icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科52巻13号

1998年12月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

新興・再興眼感染症

著者: 内尾英一

ページ範囲:P.1873 - P.1876

 病原体側,宿主側そして環境の変化などにより,新しく発見された病原体による感染症(新興感染症)や,かつて制圧されていたにもかかわらず再び増加してきている感染症(再興感染症)が眼科領域でも増加してきている。

眼の組織・病理アトラス・146

ボーマン膜

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1878 - P.1879

 ボーマン膜Bowlnan's membraneは角膜上皮細胞層と実質との間にあり,その厚さが8〜14μmの光学顕微鏡で淡明にみえる部位をいう(図1)。Bowmanは1847年にこれを“anterior elastic lamina”of the corneaとして最初に記載した。それにちなんで,ボーマン膜Bowman's membraneと呼ぶ。しかし,電子顕微鏡で観察すると,この層は角膜上皮細胞の基底膜(基底板basal lamina)から角膜実質までの淡明層の中に不規則に配列する微細な線維をもつ構造であることが明らかになった。したがって,これは真の膜ではないので,最近ではボーマン層Bowman's layerと呼ぶ傾向にある。
 ボーマン膜は角膜縁までで終わり,強膜ではみられない。また,ヒトを含めて霊長類にみられるが,他の哺乳動物にはみられない。ボーマン膜は角質実質のコラーゲンより細い直径約20〜30nmの,主としてVII型コラーゲンの微細線維と基質からなっている(図2)。線維はほぼ直線状で,その配列はまったく不規則である。細胞成分は存在しないが,角質実質から上皮層へ伸びる角膜神経がボーマン膜を貫いている。

眼科図譜・364

後天性網膜分離症の健常網膜との境界

著者: 飯島幸雄

ページ範囲:P.1880 - P.1881

 緒言 神経網膜が2層に分離している状態を網膜分離症という。これは臨床的には先天性,後天性,続発性の3種類に分類される。そのうち後天性網膜分離症は欧米には多い1)が,本邦では稀である。そのため私たち日本人の知らない点がいくつか存在する。その1つがこの疾患の健常網膜との境界である。筆者は後天性網膜分離症患者を5年間経過観察しているので,この症例の健常網膜との境界について報告する。

眼科手術のテクニック・109

トラベクレクトミー—ケリーパンチを用いる方法

著者: 黒田真一郎

ページ範囲:P.1884 - P.1885

 トラベクレクトミーにケリーパンチを使用する場合,フラップの形が4角フラップでも3角フラップでも同様に考えればよい。また,シングルフラップでもダブルフラップでも同様に考えてよいが,ダブルフラップのほうが切除する組織が薄いため,やりやすいようだ。
 ケリーパンチを用いる場合,まずパンチの先を前房に入れるための切開をしなければならない。この切開線の長さとしては,後で横方向に拡大可能であるから,きっちり切除予定の幅にしなくてもよい。切開にはフェザー刃またはダイアモンド刃のように鋭利な刃物を使用することが望ましい。

今月の表紙

広範囲に浸潤がみられたBowen病

著者: 齋藤淳 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1882 - P.1882

 Bowen病は,1912年にBowenにより暗赤色の扁平隆起性病変を呈する腫瘍性皮膚疾患として報告された。上皮全層において偏位・肥大した核を有する異型細胞に置換され,病変は上皮内を拡大することはあっても基底膜を超えて上皮下に浸潤することはない。眼科領域では,中高年に好発し,角結膜輪部にわずかに隆起した灰白色の隆起性病変で,表面にゼラチン様混濁や血管新生を伴う。治療としては外科的切除が行われるが,しばしば再発が認められる。
 症例は73歳,男性で,3時から11時までの角膜周辺部および球結膜にかけて隆起性病変を認め,細網状の新生血管を伴っていた。上皮の乱れが認められたが,欠損は認められなかった(表紙)。角膜上皮掻爬術と結膜切除術を施行し,病理学的にBowen病との確定診断が得られた(上図)。術後4か月間,病変の再発は認めていない。

臨床報告

ステロイド薬投与中に発症した中心性漿液性網脈絡膜症の脈絡膜所見

著者: 町田繁樹 ,   林一彦 ,   長谷川豊 ,   三善恵 ,   藤原貴光 ,   田澤豊

ページ範囲:P.1893 - P.1898

 副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)の全身投与中に,中心性漿液性網脈絡膜症を起こした5例8眼(男性4名,女性1名,年齢36〜64歳)に,フルオレセイン螢光造影(FA)およびインドシアニングリーン螢光造影(IA)を用い,脈絡膜病変を検討した。全症例に網膜色素上皮の萎縮あるいは剥離を伴った漿液性網膜剥離がみられ,FAでは螢光色素の漏出が観察された。IAでは7眼(86%)で網膜色素上皮病変よりも広範囲に脈絡膜内過螢光がみられたことから,本症発症の背景には脈絡膜病変が関与していると考えられた。ステロイドの全身投与中にIAで脈絡膜内過螢光を認めた場合には,本症の発症に留意する必要があると推察された。

