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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科52巻12号

1998年11月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

ロービジョンケアの試み

著者: 新井三樹 ,   横上香子 ,   江藤はるか ,   澤田惇

ページ範囲:P.1763 - P.1768

 ロービジョン患者のニーズで最も多かったのが読書に関することである。読書能力はロービジョン患者の残存視機能の評価を行い適切な補助具を処方することによってかなり改善できる。目標を読み書きなどにある程度限定すれば,一般眼科診療施設でロービジョンケアを始めるのは難しいことではない。

眼の組織・病理アトラス・145

瞳孔膜遺残

著者: 久保田敏昭 ,   本田祐恵 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.1770 - P.1771

 瞳孔膜遺残persistent pupillary membraneは胎生期の前部水晶体血管膜anterior tunica vasculosalentisが消失せずに,網目状の組織が瞳孔領に残ったことをいう。
 胎生期の水晶体は全体が血管膜で包まれている。水晶体の前面は虹彩実質の血管から連続する血管膜で覆われ,前部水晶体血管膜を形成する。胎生第8週になると,水晶体の前面に密着していた血管に富む間葉組織は虹彩捲縮輪から連続する血管膜になる。水晶体の後面は硝子体動脈の分枝からなる血管膜で覆われ,後部水晶体血管膜posterior tunica vasculosa lentisを形成する。

眼科図譜・364

強度近視に伴う脈絡膜新生血管膜の外科的除去

著者: 間渕文彦 ,   荻野誠周 ,   栗原秀行

ページ範囲:P.1774 - P.1776

 緒言 強度近視に伴う新生血管黄斑症の治療として,光凝固治療に加え,脈絡膜新生血管膜(choroidal neovascular membrane:CNM)の外科的除去術が試みられている。しかし,これまでの中心窩を含むCNMの外科的除去の成績1,2)は,必ずしもよいものではなく,全症例において手術適応があるわけではないようである。筆者らは,本術式により良好な視力改善の得られた症例を経験したので,その手術適応について若干の考察を加え報告する。

眼科手術のテクニック・108

サイヌソトミー併用トラベクロトミー+PEA+I0L

著者: 溝口尚則

ページ範囲:P.1778 - P.1779

 今回は,サイヌソトミーを併用したトラベクロトミーに,PEA+10L (phacoemulsification and aspira-tion+intraocular lens)同時手術の手術手技について解説する。同時手術は,緑内障手術と白内障手術という全く違った術式を同時に行うことであり,2つの手術を交互に,しかも合理的に行わなければならない。したがって,同時手術では手術の手順が重要となり,1つ1つを確実に行わないと,その後の手術操作が難しくなり,思いもかけない併発症を起こす可能性が高い。サイヌソトミーとトラベクロトミーの詳細については,前回までの解説を参考にしていただきたい。
 この手術では,バンガータ開瞼器を使用する。まず,上直筋に制御糸を掛ける。結膜切開は輪部切開でも,円蓋部切開でもよい。テノン嚢を含めて輪部まで十分剥離する。以下,図1から図9までの写真と説明を参考にされたい。

臨床報告

−6ジオプトリーを超える近視がある大学生の眼底

著者: 高宮央 ,   石子智士 ,   吉田晃敏 ,   藤尾直樹 ,   坂上晃一 ,   菊池健次郎 ,   酒木保 ,   玉川憲子 ,   竹田定好

ページ範囲:P.1789 - P.1792

 6ジオプトリー以上の近視がある大学生41名67眼の眼底を検査し,アンケートにより自覚症状を調べた.男性23名,女性18名であった。格子状変性が14眼(21%),網膜裂孔が9眼(13%),裂孔原性網膜剥離が4眼(6%)にあった。このうち自覚症状があったのは1名のみであった。中等度以上の若年近視者には時無症状であってもこれらの眼底異常が頻発すること,そして網膜剥離の予防のために健康診断では眼底検査を含むべきことが結論される。

