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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科53巻10号

1999年09月発行

雑誌目次

特集 インフォームドコンセント時代の眼科外来診療マニュアル—私はこうしている

巻頭言—インフォームドコンセント時代ゆえのムンテラの重要性

著者: 三宅養三

ページ範囲:P.8 - P.9

 1989年の増刊号に,鹿野信一先生の責任編集で「眼科外来診療マニュアル—私はこうしている」が出版されました。10年後にこれを改訂するにあたり「インフォームドコンセントの時代」を意識し,患者さんへの説明を重視し,患者さん参加型の外来診療を進める増刊号を企画しました。
 現在,巷には多くの眼科の教科書が出版されております。新しい治療法など,どれも内容が豊富なのですが,ほとんどの本に「ムンテラ」という治療に関しては触れられておりません。

診療録記載法

著者: 白井正一郎

ページ範囲:P.11 - P.13

 最近の医学・医療の進歩とともに,患者の権利意識の向上に伴い,診療録の意義がますます高まってきている。診療録はただ単に医師の覚え書きではなく,法的に規定された文書である(表1)。今日では,診療録は医師が患者のために作成する文書であるから,患者の求めがあれば診療録を開示すべきだとの議論が盛んになり,医師自らも診療情報を積極的に提供することで患者が疾病と診療の内容を十分に理解し,医師と患者が相互に信頼関係を保ちながら,共同して疾病を克服しようとの考えが示されている。したがって,これからはいつ診療録の開示が求められても応えられるように内容を整えて記載しておくべきである。

外来検査と鑑別ためのdecision tree

著者: 土坂寿行

ページ範囲:P.14 - P.19

 眼科領域の自覚症状は数十の主訴に分類されるが,同一の主訴でも各人の訴えは百人百様であり,正確な診断を行うためには,十分な問診と検査が必要である。しかし,実際に診察を進めるにあたって,いたずらに多くの検査を行うことは,患者の負担を増すばかりであり,可能性の高い疾患を念頭において適切な検査を行うべきである。
 ここでは主訴を視力低下や視野異常など,視覚に関する眼科固有の症状と,疼痛に代表されるような全身のどの器官にも共通して出現する症状とに大別し,一般的な診察の手順を示す。なお,外傷や先天奇形など総括的なdecision treeにそぐわない疾患は直接各論を参照されたい。

外来診療のポイント(主訴から診断まで)—私はこうしている

視力低下—片眼の急激な視力低下

著者: 堀尾直市

ページ範囲:P.20 - P.21

 “片眼の急激な視力低下”という主訴で患者が来院した場合,その障害部位は,前眼部から中間透光体,眼底,視神経,大脳に至るまでの広い範囲のいずれかに存在する。したがって,診断には矯正視力検査などの眼科の一般的な検査からCTやMRIなどの特殊検査まで必要となることがある。ここでは,前眼部から眼底までの一般的な眼科検査による診断をフローチャート1に,視神経以降の特殊検査を含めた診断をフローチャート2に示した。ただし,不必要な検査はなるべく避けなければならないと同時に,原因疾患が1つとは限らないことも念頭に置く必要がある。
 この項では,各検査で異常所見が認められた場合に考え得る疾患を挙げ,さらに詳細な内容については参照項目を紹介した。なお,外傷による視力低下は除外した(p.154「眼外傷」参照)。

視力低下—両眼の急激な視力低下

著者: 門正則

ページ範囲:P.22 - P.24

 両眼の急激な視力低下を主訴として患者が来院することは,比較的稀と考えられる。しかしながら,患者は非常に強い不安を抱いており,迅速な対応が望まれる。本稿では両眼の急激な視力低下として,両眼ほぼ同時に視力低下をきたすものから発症時期に数週の差があるものまでを対象とする。また,眼外傷が原因のものは他稿に譲り,非外傷性疾患について述べる。
 両眼に急激な視力低下をきたした場合,その原因疾患は,A)一般的に両眼性の視力低下をきたす疾患 B)一般的に片眼性の視力低下をきたす疾患で あるが,両限性となることも比較的多い疾患 C)両眼性となることが稀な片眼性の疾患とに大きく分類できる。両眼性の疾患の場合,通常は発症時期にずれのある疾患が,偶然ほぼ同時期に発症することもある。C)については,前項(p.20「片眼の急激な視力低下」を参照されたい。両眼の急激な視力低下をきたす代表的疾患を表1に挙げた。

視力低下—片眼または両眼の緩徐な視力低下

著者: 奥芝詩子

ページ範囲:P.25 - P.27

 片眼または両眼の緩徐な視力低下を主訴に患者が受診した場合,その原因は,屈折異常,前眼部病変,中間透光体の異常,網脈絡膜疾患,視神経疾患,頭蓋内疾患と多岐にわたる。外来診療においては,問診,矯正視力検査,細隙灯顕微鏡検査,眼圧測定,眼底検査と一般的な検査を進め,それでも診断が確定しない場合は,視野検査,螢光眼底造影検査,X線検査,CT, MRIなどの検査を進めていく必要がある。患者の症状から判断して,適切な検査を順時選択していくことが大切である。フローチャートでは,日常診療を想定した診察の手順,鑑別のポイント,合併症状などを簡単に示す。

小児の視力低下

著者: 三宅三平

ページ範囲:P.28 - P.29

 小児の視力低下の診断においても,器質的な疾患や屈折異常などの検査をすれば診断できる疾患を見逃さないようにすることは当然である。しかしながら視覚の発達過程にある小児では成人例とは異なり,常に弱視の存在を念頭に置いて診断を進めることが必要となる。このことは視力低下を診断する際に必須であるばかりでなく,原因疾患の治療中に医原性弱視を作らないようにするためにも重要である。また,小児の視力低下は,ときに心因性の因子が関与することもあるので,これにも留意しなくてはならない。

白色瞳孔

著者: 鈴木純一

ページ範囲:P.31 - P.33

 白色瞳孔(Leukocoria)は一般に瞳孔領が白色にみえる病態を示し,網膜芽細胞腫に代表されるように小児眼科の領域で重要な所見である。表に示すように白色瞳孔で受診した患者の58%は網膜芽細胞腫であるが,それ以外では第一次硝子体過形成遺残(PHPV)(11.8%),コーツ病(6.8%),眼回虫症(6.6%)で,以下,未熟児網膜症,網膜過誤腫,脈絡膜欠損などである。広義の白色瞳孔には白内障も入れることがあるが,それを除くと上記の疾患の大部分は乳幼児,小児に多くみられ,網膜硝子体を中心とした重篤な先天性,後天性の疾患である。

視野狭窄

著者: 古野史郎

ページ範囲:P.34 - P.37

 “インフォームドコンセント時代の視野検査”との題を戴いたとき,日本の医療事情も随分と変わったなという思いが頭に浮かんだ。本来インフォームドコンセントは,非人道的な医学実験が戦時に行われたことに対して強く反省がなされたニュールンベルグ綱領を,世界医師会がジュネーブにおいて採択した1948年に始まり,1964年「ヘルシンキ宣言」において大枠が決まる。その後アメリカでの1960年代後半の公害反対運動,反戦運動,人種差別反対運動などの市民運動の高まりの中で「医療の決定権は患者側にあるべき」との声の高まりが現在のインフォームドコンセントの枠組みとなっている。そしてこの頃からアメリカは,訴訟大国となっていった。日本でのインフォームドコンセントは,1994年国立がんセンター内で検討が始まったのをきっかけに,厚生省が1995年にインフォームドコンセント検討部会を発足したのが始まりである。その後アメリカを手本としたインフォームドコンセントという外来語のまま,その内容もそのまま,日本でこの言葉は一人歩きを始めた。

羞明

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.38 - P.40

 羞明photophobiaは,「まぶしい」という症状の医学川語である。「まぶしさ」には,正常なものと,病的なものとがあるが,羞明は後者を指す。正常者でも「まぶしさ」を感じることが多くあり,近年のオフィスビルの照明環境や過剰な照明下では,必ずしも病人とは言えない人々が「まぶしさ」を訴える。照明学の用語で「グレア」もこの「まぶしい」を表現するものである。最近では,白内障・屈折手術などの術前・術後評価などのときに,この「グレア」という用語が眼科領域でも用いられることが多くなった。筆者が調べ得た範囲で,現在のこれらの用語の使われ方をまとめてZoom upに示した。
 羞明を訴える疾患には,次頁の表のようなものが挙げられる。

