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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科51巻4号

1997年04月発行

雑誌目次

特集 第50回日本臨床眼科学会講演集(2) 学会原著

特発性黄斑円孔に対する硝子体手術後のアンケート調査

著者: 田爪志保 ,   直井信久 ,   中崎秀二 ,   永友武郎 ,   澤田惇

ページ範囲:P.469 - P.472

(24M-1) 硝子体手術を行った片眼性特発性黄斑円孔患者61例について自覚症状のアンケート調査を実施し,51例で回答を得た。術前の自覚症状としては変視症(75%),中心暗点(69%),視力の低下(69%)が多かった。これらの症状は術後各々72%,64%,62%で.自覚的に改善した。術前に遠近感や立体感の低下を自覚したものは約30%と少なかった。術後の自覚症状が「大幅に改善した」と回答したものは,発症から6か月未満の新鮮例や円孔サイズ600μm未満の円孔や術後視力0.6以上の症例に多かった。手術を受けて良かったとする満足度は88%であった。

ステージ1b黄斑円孔に対する予防的硝子体手術の成績

著者: 荻野誠周

ページ範囲:P.473 - P.475

(24M-4) ステージ1b黄斑円孔36例36眼に対して硝子体手術を行った。黄色輪内部の網膜萎縮が軽度な21眼(黄斑円孔の僚眼を11眼含む)には後部硝子体剥離手術を,萎縮の強い15眼(黄斑円孔の僚眼を7眼含む)には後部硝子体剥離手術と,残存後部硝子体膜の掻爬およびガスタンポナーデを行った。術後12か月までに黄斑円孔を生じた例はなく.全例,視力は術前と同じか改善しており,0.7以上であった。

初期段階で後部硝子体剥離が生じ自然治癒した特発性黄斑円孔

著者: 栗原かすみ ,   石橋達朗

ページ範囲:P.476 - P.480

(24M-5) 特発性黄斑円孔の初期段階で中心窩硝子体剥離が生じた7例8眼の網膜の変化を走査レーザー検眼鏡を用いて観察した。初診時に中心窩直前の半透明膜状混濁や網膜の嚢胞状変化がみられた。経過中に4眼で後部硝子体剥離(posterior vitreous detachment:PVD)を生じ,他の4眼ではPVDは生じなかった。PVDが生じた4眼はPVD後平均7.3か月の経過中に2眼で黄斑の初期病変に若干改善傾向がみられたが.2眼では初診時所見と変化なかった。中心窩硝子体剥離のままPVDが生じなかった4眼は黄斑部病変に改善傾向はみられなかった。黄斑円孔が自然治癒するには少なくとも1年以上の経過を要する可能性がある。また中心窩硝子体剥離のみでは黄斑部の強い牽引は解除されても完全には牽引が消失していないことが考えられた。

下耳側静脈閉塞症のレーザー治療と視力予後

著者: 西山功一 ,   戸張幾生

ページ範囲:P.481 - P.484

(24D-9) 色素レーザー治療を行った下耳側静脈閉塞症87眼について以下の結果を得た。87例の平均年齢は64.1歳で,58例67%に高血圧の合併をがあった。発症からレーザー治療までの期間による差は,早期に治療したほうが視力改善率は良好であった。若年者のほうが,視力の改善率が良好であった。黄斑部の出血の程度による視力の予後には差はなかった。黄斑部の浮腫の程度が強いほど視力改善率は高い傾向があった。中心窩周囲毛細血管網の障害が半周以上の例で視力の予後が不良であった。術前矯正視力不良群は,術後の改善率が50%前後であり,悪化例は少なかった。術前矯正視力良好群では,術後も視力が維持され.改善される例が多かった。

多局所網膜電図の応答と視力の相関

著者: 森敏郎 ,   加藤千晶 ,   中島理子 ,   李勇

ページ範囲:P.485 - P.488

(24C1-11) 健常者6名6眼(平均年齢29.1±3.4歳)と白内障患者8名14眼(平均年齢65.0±7.2歳)を対象として.多局所網膜電図(multifocal electroretinogram:MERG)の陽性波と視力の関係を検討した。眼鏡箔で健常者の視力を0.1〜0.3に低下させてMERGを記録すると,中心窩(Ring#1)と中心窩2.7°以内(Ring#2)の応答はいずれも有意に低下した(p<0.01,p<0.05)。白内障眼は健常者と比較してRing#1とRing#2のいずれの振幅も低下していた(p<0.01)。また白内障眼の視力を0.4以下と0.5〜0.9の群に分けて検討したところ,0.4以下の群で両者の振幅が低下していた(p<0.05)。潜時には有意差はみられなかった。視力はMERGの安定した記録のための重要な因子の一つであると考えられた。

ステロイド白内障発症要因の検討

著者: 小川月彦 ,   貝田智子 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.489 - P.492

(24E-5) 長崎大学医学部附属病院の他科で副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)の全身投与を受け,その副作用の精査目的で眼科を紹介された44例88眼の白内障発症要因の検討を行った。白内障発症例と非発症例を比較すると,年間平均投与量は白内障発症例が有意に多かった。腎移植例と若年例では,より少ない総投与量,短い投与期間で発症した。全身合併疾患はステロイドの副作用によるものが高率で,ステロイド白内障発症群にステロイドによる全身合併症も多くみられた。ステロイド白内障の予防には,期間あたりのステロイド投与量に注意する必要があると考えられた。ステロイド白内障が生じた症例では,他の全身合併症の発症に,より一層注意が必要である。

1993,1994年の愛知県における未熟児網膜症の実態

著者: 唐木剛

ページ範囲:P.493 - P.497

(25A-2) 愛知未熟児網膜症研究会は1986,1987年の愛知県における未熟児網膜症の実態を報告している。前回と同様のアンケート調査を,今回1993,1994年の2年間について行った。両調査の間で,総出生数が減少傾向にあるにもかかわらず,1,500g未満の未熟児は約15%増加していた。出生体重別に未熟児網膜症を前回調査と比較したところ,発症率には差がなかった。しかし重症化する割合は,出生体重900g未満で大きく減少した。このことは,未熟児を取り巻く医療の進歩が未熟児網膜症の重症化を抑える効果を示していると考えたい。本報告は未熟児網膜症の最新の実態である。

白内障術式からみた偽水晶体眼網膜剥離の発症形態の違い

著者: 村田友紀 ,   出田秀尚 ,   川崎勉 ,   横山光伸 ,   熊丸茂 ,   石川美智子

ページ範囲:P.499 - P.503

(25A-22) 偽水晶体眼の網膜剥離125例126眼において,白内障の手術様式が網膜剥離発症に与える影響を検討した。水晶体乳化吸引術と白内障嚢外摘出術の違いでは,水晶体乳化吸引術では破嚢症例が多く,3か月以内の発症が多かった。白内障嚢外摘出術では,通常の網膜剥離発症の機序に近いと思われた。破嚢や嚢外固定などの術中トラブル症例では,4〜6か月以内の発症が多く。顆粒状組織や限局性色素塊が原因病巣であるものが多かった。これら白内障手術中にトラブルがあった症例では比較的早期に網膜剥離が発症し,硝子体の牽引による網膜剥離が多くなると考えられた。網膜剥離の素因を有する眼では,可能であれば白内障手術前に予防的な処置を行い,術中のトラブルを防止することが重要と考えられた。

難治性と思われた糖尿病網膜症に対する硝子体手術例の検討

著者: 陰山俊之 ,   畑徳昌 ,   岩淵薫子 ,   矢田清身

ページ範囲:P.504 - P.506

(展示225) 難治性と思われた増殖糖尿病網膜症40眼に硝子体手術を行い,視力予後に関係する要因を検討した。術後視力が向上あるいは不変であった症例は24眼(60%),悪化した症例は16眼(40%)であった。術前の網膜剥離の有無,光凝固の有無,術中網膜裂孔の有無,術中大出血の有無は,視力予後には影響しなかった。術翌日からの硝子体出血は有意に視力予後に悪影響を与えた(p<0.05)。術終了時の大量の凝血塊残存も視力予後を悪化させる傾向にあった(p<0.1)。重症糖尿病網膜症の手術では,眼内に大量の凝血塊を残さないことと,術中の止血を十分に行うことが重要であると結論される。

HbA1c値の急速な是正に伴い網膜動脈分枝閉塞症を合併した糖尿病網膜症の3症例

著者: 春山洋 ,   今井雅仁 ,   飯島裕幸

ページ範囲:P.507 - P.510

(展示232) 糖尿病網膜症経過観察中に,ヘモグロビンA1c (HbA1c)値の急速な是正に伴い網膜動脈分枝閉塞症(branch retinal artery occlusion:BRAO)を併発した3症例を経験した。症例1は49歳の男性で,HbA1c値がBRAO発症前後2.7か月の間に3.8%(1.4%/月)減少していた。症例2は24歳の妊娠14週の女性で,0.93か月で4.0%(4.3%/月)の減少,症例3は48歳の両眼にBRAOが発症した女性で,4.7か月で6.0%(1.3%/月)の減少が認められた。急速なHbA1c値の是正がBRAO発症の誘因になった可能性が考えられた。

