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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科53巻12号

1999年11月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

穿孔性外傷の応急処置:一次手術と二次手術

著者: 西村哲哉

ページ範囲:P.1843 - P.1847

 穿孔性眼外傷の診療上の注意点について解説する。初診時には微小な穿孔創や眼内異物を見のがさないようにすることが重要である。角膜の裂傷は二次手術に備えて,瘢痕を残さないようきれいに縫合する。網膜剥離が疑われる場合や,網膜剥離がなくても,多量の硝子体脱出を伴う強膜裂傷がある場合は将来網膜剥離をきたす可能性が高いので,受傷後1〜2週以内に硝子体手術を行う。

眼の組織・病理アトラス・157

前部線維柱帯と後部線維柱帯

著者: 猪俣孟 ,   田原昭彦

ページ範囲:P.1848 - P.1849

 房水は前房隅角を経由して眼外へ流出する。しかし隅角陥凹angle recessが十分に開いていないと,房水流出障害が起こりやすい。隅角発育異常緑内障では,隅角陥凹の発達が悪く,そのために隅角鏡で毛様体帯の幅が狭いか,もしくは全く見えない。これは線維柱帯の発育も不十分であることを意味する。閉塞隅角緑内障では,隅角隅凹の部分だけが閉塞していても房水の流出障害を生じる。つまり,正常な房水流出には隅角隅凹がよく発育し,十分に開放していることが必要である。
 よく発達した前房隅角では,線維柱帯はシュワルベ線から隅角陥凹まで広がっている。組織切片上での線維柱帯の長さは約1mmである。それを前部線維柱帯と後部線維柱帯に折半すると,シュレム管は後部線維柱帯側に存在する(図1)。シュレム管腔の幅は0.3〜0.4mmである。隅角陥凹の底部には毛様体筋の先端部が位置している。このような前房隅角の組織構築から,後部線維柱帯が経シュレム管房水流出路conventional routes of aqueous humor outflowとしても,また経ぶどう膜強膜房水流出路uveoscleral routes of aqueous humor outflowとしても重要な意義をもっていることが推測される。

眼の遺伝病・3

このシリーズで取り上げる眼の遺伝病

著者: 玉井信

ページ範囲:P.1852 - P.1852

 第1回で述べたように,現在までに報告されている眼,また眼に関連した遺伝病とその遺伝子解析は多数報告されている。症例にもとづいた記述を心がけるとすれば,自験例が最も的確であることは当然である。しかし報告されているすべての遺伝子異常とその症例をわれわれが提供できるわけではないことをご了承いただきたい。その場合には,報告された遺伝子異常を記載するにとどまる場合もあることになる。
 今後の掲載は右記のように分類してまとめる予定である。

眼科手術のテクニック・119

人工的後部硝子体剥離作成法

著者: 池田恒彦

ページ範囲:P.1856 - P.1858

 増殖糖尿病網膜症の硝子体手術は症例によって難易度が大きく異なっている。難易度を術前に的確に評価することは大切であるが,そのなかでも後部硝子体剥離の有無を見分けることは特に重要である。実際に手術をしてみると後部硝子体未剥離眼であっても,容易に人工的後部硝子体剥離が作成できる症例と,周辺部まで硝子体剪刀を使用しながら丹念に膜剥離をしないと後部硝子体剥離が作成できない症例がある。

今月の表紙

梅毒性ぶどう膜炎

著者: 吉村佳子 ,   熊谷直樹

ページ範囲:P.1851 - P.1851

 症例は50歳,女性で,両眼視力低下を主訴に近医を受診し,汎ぶどう膜炎の診断でステロイドにて加療されていたが,症状が増悪したため当科を紹介され受診した。初診時視力は右0.4(0.6),左光覚弁であった。右眼底の後極部に限局性の網脈絡膜の白濁した病巣がみられた。左眼底は網脈絡膜の白濁した病変,網膜出血,視神経乳頭の腫脹があり,網膜上に多数の白色の結節がみられた。梅毒反応はVDRL3+,TPHA7,815倍と陽性で,皮膚のバラ疹および梅毒性髄膜炎を合併していた。HIV抗体は陰性であった。梅毒性ぶどう膜炎の診断でベンジルペニシリンカリウムを投与したところ眼所見は劇的に改善し,治療開始後10日目には眼底の病巣部はほぼ消失した。30日目には眼底の病巣は完全に消失し,視力は右1.0(1.2),左0.5(0.8)まで回復した。治療終了後の再発はみられていない。