中心暗点

著者: 高橋洋司

ページ範囲:P.41 - P.44

 中心暗点は患者にとって最も敏感に感じ取られ,場合によっては非常にもどかしがる症状の1つである。本であれテレビであれ,読もうとするところ,見ようとするところが見えない,あるいは見えづらいのは非常に苦痛なことである。両眼であれば,日常の視覚生活のかなりの部分が障害されることになる。場合によっては仕事をやめなくてはならない状況に陥るかもしれない。片眼であれば健眼で日常生活は可能かもしれないが,両眼開放下の日常視では不同視に類似した症状,すなわち左右眼のアンバランスによる不快感,立体視の障害など,微妙にquality of life(QOL)に影響を投げかける。

光視症・虹視症

著者: 引地泰一

ページ範囲:P.45 - P.47

光視症
 光視症は,視野の一部分に瞬間的に光を自覚する症状である。光の形や光が発生する視野の位置,他の随伴症状などは光視症の原因によってそれぞれ特徴があり,これらの情報から光視症の原因を類推することができる。しかし日常診療では,教科書に記載されているような典型的な症状を患者自らが訴えて来院することは少ない。言葉で表現された自覚症状は,主観的な自覚症状にさらに主観的な言語表現が加わり,きわめて多彩になる。光視症の原疾患の診断には,鑑別診断を進める上で重要ないくつかの項目を,問診を通じて聞き出し,情報を取得し,患者の多様な訴えを原因ごとの典型症状へと分類していく必要がある。光視症の原因診断には問診が最も重要であることを強調したい。
 閃輝暗点を光視症の一部として分類するか否かについて,その取り扱いは教科書によりまちまちである。しかし臨床の現場においては,光視症の鑑別として閃輝暗点を必ず考慮しなければならず,問診によって両者の鑑別が進められていく。そこで本稿では,片頭痛の前兆としてみられる閃輝暗点を光視症に含め記載することにする。

近見障害

著者: 平井宏明

ページ範囲:P.48 - P.50

 現在のキーワードに,情報化と高齢化が挙げられる。コンピュータの情報端末であるVDT(visual display terminaL)がOA化の急速な進展とともに社会のすみずみまで人り込み,近業作業が増加するとともに,近見時の疲労などを訴える人が増えている。また,高齢化社会とともに,調節力の低下した中高年者が現役として働く機会が増加している。この場合にも,近見障害を訴え眼科外来を受診する。これらの患者にどう対処すべきなのだろうか。

飛蚊症

著者: 川崎勉

ページ範囲:P.51 - P.53

飛蚊症とは。訴えは飛蚊症か
 飛蚊症とは視野の中に虫のように飛び同る浮遊物が見える症状である。中間透光体にある細胞や混濁などの物質が,網膜に影をおとすために生じる症状であり,以下の特徴を有している。

夜盲

著者: 北勝利 ,   白尾裕

ページ範囲:P.54 - P.57

 夜盲すなわち暗所視覚の低下は種々の疾患で起こりえる。表1に主な夜盲の原因疾患を列挙する。

眼痛

著者: 井上治郎

ページ範囲:P.58 - P.60

はじめに注意すること
 目が痛いという主訴で外来を受診する患者は非常に多いが,そのなかにはやっかいな患者が少なくない。痛みというのは自覚的なものであるから,患者の感じ方が大きい要素になっている。ほんのささいな痛みを大げさに訴えてきて,何も所見がなくて困ることもしばしばある。痛みの原因を見いだして,それに対して治療することが大切であるが,痛みの治療は一般眼科だけでなく,精神医学的な要素も入ってくる。

変視症

著者: 飯田知弘

ページ範囲:P.61 - P.63

 変視症は,さまざまな黄斑疾患でまず必発の症状である。最近では,黄斑疾患の病態の理解と治療法が進歩して,光凝固だけでなく硝子体手術によるアプローチも広く行われるようになってきた。しかし,眼底所見の改善が得られても患者さんの十分な満足が得られないことをしばしば経験する。これは単に視力だけの問題ではなく,変視症もその原因になっていることが多い。

眼脂

著者: 内尾英一

ページ範囲:P.64 - P.66

眼脂とは何か
 「眼脂」とは結膜の分泌物conjunctival dis-chargeであり,痰,鼻汁など身体の他の部位の粘膜分泌物と同様に,水溶性および非水溶性のムチンがその主成分である。また,眼脂には結膜疾患の病原微生物の他に,血管外に漏出した血液細胞,脱落した上皮および崩壊した上皮などが含まれている。
 病態生理学的には,炎症初期に反応性に増加した涙液分泌と漿液性滲出物により「水性眼脂watery discharge」がみられる。次に,杯細胞からの分泌増加によって「粘液性眼脂mucoid dis-charge」となる。ときに,血液細胞の血管外漏出によって「血液膿性眼脂sanious discharge」を呈し,炎症細胞が多数を占めると「化膿性眼脂purulent discharge」となるとされている。

色覚異常

著者: 岡島修

ページ範囲:P.67 - P.70

 色覚異常は先天異常と後天異常とに分けられる。前者は大部分が赤緑異常で,X染色体劣性型の遺伝形式をとる。後者は網脈絡膜疾患,視神経疾患に伴って発現し,青黄異常となることが多い。
 これらの検査には,目的に応じて色覚検査表・色相配列器・アノマロスコープなど種々の検査器具が用いられる。したがって色覚異常を正確に診断するためには,それぞれの器具の使用目的とその限界の正しい認識が必要である。特に先天色覚異常では,進学・就職,遺伝,色誤認の実態など,受診者の疑問にできるだけ答えることも眼科医の責務である、このような説明は,現在治療法のない色覚異常の場合には,治療と同様の意義を持っ重要な診療行為と考えるべきである。

複視

著者: 大塚賢二

ページ範囲:P.71 - P.75

 複視の鑑別診断を行うにあたって重要なことは,常に疾患と病巣を推定しながらそれに合った画像診断などの検査を施行することである。疾患と病巣を推定せずにやみくもにCTやMRIを撮影しても診断できるものではない。疾患と病巣を推定するには,丁寧な病歴の聴取と神経解剖に関する少しの知識と画像診断に関する少しの経験があれば十分である。本稿では,複視の鑑別診断に必要な神経解剖と画像診断の要領を中心に解説する。

先天眼瞼下垂

著者: 瀧畑能子

ページ範囲:P.77 - P.80

 筆者の勤務が小児保健医療センターであるので,主に小児の眼瞼下垂の初診から手術までの外来診療の実際を紹介する。

流涙

著者: 栗原秀行

ページ範囲:P.81 - P.84

 流涙は直接視機能に影響する病変ではないため,日常臨床の現場では訴えが多いにもかかわらず閑却されがちである。しかし患者にとっては間断なき愁訴の源であり,ことにbacteria poolを伴う例では,いつかは周囲組織に対する感染の進展が危惧され,放置されていてよいものではない。
 流涙が涙道の器質的障害に由来するか否か,またその障害に如何に対応すべきかは簡単に判断でき,何ら特殊な器材を必要としない。本稿では視診,通水テスト,ブジーといったどの診療施設にもある器材を用いての,検査の最小限の要点を主体として,患者本人,家族への説明を当院での経験をもとに付記したい。

充血

著者: 坂井潤一

ページ範囲:P.85 - P.88

 眼科を訪れる患者の主訴として,充血は極めて頻度の高い訴えである。また,充血はさまざまな疾患に認められる所見であり,たとえ充血がその疾患の主たる所見でなかったとしても,疾患の重要なシグナルとなる(Zoom up 1参照)。すなわち,充血で初めて病気だと気付き来院する患者が多く,医師にとっては,充血をきたす多彩な疾患を鑑別し(図),そして的確な診断を速やかに下すことが求められ,これが疾患の予後に重大な影響を及ぼす例も少なくない。

ドライアイ

著者: 榛村重人

ページ範囲:P.90 - P.91

 ドライアイは最近こそ認知されてきたが,症例数が多いわりには眼科医の間でもなかなかまともに取り組まれないできたのが実情である。不定愁訴を訴えて来院する多くの患者さんはドライアイである頻度が高いことが明らかとなっている。ただ,ドライアイは「病気でない」という風潮が医師サイドにはある。個人的にはこれは医師の一方的なエゴ以外の何物でもないと考える。重篤な眼疾患の患者さんを失明から守ることこそが眼科医としての生き甲斐であると思うこと自体は立派であるが,その反面,ドライアイのような「軽症」な疾患をないがしろにしていいはずがない。
 本書のテーマであるインフォームド・コンセントの概念は,患者さんが納得する説明をすることに最も重点を置いている。すなわち,「病気ではない」や,「大したことない」という説明はインフォームド・コンセントの精神から完全に逸脱していると考えざるを得ない。1998年にわれわれが施行した一般人対象のアンケートの結果では,「ドライアイ」を「知っている,あるいは聞いたことがある」人は驚くことに7割近かった1)。自分はドライアイかもしれないという患者が初診で来院する可能性が高い今日では,眼科医としてもドライアイに対する適切な知識と,患者さんへのインフォームド・コンセントを行って治療を進める意志がなければならない。