周期性外斜視4例

著者: 福田雅子 ,   竹田宗泰 ,   木井利明 ,   中川喬

ページ範囲:P.1793 - P.1796

 周期性外斜視4例の長期経過を観察した。既報の3例中2例は間歇性外斜視に変化し,うち1例は量的に軽減した。他の1例は2回の手術で良好な経過をとっている。今回追加する男子例は,3歳の初診時に間歇性外斜視があり,2年後に正位と外斜視が混在するようになった。8歳になった現在,外斜視は月に1回程度しか起こっていない。周期性外斜視がときに自然寛解することを示す症例である。

マイトマイシンC点眼による翼状片の治療成績(第2報)

著者: 久田佳明 ,   田中康裕 ,   佐野邦人 ,   米村尚子 ,   家木良彰 ,   伊藤和彦 ,   福田武子 ,   鈴木美都子

ページ範囲:P.1799 - P.1802

 再発例5眼を含む翼状片46眼に切除術を行った。23眼には0.02%,他の23眼には0.04%のマイトマイシンCを術翌日から1日3回で2日間点眼した。再発が前群で1眼,後群で2眼あった。合併症として角膜びらんと結膜浮腫が計11眼に生じた。再発率と合併症の頻度に,両群間の有意差はなかった。角膜内皮細胞と前房内蛋白濃度に術前後の変動はなかった。マイトマイシンC0.02%の点眼でも,安全かつ有効な治療成績が得られた。

アイゼンメンゲル症候群に発症した両眼性網膜中心静脈閉塞症の1例

著者: 谷圭介 ,   廣川博之 ,   野村直人

ページ範囲:P.1803 - P.1807

 44歳女性が左眼視力低下で受診した。10年前に先天性心室中隔欠損が発見されたが放置していた。矯正視力は右1.2,左0.1であり,両眼眼底に網膜中心静脈閉塞症が発症していた。血液の凝固系と線溶系に異常はなく,赤血球数が790万/μlに増加していた。労作時に高血圧になる血圧変動があった。内科で心室中隔欠損症によるアイゼンメンゲル症候群および二次性多血症と診断された。両眼の網膜中心静脈閉塞症の原因として,血圧変動に伴う血流異常,多血症による血液粘稠度の上昇などのために,静脈系のうつ滞と血栓形成が起こりやすいことが推定された。

中脳小梗塞に伴う動眼神経不全麻痺が生じた糖尿病患者の1例

著者: 三木淳司 ,   高木峰夫 ,   早川祐貴 ,   長谷部日 ,   稲川容子 ,   臼井知聡 ,   長谷川茂 ,   阿部春樹 ,   桑原武夫

ページ範囲:P.1811 - P.1814

 糖尿病歴11年,高血圧歴2年の61歳女性に右眼瞼下垂が1週前に生じた。右眼に上転と内転障害があった。瞳孔反応は正常であった。頭部CT検査で異常がなく,虚血性の動眼神経麻痺が疑われた。MRI検査で中脳腹側に小病変が発見され,この部の右動眼神経線維束障害が動眼神経不全麻痺の原因であると推定された。下斜筋,上直筋,上眼瞼挙筋,内直筋に障害があり,下直筋と瞳孔が障害されていなかったことは,中脳の動眼神経線維東内でこれら障害筋の線維配列が近接しているとする従来の解剖学的知見に合致する所見であった。

網脈絡膜炎が併発したReiter症候群の1例

著者: 佐藤俊介 ,   松尾俊彦 ,   佐藤由希子 ,   大月洋

ページ範囲:P.1815 - P.1818

 46歳男性が左眼のぶどう膜炎で紹介された。右眼にも7か月前に虹彩炎があったが受診時には治癒していた。11年前に尿道炎と亀頭炎が発症し,多発性関節炎があり,HLA-B27陽性,抗クラミジア抗体陽性で,Reiter症候群と診断されていた。左眼には陳旧性の前部ぶどう膜炎と,乳頭腫脹,嚢胞様黄斑浮腫があった。螢光眼底造影で乳頭と網膜毛細血管からの色素漏出と,黄斑浮腫の所見が得られた。これは長期間寛解と増悪を繰り返した眼内炎が網脈絡膜に及んだ所見と解釈された。Reiter症候群では,眼発作寛解期でも定期的な眼科的検査と早期治療が望ましいことを示す症例である。

