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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科53巻4号

1999年04月発行

雑誌目次

特集 第52回日本臨床眼科学会講演集(2) 特別講演

ネパールへの眼科協力—その成果と反省

著者: 黒住格

ページ範囲:P.521 - P.526

 アジア眼科医療協力会は,アジアの国々に対して失明防止のための眼科医療隊を派遣しようという構想から,1971年に創設された。当初アジア各国で活動を展開するつもりであったが,やがて対象国をネパールに絞った。アイキャンプが主流であったこの国の眼科医療も,ゆっくりと組織立ち,援助の受け皿が整い始めた。そこで,当会も援助の目標を眼科医療体制確立に切り替え,①アイキャンプ(野外開眼手術)の実施,②眼科関係の人材育成,③新しい眼科医療技術と眼科医療機器の導入,④盲人の歩行訓練,リハビリテーションの指導,⑤眼科病院に対する支援および眼科病院の運営,の5つの援助項目を立てて活動を続けている。

学会原著

白内障と硝子体の同時手術を施行したハンセン病の糖尿病網膜症の1例

著者: 橋本浩隆 ,   筑田眞

ページ範囲:P.527 - P.529

(P1-1-15) ハンセン病の白内障・糖尿病綱膜症に対し白内障と硝子体の同時手術(トリプル手術)を行った1例を経験した。症例は68歳男性で,主訴は右眼視力低下。既往歴に16歳頃からハンセン病(BL型),60歳から糖尿病がある。初診時の右眼視力は0.03で,白内障と糖尿病網膜症による硝子体出血がみられた。トリプル手術の後,軽度の虹彩炎がみられたが速やかに消退し.右視力は0.06まで改善した。本症例は術前後においてハンセン病に起因するぶどう膜炎の合併がみられず,比較的侵襲の高いトリプル手術を行ったが良好な結果が得られた。

糖尿病黄斑浮腫への硝子体手術の光干渉断層計による評価

著者: 大谷倫裕 ,   岸章治

ページ範囲:P.530 - P.534

(P1-1-24) 糖尿病黄斑浮腫への硝子体手術前後の網膜断層像を光干渉断層計(Optica coherence tomography:OCT)によって観察した。術後6か月以上,OCTで経過を観察できた14眼を対象とした。術前視力は0.04からO.5(平均O.2),中心窩網膜厚は390から840μm (平均640μm)であった。14眼全例に網膜の膨化があり,嚢胞様変化(6眼),漿液性網膜剥離(3眼),嚢胞様変化+漿液性網膜剥離(3眼)を伴っていた。視力は、改善6眼、不変7眼,悪化1眼であった。術後6か月の中心窩網膜厚は120から500μm (平均340μm)に減少した。嚢胞様変化は9眼中6眼で消失した。浮腫の消退過程で,漿液性網膜剥離が3眼で増加し,3眼で出現した。漿液性剥離を除いた中心窩網膜の厚さと,術後6か月後の視力は高い相関を示した。

網膜色素変性症に合併した黄斑円孔に対して硝子体手術を施行し視機能の改善をみた1例

著者: 森田啓文 ,   伊比健児 ,   西田進五 ,   纐纈有子 ,   古川元 ,   高橋広

ページ範囲:P.535 - P.538

(P1-1-27) 定型網膜色素変性症に黄斑円孔を合併した症例に硝子体手術を行い,視機能の良好な改善を得られた1例を経験した。症例は35歳男性で両眼に網膜色素変性症,右眼にStage2の黄斑円孔を生じた。硝子体手術を行い,円孔閉鎖が得られ,矯正視力は術前0.3から術後12に回復し,Titmus Stereo Testも術前circle 1/9から術後9/9に改善した。本症例では35歳と若年であったが,術前硝子体の液化が強く,後部硝子体が未剥離で,円孔周囲にセロファン様反射がみられたことなどから,特発性黄斑円孔と同様の機序が生じていると考えられた。

網膜色素上皮裂孔の網膜断層像

著者: 高橋慶 ,   飯田知弘

ページ範囲:P.539 - P.542

(B2-2-14) 特発性の網膜色素上皮裂孔の自然経過を光干渉断層計(OCT)で観察した。症例は61歳の女性。右眼後極部に4×3乳頭径大の色素上皮剥離があり,中心窩を含む耳側半分に半月形の色素上皮裂孔があった。OCTでは,裂孔部は色素上皮の高反射層を欠き,非裂孔部との境界では色素上皮が脈絡膜側に巻き込まれて.厚い高反射層となっていた。色素上皮が欠損した裂孔部では,脈絡膜は深部まで強い反射を示した。色素上皮が翻転した部分では,脈絡膜の反射が著しく減弱していた。約6週間後に色素上皮剥離は復位したが,脈絡膜の強い反射は持続していた。色素上皮裂孔部は5か月後には白色組織に覆われたが.脈絡膜の反射亢進は続いていた。

インドシアニングリーン螢光眼底造影により手術効果が示されたuveal effusionの1例

著者: 岩下万喜 ,   小島孚允 ,   関戸信雄

ページ範囲:P.543 - P.546

(P1-2-33) 真性小眼球に伴うuveal effusionに強膜半層切除+強膜開窓術を行い,手術前後のインドシアニングリーン螢光眼底造影(以下,IA)を撮影し所見を検討した。症例は47歳男性,手術は4象限に角膜輪部より6mmに5×7mmの強膜半層切除とその中央に直径1mmの強膜パンチによる全層切除を行った。術後脈絡膜剥離,網膜剥離とも消退し,視力は術前の0.04から0.2と改善した。IA所見では術前は観察不可能だった脈絡膜血管が術後は観察可能となった。これより手術による脈絡膜循環の改善が示唆され,uveal effusionの治療効果を把握するうえでIAの有用性が示唆された。

赤外螢光造影,網膜厚装置を施行した後部強膜炎の1例

著者: 平山容子 ,   鈴木厚 ,   切通洋 ,   岡本紀夫 ,   福田全克

ページ範囲:P.547 - P.550

(P1-2-34) 50歳男性の左眼を後部強膜炎と診断した。矯正視力はO.8で,眼底に乳頭浮腫と血管の拡張蛇行があり,網膜の雛が顕著であった。インドシアニングリーン螢光造影で,脈絡膜の充盈が遅延し,血管壁が不整で,造影後期に脈絡膜の皺が過螢光を呈するなど,脈絡膜循環障害の所見が得られた。網膜厚解析装置での網膜の光学的切断面では.黄斑部に不整な網膜の皺がみられ,脈絡膜側の凹凸が顕著であった。これらの所見は後部強膜炎に特徴的であると診断された。

原田病へのステロイド全身投与後にインスリン依存型糖尿病を発症した1例

著者: 丸山友香 ,   高橋浩基 ,   林秀行 ,   高良由紀子 ,   飯野和美

ページ範囲:P.551 - P.554

(P3-1-24) 29歳の男性が頭痛,咳嗽,急激な視力低下を訴え.県西部浜松医療センター眼科に紹介された。両眼底後極部の漿液性網膜剥離と,螢光眼底撮影での網膜下螢光色素貯留所見から原田病と診断し,ステロイドを全身投与したところ,発症10か月後に夕焼け状眼底を呈し寛解した。発症13か月後(ステロイド投与中止3か月後)にインスリン依存型糖尿病(IDDM)を発症し,血糖コントロールは著しく不良である。HLA検査ではIDDMと関連するDR9,DQB10303が検出された。IDDMの発症には,(1)原田病と共通する自己免疫機序が介在する可能性,(2)ステロイド投与が関与した可能性,(3)偶然発症の可能性が考えられるが,現段階では,(1)(2)の証明は困難である。