掻痒

著者: 篠崎和美

ページ範囲:P.92 - P.94

 眼の痒みが主訴の場合,アレルギー性結膜炎のことが多い。掻痒は,眼球周囲の皮膚,結膜,角膜などの刺激により,掻きたくなるような感覚であり,皮膚痛覚神経終末の弱い興奮,炎症によるヒスタミンなどのケミカルメディエイターが神経終末に作用して症状が生じると考えられている。したがって,掻痒をきたす疾患を表1にまとめたが,花粉症やアレルギー性結膜炎以外の結膜疾患,眼瞼,角膜疾患にわたり鑑別していく必要がある。また,これらが合併していることもある。これらを鑑別するには,十分な問診,視診,検査が必要である。検査の手順は図に示す。

眼精疲労

著者: 梶田雅義

ページ範囲:P.95 - P.98

 眼精疲労とは「眼を持続して使ったとき,健常者では疲れない程度の作業でも疲れを生じ,眼の重圧感,頭重感,視力低下,ときには複視などを訴え,はなはだしいときには悪心・嘔吐まできたす状態」をいう。本症は眼の使用状態,眼の能力および眼あるいは精神的な耐える力の三者がバランスを崩したときに発症すると考えられる(図1)。
 エレクトロニクスの進歩によって,小型液晶画面を用いたゲーム機やシステム手帳,ワープロ,パソコンなどが汎用され,視覚情報量はすでに飽和状態にある。眼精疲労の原因として,屈折異常の不適正矯正は依然として大きな割合を占めている,眼が疲れるから眼鏡を新しくしたという患者の多くは,完全矯正に調整された,あるいは以前より近視寄りに調整された眼鏡を装用している。患者の作業環境を全く無視した眼鏡の処方が眼精疲労をさらに助長するが,これに気づかれないまま苦しみ続けている患者に遭遇する機会は多い。眼科医として眼が原因の眼精疲労は見逃してはならない。

外来診療のポイント(所見からみた疾患)—私はこうしている

屈折異常・調節異常

著者: 二神創

ページ範囲:P.99 - P.102

屈折異常
 屈折異常の矯正は眼科においてまず最初に行う検査であり,その診療は眼科医にとって最も基本的かつ重要な手技の1つである。その病態はさまざまであり,年齢,疾患,職業などにより矯正方法も考慮する必要がある。特に乳幼児では良好な視機能の獲得のために,早期に屈折異常を発見し,治療を開始することが重要である。

眼瞼・涙嚢部腫脹

著者: 田邊吉彦

ページ範囲:P.103 - P.105

眼瞼部の腫脹
 眼瞼部の腫脹原因には,アレルギーをはじめ多くのものがある。疾患のそれぞれによりインフォームドコンセントも治療も異なるので,筆者がこれまで経験したものを紹介する。

角膜診療

著者: 外園千恵

ページ範囲:P.106 - P.111

 角膜診療では,詳細かつ的確に前眼部所見をとることが基本となる。本稿では前眼部所見をもとに鑑別疾患を記載し,各疾患について記載した。

前房虹彩異常

著者: 高野雅彦

ページ範囲:P.112 - P.115

 細隙灯顕微鏡検査により得られる前房虹彩の異常はぶどう膜炎の発見,診断に必須である。前房の詳細な観察は虹彩毛様体炎の存在をとらえるために重要であるが,隅角の観察もぶどう膜炎の診断のためには必要不可欠の検査である。また,角膜裏面の異常所見である角膜後面沈着物についても,詳細にその性状を観察することで,肉芽腫性か非肉芽腫性であるか分類できるなど,前眼部炎症の一つの表現形として診断の補助となることが多い。解剖学的に前房を形成する組織である角膜裏面,虹彩,隅角,ときに水晶体前面には前眼部炎症に伴う異常所見がみられ,それら個々の異常を切り離して考えることはできない。それぞれの所見を正確にとらえ,さらにそれらの異常所見を総合的に判断することにより診断へ導く姿勢が要求される。
 ここでは細隙灯顕微鏡を使った前眼部の観察と隅角検査について,その観察法と所見,主にぶどう膜炎の鑑別疾患に必要な異常所見についてふれる。

水晶体異常

著者: 馬嶋清如

ページ範囲:P.116 - P.118

 水晶体は凸レンズ状の透明な無血管組織であり,屈折,調節,紫外線吸収という3つの大きな役割をもっている。こうした視覚の光学系としての機能を十分に果たすためには,水晶体の存在する位置,形,透明性が重要である。毛様小帯による懸架に異常があって位置が偏位したり,凸レンズの形状に異常が生じたり,また水晶体に混濁が出現したりすると,視機能に障害が生じる。
 水晶体疾患は,前述のように位置,形,透明性を評価することで診断が可能となるが,虹彩が存在することにより通常の細隙灯顕微鏡検査では瞳孔領の水晶体しか観察することができない。それゆえ,水晶体を詳細に観察し疾患を発見するには,散瞳状態での観察が必要となる。この際,前房の深さに注意しなければならないことは言うまでもない。

滲出性網脈絡膜異常

著者: 小竹聡

ページ範囲:P.119 - P.121

 ここでは滲出性網膜剥離を呈する疾患および網膜滲出斑を呈する疾患について触れる。

硝子体,網膜・硝子体界面異常

著者: 斉藤喜博

ページ範囲:P.122 - P.125

 硝子体は眼球容積の主要部分を占める透明組織であり,正常人での容積は約4mlで99%は水,残りはピアルロン酸,コラーゲンからなる。硝子体は後部硝子体膜といわれるコラーゲン密度の濃い状態で網膜と接着しており,加齢などにより硝子体基底部以外の部分は網膜から分離する(後部硝子体剥離)。後部硝子体膜は組織学的な膜構造をもたないが,臨床的に膜であり,硝子体剥離の前後で臨床的にさまざまな疾患の原因となる。
 網膜は簡単に観察されるが,硝子体は観察しにくく,この界面が原因と病態の場となる疾患であるので,眼科的診断機器を十二分に活用して精査を行い,正しい治療法へ導くことが重要である(Zoom up 1,2参照)。

眼底色素沈着

著者: 長田正夫

ページ範囲:P.126 - P.128

 眼底色素沈着の色は黒色が主である。他にも黄色斑眼底のような黄色,白色などがあるが,ここでは黒色色素沈着に限定して述べる。
 眼球には多くの色素細胞があり,正常限底なら色素沈着としてみられることはないが,その色素細胞が正常状態から逸脱すると色素沈着として観察される。その色素は糸網膜色素上皮細胞と脈絡膜色素細胞から発生し,眼底に色素沈着を生じる疾患には多数のものがある。それらを鑑別するために以下のことを判断材料にする。

出血性網脈絡膜異常

著者: 島田宏之

ページ範囲:P.129 - P.132

糖尿病網膜症
 1.治療方針決定のための診断
 糖尿病網膜症は,一般的に単純糖尿病網膜症,前増殖糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症の大きく3つの病期と,糖尿病黄斑症に分類すると治療方針を決定しやすい。

結膜異常

著者: 秦野寛

ページ範囲:P.134 - P.137

 結膜異常の大半は結膜炎である。そのほか変性,腫瘍もある。結膜炎は感染症と非感染症に分けると診療上便利である。感染症は細菌,ウイルス,クラミジア感染による。非感染症はある意味でアレルギー反応を原因とする疾患群とドライアイを結果とする疾患群に大別できる。変性は翼状片が代表で,結膜腫瘍は稀である。

乳頭異常

著者: 敷島敬悟

ページ範囲:P.138 - P.140

 視神経乳頭の異常をみたら,まず何をすべきか。MRIなどの両像検査や近年進歩が著しいレーザー光を用いたデジタル眼底検査はあくまでも補助診断であり,病因診断には寄与しないことが多い。大切なことは,詳細な病歴の聴取,視機能の評価,ポイントを押さえた神経乳頭部の観察である。視神経疾患の原因は多岐にわたり,治療,予後も自ずから異なるため,的確な診断が要求される。

