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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科52巻10号

1998年10月発行

雑誌目次

今月の表紙

レーザー光による外傷性黄斑円孔

著者: 赤坂佳子 ,   玉井信

ページ範囲:P.1645 - P.1645

 28歳の男性が実験で近赤外レーザーを使用中,右眼に誤照射し近医を受診した。受傷時保護眼鏡は使用していなかった。視力は右(0.04),左(1.2),右黄斑部に出血と浮腫を認めた。1週間後当科を紹介され受診した。視力は右(0.5),左(1.2)で,右黄斑部に出血と浮腫を認め,軽度硝子体出血を伴っていた。走査レーザー検眼鏡(以下,SLO)で観察した。ヘリウムネオンでは0.3乳頭径の輪状浮腫を認めた(図1)。フルオレセイン螢光眼底検査では,輪状に淡い過螢光のみであったが(図3),ICG螢光眼底検査では脈絡膜毛細血管の充盈欠損を認めた(図4)。受傷2か月後,視力は不変であったが検眼鏡的に0.2乳頭径の黄斑円孔に進展していた(表紙)。SLOのヘリウムネオンでは円孔周囲に花冠状皺襞を認める全層黄斑円孔であった(図2)。
 近赤外光という長波長のレーザーであったため,その影響が網膜よりも脈絡膜に強く及び,出血や浮腫をきたし,二次的に黄斑円孔をきたしたと推測される。

連載 今月の話題

眼瞼下垂の治療

著者: 丸尾敏夫

ページ範囲:P.1647 - P.1650

 眼瞼下垂の治療に当たっては,まず眼瞼下垂か否か,眼瞼下垂の種類を明らかにする。原因療法および薬物療法を行って効果がない時は手術する。手術は眼瞼挙筋前転術が効果があり,すべての眼瞼下垂に適応になる。眼瞼挙筋前転術の術式をWhitnall's slingおよびlevator aponeurosis repairを中心に紹介した。

眼の組織・病理アトラス・144

眼瞼の外毛根鞘癌

著者: 坂本泰二 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.1652 - P.1653

 外毛根鞘癌tricholemmal carcinomaは,毛嚢hairfollicleの外毛根鞘external root sheath由来の悪性腫瘍である。Headington1)が外毛根鞘腫tricholem-momaのうち,悪性のものをtricholemmal carcinomaと分類,命名した。外毛根鞘癌は紫外線に曝露される部分に発生しやすく,顔面や頭部の皮膚に好発する。中高年に発症したとの報告が多い。
 眼瞼の外毛根鞘癌はきわめて稀な疾患で,わが国における報告はわずか数例にすぎない。皮膚表面に盛り上がった腫瘤を形成して,表面に潰瘍を伴う(図1)。外見上は,霰粒腫や脂腺癌と区別できないので,摘出して病理組織学的に診断する。外毛根鞘癌も脂腺癌も,どちらもいわゆる「なかなか治癒しない霰粒腫」という臨床症状を示すが,病理学的検査で鑑別が可能である。眼瞼以外では,臨床的には基底細胞腫と診断されやすい。

眼科手術のテクニック・107

シヌソトミー併用トラベクロトミー—シヌソトミーと濾過胞

著者: 溝口尚則

ページ範囲:P.1656 - P.1657

 今回は,シヌソトミーを併用したトラベクロトミーの手術手技とその濾過胞について解説する。
 トラベクロトミーを強膜二重弁法で行うことについては前号までを参照されたい。トラベクロトミー単独の場合よりもさらに,プローブを回転する時にシュレム管内壁を傷害しないように注意することがポイントである。もし,内壁を傷害してかつシヌソトミーを行うと,そこへ虹彩が嵌頓する。トラベクロトミーを行った後に内壁の状態を確認してからシヌソトミーを行う。このシヌソトミーの手技について解説する。

臨床報告

非滲出型加齢性黄斑変性のインドシアニングリーン螢光眼底造影と初期脈絡膜充盈所見

著者: 石川克也 ,   出口達也 ,   米谷新

ページ範囲:P.1664 - P.1669

 非滲出型加齢性黄斑変性27眼をインドシアニングリーン螢光眼底造影で検索した。27眼すべてに,変性部を含んだ広範囲に脈絡毛細血管板の充盈遅延または欠損によると考えられる低螢光斑が観察された。脈絡膜静脈の拡張または口径不同が19眼(70%)にあり,比較的大きな脈絡膜静脈での明瞭な静・静脈吻合が21眼(78%)にあった。これらの所見は,加齢性黄斑変性には脈絡毛細血管板から脈絡膜静脈のレベルで循環障害が高率に存在するものと解釈された。

