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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科52巻1号

1998年01月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

眼科領域における遺伝子治療の可能性

著者: 高橋政代 ,   谷原秀信

ページ範囲:P.7 - P.12

 日本でも1995年から血液疾患に対する遺伝子治療が始まった。眼球はその閉鎖性,免疫寛容,臓器の大きさなどの点からみて遺伝子治療に適した臓器と思われる。眼科領域における遺伝子治療の可能性について述べる。

眼科図譜・362

糖尿病黄斑症における中心窩硬性白斑の組織学的検討

著者: 高木均 ,   大谷篤志 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.16 - P.18

緒言
 糖尿病黄斑症は糖尿病網膜症による視力低下の重要な原因の1つであるが,その発症原因については十分には理解されていない。近年,強力な血管新生因子である血管内皮増殖因子(以後VEGF)が増殖型網膜症などの虚血性血管新生のみならず,虚血性変化のみられない糖尿病患者の網膜において発現が増加していると報告されている1,2)。VEGFは血管新生作用のみならず強力な血管透過性因子であることより3),黄斑症への関与も推測されるが,今のところこれを立証する報告はない。今回の研究では,糖尿病黄斑症により黄斑部に沈着した硬性白斑を硝子体手術により摘出し,VEGFの発現を組織学的に観察し,その関与について検討した。

眼の組織・病理アトラス・135

化膿性細菌性眼内炎と全眼球炎

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.20 - P.21

 化膿性細菌性眼内炎purulent bacterial endoph-thalmitisは細菌感染で起こる眼内の急性,非肉芽腫性,化膿性炎症である。外因性exogenousと内因性endogenousがある。多くの例は外因性化膿性眼内炎exogenous purulent endophthalmitisで,細菌性角膜潰瘍(図1)や穿孔性眼外傷(図2),内眼手術などで細菌が眼内に波及することによって起こる。術後では,緑内障濾過手術瘢痕創,網膜剥離手術の強膜バックルからの感染もある。さらに,眼内レンズ移植に伴うPropriobacterium acnesなどの弱毒菌感染もある。内因性のものは転移性細菌性眼内炎metastatic bacterial endophthalmitisとも呼ばれ,敗血症や腎盂腎炎などで血行性に起炎菌が眼球へ波及することによる。近年,ステロイド薬や免疫抑制薬の使用例,糖尿病患者など免疫力の低下による化膿性細菌性眼内炎の発症が増加している。
 起炎菌は,グラム陽性球菌の黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,連鎖球菌など,グラム陰性球菌はプロテウス属,緑膿菌などである。

眼科手術のテクニック・98

トラベクロトミー—確実なシュレム管の見つけ方と出し方

著者: 松村美代

ページ範囲:P.24 - P.25

 シュレム管を見つけ,内壁を傷つけずにそれをきれいに露出させることがトラベクロトミー成功の鍵である。絶対確実に発見する方法として,12時の位置で強膜弁を2枚作るやり方を紹介する。
 12時の位置で行うのが他の位置より圧倒的に見つけやすいし,トラベクロトームの挿入もやさしい。2枚にする目的は,残す強膜をできるだけ薄くすることであるから,1枚強膜弁で行っても十分厚く作ればそれでよい。

他科との連携 送った患者・送られた患者・1

眼科で発見された頭蓋内疾患

著者: 湯口幹典 ,   神谷健 ,   「臨床眼科」編集室

ページ範囲:P.62 - P.63

 本コラムでは,“眼科から○○科へ”あるいは“○○科から眼科へ”患者を送って,送られて,早期発見・早期治療などに役立ちよかった,などの具体的経験を「教訓的なワンポイント」の形でまとめていただきます。ご愛読下さい。

今月の表紙

黄斑円孔の生体断層所見

著者: 丸山泰弘 ,   清水弘一

ページ範囲:P.13 - P.13

 特発性黄斑円孔(第3期)を光学的干渉断層計(OCT)で見た所見。レーザー光に対する反射の強さは色で表示されている。反射が最も強いのが白で,以下,赤・黄色・緑・青・黒の順序で弱くなる。円孔の形が円筒状の「打ち抜き」ではなく,ジェット機の先端を横から見たようにその縁が滑らかにカーブしていること,円孔の周囲が「内掘れ」の形で剥離していること,円孔周囲の網膜に嚢胞形成(黒の部分)があること,そして,その蓋が剥離した後部硝子体膜とともに円孔の前に浮遊していることなどが特徴的な所見。OCTを使うことで,眼底病変の断面が観察できることを示す好例である。