網膜症を有する早期インスリン非依存性糖尿病患者のHLAクラスII抗原解析

著者: 田中香純 ,   鍵谷雅彦 ,   能勢義介 ,   成瀬妙子 ,   猪子英俊 ,   大野重昭

ページ範囲:P.511 - P.513

(展示226) 網膜症発症時年齢が50歳以下の早期発症インスリン非依存性糖尿病(non-insulin-dependent diabetes mellitus:NIDDM)患者18例を対象に,PCR-RFLP法を用いてHLA-DQA1および-DQB1遺伝子のHLA-DNAタイピングを行った。対照として健康成人50例を同様に検索した。その結果,両群間で有意差を示すものはなかったが,HLA-DQA1*0501,HLA-DQB1*0301,HLA-DQB1*0302,HLA-DQBI*0402が患者群で相対的に軽度増加し,HLA-DQA1*0101=0104,HLA-DQB1*0303は相対的に減少していた。網膜症を有する早期発症NIDDMの遺伝因子の一部にはHLAクラスII抗原が関与している可能性が示唆された。

多胎児における未熟児網膜症

著者: 丸山佳子 ,   中野徹 ,   直井信久 ,   澤田惇 ,   池田智明 ,   池ノ上克

ページ範囲:P.515 - P.518

(25A-3) 1991年7月〜1996年8月に宮崎医科大学附属病院眼科を受診した多胎新生児35組77例(双胎28組,品胎7組)における未熟児網膜症について報告した。未熟児網膜症とそれに影響を与えると予想される諸因子をレトロスペクティブに調査し,特に同胞間で未熟児網膜症のステージに差のある症例を対象に増悪因子について検討した。出生体重,アプガースコア1分値,サーファクタント投与が未熟児網膜症の発症と相関しており,特にアプガースコア1分値は増悪とも相関していた。出生時の全身状態が,未熟児網膜症の発症および増悪に大きく関与していると考えられた。

視神経乳頭小窩と神経線維層欠損の関連性

著者: 水野晋一 ,   白井正一郎 ,   長谷川綾 ,   馬嶋昭生

ページ範囲:P.519 - P.523

(25C1-18) 過去15年間に視神経乳頭小窩と診断した自験例10症例を対象とし,視神経線維層欠損との関連性を検討した。男性5例,女性5例で,年齢は1〜64歳,平均31.7±13.5歳であった。神経線維層欠損は1歳の症例を除く9例で乳頭小窩の近傍に存在し,神経線維層欠損に一致した視野欠損が検出された。視神経乳頭小窩に神経線維層欠損が合併する原因として,乳頭小窩が生後の発育とともに次第に陥凹を増し.網膜が陥凹内へ牽引されることにより,視神経線維が伸展されて神経線維層欠損が生じると結論した。

糖尿病網膜症進展に対する患者管理からみた危険因子

著者: 船津英陽 ,   堀貞夫 ,   北野滋彦 ,   加藤聡 ,   茂木豊 ,   清水えりか ,   小林史明 ,   出田隆一

ページ範囲:P.526 - P.530

(25A-11) 眼科初診後5年間の経過観察を行った糖尿病患者617例を対象に,患者管理からみた糖尿病網膜症(以下,網膜症)進展における危険因子についてロジスティックモデルを用いて検討した。5年後の網膜症変化は,改善13.6%.不変68.6%,悪化17.8%であった。糖尿病発見後眼科初診までの期間.糖尿病発見理由,眼科受診状況が,網膜症進展に対する危険因子として統計的に有意であり,眼科初診までの期間の相対危険度は2.72と最も高い値を示した。網膜症に対する適切な治療のタイミングを逸しない上で,これらの要因を十分に考慮して患者管理にあたる必要があると考えられた。

治療的エキシマレーザー表層角膜切除術後の長期経過と再発率

著者: 寄井秀樹 ,   高橋圭三 ,   大橋裕一

ページ範囲:P.531 - P.534

(25D-3) 治療的エキシマレーザー表層角膜切除術(phototherapeutic keratectomy)後,2年以上経過観察できた20例26眼(顆粒状角膜変性症14眼,帯状角膜変性7眼,格子状角膜変性症3眼.膠様滴状角膜変性症1眼,再発性角膜びらん1眼)の長期経過と再発率を検討した。術後2年時では全症例で術前以上に矯正視力が改善をした。再発は,顆粒状角膜変性症に14眼中1眼(7%),帯状角膜変性では7眼中4眼(57%)にあったが,極めて軽度であり,視力低下はなかった。本手術は角膜表層病変に対し視力的には有効な手技であるが,再発は他の治療法と同様,避け得ないものと考えられる。

乱視矯正角膜切開術後に角膜潰瘍を発症した1例

著者: 崔江 ,   小早川信一郎 ,   杤久保哲男 ,   河本道次

ページ範囲:P.535 - P.538

(25D-14) 現在77歳の男性が5年前に左眼の嚢外白内障摘出術を受けた。その3年後に眼内レンズの二次挿入術が行われ,さらに6か月後に乱視矯正角膜切開術が行われた。その2週後に視力障害を自覚して受診した。患者は10年前から糖尿病の加療中であり,コントロール不良であった。糖尿病網膜症はなかった。診察時には角膜潰瘍があり,前房蓄膿を伴っていた。抗生物資の全身と局所投与により,2週後に角膜所見は改善した。経過中.潰瘍部の擦過培養でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が検出され,これによる細菌性角膜潰瘍と診断された。乱視矯正角膜切開術により術後の角膜感染が起こりうることを示す症例として注目される。

エキシマレーザーによる角膜屈折矯正手術後の角膜内皮細胞の評価

著者: 葉田野宜子 ,   三ツ矢万里子 ,   石川隆 ,   中安清夫 ,   金井淳

ページ範囲:P.539 - P.541

(25D-5) エキシマレーザーによる角膜屈折矯正術(photorefractive keratectomy:PRK)の角膜内皮細胞に対でする影響を検索した。当科でPRKを行い,1年以上の経過観察ができた21眼16例を対象とした。術前,術後6か月,術後1年の角膜内皮細胞をスペキュラーマイクロスコープで撮影し,平均細胞密度,変動係数,六角形細胞出現率を評価した。術前と術後で、上記3項目に有意差はなかった。切除深度によって分類した2群間でも,術前と術後で有意差を認めなかった。しかし個々の症例をみると1眼に術後角膜内皮細胞の著明な減少が認められた。

山口大学眼科における角膜移植手術成績

著者: 曽田貴子 ,   中原順子 ,   上野一郎 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.542 - P.546

(25D-8) 1996年3月までの30か月間に山口大学眼科および関連施設で施行した全層角膜移植術のうち,術後2か月以上当科で経過観察できた48例51眼につき,術前および術後経過を検討した。移植に至った原因疾患は水疱性角膜症22眼,角膜白斑11眼,円錐角膜10眼,角膜穿孔4眼,格子状角膜変性症3眼,その他1眼であった。全体の透明治癒率は78%であった。疾患別透明治癒率では角膜白斑および円錐角膜では極めて良好であったが,水疱性角膜症では59%とやや不良であった。透明治癒が得られなかった原因としては拒絶反応によるものが最も多かった。術後1年での内皮細胞減少率は28%であった。特に水疱性角膜症では42%の減少率であった。

筋萎縮性側索硬化症早期患者の眼球運動

著者: 三村治 ,   ,   ,   Jörg

ページ範囲:P.547 - P.550

(25C1-12) 眼電図(electrooculogram)で,筋萎縮性側索硬化症の早期患者10例と,年齢をマッチさせた対照例10例につき,固視運動,滑動性追従眼球運動,衝動性眼球運動,前庭眼反射を検索した。比較的大きな振幅の矩形波様眼球運動(square wave jerks)が固視状態で頻発した患者1例を除き、滑動性追従眼球運動と前庭眼反射については対照群と差がなかった。衝動性眼球運動の振幅と最大速度の関係についても,両群間に有意差がなかった。以上の結果は,眼球運動障害が早期の本症での陰性徴候である可能性を示している。

