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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科50巻9号

1996年09月発行

雑誌目次

今月の表紙

汎網膜光凝固実施後の糖尿病網膜症

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.1554 - P.1554

 表紙に掲げたのは,41歳男子の糖尿病網膜症に対して汎網膜光凝固を行った2か月後の螢光眼底造影所見。色素レーザー(590nm)を使い,811発の凝固を加えてある。
 このページに示すのが,同じ眼底の光凝固前の所見。視力は1.5であるが,眼底の中間周辺部に新生血管が多発している。さらに,より周辺の眼底には,網膜の血管床閉塞が多発しており,これが血管新生に先行した誘因であると推定される。光凝固はこの無血管部位を主な目標として行った。まだ若干の新生血管が残ってはいるが,汎網膜光凝固が増殖糖尿病網膜症に著効を示した代表例である。

連載 今月の話題

眼科疾患の遺伝子治療について

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.1555 - P.1559

 遺伝子治療とは,遺伝子導入により細胞の性質を変えて疾患の治療をするという革命的な治療法である。この治療法は,長年にわたって蓄積されてきた膨大な基礎研究の成果を,臨床医学に応用することを可能にする方法として,現在脚光を浴びている。眼科領域においても,この治療法についての研究が進められている。本稿では,この治療法に関する眼科領域の研究の現状と,近い将来の臨床応用の可能性について述べる。

眼の組織・病理アトラス・119

緑色腫

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1560 - P.1561

 骨髄性白血病の初発症状として,末梢血や骨髄にはまだ異常がみられない時期から眼窩や眼瞼に骨髄幹細胞や未熟顆粒球からなる白血病細胞が浸潤して,眼球突出や眼瞼の腫脹がみられることがある。これを顆粒球性肉腫granulocytic sarcomaと呼ぶ。腫瘤の割面が緑色を帯びてみえることから緑色腫chloromaともいう。緑色腫は,白血病細胞内に含まれるプロトポルフィリンの代謝産物やミエロペルオキシダーゼmyeloperoxidase (別名:verdoperoxidase)の分解産物のためである。眼球周囲は白血病細胞浸潤の好発部位で(図1),眼球突出は10歳前後の小児白血病の重要な臨床所見のひとつである。眼症状が出現してから数か月ないし1年以内に血液像に白血病としての異常が発見されることが多い。血液像に異常が認められない時期では,眼窩悪性リンパ腫や平滑筋肉腫との鑑別が必要である。
 顆粒球性肉腫(緑色腫)の病理組織所見として,腫瘍は分化度が著しく低い骨髄幹細胞や未熟顆粒球によって構成されている。腫瘍細胞は円形で大型の核を有し,核の辺縁がクロマチンに富む。核小体は明瞭で,細胞分裂も高頻度に認められる(図2)。細胞質は核に比較して乏しく,細胞内の顆粒も小さくて少ない。分化がすすむにつれて,細胞質内に多数の顆粒が存在するようになる。これらは好酸性または好塩基性顆粒で,顆粒内にはライソゾーム酵素が含まれている。腫瘍細胞の細胞質にはアゾ色素が存在する。Naphthol AS-D chlor-oacetate esteraseを用いたLeder染色で,細胞質のエステラーゼ活性を証明すれ,ば,腫瘍細胞は未熟顆粒球から成る顆粒球性肉腫であると診断できる(図3)。電子顕微鏡で観察すると,腫瘍細胞内の顆粒は限界膜に包まれ,電子密度の高いものとやや低いものがある(図4)。

新しい抗菌薬の上手な使い方・5

3.カルバペネム系薬(つづき)

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.1590 - P.1590

3)メロペネム
meropenem (MEPM),商品名:メロペン
眼科適応:全眼球炎

眼科手術のテクニック・93

粘弾性物質を用いる涙小管断裂再建術

著者: 矢部比呂夫

ページ範囲:P.1596 - P.1597

鈍的外傷で涙小管断裂が起こりやすい理由
 転倒や殴打などの鈍的外傷に際して,涙点から鼻涙管開口部までに至る涙液排出システムのうち,特に涙小管が断裂しやすい理由は眼瞼の解剖学的特性による。つまり,眼瞼後葉を構成する強靱な瞼板は,内眼角部において同様に強靱な内眼角靱帯に移行するが,この移行部は比較的脆弱であるため,鈍的外傷の際に眼瞼を引きちぎるような力が働くと,高頻度に涙点の鼻側で眼瞼裂傷が発生する。その結果,ここに含まれる涙小管が高頻度に断裂する。特に額部や鼻根部に保護される上眼瞼に比して,下眼瞼は外力に曝される危険が多く,下涙小管の損症の頻度が高い。

