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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科53巻13号

1999年12月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

白内障手術の指導と研修

著者: 堀尾直市

ページ範囲:P.1953 - P.1957

 白内障手術は,短時間で良好な結果が得られる手術であるという認識が定着しつつある現在,その手術教育はますます多くの問題を抱えるようになってきた。
 今回は,どのような教育が行われているかアンケート調査を行い,私見を交えてそのあり方を検討した。

眼の組織・病理アトラス・158

ウシ眼の隅角

著者: 猪俣孟 ,   村田敏規

ページ範囲:P.1958 - P.1959

 ウシの眼球は角膜も強膜も大きいが,水晶体も非常に大きい(図1)。ウシ,ウマ,ブタなどの有蹄類ungulatesやその他の動物では,虹彩根部から角膜周辺部に伸びる虹彩の櫛状靭帯pectinate ligament of the irisが存在する(図2)。櫛状靭帯は,虹彩根部から伸びる太い虹彩突起があたかも櫛の歯のようにみえるので,その名がある。これらの動物では,毛様体筋が十分に発達していないために櫛状靭帯があり,それが虹彩根部を角膜周辺部に固定し,大きな水晶体を毛様体ひだ部で堅固に支持する。櫛状靭帯の表面は細胞で覆われて,しばしば虹彩の色素細胞を伴い,角膜の内皮細胞およびデスメ膜に伸びている。櫛状靭帯の後方には櫛状靭帯よりも細かな虹彩突起によって区分された間隙があり(図3),これをフォンタナ腔Fontana'sspaceあるいは毛様体裂ciliary cleftという。さらにその後方には,細網状の網細工reticular meshworkがあり,これがヒトやサルなどの霊長類primatesの線維柱帯trabecular meshworkに相当する(図4)。Reticular meshworkと強膜の間に隅角房水叢angular aqueous plexusがあり,これがシュレム管に相当する(図4)。櫛状靭帯やreticular meshworkの実質は,虹彩実質と同様に,アルシアンブルー染色が陽性で,プロテオグリカンを含む(図5)。ウシ隅角のreticular meshworkの角強膜網は抗α-smooth muscle actin抗体に陽性で,毛様体筋由来であることを示唆する。
 ヒトでは,胎生6ないし7か月までは櫛状靭帯の痕跡が認められ(図6),それ以後消失する。したがってヒトでは,櫛状靭帯に類似した太い虹彩突起がみられる場合は,前房隅角の発育が不十分であることを意味する。この場合,線維柱帯の発育も不十分である。臨床的には,未熟児や神経堤細胞関連の前眼部間葉異発生anterior segmentmesenchymal dysgenesisでこれがみられる。櫛状靭帯に類似した背の高い多数の虹彩突起そのものは房水流出の障害にはならないが,その存在が隅角組織の形成不全を意味し,発育異常緑内障を起こしやすい。

眼の遺伝病・4

ロドプシン遺伝子異常による網膜変性(1)

著者: 玉井信 ,   和田裕子

ページ範囲:P.1962 - P.1964

 Pro347Leu変異と常染色体優性網膜色素変性 ロドプシン遺伝子の347番目のアミノ酸Prolineをコードする塩基配列に異常が発見された,常染色体優性遺伝型を示す定型網膜色素変性の家系である1〜3)(ロドプシン遺伝子の構造とその働き,分子遺伝学については次回を参照)。図1にその家系図を示した。なお,発端者の母親(75歳:I-2)は両眼光覚弁,褐色ないし黒色白内障を示し,ERGは消失型(non-recordable)である。本人の話では12〜13歳頃から見にくかったが,実際視力が低下したと感じたのは40歳頃という。

眼科手術のテクニック・120

網膜下血腫の治療

著者: 池田恒彦

ページ範囲:P.1966 - P.1967

 網膜下血腫をきたす疾患
 網膜下血腫をきたす疾患としては,加齢黄斑変性,特発性ポリープ状脈絡膜血管腫症,網膜細動脈瘤,外傷,網膜下液排除時の医原性網膜下出血などがある。このうち日常臨床で比較的頻度が高いのは,加齢黄斑変性と網膜細動脈瘤である。多量の網膜下血腫が黄斑部を覆うと,著明な視力障害をきたすだけでなく,出血が吸収された後の器質的変化のため視力障害が永続することが多い。網膜下血腫を積極的に除去する方法としては,組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)と液体パーフルオロカーボンを用いた硝子体手術による血腫除去術1,2)が一般的であるが,最近,ガスタンポナーデによる血腫移動術が報告され,注目されている3,4)

