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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科53巻7号

1999年07月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

OCTで明らかになった網膜疾患の断層画像

著者: 福島伊知郎

ページ範囲:P.1411 - P.1417

 Optical coherence tomography (OCT)はレーザー光で眼底を観察しながら走査し,その部位の断面像を得ることができる新しい検査法である。OCT画像は生体組織顕微鏡といえるものであり,検眼鏡所見との対比が可能になった。病態の把握や疾患の鑑別,治療判定などに臨床応用されている。

眼の組織・病理アトラス・153

房水の経ぶどう膜強膜流出路

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1422 - P.1423

 前房水の大半は前房隅角の線維柱帯trabecular meshworkを通って,シュレム管Schlemm's canalに入り,眼外へ去る。この通常の経シュレム管房水流出路とは別に,房水の経ぶどう膜強膜流出路uveoscleral route of aqueous humor outflowがある(図1)。
 毛様体の前端および虹彩の表面には限界膜が存在しないので,前房水は毛様体および虹彩実質の中に容易に入りうる。毛様体実質に入った房水はぶどう膜に沿って眼球の後方へ向かい,強膜を経由して眼外へ流出する。これを経シュレム管による房水の主要流出路と区別して,経ぶどう膜強膜流出路と呼ぶ。前房内に追跡子を注入して,その動きを追跡して確認された房水の経ぶどう膜強膜流出路は次のようである。

眼科手術のテクニック・115

マイクロフックニードルを用いた硝子体網膜剥離術

著者: 安藤伸朗

ページ範囲:P.1426 - P.1427

 かなり強固に癒着した線維性増殖と網膜を剥離するには,マイクロフックニードルを使用すると便利なことがある。19Gのカラー針の先端をわずかに曲げ,ホールダーに装着する(図1)。こうすることにより,受動吸引による血液の吸収や増殖膜の保持も可能である。
 ①視神経乳頭上から注意深く増殖膜を剥離する(図2)。

今月の表紙

内視鏡により増殖糖尿病網膜症の硝子体手術中に撮影された毛様体螢光造影

著者: 寺崎浩子 ,   三宅養三

ページ範囲:P.1418 - P.1418

 毛様体の形態がはっきり捉えられている。萎縮した毛様体では螢光は暗く,また周辺部硝子体に異常をきたしている病変では変形している。内視境下網膜最周辺部,毛様体螢光造影(Terasaki Het al,AJO 123:370-376,1997,Retina 1999 in press)は,術中と限られているが,ぶどう膜炎や黄斑浮腫,緑内障,アトピー性皮膚炎などによる毛様体病変の研究に役立つ可能性がある。

臨床報告

ぶどう膜炎に続発した開放隅角緑内障に対する超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術

著者: 溝口尚則 ,   松村美代 ,   黒田真一郎 ,   寺内博夫 ,   永田誠

ページ範囲:P.1435 - P.1439

 ぶどう膜炎の既往があり,点眼のみで過去3か月間に炎症が沈静化している31眼に超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行った。続発開放隅角緑内障が12眼にあり,19眼には緑内障がなかった。術後に30mmHg以上の眼圧上昇が両群の各2眼で一過性にあったが,有意差はなかった。緑内障群の2眼で術後に眼圧コントロール不良となった。両群の各1眼で術後に炎症が悪化し,硝子体手術が行われた。術後の視力維持ないし改善率は,緑内障群で90%,非緑内障群で72%であった。炎症がコントロールされているぶどう膜炎眼では,続発開放隅角緑内障の既往の有無にかかわらず,白内障に対する超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術が良好な経過をとることを示す知見である。

眼科所見から発見された下垂体腺腫の3例

著者: 錦織修道 ,   坂本恵美 ,   白井尭子 ,   藤田啓 ,   松林光太 ,   田淵昭雄

ページ範囲:P.1441 - P.1446

 眼科所見から発見された下垂体腺腫の3例を報告した。全例ともCTあるいはMRIが行われた。症例1と2は限界フリッカー値の低下,および動的視野で耳側内部イソプターの沈下とマリオット盲点の拡大を示した。そのうち症例2は視力低下とrelative afferent pupillary defectも示したため,当初,球後視神経炎と診断された。症例3は動的視野で両鼻側周辺視野の欠損を示した。症例1と2はいわゆる“視交叉症候群”に相当した。一方,症例3のような両鼻側周辺視野欠損を示す下垂体腺腫例は稀である。下垂体腺腫はこれら3例のようにさまざまな眼科所見を呈することもあるため,診断に注意を要する。

