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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科53巻8号

1999年08月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

黄斑疾患—最近の話題

著者: 湯沢美都子

ページ範囲:P.1517 - P.1525

 中心性漿液性網脈絡膜症の疫学,病態,多発性後極部網膜色素上皮症との関連および脈絡膜新生血管に基づく加齢黄斑変性の病因,治療,鑑別疾患としての特発性ポリープ状脈絡膜血管症,そして糖尿病黄斑症の黄斑浮腫と黄斑部硬性白斑に対する硝子体手術について,最近の話題を紹介したい。

眼の組織・病理アトラス・154

ベーチェット病と水晶体起因性眼内炎

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1526 - P.1527

 ベーチェット病では,繰り返す眼発作によって水晶体が損傷され,水晶体起因性眼内炎を合併することがある。その発症機序に次の2つが考えられる。第一の機序は,前眼部の著しい炎症発作またはその繰り返しによって水晶体嚢が破嚢し,水晶体嚢下および実質内に多形核白血球やマクロファージが浸潤する(図1)。活性化されたマクロファージは類上皮細胞または多核巨細胞になって,水晶体周囲に集積する。これが水晶体起因性眼内炎である。第二の機序は,鋸状縁炎pars planitisによって鋸状縁から硝子体内に広がる毛様体炎膜cyclitic membraneが形成されて,これが毛様体扁平部から毛様体ひだ部へと広がり,水晶体の全周囲を取り囲むようになる(図2)。毛様体炎膜に取り囲まれた水晶体の嚢はやがて破綻する。その結果,類上皮細胞や多核巨細胞などが水晶体周囲に集積する。上記2つの異なった機序による水晶体起因性眼内炎の病理組織学的鑑別点は,以下のとおりである。
 第一の機序では,毛様体炎膜の形成が乏しい(図1)。たとえ形成されていても水晶体周囲に及んでいない。さらに,多形核白血球の浸潤が著しい(図3)。他方第二の機序では,毛様体炎膜が水晶体周囲を完全に囲繞している(図4)。水晶体は数か所で破嚢している。水晶体周囲の細胞浸潤は多形核白血球よりリンパ球が目立つ。いずれの場合でも,最終的には水晶体周囲に類上皮細胞や多核巨細胞が浸潤して,肉芽腫性炎症の病像を示す(図5)。臨床的に両者のどちらかであるかを判定することは不可能であるし,またその必要はない。要は,このような症例では水晶体摘出の時期を失しないように対処することである。

眼科手術のテクニック・116

セロファン黄斑症—膜剥離術—マイクロフックニードルを用いて

著者: 安藤伸朗

ページ範囲:P.1530 - P.1531

 セロファン黄斑症に対する膜剥離術を紹介する。
 用意した器具は19Gのカテラン針と前号で用いたホールダーである。カテラン針が適している理由は,針のしなりを利用して網膜表面を何度もなぞることが出来るためである。カテラン針の先端を軽く曲げ,ホールダーに装着する。

今月の表紙

単純ヘルペスウイルス2型による急性網膜壊死

著者: 大野重昭

ページ範囲:P.1529 - P.1529

 1971年,日本人研究者によって世界で初めて報告された急性網膜壊死(桐沢-浦山型ぶどう膜炎)は,帯状ヘルペスウイルスや単純ヘルペスウイルス(HSV)によって起こる。しかしHSVの場合,1型か2型かは不明であった。
 この症例は48歳の女性で,左眼のみの症例である。PCR法で左前房水,硝子体液からともにHSV2型が検出された。HSV 2型は陰部ヘルペスだけではなく,急性網膜壊死をも生じうることを銘記すべきである。