加齢黄斑変性症(滲出型)のロービジョンエイド

著者: 藤田京子 ,   湯沢美都子

ページ範囲:P.551 - P.553

(25E-14) 両眼性加齢黄斑変性症(滲出型)22例22眼に対し拡大鏡,拡大読書器を用いて近見視に対するロービジョンエイドを行い,視力,固視の状態,視野の結果から患者の視機能を分類し,適切な補助具を選定した。近距離視力表の0.5の視標,新聞が読めるかを基準にした。遠方視力が0.1以上で中心10度の中に固視点がある場合,拡大鏡で読むことができた。遠方視力が0.1未満でも固視点が10度以内にある場合には拡大鏡または拡大読書器にて読めた。固視点が10度以内にない場合には拡大読書器を用いても不可能だった。

加齢黄斑変性症滲出型—色素上皮剥離型に対する光凝固

著者: 河村知英 ,   湯沢美都子

ページ範囲:P.555 - P.558

(25E-20) フルオレセイン螢光造影で脈絡膜新生血管が検出できず,インドシアニングリーン(indocyaninegreen:ICG)螢光造影でこれが検出できた加齢黄斑変性症の色素上皮剥離型の43例44眼にアルゴンレーザー光凝固を行った。滲出性病変の消失を指標とする術後の最終成功率は26眼59%であった。術後の視力改善は21%にあり,36%が不変であった。加齢黄斑変性症の色素上皮剥離型に対するICG螢光造影所見を指標にした光凝固は,所見と視力の改善に有効であり,脈絡膜新生血管がICG螢光造影で検出できれば光凝固を施行でずるべきであると結論される。

加齢黄斑変性症に対する光凝固と硝子体手術の成績

著者: 上羽美香 ,   川久保洋 ,   島田宏之 ,   赤井公美子 ,   湯沢美都子

ページ範囲:P.559 - P.563

(25E-24) 中心窩脈絡膜新生血管膜(choroidal neovascular membrane:CNM)を有する加齢黄斑変性症に対する光凝固と硝子体手術の視機能を比較検討した。対象は光凝固群が54例54眼、手術群が16例16眼で,それぞれの症例において術前と術後6か月の視力,中心視野で眼底所見を比較した。視力,中心視野ともに両群間に有意差はみられず,手術は光凝固療法と同様に有効と思われた。手術群の有用性は,出血・網膜剥離の吸収までの期間が光凝固群より早く,再発もみられなかったことであったが,問題点は,CNMの摘出時に同時に網膜色素上皮や脈絡毛細管板の除去が必発で術後その部が暗点となることであり,手術の適応については今後さらに検討が必要であると思われた。

ハイデルベルグレチナアンジオグラムを用いたインドシアニングリーン螢光眼底造影における共焦点画像の利点

著者: 白木邦彦 ,   森脇光康 ,   柳原順代 ,   安成隆治 ,   安宅伸介 ,   西口和輝 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.565 - P.568

(26B1-4) インドシアニングリーン螢光眼底造影に関し,ハイデルベルグ社製レチナアンジオグラム(Heidelberg Retina Angiogram:HRA)による共焦点造影像の利点を明らかにずるため,同造影像をローデンストック社製走査型検眼鏡およびトプコン社製ビデオ眼底カメラシステムで得られた造影像と比較した。対象症例は,加齢性黄斑変性,中心性漿液性網脈絡膜症,脈絡膜母斑であった。HRAでは造影早期から30分の後期に至るまでコントラストの明瞭な画像が得られ,後期においても網膜血管が暗く描出されるため病変部の位置同定が容易であった。しかし,網膜下出血など螢光を阻止する病変部はより暗く描出された。なお,HRAの後期像は脈絡膜組織のうちでもブルッフ膜から脈絡膜浅層の螢光を捉えているものと思われた。

多発性後極部網膜色素上皮症のインドシアニングリーン螢光眼底造影とその病態生理

著者: 宇山昌延 ,   松永裕史 ,   松原孝 ,   福島伊知郎 ,   岩下憲四郎 ,   木本高志 ,   山田晴彦 ,   永井由巳 ,   北村拓也

ページ範囲:P.569 - P.574

(26B1-10) 多発性後極部網膜色素上皮症の25例43眼にインドシアニングリーン(lCG)螢光造影を行った。本症は後極部網膜に多数の滲出斑がみられ,後極部に漿液性網膜剥離をきたす滲出性網膜剥離の一病型で,Gass (1973)は中心性漿液性脈絡膜症の異型であり,胞状網膜剥離と呼んでいる。ICG螢光造影によって造影中期(1分後)に脈絡膜血管,恐らく脈絡膜毛細血管板からの血管外漏出による過螢光が脈絡膜に見られ,造影晩期(15〜20分後)には脈絡膜背景螢光はびまん性の強い過螢光を示した。
 この所見から本症の原発病変は脈絡膜血管の透過性亢進であり,血管外漏出した脈絡膜液が組織内に貯留し,その結果,網膜色素上皮が二次的に障害されたとみられる。また本症と中心性漿液性脈絡膜症は同じ範疇(スペクトラム)に属し,互いにその両端にあると考えられた。

特発性脈絡膜新生血管のインドシアニングリーン螢光眼底造影所見

著者: 白神千恵子 ,   白神史雄 ,   尾嶋有美 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.575 - P.579

(26B1-13) 特発性脈絡膜新生血管20眼に対してインドシアニングリーン(indocyanine green:ICG)螢光造影を行った。年齢は29歳から49歳,平均40歳であった。17眼に脈絡膜新生血管(choroidalneovascuiarization:CNV)が検出され,これを囲む低螢光は造影後期で全症例にみられた。CNVが乳頭面積の1/2以上である10眼中7眼で検眼鏡的に色素沈着があり,ICG螢光造影では10眼すべてにCNVがある領域の内部が低螢光を示した。CNV以外の部位の脈絡膜の異常は11眼55%にあった。以上のICG螢光造影所見は,CNVが網膜下にあることを示し,加齢黄斑変性との鑑別に有用である。脈絡膜の異常がCNVの発生と因果関係がある可能性がある。

内眼手術後眼内炎の治療成績

著者: 永井靖子 ,   平形明人 ,   三木大二郎 ,   堀田一樹 ,   篠田啓 ,   樋田哲夫 ,   藤原隆明

ページ範囲:P.581 - P.584

(26B2-17) 内眼手術後眼内炎12例12眼(原疾患は白内障7眼,眼内レンズ毛様溝縫着1眼,緑内障4眼)に対し,治療法,起因菌,視力予後などをレトロスペクティブに検討した。全症例中角膜切開が3眼に施行されておりでうち2眼は耳側切開であった。12眼中11眼に硝子体切除術を施行し,3眼には術中の抗菌薬眼内注入も追加した。房水と切除硝子体からの培養により起因菌は7眼で同定され,内訳はStfeptococcus 4眼(3眼はα群),Methicllin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)2眼,Enterococcus faecalis 1眼であった。特に,StrePtococcusを起因菌とする症例で予後不良の傾向がみられた。

脈絡膜新生血管膜を摘出した網膜色素線条症

著者: 李才源 ,   島田宏之 ,   湯沢美都子 ,   中島正巳 ,   高橋広行

ページ範囲:P.585 - P.588

(26B2-21) 中心窩下の脈絡膜新生血管を併発した網膜色素線条症6眼に対した,硝子体手術により新生血管膜を摘出した。術後4〜10か月(平均5.7か月)の観察では,ほぼ全例で視力と視野が維持または改善し,重篤な術後合併症はなかった。再発は1例に起こった。今回の知見は,本症に対して新生血管膜摘出術は有用であることを示している。

硝子体手術中に網膜動脈に循環障害を生じた3症例

著者: 針谷紀 ,   佐野朱美 ,   森圭介 ,   大木隆太郎 ,   米谷新

ページ範囲:P.589 - P.592

(26B2-11) 過去4年間に行った硝子体手術936例のうち,3例に一過性の網膜動脈の循環障害が生じた。手術の原因疾患は,それぞれ裂孔原性網膜剥離,黄斑円孔,網膜剥離手術後の網膜上膜であった。全例に共通して,動脈循環障害は硝子体手術中の液空気置換術の開始早期に発症した。網膜に軟性白斑が生じ,1例では網膜色素上皮の萎縮が残った。機序は不明であるが,術中と術後の経過観察から,空気置換が網膜動脈の攣縮の誘因になった可能性が大きい。稀ではあるが,硝子体手術の合併症として注意されるべきである。

虹彩分離症の1例

著者: 渡辺朗 ,   敷島敬悟 ,   野地潤 ,   北原健二

ページ範囲:P.593 - P.596

(26C-1) 68歳女性が左眼虹彩炎で当科に紹介された。矯正視力は右1.0,左0.7であった。両眼に虹彩分離症の所見があった。眼圧は正常であった。1年後に左眼の分離した虹彩前葉が角膜内皮に接触し,角膜の混濁浮腫が生じ,視力は0.06に低下した。下方に虹彩切除を行い,角膜の混濁浮腫は軽減した。視力は0.4に改善した。虹彩の全層切除標本では,瞳孔散大筋の平滑筋細胞と虹彩実質の間に間隙があった。電子顕微鏡では虹彩実質のメラノサイトの突起の減少と細胞間隙の拡大があり,虹彩分離症の初期変化と解釈された。

