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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科52巻8号

1998年08月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

眼内血管増殖疾患における新しい血管新生因子(VEGF)の役割

著者: 高木均

ページ範囲:P.1331 - P.1336

 虚血網膜由来の血管新生因子の存在が指摘されて久しいが,近年,血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)がこの因子であることが明らかとなった。眼内血管増殖疾患におけるこの因子の役割,今後の治療法への応用について述べる。

眼の組織・病理アトラス・142

フォークト・小柳・原田病の脈絡膜血管新生

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1340 - P.1341

 フォークト・小柳・原田病Vog-Koyanagi-Haradadiseaseの経過中に脈絡膜血管新生choroidalneovascularizationが起こることがある(図1,2)。特に臨床的に脈絡膜の炎症が激しい症例,あるいは炎症が長期間持続した症例にみられる。網膜色素上皮細胞の増殖が脈絡膜血管新生と密接に関係する。
 フォークト・小柳・原田病は,メラノサイトに対する自己免疫疾患と考えられている。ぶどう膜に多数のマクロファージとリンパ球が浸潤し,活性化されたマクロファージは類上皮細胞または炎症巨細胞となって,破壊されたメラノサイトの色素顆粒を貪食し,慢性肉芽腫性炎症を形成する。しかし炎症細胞の浸潤は,原則的には脈絡膜実質に限局し,脈絡膜毛細管板,ブルッフ膜,網膜色素上皮細胞層,感覚網膜には及ばない。ところが臨床的には,螢光眼底血管造影で示されるように,網膜色素上皮細胞を通して螢光色素が網膜下に漏出し貯留するのであるから,網膜色素上皮細胞には少なくとも機能的あるいは器質的な障害が起こっていることを示唆する。事実,炎症が非常に強い場合,あるいは長期間持続または再燃を繰り返す場合には網膜色素上皮細胞に著明な形態変化を生じる。炎症細胞が網膜色素上皮下に浸潤して,色素上皮細胞は変性,脱落あるいは増殖などの変化が起こる。

眼科手術のテクニック・105

トラベクロトミー:虹彩脱出—強膜弁下のシュレム管の損傷

著者: 寺内博夫

ページ範囲:P.1344 - P.1345

 今回は,露出したシュレム管の内壁を損傷したために虹彩が脱出した2例について解説する。
 〈症例1〉剪刀による強膜弁下のシュレム管内壁の穿孔

今月の表紙

地図状脈絡膜炎

著者: 大野重昭

ページ範囲:P.1337 - P.1337

 地図状脈絡膜炎は白人に多くみられ,日本人では稀である。本病は両眼性の脈絡膜炎であり,病因は不明である。10歳代の後半から60歳代にみられ,男女差はない。
 臨床像は視神経乳頭を取り囲んで,眼底後極部に地図を広げたように脈絡膜炎が徐々に進行する。本病では脈絡膜,脈絡毛細管板,網膜色素上皮に病変の主座がある。

臨床報告

上顎洞炎に続発した眼窩部ガス壊疽の1例

著者: 大谷久遠 ,   渋谷潔 ,   難波克彦

ページ範囲:P.1352 - P.1357

 48歳男性の上顎洞炎に続発した非クロストリジウム性眼窩部ガス壊疽の症例を報告した。症例は右頬部痛,右眼瞼腫脹,右視力低下のため当科を受診した。初診時,右眼圧上昇,右中心フリッカー値と右対光反射の低下,右眼球結膜の浮腫・充血,右眼底に網膜静脈の怒張・蛇行と網膜出血を認めた。CTで右上顎洞内の陰影と右眼窩内および右眼窩周囲皮下組織に泡沫状のガス像がみられた。本症例の起炎菌として非クロストリジウム性嫌気性菌を想定し,早期に上顎洞根本術,眼窩開放術などの好気的外科処置を行い,リンコマイシン系を中心とした抗生物質を投与したところ,後遺症を残さず治癒することができた。

出産後に増殖病変が停止した糖尿病網膜症2例

著者: 秋澤尉子 ,   佐々木秀次 ,   添田仁 ,   薬師寺史厚 ,   小林信一 ,   酒井徳子

ページ範囲:P.1365 - P.1369

 27歳と30歳の妊婦に糖尿病網膜症が発見された。それぞれ妊娠7週と10週時には,網膜症は非増殖型であった。強化インスリン療法と汎網膜光凝固が開始されたが,網膜症はさらに進行して増殖型になった。産後に網膜症は寛解をはじめ,産後1年目には非増殖型になって安定した。糖尿病の厳格なコントロールと汎網膜光凝固が行われれば,妊娠中の糖尿病網膜症が産後に良好な経過をたどることを示す例である。