超音波乳化吸引術の手技と吸引圧・流量・超音波出力との関係

著者: 木戸啓文 ,   原田隆文 ,   橋本貴夫

ページ範囲:P.555 - P.559

(C1-2-6) 超音波白内障手術では,術中の吸引圧・流量・超音波出力の実情は間接的にしか把握できない。筆者らは,3眼でこれらの値を術中所見と同時に録画記録し,0.1秒ごとの変化を解析した。手術は点眼麻酔下3.Omm角膜1面自己閉鎖創で行い,超音波を60%出力で連続発振し,最大吸引圧を180〜200mmHg,流量をペダル2で27ml/分,ペダル3で23ml/分に設定した。破砕吸引時の圧は20〜80mmHgとした。核分割時に核を保持する際には吸引圧を最大値にした。分割した核の閉塞破砕吸引時は,超音波を断続的に発振して吸引圧を下げずに核を保持した。Epinudeusの処理では,これを吸いきる前に超音波を発振して吸引圧を下降させ,サージ現象を防いだ。この方法は,手術の教育に有効であり,装置の自動化などにも有用である。

糖尿病網膜症に合併した内頸動脈閉塞の2例

著者: 玉井浩子 ,   横山朝美 ,   玉井一司

ページ範囲:P.561 - P.565

(P3-2-30) 糖尿病網膜症に合併した内頸動脈閉塞症の2例を経験した。2例とも眼底所見に左右差があり,片眼に虹彩ルベオーシスと血管新生緑内障がみられた。MRアンジオグラフィで虹彩ルベオーシスのある眼と同側の内頸動脈閉塞が確認された。網膜光凝固を行ったが,視力予後は不良であった。眼底所見に左右差があり,片眼に虹彩ルベオーシスがみられる糖尿病網膜症では内頸動脈閉塞を疑って,侵襲のないMRアンジオグラフィなどを行って診断を確定する必要がある。

日帰り白内障手術の適応についての検討

著者: 吉田陽子 ,   市川一夫 ,   斎藤裕 ,   内藤尚久

ページ範囲:P.567 - P.569

(B2-1-19) 社会保険中京病院関連施設で1997年の1年間に行った,日帰り白内障手術1,463眼をretrospectiveに検討した。対象は当院関連施設の白内障手術と日帰り手術の適応を満たすものとした。術前全身合併症の割合は高血圧39.8%,糖尿病12%,心疾患15.6%,脳疾患3.1%であったが,術中,術後に悪化した症例はなかった。関連施設からの転院症例4眼は術中眼合併症による硝子体手術目的で,内訳は2眼が偽落屑症候群,1眼が透析症例,1眼が術前特に問題のない症例であった。今回の結果では偽落屑症候群,透析症例で転院が必要となったが,このようなチン小帯が脆弱であると予想される症例は、入院と硝子体手術が可能な施設で手術を行ったほうがよいと思われる。

先天性黄斑欠損症の同胞例

著者: 高橋義徳 ,   山口克宏 ,   高橋茂樹

ページ範囲:P.571 - P.574

(B5-1-5) 典型的な両眼の先天性黄斑欠損症を15歳女児とその12歳の妹に診断した。両症例とも黄斑に黄白色病巣があり.病巣内とその辺縁に色素があった。姉に行ったインドシアニングリーン赤外螢光眼底造影で,病巣内で脈絡毛細血管板が欠如している所見が得られた。姉の左眼に角膜輪部デルモイドがあり.先天性黄斑欠損症に神経外胚葉の分化異常が関与している可能性が推定された。

両側後頭葉梗塞の視機能の検討

著者: 中野直樹 ,   佐藤実佐子 ,   森隆三郎 ,   石川弘

ページ範囲:P.575 - P.577

(B6-1-19) 両側後頭葉梗塞28例の視力の経過と視野障害の相関,および基礎疾患との関連について検討した。各症例を視野の形で,I:中心視野が残存するもの,II:周辺視野が残存し,中心視野欠損があるもの,III:周辺視野がわずかに残存するものの3群と初期の視野検査ができなかった群に分類した。I群とII群では初期視力の良好なものと初期視力が不良でも視力改善したものが多かったが,III群では視力改善は不良であった。基礎疾患では,とくに不整脈や虚血性心疾患の7例全例で予後が良好であった.

後嚢の自然破嚢を伴った水晶体起因性ぶどう膜炎の1例

著者: 岡部純子 ,   水野晋一 ,   野崎実穂 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.579 - P.582

(C1-1-3) 67歳女性が,5日前からの頭痛,嘔吐,右眼眼痛で受診した。30年前から緩慢に進行する右眼の霧視があった。矯正視力は右手動弁,左0.8で,眼圧は右30mmHg,左15mmHgであった。右眼前房に多数の微塵があり,水晶体は液化し,前嚢は正常であった。超音波検査で硝子体腔内に可動性の塊があった。これらの所見から水晶体起因性ぶどう膜炎と診断した。経毛様体扁平部水晶体切除術と硝子体切除術を行った。術中に,後嚢の破嚢と水晶体成分が硝子体腔内に散布していることが確認された。術後,炎症は軽快し,眼圧は正常化した。

新しい癌化学療法を試みた涙腺癌の1例

著者: 石井清 ,   小島孚允 ,   兼子耕 ,   家富克之

ページ範囲:P.583 - P.587

(C2-1-4) 骨浸潤のみられた涙腺癌を摘出後,新しい癌化学療法の併用を試み,術後2年間再発がみられない1症例を経験した。症例は53歳男性。Hertel眼球突出計にて左眼26mmの眼球突出がみられた。CT,MRI検査にて左眼窩深部まで達する腫瘍が観察され,腫瘍生検により涙腺癌との病理診断を得た。左眼窩内容除去術を行い,術中病理診断にて周辺眼窩骨組織への腫瘍浸潤所見がみられたので,可及的に除去し.術後化学療法を行った。5-fluorouracil(5-FU)の24時間点滴とシスプラチン(cisplatin:CDDP,5mg/m2)の隔日少量投与の併用療法を行い,2年後の現在まで再発所見を得ていない。本例においては,5-FUとCDDPの新しい組み合わせと投与方法の工夫による化学療法が.骨浸潤のあった涙腺癌に対して奏効し,本法の有効性が推定されたが,今後も経過観察を要するものと考えられる。

難治性緑内障に対するダイオードレーザー経強膜毛様体光凝固術の治療成績

著者: 若林俊子 ,   大竹雄一郎 ,   下山勝 ,   谷野富彦 ,   宮田博 ,   真島行彦

ページ範囲:P.589 - P.592

(C4-1-4) 難治性緑内障眼20例24眼に対し,半導体レーザーによる経強膜毛様体光凝固術を行った。治療回数は1〜7回,平均1.8回、観察期間は1〜39か月,平均16.3か月であった。眼圧は,術前32.0±12.4mmHgから.最終観察時は投薬下にて16.3±8.1mmHgと有意に低下した。初回実施例で眼圧下降が持続していたのは,術後1年で50%,3年で25%であったが.繰り返し実施することにより、18眼(75%)は21mmHg以下にコントロールされた。術後,前房出血2眼,漿液性網脈絡膜剥離1眼:遷延性低眼圧1眼,眼球癆1眼が生じた。半導体レーザー毛様体光凝固術は,難治性緑内障眼に対して比較的安全で有効な治療法と考えられた。

トラベクロトミーとトラベクロトミー・白内障同時手術との術後成績の比較検討

著者: 衛藤崇彦 ,   八塚秀人 ,   石井陽子 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.593 - P.596