臨床報告

走査電子顕微鏡によるアトピー白内障の前嚢下混濁の観察

著者: 河合憲司 ,   塩谷滝雄 ,   恩田恵

ページ範囲:P.1567 - P.1570

 手術時に採取したアトピー白内障12眼の前嚢皮質混濁部位を走査電子顕微鏡で観察した。年齢は14〜38歳,平均26歳であった。全例で前嚢自体には病的所見はなく,線維性偽化生と考えられる水晶体上皮再生の配列の乱れ,層状化,変性物質の蓄積があった。22か月間眼内にあり,摘出された眼内レンズに付着した組織に,水晶体上皮細胞由来の線維芽細胞様細胞の増殖による混濁が観察され,アトピー白内障での線維性偽化生と酷似していた。

Mikulicz症候群を呈したmantle zone lymphomaの1例

著者: 牛山佳子 ,   南洋一 ,   松井淑江 ,   大野新治 ,   牛山理

ページ範囲:P.1571 - P.1574

 57歳男性が,半年前からの両眼眼瞼下垂を主訴として受診した。その2か月前から発熱と呼吸困難があり,さらに8年前から耳下腺と顎下腺の腫脹があった。両眼瞼の涙腺部と唾液腺部が腫脹し,結膜円蓋部に乳頭様の小胞があり,全身のリンパ節が腫大していた。結膜生検と気管枝鏡による肺生検の病理像は,diffuse medium-sized cell type, intermediate lymphocytic lymphoma subtypeであった。免疫学的表現型は,CD5(+) CD10(−)であり,染色体はt (11;14)であった。これらからmantle zone lymphomaと診断された。副腎皮質ステロイド製剤と複数の抗癌剤の全身投与で,全身状態と眼症状は寛解した。

Colletotrichum gloeosporioidesによる角膜真菌症

著者: 山本憲明 ,   加藤良枝 ,   石橋康久 ,   松本忠彦

ページ範囲:P.1575 - P.1578

 82歳男子が6か月前に右眼に白内障手術を受け,以後ステロイド剤を点眼していた。また,2年前から骨髄異形成症候群による汎血球減少症に対して薬物投与を受けていた。右眼に充血と眼痛が生じて当科を受診した。初診時の視力は0.6で,角膜に楕円形で白色の病巣があり,周囲の上皮は欠損していた。角膜擦過物に有隔壁性の菌糸が証明され,Colletotrichum gloeosporioidesと同定された。ピマシリンの点眼とフルコナゾールの点眼と全身投与で角膜病変は治癒した。知る限りでは,本菌種によるヒト感染症は世界で3例目である。

写真解析によるKrimsky法の検証

著者: 古瀬尚 ,   大月洋 ,   長谷部聡 ,   岡野正樹 ,   田中剛 ,   田所康徳 ,   渡辺聖

ページ範囲:P.1581 - P.1584

 内斜視を有する28名の乳幼児を対象に眼位を撮影した写真をパーソナルコンピュータ画面上に取り込み眼位ずれを計測した。その値にHirschberg比を乗じたものを写真解析による測定値とし,これとKrimsky法にて得られた測定値を比較した。両者の平均値に有意差はないものの,平均値対差で求めた両者の測定値が一致する95%信頼区間は±13.5(度)であった。個々の症例で見ると測定結果にばらつきをがみられた。写真解析法は乳幼児のように固視不良例や検査に協力の得られない症例では,その測定誤差のために再現性は低下する傾向にあるものの,Krimsky法の補助的な測定法として取り入れられてもよい手法と思われた。