高眼圧・低眼圧

著者: 富田剛司

ページ範囲:P.141 - P.145

 眼科診療において,眼圧は測定しなければその所見は得られない。特に高眼圧では自覚症状の全くないことも多く,それがほとんどであると考えても大きな間違いではない。このことから,日常診療において眼圧は,少なくとも初診患者にはルーチンに行われるべき検査である(Zoom up 1参照)。
 本稿では眼圧の異常所見として,高眼圧あるいは逆に低眼圧を認めた場合にどのように対処していくかを概説する。

眼位異常

著者: 佐藤美保

ページ範囲:P.146 - P.149

 斜視は眼科のなかでも特殊な分野と思われ,敬遠されがちである。しかし,基本となる診察方法を身につけることにより,正確な診断を行い,適切な治療方針をたてることは可能である。
 大きく分けて眼位異常に患者が気付いて来院する場合と,気付かずに来院する場合がある。また,小児期に親が気付いて来院する場合と,複視を主訴に本人から受診する場合があり,それぞれ対応の仕方が異なってくる。病状や治療方針の説明は前者では両親に対して,後者では本人に対してなされることになる。

眼瞼痙攣

著者: 中泉裕子

ページ範囲:P.150 - P.153

 眼輪筋に間歇性,強直性に不随意的に痙攣が生じる状態を眼瞼痙攣という。女性に多く,中高年齢層に多いとされている。原因不明で慢性に進行し,治療に苦慮する。
 眼瞼痙攣の治療はこれまで内服治療,観血的治療,顔面神経ブロックなどの対症療法が行われていたが,いずれも根治的に治癒させることは困難である。

眼外傷

著者: 稲富誠

ページ範囲:P.154 - P.157

 眼の外傷には打撲,刺傷,裂傷,化学薬傷,熱火傷などがあり,眼瞼損傷,眼球損傷,内眼損傷,骨折などの病態がある。その対応は応用問題的で,かつその予後のよくない例も多い。外来では診断,治療も大切であるが,病態,治療方法,予後についての説明やインフォームドコンセントも大切である。
 ここでは眼外傷を見た場合に,考慮すべき疾患の診断を中心に,治療と治療方針,留意点などについて簡単に述べてみたい。

心因性視覚障害

著者: 山出新一

ページ範囲:P.158 - P.161

 心因性視覚障害は手術や投薬で治療するものではないので,書類としてのインフォームドコンセントとはあまり関係がない。しかし「インフォームドコンセント時代」というのは書類そのものではなく,医師—患者間の十分な意思疎通が要求される時代という意味であり,その意味で心因性視覚障害に求められる対応も他の疾患と変わるところはない。
 心因性視覚障害というと「原因不明の視力障害」というイメージが強く,診断が難しい,あるいは鑑別すべき疾患を十分に除外しなければならないと考える傾向がある。確かに手術や投薬で治すという性質のものではないので,単純に割り切ることは難しく,眼科としては扱いにくい点がいろいろとあることは事実である。しかしその特徴を理解していれば,少なくとも典型的な症例の診断は決して難しいことではない。心因性視覚障害を扱うポイントについて筆者が日ごろ心がけていることを述べてみることにする。

VDT作業の眼科

著者: 渥美一成

ページ範囲:P.163 - P.167

 現在われわれはほとんどの情報を視覚機能から得ている。その最も代表的なものがVDT (visualdisplay terminal)に代表されるコンピュータと一緒になった情報機能端末装置である。
 これまでわれわれの視覚機能はテレビに代表される一方通行の情報であったが,現在は個々の人間がインターネットを通じて双方向作業をこなす。それも1つの画面で1つの仕事をするわけではなく,4画面分割とか6画面分割のように,同時に多くの,なおかつ細かい作業を高速でやらなければいけないという時代になっている。情報高度化は,われわれの視機能にどういう影響を与えるか。また,視覚負担の増加がわれわれに限度を越す視作業を課している可能性がある。

救急

眼科救急外来

著者: 矢部比呂夫

ページ範囲:P.169 - P.175

眼科救急外来での心構え
 眼科救急外来を訪れる患者のうちの大半を占めるのは外傷性疾患であるが,実際にはコンタクトレンズによる角膜上皮障害などの軽微なものがほとんどである。しかし軽微な疾患であっても,患者にとっては眼の異常からくる不安感は想像を超えたものであり,患者は失明の危険さえ感じて気が動転していることが少なくない。また医療サイドにとっても,大多数は緊急性の低い疾患であるものの,一部の症例は救急処置を誤ると失明に至る危険性があることを常に念頭に置かなければならない。眼科救急外来の診療に当たっては常に落ち着き,患者との信頼関係を維持して冷静に対処することが重要である。治療に際しては受傷状況および緊急性を的確に把握し,疾患の緊急性,救急医療計画,予後までを含む的確なインフォームドコンセントが求められる。

眼科診療室でのemergency

著者: 桂弘

ページ範囲:P.176 - P.178

 眼科診療の中で関わる割合の大きい老人は,全身疾患の既往を有する者が多く,螢光眼底撮影を行う場合に限らず,眼科外来において全身状態の急変に遭遇する可能性を考えておく必要がある。もちろん極めて稀であるが,老人以外でも小児の喘息発作など,救急処置が必要な場面はありうる。
 多くの眼科医にとって全身管理は不得手とする領域であるが,日ごろから準備や注意しておくとよい点について述べる。

外来フォローアップの実際

角膜感染症の外来フォローアップ

著者: 高橋圭三

ページ範囲:P.179 - P.182

 角膜感染症は,眼科医が比較的診察する頻度の高い疾患である。この疾患に対する治療法は,きわめてシンプルで,要するに抗菌薬を駆使して病原微生物を死滅させることである。ただし,ここで問題なのはやみくもに薬剤を使用しても効果がないことである。いかに効率よく薬剤を臨床使用するかがポイントとなる。
 本稿では,教科書的な部分はほとんど省略し,角膜感染症に対する一般的眼科外来における自己流戦略について紹介する。

レーザー光凝固後の外来フォローアップ

著者: 大木隆太郞

ページ範囲:P.183 - P.185

 光凝固治療は,外来通院で可能な非観血的な治療であるが,眼組織に及ぼす影響や侵襲は大きく,決して安易に考えてはならない治療法で,術前のインフォームドコンセントには十分心がける必要がある。患者に伝えるべき重要な点は,以下の点である。

緑内障術後の外来フォローアップ

著者: 前田利根

ページ範囲:P.186 - P.188

 緑内障術後眼では眼科手術のありとあらゆる術後合併症を経験する。術後感染症,併発白内障,低眼圧黄斑症,脈絡膜剥離前房消失による角膜内皮障害,角膜内血腫など術後合併症は多岐にわたる。特に術後早期には種々の合併症に遭遇する。このような点から緑内障術後管理は,以前から他の内眼手術後と比較して手間のかかるところであった。またマイトマイシンC併用トラベクレクトミーが広く行われるようになると,その術後管理はさらに複雑になった。
 しかし多様な術後合併症も,通常外来通院を開始するころには一通り出そろい落ちついてくる。このため,外来フォローアップ中に実際に問題となるのは主に眼圧の再上昇であり,稀ではあるが,晩発性の術後感染にも十分気をつける必要がある。

コンタクトレンズ処方後の外来フォローアップ

著者: 渡邉潔

ページ範囲:P.189 - P.192

 コンタクトレンズ(CL)の処方後の診察は,処方直後の診察と約3か月ごとの定期検査に大きく分けられる。処方直後の診察は,そのCLをそのまま使用してよいかをチェックする重要な診察である。定期検査は,CLやケア用品の誤用確認や角結膜の障害の初期変化を発見するのに重要である。

流行性角結膜炎の外来フォローアップ

著者: 石橋康久

ページ範囲:P.193 - P.197

 流行性角結膜炎は眼科外来診療において非常に重要な位置を占め,その取り扱いいかんでその診療施設の一般的な診療レベルが知られるといっても過言ではない。患者にとっては急激な症状で困惑して受診しているわけであるが,反対に診療する側では院内感染の問題が非常に気になるからてある。本当に流行性角結膜炎(EKC)や咽頭綿膜熱(PCF)なのかという診断の問題,患者に十分な説明をしなければならないということ,さらに治療をどう進めるかなどの困難な問題に対処していかねばならず,本当に診療施設の腕の見せ所でもある。
 伝染性という観点から,この稿ではEKC,PCF,急性出血性結膜炎(AHC)をまとめて取り扱う。