(C4-1-16) トラベクロトミー(LOT)とトラベクロトミー+超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(LOT+IOL)との術後成績を比較検討した。対象はしOTが施行された20眼とLOT+IOLが施行された14眼である。術前眼圧はLOTで20:5±0.86mmHg (平均値±標準誤差),LOT+IOLで20.2±0.90mmHgであり,両群に有意差はなかった。術後の最終観察時の眼圧はLOTで162±0-66mmHg,LOT+IOLで12.1±0.93mmHgであり,LOT+IOLが有意に低下していた。最終観察時の眼圧が14mmHg以下ヘコントロールされる割合はLOTで30%,LOT+IOLで85.7%であり,LOT+IOLが有意に良好であった。
 LOT+IOLはLOTより低い眼圧値に落ち着き,術後眼圧を14mmHg以下へコントロールする率も高かった。LOT+IOLは慎重に症例を選ぶことにより,視野障害の進行した症例にも適応となると思われた。

出産後改善した増殖糖尿病網膜症の1例

著者: 小林恵子 ,   今井雅仁 ,   飯島裕幸

ページ範囲:P.597 - P.600

(P1-1-13) 糖尿病未治療の24歳妊婦に単純糖尿病網膜症がみられた。妊娠14週時に前増殖網膜症に進行し,さらに悪化傾向を示したため汎網膜光凝固を行った。その後さらに増殖網膜症に進行し視力低下をきたしたが,出産後,網膜症は軽快し増殖停止網膜症となって安定した。妊娠初期に血糖コントロール不良で網膜症をみた場合は,頻回の眼底精査により光凝固開始時期を見極めることが重要であり,増殖網膜症にまで進行しても出産後は改善しうることが示された。

両眼性糖尿病視神経症

著者: 中沢陽子 ,   近藤由佳

ページ範囲:P.601 - P.604

(P1-1-16) 厳格な治療開始の2か月後に.両眼の視神経乳頭腫脹をきたした症例を報告した。症例は58歳男性,当初右眼視力低下は一過性で自然緩解した。急激な血糖是正で低酸素状態になった組織による乳頭の浮腫と微小循環障害,すなわち糖尿病乳頭症(DP)と診断した。しかし徐々にフリッカー値は低下し,左眼は無症候性乳頭浮腫の2か月後,急激な視機能低下をきたした。持続する浮腫は循環不全と軸索流障害を助長し,生じた虚血が浮腫を作る悪循環があったと推察し,前部虚血性視神経症(AlON)と診断した。両疾患は同一線上にあり,糖尿病患者における狭義のAlONをDPと分類することはできず.本症例は両者の中央に位置する病態を呈したと考えられた。

特発性黄斑円孔に対する硝子体手術後の視野変化

著者: 武末佳子 ,   向野利寛 ,   小沢昌彦 ,   大島健司

ページ範囲:P.605 - P.608

(P1-1-28) 術中の視神経障害を防ぐために眼圧を低めに保つように設定(灌流ボトルの高さ:50cm以下,液空気置換の設定圧:30mmHg)した福岡大学の通常の手術方法で硝子体手術を行った特発性黄斑円孔41例43眼で,術後の視野異常について検討した。術後に視野異常がみられたのは2眼(4.7%)であり,そのうち1眼は緑内障例であった。
 筆者らの手術方法では,術後の視野に対する影響はほとんどなかったが,緑内障眼など視神経に脆弱性のある症例ではそれでも視野狭窄が進行した。術中の眼圧と液空気置換時の設定圧を低く保つことが硝子体術後の視野異常を予防する最も良い方法と考えられた。

フザリウムによる角膜真菌症

著者: 江口洋 ,   鎌田泰夫 ,   金川知子 ,   内藤毅 ,   塩田洋

ページ範囲:P.609 - P.611

(P2-1-9) 過去19年間に経験した,角膜真菌症53例中フザリウムによる8例につき,その臨床所見とピマリシンに対する治療効果を検討した。潰瘍底は全例が汚い灰白色で,8例中6例(75%)にhyphateUlcerを認めた。4例(50%)に外傷の既往があった。眼球摘出に至った2例のピマリシンに対する最小発育阻止濃度は比較的高値を示し,ピマリシンの治療効果と相関のある傾向を示した。

Brittle cornea syndromeと思われた1症例

著者: 石井陽子 ,   八塚秀人 ,   中塚和夫 ,   宗像房子

ページ範囲:P.613 - P.616

(P2-1-16) 38歳男性が右眼の眼圧上昇で紹介され受診した。矯正視力は右眼は指数弁,左眼は0であった。Goldmann眼圧計による眼圧は右29mmHg,左32mmHg。角膜径は左右とも11.5mmで,角膜厚は中央部で03mmであり,球状角膜の所見を呈していた。眼軸長は左右とも40mm。青色強膜はなかった。全身的に関節弛緩症,歯牙が抜けやすいこと,高音領域の聴力の軽度低下があった。Brittle corneasyndromeと診断した。右眼に線維柱帯切除術を行った。炭酸脱水酵素阻害薬の内服を中止すると,左眼の眼圧は変化しなかったが,眼圧が関与すると推定される左眼の疼痛が出現した。角膜が薄い場合には,みかけの眼圧値と実際の眼圧が解離していることが推定された。

眼科受診がhuman immunodeficiency virus抗体陽性発見の契機となった桐沢型ぶどう膜炎の1例

著者: 石田為久 ,   岡田由香 ,   白井久美 ,   雑賀司珠也 ,   岡本幸春 ,   大西克尚

ページ範囲:P.617 - P.620

(P3-1-7) 眼科受診がHlV抗体陽性の発見の契機になった桐沢型ぶどう膜炎の1例を経験した。症例は41歳の男性で,右眼の霧視,充血で発症し,眼底に網膜壊死病変が認められた。初診時の血液検査でHIV抗体陽性であったため,一時はアシクロビルとガンシクロビルの併用療法を行った。診断確定には前房水のPCR法が有用であった。網膜壊死部は瘢痕化し硝子体混濁は軽度残存したが,網膜剥離は発生しなかった。矯正視力(1.2)を保っている。網膜壊死がみられる症例ではHIV抗体検査を早期に行い.診断の手掛かりにする必要がある。HlV抗体陽性例ではHIV治療を平行して行うことが,原疾患の予後を向上させる手助けになる。

多発性後極部網膜色素上皮症の臨床的検討

著者: 米村尚子 ,   蓮村直 ,   平田憲 ,   村田恭啓 ,   根木昭

ページ範囲:P.621 - P.624

(B2-2-2) 多発性後極部網膜色素上皮症と診断した10例、6眼について,インドシアニングリーン螢光眼底造影(IA)の所見を含め臨床像について検討した。中心性漿液性網脈絡膜症の既往のあるものは6例,ステロイド使用歴のあるものが7例であった。全眼に黄白色滲出斑,多発性の漿液性網膜剥離を,10眼に網膜色素上皮剥離.1眼に網膜下線維性増殖を認めた。フルオレセイン螢光眼底造影(FA)では全例に多発漏出点があり,IAではlCG漏出,造影早期の脈絡膜充盈遅延,脈絡膜静脈の拡張,造影後期の異常脈絡膜組織染を認めた。IAではFAで正常にみえる領域にも異常所見がみられ,脈絡膜病変の広がりの検出に有効であった。