虹彩欠損を伴う白内障例に対する水晶体嚢内固定式人工虹彩の移植

著者: 徳田芳浩 ,   土田覚 ,   井上治郎 ,   田中義和 ,   江口秀一郎 ,   江口甲一郎 ,   吉富文昭

ページ範囲:P.1671 - P.1675

 さまざまな理由により虹彩欠損を伴った白内障手術例において,水晶体嚢内固定式の人工虹彩を移植した症例を3例経験した。眼内レンズ挿入と同様に,水晶体嚢内に固定された人工虹彩は,眼内の他の組織への侵襲がほとんどないため,虹彩の欠損を補う新しい手段として選択しうると考えた。

エキシマレーザーによる治療的角膜切除後の白内障手術

著者: 森秀樹 ,   寺田明生 ,   村松隆次 ,   臼井正彦 ,   伊藤清治

ページ範囲:P.1676 - P.1680

 角膜混濁を伴った白内障に対して,phototherapeutic keratectomy (PTK)術後の角膜屈折力変化と白内障手術成績を検討した。対象は顆粒状角膜変性3眼,帯状角膜変性4眼,梅毒性角膜実質混濁2眼であった。PTK照射はMel60とUV−200LAを使用した。PTK照射後,角膜形状は3か月で安定し,平均2.5±2.0Dの遠視化が起きた。白内障手術は術中合併症として1例に後嚢破損がみられた。術後視力はO.5以上が9眼中8眼(89%)に得られた。角膜内皮細胞減少率は5.65±2.04%であった。眼内レンズのパワー計測の点からPTK施行後3か月以上経過した後に白内障手術を行うのが望ましいと思われた。

落屑症候群における隅角所見の統計的観察

著者: 國司幸生 ,   國司昌煕 ,   芳野秀晃 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1683 - P.1689

 落屑症候君羊196例の341眼の隅角を検索した。同世代の白内障患者180例360眼を対照とした。6時方向の隅角の色素沈着は,落屑症候群眼では対照眼よりも顕著であり(p<0.001),特に緑内障発症眼で強かった。片眼落屑眼89例では,落屑眼で色素沈着が僚眼よりも強く(p<0.001),さらに僚眼での色素沈着が対照眼よりも有意に強かった(p<0.001)。Sampaolesi線は,落屑眼で多く(p<0.001),落屑眼のうち高眼圧がある眼では頻度が低かった。狭隅角は,落屑では対照眼よりも多く,特に緑内障眼に多かった。落屑症候群では色素沈着とSampaolesi線の存在が特徴的な隅角所見であり,緑内障の発症に色素沈着と狭隅角が関与していることが推定された。

Idiopathic polypoidal choroidal vasculopathy(IPCV)のレーザー光凝固

著者: 山西朗子 ,   川村昭之 ,   湯沢美都子

ページ範囲:P.1691 - P.1694

 特発性ポリープ状脈絡膜血管症idiopathic polypoidal choroidal vasculopathy7例9眼に,インドシアニングリーン赤外螢光造影を行った。造影早期に脈絡膜循環障害を示す斑状病巣内に,枝状脈絡膜血管網が描出された。造影中期から後期には,血管網の先端部が典型的なポリープ状拡張を呈するものと,脈絡膜血管新生膜を呈するものとがあった。脈絡膜血管網に対してレーザー光凝固を行った。9眼中8眼にポリープ状病変が再発し,平均45か月の経過中に7眼で2段階以上の視力低下があった。本症に対するレーザー光凝固は,病変の進展を—時的に遅らせることがあるが,再発が多く,中心窩病変のために最終視力が低下した。

オフロキサシン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌により生じた白内障術後強角膜創感染の1例

著者: 石田為久 ,   岡田由香 ,   雑賀司珠也 ,   大西克尚 ,   近江俊作

ページ範囲:P.1695 - P.1698

 76歳男性の右眼に,自己閉鎖無縫合白内障手術と眼内レンズ挿入が行われた。術後18日に樹枝状角膜炎が発症し,アシクロビル眼軟膏とオフロキサシン点眼で軽快した。術後53日に術創部の強膜壊死と眼内炎が突発した。強膜壊死部の擦過培養で,オフロキサシン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が検出された。イムペネム・シラスタチン,セファゾリン,セブオチアムの静注と,トブラマイシン,コリスチン・メタスルホン酸の点眼で改善した。結膜嚢の常在菌であるコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の病原性に注意する必要があることを示す症例である。

