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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科52巻2号

1998年02月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

臨床医学のこれからの課題—とくに進化医学の立場から

著者: 井村裕夫

ページ範囲:P.121 - P.125

 今回の今月の話題は,1997年5月14日(木)〜17日(土)まで京都国際会館にて開催された,第101回日本眼科学会総会での招待講演を掲載させていただいた。

眼科図譜・363

乳頭上に生じた網膜細動脈瘤の1例

著者: 中村研一 ,   飯田知弘

ページ範囲:P.126 - P.128

緒言
 網膜細動脈瘤は臨床上しばしば遭遇する疾患である。その多くは網膜動脈の第2分枝以降に生じ,視神経乳頭上に発生することはまれである1〜3)。飛蚊症を契機として,乳頭上の網膜細動脈瘤が発見された症例を経験した。

眼の組織・病理アトラス・136

視神経髄膜腫

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.130 - P.131

 視神経髄膜腫optic nerve meningiornaは視神経の髄膜meningesおよび髄鞘内組織から発生する腫瘍で,中年女性に好発する。視神経を圧迫するので,主な臨床症状は視力低下と進行性の眼球突出である。
 視神経髄膜腫は,(1)視神経髄鞘内から発生し,髄鞘内に留まるもの,(2)視神経鞘内から発生し,髄鞘外に広がるもの,(3)眼窩内で異所性のくも膜細胞から発生するもの,(4)視神経管内の髄鞘から発生するもの,(5)蝶形骨稜から発生するものなどがある。髄膜腫は転移しないが,頭蓋内へ浸潤する。一般に,眼窩内から出るものを原発性,頭蓋内から眼窩内へ浸潤するものを続発性と呼ぶ。他方,頭蓋内の髄膜腫では,頭蓋内原発のものを原発性,眼窩から頭蓋内に浸潤したものを続発性と呼ぶ。神経線維腫症を伴う場合には,髄膜腫が多発することがある。

眼科手術のテクニック・99

トラベクロトミー—トラベクロトームの挿入と回転(その1)

著者: 寺内博夫

ページ範囲:P.134 - P.135

 今回はトラベクロトーム(以下,ロトーム)の挿入と回転について,2回に分けて解説する。
 露出したシュレム管両端の外壁の処理(切除するか切開して折り畳んでおく)を怠らなければ,ロトームの挿入はさほど難しい操作ではない。ただ挿入したロトームをシュレム管の奥に進める際には,器具から伝わる抵抗とロトームの進む方向に細心の注意を払う必要がある。今回は右利きの筆者が手術しやすい手順で説明するが,左右どちらのロトームから挿入しても構わない。

他科との連携 送った患者・送られた患者・2

眼科で発見された頸動脈—海綿静脈洞瘻

著者: 湯口幹典 ,   間瀬光人

ページ範囲:P.202 - P.203

 頸動脈——海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous sinusfistula:CCF)は,内頸動脈と海綿静脈洞に瘻孔が形成されて,動脈血が直接静脈洞内に流入している状態で,眼球突出,球結膜の充血など眼症状が前面に出てくるため,眼科で発見されることも少なくない。特徴的な所見があれば診断は容易であるが,進行が緩徐な場合や早期には診断が困難なこともある。眼科で発見されたCCFの2例を供覧する。

今月の表紙

錐体杆体ジストロフィー

著者: 宇山昌延

ページ範囲:P.129 - P.129

 症例は11歳の女子。両眼の徐々に進行する視力低下を訴えて来院。視力は両眼とも0.3(n.c.)。眼底は,表紙写真のように視神経乳頭は軽度褪色し,網膜動脈はきわめて細く,静脈も細い。後極部網膜はび漫性の網膜色素上皮の萎縮をみた。黄斑部は軽いbull's eye標的黄斑を示した。周辺部の網膜は正常。色素沈着なし。視野は大きい中心暗点を証明,周辺視野は正常。ERGは完全に消失し,どの条件でも記録できなかった。EOGは中等度低下。しかしlight raiseはあった。暗順応は閾値の軽度上昇をみた。色覚は第3色覚異常を示した。家族歴なし。
 その後,視力障害は徐々に進行し,9年後の現在,両眼とも視力は0.02(n.c.),視野は中心暗点が著しく拡大し,周辺視野を一部に残すのみ。眼底は視神経萎縮,網膜動脈の狭細が一層進み,後極部網膜の色素上皮萎縮は広範囲に拡大していた。