眼底出血を呈した組織球貧食性脂肪織炎の1例

著者: 河本ひろ美 ,   安藤一彦 ,   中山久徳 ,   安井英明

ページ範囲:P.625 - P.627

(P3-1-12) 症例は70歳男性。眼球運動時の痙痛のため当科を紹介され受診した。両眼眼底出血と白斑を認め.当初貧血によるものと考えた。皮下結節生検により,組織球貪食性脂肪織炎と診断され,ステロイド治療を行った。再診時に眼底出血は消え,白斑もほぼ消失していた。この時には皮下結節は治癒していたが,貧血は改善していなかった。この症例でみられた眼底所見は.貧血によるものでなく,組織球貪食性脂肪織炎の炎症が網膜に及んだためと考えられた。

網膜色素変性の走査型レーザー検眼鏡所見

著者: 大庭啓介 ,   脇山はるみ ,   大平明弘 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.629 - P.632

(B2-2-6) 網膜色素変性患者の走査型レーザー検眼鏡(SLO)による眼底所晃,インドシアニングリーン(ICG)造影所見および安全性を評価した。安全性は,SLO施行前後に自覚症状,視力,視野,色覚,コントラスト感度の項目を検査した。ヘリウムネオンによる画像でも,網膜色素上皮の変性により脈絡膜血管が高輝度に観察された。骨小体様の色素沈着は全条件下で低輝度であった。ICG造影では,黄斑部の変性が造影されたが脈絡膜循環に異常はなかった。造影を行わないR2 apertureでの画像は、造影検査と同程度に脈絡膜血管を描出できた。安全性の項目は検査前後に差はなかった。SLOは網膜色素変性を安全に診断することができる。

深部裂孔による網膜剥離に対する手術の検討

著者: 伊藤幸子 ,   加藤整 ,   大島健司

ページ範囲:P.633 - P.636

(B2-2-27) 1993年1月から1997年12月までに福岡大学病院眼科で,黄斑円孔を除く深部裂孔網膜剥離に対し初回手術を行った45例45眼において,術式とその選択基準について検討した。初回手術の術式は経強膜手術38眼で,網膜復位24眼(63.2%),網膜非復位14眼(36.8%)であった。裂孔の角膜輪部からの位置では,復位群18〜24mmで平均19.8mm,非復位群17〜24mmで平均216mmであり,両群に平均18mmの差があった。非復位群の8眼中5眼は20mm以上であった。両群とも最終的には全例で復位が得られた。裂孔の後極端が角膜輪部より20mm以上を,初回から硝子体手術適応の基準としてよいと考えた。

急性前部ぶどう膜炎94症例の臨床的検討

著者: 外間英之 ,   後藤浩 ,   横井秀俊 ,   坂井潤一 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.637 - P.640

(B3-2-2) 東京医科大学眼科で過去13年間に急性前部ぶどう膜炎と診断された94症例,121眼を対象として,その臨床所見,経過,予後などについてレトロスペクティブに検討を行った。その結果眼所見については従来の報告とほぼ同様であったが,螢光眼底撮影にて異常所見を示す症例が約半数例に及んだ。また,一年以上経過を観察できた症例の半数以上に炎症の再燃がみられた。HLA-B27の有無による臨床像を比較検討したところ,眼所見にはほとんど差異をみなかったが,炎症再燃例はHLA-B27陽性例に有意に多い結果となった。また,全94例中,潰瘍性大腸炎や強直性脊椎炎などの基礎疾患を有するものが17例存在していた。急性前部ぶどう膜炎という疾患単位には,さまざまな要因がその発症に関与していることが示された。

サルコイドーシス眼におけるICG造影でみた脈絡膜病変

著者: 伊丹雅子 ,   松尾俊彦 ,   白神千恵子 ,   白神史雄 ,   佐藤由希子 ,   大月洋

ページ範囲:P.641 - P.644

(B3-2-24) 全身的に診断の確定したサルコイドーシス患者11例21眼に対し,走査レーザー検眼鏡を用いてフルオレセイン螢光眼底造影(fluorescein angiography:FA),インドシアニングリーン螢光眼底造影(indocyanhe green angiQgraphy:IA)の同時撮影を行い,脈絡膜病変を検索した。FAではみられないIA所見として,虫食い状の低螢光斑,局所的な低螢光斑,過螢光点,脈絡膜血管壁の組織染.脈絡膜中大血管の減少,びまん性ベール状螢光の減弱がみられた。このうち虫食い状の低螢光斑はFAにおける網膜血管色素漏出の強い群では弱い群と比べて有意に高頻度に出現していた。以上から,サルコイドーシス眼に対するIAは,FAで描出困難な脈絡膜病変の把握,活動性の評価に有用であると考えられた。

アレルギー性結膜疾患における涙液サイトカイン濃度

著者: 馬上和歌子 ,   内尾英一 ,   松浦範子 ,   池澤善郎 ,   川口博史 ,   大野重昭

ページ範囲:P.645 - P.648

(B5-2-4) アレルギー性結膜疾患における複数の涙液サイトカイン濃度を比較検討した。アレルギー性結膜炎(AC),アトピー性角結膜炎(AKC),春季カタル〔(VKC)のうちアトピー性皮膚炎(AD)合併例は70%〕および正常対照者から採取した涙液インターロイキン(IL)-2,IL-4およびIL-5濃度をELISA法で測定した。涙液IL-2濃度は各群問に有意差はなかった。涙液IL-4はVKC群がACおよび対照群に対し,またAD合併VKC群がAD非合併VKC群に対し有意に高値であったが,VKC群とAKC群に差はなかった。涙液IL-5はAD合併にかかわらずVKC群で高値を示し,AKC,ACおよび対照群に対し有意に高かった。これらの結果から,IL-4とIL-5のアレルギー性結膜疾患の種類によって異なる動態が示された。

Heidelberg retina flowmeterによる緑内障眼の乳頭内組織血流量測定の検討

著者: 水木健二 ,   山崎芳夫

ページ範囲:P.649 - P.652

(B5-2-22) Heidelberg Retina Flowmeter (以下,HRF)による視神経乳頭内組織血流測定における至適計測範囲の検討を行った。対象は正常者10例10眼,開放隅角緑内障26例26眼である。測定値は計測範囲の拡大により再現性が良好になったが,HRFパラメーターとHumphrey視野変化指数との相関においては,計測範囲10×10pixelで有意な相関が得られた。HRFでの視神経乳頭内組織血流測定は10×10pixelが至適計測範囲であることが示唆された。

北九州市内19病院眼科における視覚障害者の実態調査—第3報 視覚障害者の視機能と日常生活状況

著者: 高橋広

ページ範囲:P.653 - P.657

(B6-2-7) 視覚障害者の実態は定かではなく,その実数さえもわからないのが現状である。そこで,北九州市内19病院眼科に通院している視覚障害者の実態調査を行った。1か月間の延べ22,117名の受診者から603名(2.7%)が調査対象となったが,アンケート調査表を配布したのは560名(92.9%〉で,そのうち463名(82.7%)から回答が得られた。約7割の視覚障害者が日常生活上で困難さを訴えており,移動,情報および家事において多くが支障を来していた。移動に関しては8割が不自由を感じており,視力が悪いほど不自由であった。また,情報では4割以上が不自由で,0.1未満群が0.1以上群に対し有意に不自由であった。一方,視野障害の有無では明らかな差はみられなかったが,移動や情報に多くの問題があり.とくに情報に関して統計的に有意であった。求心性狭窄群は中心暗点群に比して有意に単独歩行は困難であったが,使用文字に関しては両群とも約半数が活字も点字も使用できなかった。今回,視覚障害者の多数に日常生活上困難が生じていることが判明し,積極的なロービジョンケアが望まれる。