アデノウイルス角結膜炎院内感染の臨床的,ウイルス学的検討

著者: 竹内聡 ,   内尾英一 ,   伊藤典彦 ,   青木功喜 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1447 - P.1453

 1996年夏季に横浜市立大学医学部附属病院眼科でアデノウイルス角結膜炎の院内感染を経験した。アデノチェック®は10日以内に実施し,78%が陽性であった。PCR-RFLP法により,アデノウイルスの血清型は8型と迅速に同定された。ステロイド大量投与者に高度な角膜上皮下混濁がみられた。69%の患者に中和抗体価4倍以上の上昇がみられたが,non responderも存在した。医療従事者のアデノウイルス8型に対する中和抗体保有率は6%と低値であったが,院内感染は病棟閉鎖をせずに1か月で鎮静化した。院内感染の制圧には,迅速な診断と,流行拡大を防ぐ診療側の早期対応,対策が重要である。

後部硝子体剥離に伴う裂孔原性網膜剥離に対する一次的硝子体手術

著者: 引地泰一 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.1455 - P.1458

(1)後部硝子体剥離に伴い発生した網膜裂孔がある,(2)赤道部よりも周辺側に網膜裂孔が存在しない,(3)増殖硝子体網膜症がGrade C1以内にとどまる,の条件を満たす18眼の裂孔原性網膜剥離に対し,同一術者が施行した経強膜的処置を併用しない一次的硝子体手術の治療成績を検討した。白内障の強い2眼(11%)に対してのみ白内障同時手術を行った。一次的硝子体手術により全例で網膜は復位し,術後1年間,再発はみられなかった。術後に白内障が進行した2眼(11%)に対し,白内障手術を行った。膜剥離術を必要とするような黄斑パッカーが生じた症例はなかった。今回の手術適応は,一次的硝子体手術で確実に網膜復位が得られるための症例選択として有用であると思われる。

YAGレーザー後嚢切開後の硝子体混濁

著者: 熊谷和之 ,   荻野誠周 ,   新城歌子 ,   出水誠二 ,   塩屋美代子 ,   上田佳代

ページ範囲:P.1459 - P.1462

 眼内レンズ挿入後の後嚢混濁728眼にYAGレーザーによる後嚢切開を行った。101眼が糖尿病眼であり,627眼が非糖尿病眼であった。レンズ後方の硝子体の乳白色混濁が9眼(1.2%)に生じた。この9眼はすべて糖尿病眼であり,後嚢切開後1か月以内に生じた。9眼中8眼に硝子体手術を行い,良好な結果を得た。他の1眼での混濁は3か月後に自然吸収した。後嚢切開後の硝子体混濁は,糖尿病眼では8.9%,非糖尿病眼では0%であり,前者が有意に高率であった。(p<0.0001)。糖尿病101眼で,混濁が発生した9眼と発生しなかった92眼とを比較すると,前者で汎網膜光凝固の既往が多く(p=0.013),ヘモグロビンA1c値が高く(p=0.03),白内障手術から後嚢切開までの期間か短く(p=0.047),最終視力が低かった(p=0.045)。

眼内操作のみで行う硝子体中落下眼内レンズの縫着法

著者: 横山光伸 ,   出田秀尚 ,   稲用和也 ,   服部匡志 ,   塙本宰 ,   籠谷保明

ページ範囲:P.1463 - P.1465

 硝子体中に落下した眼内レンズを,眼外に取り出さずに毛様溝に固定する方法を考案した。
 3ポートを作成し,単純硝子体切除を行ったのち,硝子体中に落下した眼内レンズを虹彩上にのせ,輪部から1.5mm離れた強膜刺入創と対側のサイドボートを利用してプロリン糸のループを2つ作り,これにより眼内レンズのハプティクスを毛様溝に固定した。
 この術式の利点は,眼内レンズを出し入れする切開創を作成しないことにより術中の低眼圧が生じにくいこと,また,切開創による乱視は発生しないことである。
 眼内レンズは縫着糸のループで固定されており,直接縫合していないため,センタリングが容易であった。