結膜円蓋部の巨大な色素性腫瘍の1例

著者: 尤文彦 ,   平形明人 ,   篠田啓 ,   斉藤博 ,   藤原隆明 ,   前川傑

ページ範囲:P.1899 - P.1903

 65歳女性が,右眼の球結膜の黒色腫瘍を主訴として受診した。腫瘍は上方の結膜円蓋部の球結膜から瞼結膜に及び,大きさは16.5×8.0mmであった。臨床所見からは悪性黒色腫が疑われた。周囲との癒着はなく,遊離結膜弁移植を併用して全摘出できた。以後3年間に再発はない。組織学的には大量のメラニンを含む異型性の少ない細胞がびまん性に増殖していた。免疫組織化学的には,HMB−45(±)で強陽性ではなく,S−100(+),PCNA (±),MIB−1(±)であり,複合母斑と診断された。

線維柱帯切除術後に脈絡膜剥離をきたした頸動脈海綿静脈洞瘻に伴う続発緑内障の1例

著者: 三木淳司 ,   白柏基宏 ,   福地健郎 ,   畠山恵里子 ,   金澤朗子 ,   太田亜紀子 ,   原浩昭 ,   阿部春樹

ページ範囲:P.1905 - P.1908

 62歳女性が6年前に複視を自覚し,右外転神経麻痺と診断された。5年前に右眼の充血と眼球突出が生じ,脳血管造影で右海綿静脈洞瘻と診断された。4年前の当科初診時に,右眼に眼圧上昇,眼球突出,外転神経麻痺,充血があった。海綿静脈洞瘻の塞栓術と点眼治療によっても眼圧と緑内障性視野欠損が悪化したので,マイトマイシンC併用で線維柱帯切除術を行った。手術の4日後に脈絡膜全剥離が生じたが,4週後に寛解した。上強膜静脈圧の上昇に続発した緑内障への濾過手術で脈絡膜剥離が起こりうることを本症は示している。

落屑症候群を伴う白内障手術患者の長期予後

著者: 中泉裕子 ,   西本圭之輔 ,   藤沢綾 ,   河上裕

ページ範囲:P.1909 - P.1913

 落屑症候群に伴った白内障術後患者の長期予後について検討した。対象は落屑症候群と診断され,術後12〜40か月を経過した白内障術後患者15例20眼で,対照は白内障以外に眼科的疾患を持たない,同時期に白内障の手術を受けた34例53眼である。20眼中1眼は,術前より眼圧が高く,薬物療法および隅角線維柱帯形成術によっても眼圧が低下せず,線維柱帯切除術を同時に施行した症例であった。最終観察時点の視力は60%が0.8以上であったが,2眼(5%)が0.3であった。その1眼は線維柱帯切除術を同時に施行した症例であった。眼圧は落屑症候群,対照群ともに術後有意(p<0.05,p<0.001)に術前より低下していた。

角膜化学傷に対する輪部移植術の予後影響因子

著者: 久保寺秀徳 ,   島﨑潤 ,   坪田一男

ページ範囲:P.1915 - P.1919

 重症の角膜化学傷に対し輪部移植術を行った17眼について,手術予後と術前の涙液機能,年齢,罹病期間,術式との関連を調べた。最終観察時に17眼中11眼(65%)で角膜の透明治癒が得られ,うち5眼が1回の手術で終了した。1回の手術で透明治癒が得られた症例は,涙液クリアランス,tearfunction index (TFl)が有意に高値であった(p<0.05)。術後遷延性角膜上皮欠損を生じた症例は,TFIが有意に低値であった(p<0.01)。自己輪部移植術を行った症例は,ドナー角膜から輪部移植術を行った症例より予後が良好であった(p<0.05)。年齢,罹病期間と,予後との間に関連はなかった。輪部移植術の術式,術前の涙液検査は予後を推測するうえで重要と思われた。

老人性黄斑変性症における脈絡膜新生血管膜の組織学的検討

著者: 王英泰 ,   高木均 ,   大谷篤史 ,   鈴間潔 ,   高木史子 ,   小椋祐一郎 ,   本田孔士

ページ範囲:P.1921 - P.1926

 手術的に摘出した加齢性黄斑変性4例4眼の脈絡膜新生血管膜を組織学的に検索した。網膜色素上皮細胞の同定には抗パンサイトケラチン抗体,血管内皮増殖因子(VEGF)の同定には抗VEGF抗体,マクロファージの同定には抗CD68抗体を用いた。パンサイトケラチン染色とVEGFの発現は,新生血管膜の辺縁,新生血管の周囲,間質で陽性であった。CD68の染色は新生血管膜の辺縁と間質で陽性であった。以上の所見から,網膜色素上皮細胞からのVEGF分泌が本症での新生血管形成に関与することと,脈絡膜新生血管膜の形成過程に炎症反応が関与することが推定された。