臨床報告

眼循環障害における頸動脈病変のカラードプラ法による検出

著者: 古市好晴 ,   清澤源弘 ,   所敬 ,   青井泰平 ,   岩井武尚

ページ範囲:P.35 - P.38

 眼の循環障害に起因する眼疾患52例を対象にカラードプラ法で頸動脈病変の有無とその程度を調べた。52例中50例で頸動脈の描出が可能であり,このうち20例(40%)に頸動脈に病変がみられた。この20例中6例では罹患眼と同側の内頸動脈閉塞または狭窄がみられ,その眼疾患は網膜動脈閉塞症,一過性黒内障,および網膜静脈閉塞症であった。したがってこれらの眼疾患をみた時には,全身的に無症状であっても,外科的に治療しうる頸動脈病変のスクリーニング法としてカラードプラ法は有用であると思われた。

妊娠末期に発症した急性散在性脳脊髄炎の1例

著者: 橋本雅人 ,   大塚賢二 ,   中村靖 ,   勝田聡 ,   中川喬

ページ範囲:P.41 - P.44

 妊娠末期に発症した急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)の1例を経験した。症例は妊娠32週の31歳女性で,1週間前から感冒様症状後に右側が見にくいのに気づき来院。眼科的所見では,右対光反応不良と右不一致性同名半盲を示し,左視索症候群が示唆された。頭部MRI所見では,T2強調画像において左視床および視索に脱髄斑と思われる高信号領域がみられ,また髄液検査では細胞数の増多とミエリン塩基性蛋白を認めた。これらの臨床所見からADEMと診断された。副腎皮質ホルモンの大量点滴療法を行ったが,視野の改善はみられず,現在経過観察中である。妊娠中に発症したADEMは調べた限りではまだ報告がなく,貴重な症例と思われた。

海綿静脈洞血栓症を伴った硬膜頸動脈海綿静脈洞瘻の1例

著者: 前田亜希子 ,   大塚賢二 ,   中村靖 ,   橋本雅人 ,   中川喬

ページ範囲:P.45 - P.48

 50歳の女性に左眼の結膜充血,眼圧上昇と眼球突出が生じた。脳血管造影で,硬膜頸動脈海綿静脈洞瘻(type D)に海綿静脈洞血栓症が併発している所見が得られた。海綿静脈洞は内外頸動脈と交通していた。7か月後に、眼病変は特発性に軽快し,脳血管造影でシャントが消失していた。D型の硬膜頸動脈海綿静脈洞瘻では、血栓形成により自然治癒しうることを示す1例である。

メチルアルコールガス中毒による急性球後視神経炎の症例

著者: 藤本正流 ,   宮島理乃 ,   田上伸子 ,   保倉透 ,   宇山昌延 ,   岩瀬正顕 ,   北澤康秀 ,   田中孝也 ,   吉田学 ,   赤根敦 ,   延原健二

ページ範囲:P.51 - P.55

 シンナーは種々の有機溶剤の混合剤である。今回,シンナー長期吸引歴のある23歳の男性が,1週間で急激に両眼視力を喪失した症例を経験した。患者は両眼の視力喪失で来院し,光覚弁なく,瞳孔は散大し,対光反射は消失していた。初診時,シンナー吸引歴がわからなかったので,急性球後視神経炎ないし詐病が疑われた。翌日,シンナー濫用者と判明し,吸引していたシンナーの内容分析により気化状態でメチルアルコールが約80%と高濃度に検出された。メチルアルコールガスの長期吸引による慢性中毒が急性増悪し,急性球後視神経炎を発病したと診断し,高圧酸素療法,ステロイド大量投与とビタミンB1,B12,投与を行った。7か月後,両眼に視神経乳頭の萎縮を残したが視力は右眼0.05(矯正不能),左眼0.04(矯正不能)まで回復した。

網膜循環障害での多局所網膜電図の潜時延長の意義

著者: 青柳康二 ,   木村保孝 ,   磯野博明 ,   秋山英雄 ,   菅原隆博

ページ範囲:P.65 - P.70

 糖尿病網膜症と網膜動脈分枝閉塞症に対して多局所網膜電図装置であるvisual evoked responseimaging system (VERIS III)による検索を行い,病変部位の応答密度,振幅および頂点潜時について検討した。増殖または前増殖糖尿病網膜症12眼では,正常眼と比較して平均で応答密度は79%減少,振幅は44%減少,頂点潜時は23%延長していた。閉塞直後および陳旧性の網膜動脈分枝閉塞症5眼では,上下左右の4分割領域の検討で,閉塞領域を含む領域では正常領域と比べて応答密度は48%減少,振幅は12%減少,頂点潜時は13%延長していた。今回用いた多局所網膜電図装置は応答密度の計算にテンプレート法を利用しているため,応答密度の低下には振幅の低下だけでなく頂点潜時の延長が大きく影響している。