網膜剥離を伴う裂孔原性硝子体出血への硝子体手術

著者: 引地泰一 ,   広川博之 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.1371 - P.1373

 硝子体出血のため眼底が透見不能で,硝子体手術の施行時に裂孔原性網膜剥離が発症していた9例9眼の経過を検討した。すべて紹介患者であり,硝子体出血から当科初診までの期間は平均23日であった。初診時の超音波とERG検査で,全例に網膜剥離のあることが推定され,うち8眼は広範囲な網膜剥離であった。手術時にPVRがgrade C以上に進行していた4眼では,硝子体出血発症から当科初診までに3週以上が経過していた。PVRが高度な1眼ではシリコンオイルの抜去が困難であったが,他の8眼では網膜の復位が得られた。眼底が透見不能な裂孔原性硝子体出血の治療成績を向上させるためには,PVRが重篤化する前に硝子体手術を行うべきであり,患者を最初に診察した眼科医と網膜硝子体専門医との連携が重要である。

両眼同時小切開白内障手術を施行したダウン症候群の1例

著者: 島貴久 ,   徳田美千代 ,   水野勝義

ページ範囲:P.1375 - P.1378

 ダウン症候群の25歳男性の両眼白内障に対し,全身麻酔下で小切開白内障手術と後房レンズ挿入を行った。術式として,耳側輪部強角膜1面切開を選択した。術後経過は良好で,日常生活と視行動が著しく改善した。白内障術後の眼球保護のため、保護シールドの装用が有効であった。

Aspergillus nigerによる内因性真菌性眼内炎の1例

著者: 戸田晶子 ,   白井正一郎 ,   池田晃三

ページ範囲:P.1379 - P.1382

 43歳女性が胆嚢疾患で開腹手術を受け,術後に経静脈高栄養輸液が行われた。術後3週に熱発があり,播種性血管内凝固症候群DICが発症した。両眼の飛蚊症のため,術33日後に眼科に紹介された。眼底には後極部を中心に黄白色の滲出斑があり,真菌性眼内炎が疑われた。抗真菌剤は右眼に対しては無効であり,眼科初診から45日後に硝子体手術が行われた。採取した硝子体からAspergillus nigerが分離された。術後の経過は良好で,病巣は瘢痕治癒した。本症例は,真菌性眼内炎が抗真菌剤に反応しない場合には,良好な視機能転帰と病原体を同定するために,早期の硝子体手術が必要であることを示している。

先天前眼部形成不全の臨床所見

著者: 葉田野悦子 ,   仁科幸子 ,   東範行

ページ範囲:P.1383 - P.1386

 先天前眼部形成異常48例63眼を角膜の混濁部位によって3群に分類し,臨床所見を比較検討した。中央のみ混濁10例14眼(A群),周辺のみ混濁5例6眼(B群),全体の混濁または中央から周辺までの混濁33例45眼(C群)である。前眼部ぶどう腫11例11眼がC群に含まれていた。前眼部ぶどう腫を除くと各群とも小角膜であった。緑内障の合併が2眼にあった。角膜輪部の形成異常が33例44眼(70%)にあった。眼底の異常が7例にあり,視神経萎縮1眼,視神経低形成3眼,黄斑低形成2眼,コロボーマ1眼であった。全身合併症が5例にあり,多発奇形,上顎骨形成不全,歯牙形成不全,心室中隔欠損,小頭症各1例であった。従来Peters奇形などと診断されていた前眼部先天異常には,障害が眼球全体に及ぶ事例のあることが明らかになった。

眼トキソカラ症4例でのヒト蛔虫RAST検査の有用性

著者: 酒井理恵子 ,   川島秀俊 ,   田邊和子 ,   釜田恵子

ページ範囲:P.1389 - P.1394

 眼トキソカラ症4例を経験した。後極部腫瘤型3例と周辺部腫瘤型1例であり,犬蛔虫Toxocaracanisに対するELISAを他施設に依頼した結果,全例が陽性であった。その結果が得られる前に早急に治療を開始する必要があったので,簡便に検査ができるヒト蛔虫Ascaris lumbricoldesに対するRAST検査をまず行い,3例で陽性であった。ヒト蛔虫へのRAST検査は山治療を早期に開始するための補助診断として有用であった。