増殖性硝子体網膜症grade Aを伴う網膜剥離で強膜バックル後に硝子体切除術を要した症例の検討

著者: 川崎勉 ,   出田秀尚 ,   熊谷和之 ,   佐野英子 ,   廣瀬晶一 ,   大野尚登

ページ範囲:P.599 - P.602

(26B2-24) Grade Aの増殖性硝子体網膜症を伴った網膜剥離147眼を回顧的に評価した。全例に強膜締結術を行い,129眼はこれのみで治癒し,18眼ではさらに硝子体手術の追加が必要であった。硝子体手術を必要とした症例群での危険因子は,15フォトカウント/msec以上の前房フレア値,裂孔不明,白内障手術の既往,硝子体出血,脈絡膜剥離,(++)以上の強い硝子体混濁であった。このような症例に対しては,grade Aであっても,当初から硝子体手術を考慮すべきである。

桐沢型ぶどう膜炎患者眼内液を用いた経時的ウイルス学的検索

著者: 山内康行 ,   箕田宏 ,   柏瀬光寿 ,   薄井紀夫 ,   横井克俊 ,   市側稔博 ,   坂井潤一 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.603 - P.606

(26C1-9) 桐沢型ぶどう膜炎患者23例の眼内液(前房水22検体,硝子体液17検体)について,検体採取時期がpolymerase chain reaction(PCR)法および抗体率の結果に与える影響を検討した。前房水を対象とした検討結果では,PCR法陽性群および抗体率陰性群は有意に早期に検体採取が行われていた。一方,硝子体液を対象とした場合,PCR法,抗体率ともに陰性群と陽性群の間に採取時期の有意差はなかった。PCR法,抗体率の陽生率に着目すると,発症後20日以前に採取した検体ではPCR法が,20日を過ぎると抗体率の陽性率が高く,発症早期にはPCR法を,日数の経過した症例では抗体率を第一選択にすることが有効な検体利用法であると考えた。

ハンセン病(らい)既往者におけるぶどう膜炎

著者: 並里まさ子 ,   上甲覚 ,   川津邦雄 ,   和泉眞蔵 ,   村上國男 ,   小川秀興

ページ範囲:P.607 - P.610

(26C1-17) 長期間寛解している40歳以上のハンセン病既往者を,ぶどう膜炎のある69例とない204例に分けて検索した。ぶどう膜炎の有病者は60と70歳台に集中し,らい腫型が65%と多かった。虹彩真珠はぶどう膜炎患者52例中の19例(37%)にあり,ぶどう膜がない56例には皆無であった。らい菌に特異的な抗phenolic giycoしipid-l (PGL-l)と,抗酸菌に特異的な抗lipoarabinomannan-B血清抗体(ELISA)は,いずれもぶどう膜炎患者で陽性率が高く,BLハンセン病では有意差がみられた。

輪部腫瘍が疑われたハンセン病の1例

著者: 山上博子 ,   高村悦子 ,   野村圭子 ,   檜垣祐子 ,   松田繁美 ,   内田幸男

ページ範囲:P.611 - P.614

(26E-17) 角膜に接した上強膜の隆起と角膜混濁で発症し,ハンセン病と診断した未治療の症例を経験した。症例は22歳で,ミクロネシア連邦出身,両眼の充血と眼痛で発症した。瞼裂部上強膜の充実性腫脹と充血,隣接する角膜には実質深層の混濁や浸潤があり,特に左眼で著明であった。0.1%ペタメタゾン,0.3%オフロキサシン点眼で数か月加療したが改善しなかった。顔面や両手背などに皮膚結節があり,皮膚科で手背皮膚結節の生検からIepromatous leprosyと診断された。ジアミノージフェニルスルホン内服を開始したところ,皮膚病変,眼所見ともに軽快した。

ぶどう膜炎の既往のあるらい患者のアクリルソフト眼内レンズの術後成績

著者: 上甲覚 ,   藤野雄次郎 ,   増田寛次郎 ,   麻生伸一 ,   松田修実

ページ範囲:P.615 - P.617

(26A-15) ぶどう膜炎の既往のあるらい(ハンセン病)患者の白内障に超音波水晶体乳化吸引術とアクリルソフト眼内レンズの挿入を同時に行い,その術後成績を検討した。対象はぶどう膜炎の既往がある14例15眼、経過観察期間は平均14か月である。3段階以上の視力改善率は14眼(93%)であった。術後合併症として5眼(33%)にぶどう膜炎の再燃がみられたが,特に重篤な合併症はなかった。

播種性血管内凝固を伴う悪性高血圧症にみられた漿液性網膜剥離の1例

著者: 門田光裕 ,   杉田博二 ,   西信元嗣

ページ範囲:P.619 - P.622

(展示89) 播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulatiOn:DIC)を合併した41歳男性の悪性高血圧症患者に両眼性の胞状漿液性網膜剥離がみられ,200/100mmHg前後の高血圧が続くにもかかわらず,血小板数が正常域へ回復するのと一致して漿液性網膜剥離が消退しエルシュニッヒ斑がみられた。漿液性網膜剥離の原因として,悪性高血圧ばかりでなくDICの関与が示唆された。

多発性海綿状血管腫にみられた虹彩の隆起性病変

著者: 野垣恵子 ,   金子敏雄 ,   上野聰樹 ,   柴山英一 ,   打越敏之

ページ範囲:P.623 - P.625

(展示102) 脳内および皮膚の多発性海綿状血管腫の既往のある31歳女性で,反復する虹彩炎,前房出血および虹彩裏面の腫瘍の増大を示した症例を経験した。初診時の細隙灯顕微鏡検査では、左眼の微細な角膜後面沈着物,前房内細胞(3+),フレア強度(3+),9時方向に隅角部の米粒大の血腫がみられ,ぶどう膜炎を疑い精査加療を進めたが,反復する虹彩炎,前房出血,眼圧上昇,虹彩と角膜内皮の接着,水晶体前嚢の混濁出現のため,虹彩裏面の腫瘍を疑い,その摘出術を施行した。腫瘍は,縦2.0mm,横4.0mm,暗赤色,境界明瞭で虹彩,一部毛様体を含んでおり,その病理組織から海綿状血管腫に矛盾しない所見を得た。既往歴,臨床所見から海綿状血管腫が最も疑われた1例を報告する。

Acute macular neuroretinopathyが疑われた1症例

著者: 遠藤哲治 ,   中山滋章 ,   塚本佐知子 ,   大原國俊

ページ範囲:P.627 - P.630

(展示119) 35歳女性が,高熱を伴う風邪症状が軽快した後,両眼の傍中心暗点を自覚して受診した。矯正視力は右1.5,左1.2であった。両眼の中心窩に向かう根形の赤褐色の病変が黄斑部にあり、視野検査で傍中心部の感度低下があった。螢光眼底所見は正常であった。これらの所見からacute macularneuroretinopathyと診断した。プレドニゾロンの全身投与により,自覚症状は軽度改善し,眼底病変は軽度萎縮巣に変化したが,8か月後にも病変が残存していた。比較的稀な疾患であり,今後も原因,治療などを検討すべき疾患である。

アミオダロン角膜症の3例

著者: 貝田智子 ,   小川月彦 ,   雨宮次生 ,   早野元信 ,   矢野捷介

ページ範囲:P.631 - P.634

(展示26E-11) 抗不整脈治療薬であるアミオダロンの投与中に,3例に角膜症が生じた。発症時期は,それぞれ投与開始から2か月,4か月,6か月であった。最後の例では投与を中止したのち長期に角膜症が残った。各例での角膜症の程度は,Miller分類でgrade I,I,IIIであった。自験例と本邦での報告例の検討で,投与量と投与期間は角膜症の程度とは相関しなかった。アミオダロン角膜症は,他の重篤な合併症を予想する上で有力な視標となりうる。

鈍的外傷による後円錐水晶体の1例

著者: 藤井清美 ,   井上新 ,   藤谷周子 ,   池田俊英

ページ範囲:P.635 - P.637

(展示64) 8歳の女児が転倒し,机の角で左眼を打撲した。直後の診察で,水晶体の後面が円錐状に後方に突出し,後嚢下混濁がその部位にあった。その後,白内障が進行し,受傷1年後に超音波水晶体乳化吸引と眼内レンズ挿入を行った。術中の所見で,円錐状に突出していた後嚢部分は菲薄化していたが,境界が鮮明で外傷による後嚢破裂はなかった。通常の操作による後嚢研磨の際に破嚢したが,硝子体の脱出はなく,眼内レンズは嚢内に固定できた。術後9か月の現在まで良好な矯正視力を維持している。