臨床報告

トラニラスト点眼で点状表層角膜炎が改善したアレルギー性結膜炎の2例

著者: 杉山哲也 ,   中島正之

ページ範囲:P.137 - P.140

 痒感と異物感を主訴とする70歳の女性2名が両眼性の点状表層角膜炎と診断された。両症例とも通年性のアレルギー性結膜炎があり,クロモリンまたはケトチフェンを点眼していた。1例には涙液分泌減少症のために生理的食塩水の点眼を行っていた。1日4回のトラニラスト点眼を開始し,その約3週後に角膜炎は改善傾向を示し,約6週間でほぼ消失した。奏効機序として,ケミカルメディエータ遊離などのアレルギー反応が抑えられたことと,角膜の創傷治癒が促進されたことが推定された。

眼窩減圧術が奏効した甲状腺眼症の1症例

著者: 中村靖 ,   大塚賢二 ,   橋本雅人

ページ範囲:P.141 - P.144

 11年前からバセドー病と診断されている47歳女性が両眼の眼球突出を主訴として受診した。ステロイド薬内服で眼球突出はいったん軽減したが,8年後に増悪した。放射線照射とステロイド薬内服で甲状腺眼症が軽快せず,視神経症が生じた。増悪の8か月後に両眼に対して,眼窩内壁と内下壁を除去し,眼窩脂肪を脱出させる眼窩減圧術を行った。これにより視神経症が改善し,治療に抵抗していた結膜充血,高眼圧,眼球突出が術直後から著しく軽快した。甲状腺眼症に対して眼窩減圧術が有効であることを示す1例である。

光凝固が奏効した網膜剥離を伴った視神経乳頭欠損の1例

著者: 岸浩子 ,   前谷悟 ,   中井義秀 ,   三嶋弘

ページ範囲:P.145 - P.149

 32歳女性が前日からの左眼視野異常で受診した。左眼視力は0.7であった。眼底に視神経乳頭欠損があり,それから下方に5乳頭径大の扁平な網膜剥離があつた。フルオレセイン螢光造影で乳頭欠損部位からの色素漏出があつた。乳頭の下側縁に光凝固を行い,網膜剥離は速やかに減少し,視力は1.2に回復した。初診から40日後に視力が再び0.2に低下した。乳頭から黄斑にかけてpit-macularsyndromeのような網膜剥離があり,乳頭耳側に光凝固を4回に分けて行つた。約4か月後に網膜剥離が消失し,視力は1.0に回復した。視神経乳頭欠損に伴う網膜剥離に対して光凝固が有効であった1例である。

片頭痛性脳梗塞による一致性同名半盲の1例

著者: 橋本雅人 ,   大塚賢二 ,   中村靖 ,   吉田富士子 ,   中川喬

ページ範囲:P.151 - P.153

 31歳,妊娠23週の妊婦で臨床経過および画像所見から,migrainous infarctionによると思われる一致性同名半盲の症例を報告した。頭部MRI検査において,右視放線から一次視覚領前部にかけて亜急性出血性脳梗塞を示す所見があり,片頭痛発作後に生じた一致性同名半盲の責任病巣と考えられた。片頭痛患者の眼症状は,閃輝性暗点に代表される一過性の視野異常が大部分であるが,片頭痛患者のなかには本症のように長期にわたる視野障害を弓き起こすことがあることを十分念頭におくべきと考えられた。

小脳性眼球運動障害を呈した脳腱黄色腫の1例

著者: 原里江子 ,   奥英弘 ,   菅澤淳

ページ範囲:P.155 - P.158

 17日前に失神発作があった20歳女性が視力障害で紹介された。視力は左右とも0.5であった。知能発育遅延,錐体路症状,若年性白内障,小脳性眼球運動障害があり,血中のコレスタノール値が顕著に上昇していた。MRI検査で両側の脳質周囲白質に散在性の異常病巣があり,脱随所見と解釈された。視覚誘発電位の頂点潜時が左眼で延長し,左方注視で注視眼振があり,左方向への滑動性追従運動が障害されていた。これらの所見から,脳腱黄色腫と診断された。特効薬であるケノデオキシコール酸の投与で神経症状は軽快した。