Peters奇形の親子例

著者: 貞元幸子 ,   江島哲至 ,   菅井滋 ,   高木郁江 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.1471 - P.1474

 Peters奇形の親子例で,子にはAxenfeld-Rieger症候群を合併した症例を経験した。子は生後8日の男児で,両眼の中央部角膜に混濁があり,同部の角膜は菲薄,角膜と虹彩の間に虹彩の糸状突起がみられ,Peters奇形と診断した。また,Schwalbe環の隆起,隅角形成不全,虹彩実質低形成がみられ,Axenfeld-Rieger症候群を合併していた。しかし,3か月後,角膜混濁は軽減し,身体発育に伴い,隅角形成不全,虹彩実質低形成の程度はともに著明に軽減した。父は,32歳で,両眼の中央部角膜に混濁があり,同部では角膜虹彩間に虹彩の索状突起がみられた。

嚢内洗浄が奏効した白内障術後眼内炎の1例

著者: 萩原高士

ページ範囲:P.1475 - P.1478

 眼内レンズ挿入術後に眼内炎を発症し,嚢内洗浄にて治癒した1症例を経験した。症例は80歳の女性で,術後2日目から前房蓄膿を伴う眼内炎を発症した。発症の2日後に嚢内洗浄を行い,以後急速に炎症は消退し,術後3週間目には視力1.0に改善し,後遺障害を残さずに治癒した。以上の結果から,術後早期に発症した眼内炎に対しては,嚢内洗浄が有効であると考えられた。

ミトコンドリアDNA解析にて確定診断されたレーベル病の女性例

著者: 小笠賢一 ,   西澤仁志 ,   西佳代 ,   西起史

ページ範囲:P.1479 - P.1483

 25歳女性が2週間前からの急激な右眼障害で受診した。右眼に乳頭の発赤と中心暗点があった。患者は喫煙と飲酒癖があり,母方の祖父と叔父2名の計3名に高度視力障害があった。初診から5週後に左眼に右眼同様の異常が生じた。ミトコンドリアのDNA解析で11778番塩基に変異があり,レーベル病の診断が確定した。患者の母と弟は視力は良好であったが,両名に同じミトコンドリアの点突然変異が証明された。弟には両眼に中心暗点があった。母を本症の保因者期,弟を潜在期と診断した。本症が女性にも発症すること,そしてミトコンドリアDNA解析が診断確定に有用であることを示す症例である。

S-tipを使用した超音波乳化吸引術

著者: 尾﨏雅博 ,   高田眞智子 ,   尾﨏扇子 ,   立花和也 ,   岡野正

ページ範囲:P.1485 - P.1489

 ベンチュリー・ポンプ方式の超音波乳化吸引装置を用いてsmall tip (S-tip) phacoと通常のnormaltip (N-tip)使用時での超音波乳化吸引術(PEA)の成績を比較した。超音波出力,超音波時間,超音波総エネルギー量の比較では,N-tipに比べてS-tipが有意に大きかったが,角膜内皮細胞減少率には差がなかった。Emery分類による核の硬度別比較では,核が硬くなるにしたがい超音波時間,超音波総エネルギー量,角膜内皮細胞減少率の差が大きくなる傾向を示した。S-tipでは,吸引口が小さいため破砕吸引に時間がかかることが,硬い核で破砕効率の低下や侵襲が大きくなる原因と思われた。

片眼へのエキシマレーザー屈折矯正手術後に他眼に円錐角膜が見いだされた1症例

著者: 三橋環 ,   北澤世志博 ,   佐野研二 ,   岡本加奈子 ,   佐々木秀次 ,   所敬

ページ範囲:P.1491 - P.1495

 26歳男性が近視手術を希望して受診した。両眼とも約9Dの近視があり,矯正視力は1.2であった。右眼には−1.25D,左眼には−1.75Dの直乱視があったが、角膜形状解析装置を含む諸検査で不正乱視はなかった。右眼に対して,エキシマレーザーによる屈折矯正角膜切除photorefractive keratectomy(PRK)を行った。術後1か月で近視はほとんど消失したが,角膜上皮下混濁のために矯正視力は0.7であった。左眼には近視手術は行わなかった。右眼手術の21か月後に,左眼に急速に進行する近視と,耳側に偏った強い不正乱視が生じ,円錐角膜と診断した。本症例は,円錐角膜が20歳台の後半に発症しうることと,屈折矯正手術の適応の決定に注意が必要であることを示している。