後房レンズにプロペラ現象を認めた1例

著者: 渡辺牧夫 ,   山崎芳明 ,   福島敦樹 ,   政岡則夫 ,   上野脩幸

ページ範囲:P.639 - P.642

(展示80) 眼内レンズのプロペラ現象は,前房レンズの開発初期に,前房内で固定不良の眼内レンズの光学面が視軸回りに回転することから名付けられた。アトピーの27歳男性に白内障手術を行い,嚢外移植した後房レンズに典型的なプロペラ現象が術直後から生じた。視力は良好であったが,プロペラ現象による複視・グレアなどに対する不満が強く,より大きな後房レンズに入れ替える手術を施行した。再手術後の視力は良好で,プロペラ現象による合併症はすべて消失した。

原発開放隅角緑内障におけるウノプロストン点眼液の変更薬剤としての有用性

著者: 高橋伊満子 ,   田中稔 ,   小林康彦

ページ範囲:P.643 - P.646

(26D-17) 原発開放隅角緑囚障患者のうち,比較的眼圧のコントロールは良好なものの,従釆受用していた緑内障治療薬で眼充血,眼痛などの副作用が発現している症例や呼吸器系疾患などの全身疾患を有する症例に対してウノプロストン点眼液への変更を試みた。ウノプロストン点眼液へ変更した対象40例の,変更前の薬剤はジビベプリン点眼薬25例,ピロカルピン点眼薬10例,β遮断剤点眼薬4例,炭酸脱水酵素阻害剤内服薬1例である。変更前眼圧値(mean±SD)18.8±3.9mmHgと比較して,変更1か月後の眼圧下降度は1.5±2.5mmHg(p=0.0006)を示し,変更時の条件でウノプロストンの継続投与が可能であった症例は79.5%であり,本剤を変更薬剤として使用することは充分有用であると思われた。

ぶどう膜炎患者に対するアンケート調査

著者: 富樫実和子 ,   岡田アナベル ,   薄井紀夫 ,   後藤浩 ,   坂井潤一 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.647 - P.650

(展示82) ぶどう膜炎患者に対し欧米で一般的に行われているアンケート調査を行い,その結果と疾患との関連性につき検討し,その有用性を考察した。対象は15か月間に東京医科大学病院眼科ぶどう膜炎外来を受診した150例で,アンケートは,家族歴・生活歴・既往歴などに関し,二者択一の質問形式で行った。アンケート調査には,口頭での問診に比べてさまざまな利点が考えられ,特にnegative dataを含めですべての情報を網羅できることから,多数例を解析すれば,今まで検討されていなかった疾患を特徴づける何らかの傾向が見いだされる可能性があると考えられた。

ぶどう膜炎様症状を呈した血管内リンパ腫症の1例

著者: 町田薫 ,   町田拓幸 ,   上野眞 ,   杉本昌宏 ,   小林寛 ,   高橋功一

ページ範囲:P.651 - P.654

(展示87) 62歳男性に1か月前から頭痛,発熱,視力低下があり,内科を受診し,当科に紹介された。両眼の前房に軽度の細胞とフレアがあり,両眼眼底の後極部に漿液性網膜剥離があった。フルオレセインとインドシアニングリーンによる螢光造影で,脈絡膜の低螢光斑と,後極部の多発性螢光漏出があった。2か月後に全身状態が悪化して死亡した。剖検で全身の小血管内腔に異型リンパ球の増殖があり,血管内リンパ腫症と診断された。本症では,脈絡膜毛細血管内の腫瘍細胞の増殖が脈絡膜の循環障害を起こし、眼底病変が生じたと考えられた。

受傷後早期に螢光眼底撮影を施行したPurtscher網膜症の1例

著者: 杉本雅子 ,   種元桂子 ,   宍戸司 ,   松倉修司 ,   尾羽澤大

ページ範囲:P.655 - P.658

(展示117) 46歳男性が軽自動車を運転中にガードレールに衝突し,頭部と胸部を打撲した。視力低下を自覚して1時間後に受診した。矯正視力は右0.9,左0.15であった。受傷5時間後の螢光眼底造影で,両眼の後極部全象限の主幹動脈付近に,多発性で断続性の螢光染と螢光漏出があった。視力は翌日から改善し,4日後の螢光造影で,動脈からの螢光漏出はほぼ消失していた。本症の早期では,急激な動脈系の内皮細胞と基底膜が損傷していることが推測された。

網膜色素変性症に合併したコーツ病様病変の1例

著者: 加藤佳子 ,   名和良晃 ,   原嘉昭 ,   原徳子 ,   西信元嗣

ページ範囲:P.659 - P.661

(展示126) 36歳女性が流産後に左眼視力低下を主訴として受診した。両眼に網膜色素変性症の所晃があり,左眼眼底の下方に硬性白斑と血管腫に類似する隆起性病変があった。左眼病変部をコーツ病と診断し,色素レーザーによる光凝固を十数回行った。血管腫様の隆起性病変が消退したのち,後極部と眼底上方に広範な血管孤張と滲出性病変を生じたので冷凍凝固を追加した。網膜色素変性症にコーツ病様病変が合併することを示す症例である。

急速進行性糸球体腎炎に発症した網膜静脈閉塞を伴った乳頭血管炎の1例

著者: 森脇光康 ,   白木邦彦 ,   安成隆治 ,   三木徳彦 ,   加茂雅朗

ページ範囲:P.663 - P.666

(展示128) 62歳男性に急速進行性糸球体賢炎が突発した。ステロイド薬のパルス療法,腎透析が行われた。発症3か月後に左眼に視力障害と視野異常を自覚した。この時の矯正視力は右1.0,左0.4であった。右眼には乳頭の上下方向に火炎状網膜出血があり,左眼には下方網膜静脈閉塞に乳頭血管炎の所見があった。高血圧と貧血を認めたが,急速進行性糸球体腎炎が乳頭血管炎の原因と考えられた。

角膜切開による白内障手術後の異物感

著者: 市岡博 ,   市岡伊久子

ページ範囲:P.667 - P.669

(展示63) 自己閉鎖白内障手術後の異物感について,術式との関連を検索した。対象は角膜上方切開10眼,側方切開20眼,フラウン切開121眼である。術後異物感は角膜切開群で有意に多かった(p<0.0005)。異物感を訴える1例で,手術1か月後の検査で,創口がフルオレセインで染色された。角膜切開白内障手術では,術後早期では一見閉鎖しているようでも、創口が実際には完全に閉鎖していない可能性がある。

ルアー針による角膜穿孔ならびに網膜下血腫の1例

著者: 樋上泰成 ,   竹安一郎 ,   井上元宏 ,   濱田潤

ページ範囲:P.671 - P.673

(展示131) 20歳男性が魚釣中に,ルアー針が左眼に刺入した。2時間後に受診し,角膜穿孔,ルアー針の先端の前房内留置,前房出血があった。視力は20cm指数弁であった。異物の除去と角膜縫合を行った。翌日に網膜下血腫が発見された。受傷後10日目にtissue-plasminogenactivatorを併用する網膜下血腫除去術を行い,視力は0.2に回復した。脈絡膜破裂による外傷性網膜下血腫にこの手技が有効であった1例である。

地図状脈絡膜炎の螢光眼底造影による経時的変化

著者: 古川元 ,   浅原茂生 ,   伊比健児 ,   纐纈侑子 ,   秋谷忍

ページ範囲:P.675 - P.678

(展示143) 47歳女性の左眼に地図状脈絡膜炎が発症した。発症4か月後から2年半の間,フルオレセインとインドシアニングリーン(indocyanine green:ICG)による螢光造影を繰り返し行った。新鮮病巣は,ICG造影では造影初期から後期まで低螢光で,その範囲はフルオレセイン造影所見よりも広かった。ICG造影では,低螢光の領域には脈絡毛細血管板は造影されず,造影される脈絡膜の中大血管の数が減少していた。以後2年間の経過中,脈絡膜の中大血管の造影が回復し,最後に脈絡毛細血管板の造影も回復した。観察された低螢光は網膜色素上皮の浮腫による螢光ブロックと解釈された。本例は強い萎縮巣を残さない非典型的な症例であった。