視神経乳頭からの新生血管を伴ったベーチェット病に対する硝子体手術

著者: 鬼木隆夫 ,   石本聖一 ,   西岡木綿子 ,   川野庸一 ,   讃井浩喜

ページ範囲:P.1927 - P.1930

 視神経乳頭からの新生血管を伴ったベーチェット病に対して硝子体手術を行った。対象は2例2眼で,いずれの症例も両眼の視神経乳頭から新生血管が出現し,内科的治療にもかかわらず,硝子体出血を繰り返した。片眼は急速に牽引性網膜剥離を起こして失明したので,僚眼に対して牽引性網膜剥離を防ぐ目的で硝子体手術を行った。術前に比べて術後視力は2例とも向上し,手術に伴う新たな硝子体出血や重篤なぶどう膜炎の再燃などは生じなかった。ベーチェット病における視神経乳頭からの新生血管は,牽弓性網膜剥離の原因となることが予想される。比較的早期の硝子体手術は,牽引性網膜剥離への進行防止に有効であることが考えられる。

全眼筋麻痺を伴った眼部帯状疱疹の1例

著者: 中澤徹 ,   大村眞 ,   杉田礼児

ページ範囲:P.1933 - P.1937

 76歳男性が全眼筋麻痺を伴う右眼部帯状疱疹を発症した。全眼筋麻痺は眼部帯状疱疹発症3日後にみられた。頭部MRI検査にて,髄腔内右三叉神経がガドリニウムによる増強効果を示し,対側に比較して海綿静脈洞が拡大していた。全眼筋麻痺は海綿静脈洞における三叉神経からの炎症の波及が原因と考えた。

増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障に対する手術治療の長期成績

著者: 向野利寛 ,   五十嵐千寿佳 ,   武末佳子 ,   志賀宗祐 ,   有田直子

ページ範囲:P.1941 - P.1946

 過去5年間に,増殖糖尿病網膜症に併発した血管新生緑内障10例13眼に対して手術を行った。いずれも初回手術であり,硝子体手術と水晶体切除を基本とし,症例に応じて毛様体濾過手術やcyclophotocoaguiation ab externo,線維柱帯切除術を併用した。手術回数は1回から6回,平均3.3回であり,最終手術から9ないし50か月,平均19.1か月の問経過を観察した。11眼(85%)で眼圧は正常化した。0.1以上の視力が6眼(46%)で得られ,2眼が0となった。

交代性上斜位の合併が疑われた外傷性上斜筋麻痺の1例

著者: 藤原理太郎 ,   大庭正裕 ,   母坪雅子 ,   中川喬 ,   竹田眞

ページ範囲:P.1947 - P.1949

 6歳女児が頭位異常と右眼の眼球運動障害で受診した。1歳時に自転車から転落して頭部を打撲し,その夜から頭部の左傾が起こっている。交代性上斜位が併発した右眼外傷性上斜麻痺と診断した。上斜筋麻痺による上下偏位と回旋偏位が交代性上斜位を誘発したと推定された。

カラー臨床報告

中心性漿液性網脈絡膜症の白色斑紋の光干渉断層計所見

著者: 飯田知弘 ,   萩村徳一 ,   佐藤拓

ページ範囲:P.1889 - P.1892

 中心性漿液性網脈絡膜症と胞状網膜剥離の螢光漏出部にみられる白色斑紋の断層構造を光干渉断層計で検索した。検索した7眼全例で,剥離網膜と網膜色素上皮を連絡するように回網膜下腔に中〜高反射を示す物質の沈着があった。また時網膜外層は高反射を示した。3眼では,斑紋部に網膜色素上皮剥離を伴っていた。斑紋の主体は網膜下腔に析出したフィブリンと考えられ,さらに網膜外層の混濁も加わり,白色あるいは灰白色の斑紋として観察されると考えられた。

第51回日本臨床眼科学会専門別研究会1997.10.17東京

眼先天異常

著者: 玉井信

ページ範囲:P.1950 - P.1952

 1,単眼症の1例   沼崎好子・他(仙台赤十字)
 目的:単眼症は極めて稀な先天異常で,その原因として染色体異常,妊娠初期のウイルス感染症および薬剤の影響などがあげられている。今同われわれは種々の全身的奇形を伴った単眼症に染色体検査で13トリソミーを認めた1例を経験したので,各種奇形の発生時期を中心に検討を加えた。
 症例:患児は在胎29週6日,出生体重836g,帝王切開にて出生したが約6時間後に死亡した。母親は37歳初産で,定期検査時に重症妊娠中毒症のため帝王切開にて分娩し出産した。患児は出生時に単眼症,全前脳症,複雑心奇形(心室中核欠損,総動脈管),単一膀動脈,多指症を認めた。染色体検査で13トリソミーであった。また病理組織学的検索は行えなかった。

--------------------

臨床眼科 第52巻 総目次・物名索引・人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?