コンタクトレンズが瞼結膜に長期間包埋されていた1例

著者: 岡田豊和 ,   大島裕司 ,   坂本泰二 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.1823 - P.1826

 45歳男性が2年前に右眼のハードコンタクトレンズを紛失し,再処方を受けた。1年前からの右眼の眼瞼腫瘤と異物感を主訴として受診した。上眼瞼の結膜に10×11mm大の無痛性の腫瘤があり,その中央にコンタクトレンズの凸面が露出していた。結膜に包まれた迷入コンタクトレンズを手術的に除去し,周囲の軟部組織を切除した。病理組織学的には,摘出組織の眼球に面する側は,一部に杯細胞を含む2層から5層の,扁平から立方形の上皮細胞で被われていた。コンタクトレンズへの接触部は,大部分が1層から数層の扁平上皮細胞で被われていた。

高カテコラミン血症と中心性漿液性網脈絡膜症を合併したFisher症候群の1例

著者: 北川真由美 ,   小幡博人 ,   曽根紀子 ,   椎尾康 ,   大平明彦

ページ範囲:P.1827 - P.1831

 38歳男性が1週前からの複視と左眼変視症で受診した。左眼に中心性漿液性網脈絡膜症があった。両側の外転神経と滑車神経麻痺,小脳失調と深部腱反射消失があり,Fisher症候群と診断した。血清の抗GQ1b抗体が高値であった。血中ノルアドレナリンが異常高値であり,自律神経障害を伴う高血圧があった。血漿交換療法で抗GQ1b抗体が低下し時症状が改善した。血中力テコラミンの上昇による脈絡膜循環障害が中心性漿液性網脈絡膜症を誘発したと推定された。

フィプロネクチン点眼を併用した角膜プラーク掻爬術

著者: 吉村佳子 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1835 - P.1840

 春季カタルに併発した角膜プラーク11眼に外科的掻爬術を行った。上皮伸展の足場を整え,上皮欠損の再被覆を促進ずる目的で,術中と術後1か月間,患者の血漿から採取したフィプロネクチンを点眼した。角膜上皮欠損は術後2日から13日(平均5.8±3.5日)で消失し,角膜の透明性が向上した。術後合併症は皆無であった。2眼に角膜プラークが再発したが,再手術で治癒した。抗アレルギー治療が無効である角膜プラークに,本治療は有効である。

過去18年間の非感染性角膜潰瘍の自験例

著者: 気賀沢一輝 ,   加藤憲一 ,   赤塚一子 ,   種元桂子 ,   石川宏志

ページ範囲:P.1841 - P.1846

 過去18年間に東海大学病院眼科を受診した非感染性角膜潰瘍について,症例数,原因,予後につき調査した。総数は108眼で,感染性潰瘍189眼の約半数だった。原因別では,カタル性辺縁潰瘍20眼,兎眼18眼,春季カタル14眼,メタヘルペス9眼,睫毛内反8眼,シェーグレン症候群7眼,慢性関節リウマチ7眼,化学外傷5眼,モーレン潰瘍5眼,白内障術後4眼,放射線照射後2眼,神経麻痺性角膜炎2眼,自己免疫疾患2眼,外傷後1眼,原因不明4眼であった。27%の症例が矯正視力0.1以下となっており,感染性潰瘍の13%に比べて予後不良であることが判明した。

甲状腺眼症に対する経内皆部眼窩減圧術の手術成績

著者: 川口聡 ,   大塚賢二 ,   橋本雅人 ,   中村靖

ページ範囲:P.1849 - P.1852

 視神経障害および眼球突出の治療を目的とし,甲状腺眼症14例25眼に対し経内眥部眼窩減圧術を施行した。脳脊髄液漏出や複視などの重篤な合併症はなく,視神経症の著しい改善および十分な眼球突出度の改善を得ることができた。内皆部切開法による内壁,下壁減圧術は,その安全性,治療効果の持続性から早期改善が求められる視神経症や美容を目的とした眼球突出改善に効果的で,積極的に行ってよいと考えられた。