眼内レンズ挿入術後の外来フォローアップ

著者: 清水直子

ページ範囲:P.199 - P.202

術後診察のポイント
 1.視力,屈折度の変動
 術直後の屈折度は変動するが,予測値と大幅にずれている場合はパワーミスなどがなかったか再確認する。小切開白内障手術では術後乱視変化が少ないので,約1か月で屈折度が安定し,限鏡作成が可能である。計画的嚢外摘出術では,最終的な眼鏡作成は術後3か月以上経過してからにする。
 術後視力低下は術後1〜3か月では嚢胞様黄斑浮腫(CME)を,術後半年以上では後発白内障を疑う。

網膜剥離術後の外来フォローアップ

著者: 大塩善幸

ページ範囲:P.203 - P.205

 網膜剥離手術後の外来診察の役割は,術後経過良好な例に対する,ただ噂なる創傷治癒過程の観察から,網膜再剥離やさまざまな術後合併症の早期発見といったものまで幅が広い。定期的な患者診察のなかで点眼液などの薬剤を使用する場合もあろうし,思いきって再手術に踏み切る判断が迫られることもある。その際に必要なのが患者との信頼関係である。患者が術後経過観察の目的や重要性を理解し,経過観察により種々の不安から解放されなければならない。

角膜移植後の外来フォローアップ

著者: 平野耕治

ページ範囲:P.206 - P.209

 角膜移植術は近年,提供角膜を強角膜片にして保存する方法が一般的になるにつれて,従来の眼球提供の報告を受けてから患者の緊急入院,同日手術へという方式から,予定手術に近い形で患者の入院計画を立てることができるようになってきた。それに伴い,術前から入院期間内のみならず,外来フォローアップ中に至る流れのなかで,患者や家族への説明,十分な合意のもとでの診療が要求されるようになってきた。
 日常われわれが行っている角膜移植は以下の3つの目的に応じて行われている。

ぶどう膜炎の外来フォローアップ

著者: 鈴木参郎助

ページ範囲:P.210 - P.213

 ぶどう膜炎は急性に発症し短期間で治癒する場合もあるが,再発を繰り返したり,慢性化する場合も多い。したがって,長期に持続するぶどう膜炎から白内障,緑内障などを合併することも少なくない。ぶどう膜炎の治療には,局所あるいは全身へのステロイド投与や免疫抑制薬の全身投与が必要となる場合もあり,これらの薬剤の減量,中止の判断がぶどう膜炎患者のフォローアップにおいて重要なポイントとなる。また,これらの薬剤の眼局所あるいは全身への副作用が問題となる場合も多い。
 このように,ぶどう膜炎患者のフォローアップにおいては,視機能や眼所見だけでなく,全身所見をも考慮する必要がある。

硝子体手術後の外来フォローアップ

著者: 本倉雅信

ページ範囲:P.214 - P.216

 最近の硝子体手術の特徴として,水晶体の扱い如何にかかわらず,徹底的な周辺部処理が可能となってきている。かつて複雑と思われた多数の術後合併症も,現在では比較的理解しやすくなり,整理されてきている。また,手術の変化に伴い,入院期間も少しずつ短縮され,肉体的・精神的負担をいかに軽減するかを目標に,外来でのフォローアップの重要性は今後ますます比重を増すと思われる。
 術後合併症の早期発見と,それに対する迅速な対応がポイントとなる。

点眼薬の副作用

著者: 葛西浩

ページ範囲:P.217 - P.221

点眼薬の特性
 点眼薬は,溶質(薬剤)・溶媒(剤形)・防腐剤(保存剤)・安定化剤・等張化剤・緩衝剤・可溶化剤から構成されている。
 その副作用は,薬剤そのものによる場合と,防腐剤や安定化剤など添加物による場合とがある。また,その病態からみると点眼薬の直接の角膜・結膜組織への毒性による副作用と,薬剤過敏症,いわゆる各種のアレルギー反応による副作用がある。当然それぞれの病態が絡み合い,複雑な様相を呈することも多い(図1)。

集学的治療に必要な他科の知識

糖尿病—いま,内科では

著者: 佐藤寿一

ページ範囲:P.222 - P.225

 1997年秋に厚生省が行った糖尿病実態調査によると,現在の日本では,糖尿病が強く疑われる人は推計で690万人,糖尿病の可能性を否定できない人を含めると約1,370万人に達するという。わが国の糖尿病患者は年々増加しており,その背景には,高エネルギー高脂肪食を中心とした食生活,交通手段の発達および労働のオートメーション化に伴う身体活動度の低下,さらには社会的ストレスの増大などがある。これら糖尿病発症の危険因子にどのように対処していくかが糖尿病診療のポイントである。

人工透析—いま,内科では

著者: 渡邉有三

ページ範囲:P.226 - P.228

 わが国の透析患者数は1998年度で186,251人となり,増大の一途である1)。なかでも糖尿病性腎症を基礎疾患とする者の増加が著しく,今や糖尿病は慢性腎炎よりも多い第1位の疾患となり,この傾向は世界共通である。さらに,高齢化社会を反映して腎硬化症による患者も激増しており,透析導入患者の平均年齢は62.2歳である。このような現況を反映して,糖尿病性網膜症や老人性白内障を有する患者の割合が増え,透析担当医と眼科医との間の密接な連関がますます重要となってきている。

甲状腺疾患—いま,内科では

著者: 中川淳 ,   山田昌代

ページ範囲:P.229 - P.231

 眼科外来において最もよく遭遇する甲状腺疾患といえば甲状腺機能亢進症,いわゆるバセドウ病(Graves病)であろう。甲状腺機能亢進自体は交感神経緊張亢進様病態を招来し,瞼板筋攣縮による瞼裂開大,眼瞼運動遅延,瞬目減少などを引き起こす。しかし眼球突出を中心としたバセドウ病の眼症状の多くは,むしろ甲状腺ホルモンレベルとは独立した病態であり,眼球後脂肪組織あるいは外眼筋の炎症によるものである。
 この眼窩内軟部組織の炎症は,病因論的には甲状腺との間に共通抗原が想定される自己免疫性炎症と考えられており,ときに慢性甲状腺炎患者や甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体抗体(Memo参照)が陽性でありながら甲状腺機能の正常な症例にも発症する(いわゆるeuthyroid Graves病)。さまざまな名称が提唱されているが,ここではthyroid-associated ophthalmopathy (TAO)を使用し,TAOについて自験成績を含め概説する1,2)

リウマチ性疾患—いま,内科では

著者: 大野岩男

ページ範囲:P.232 - P.233

 リウマチ性疾患に眼病変を伴うことはよく知られており,内科医にとって,シェーグレン症候群では乾燥性角結膜炎を,悪性関節リウマチでは上強膜炎を,ベーチェット病,サルコイドーシスではぶどう膜炎をという具合いに,リウマチ性疾患と眼病変を結びつけて考えることは常識になっている。右の表に眼病変を伴う代表的なリウマチ性疾患を示すが,これらのリウマチ性疾患では常に眼病変の合併を念頭に置き,定期的に眼科医のコンサルテーションを受けることは日常診療において重要であり,またリウマチ性疾患自体以外にも,治療(特にステロイド薬治療)に伴う白内障,緑内障のチェックもリウマチ性疾患の経過観察には大切になってくる。
 本稿では代表的なリウマチ性疾患の特徴,治療について概説する。

結核—いま,内科では

著者: 網島優

ページ範囲:P.234 - P.235

 わが国で第二次世界大戦以降順調に減少してきた結核の罹患率は,近年その減少が鈍化する傾向を続けていたが,1997年にはじめて増加に転じた。高齢化のため結核既感染者の再燃が多く,老人保健施設や病院での施設内感染の報告も散見される。また,すでに克服された疾患であるとの誤った認識により鑑別診断として挙がらず,いわゆるdoctor's delayのため,重症となるまで診断がつかないままできた症例も診療することが多いのが現状である。
 近年はAIDS発症者の指標疾患としても診断基準の中に含められ,また厚生大臣より「結核緊急事態宣言」も出されるなど,再興感染症として注目されている。