全身熱傷後にみられた瞳孔緊張症の1例

著者: 鈴木温 ,   井崎篤子 ,   下奥仁

ページ範囲:P.679 - P.681

(展示164) 35歳男性が車内にガソリンを撒いて点火し,自殺を試みたが未遂に終った。7週後に鏡を見て左眼の散瞳を自覚した。初診時の矯正視力は各眼1.5。左眼瞳孔は散瞳し,対光反射は消失していた。眼位と眼球運動は正常で,中間透光体と眼底に異常はなかった。血液一般検査では軽度の炎症所見があったが,他に異常はなかった。患眼の瞳孔は0.1ピロカルピン点眼で縮瞳し,過敏性を呈した。電子瞳孔計で近見反応を検査すると,tonicな反応があった。以上の所見からAdieの瞳孔緊張症と診断し,その原因としての全身の熱傷が強く疑われた。

網膜フリッカー感度の測定

著者: 福原潤 ,   井内史恵 ,   湯川英一 ,   西信元嗣

ページ範囲:P.683 - P.686

(展示167) 赤外線テレビ眼底カメラを用いて,網膜の中心30度の眼底直視下に正弦波フリッカー光に対する時間変調感度を測定し,測定法による測定値の変動,測定時間について検討し,フリッカー視野の臨床応用の際の最適な測定方法について考察した。極限法,調整法,上下法,恒常法の4法を用いて,中心部と周辺部でそれぞれフリッカー感度を測定した。
 中心,周辺とも極限法,上下法,調整法,恒常法の順に感度測定値が高くなり,中心では極限法と上下法,周辺では調整法と恒常法で測定された感度の平均値の間には有意差がみられなかったが,他の測定法で測定された感度の平均値の間には,統計学的に有意差を認めた(p<0.05)。極限法,調整法,上下法,恒常法の4法とも測定に時間を要し,特に恒常法による長時間の測定では,被検者の疲労による集中力の低下,および周辺部感度測定時の困難な固視の維持が,測定精度に影響するように思われた。
 フリッカー視野を臨床応用するには,閾値下の変調度から測定を始める極限法を応用して,自動視野計で用いられているようなbracketing法の開発が,不可欠と思われた。

光覚を失った視神経乳頭黒色細胞腫の1例

著者: 中村秀夫 ,   中村敏 ,   山木邦比古 ,   櫻木章三

ページ範囲:P.687 - P.690

(展示169) 著明な視機能障害を呈し,最終的に失明した視神経乳頭黒色細胞腫の1例を経験した。28歳男性で,左眼の視神経乳頭部に漆黒の腫瘍と,これを中心とし黄斑部を含む領域に網膜浮腫,小出血,白色滲出物があった。視力低下,視野狭窄が次第に進行し,初診から1年9か月目に視力0となった。臨床的には悪性の経過をたどっているが,視神経乳頭黒色細胞腫と考え,現在も保存的に経過を観察している。

網膜色素上皮掻爬を行った黄斑円孔術後のSLOスコトメトリー

著者: 渥美一成 ,   荻野誠周 ,   町田崇史 ,   近藤三博

ページ範囲:P.691 - P.693

(展示201) 硝子体手術により黄斑円孔が閉鎖した53眼を対象として走査レーザー検眼鏡によるスコトメトリーを施行した。黄斑円孔底の掻爬を行った22眼では,掻爬範囲がスコトメトリーの視標サイズより小さな2眼を除いた20眼すべてで絶対暗点が検出された。一方,黄斑円孔底の掻爬を行わなかった31眼では,すべて絶対暗点が検出されなかった。網膜色素上皮掻爬による黄斑円孔閉鎖は単純に手術成功に含めるべきではないと考えられた。

黄斑円孔手術の成績

著者: 内藤毅 ,   三好加容 ,   谷英紀 ,   佐竹敬子 ,   塩田洋

ページ範囲:P.694 - P.696

(展示207) 黄斑円孔に対して硝子体手術を施行した38例42眼について手術成績を検討した。症例はGass分類でstage 2が7眼,stage 3が27眼,stage 4が8眼であった。術式は後部硝子体剥離作成後,後部硝子体膜および網膜上膜を除去し,エアーまたはガスタンポナーデを行った。再手術例など難治症例には黄斑円孔底の色素上皮の擦過除去を併用した。初回手術で42眼中30眼(71%)に黄斑円孔の閉鎖消失が得られ,再手術で6眼中4眼に閉鎖消失が得られ,最終成功率は81%であった。初回手術でガスタンポナーデを用いた群は20眼中18眼(90%)に閉鎖消失が得られ,エアータンポナーデに比べ有意に良好な成績であった。さらに術後合併症では,核白内障の進行を考慮すべきであった。

チタンサファイアレーザーによる黄斑障害の1例

著者: 高桑英夫 ,   近藤峰生 ,   高良俊武 ,   伊藤逸穀 ,   寺崎浩子 ,   三宅養三 ,   粟屋忍 ,   後藤修

ページ範囲:P.697 - P.700

(26C2-13) 31歳の研究書で,チタンサファイアレーザーを左眼に受傷し,直後から視力低下と中心暗点を自覚した。受傷から1週間後の矯正視力は0.4であった。眼底検査と走査レーザー検眼鏡による眼底観察の結果,左眼の中心窩の網膜深層に約1/6乳頭径の白色凝固斑が確認された。螢光眼底造影検査では,凝固斑の中心部に点状の過螢光領域と、その周囲に円形の低螢光領域がみられた。直径4度のスポット光を用いて記録した受傷眼の黄斑部局所網膜電図の振幅は僚眼の約80%であった。工業用あるいは医療用のレーザー使用の増加に伴ってレーザーによる事故は増えており,レーザー使用時の保護メガネの装用が重要であると考えられた。

黄斑部剥離を伴った裂孔原性網膜剥離の視力予後

著者: 後藤輝彦 ,   今井雅仁 ,   塚原重雄

ページ範囲:P.701 - P.704

(展示215) 黄斑部剥離を伴った裂孔原性網膜剥離52例52眼を対象に,術後視力0.5以上の良好な群と0.5未満の不良な群に分類し,術後視力に影響を与える術前因子について比較検討した。術前視力は術後視力とよい相関(p=0.0004)が得られたものの,術前視力不良例の術後視力は不良なものから良好なものまでさまざまであった。術後視力良好な群では,剥離の範囲が小さく,推定剥離期間が短い傾向にあった。年齢,手術術式では2群間に差はみられなかったが,術後視力良好群では手術回数が少なく,初回復位率も高かった。

特発性頸動脈海綿静脈洞瘻による網膜中心静脈閉塞症の臨床像

著者: 下田眞理子 ,   景山景子 ,   雑賀壽和 ,   大原國俊

ページ範囲:P.705 - P.708

(展示240) 特発性頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid cavernous fistula:CCF)に続発した網膜中心静脈閉塞症(central retinal vein occ正usion:CRVO)3例を経験した。82歳女性例では,CRVOによる硝子体網膜出血が生じたが,自然吸収した。67歳女性例では,進行性の軽いCRVOがあり,CCFに塞栓術を行ったのち増悪し,最終視力が0.06になった。58歳女性例では,塞栓術ののち軽症のCRVOが発症したが自然寛解した。以上の所見から,CCFに続発するCRVOは,網膜中心静脈の血栓形成によるらしいこと,そしてCCFに対する塞栓術がCRVOを誘発または悪化させることがあることを示している。

切迫型網膜静脈分枝閉塞症の治療

著者: 渡辺博 ,   中井理科 ,   磯貝豊 ,   松橋正和 ,   河本道次

ページ範囲:P.709 - P.712

(展示247) 螢光眼底撮影で閉塞部の局所的静脈壁螢光漏出のみられた切迫型網膜静脈分枝閉塞症2症例の治療経過を報告した。両症例ともまず薬物療法を開始したが,徐々に眼底所見は悪化し,光凝固治療を追加した症例は軽快したが,薬物療法のみを継続した症例は出血期に進行した。薬物療法で改善のみられない時は,切迫期であっても積極的に光凝固治療を行うことで出血期への進行が予防,阻止される可能性が得られ,これは新しい知見と思われた。

走査レーザー検眼鏡visumetryを用いた網膜静脈分枝閉塞症の局所視力

著者: 水本博之 ,   石子智士 ,   長岡泰司 ,   北谷智彦 ,   広川博之 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.713 - P.716

(展示199) 網膜静脈分枝閉塞症10眼を対象として走査レーザー検眼鏡(scanning laserophthalmoscope:SLO)を用いた網膜局所視力検査(visumetry)および微小視野検査(microperimetry)を施行し,網膜局所視力と網膜感度の関係について検討し,あわせてSLO visumetryの有用性について検討した。新鮮例では局所視力の低下が著明であったのに対し,陳旧例では局所視力の低下はさまざまであり,網膜静脈閉塞症では経過とともに局所視力が変化することが推測された。網膜感度の低下と局所視力の低下が平行しない症例があったことから,SLO visumetryは網膜感度とは異なる観点からの網膜機能評価法として有用であると考えられた。