眼瞼炎に併発した角膜プリクテンの臨床像

著者: 久保田明子 ,   北川和子

ページ範囲:P.159 - P.162

 眼瞼炎に併発した角膜フリクテンの2症例を経験した。いずれも女性で,年齢は18歳と26歳であり,片眼性の発症である。治療として,0.02%フルオロメトロン点眼,抗生物質の局所投与,ミノサイクリンの全身投与,および眼瞼の清拭を行った。角膜プリクテンは,それぞれ10日と21日で治癒し,以後1年間は再発がない。眼瞼炎に併発した角膜ブリクテンに対しては,眼瞼炎の治療が有効であり,再発防止にも意義があると考える。

黄斑円孔手術における非閉鎖例と再発例への処置

著者: 岸章治

ページ範囲:P.167 - P.172

 過去34か月間に特発性黄斑円孔161眼(157例)に硝子体手術を行った。円孔の閉鎖・消失は,初回手術で111眼(69%),追加処置により最終的に147眼(91%)で得られた。閉鎖率は2回以内の液ガス置換で85%(137/161眼)に向上し,再手術での閉鎖(12/13眼)と自然閉鎖(1眼)を加えると93%(150/161眼)となった。再発が8眼(5%)にあり,円孔周囲の網膜前膜除去を含む再手術で4眼が閉鎖した。黄斑円孔は陳旧例でなければ,初回手術で非閉鎖でも,ガス追加と再手術で高率に閉鎖できる。

外側膝状体半盲を呈した脳内Wegener肉芽腫の1例

著者: 前田忠郎 ,   大塚賢二 ,   橋本雅人 ,   中村靖

ページ範囲:P.173 - P.176

 2か月前に外耳道炎が発症し,続いて半月体性糸球体腎炎が起こり,血中の抗好中球細胞質抗体値が上昇してWegener肉芽腫症と診断された43歳女性が視野障害を主訴として受診した。両眼に右側楔型の同名半盲があり,MRI検査で左側の外側膝状体外側音部に境界明瞭な円形の腫瘍が発見された。ステロイドのパルス療法で脳内病変は著しく縮小した。本症での外側膝状体半盲の原因病変は,脳内に生じた孤発性のWegener肉芽腫と推定された。

開放隅角緑内障と高眼圧症眼の角膜形状が眼圧測定値に及ぼす影響

著者: 松本拓也 ,   牧野弘之 ,   新井麻美子 ,   松村洋臣 ,   魚里博 ,   西信元嗣

ページ範囲:P.177 - P.182

 眼圧測定値が中心角膜厚と角膜曲率でつくられる角膜力学特性にどのように影響されるかを,開放隅角緑内障24眼と高眼圧症89眼で検討した。眼圧は非接触眼圧計で,中心角膜厚は超音波角膜厚測定装置で計測した。中心角膜厚と角膜曲率半径から求めた角膜変形度は,高眼圧症眼で緑内障眼よりも有意に小さかった(p<0.01)。高眼圧症では角膜弾性が高く,このために眼圧値が過大評価されていると推定された。治療前の眼圧と角膜変形度の症例ごとの検討から,眼圧,中心角膜厚,角膜曲率半径を指標として、視野異常の危険率の高い群(開放隅角緑内障)と低い群(高眼圧症)とに明確に区別でき,その精度は眼圧値による区別よりも高かった。角膜形状は眼圧測定値に影響すること,さらに眼圧と視野との関係にも影響することが結論された。

同一症例におけるシヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクレクトミーの術後視力

著者: 溝口尚則 ,   松村美代 ,   門脇弘之 ,   黒田真一郎 ,   寺内博夫 ,   永田誠

ページ範囲:P.185 - P.189

 同一症例の片眼にトラベクレクトミー(A群),片眼にシヌソトミー併用トラベクロトミー(B群)を行い,術後の視力について検討した。開放隅角緑内障眼で両眼ともに初回手術であり,術後12か月以上経過観察できた症例とした。対象は26例で,平均観察期間は25.7か月,平均年齢は56.4歳であった。経過中,術後眼圧が20mmHg以下に維持されている症例で視力が2段階以上低下した症例は,術後12か月と24か月でそれぞれ,A群で39%,38%であり,B群で15%,6%であった。術後目標眼圧以下に眼圧が維持できた(A群は14mmHg以下,B群は16mmHg以下)症例で,2段階以上低下したのは術後12か月と24か月でそれぞれ,A群で50%,33%,B群で21%,13%であった。トラベクレクトミーは術後視力が低下する症例が多く,たとえ術後眼圧コントロール良好眼でも低下する頻度が高い。しかし,シヌソトミー併用トラベクロトミーは術後に視力が低下する症例は少なく,視力の維持にはよい術式である。