日眼百年史こぼれ話・11

政府に見捨てられた医学校

著者: 三島濟一

ページ範囲:P.1858 - P.1858

 私の曾祖父,祖父,父はみな現在の阪大医学部の前身の医学校を卒業したので,私には親しみがあり,子供のころ父に連れられて中之島の阪大病院によく遊びに行った。病院の西端の一部を「山口病院」と呼び,山口先生の寄付になるものと教えられていた。また大阪人の阪大に対する思い入れも非常に深いことをよく知っている。
 のちに,東大の教授,病院長になってから,東大と阪大の気風の違いが目につき,山口病院のことが思い起こされた。日眼百年記念誌の編集にあたり,阪大の歴史を丹念に調べ,やっと山口病院の謎が解ける思いがした。

臨床報告

毛様溝固定された後房レンズで起こったcapsular block syndromeの2症例

著者: 市橋左登美 ,   渋谷裕子 ,   太田一郎 ,   三宅三平 ,   三宅謙作

ページ範囲:P.1863 - P.1867

 連続円形破嚢(CCC),超音波乳化吸引,後房レンズ挿入で行った白内障手術後に,嚢ブロック症候群(capsular block syndrome)が起こった2眼を経験した。後房レンズは偶然に毛様溝に固定されていた。両眼とも術後早期にレンズと後嚢の間に透明な液体が貯留していた。CCCの開口部がレンズ前面で外側からブロックされていた。前房は深く,眼圧上昇はなかった。レンズ後方に貯留した液体は2か月以内に消失した。嚢ブロック症候群は,後房レンズが水晶体嚢内に固定され,CCCの開口部が内側からブロックされて生じるとされていたが,後房レンズの毛様溝固定でも生じることを示す症例である。

イソプロピルウノプロストン点眼液の他剤併用投与による眼圧下降効果

著者: 木村泰朗 ,   小野純治 ,   石井るみ子 ,   北田浩美 ,   藤田邦彦 ,   山口達夫 ,   大越貴志子 ,   足立和孝 ,   薄葉澄夫 ,   土屋桜 ,   金井淳

ページ範囲:P.1869 - P.1876

 緑内障または高眼圧症患者の75症例149眼で,ウノプロストン点眼の追加または切り替えによる眼圧下降効果を検索した。年齢は平均66.3歳であった。βブロッカーからウノプロストンへの切り替え(第1群),βブッロカーへのウノプロストン追加(第2群),βブロッカーとピロカルピン併用へのウノプロストンの追加(第3群),βブロッカー・ピロカルピン・ジピベフリン併用へのウノプロストン追加(第4群)である。有意な眼圧下降効果は,第2群(p=0.001)と第4群(p=0.004)のみにあった。実験開始時の眼圧が18mmHg以上の症例については,有意の眼圧下降効果が第1群(p=0.001)と第3群(p=0.015)にもあった。眼圧下降が3mmHg以上の著効と1mmHg以上の有効率は,第1群で62%,第2群で73%,第3群で64%,第4群で64%にあった。点眼による表層点状角膜炎が13眼(9%)にあり,1例で点眼を中止した。以上から,ウノプロストンとβブロッカーの相乗効果があることが結論される。

簡便に自作可能な粘性分層用注入器具

著者: 石田洋一 ,   西田保裕 ,   吉田健一 ,   岩見達也 ,   可児一孝

ページ範囲:P.1879 - P.1882

 増殖膜処理を必要とする硝子体手術において,粘弾性物質を用いた粘性分層が確立している。今回筆者らはこの手技をより安全に操作性よく行うため,粘弾性物質注入器具を自作した。この器具は安価で容易に入手可能な材料からなり,簡便に作成可能である。筆者らはこの器具を使用し,より安全な膜処理が可能となった。