水晶体嚢内摘出後に網膜剥離を繰り返した1例

著者: 前谷悟 ,   岸浩子 ,   前谷満壽 ,   中井義秀

ページ範囲:P.717 - P.720

(展示214) 48歳男性の右眼に白内障の嚢内摘出術が行われた。術後広範囲の網膜格子状変性が発見され,手術の7か月後にその部に円孔による網膜剥離が生じた。強膜の部分内陥術とジアテルミー凝固を行い,剥離のない格子状変性には光凝固を行った。光凝固で処理された部位から,以後6年の間に網膜剥離が3回生じた。最終的に冷凍凝固と強膜輪状締結術で治癒し,矯正視力0.9が得られた。嚢内摘出で硝子体脱出がなく,前部硝子体膜が残ったことが,網膜剥離の頻回再発にかかわらず,良好な視力が残存した理由と考えられた。

急性副鼻腔炎に合併した後部強膜炎の小児例

著者: 塚本晶子 ,   小川明子 ,   高田陽介 ,   原優二 ,   山本正洋

ページ範囲:P.721 - P.724

(展示259) 9歳の女児が,左側頭痛,左眼痛と急激な左眼視力低下を訴えた。左眼底後極に滲出性網膜剥離を生じ,螢光眼底造影で網膜色素上皮からの螢光漏出点が多発していた。CT検査で左眼後部強膜の肥厚と左上顎洞粘膜の炎症性肥厚がみられた。副腎皮質ステロイド薬と抗菌薬の全身投与で両者とも軽快治癒した。急性副鼻腔炎が後部強膜炎発症の原因になった例である。

連載 今月の話題

病名に名を残した日本の眼科医

著者: 奥沢康正

ページ範囲:P.447 - P.456

 日本眼科学会総会の百周年記念のシンポジウム「病名に名前を残した先達」は,参加者に大きな感銘を与えました。シポジストのお一人,奥沢氏に医史学的側面から,先達の略歴と当該症例を発見した経緯,またその時代的背景を考察していただきました。

眼の組織・病理アトラス・126

眼瞼

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.458 - P.459

 眼瞼eyelidは眼球を保護する組織で,上眼瞼と下眼瞼からなる。上下眼瞼の間隙を瞼裂palpebral fissureという。眼瞼の外側は皮膚で,内側は結膜で覆われている(図1)。皮下には眼輪筋orbicularis oculi muscleが瞼裂を取り巻くように存在する。皮膚縁付近に睫毛eyelashesまたはciliaがある(図2)。睫毛の毛包hair folliculeは他の部位のものと異なって立毛筋を欠く。睫毛には睫毛脂腺またはツアイス腺glands of Zeisが,睫毛間には睫毛汗腺ciliary glandsまたはモル腺glands of Mollが存在する。臨床的に,睫毛を皮膚縁の目安とした場合,皮膚縁と結膜縁との移行部を縁間intermarginal surcus,またはやや灰白色に見えるので灰白線gray lineとも呼ぶ。しかしこの部分は表皮に覆われているので,組織学的には皮膚側である。瞼結膜に密着して,コラーゲン線維が密集した硬い半月状の瞼板tarsal plateがある。瞼板は眼窩縁骨膜の延長であり,眼窩腔内容物と眼瞼を隔てている眼窩隔膜orbital septumの線維が密集したものである。硬くて眼瞼の形状を保つ上で大切な組織である。瞼板の中に多数の瞼板腺tarsal glandsまたはマイボーム腺Meibomian glandsがある(図3)。この脂腺は瞼板縁から縁間部に開口し,角膜の表面に広がって涙の蒸発を防ぐ。瞼板の皮膚側には上眼瞼挙筋levator palpebrae superiorsisが扇形に広がって腱膜aponeurosisとなって瞼板前面に付着している(図1)。
 眼瞼の原基は16mm胎児(6週)のころに表層外胚葉の襞として発生する(図4)。この襞の外側は角化する眼瞼皮膚になり,内側は角化しない結膜上皮になる。その間に神経膜由来の組織が侵入して瞼板など眼瞼の間質が形成される。表皮の基底細胞は分化して,毛包hair folliculeや脂腺seba-ceous glandsなどが形成される。結膜上皮からgoblet細胞や涙腺lacrimal glandsが分化する。胎生3か月ころに上下眼瞼が癒着し(図5),6か月ころに上下眼瞼が再び分離する。睫毛,睫毛汗腺,睫毛脂腺,瞼板腺の形成には,上下眼瞼がいったん癒着して再び分離することが大切で,この過程がうまくいかないと無眼瞼ablepharonなどの形成異常になる。

眼科手術のテクニック・89

シリコーンロッドを用いる涙嚢鼻腔吻合術

著者: 矢部比呂夫

ページ範囲:P.460 - P.461

シリコーンロッドを用いる意義
 従来の涙嚢鼻腔吻合術の手術適応は涙嚢より下方に涙道閉塞が存在する場合に限られていたが,実際の臨床症例においては慢性の涙嚢炎などにより涙嚢内粘膜が癒着していたり,何らかの涙小管閉塞を伴っていたりする症例(1996年10号に述べた涙小管閉塞の程度分類のGrade 1〜2に相当。図1)が多く,これらを手術適応から除外すると手術成績は向上するものの,手術対象外の症例があまりに多くなる。これらの症例に対して涙小管チューブなどを組み合わせる方法もあるが,一時的留置物としては中空構造のチューブより実質構造のロッドのほうがすぐれており,さらには単純化された一つの術式で対応できるほうが臨床的に有用であるという概念に基づいてシリコーンロッドを用いる涙嚢鼻腔吻合術を施行している。
 本稿においては,骨窓作成や粘膜吻合などの一般的な涙嚢鼻腔吻合術の手技は省き,本術式特有の手技にしぼって述べる。

臨床報告

アクリルレンズに発生する輝点

著者: 宮田章 ,   鈴木克則 ,   朴智華 ,   紀平弥生 ,   荒巻敏夫 ,   安藤幹彦 ,   鈴木由佳理 ,   木崎宏史

ページ範囲:P.729 - P.732

 アクリルレンズの眼内挿入術後にレンズ内に発生するglistening particle (輝点)の発生程度およびその頻度,発生時期,視機能への影響を調査した。視機能への影響は,視力,グレア,コントラストを指標にした。また,実験的に,レンズを37℃の温水につける浸水実験を行い,輝点の発生を試みた。術後経過では,調査を行った115眼のうち,輝点(直径10μm)が見られたのは45眼(39%)であったが,術後期間別にみると,術後1か月目までに輝点が発生した症例はなく,術後6か月目以後の症例の約50%に発生がみられた。輝点の視機能への影響はなかった。浸水実験では,温水に温度変化を与えたところ,多数のmicrovacuoles (直径20μm)が発生した。このmicrovacuolesが発生しているレンズを乾燥させたところ,microvacuolesは消失した。Microvacuoiesは水泡であり,材質の変性ではないと考えられた。

網膜全剥離を伴う大量網膜下出血後の視力回復例

著者: 鈴木亮 ,   広瀬竜夫

ページ範囲:P.733 - P.737

 大量の網膜下出血のため3か月以上の全網膜剥離を伴う光覚のない60歳女性の左眼に硝子体手術を行い,指数弁の視力を得ることができた。網膜下出血に伴う全網膜剥離でかつ光覚のない眼が手術により視力を回復した例は筆者の調べた限り報告されていないようである。
 初診時,虹彩水晶体が前方へ押されて閉塞隅角緑内障を起こし,患者の左眼眼圧は点滴治療後も下降せず,網膜が水晶体の直後にまで追っていた。患者が痺痛を訴えたので強膜側から網膜下液の除去を試みた。脈絡膜剥離はなく,大量のタール状の黒い網膜下液が排除された(1回目手術)。眼圧はこの手術後,正常化したが,硝子体内は出血が充満していた。網膜は復位し視覚誘発電位と電気誘発電位が記録されたので硝子体手術(2回目)を行ったところ,幸い患者は指数弁まで視力が回復した。
 全網膜剥離を伴う大量の網膜下出血では視磯能は回復しないと考えられている。しかし本症例では無光覚弁から指数弁までの視力回復が得られた。患者が骨髄性白血病に罹患していたため血液成分が変化し網膜機能の障害を減じていた可能性がある。