原田病のステロイド大量療法

著者: 王艶玲 ,   河原澄枝 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1699 - P.1703

 原田病の新鮮症例31例にステロイド剤大量療法を行った。初期投与量をプレドニゾロン換算1日100〜200mgで開始し,眼底所見とフルオレセイン・ICG螢光造影所見を参考にして漸減し,原則として最低6か月間投与した。治療開始後,フルオレセイン螢光造影所見は平均10日で改善したが,網膜剥離と後極部網膜浮腫の消退には平均36日かかった。ICG造影所見の改善にはさらに日数を要した。6例でステロイド減量中に眼底所見が悪化し,ステロイドの増量が必要になったが,遷延化ないし治癒後に再発した症例はなかった。この成績は,原田病にはステロイド剤大量療法が有効であることと,再燃を防ぐために減量を徐々に行うべきことを示している。また,病態の把握とステロイド剤減量には,フルオレセインとICG螢光眼底造影とが有用であった。

眼内レンズ手術がシヌソトミー併用トラベクロトミーの術後眼圧におよぼす効果

著者: 溝口尚則 ,   松村美代 ,   門脇弘之 ,   黒田真一郎 ,   寺内博夫 ,   永田誠

ページ範囲:P.1705 - P.1709

 超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)にシヌソトミー併用トラベクロトミーを併用した同時手術と,シヌソトミー併用トラベクロトミー単独手術との術後眼圧を評価することにより,同時手術時に水晶体摘出による眼圧下降の相乗効果の有無について検討した。同時手術群は38眼,単独手術群は37眼であり,対象の病型はすべて原発開放隅角緑内障と偽落屑症候群を伴う開放隅角緑内障であった。術前両群の間には背景に差をみなかった。術後眼圧は,術後6か月のみ同時手術群の眼圧が有意に低かったが,その後は両群の術後眼圧は有意差をみなかった。Kaplan-Meier生命表を用いた検討では,術後20mmHg以下,術後14mmHg以下へのコントロール率は術後30か月で両群に差はなかった。両群とも術前より術後投薬数は減少した。
 シヌソトミー併用トラベクロトミーを用いた場合は,これら緑内障の単独手術でも,PEA+IOL併用の同時手術でも術後眼圧は同じであり,水晶体摘出による眼圧下降の相乗効果はみられなかった。

頭部鈍性外傷後に両鼻側半盲を生じた1例

著者: 鈴木幸彦 ,   野田康子 ,   金子昭夫 ,   山上潔 ,   前田修司

ページ範囲:P.1711 - P.1714

 55歳の男性が両眼の視力低下で受診した。2か月前に歩行中の交通事故で頭部に鈍性外傷を負い,脳内血腫と診断されていた。矯正視力は両眼0.5で,典型的な両鼻側半盲があった。右眼に乳頭の蒼白化と両眼に緑内障性の陥凹拡大があった。頭部MRI検査で,右前頭葉と側頭葉におよぶ血腫があり,視交叉が左側に偏位し,下垂体漏斗が左側に傾斜していた。両鼻側半盲は,視交叉への血腫による圧迫に加え,左側への視交叉の偏位により,隣接している内頸動脈がこれを左側から圧迫した結果であると推測された。

急性閉塞隅角緑内障で初発した原田病の1例

著者: 山根健 ,   廣田篤 ,   小坂敏哉 ,   三嶋弘

ページ範囲:P.1715 - P.1718

 27歳男性が両眼の視力低下と眼痛を自覚した。眼圧は両眼とも32mmHgで前房が浅く,緑内障の急性発作と診断され,2日後に当科を受診した。超音波生体顕微鏡(UBM)検査で,毛様体上腔に滲出液の貯留,毛様体突起と虹彩根部の前方回旋,水晶体の前方移動があった。眼底は典型的な原田病の所見を呈していた。本症例は,原田病による虹彩根部の前万移動が機序となって発症した閉塞隅角緑内障と考えられた。診断にはUBMが有用であった。

全層角膜移植後の網膜剥離

著者: 川崎諭 ,   池田恒彦 ,   西田幸二 ,   木下茂 ,   斉藤喜博 ,   田野保雄 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.1723 - P.1727

 角膜移植後の網膜剥離4例4眼について,臨床的特徴,手術時の問題点1角膜移植との関連を検討した。全例が全層角膜移植術後で,1眼は水晶体嚢内摘出術,1眼は眼内レンズ摘出術と前部硝子体切除術が併用されていた。初回手術として,全例に強膜バックリング手術を施行した。1眼で再剥離を来し硝子体手術を施行したが,拒絶反応を生じた。臨床像は通常の網膜剥離と同様であったが,特殊な光学系のため眼底周辺部の観察が困難であった。硝子体手術などの移植片に対して侵襲が大きい処置は,拒絶反応の契機となるため免疫抑制剤などによる予防処置が必要と考えられた。