ガス注入による黄斑下血腫移動術が有効であった1例

著者: 緒方恭子 ,   桂弘 ,   岩崎真理子 ,   見好貴公

ページ範囲:P.1883 - P.1887

 ガス注入による移動術が有効であった加齢黄斑変性症による黄斑下血腫の1例を報告した。症例は57歳の女性。右眼の中心暗点を自覚後5日目に受診した。右眼の矯正視力は0.3で,眼底検査で黄斑下血腫を認めた。SF6ガス(0.5ml)を硝子体腔に注入し,腹臥位を指示した。術後3日目に出血は下方に移動し,6日目には視力は0.6に改善した。後部硝子体剥離が生じたが,網膜裂孔は認めなかった。2か月後に出血は大部分吸収され,螢光眼底撮影にて認めた脈絡膜新生血管に対しレーザー光凝固を施行した。ガス注入3か月後には,視力は1.2まで改善した。黄斑下血腫に対する硝子体腔内ガス注入による血腫移動術は有用であると考えられた。

視野障害の左右差が大きい正常眼圧緑内障の螢光眼底所見

著者: 林康司 ,   中村弘 ,   前田利根 ,   井上洋一

ページ範囲:P.1889 - P.1893

 ゴールドマン視野(Goldmann perimetry:GP)で片眼のみに視野障害を有する正常眼圧緑内障13例に螢光眼底撮影を施行した。充盈欠損はGP異常眼で12眼(92%),GP正常眼で3眼(23%)にみられ,GP異常眼と正常眼との間に差があった。乳頭辺縁部漏出は5例にみられ,すべて両眼性であった。また,陥凹内漏出は4眼(15%)と少なかった。以上より,充盈欠損は視野異常と相関し,また螢光漏出は高眼圧がなくともみられ,特に辺縁部漏出例はすべて両眼性であったことから何らかの素因的背景の存在が考えられた。

眼部帯状ヘルペス後に他眼に発症した桐沢型ぶどう膜炎

著者: 正健一郎 ,   松島正史 ,   安藤彰 ,   山田晴彦 ,   山田英里 ,   西村哲哉 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1895 - P.1899

 43歳の男性が,左側の三叉神経領域に帯状ヘルペスを発症した。以前から結節性多発動脈炎による急性腎不全に対して免疫抑制薬とステロイド薬の全身投与を受けていた。その5か月後に左眼にヘルペス性虹彩炎が発症した。さらにその20日後に右眼眼底の周辺部網膜の深層に滲出斑が多発し,網膜動脈の狭窄と白鞘化が生じた。右眼は,左眼の眼部帯状ヘルペスに続発した桐沢型ぶどう膜炎と診断した。2か月後に右眼網膜剥離が発症し,硝子体手術を行った。眼内液と血清の帯状ヘルペス抗体値が上昇していた。免疫抑制状態があるとき,1眼の眼部帯状ヘルペスに,他眼の桐沢型ぶどう膜炎が続発しうることを本症例は示している。

超音波生体顕微鏡で検出したアトピー性皮膚炎患者での高頻度の毛様体裂孔

著者: 与良佳世子 ,   結城尚 ,   森有紀 ,   伊藤賢司 ,   南部真一 ,   岸章治

ページ範囲:P.1915 - P.1918

 眼科に紹介されたアトピー性皮膚炎患者15症例30眼に対し,超音波生体顕微鏡(UBM)で毛様体と眼底の最周辺部を検索した。網膜剥離は8眼(27%),裂孔は13眼(43%)にあった。13眼の裂孔のうち8眼(62%)はUBMで初めて発見された。裂孔の位置は10眼が毛様体(皺襞部6眼,扁平部4眼)で,3眼が硝子体基底部であった。眼症状を自覚しない9例18眼では,6眼(33%)に裂孔がUBMにより発見された。アトピー性皮膚炎では,自覚症状がなくても裂孔の頻度はかなり高いと思われる。これらの多くは毛様体裂孔であり,検眼鏡では発見しにくい。本疾愚ではUBMの診断的価値が高い。

アトピー白内障の超音波生体顕微鏡検査所見

著者: 伊田宜史 ,   竹内正光 ,   伊田典子 ,   山中理江 ,   永井由巳 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1919 - P.1924