松本サリン事件後の健康診断における眼科所見

著者: 野原雅彦 ,   関島良樹 ,   中島民江 ,   三村昭平

ページ範囲:P.659 - P.663

(B6-2-23) 1994年6月27日に松本サリン事件が起き,死者7名,重軽症者500名以上を出した。サリンの後遺症は不明で,事件後,1年,1年半、2年半,3年半に松本市地域包括医療協議会が中心となり健康診断を行い,眼科所見をまとめた。電子瞳孔計,赤外線オプトメーターの測定を中心に,視力,検眼鏡的検査,視野,網膜電図(ERG)などを行った。全体では,瞳孔径,対光反応はほぼ正常であったが,重症者に一部影響が残っていた。1年後に1名に求心性視野狭窄が残存し,重症者1名には3年半後にも縮瞳とsubnormal ERGが残存した。全身的には,脳波・心電図異常,末梢神経障害,心的外傷後ストレス症候群がみられた。眼の疲れや視力低下の自覚症状が残る者が多かった。

被虐待児症候群の対応と問題点

著者: 渡辺朗 ,   鎌田芳夫

ページ範囲:P.664 - P.666

(B6-2-31) 被虐待児症候群の2歳の男児を経験し,被虐待児の対応と問題点について検討した。現状における被虐待児症候群の対応の問題として,以下のことが考えられる。(1)医療従事者が,被虐待児症候群の対応に熟知していない,(2)児童福祉法により被虐待児発見の通告義務が定められているが,一般に十分に浸透していない。また,通告に対する免責も確立していない,(3)医療機関と児童相談所や福祉事務所が密接に連絡を取り合っているとは言い難い,(4)親権者の同意が得られないと,第三者が被虐待児を保護できない。したがって,早急な法整備ならびに医療関係者に対する啓蒙が望まれる。

緑内障眼における短波長感度錐体視野と視神経乳頭陥凹との相関

著者: 辻典明 ,   山崎芳夫

ページ範囲:P.667 - P.670

(B9-2-9) 緑内障性視神経障害に伴う青錐体感度異常の検出を目的とし,Humphrey Field Analyzer (HFA)の短波長感度錐体視野(SWAP)の黄斑プログラムの再現性と有用性について検討した。正常眼16例,16眼を対象にした再現性の検討では,3回の黄斑部青錐体平均感度に統計学的有意差はなかった。開放隅角緑内障59例59眼を対象にした有用性の検討では,視神経乳頭陥凹面積比と黄斑部青錐体平均感度との問に有意な相関(p<0.01)が得られた。HFAのSWAPによる黄斑プログラムは,緑内障性視神経障害に伴う青錐体感度異常の検出に有用である。

増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術の長期視力予後—術後6か月と3年の比較

著者: 遠藤弘子 ,   内藤毅 ,   浅原貴志 ,   賀島誠 ,   塩田洋

ページ範囲:P.671 - P.673

(B9-2-27) 1991年/月から1993年12月までの3年閤に,徳島大学医学部附属病院眼科にて初回硝子体手術を受け,術後3年以上経過観察ができた増殖糖尿病網膜症37例,43眼を対象とし,術前に黄斑剥離(+)群と(−)群に分け,視力予後を検討した。黄斑剥離は17眼(39.5%)にみられた。術後3年において術前黄斑剥離(−)群では術後視力0.1以上が23眼(88%),0.5以上が11眼(42%)であるのに対し,黄斑剥離(+)群では術後3年の視力0.1以上9眼(53%),0.5以上0眼であった。術前に黄斑剥離(+)群と(−)群では,術後3年においても視力予後に有意差がみられ,増殖糖尿病網膜症においては,黄斑剥離の出現する前に手術すべきと考える。

Capsule tension ringの適応と限界

著者: 黒光正三 ,   本宮数浩 ,   鳥飼治彦 ,   高岡明彦

ページ範囲:P.674 - P.676

(C1-2-22) 白内障手術に際し,水晶体嚢の赤道部に挿入し,嚢の緊張を保つことのできる手術補助器具であるMocher社製Capsule Tension RingをZinn小帯断裂症例14例に用いた。11例はリング挿入,眼内レンズ愛内固定が可能であった。180度以上Zinn小帯が断裂し,水晶体の動揺が激しく,リング挿入が不可能であった2例と,リング挿入はできたが,核が大きく固かったためリングの効果が不十分であった1例に水晶体全摘出を行った。180度以上Zinn小帯が断裂し,水晶体が大きく傾いてしまえばリング挿入は不可能であり,術式の変更が必要となると考えられた。リングは挿入できない症例や挿入できても効果が不十分な症例もあり限界はあるが,挿入できた症例に関しては非常に有用であった。

LASIKにおけるフラップサイズ

著者: 榎本喜久子 ,   清水公也 ,   田中俊一 ,   橋本行弘

ページ範囲:P.677 - P.679

(C4-2-23) Laser in situ keratomileusis (LASIK)のフラップの大きさに影響を与える因子として,性別,年齢,術前角膜厚,眼圧,角膜屈折力について検討した。その結果,性別,年齢,術前角膜厚,眼圧とフラップの大きさとは有意な関連はなかったが,角膜屈折力が大きくなるとフラップが大きくなる傾向があった。そのため,角膜屈折力が極端に小さい症例や遠視矯正の場合などは,適当な照射径を確保するために,吸引リングのサイズの選択に注意するべきであると考えられた。

脈絡膜新生血管を生じたpunctate inner choroidopathyの2症例

著者: 森村佳弘 ,   平形明人 ,   樋田哲夫

ページ範囲:P.681 - P.685

(P1-2-11) Punctate inner choroidopathyに脈絡膜新生血管膜(CNM)を生じ,視力低下をきたした2症例を経験した。症例1は22歳の女性。−10Dの近視で,経過中右眼後極部に複数の黄白色点状病変が現れ,漿液性網膜剥離を伴うCNMを生じて視力が低下したo硝子体手術で後部硝子体剥離を作成した後、CNMは瘢痕化し,術後約1年4か月間視力は0.1で変化していない。症例2は13歳の女性。−9Dの近視で.初診時左眼CNM,網膜下出血と,両眼後極から中問周辺部に散在する点状病変を多数認めた。網膜下出血の消退とともにCNMは瘢痕化し.約9か月問視力は0.3で安定している。両例とも比較的短期間でCNMが活動性を失い,黄斑部に限局した瘢痕を残した。

経強膜的網膜剥離術後長期の屈折変化の要因

著者: 神原千浦 ,   伊野田繁 ,   清水由花 ,   釜田恵子

ページ範囲:P.687 - P.691

(P1-2-22) 自治医科大学附属病院にて,1997年2月から1998年3月に,初回経強膜的網膜剥離手術を行った158眼のうち45眼を対象に,術後1,3,6か月の等価球面度数変化の原因について,術式別(S群:強膜短縮術群,B群:強膜バックリング群),年齢別(Y群:50歳以下,O群:51歳以上)に検討した。YS,YB,OB群で術後有意な近視化がみられた。経時的に有意な変化はなかった。角膜屈折度変化は,等価球面度数変化に関係しなかった。術後経過とともに強膜内陥の影響が,水晶体の前方移動から硝子体腔の延長へと変化していた。水晶体厚は増加した状態で維持され,眼軸長,前房深度,水晶体厚の全てが屈折変化に関わっていると考えられた。

鈍的外傷による眼動脈閉塞症の1例

著者: 松本宗明 ,   上江田信彦 ,   山田眞紀 ,   三木徳彦 ,   阪本卓司 ,   松下倫子

ページ範囲:P.693 - P.696

(P1-2-50) 59歳,男性が右眼打撲による視力障害で受診した。初診時,右眼は光覚なく,眼圧は28 mmHg,眼球突出がみられた。フルオレセイン,インドシアニングリーン両螢光造影では,網膜中心動脈および外側後毛様動脈に血流障害がみられたが,内側後毛様動脈の血流は保たれていた。CT,MRI所見により,下直筋内血腫の圧迫による眼動脈閉塞症と思われた。アセタゾラミド,高浸透圧剤投与により数時間後に視力は光覚弁となった。3か月後には下直筋内血腫は消退傾向を示し,網膜中心動脈および外側後毛様動脈の血流障害は軽快していた。