多発性硬化症—いま,神経内科では

著者: 駒井清暢

ページ範囲:P.236 - P.237

 多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は中枢神経系の代表的な炎症性脱髄性疾患,つまり中枢神経系白質に脱髄巣が空間的・時間的に多発することを主徴とする疾患である。
 MSの症状の1つとして視神経炎はよく知られており,視神経炎症例の30〜50%がMSの部分症であるとされていることから,眼科医のMS診断における役割は重要といえる。ことにわが国では欧米に比べて球後視神経炎などによる視力低下を初発とする例が多く,患者が脊髄や大脳の局所症状を自覚しないままに視力障害を訴えて眼科を訪れることもある。したがって視神経障害が疑われた場合,MSの初発症状や部分症である可能性があり,MS診断と関連の他疾患のためのスクリーニングを行うことが必要となる。ここではMSの一般的な事項の確認と病態と治療についての最近の考え方について概説したい。

サルコイドーシス—いま,内科では

著者: 平賀洋明

ページ範囲:P.238 - P.240

 1869年にHutchinsonが最初にサルコイドーシスを報告して以来,120年の歴史を有するが,いまだ原因不明の,多臓器を侵す非乾酪性の類上皮細胞肉芽腫性疾患である。本症の疫学的特徴,必要な検査・治療について述べる。

悪性リンパ腫—いま,内科では

著者: 薄井紀子

ページ範囲:P.241 - P.244

 悪性リンパ腫は従来ポジキン病(Hodgkin's dis-ease:HD)と非ポジキンリンパ腫(non-Hodgkin lymphoma:NHL)に大別されていたが,最近ではREAL分類(Revised European-American Classification)においてリンパ組織の悪性腫瘍として一括され,腫瘍化する細胞の起源,すなわちB細胞,T細胞,あるいはNK細胞により細かく分類されて,多彩な疾患群と捉えられるようになってきている。臨床的には,原発部位によりリンパ節性(nodal)と節外性(extranoda1)に分けられ,HDは主としてリンパ節性が多く,NHLはリンパ節性と節外性がほぼ同じ程度に認められる。
 NHLは予後の違いで大きく2つの群に分けられ,1つはindolent (邦訳としては低悪性度)リンパ腫であり,他の1つはaggressive (邦訳では中高悪性度)リンパ腫である。Indolentリンパ腫は比較的予後がよく,生存期間の中央値は10年に及ぶが,臨床病期が進行しているものでは治癒を得ることはできない。Aggressiveリンパ腫は比較的早い経過をとるが,かなりの症例が十分な抗癌剤による多剤併用化学療法により治癒が得られるため,癌化学療法が最も有効な悪性腫瘍の1つと考えられている。

臓器移植—いま,腎移植では

著者: 平野哲夫

ページ範囲:P.245 - P.247

 臓器移植法が1997年10月わが国で施行され,1999年2月初の脳死下臓器移植が多大な注目のうちに行われた。生体血縁者からの提供が可能な肝臓を除けば腎臓移植が大部分を占めているため,腎臓移植の立場からわが国における腎臓移植について,当院における腎移植146例(献腎21例,血縁生体腎125例)の経験を踏まえ簡単に述べたい。
 腎臓移植は他の臓器移植に比べいくつかの違いがある。第1に腎臓移植への取り組みは約35年の歴史を持ち,わが国の慢性腎不全による透析患者17万5,000名の存在が示す人工透析療法の進歩と相俟って広く根治的治療法として確立していることである。第2に,ヒトの2つの腎臓の1腎を提供する生体腎提供が可能である(わが国では献腎移植〔死体腎移植〕が少ないこともあり,年間約600例実施されている腎移植の約70%が血縁生体腎提供)。第3に腎臓移植では臓器の灌流・冷却,時間の制約など一定の条件は必須ではあるが,必ずしも脳死下提供だけでなく心停止後の提供も可能である。第4に慢性腎不全の治療として透析療法と腎移植とが車の両輪になっており,腎移植後機能廃絶の際は再透析で救命・社会復帰および再移植への待機が可能である。

AIDS—いま,内科では

著者: 増田剛太

ページ範囲:P.248 - P.249

CD4+リンパ球数減少と免疫不全
 AIDS (acquired immunodeficiency syndrome:後天性免疫不全症候群)は1980年代に登場した疾患であり,代表的な新興感染症(emerging infec-tious disease)の1つである。この疾患の病態は,高度に障害された免疫機能と,それを基盤として発症する各種日和見疾患の存在によって特徴づけられる。免疫機能不全を惹起する原因物質はHIV(human immunodeficiency virus)であり,このウイルスがヒトの免疫機構の中心的役割を担うCD4+リンパ球に感染し,長い年月(数年から十年あるいはそれ以上)をかけてこのリンパ球を破壊,減少させ宿主を免疫不全へと導く。正常宿主でのCD4+リンパ球数は700〜1,000/μlであるが,HIV感染宿主ではその数が毎年40〜60/μlの速度で減少する。リンパ球数が500/μl以下になると細菌性肺炎,単純ヘルペス感染症(再発性),帯状疱疹(再発性),口腔内カンジダ症や肺結核の発症頻度が高くなる。また,下痢や発熱の間欠的発現や体重減少が証明される症例もある。AIDS発症の指標疾患であるカポジ肉腫や悪性リンパ腫がこの段階で証明されることもある。
 CD4+リンパ球数が200/μl以下になるとニューモシスチス・カリニ肺炎,カンジダ性食道炎,クリプトコッカス髄膜炎,カポジ肉腫などの難治性,致死的疾患を合併してAIDSを発症する可能性が高くなる。リンパ球数が50/ul以下と著しく減少するとサイトメガロウイルス(CMV)や非定型抗酸菌(MAC)による全身感染症を発現するようになる(図)。

ベーチェット病—いま,皮膚科では

著者: 佐藤伸一

ページ範囲:P.250 - P.252

 ベーチェット病は眼,皮膚,粘膜,血管病変を主徴とし,関節炎,発熱などの全身症状,ときに予後不良な中枢神経症状や血管病変を呈する原因不明の疾患である。ベーチェット病の病因については不明であるが,好中球の機能亢進を始めとした過敏反応が,その病因において重要な役割を演じていると考えられている。ベーチェット病の症状は多岐にわたるため,眼科,皮膚科,内科が互いに緊密な連携をとりあって診断・治療に当たるべき疾患である。このうち皮膚科の主な役割は,ベーチェット病をその皮疹から診断・評価することにあり,眼科からベーチェット病の皮疹の検索についてコンサルトを受けることもしばしば経験する。
 以下,皮膚科医がどのような皮膚病変の存在をもって,ベーチェット病と診断するのかについて概説したい。

アトピー性皮膚炎—いま,皮膚科では

著者: 竹原和彦

ページ範囲:P.253 - P.255

 アトピー性皮膚炎をめぐる医療の混乱は,今日なお終焉を迎えるきざしは全く感じられず,不適切治療による増悪例の増加とともに,白内障や網膜剥離などの眼合併症の増加をみている。このような現象はわが国特有のものであり,先進諸外国ではステロイド外用薬を中心とする専門医の医療に対して疑問を投げかけられることなく,当然のこととして一般に受け入れられている。
 アトピー性皮膚炎をめぐる医療の混乱を収束させるためには,病因の解明,より効果的で副作用の少ない治療法の開発などが必要といえるが,現状では本来行われるべきオーソドックスな治療法についての正しい理解を一般に広めることが急務であろう。

脳腫瘍—いま,脳神経科では

著者: 松本健五

ページ範囲:P.256 - P.258

 脳神経外科で扱う疾患のなかで早期症状や主訴が眼症状である疾患は多々ある。これらの眼症状は,視力視野障害が最も多く,次いで眼球運動障害である。ほとんどの患者は,早期の段階で眼科を受診し,眼科から脳神経外科に紹介される。眼科医が脳神経外科的疾患に造詣が深いほど,より早期に紹介があるように思われる。その疾患の多くは脳腫瘍である。

未熟児網膜症—いま,小児科では

著者: 服部司

ページ範囲:P.259 - P.262

 未熟児網膜症は,歴史的には1940年代,米国の先進的新生児治療施設からの報告に始まる。1950年代には未熟児への無制限な酸素投与がその病因と考えられ,酸素投与の制限で米国では発生の減少をみたが,その後,人工呼吸器の導入などにより,さらに低体重で在胎期間の短い未熟児が救命された結果,再び未熟児網膜症の発生をみるようになった。
 日本での未熟児網膜症の発生も欧米と同様な経過をとっている。1960〜70年代にかけて流行期と呼ばれるほどの多数の発生があり,その後減少をみたが,近年は超早産児,超低出生体重児の救命率が上昇し,それらにおける重症未熟児網膜症の発生は増えている。