網膜色素上皮剥離のインドシアニングリーン螢光造影所見と経過観察

著者: 松本容子 ,   川村昭之 ,   湯沢美都子

ページ範囲:P.1729 - P.1733

 39眼49個の脈絡膜新生血管が明らかでない網膜色素上皮剥離(PED)をインドシアニングリーン螢光造影(IA)所見によって,過螢光,不規則過螢光,不規則低螢光の3型に分類し、6〜96か月(平均50か月)経過観察した。過螢光を示した17眼25個のPED中5個では、PEDは1.5〜2倍に拡大したが,それ以外は不変,萎縮,あるいは消失した。不規則過螢光を示した8眼8個では拡大はみられず,不変,萎縮,あるいは消失のみであった。不規則低螢光を示した15眼16個では,1眼で脈絡膜新生血管の発生,1眼で放射状脈絡膜ひだ,2眼でmicrOripがみられた。以上からIAで不規則低螢光を示すPEDは厳重な経過観察が必要である。

サルコイドーシスと地図状脈絡膜炎の合併例

著者: 前田耕司 ,   原田敬志 ,   高坂昌志 ,   上田裕幸 ,   馬嶋慶直

ページ範囲:P.1735 - P.1740

 生検でサルコイドーシスと確診を得た23歳の男性の両眼に,地図状脈絡膜炎の合併をみた。眼底病巣は,しばしば色素沈着を混じえた地図状網脈絡膜萎縮で,螢光眼底造影上,病巣の辺縁部が過螢光を示した。赤外螢光眼底造影では,両眼とも後極部に7〜8個の低螢光巣が晩期相まで持続した。全身的には,両側肺門部リンパ節腫大を伴い,血清アンギオテンシン変換酵素および血清リゾチームが上昇していた。地図状脈絡膜炎はサルコイドーシスの経過中に,肉芽腫による圧迫あるいはそれによる脈絡膜毛細血管板における循環障害により生じた可能性がある。

マムシ咬傷による両眼内転障害の1例

著者: 木下貴正 ,   大庭正裕 ,   佐々木紀子 ,   響徹 ,   中川喬 ,   森和久

ページ範囲:P.1741 - P.1743

 41歳白人男性の右手第5指がマムシに噛まれ,その4時間後に複視を自覚した。受傷の6時間後に抗マムシ血清が投与された。第3病日の受診時に両眼の内転障害があり,内直筋不全麻痺と診断した。全身症状は第4病日に,複視は第7病日に寛解した。

エキシマレーザー近視矯正角膜切除術後5年の臨床成績

著者: 橋本行弘 ,   清水公也 ,   天野史郎

ページ範囲:P.1745 - P.1748

 1993年までの40か月間にエキシマレーザー近視矯正角膜切除術(PRK)を181眼に行い,うち5年以上経過が観察できた54眼を検討した。PRKは,Exci-Med UV-200LAで行った。術後1年から5年目の屈折変化は,6D以上の矯正群ではそれ以下の群よりも大きかった。裸眼視力は,6D未満の矯正群では術後1年以内に安定し,6D以上の矯正群では術後2年以後でも安定しなかった。矯正精度は,6D以下の群が6D以上の群よりもよかった。全例を通じて,術後の遠視化,角膜の菲薄化,角膜内皮障害,重篤な角膜上皮下混濁はなかった。

カラー臨床報告

長期間経過観察しえた鎌状赤血球網膜症の1例

著者: 白紙靖之 ,   武田亜希子 ,   萩原実早子 ,   上原雅美 ,   山本千加子 ,   岡見豊一

ページ範囲:P.1659 - P.1663

 27歳のガーナ人男性が左眼の飛蚊症で受診した。視力は両眼とも正常であったが,両眼の周辺部全周に無血管帯があり,硝子体腔に突にする新生血管が,いわゆる海草sea fanの形で存在した。末梢血の塗抹標本で鎌状赤血球があり,電気泳動で異常ヘモグロビンが分離された。右眼を第3期,左眼を第4期の増殖鎌状赤血球網膜症と診断した。両眼の周辺部無血管帯と新生血管周囲に光凝固を行い,8か月後に新生血管は消失した。以後9年間,新生血管の再発はなく,良好な視力を維持している。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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