乳癌患者に発症した脈絡膜悪性黒色腫の1例

著者: 田近智之 ,   三河洋一 ,   矢野雅彦 ,   藤井義章 ,   山口景子

ページ範囲:P.697 - P.700

(P1-2-53) 乳癌患者に発症した脈絡膜悪性黒色腫の症例を経験した。症例は73歳の女性で,5年前に乳癌手術の既往があり,右眼の硝子体腔の1/2を占める網膜下の腫瘤を認めた。MRI,超音波Bモードエコーの所見から脈絡膜悪性黒色腫と診断し,眼球摘出術を行った。組織型はCallender分類紡錘型Aであった。後療法としてダカルバジンを中心としたDAV療法を行った。
 重複癌としての脈絡膜悪性黒色腫は本邦では稀であり,検索した限りでは乳癌との重複の報告はなく,本症例は非常に稀な症例であると思われた。また,脈絡膜悪性黒色腫と転移性脈絡膜腫瘍との画像による鑑別には,超音波Bモードの所見が有用であった。

アトピー白内障進行例における鈍的外傷の関与—掻破,叩打癖に関する実態調査

著者: 川上摂子 ,   後藤浩 ,   八木橋朋之 ,   岩崎琢也 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.701 - P.704

(P2-2-33) アトピー白内障進行例における眼部叩打癖などの鈍的外傷の既往について,アンケートによる実態調査を行った。アンケートを施行した全例が眼瞼に対する掻破もしくは叩打の既往を有していた。眼瞼の掻痒感に対して叩くことへの罪悪感を認識しつつも,60.0%の患者が眼部を叩いていると答えた。また,掻痒感がそれほどなくても無意識のうちに眼部を叩いていたと答えた患者が64.0%存在し,心理的,社会的ストレスが加わることによって無意識のうちに眼部を叩いていると答えた患者が半数近くにも及んだ。アトピー白内障の進行例では,眼部への頻回な鈍的外傷の既往を有するケースが極めて多く,このような機械的刺激を避けることは白内障の進行予防のみならず,術後管理の上でも極めて重要であると考えられた。

浅側頭動脈—中大脳動脈吻合術が有効であった眼虚血症候群の1例

著者: 大萩豊 ,   橋本知余美 ,   徳永英守 ,   藤田豊久 ,   松浦豊明 ,   原嘉昭 ,   西信元嗣

ページ範囲:P.705 - P.708

(P3-2-32) 脳梗塞と左眼視力低下で発症した虚血性網膜症に対して,浅側頭動脈—中大脳動脈吻合術(STA—MCA吻合術),椎骨動脈総頸動脈転移術を行い視力,眼底所見の改善を得た1例を経験した。患者は51歳男性,既往歴には糖尿病と胃潰瘍があり,術前,左眼に網膜浮腫と綿花状白斑がみられた。螢光眼底造影では腕—網膜循環時間,眼内循環時間ともに遅延しており,頸動脈造影検査で左内頸動脈の完全閉塞と左椎骨動脈は高度に狭窄していた。術前後で左眼の視力は改善し網膜浮腫,綿花状白斑は減少した。術後約1か月で左眼に網膜斑状出血を生じたが徐々に消退し,約5か月後で左右差はなくなった。螢光眼底造影でも網膜動静脈からの螢光色素の漏出は減少し,手術は有効であった。

眼窩後壁欠損を伴ったレックリングハウゼン病の1例

著者: 上野盛夫 ,   成瀬繁太 ,   八木秀和 ,   佐々本研二

ページ範囲:P.709 - P.712

(P3-2-43) 78歳の男性で拍動性の眼球陥凹を伴ったRecklinghausen病の1例を報告する。全身に多数のカフェ・オ・レ斑と神経線維腫がみられ,両眼に虹彩結節もみられた。眼球拍動は脈拍に一致し,顎下げによって眼球は突出した。3D-CTなどの放射線科的検査により,蝶形骨大翼・小翼の欠損,前床突起・後床突起の欠損,中頭蓋窩の拡大を認めた。骨欠損のため脳の拍動が眼球に伝わり,加齢により眼窩組織が減少し,骨欠損に比して脳髄膜瘤が小さいため拍動性の眼球陥凹を生じた。本症例に対し球後麻酔を施行すると脳脊髄液中に麻酔薬を誤注入する危険性がある。Recklinghausen病患者の眼科手術時には,術前に放射線科的検査を行い,麻酔法を決定すべきである。

硝子体手術後の周辺視野欠損に対する空気灌流時間の検討

著者: 橋本雅 ,   石郷岡均 ,   馬渡祐記 ,   小川邦子 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.713 - P.716

(P1-3-14) 硝子体手術後に生ずる周辺視野欠損の原因として,液空気置換時の灌流空気による網膜の脱水であるとする推測を検証するため,空気灌流時間の長短と視野欠損発生の相関について検討した。1994年2月から1998年5月まで,当院にて硝子体手術を施行した特発性黄斑円孔(以下,MH群)と裂孔原性網膜剥離(RD群)を対象とし,手術記録のビデオから空気灌流時間を計測した。空気灌流時間を計測できたMH群23眼,RD群27眼のうち,術後周辺視野欠損を認めたのは両群とも4眼ずつであったが,MH,RD両群ともに視野欠損の有無で空気灌流時問の長さに差はなかった。視野欠損の原因として単なる網膜の脱水だけではなく,他の可能性も検討する必要があると考えられた。

網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対する硝子体手術—網膜厚解析装置による評価

著者: 栗本雅史 ,   高木均 ,   鈴間潔 ,   王英泰 ,   野中淳之 ,   桐生純一 ,   喜多美穂里 ,   小椋祐一郎 ,   本田孔士

ページ範囲:P.717 - P.720

(P1-3-16) 網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対する硝子体手術の有効性を,網膜厚解析装置を用いて評価した。後部硝子体剥離がない網膜静脈閉塞症7例7眼を対象とし,硝子体手術の前後で視力,網膜厚解析装置により測定した黄斑部網膜厚,螢光眼底写真などを比較検討した。視力は7例中6例で改善し,統計学的に有意な改善がみられた(p<0.05)。網膜厚は術前平均370±87nmに対し,術後1か月平均284±72nmと,統計学的に有意な減少がみられた(p<0.05)。網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対する硝子体手術は有効な治療法の1つと考えられ,術前後の評価には網膜厚解析装置が有用であった。

緑内障治療によって生じた偽眼類天疱瘡の2例

著者: 小林正人 ,   岩崎義弘 ,   中村浩平 ,   寺井朋子

ページ範囲:P.721 - P.724

(P3-3-9) 抗緑内障薬に起因ずると考えられる偽眼類天疱瘡の2症例を報告した。症例1は結膜嚢短縮,瞼球癒着からさらに遷延性角膜上皮欠損,角膜血管侵入および結膜上皮の侵入へと病態が悪化し,ステロイド薬の点眼および内服シクロスポリン点眼,持続閉瞼などを行ったが眼所見は改善しなかった。症例2は結膜充血,瞼球癒着から角膜上皮欠損へと進行したが,持続閉瞼にて角膜所見は改善した。発症機序には点眼薬の細胞毒性,もしくは点眼薬の投与が引き金となった免疫反応が考えられた。偽眼類天疱瘡はいったん発症すると難治性のため,初期兆候を見逃さず早期に対処することが重要と考えられた。