虹彩レトラクターを使用した白内障手術後の瞳孔動態

著者: 湯口琢磨 ,   大鹿哲郎 ,   沢口昭一 ,   海谷忠良

ページ範囲:P.1395 - P.1400

 小瞳孔を伴い,虹彩レトラクターを用いて超音波白内障手術・眼内レンズ挿入術を行った11例12眼の術後瞳孔動態について検討した。瞳孔動態は,イリスコーダを用いて測定し,合併症のない白内障手術患者20例20眼をコントロールとし,比較した。虹彩レトラクター使用群は,光刺激後の最小瞳孔面積値が有意に高値を示し,縮瞳率,散瞳速度の最高値,縮瞳速度の最高値が有意な低値を示した。ピロカルピン長期点眼例や,虹彩レトラクター装着時の瞳孔面積が25mm2を超える例では,さらに初期状態の瞳孔面積値も有意な高値を示し,弛緩し,運動の乏しい瞳孔になりやすいことが示された。縮瞳率は長期間低値のままのものが多く,不可逆性の瞳孔括約筋の障害が生じていることが疑われた。小瞳孔例に虹彩レトラクターを用いる場合は瞳孔括約筋の断裂により瞳孔運動が障害されやすく,特に縮瞳や器質化の強い症例には過度の拡張は避けるべきことが示唆された。

Rasmussen症候群の1例

著者: 渡辺広己 ,   冨山陽介

ページ範囲:P.1407 - P.1410

 片眼性のぶどう膜炎を伴うRasmussen症候群の1例を経験した。症例は25歳の男性,1歳時に左側半身に及ぶ知覚運動性の部分痙攣発作があり,次第に持続性部分てんかんに進展した。頭部CT検査で右大脳半球に皮質優位の著明な萎縮がみられた。4歳時の眼底検査では,右眼に以前のぶどう膜炎を示唆する軽度の硝子体混濁,視神経萎縮,静脈周囲炎がみられた。各種抗痙攣薬に抵抗し,右半球の萎縮が次第に進行したが,右眼のぶどう膜炎の再燃はなかった。

サルコイド性ぶどう膜炎でのツベルクリン反応と血清アンジオテンシン変換酵素活性測定の診断的意義

著者: 沖波聡 ,   菊地順子 ,   齋藤伊三雄 ,   石郷岡均 ,   鈴間泉 ,   喜多美穂里 ,   桐生純一 ,   小林かおり ,   石田和寛 ,   加藤静一郎 ,   岡本好夫 ,   種村舞 ,   稲田晃一朗 ,   根木昭

ページ範囲:P.1411 - P.1414

 サルコイド性ぶどう膜炎を診断する上でのツベルクリン反応と血清アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)活性測定の意義を,組織診断群のサルコイド性ぶどう膜炎56例についてretrospectiveに検討した。40例(71%)でツベルクリン反応が陰性で,38例(68%)で血清ACE活性が上昇していた。26例(46%)はツベルクリン反応陰性で血清ACE活性が高値であり,52例(93%)はツベルクリン反応陰性か血清ACE活性が高値であった。ぶどう膜炎の活動性はツベルクリン反応が陰性であることと関連していた。ツベルクリン反応と血清ACE活性測定の組合わせは,サルコイド性ぶどう膜炎の診断に有用と考えられる。

眼窩および眼球付属器の悪性リンパ腫の9症例

著者: 白井久美

ページ範囲:P.1415 - P.1422

 過去12年間に和歌山県立医科大学眼科で治療された,眼窩および眼球付属器のB細胞性悪性リンパ腫の9症例を報告した。全例とも非ホジキンリンパ腫,8例は眼窩原発性で初診時stage I,残り1例は不明であった。3例は,経過中にstage IIに進展した。分類別にみると,3例はmucosa associatedlymphoid tissue (MALT) lymphoma,2例はlarge cell lymphoma,1例はsmall lymphocytic lymphomal1例はmantle zone lymphoma,1例はintermediate lymphocytic lymphoma (ILL),1例はlymphop-lasmacytomaであった。
 3例はまず放射線療法を施行し,そのうち2例は再発した。別の3例はまず化学療法を施行し,そのうち1例は再発した。1例はステロイド結膜下注射で経過観察中である。2例は経過観察のみ行っている。進行は緩徐であるが,完全な治瘉は容易ではないと考えられた。