眼科外来診療の周辺

患者サービスの基本

著者: 朝倉光太郎

ページ範囲:P.263 - P.265

 「医療はサービスである」という意見に抵抗を感じる方はまだまだ多いと思います。特権階級意識の名残り?「集客マニュアル化」への反発?しかし,私達がこうしている間にも医療を巡る環境は変化しています。一刻も早く私達自身の「意識改革」を行い,医療の古い殻を脱ぎ捨てましょう。
 第1に,患者の権利を知ることが大切です。

コメディカルスタッフの教育

著者: 初川嘉一

ページ範囲:P.266 - P.267

 われわれの施設は小児の専門病院であるので,小児眼科という特殊性があるが,視能訓練士が占める役割も大きく,当院でのコメディカルスタッフの教育が,読者の方々には参考になる点もあるかと思われる。

学校医の務める

著者: 奥沢康正

ページ範囲:P.269 - P.272

眼科学校保健の現状と課題
 明治期からトラホームの撲滅,学校近視予防に尽くした眼科学校医の活動は,昭和33年学校保健法の制定により,保健管理を中心に明確に規定された。その後,児童・生徒の屈折異常,アレルギー性疾患の予防や視力,色覚検査を始めとした総合検査などによる健康問題の解決のため,時代に応じて必要な法規の改正が行われ,それに従って学校医の職務が具体的に遂行されてきた。
 21世紀に向け少子化が進む今日,児童・生徒をいかに健やかに,たくましく育てるか,学校保健における学校医の役割はますます重要となってきている。なかでも眼科学校医は学校医としての専門性,さらに健康教育者としてふさわしい人間性を磨き,これに対処しなければならない。このためには学校医の職務を熟知し,以下の理想像に少しでも近づき,地域医療に根づいた広い社会性を持った眼科学校医の資質を養う必要がある。

三歳児健診

著者: 矢ヶ﨑悌司

ページ範囲:P.273 - P.275

三歳児健診とは
 三歳児健診における視覚健診は,母子保健法に基づいて,小児の視力や両眼視機能の正常な発達の障害となる原因を早期に発見し,早期治療に結び付けることを目的として1990年10月から導入された。1997年度から三歳児健診の実施主体が都道府県の保健所単位から市町村の自治体に変更されたが,それぞれの自治体間に多少の差異はあるものの,家庭での視力スクリーニングとアンケートによる一次健診,それらの結果から視覚の問題が予想される受診者を選定して行う二次健診を基本とし,その後の事後処理を目的として行われる眼科精密健診の3段階で三歳児視覚健診は実施されている。三歳児視覚健診の導入以前には就学前健診まで視覚健診は施行されていなかったため,導入以後健診により弱視や斜視の早期発見が可能となり,幼児の正常な視覚発達に対し一定の成果が得られつつある。

遺伝相談にのる

著者: 早川むつ子

ページ範囲:P.277 - P.279

遺伝相談の役割
 遺伝相談は,患者やその家族が人生の重大事である結婚や子をもうけるにあたって,子係の罹患の可能性を尋ねた際に,その確率の推定を中心に,疾患の経過,予後など関連する種々の情報を提供し,当事者自らの意志で行動できるように支援することである。遺伝性疾患はわが国では家系の恥のようにとらえられる風潮があり,社会的な偏見が患者や家族の皆しみを深くしている。遺伝に対する誤った罪悪感を軽減するために,正しい医学的,遺伝学的情報を与えることも遺伝相談の重要な役割である。

中途失明者への指導

著者: 簗島謙次

ページ範囲:P.280 - P.281

就労の継続をさぐる
 中途失明者の社会復帰は晴眼者でさえ今日再就職が困難なように,ほとんど不可能といっても過言ではない。そのために就労中の患者が視覚的に問題が生じ就労継続が困難な場合には,治療と並行して問題解決に当たることが重要である。患者自身で解決できなければ専門家と連絡を取り,休職となり,やがて失業というふうにならないように援助する。注意しなければならないことは,眼の状況だけに眼科医がとらわれ,患者も通院治療に期待を掛けているうちに,会社を休みがちとなり,休職へと追い込まれるケースが多いことである。通院中に医師は患者に常に会社に行っているかどうかを聞き,もしも出社していないようであるならば,その理由についてよく聞く必要がある。
 例えば糖尿病網膜症患者は,症状が一定せず視力が変動し,仕事ができたり,できなかったりする。短期的に視力の改善が見込まれる場合には自然経過に任せてもよいが,回復の可能性が期待できない場合にはいつまでも患者を治療通院させるのではなく,社会復帰を最優先に必要な手続きを行い,並行して治療を行うことが重要である。

義眼の種類と管理

著者: 厚澤正幸

ページ範囲:P.282 - P.283

 義眼は視覚障害者にとって,医学的な理由の他に美容上も最も必要な補装具の1つである。義眼の材質は酸素透過性になる以前のハードコンタクトレンズと同じPMMA樹脂が主体である。
 毎日快適に義眼を装用していただくためには,以前のハードコンタクトレンズに類似した日常のメインテナンスが必要である。しかしながら義眼装用者に比較的多い高齢の方には,お目にかかるたびにお願いをするのだが,なかなか実行していただけないのが実情である。ある日突然,義眼が外れて装用できなくなったとおっしゃっておいでになる方がしばしば見受けられるが,なぜ急にそんなことになるのか,原因には実はこうした背景があるのである。

眼鏡処方と眼鏡店どのかかり

著者: 神田孝子

ページ範囲:P.284 - P.286

 眼科診療業務のうち眼鏡処方は頻度の高い業務の1つである。正しい眼鏡を正しく装用させるためには,処方箋の発行,完成した眼鏡の点検,眼鏡装用状態の点検などが適切になされなければならない。成人の場合は本人の希望や自覚症状などがはっきりしているので問題は比較的少ないが,幼小児では自覚的検査ができないうえ,弱視や斜視などの治療を目的とした眼鏡であることが多く,成人以上の正確さが要求されるので問題が多い。
 本稿では,筆者が携わることの多い小児の眼鏡処方,眼鏡作成の周辺につき,実情を中心に述べる。

医療訴訟への対処—基礎編

著者: 小暮文雄

ページ範囲:P.287 - P.289

 医療従事者の単純なミスにより,国民の医療に対する期待を裏切り,不信を招くような事故が最近多発している。1999年1月に起こった横浜市立大学病院の手術患者取り違え事件,2月に起きた都立広尾病院での点滴ミスに続き,あちらこちらの病院での事故が報ぜられている。
 ここでは,これらの医療事故から引き続いて起こってくるであろう医療訴訟(刑事職判は除き民事裁判)について論ずることにする。

保険請求の最近の注意点

著者: 濱崎陞

ページ範囲:P.290 - P.292

保険診療はボランティア
 医療保険は,労働者医療保険として始められたものであり,当時の自由診療に比べると,対象者が少なかったので医は仁術とばかりに低価格であった。保険診療は,施療の意識の下,低価格診療で始まったものが,1961年から国民皆保険になった、したがって,十分な診療点数が得られないままのボランティアであり,件数でカバーしなければならないような歪んだ医療保険制度になってしまった。このような医療保険制度下にあって,保険請求の注意点を請求者の立場から考えてみた。

診断書の書き方

著者: 松崎浩

ページ範囲:P.293 - P.295

 医師は患者を診療または治療した場合,患者の求めに応じて診断書を発行する義務がある。医療はそもそも社会的なもので,最近カルテ開示が論議されていることでもあるし,決して閉鎖的であってはならないのは言をまたない。したがって診断書は社会的公正を保っ理念が必要である.診断書は種類は多岐にわたるし,診断書料など経済的負担もあるので,使用目的を知り,よく話しを聞くことが大切で,患者の焦りや不正に利用されないよう注意が必要である。
 診断書は一般的に疾病や外傷による入院または安静治療を要するものと,資格取得に関するもの,身体障害者福祉法(身障者手帳の発行),労働者災害補償保険法(労災法),交通事故の自賠責保険(自賠法)などが対象となる。補償を伴う場合は診断書の背景をよく理解しておかなくてはならない。