新潟県における病院眼科通院患者の身体障害者手帳(視覚)取得状況

著者: 藤田昭子 ,   斉藤久実子 ,   安藤伸朗 ,   小川一郎 ,   阿部春樹

ページ範囲:P.725 - P.728

(P2-3-3) 新潟県内29病院で身体障害者手帳(視覚)該当者(以下,手帳該当者)について調査した。今回対象の12,015人中,手帳該当者は407人(3.4%)で,そのうち手帳取得者は122人,手帳取得率は30%であった。手帳取得率は性別で男性(44%)に対し,女性(23%)が低かった。年齢別では60歳未満(49%)に対し,60歳以上(26%)は低かった。障害等級別の1級〜3級(66%)に対し,4級〜6級(11%)は低かった。疾患別では網膜色素変性症(88%)が高く,糖尿病網膜症(31%),緑内障(26%)は低かった。

正常眼圧緑内障におけるニルバジピンの視野障害進行に対する効果

著者: 山崎芳夫 ,   早水扶公子 ,   田中千鶴

ページ範囲:P.729 - P.733

(P4-3-17) 正常眼圧緑内障(NTG)10例10眼にCa2+拮抗薬であるニルバジピン4mg/日を2年間内服投与し,同程度の年齢,屈折,視野障害を持つ非投与NTG症例10例10眼を対照として,視野障害進行を比較した。視野障害進行の評価は,Humphrey Field Analyzerのcentral 30-2 programを用い,網膜感度変化量を比較した。投与群は非投与群と比較し,投与2年後に平均網膜感度は有意に改善した(p=0.005)。眼圧,平均血圧,脈拍,眼灌流圧に両群間に有意差はなかった。Ca2+拮抗薬の1つであるニルバジピン長期内服は,NTGの視機能維持に対し有効であることが示唆された。

今月の表紙

Fuchs’角膜内皮変性症

著者: 山村麻里子 ,   三宅養三

ページ範囲:P.507 - P.507

〈撮影データ〉
 角膜中央部にcornea guttataが多数みられる症例であり,角膜内皮細胞はあまり減少していないが,多数のguttataのため内皮機能障害をきたしている。
 撮影の際の工夫は,対物レンズの表面をできるだけきれいにして,アーチファクトによる反射を減らすこと。観察中にも対物レンズの表面が汚れやすいので,途中で見にくくなってきたら,観察を一度やめてから対物レンズを拭いて,もう一度観察しました。

連載 今月の話題

屈折矯正手術の現況

著者: 伊藤光登志 ,   横井則彦

ページ範囲:P.509 - P.512

 厚生省によるPhototherapeutic keratectomy (PTK)認可により,わが国でも屈折矯正手術の時代が到来しようとしている。エキシマレーザー治療は,医療経済上の問題をかかえざるを得ないため,正確な知識を持ち,エキシマレーザーの適応と限界を考えながらこの新しい医療に取り組んでいくことが重要であると思われる。

眼の組織・病理アトラス・150

眼瞼のメルケル細胞癌

著者: 吉川洋 ,   石橋達朗 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.514 - P.515

 眼瞼に発生する皮膚悪性腫瘍の一つにメルケル細胞癌Merkel cell carcinomaがある。メルケル細胞癌の概念は,1972年にTockerが発表したtrabe-cular carcinoma of the skinに始まる。その後電子顕微鏡による観察で,腫瘍細胞の細胞質に神経内分泌系細胞に特有の暗調の顆粒が発見され,表皮のメルケル細胞が起源と考えられるようになった。メルケル細胞は,表皮の基底および毛髪の外毛根鞘に存在し,触覚に関係する圧受容細胞である。神経内分泌細胞様の顆粒を持つとともに,細胞の基底膜側には神経終末が付着している。メルケル細胞癌は,高齢の女性に多く,顔面と四肢に好発する。眼瞼では上眼瞼に多い。眼科領域では,1983年以来世界で数十例の報告がある。
 メルケル細胞癌は,肉眼的に鮮やかな紅色を呈するのが特徴である。正常のメルケル細胞は表皮に存在するが,メルケル細胞癌は真皮浅層に発生して表皮を押し上げ,ドーム状の隆起を形成する(図1)。腫瘍を覆う表皮は萎縮して菲薄化するが,通常腫瘍が表皮に浸潤することはない。腫瘍塊は大型円形の核を持ち,細胞質に乏しい腫瘍細胞が密に増殖する(図2)。一見リンパ腫に類似するが,免疫組織化学的にケラチンが陽性である。ときに腫瘍細胞が数珠状に連なって見えることから,trabecular carcinomaの名がある。電子顕微鏡で,腫瘍細胞内に,膜に囲まれた直径100〜150nmの暗調穎粒(メルケル細胞穎粒)が観察される(図3)ことが診断上もっとも重要であるo免疫組織化学的にNSE (neuron specific enolase)の陽性率が高い(図4)。その他,Grimelius染色,neurofila-ment,chromogranin,synaptophysinなどの神経内分泌系細胞のマーカーも診断の補助になる。

眼科手術のテクニック・113

隅角癒着解離術—セットアップ

著者: 川上淳子 ,   門脇弘之

ページ範囲:P.518 - P.519

 隅角癒着解離術goniosynechialysis(以下,GSL)の成功の鍵を握るセットアップについて解説する。隅角部の観察のしやすさは,(1)患者の頭位,(2)術者の位置,(3)顕微鏡のあおり,(4)上下直筋の制御糸の固定による眼球の回旋や下転,で決定される。術者が6時側に位置することが不可能なために,12時の解離が不十分になりやすい。術者が移動し,上下直筋の制御糸の周定の仕方で眼球の回旋の程度を調節し,全周の隅角を確認しPASを残さないことがポイントである。右眼を例にとり解説する。

日眼百年史こぼれ話・4

東京大学医学部の開業式と第1回卒業式

著者: 三島濟一

ページ範囲:P.526 - P.526

 毎年3月になると卒業式で学長訓辞などの式典があり,街では卒業式帰りの華やかな女子学生を見かける。ところで,日本最初の東京大学での卒業式はさぞ華やかなものだったと思われるかもしれないが,そうではなかった。
 明治の初め東京にできた医学,法学,理学,文学の4学校を合わせて東京大学としたのは明治10年4月12日のことで,当時本郷にあったのは医学部だけであった。明治12年,ヨーロッパの制度にならい学制を整備し,卒業者に学位を与えることになった。

第52回日本臨床眼科学会専門別研究会1998.10.23神戸

眼科と東洋医学

著者: 仲河正博

ページ範囲:P.734 - P.735

 第52回日本臨床眼科学会専門別研究会「眼科と東洋医学」は1998年10月23日(金),神戸国際会議場にて開催された。
 本会は1985年から毎年,日本臨床眼科学会の専門別研究会として行われ本年で14回目となる。一般演題8題と教育講演「眼科漢方治療における舌診の意義」を酒谷信一先生(神戸市,酒谷眼科医院)にご講演いただいた。

色覚異常

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.736 - P.737

 一般演題8題についての報告があった。[石原と韓式色覚検査表の色彩測定]は,演者が韓国からの出席のため抄録と異なり最後の発表とし,予定の座長岡島修先生の都合により深見嘉一郎先生にお願いした。