乱視と角膜形状からみた小切開白内障手術

著者: 高橋洋子 ,   常岡寛

ページ範囲:P.71 - P.76

 白内障手術後の角膜乱視を軽減させるため,小切開手術が推奨されている。われわれは,超音波白内障手術を行い,折り畳み眼内レンズを挿入した238眼につき,角膜乱視と角膜形状の経過を検索した。耳側角膜1面切開群(3.0mm,3.5mm,4.1mm)と,4.1mm強角膜1面切開群に分けて所見を解析した。術後1か月での平均惹起角膜乱視量は,角膜1面切開3.0mm群0.48D,3.5mm群0.79D,4.1mm群0.92Dであり,強角膜1面切開群で0.32Dであった。角膜形状は,3.0mm角膜1面耳側切開群と強角膜1面切開群で平坦化が少なく,3.5mm,4.1mm角膜1面切開群と3.0mm鼻側角膜1面切開群で大きかった。術後の惹起角膜乱視を少なくするためには,角膜1面切開では3.0mm以下の耳側切開が望ましく,4.1mm以上の切開が必要な場合には強角膜1面切開が望ましいと結論される。

地図状網脈絡膜症の1例

著者: 小川佳一 ,   大黒浩

ページ範囲:P.81 - P.83

 54歳女性が右眼飛蚊症を主訴として受診した。右眼に−5.5D,左眼に−6.0Dの近視があり,視力はともに0.9であった。左眼底の乳頭周囲に融合性の灰黄色の病巣が散在し,地図状網脈絡膜症と診断された。電気眼球運動図でL/D比が低下し,scotopicならびにphotopic網膜電図の波形の振幅が低下していた。多局所網膜電図では,眼底病巣の部位に一致して波形の振幅が低下していた。

眼窩拡大を伴う眼窩内静脈瘤の1症例

著者: 中村靖 ,   大塚賢二 ,   橋本雅人 ,   坂田元道

ページ範囲:P.85 - P.87

 症例は52歳男性で,右眼の15年来の眼球陥凹があり,20年前に副鼻腔の手術を受けていた。Valsalva法で右眼球突出を呈した。CT検査にて眼窩内静脈瘤と診断した。また,右篩骨洞は縮小し,眼窩側壁は篩骨洞側に突出しており,眼窩容積が拡大していた。一般に眼窩内静脈瘤における眼球陥凹は眼窩内の軟部組織の萎縮が原因とされているが,今回の症例では,副鼻腔炎手術後の眼窩拡大が眼球陥凹の一因であると考えられた。

Double elevator palsyの1例

著者: 原ルミ子 ,   中村誠 ,   木村良平 ,   三木のり子 ,   大木谷信彰 ,   森野以知朗

ページ範囲:P.89 - P.92

 著明な眼瞼下垂を伴ったdouble elevator palsyの中年症例を経験した。症例は57歳の男性で,幼少時からの左眼瞼下垂を主訴に受診した。第一眼位では,右眼固視で15度内斜視,26度左下斜視を呈し,向き眼位で程度に差のない左眼上転障害を認めた。Bell現象は陽性で,挙筋機能は比較的良好であった。本症例に水平筋上方移動術および下直筋後転術と上眼瞼挙筋短縮術を施行し,術後11度内斜視,10度下斜視となり,眼瞼下垂も改善した。中高年の眼瞼下垂をみた場合も,本症例を念頭にいれる必要がある。

真菌性眼内炎における眼内液真菌遺伝子の検出

著者: 高橋恵里子 ,   望月清文 ,   一圓公治 ,   東松敦子 ,   直原修一

ページ範囲:P.93 - P.97

 真菌性眼内炎が21歳と47歳男性の両眼に発症した。いずれも腹部手術後に経中心静脈高カロリー輸液を受けていた。羅患した4眼に硝子体手術を行い,血液と硝子体液について,polymerasechain reaction(PCR)法を用いて真菌遺伝子を検索した。血液中のカンジダ抗原とD-アラビニトールは正常値であり,硝子体液の鏡検と培養はすべて陰性であった。PCR法で2例2眼の硝子体液から真菌遺伝子が検出された。PCR法による眼内真菌遺伝子の検索は,真菌性眼内炎の確定診断に有用であった。