自動非接触型眼圧計CT−50の臨床評価

著者: 高橋信夫 ,   村山禎一朗 ,   小田円

ページ範囲:P.1587 - P.1589

 人間ドック929眼の眼圧を自動非接触型眼圧計CT−50(トプコン社)により連続3回測定し,ゴールドマン圧平眼圧計(GAT)の計測値と比較,検討した。GAT平均値14.7±3.4mmHgに対して,CT−50の平均値は15.2±4.0mmHgであった(p<0.01)。CT−50による3回計測値の91%は眼圧変動幅3mmHg以内にあった。GAT値との相関回帰式はCT−50=0.870×GAT+2.40で,相関係数は最高で0.736(平均値)となり,既報の手動非接触型眼圧計との相関係数より低かった。

網膜動脈閉塞症と頸動脈病変

著者: 大野尚登 ,   村田恭啓 ,   木村和美 ,   橋本洋一郎 ,   稲田晃一朗 ,   根木昭

ページ範囲:P.1599 - P.1601

 網膜中心動脈閉塞症および網膜動脈分枝閉塞症患者15例に対して,頸動脈超音波検査を施行し,頸動脈病変との関係について検討した。15例中12例の患側頸動脈に粥状硬化による閉塞や狭窄が検出され,頸動脈病変との関連が強く示唆された。網膜動脈閉塞症では,頸動脈病変の検査が必要であり,非侵襲的かつ簡便な頸動脈超音波検査が臨床的に有用である。

インドシアニングリーン螢光眼底造影を施行した白血病性網膜症の1例

著者: 丸山耕一 ,   中尾雄三 ,   松本長太 ,   窪田光男 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.1603 - P.1608

 慢性骨髄性白血病の19歳男性の両眼に,乳頭浮腫,網膜静脈の拡張蛇行,Roth斑を伴う網膜出血があった。フルオレセイン螢光眼底造影で,乳頭の螢光染と周辺部眼底の色素上皮障害部位に一致して過螢光斑があった。インドシアニングリーン(ICG)螢光眼底造影で,造影初期から周辺部眼底に過螢光点が多発し,色素上皮の障害部位には低螢光斑があった。造影後期には,検眼鏡的またはフルオレセイン螢光眼底造影で異常がない部位に小円形の低螢光部が出現した。治療による眼底所見の改善とともに,ICG螢光眼底造影では,低螢光斑の縮小,過螢光点の数の減少,小円形の低螢光部の消失があった。ICG螢光眼底造影で見られたこれらの所見は,白血病細胞の浸潤による脈絡膜の病的変化を反映していると考えられた。

上下斜視に対するプリズムアダプテーションテスト

著者: 岡野正樹 ,   岡野美子 ,   大月洋 ,   長谷部聡 ,   古瀬尚 ,   田中剛 ,   田所康徳 ,   渡辺聖

ページ範囲:P.1611 - P.1614

 40例の上下斜視患者を対象に,術前のプリズムアダプテーションテストの有効性を検討した。21例はプリズムアダプテーションテストで測定された斜視角をもとに手術を施行された。19例は対照群としてプリズム交代カバーテストでの斜視角をもとに手術を施行された。プリズムアダプテーションテスト施行群は術後眼位が全例10Δ以内におさまっており,本法の有効性が示された。

超音波マイクロスコープによる小児ぶどう膜炎の経過観察

著者: 斉藤久美 ,   大黒浩 ,   清水美穂 ,   丸山幾代 ,   関根伸子 ,   鈴木純一 ,   勝島晴美 ,   中川喬

ページ範囲:P.1615 - P.1618

 超音波バイオマイクロスコープ(以下UBM)を用いて,炎症の程度を経時的に観察できた9歳女児の前部ぶどう膜炎を報告する。左眼のぶどう膜炎発症2週間後に当科を初診し,豚脂様角膜沈着物,高度な前房炎症,虹彩後癒着と視神経乳頭の充血を認めた。眼底周辺部は透見不能で,UBMを用いて毛様体の肥厚を認めた。ステロイド剤内服により前房の炎症は軽減した。半年後,左眼の併発白内障も進行し,前房炎症が再燃した。UBMで左眼の毛様体の肥厚に伴う水晶体と虹彩の前方移動が認められた。アトロピン点眼とベタメタゾンの結膜下注射により,前房炎症と毛様体肥厚が軽減した。UBMは前部および中間部のぶどう膜炎の経過観察に有用と思われた。