網膜静脈分枝閉塞症に伴うびまん性黄斑浮腫に対して硝子体手術を行った2例

著者: 河村知英 ,   佐藤幸裕 ,   島田宏之

ページ範囲:P.739 - P.743

 網膜静脈分枝閉塞症に起因し,黄斑上に肥厚した後部硝子体膜を伴うびまん性黄斑浮腫2例2眼に対して黄斑浮腫の軽減を目的に硝子体手術を行った。術中,肥厚した後部硝子体膜の黄斑部網膜への癒着がみられ,人工的に後部硝子体剥離を作成した。術後,黄斑浮腫および網膜出血は減少し,螢光眼底造影では螢光漏出の減少を認め,有意な視力向上を得た。糖尿病黄斑浮腫と同様に網膜静脈分枝閉塞症でも,硝子体手術で黄斑上を覆う後部硝子体膜を除去することによって黄斑浮腫が改善する可能性が示唆された。

糖尿病網膜症の予後決定因子としての後部硝子体剥離

著者: 大谷倫裕 ,   飯田知弘 ,   岸章治

ページ範囲:P.744 - P.748

 糖尿病網膜症379例735眼につき,硝子体が網膜症の経過と治療に与える影響を検索した。平均経過観察期間は37か月である。初診時の硝子体は、完全硝子体剥離(posterior vitreous detachment:PVD)が9%,部分PVDが24%,PVD未発が67%であった。PVD群は全例が非増殖網膜症であり,網膜症の増殖化はなかった。汎網膜光凝固(panretinal photocoagulation:PRP)を54%に実施した。最終平均視力は0.4で,視力不良(0.1未満)の主因は,黄斑症(83%)であった。部分PVD群では,98%が初診時から増殖網膜症であり,86%にPRP,77%に硝子体手術を実施した。最終平均視力は0.08で,視力不良の主因は黄斑症が27%,牽引性網膜剥離が38%であった。PVD未発群では,60%が初診時から増殖網膜症であった。89%にPRP,29%に硝子体手術を実施した。経過中に非増殖網膜症の53%が増殖網膜症に移行した。最終平均視力は0.4で,視力不良の主因は,黄斑症が64%,牽引性網膜剥離が12%であった。
 糖尿病網膜症でPVDがあると,増殖化は起こらず,光凝固のみで対処できた。部分PVDでは,ほとんどが最初から増殖網膜症であり,PVD未発例では経過中に約半数が増殖化した。これらの群では光凝固に加え,硝子体手術が必要となった。PVDの有無は,網膜症の増殖化と治療,視力予後に大きな影響を与える。

特発性頸動脈海綿静脈洞瘻に対するマタス手技に関連して発生した網膜中心静脈閉塞症

著者: 田畑賀章 ,   上村昭典 ,   岩切直人 ,   神村浩策

ページ範囲:P.749 - P.753

 マタス手技は特発性頸動脈海綿静脈洞瘻に対する非観血的治療法として知られ,その簡便さのために広く用いられている。筆者らは,マタス手技を施行した10例のうち5例に網膜中心静脈閉塞症(central retinal vein occiusion:CRVO)の発症をみた。このうち,虚血型CRVOの2例はマタス手技の終了後に発症した。非虚血型CRVOの2例と,非虚血型CRVOから虚血型CRVOへ移行した1例は,マタス手技を開始した直後に発症した。これら5例中4例の視力の転帰は不良であった。マタス手技の施行にあたっては,CRVOが頻発する可能性を念頭に置いて行う必要がある。

妊娠中に発症した原田病の2症例

著者: 宮田信之 ,   杉田美由紀 ,   中村聡 ,   磯部和美 ,   的場博子 ,   大野重昭 ,   田中邦子 ,   津田久仁子

ページ範囲:P.755 - P.759

 両眼の視力低下を主訴に初診し,典型的な原田病の臨床像を呈し,髄液検査で細胞増多がみられた妊娠5か月の26歳女性と,同様に両眼の視力低下で発症し,眼底所見,螢光眼底造影検査,髄液検査,免疫学的検査で原田病と診断した妊娠8か月の33歳女性に対し,プレドニゾロン200mgを初期量とする大量療法を行い,妊娠,出産経過,および出生児にも異常がなく治癒した2症例について報告した。

カラー臨床報告

Galactosialidosisの2症例

著者: 辻野奈緒子 ,   田川義継

ページ範囲:P.462 - P.466

 β-galactosidaseとsialidase (neuraminidase)の両者の低下を認め.galactosialidosis (II型)と診断された2症例を経験した。症例は36歳と21歳の男性で,眼所見では本症に特徴的である角膜混濁,cherry-red spotに加えて,水晶体混濁が観察された。さらに,このうち1症例では硝子体混濁も認められた。

今月の表紙 第14回医学写真展から・2

白点状眼底

著者: 関戸信雄 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.467 - P.467

〈撮影データ〉
 症例は53歳女性です。使用眼底カメラはキャノン製CF−60UVで画角60°,フィルムはISO感度100のフジクロームセンシアを使用して撮影しました。撮影にあたっての注意点としては,白点の状態が明瞭に写しだせるようフラッシュ光量を通常の方法で撮影したものと一段下げたものとの二通りで行いました。この写真は通常の方法で撮影したもので,白点状眼底の状態が明瞭に観察することができました。

眼科の控室

鋸状縁の見方

ページ範囲:P.726 - P.726

 網膜剥離の手術では,裂孔をどうやって正確に発見するかが成功の鍵になります。ある有名な眼科手術の本には,「網膜剥離手術の成否は手術前の検査で決まる」と書いてあるほどです。
 通常の眼底検査と三面鏡などを使うことで,約90%の症例で網膜剥離の原因になっている裂孔を発見できると考えています。残りの10%をどうするかが問題です。
 手掛かりはいくつかあります。まず他眼をよく見ることでしょうか。赤道変性はもちろんですが,最周辺部の無血管領域にも注意していただきたいのです。

第50回日本臨床眼科学会専門別研究会1996.10.24京都

色覚異常

著者: 市川正夫

ページ範囲:P.760 - P.761

 I.シンポジウム「色盲表とパネルD−15だけでも先天色覚異常の指導はできる」
座長 市川 一夫 社会保険中京病院
 アノマロスコープ検査が,色覚検査の一般眼科医への普及を妨げている主因の一つになっている。アノマロスコープを使用せずに,色覚異常の診断および指導はある程度できるので,一般眼科医にこの方法を紹介すれば色覚検査を普及させ得るのではないかと考え,このシンポジウムを企画した。

レーザー眼科学

著者: 岡野正

ページ範囲:P.762 - P.763

 かつての“光凝固”の部門が“レーザー眼科学”になってから本研究会はレーザーを使用する治療や検査を包括するようになり,その内容が幅広くなった。昨年は,網膜の光凝固が混乱してきた嫌いがあるとして,特に糖尿病網膜症の光凝固を希望した。一部に的を射た演題を頂けたが,なお本年も募集にあたっては同様の希望を入れた。そのためか,一般演題数が7題にとどまった。現在の潮流からすれば,枠を絞るのはそぐわないため広い分野からの発表を期待していたが,特別講演と一般との4題が網膜光凝固治療とは違った演題で看板に沿った内容となった。特別講演を大橋裕一教授にお願いした。座長は,特別講演を別所建夫先生(松山市)に,一般の①〜④題を戸張幾生先生(東邦大・第二)にお願いし,一般⑤〜⑦題を岡野がさせていただいた。時間に余裕があったせいか,討論も活発に行われた。

視神経

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.764 - P.765

 視神経研究会は,神経眼科的な「視神経」だけでなく,緑内障における視神経,すなわち緑内障を緑内障性視神経症ととらえる立場から,緑内障の専門家と神経眼科の専門家が討論する場としたいという松崎浩先生,岩田和雄先生らの肝いりでできた研究会である。今回もその趣旨が反映された一般演題7題が応募された。この趣旨がさらに浸透し,ユニークな研究会として位置づけられることを望みたい。また神経眼科の重要なテーマである「視神経」の研究会でもあり,その方面からの積極的な参加ももちろん大切である。今回企画した北野病院脳神経外科西岡達也氏の招待講演の内容は,神経眼科の立場からも,また正常眼圧緑内障との鑑別という点で緑内障の立場からも興味深く,80名を越す聴衆が集まった。以下,各演題の概要を記して,印象を書くことにする。
 北原健二教授が座長を担当した4題では正常眼圧緑内障が話題となった。

第30回日本ぶどう膜炎・眼免疫研究会

著者: 松尾信彦

ページ範囲:P.766 - P.768

 洛北宝ヶ池に紅葉が映える1996年10月24日(木)9:00〜12:45,国立京都国際会館Room Dにおいて開催された。
 演題はぶどう膜炎・眼免疫に関連した診断・治療などの臨床報告および臨床研究を広く募集した結果,23題の応募があり,全演題を採用した。各1題の口演時間6分,討論時間2分とし,研究会終子時間は12:04と予定していたが,熱心な討論のため終了時間が40分延長した。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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