交通外傷による麻痺性斜視の手術成績

著者: 河野玲華 ,   大月洋 ,   長谷部聡 ,   杉原倫夫 ,   細川満人 ,   山根貴司

ページ範囲:P.1497 - P.1500

 1985年から1997年の13年間に,岡山大学医学部附属病院眼科で手術を行った交通外傷性の麻痺性斜視89例の手術成績とその問題点を検討した。症例の内訳は,動眼神経麻痺21例(24%),滑車神経麻痺48例(53%),外転神経麻痺13例(15%),複合神経麻痺7例(8%)で,複合神経麻痺には重度の脳損傷が多くみられた。受傷1年以内に53例(56%)が初回手術を受けた。64例(72%)が機能的治癒を得た。治癒率が最も良好であったのは滑車神経麻痺で90%,最も不良であったのは動眼神経麻痺と複合神経麻痺の43%であった。動眼神経麻痺と複合神経麻痺に対する新しい手術治療の開発が今後の課題と思われる。

増殖糖尿病網膜症に対する水晶体摘出・硝子体同時手術後の虹彩隅角新生血管の発症

著者: 門之園一明 ,   小野慎也 ,   樋口亮太郎 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1503 - P.1506

 増殖糖尿病網膜症(PDR)に対して硝子体手術のみを行った33例38眼と,硝子体手術と同時に水晶体摘出術を行った37例42眼に対して,術後虹彩および隅角の新生血管の発症を調べた。硝子体手術単独群では,術後虹彩隅角新生血管は4眼(10%)にみられ,20眼(53%)で視力の改善がみられた。同時手術群では,虹彩隅角新生血管は1眼(2%)にみられ,30眼(71%)で視力の改善がみられた。術後虹彩新生血管の発症率に関して,同時手術群と硝子体単独手術群の間に有意差はなかった。PDRに対する水晶体摘出・硝子体同時手術では,術後虹彩隅角新生血管の発症はむしろ少なく,安全で有用な術式と考えられる。

カラー臨床報告

Sinusotomyの手術成績

著者: 坪井俊一 ,   荒木博子 ,   前田利根 ,   井上洋一

ページ範囲:P.1429 - P.1433

 非穿孔性濾過手術としてのsinusotomyの眼圧下降効果および合併症について検討した。対象は緑内障患者58例71眼(男性47眼,女性24眼)で,平均年齢は64.3歳(29〜83歳),緑内障病型の内訳は原発開放隅角緑内障44眼,正常眼圧緑内障8眼,原発閉塞隅角緑内障10眼,続発開放隅角緑内障5眼,発育異常緑内障2眼,嚢性緑内障2眼であった。これらに対してsinusotomyを施行し,経過を観察した。観察期問は98〜1,223日(平均609.6日),術前眼圧は平均23.0mmHg,術後最終観察時における眼圧は平均15.1mmHgであった。術中合併症はボタンホール3眼,強膜フラップの損傷1眼,前房穿孔3眼で,術後合併症が浅前房4眼,結膜創からの房水漏出が5眼であった。本術式は長期間にわたる十分な眼圧下降効果を示し,重篤な合併症のない安全な術式と考える。

日眼百年史こぼれ話・7

全身麻酔か無麻酔か—コカイン以前

著者: 三島濟一

ページ範囲:P.1446 - P.1446

 Jacques Davielによる白内障摘出術(1745)で近代眼科手術が始まり,19世紀半ばにvon Graefeらにより眼科手術が大きく進歩した,というのが共通の理解になっている。では,今日の常識「麻酔と消毒」はどうか,をみると非常におもしろいことがわかる。
 白内障摘出術が,伝来の鍼による墜下法に取って代わるのに約100年を要したのは,上述の2点が原因だった。エーテル,クロロホルムによる全身麻酔の発明は1840年代後半で,消毒の概念は細菌学が発展する1860年以後のことである。したがって,それ以前の眼科手術は常に「痛み」と「感染の危険」と隣り合わせであったのである。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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