糖尿病網膜症の硝子体手術時に形成された網膜格子状変性巣に起因する医原性裂孔

著者: 澤浩 ,   池田恒彦 ,   小室青 ,   木下茂 ,   中村富子 ,   前田耕志 ,   石田美幸

ページ範囲:P.191 - P.195

 過去2年間に,増殖糖尿病網膜症に対して硝子体手術を行った283眼中に,硝子体円錐切除中に格子状変性に起因する弁状網膜裂孔を7眼(2.4%)に認めた。裂孔は格子状変性部の端または後極縁に沿って生じ,硝子体円錐を切除中に変性部に牽引が加わったために生じたと考えられた。増殖糖尿病網膜症への硝子体手術では,このような医原性裂孔との関係で,格子状変性に注意を払うことが必要である。

新鮮角膜を用いた治療的角膜移植の成績

著者: 五十嵐翔 ,   島﨑潤 ,   坪田一男

ページ範囲:P.204 - P.209

 新鮮角膜を用いて治療的角膜移植を行い,3か月以上経過観察できた33眼についてその転帰を検討した。疾患の内訳は細菌性角膜潰瘍8眼,真菌性角膜潰瘍4眼,角膜ヘルペス6眼,周辺部角膜潰瘍5眼であった。全症例で治療的角膜移植の目的を達成でき,透明治癒率67%.視力改善率61%の成績が得られた。新鮮角膜を用いた治療的角膜移植術は,角膜の補強と病巣の除去とともに視力予後でも有用であった。

超音波生体顕微鏡で確定診断した続発閉塞隅角緑内障

著者: 永井由巳 ,   竹内正光 ,   湖崎淳 ,   三木弘彦 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.210 - P.214

 超音波生体顕微鏡(ultrasound biomicroscope:UBM)を用い,毛様体・脈絡膜剥離と毛様体浮腫によって毛様突起が前方へ偏位して虹彩根部を圧迫し,隅角閉塞を生じていることが確認できた続発閉塞隅角緑内障の2症例を経験した。症例1は,急性緑内障発作の診断にてレーザー虹彩切開を行ったが,眼圧の降下がみられなかった。症例2は,網膜剥離の強膜内陥術後に高眼圧を生じた。両例ともUBMにより,毛様体浮腫と毛様体脈絡膜剥離による続発閉塞隅角緑内障と判明した。UBMを用いると前眼部の生理的な状態の観察が可能になり,本法は緑内障眼の眼圧上昇の機序の解明,診断,治療方針の決定に有用な検査法である。

超音波生体顕微鏡で観察したPeters' anomalyの1例

著者: 別所京子 ,   澤田明 ,   山本哲也 ,   北澤克明

ページ範囲:P.215 - P.218

 緑内障を併発したPeters奇形の1例を超音波生体顕微鏡(UBM)により観察した。症例は超音波生体顕微鏡検査時,生後25日の女児で,両眼に緑内障を伴うPeters奇形があり,高度の角膜混濁および浮腫のため細隙灯顕微鏡検査,隅角鏡では角膜より後眼部の観察が不能であった。超音波生体顕微鏡では容易に虹彩と水晶体の角膜への癒着のないこと,隅角のwraparound type insertionなどが確認できた。

眼科の控室

フルオは危険

ページ範囲:P.198 - P.198

 点眼液には雑菌で汚染しやすいものがあります。その代表がフルオレセインです。
 フルオレセインは現在では化学合成で作られていますが,そもそもは緑膿菌属のPseudomonas fluorescensから分離されていました。この菌そのものは無害なのですが,名前が示すように強毒性のPsaeruginosaの同じ仲間なのです。

文庫の窓から

眼科と口講記聞(2)

著者: 中泉行信 ,   中泉行史 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.219 - P.221

 日講記聞は眼科以外にも他科全般にわたって諸教師の口述,訳本が出ている。各種図書目録によってその一部主なものを列挙する。
 (“記聞”“紀聞”の二種類あるが他から聞いたことを記したもの,聞書,覚書のこと)

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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