中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィーの長期観察例

著者: 岡本史樹 ,   木内貴博 ,   武井一夫 ,   本村幸子

ページ範囲:P.1621 - P.1624

 約7年間の長期経過観察が可能であった中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィーの1例を経験した。症例は35歳の女性で,両眼底に中心窩を含む黄斑部を中心とした境界明瞭な類円形の孤立性網膜色素上皮の萎縮病巣がみられた。螢光眼底造影では,window defectによると考えられる病変部に一致したびまん性の不均一な過螢光を認め,脈絡膜の中大血管も一部造影されていた。矯正視力は右0.7,左0.9と軽度に障害され,また約5°の中心暗点が両眼にみられたが,photopic ERGは正常であった。約7年間の経過観察中に,黄斑部病巣は両眼とも主として耳側方向に拡大し,矯正視力は両眼とも0.15に低下し,中心暗点は約8°に拡大,photopic ERGでの振幅の減弱,後天性色覚異常が出現した。これらの所見より,本症の病像の進展様式,視機能障害と眼底病巣の経時的変化について考察した。その結果,中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィーの進行速度は比較的緩徐であると考えられた。また,本疾患の病像の進展様式の解明のためには,さらに長期にわたる臨床経過の追跡が必要であると思われた。

片眼性加齢性黄斑変性症の僚眼のインドシアニングリーン螢光眼底造影所見

著者: 石川克也 ,   米谷新

ページ範囲:P.1627 - P.1631

 脈絡膜新血管がある片眼性の加齢性黄斑変性39症例に対し,インドシアニングリーン(ICG)螢光眼底造影を行い,僚眼所見を検討した。その結果,造影後期において境界不明瞭な過螢光領域が32眼82%に観察された。この過螢光領域内を走行する脈絡膜静脈は,造影中期に高輝度を示し,拡張や血管壁の不整が28眼72%にみられた。血管壁染が観察される症例もあった。これらは脈絡膜血管の透過性亢進に伴う脈絡膜の異常組織染を示唆する所見と推測された。ICG螢光造影により加齢性黄斑変性の僚眼では,検眼鏡的に異常のない部位でも脈絡膜病変がすでに,subclinicalなレベルで進行していることが明らかとなった。

毛様体嚢胞の超音波生体顕微鏡観察

著者: 国松志保 ,   新家真 ,   稲用和也

ページ範囲:P.1633 - P.1638

 超音波生体顕微鏡(UBM)で,正常人92例156眼の毛様体を観察した。10歳から30歳代の若年群88眼,60歳から80歳代の高齢群68眼である。UBM検査では,角膜輪部の接線方向に8方向で全周をスキャンした。嚢胞が疑われた場合には子午線方向でも検索し,両方向で管腔形成があるものを嚢胞とした。毛様体嚢胞は若年群で69%,高齢群で33%に発見され,有意差があった(p<0.01)。毛様体嚢胞の頻度は,性と屈折には関係がなく,下側に最も多く,下耳側と耳側がこれに続いた。鼻側,上鼻側,上側には少なかった。嚢胞のある部位と各方向あたりの数には,左右眼の間に高い相関があった。

カラー臨床報告

Meesmann角膜上皮変性症の1家系

著者: 宮尾洋子 ,   石橋康久 ,   岡田克樹 ,   門野裕子 ,   太刀川貴子 ,   宮永嘉隆

ページ範囲:P.1563 - P.1566

 13歳の女子が両眼の点状表層角膜症のため,紹介により受診した。矯正視力は両眼とも0.8であった。角膜上皮内にびまん性の小空胞が多数あり,インプレッションサイトロジーでPAS陽性の角膜上皮細胞があった。これにより,Meesmann角膜上皮変性症と診断した。角膜内皮には異常はなかった。10歳の弟と50歳の母親にも同様な角膜上皮の変化があり,同疾患と診断した。本疾患の報告は,本邦では5家系6症例だけである。本疾患が点状表層角膜症として発症する可能性があることを今回の家系は示している。

眼科の控室

ふたつめの病気

著者:

ページ範囲:P.1592 - P.1592

 眼の病気は1つだけとは限りません。
 ときにあるのが,最近の視力障害が主訴で受診された患者さんに白内障を見つけ,「これが原因」と決めてしまったところ,実際には網膜剥離があったという例などです。また,古い網膜剥離では低眼圧や虹彩炎の症状がでることがあり,虹彩炎だけに気をとられて網膜剥離を見落とす事例もあります。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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