紹介状の書き方と返信の注意

著者: 三宅養三

ページ範囲:P.296 - P.297

 紹介状とその返信は,病診連携を適切に行うために非常に重要な意味を持つ。紹介状の基本は,できるだけ多くの情報(「現在までに行った検査所見を欠かさずに」という意味)を要領よくまとめて書き上げることである。患者は紹介先の大変混雑した病院の外来に,紹介状を持ってて訪れるわけである。特に診断を依頼したり,手術を含む治療を依頼する紹介状を持参して新患として来院する場合には,十分な検査を初診日に行うことは不可能である場合が多い。今後の検査のプロトコールを考える上からも,手術の緊急性の有無を考える上からも,前の病院で行われた検査は大変参考になる。

ハンドアウト集

出田眼科病院

著者: 出田秀尚

ページ範囲:P.70 - P.70

 出田眼科病院では創立80周年を迎えた1998年から,病院案内だけではなく,「Smile」と題した広報誌を年4回発行しています。もちろん,“入院のしおり”をはじめ,各種の患者さん向けのリーフレットも多数発行しています。そして「あなたは偽近視(仮性近視または調節緊張)です」,「流行性角結膜炎(はやり目)の注意」などの多くのリーフレットには,出田眼科病院のマスコットキャラクターのアイちゃんが患者さんに語りかけるように登場して,親しみが持てるようになっています。出田先生は「たとえば手術同意書では,微に入り細にわたる形式は避け,柔軟に対応できるように簡単にしましたが,術前問診表では最低必要な13項目を尋ねるように,いろいろ工夫しています」と話しておられます。

井上眼科病院

著者: 井上治郎

ページ範囲:P.75 - P.75

 現在,御茶の水の本院と西葛西の分院の2病院と附属の2診療所で診療を行い,その各々で紹介パンフレットを作っています。駿河台診療所はコンタクトレンズ装用者を主に対象とした診療の関係上,「コンタクトレンズの井上」のパンフレットを出しています。病院見学者などには大きいほうのパンフレットを渡しています。いずれにも当院の歴史や方針,内部写真,業務案内を載せています。
 また「白内障」,「緑内障」,「飛蚊症」,「網膜剥離」,「眼精疲労」,「遠視と近視」,「近視」,「弱視」,「老視」,「メガネ」,「コンタクトレンズ」,「お子様の目を悪くしないために」のパンフレットを独自に製作して,患者さんに病気の説明をするときに渡しています。

多根記念眼科病院

著者: 眞鍋禮三

ページ範囲:P.115 - P.115

 大阪市西区の多根記念眼科病院は,1998年の病院機能評価を申請して日本医療機能評価機構の審査を受け,小規模の民間単科病院としては珍しく認定証が交付されました。その総括文で,「全体の評価は高」く,「特に医療内容の評価・検討と,医師に対する教育・研修については極めて積極的であり,医療機能の高さとあいまって,今後一層のレベルアップが期待できる」と記されました。
 眞鍋院長からは「インフォームドコンセント時代の患者さん向けのチラシ・リーフレットを意識して作ったものではないが」と謙遜されながらも,いくつかを送っていただきました。「エキシマレーザーによる屈折矯正手術について」のようにA5判,カラー16頁のパンフレットのようなものや,かたや掲載イラストも手作りと思われる,親しみあふれたホッチキス止めのパンフレットなど,いろいろです。眞鍋院長は「おおむね標準的と思います。ご参考になれば幸甚です」と手紙を下さいました。

今泉眼科病院

著者: 今泉信一郎

ページ範囲:P.209 - P.209

 今泉眼科病院は福島県のほぼ中央に位置し,市内はもとより,他県からの患者さんもいます。また,県内の遠隔地には無眼科医のところも多く,地方からの患者さんの中には,交通の便が悪いため,半日以上もかけて来院してくる人もいます。そのような患者さんも含め白内障手術をする場合には,患者さん側のさまざまな条件を満たすため,入院期間は,日帰り(主に市内の患者さん),2日から2週間まで(ときには3週間)と,患者さんが自由に選択できるようにしています。
 白内障手術を受ける患者さんへの説明は,まず,医師が診断,病名,手術の内容を説明し,その後改めて看護婦が,①眼球断面図を用いた白内障の説明,②眼内レンズの実物を見せて挿入手術の説明,③下記の図を見せながら入院期間,術後治療の説明,そして④口頭で費用の説明をしています。

林眼科病院

著者: 林研

ページ範囲:P.228 - P.228

 最近の白内障手術の患者さんはマスコミから多くの情報を仕入れるためか,病識が薄くなっているように思われます。確かに,手術手技の著しい進展は術後管理を遥かに楽なものに変えてきましたが,しかし,まかり間違えばといった危惧は少なくなったとはいえ,ゼロではありません。こうしたことから,従来のリーフレットに加え,例えば,術後自覚症状が少なく,特に遠隔地の人では治療が遅れがちなため,そうした人には「白内障手術後の糖尿病網膜症の悪化について」を,また治験を含めてまだ一般に浸透していないケースでは「白内障術後に起こる後発白内障について」を,さらに新しい眼内レンズを入れた後などには「多焦点眼内レンズ挿入後の視機能検査のお願い」などを手渡すなどしております。

西眼科病院

著者: 西起史

ページ範囲:P.244 - P.244

 西眼科病院では,基本的にevidencebased medicine(EBM)に基づく医学情報を,informed consentを得段階で患者さんや家族に読んでいただくということを主眼に,次のようなリーフレットを作成しています。
 「レーザー虹彩切開術」,「白内障・眼内レンズ挿入術について」,「白内障日帰り手術について」,「硝子体手術について」,「網膜剥離手術について」,「緑内障手術について」,「斜視手術について」,「PTK(光治療的角膜切除術)について」,「螢光眼底造影検査について」,「ICG眼底血管造影検査について」,「涙点プラグについて」,「糖尿病網膜症のためレーザー光凝固治療を受ける患者さんへ」,「網膜静脈閉塞症のためレーザー光凝固治療を受ける患者さんへ」,「後発白内障に対するNe:YAGレーザー治療」など。

眼科三宅病院

著者: 三宅謙作

ページ範囲:P.252 - P.252

 紹介するのは,眼科三宅病院で特に手術を受ける患者さんに渡しているパンフレットです。「この手のものは結構恥ずかしく,今まで作ることを拒んできたのですが,情報開示など時代の流れに押された次第です」と,三宅先生は語ります。A4版で表紙を含め8頁,全頁カラーで,三宅病院が目指す「世界の医療を一人の患者へ」の精神を「先進の施設と高度な技術」,「やさしさを大切にした充実のケア」,「世界が注目する独自の研究成果」の3項目にして,多数の写真で解説してあります。

原眼科病院

著者: 原孜

ページ範囲:P.262 - P.262

 原眼科病院では,病院案内のパンフレット・リーフレットのほかに各種手術のパンフレットを作っています(十数種)。ご紹介するのは原眼科病院で最も多く行っている白内障手術の「説明」パンフレットです。B5判26頁の本格的なもので,術前に患者さんに行っている病気と手術の説明を,家に帰ってからもう一度自分で,また家族も一緒に理解してもらうために作成しています。作成にあたっては,特に手術に伴う合併症に配慮したそうです。

三島眼科医院

著者: 三島宣彦

ページ範囲:P.275 - P.275

 川崎市高津区の三島眼科医院では,1997年から「眼の健康ジャーナル」という新聞を発行しています。月2回刊は一般の眼科診療所としては大変なことと思われますが,実はこれは東大名誉教授三島濟一先生がパソコンを駆使してつくっているもので,A4版裏表のカラー印刷です。白内障の話,眼の働きと近視・遠視,生活習慣病の話など,一話数回の解説ですが,写真・グラフも入れて,患者さんの眼の健康への関心に役だってほしいと継続しておられます。

宮田眼科病院

著者: 宮田典男

ページ範囲:P.279 - P.279

 宮崎県都城市の宮田眼科病院にお尋ねしたところ,宮田理事長から「ちょうど今,パンフレットやリーフレットを全部新しく作り直しつつありますので……」とおっしゃって送っていただいた資料です。

栗原眼科病院

著者: 栗原秀行

ページ範囲:P.292 - P.292

 栗原眼科病院の2つのパンフレットを紹介します。「硝子体手術を受けられる方へ」はA4版,表紙含めて14頁です。硝子体の説明や,うつ向きの期間と生活の仕方などを図入りでわかりやすく説明してあります。後半は「過去,よく患者さんから尋ねられることの多かった」35項目が,QアンドAでまとめてあります。「白内障の手術を受けられる皆様へ」はA4版10頁で,親しみのある絵入りです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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