今月の表紙

外傷性網膜下出血

著者: 米村尚子 ,   根木昭

ページ範囲:P.1961 - P.1961

 症例は42歳の女性で,5日前に硬式テニスボールで右眼を打撲し受診となった。初診時視力は右眼0.3(矯正0.4),左眼0.3(矯正1.2),眼圧は両眼13mmHg。右眼前房には軽度の細胞を認め,右眼眼底には黄斑部を含む1.5DD大の網膜下出血を認めた。ガス注入を考慮したが,視力が比較的維持されており,出血は量的に多くないことより自然吸収を期待し,経過観察となった。
 しかし3週目の受診時には,黄斑部に黄白色の滲出物が凝集し,視力は矯正0.08に低下した。再度外科的治療を考慮するも,4日後には滲出物は吸収されはじめ,視力は矯正0.5に回復した。その後徐々に出血は吸収され,受傷2か月後には黄斑部耳側に線状の病巣がみられたため,インドシアニングリーン螢光眼底造影を施行したところ,病巣に一致して脈絡膜破裂を認めた。

臨床報告

外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術の検討

著者: 上水流広史 ,   安達徹 ,   由良善子 ,   福田宏美 ,   坂上欧 ,   吉田秀彦

ページ範囲:P.1969 - P.1974

 外傷性黄斑円孔の男性3例3眼に対して硝子体手術を行い,人工的後部硝子体膜剥離,SF6ガス注入を行った。術後黄斑円孔は全例で閉鎖し,視力は術前30cm指数弁,眼前手動弁,0.04であったが,術後は各々0.6,0.6,0.8に改善した。自然経過観察例の過去の報告では円孔閉鎖率は低いものの,網脈絡膜障害が中心窩に及んでいなければ比較的視力予後は良好であった。自験例と外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術成績の過去の報告を併せて検討した結果,自然経過観察例と比較して円孔閉鎖率は良好であるが,術後視力は良好とは必ずしもいえず,術後視力を決定する因子として網脈絡膜障害の存在場所が重要と考えられた。網脈絡膜障害が中心窩に及んでいなければ,外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術は早期円孔閉鎖を得られ早期視力改善を得られる可能性をもつが,さらに症例を重ね検討を要すると考えられた。

眼瞼皮膚弛緩症に伴った眼瞼下垂の1例

著者: 杉本昌彦 ,   久瀬真奈美 ,   青木博史 ,   江崎浩二 ,   赤峰敬信 ,   宇治幸隆

ページ範囲:P.1975 - P.1978

 右眼の眼瞼下垂を主訴として,18歳女性が受診した。幼少時より頻回に繰り返す霰粒腫などの眼瞼の炎症の既往があった。特徴的な皮膚所見から,眼瞼皮膚弛緩症が疑われた。MRIで右側の上顎洞嚢胞が検出され,嚢胞による眼球への軽度の圧排があった。眼瞼挙筋の機能障害が軽度であったので,通常の方法による上眼瞼挙筋短縮術を行い,眼瞼下垂が軽快した。本症例の眼瞼下垂には,反復する上眼瞼の炎症と,上顎洞嚢胞による後方からの圧排が原因として関係していた。

白内障術後のMRSA眼内炎の臨床経過—治癒例と非治癒例の比較

著者: 米良明子 ,   大庭啓介 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.1979 - P.1984

 白内障術後の眼内炎11例のうちMRSA眼内炎3例の臨床像,治療について検討し,非治癒例の理由を検討した。MRSA眼内炎の発症は感染性眼疾患,無縫合眼に関係があり,眼内レンズ挿入眼に術.後平均4.3日と早期に発症していた。眼痛がないことを除いては眼所見に特徴的なものはなかった。MRSA眼内炎の治癒例と非治癒例では,眼内炎発症が非治癒例のほうが比較的早く,保存的治療のみだったのに対し,治癒例は早期に硝子体手術+眼内レンズ摘出術が行われた。MRSA眼内炎を眼所見のみで診断することは困難であるが,臨床経過で推測でき,また早期の硝子体手術+眼内レンズ摘出術は,治療および診断に必要であると思われた。

高度の眼圧変動を認めた狭隅角緑内障の1例

著者: 勝村浩三 ,   徳岡覚 ,   島智子 ,   喜田照代 ,   東郁郎

ページ範囲:P.1985 - P.1989

 症例は52歳の女性で,1989年,受診時に透明な水晶体の膨隆による閉塞隅角緑内障を認めた。Laser iridotomy.laser gonioplastyを施行したが眼圧は下降せず,さらにcore vitrectomyと隅角癒着解離術を施行したところ術後眼圧は大幅に変動した。1997年から水晶体の混濁が強くなったため,1998年2月に水晶体摘出と眼内レンズ挿入術を施行した。眼内レンズは嚢内固定されていたが,前方に位置し,前房は浅く,眼圧も変動を繰り返した。本症例における眼内レンズの前方移動は,水晶体赤道部の何か所かで周辺部の有形硝子体あるいは毛様体突起の過形成が関与している可能性があると推察した。