小児のヘルペス性角膜炎

著者: 塩谷易之 ,   前田直之 ,   渡辺仁 ,   切通彰 ,   井上幸次 ,   下村嘉一

ページ範囲:P.101 - P.104

 12歳以下の小児のヘルペス性角膜炎16眼の病型や治療経過につき病歴から検討した。初発病型は上皮型7眼(44%),実質型6眼(37%),結膜炎型3眼(19%)であり,従来の報告よりも実質型が多かった。全症例における20回の再発のうち,上皮型が7回(35%),実質型が13回(65%)であり,実質型での再発が多かった。最終的に12眼(75%)で0.5以上の視力を保持できたが,強度の角膜混濁のため0.1未満の視力低下が2眼(13%)にあった。小児期のヘルペス性角膜炎ではアシクロビルを中心とした抗ウイルス薬を適切に使用し,視力障害を避けることが重要である。

亜全摘後に残存腫瘍が自然消失した眼窩内神経鞘腫の1例

著者: 尾金一民 ,   尾田宣仁 ,   石井正三 ,   石井敦子

ページ範囲:P.105 - P.110

 67歳女性が11年前から右眼視力低下を自覚し,7か月前から右眼眼球突出が生じた。受診時の右視力は0であった。右眼窩内に,嚢胞性で鮮明に造影される腫瘤がCTとMRIで同定され,眼窩内良性腫瘍と診断された。経頭蓋的に摘出を行ったが,周囲の神経と筋肉との癒着が強固で,亜全摘に終わった。病理診断は神経鞘腫であった。右眼窩内に腫瘍の残存が術後のCTで確認されたが,術後1年8か月後のCTとMRI検査で残存腫瘍は消失していた。この間,眼球運動障害は著明に改善した。本例での残存腫瘍の自然消失は,手術により腫瘍への栄養血管が障害され,虚血性壊死による吸収の結果であると考えられた。

カラー臨床報告

黄斑浮腫の光学的干渉断層計所見

著者: 大谷倫裕 ,   丸山泰弘 ,   岸章治

ページ範囲:P.27 - P.33

 黄斑浮腫の網膜断面構造を,光学的干渉断層計(Optical coherence tomography:OCT)で検索した。対象は黄斑浮腫がある56眼,44例(男子27例,女子17例)である。56眼の内訳は,糖尿病網膜症43眼,網膜静脈分枝閉塞症6眼,網膜中心静脈閉塞症3眼,ぶどう膜炎2眼,後部強膜炎1眼,粟粒血管腫症1眼である。OCTの所見から,黄斑浮腫は,網膜の膨化50眼,嚢胞様黄斑浮腫(cystoid macular edema:CME)28眼,漿液性網膜剥離4眼の3つの型に分類された。これらの型は,しばしば同一眼で合併していた。網膜の膨化は主として網膜外層にあり,膨化が強いとスポンジ状になっていた。新鮮なCME例では網膜外層の嚢胞によって中心窩が突出し,網膜内層の層構造は比較的保たれていた。陳旧化したCMEでは,嚢胞が網膜の外層から内層を占めており,黄斑部は嚢胞によって空洞化していた。硬性白斑は高反射領域として写り,網膜の外層だけでなく,内層にもあった。CMEではない黄斑浮腫の中心窩の網膜厚と視力は,中等度の負の相関を示した。

眼科の控室

職業あて

ページ範囲:P.58 - P.58

 眼科には限りませんが,患者さんがどのくらい医師を信頼するかが診療の重要な要素になります。忙しい外来診察の息抜きにもなるちょっとしたトリックをご紹介します。
 角膜異物が最近ではめっきり少なくなりました。通勤電車が窓を開けなくなったことと,電気ブレーキが主流になったので,鉄粉が飛ばなくなったのがその理由だと考えています。電気ブレーキとは,電車のモーターを発電機として利用し,その電気を架線に戻すことで減速する方式で,正式には回生ブレーキといいます。

文庫の窓から

眼科と日講記聞(1)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.112 - P.113

 明治初年から20年代にわたり日本で発行された眼科書は,そのほとんどが翻訳書か,“日講記聞”形式の講義筆記である。
 「文園雑誌」(田代基徳輯,明治6年6月),「日本医事雑誌」(坪井信良輯,明治6年11月)などは初期の医学雑誌として知られているが,講義筆録としてはウイリス(William Willis,1837〜1894)の東京医学校における講義を訳出した「官版日講記聞」,ボードイン(A.F.Bauduin,?−1905)の大阪医学校における“日講記聞”などが初期のものとしてある。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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