硝子体手術中に生じた駆逐性出血の2例

著者: 敦賀孝典 ,   中野賢輔 ,   溝手秀秋 ,   奈良井章人 ,   皆本敦 ,   三嶋弘

ページ範囲:P.1423 - P.1425

 裂孔原性網膜剥離に対する硝子体手術中に高度の駆逐性出血が2眼に生じた。第1例は30歳男性で−10Dの近視があり,第2例は41歳男性で−11Dの近視があった。駆逐性出血は,第1例では初回と3回目の硝子体手術中に,第2例では2回目の硝子体手術中に起こった。駆逐性出血は,両症例とも,手術操作が終了し強膜創を縫合ずる時に生じた。発症要因として,高度近視,脈絡膜剥離,複数回の長時間手術が推定された。これらの要因がある症例には,手術時間の短縮,術中に高い灌流圧を設定すること,再手術時の強膜創の位置の変更,強固な縫合が必要であると考えた。

眼犬回虫症の診断におけるヒト回虫RASTの有用性

著者: 山岸智子 ,   湯浅武之助 ,   藤井節子

ページ範囲:P.1427 - P.1431

 犬回虫症の診断法として免疫血清学的検査があるが,実施できる施設に限りがある。近縁種の回虫間では抗原性が類似するため,交差反応性を利用することより,商業的臨床検査施設で行われている回虫radio-allergo-sorbent test (以下,RAST)が,眼犬回虫症の簡便な免疫血清学的検査法として利用できないか検討した。眼所見より眼犬回虫症を疑われた12例に,犬回虫の抗体酵素標識免疫測定法(以下,ELISA)と回虫RASTを行い,比較検討した。回虫RAST,犬回虫ELISAともに陽性となったものは12例中8例,犬回虫ELISAのみが陽性となったものは4例であった。このことより,回虫RASTは眼犬回虫症診断の補助検査として有用ではないかと思われる。

先天緑内障を伴ったAxenfeld-Rieger症候群の2症例

著者: 勝島晴美 ,   永坂嘉章 ,   丸山幾代

ページ範囲:P.1433 - P.1436

 両眼に先天緑内障を伴ったAxenfeld-Rieger症候群の2症例(2歳女児と2歳男児)にトラベクロトミーを行い,術後36か月間観察した。症例1の両眼は術後無治療で眼圧正常となり,視神経乳頭陥凹のC/D比が改善した。症例2は点眼治療を必要とし,右眼は眼圧が正常範囲にあるが,左眼は眼圧コントロールがやや不良であつた。生体顕微鏡検査で虹彩索状物による隅角閉塞が症例1の左眼にみられたが,限局性であった。眼圧上昇機序としてシュレム管および線維柱帯の発育異常が推測された。

カラー臨床報告

原発性Fuchs角膜内皮ジストロフィの1例

著者: 寺西千尋

ページ範囲:P.1347 - P.1351

 6年前,59歳女性が30歳頃からの目のかすみと充血で受診した。両眼角膜内皮障害による角膜浮腫と診断し,このとき以来,両眼角膜中央にcornea guttata,角膜後面沈着物と実質の浮腫混濁が認められている。左眼には小水疱を伴う上皮浮腫が生じたが,ソフトコンタクトレンズ装用で自覚症状は改善した。現在の矯正視力は左右とも0.3である。スペキュラーマイクロスコピーで多数のdark areaと内皮細胞の大小不同がみられた。虹彩炎は過去6年間まったくみられなかった。本症例は日本ではまれな原発性Fuchs角膜内皮ジストロフィと診断した。

強度近視眼の網膜断層像

著者: 高野守人 ,   丸山泰弘 ,   岸章治

ページ範囲:P.1359 - P.1363

 強度近視37眼と黄斑円孔網膜剥離6眼の網膜断層像を,光学的干渉断層計OCTで検索した。後部ぶどう腫のない5眼では,網膜は正常の層構造を示し.厚さも正常であった。後部ぶどう腫が浅い4眼では,網膜は正常の層構造を示したが,厚さが減少していた。後部ぶどう腫が深い28眼のうち,17眼では網膜はさらに菲薄化し,層構造が不明瞭であった。他の11眼では網膜分離があり,うち9眼では中心窩に網膜剥離があった。この11眼に黄斑円孔はなかった。黄斑円孔網膜剥離6眼には網膜分離はなく,網膜厚はほぼ正常であった。後部ぶどう腫のある強度近視眼では,黄斑円孔が形成される前に,網膜分離と網膜剥離が高頻度に生じていることが明らかになった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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