眼先天異常

著者: 玉井信

ページ範囲:P.738 - P.740

 1.第一次硝子体過形成遺残の合併症に対する手術           大口修史・他(札幌医科大)
 第一次硝子体過形成遺残(PHPV)の合併症に対する手術例(4例5眼)を報告する。症例1は前房消失をきたした閉塞隅角緑内障でpars plicataから水晶体切除,前部硝子体切除術を施行した。症例2は白内障が数年間で進行したため角膜輪部より水晶体吸引,前部硝子体切除術を施行した。症例3は網膜襞の近傍に発生した網膜剥離で,裂孔は不明であったが眼底がほぼ観察可能であったので,両眼に網膜冷凍凝固,輪状締結術で復位した。症例4は増殖性変化の強い網膜剥離で角膜輪部より水晶体切除,硝子体切除術を施行したが非復位であった。PHPVでは網膜襞の周辺部に硝子体の強い病的変化があることが特徴で,水晶体・硝子体の処理では前方へ牽引された最周辺部網膜への穿刺を避けた経角膜輪部法で対応が可能で,増殖変化が少なく,ある程度眼底の透見可能な網膜剥離には経強膜的方法が望ましいと思われた。

臨床報告

周辺視野拡大に伴い回旋複視を自覚した頭蓋咽頭腫の1症例

著者: 原直人 ,   桂未奈 ,   尾崎光代 ,   大高弘稔

ページ範囲:P.751 - P.754

 58歳の男性で頭蓋咽頭腫摘出術後,回旋複視の訴えと眼性斜頸により気づかれた滑車神経麻痺の症例を報告した。摘出後の著明な視力の改善のみでは複視を訴えず,周辺視野の感度の拡大に伴い回旋複視を自覚した。回旋融像には水平・垂直方向の融像に対する刺激とは異なり,周辺視領域への大きなサイズの刺激が必要であると思われた。

硬口蓋粘膜移植による下眼瞼再建

著者: 大井克之 ,   野瀬謙介

ページ範囲:P.755 - P.759

 7例の下眼瞼全層欠損後の後葉再建に硬口蓋粘膜を用い,良好な結果を得た。硬口蓋粘膜は2.5cm程度のものまでは容易に採取可能であり,止血を十分に行えば特に保護床を装着しなくても術後4週までに上皮化し,ドナーの変形は最小限であった。硬口蓋粘膜は強い支持力を持った粘膜組織であるため,それのみで代用瞼板としての役割を持つ。また厚みや大きさの細工も容易に行え,彎曲の程度も良好で,角膜や眼球結膜への密着性がよい。支持力については健常瞼板や軟骨組織にはやや劣るが,健常瞼板を犠牲にしない点や軟骨組織より細工が容易であることを考慮すると,硬口蓋粘膜は極めて有用な再建材料であるといえる。

感染性眼内炎に対する硝子体手術の治療成績

著者: 趙培泉 ,   林英之 ,   近藤寛之 ,   中川夏司 ,   大里正彦 ,   松井孝明 ,   大島健司

ページ範囲:P.761 - P.764

 過去5年間に感染性眼内炎と診断した23例23眼に緊急硝子体手術を行った。眼内炎の原因は,白内障手術18眼,穿孔性眼外傷3眼,硝子体手術2眼であった。眼内炎の診断から緊急硝子体手術までの期間は,同日が16眼,翌日が6眼,4日目が1眼であった。術後経過観察期間は,1か月から54か月,平均18か月であった。最終視力は,測定不能1眼を除いた22眼中16眼(73%)で術前よりも向上した。0.1以上の視力が14眼(64%),0.5以上が9眼(41%),1.0以上が2眼(9%)であった。1眼は眼球携となり,失明した。細菌培養は全例に行われ,8眼(35%)で陽性であった。重篤な感染性眼内炎に対して,術中の抗生物質灌流を併用する硝子体手術が有効であると判断された。

脱臼水晶体に対する硝子体腔内超音波乳化吸引術

著者: 武田夏子 ,   今井雅仁 ,   飯島裕幸

ページ範囲:P.765 - P.768

 水晶体脱臼4例5眼に,硝子体切除および通常の超音波チップを用いた硝子体腔内超音波乳化吸引術,そして眼内レンズ毛様溝縫着を行った。水晶体脱臼の原因は鈍的外傷2例2眼,原因不明2例3眼であり,完全脱臼3眼,亜脱臼2眼であった。術後視力は0.09〜1.0で,改善3眼,不変2眼と悪化眼はなく,良好な結果が得られた。本法は日常使用している機器のみで施行可能であり,小切開創で処置できることから,脱臼水晶体眼に対する術式の1つとして選択肢に加えることができる有効な方法である。

照度変化に伴う瞼裂高・瞳孔径の変動

著者: 小島正美 ,   浅野浩一 ,   山田義久 ,   佐々木一之

ページ範囲:P.769 - P.772

 種々の照度下で眼瞼・瞳孔の動きを測定する装置を自作し,屋外での太陽光によるこれらの動きと眼の光被曝との関係を検討した。健常ボランティア,白内障術前患者を対象に検査を行った。検査装置はゴールドマン視野計の半球内部を照明するもので,本体の観察部にCCDカメラを装着した。眼瞼,瞳孔の動きはNIH imageで定量化した。健常者,白内障患者の瞳孔径は室内環境で3mm,屋外では天候の如何を問わず2mm前後を維持していた。照度の上昇に伴い最初に瞳孔径が変化し,次いで上眼瞼の下垂,下眼瞼の上昇の順に変化した。濃いサングラスを装用すると瞳孔,瞼裂が散大することも証明された。

高齢者の結膜嚢内常在菌と薬剤耐性

著者: 秋葉真理子 ,   坂上晃一 ,   秋葉純

ページ範囲:P.773 - P.776

 眼感染症のない70歳以上の外来通院患者185例185眼を対象に,結膜嚢内常在菌とその薬剤耐性を検討した。101眼(54.6%)から細菌107株が検出され,93株(86.9%)はグラム陽性球菌であり,グラム陰性菌は7株(6.5%)と少なかった。また,半数以上の菌は薬剤耐性を有し,約20%の菌はキノロン系薬剤に耐性を示した。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は185眼中2眼(1.1%),多剤耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MDRCNS)は3眼(1.6%)から検出された。結膜嚢内常在菌は眼感染症の起因菌となりうることから,抗菌剤の用い方には十分な注意が必要と考えられた。

網膜剥離術後の特発性強膜および虹彩断裂の1例

著者: 小林博

ページ範囲:P.777 - P.779

 網膜剥離手術4.5年後に,外傷の既往がなく,右眼に強膜および虹彩に断裂を来した症例を報告した。強角膜輪部から後方に大きな結膜嚢胞がみられた。従来の超音波検査では検出できなかったが,その嚢胞下にultrasound biomicroscope (UBM)にて強膜,虹彩の断裂がみられた。本症例は,UBMでなければ,強膜,虹彩断裂の検出は困難であり,UBMの有用性を示している。原因については,網膜剥離手術,あるいは肺癌手術後に投与されていた抗癌剤などの影響が関係したspontaneous intercalary perforationの可能性があると考えられた。

カラー臨床報告

硝子体手術と内境界膜剥離を行った嚢胞様糖尿病黄斑浮腫3眼の光干渉断層計による評価

著者: 矢那瀬淳一 ,   荻野誠周 ,   栗原秀行

ページ範囲:P.745 - P.750

 嚢胞様糖尿病黄斑浮腫3例3眼に対して硝子体手術を行い,その術前後の所見を光干渉断層計(OCT)を加えて検索した。手術では人工的に後部硝子体剥離を作り,内境界膜を剥離した。手術の3か月から6か月後に全例で黄斑浮腫が改善し,OCTでは術前にあった黄斑嚢胞は消失した。嚢胞様糖尿病黄斑浮腫に対してこの術式が有効であり,術後の改善を評価するのにOCTが有用であることが結論される。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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