分の患者の手術を同じスタッフに依頼することもできる。当院のスタッフの雇用条件として研修に時間をさかなければならないことになっており,レジデントやフェローは文字どおり何十人もの術者に接することができる。スタッフはさらに講義や研究の指導や専門外来での診療といったかたちで教育に寄与する。

第49回日本臨床眼科学会専門別研究会1995.11.10宇都宮

画像診断

著者: 菅田安男

ページ範囲:P.730 - P.731

はじめに
 昭和51年の超音波グループディスカッションから数えて今回が第20回にあたる。超音波診断の標準化と普及を目的に計測,ドップラー法,三次元表示法,RF信号の利用などに足跡を残しつつ,CT,MRIの普及を受けて昭和60年画像診断と名称を変更,平成5年よりGDを専門別研究会と呼ぶことに決まった。超音波研究はときに装置に頼りがちになり山も谷もあったが,演題を通覧してみると国産装置の沈滞を経て,コンピュータの発達に支えられた装置の改良とともに,IOL手術の日常化による急速な超音波診断装置の普及と,日常診療への浸透の歴史を読みとることができる。この間を支えた人々は山本,太根,沢田,金子,林,江見のほか多数にのぼり,毛様体剥離検出の飯島が重要で,眼動静脈系の画像化を紹介した岡部が注目された。第14回SIDUOの東京開催も記憶に残る。他のGDに入りにくい機器診断,コンピュータの利用も本会に持ち込まれたがその時々に新鮮な雰囲気を感じることができておもしろかった。SLO,CCDカメラの出現を待つ眼内所見めTV化などは,光量不足をかこっていた昭和50年代を思うと今昔の感をまぬがれない。最近の10年はCT,MRIを加えてこれまで希薄であった臨床診断が中心課題となり,参加する会員の範囲も大きく広がった。中尾,柿栖,本村,能勢の新しい強調画像法の導入,普及を計る指導的な役割に負うところが大きい。1回限りの発表が多いなか白内障の定量評価を続ける坂本,神経眼科の臨床にPETを駆使して脳内代謝の可視化を図る清沢も貴重な存在である。これまでの全体の流れがとらえられるよう,日眼100年誌に項目と発表者名を網羅的に記しておいた。ME学会,眼窩研究会と共通部分を分かちながら,臨床から遊離せず多岐にわたる領域をカバーできたのは画像診断と名称変更を提案した山本の慧眼による。20年間を振り返り新たな発展を期待して,画像診断の三つの柱である超音波,CT,MRIにつきレビューとこれからを展望する講演をお願いした。この節目に二人続いた超音波専門の世話人を,視野の広い臨床診断の指導者である中尾雄三先生に交代していただいた。学会組織をとらないで運営してきた本研究会のありかたと,毎年世話人会で話題に上る臨床眼科学会での位置づけなど,これから考えなければならない問題も残している。これらをともに考え,絶えず新しい試みを問う活発な画像診断研究会の発展を希い,会員諸兄の参加,支援をお願いするものである。

テクノストレス眼症・眼精疲労

著者: 加藤桂一郎

ページ範囲:P.732 - P.733

 1995年11月10日より3日間にわたり,第49回日本臨床眼科学会が宇都宮市において開催された。主会場は栃木県総合文化センターであり,従来のGroup—Discussionが「専門別研究会」という形で学会初日の午前に14会場において同時進行形式で行われた。「テクノストレス眼症・眼精疲労」のセクションは同会場の3階・音楽練習室に設定され,世話役を福島県立医科大学が担当,「一般講演」4題(座長:木下 茂 京都府立医大教授),「基調講演」1題(座長:西信元嗣奈良県医大教授),「話題提供」3題(座長:梶田雅義福島医大講師)という形式で進められた。進行にしたがってそれらの内容を概説する。

地域予防眼科

著者: 赤松恒彦

ページ範囲:P.734 - P.735

 第49回地域予防眼科研究会は,世話人代表小暮文雄教授のこ発案で,地域医療,失明予防関係で世界的に活躍している,ジョンスホプキンス大教授のソマー先生,WHO失明予防プログラムで紺山先生の後任として働かれているネグレル先生,現在JICAのエイズプログラムのプログラム長としてタイで活躍しておられる紺山先生にご講演を依頼した。
 第1席ソマー教授が「Epidemiology and the controlof blinding ophthalmic disease」の題で講演された。
 眼科医が一般住民の生活の質的向上に寄与できることは眼科疾患の発生および罹患率の低下のために努力することである。それは科学的な技術と訓練とによって成し遂げられる。しかしこの技術および訓練が経済的に貧困な地域では全て足りない。中欧および東欧では技術はあるが訓練に足る施設に乏しい。日本や米国の場合は両方ともあるが,それが有効利用されていない。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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