 アトピー性皮膚炎に伴う若年者の白内障の症例で,網膜剥離を合併していない32例52眼について超音波生体顕微鏡検査(UBM)を行い,毛様体および網膜最周辺部を検査した。その結果,4例6眼(12%)に毛様体上皮剥離を検出した。毛様体上皮剥離の範囲が毛様体扁平部までが4眼,毛様体皺襞部までが2眼であり,このうち2眼は色素上皮裂孔が疑われた。白内障の程度と毛様体の異常所見との間には相関関係はなかった。UBMで色素上皮裂孔が疑われた1眼は,白内障術後に網膜剥離が発生した。アトピー白内障眼に対して術前にUBM検査を行うことは,術後の網膜剥離の発生を知るうえで有用である。

局所切除術を行った脈絡膜悪性黒色腫の1例

著者: 垰本慎 ,   西村哲哉 ,   高橋寛二 ,   宮崎俊明 ,   宇山昌延 ,   内田邦子

ページ範囲:P.1927 - P.1932

 眼底周辺部に存在した小さい脈絡膜悪性黒色腫に対し経強膜局所腫瘍切除術を行い,良好な経過を示した症例を経験した。症例は36歳の男性で,左眼眼底外上方周辺部に半球状に隆起した4乳頭径大の黒褐色の腫瘤がみられ,フルオレセイン螢光眼底造影,ICG螢光造影,超音波検査,MRI検査などの画像診断で脈絡膜悪性黒色腫と診断した。初診時の左眼矯正視力は1.0であった。強膜弁下腫瘍切除術にて腫瘍は全摘出され,切除標本にて類上皮細胞型の脈絡膜悪性黒色腫と診断された。術中,術後に大きな合併症はなく,術後4年後の矯正視力は0.8で,現在まで局所再発,遠隔転移ともにみない。

オクトパス視野計におけるtendency oriented perimetryの再現性

著者: 尾﨏雅博 ,   堀越紀子 ,   後藤比奈子 ,   田村陽子 ,   岡野正

ページ範囲:P.1933 - P.1938

 Tendency oriented perimetry (TOP)では各測定点の計測が1回しか行われないため,短期変動(SF)の計測ができない。今回筆者らはTOPの再現性について検討した。対象は正常者38例38眼,高眼圧症9例9眼,緑内障39例39眼で,全症例に対してOCTOPUS1-2−3視野計のG1Xプログラムを用いて2回連続でTOPによる計測を行い,normal strategy (NS)との比較も行った。TOPによる初回と2回目のmean defect (MD),loss variance (LV)の平均には差がなく,初回と2回目の相関関係では強い正の相関性をみた。MDとSFの相関関係はTOPでy=0.18x+1.45(r=0.81),NSでy=0.08x+1.6(r=0.51)となり,緑内障におけるTOPのSF (3.0±0.9dB)はNSのSF (2.3±0.6dB)より有意に大きくなった(p<0.0001)。視野の沈下部位で閾値の変動が大きくなるためTOPではSFが大きくなると思われた。

座談会

眼科開業医からみたアレルギー性結膜疾患の治療の実際—アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドラインを踏まえて

著者: 大野重昭 ,   雑賀寿和 ,   中川やよい

ページ範囲:P.1905 - P.1912

 アレルギー疾患の増加はいまや大きな社会問題にまで発展し,その研究は国をあげての事業の1つとなっている。これは眼疾患においても例外ではなく,平成9年には日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班により,「アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライン」が策定されている。そこで,日常,多くのアレルギー性結膜疾患の患者を診療している眼科開業医において,実際に行われている治療法,およびガイドラインの日常診療における位置づけを明らかにするため,大野重昭氏(横浜市立大学医学部眼科教授)の司会のもと,雑賀寿和氏(さいが眼科院長),中川やよい氏(中川医院院長)にディスカッションしていただいた。

文庫の窓から

眼療器具の種々(1)—江戸時代眼科諸流派の古写本に見る

著者: 中泉行史 ,   中泉行弘 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1940 - P.1941

 古来,眼病の治療法には主として薬物療法と手術療法とがある。
 中国明代のころに使用された眼の手術器具には針(鍼),刀,鉤,割,烙(「傅氏眼科審視瑠函」)などがあったようであるが,治療法としては,むしろ手術療法より薬物療法が主であった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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