硝子体手術後に発症した交感性眼炎の1例

著者: 笹尾晋 ,   木村直樹 ,   上西衛 ,   山中昭夫 ,   中村好彦 ,   安積淳

ページ範囲:P.1853 - P.1856

 硝子体手術後に発症した交感性眼炎の1例を経験した。症例は59歳女性で,右網膜中心静脈閉塞症後の増殖硝子体網膜症に対し,硝子体手術を行った。術後6か月目に右前房出血が起こった。眼球癆に進行しつつある眼球に生じた破綻性出血と考えたが,線維素が析出し,前房出血は遷延した。術後8か月目に左線維素性虹彩炎を発症した。その20日後に左眼に漿液性網膜剥離が起こり,交感性眼炎と診断した。ステロイドの大量漸減療法を施行し,左眼の炎症は消退した。同時に右眼の前房出血も消退した。前房出血のため起交感眼の炎症の評価が困難であったこと,前眼部の線維素性ぶどう膜炎として発症したことを特徴とする交感性眼炎の1例であった。

カラー臨床報告

視神経乳頭低形成に伴う傍乳頭網膜分離症

著者: 宇都木憲子 ,   村岡兼光

ページ範囲:P.1781 - P.1787

 視神経乳頭の低形成に伴う乳頭周囲網膜分離症の4例5眼を報告する。共通する所見は,視神経乳頭が小さく,発赤し,低形成があること,乳頭部を含む扁平な網膜分離であること,病変部では神経線維の走行が顕著であること,黄斑に嚢胞形成があることである。全例の両眼に乳頭の低形成があり,乳頭小窩はなかった。網膜分離の範囲は,黄斑部に限らず,周辺に達するものがあった。視力は0.1から1.2であった。網膜分離に相当して軽度の視野沈下があった。光学的干渉断層計(OCT)で網膜の断層像を観察した2眼では,網膜は複数の層に分離し,厚みの増した網膜内に漿液が貯留して蜂巣状を呈した。このOCT所見は,網膜浮腫や網膜剥離のそれとは異なっていた。4眼では経過中に病状は進行せず,1眼で黄斑部嚢胞が拡大して、視力が0.1から0.02に低下した。これら5眼は同一病態と考えられ,今まで報告がないことから,新しい疾患単位であると結論される。

今月の表紙

筋緊張性ジストロフィにみられる黄斑ジストロフィ

著者: 玉井信

ページ範囲:P.1808 - P.1808

 ハンチントン病などいくつかの家族性神経変性疾患は,原因遺伝子内に特定のDNA3塩基配列の増幅,伸長がみられ“triplet repeat病”として最近興味を持たれている。筋緊張性ジストロフィは最も頻度の高い常染色体優性遺伝形式をもつ神経筋疾患で,8,000人に1人の割合で発症するといわれ,重篤な全身症状を示す。眼科的な症状は眼瞼下垂,衝動性眼球運動速度の低下,縮瞳,白内障(iridescent dust),低眼圧,網膜色素細胞の蝶形変化,網状変化などがよく知られている。
 症例は36歳,男性で,視力は右0.8(1.0),左0.7(0.8),視野は正常であった。

文庫の窓から

眼科諸流派の針術—江戸時代における白内障治療

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1858 - P.1861

 江戸時代における眼科諸流派の古写本に記載されたところによると,内障のうち,白内障,青内障,黄内障は治るが,黒内障,赤内障は治らず,また別の書には,白内障,青内障,黒内障は治るが,石内障,血内障,赤内障,黄内障は治らずとある。
 内障の治療には薬物療法と針治療が行われているが,白内障,青内障の治療には主として針による治療,いわゆる“針立”が行われたようである。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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