網膜静脈分枝閉塞症における光凝固の嚢胞状黄斑浮腫に対する影響

著者: 三浦真二 ,   高木均 ,   鈴間潔 ,   王英泰 ,   尾崎志郎 ,   山名隆幸 ,   喜多美穂里 ,   本田孔士

ページ範囲:P.1991 - P.1995

 嚢胞状黄斑浮腫(cystoid macular edema:CME)を合併した網膜静脈分枝閉塞症(branch retinal vein occlusion:BRVO)24例24眼をscatter光凝固早期(6か月以内)施行群(14例/4眼),光凝固非施行群(10例10眼)に分け,光凝固の有無とCME持続期間,および視力予後について比較検討した。CME持続期間は光疑固施行群で平均23.75±4.54か月,光凝固非施行群で11.30±4.54か月であり,CMEはscatter光凝固施行群において有意に遷延し(p=0.0443),光凝固スポット数が多い症例ほど持続期間が長い傾向にあった。CME消失後のlogMAR視力は光凝固施行群で平均3.57±4.65,光凝固非施行群で1.72±2.63であり,2群間に有意な差は認められなかった(p=0.27)。Scatter光凝固はBRVOの合併症予防に有効な治療法であるが,その早期施行はCMEを遷延させる可能性が示唆された。

先天緑内障眼に生じた巨大裂孔網膜剥離の1例

著者: 鈴木育子 ,   桜井英二 ,   水野晋一 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.1997 - P.2000

 13歳の男児が,右眼の著明な増殖硝子体網膜症を伴う巨大裂孔を伴った網膜全剥離のため,当科に紹介された。生後約1か月に,先天緑内障のため両眼の線維柱帯切開術を受けていた。硝子体手術,シリコンオイルタンポナーデを施行したが,術後8日目に再増殖による再剥離が出現したため,再度,硝子体手術,シリコンオイルタンポナーデを施行し,網膜は復位した。右眼眼軸長は33.8mmと延長しており,術中に硝子体が液化している所見もみられ,これらが巨大裂孔を伴った増殖硝子体網膜症の誘因と考えられた。先天緑内障眼において網膜剥離の合併した報告例は少数ではあるが,視力予後不良であり,定期的な眼底検査が必要であると考えられた。

糖尿病例における白内障手術終了時ステロイド結膜下注射の要否

著者: 福嶋はるみ ,   加藤聡 ,   海谷忠良 ,   湯口琢磨 ,   大鹿哲郎

ページ範囲:P.2001 - P.2004

 糖尿病例において,小切開創白内障手術終了時のステロイド結膜下注射(以下,結注)の術後炎症軽減効果を検討した。小切開創白内障手術を受けた糖尿病例86例86眼を対象とし(増殖糖尿病網膜症と術中合併症例は除外),ステロイド結注施行群52眼と非施行群34眼とに分けた。前房フレア値を術前,術翌日,2日,5日,7日,14日後に測定し,2群間で比較したが,いずれの検査時期においても2群間で差がなかった。したがって,糖尿病例においても,増殖糖尿病網膜症や術中合併症がない場合,白内障手術終了時のステロイド結注は不要と考えられた。

日眼百年史こぼれ話・12

明治の眼科医の社会事業

著者: 三島濟一

ページ範囲:P.1974 - P.1974

 日眼百周年記念誌では,大学の偉い先生の話よりは,地方にあって地域医療に貢献した多くの眼科医の記録を残したいと思い,記念誌の第5巻を計画した。各地の眼科医会,医師会,子孫の人々から膨大な史料を送っていただいたが,特に感銘を受けたのは,われわれの先輩が地域の先駆者として,多くの社会事業を興していたことである。郷土の若者教育のための育英基金の設立,衛生教育などはほとんどの人が手がけていた。このような先輩の活動に支えられて,日本の近代化が成し遂げられたのである。
 ここでは,特に私の印象に残るいくつかの事例を紹介する。

文庫の窓から

眼療器具の種々(2)—江戸時代眼科諸流派の古写本に見る

著者: 中泉行史 ,   中泉行弘 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.2010 - P.2011

 前回,江戸時代の眼科各流派の古写本に収められている眼療器具の名称を列記したが,もう少し紹介しよう(下表参照)。
 このように17世紀から19世紀の間のごく限られた眼科諸流派の眼療器具の名称などを列挙したが,その種類は時代が後世に及ぶほど多くなり,その改良や進歩の跡がうかがえる。特に従来の馬島流眼科に大改良を加えた漢蘭折衷眼科の「眼科集要折衷大全」(馬島円如著)や「続眼科錦嚢」(本庄普一著)以降,洋式眼科を採り入れた眼科書に所載された眼療器具をみる限り,その進歩は以前と比べて格段の差が認められる。このことは,口伝や秘伝をもって一子相伝の非公開時代と蘭方の西洋式眼科を導入した公開時代の差を意味するものであろうか。それにしても,あらゆる面で科学的環境の整っていなかった時代に,こうした立派な眼療器具を次々と考案し,創作してきた先人たちの努力は真に貴重なもので,今日の医療器具発達の礎となっている。

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臨床眼科 第53巻 総目次・物名索引・人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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