臨床報告

Radial peripapillary capillariesの循環障害が主因と考えられたインターフェロン網膜症

著者: 秋澤尉子 ,   佐々木秀次 ,   石田佳子

ページ範囲:P.1533 - P.1537

 34歳女性,慢性C型肝炎に対しインターフェロン点滴治療を受けた。投与開始5週後に視力障害,中心暗点をきたし,視力は右眼0.02(矯正不能),左眼0.1(矯正不能)であった。両眼底は視神経乳頭周囲に2乳頭径の範囲に軟性白斑が多発,2,3か所網膜出血があり,黄斑浮腫を認めた。螢光眼底撮影では,radial peripapillary capillariesの循環障害が高度に存在し,病態の主因をなしていた。投与中止4か月後の螢光眼底検査では循環障害は消失しており,網膜症は可逆的であった。本例では,インターフェロン網膜症の本態はradial peripapillary capiilariesの循環障害にあると考えられた。さらに循環障害が高度であったため,視神経萎縮を残した。

網膜芽細胞腫に対する放射線療法,冷凍凝固後に発症した裂孔原性網膜剥離

著者: 井上真 ,   田中靖彦 ,   河合正孝 ,   仁井誠治 ,   桂弘 ,   金子明博

ページ範囲:P.1540 - P.1544

 網膜芽細胞腫に対する放射線療法,冷凍凝固後に裂孔原性網膜剥離を合併した1例を報告した。症例は女児,生後4か月で両眼の網膜芽細胞腫と診断され,左眼には眼球摘出術,右眼には放射線療法を行った。その後,腫瘍が再発して温熱化学療法,冷凍凝固,光凝固を繰り返した。2歳9か月時に,併発した白内障に対し水晶体吸引術を行ったところ,網膜全剥離がみられた。硝子体手術を行い,後部硝子体剥離と石灰化した腫瘍周囲の硝子体網膜癒着を伴う凝固瘢痕部内に裂孔を発見した。網膜は復位し,再発もみられていない。網膜芽細胞腫の放射線療法や局所療法後には,裂孔原性網膜剥離の合併にも注意を払う必要があると考えられた。

乳頭小窩・黄斑症候群の走査型レーザー検眼鏡所見

著者: 塚本比奈子 ,   白井正一郎 ,   水野晋一

ページ範囲:P.1545 - P.1549

 乳頭小窩・黄斑症候群の2例を走査型レーザー検張鏡(scanning laser ophthalmoscope;SLO)で観察した。乳頭小窩は通常の検眼鏡で不明瞭な場合でも,SLOを用いると深達性のあるダイオードレーザーで暗い陰影として鮮明な観察が可能であった。また,合併症としての黄斑円孔,網膜剥離,視神経線維層欠損の範囲はアルゴンレーザーで明瞭に観察できた。SLOでは網膜剥離の境界,網膜厚の変化などが捉えやすいことから,網膜の浮腫が初期病変と考えられている乳頭小窩・黄斑症候群では,SLOによる詳細な観察が診断や治療方針の決定,予後判定に有用であると考えられた。

イソプロピルウノプロストン点眼液により多毛の生じた3症例

著者: 原嶋紀子 ,   北村静章 ,   秦誠一郎

ページ範囲:P.1550 - P.1552

 緑内障に対してイソプロピルウノプロストン点眼を行った3例に,点眼開始から平均7か月後に,眼瞼周囲の皮膚に顕著な多毛が生じた。眼圧コントロールが良好な2例では,点眼を中止した4か月後と13か月後に多毛が消退した。プロスタグランジン製剤である本剤が毛根を刺激して多毛が生じたと推定した。

外傷性低眼圧黄斑症による長期視力低下例の光干渉断層計(OCT)所見

著者: 初冬 ,   千原悦夫 ,   張燊 ,   落合春幸 ,   浜田幸子

ページ範囲:P.1553 - P.1558

 23歳女性が右眼の低眼圧で紹介された。3年前に転倒して右眼を打撲し,以後視力低下を自覚している。受診時の右眼矯正視力は0.1,眼圧は3mmHgであった。鼻側上方の1/5周に隅角解離があった。黄斑を含む網膜に皺襞があり,螢光眼底造影でその部位の一部に色素上皮の異常による過螢光があった。毛様体強膜縫着術で隅角解離は改善し,眼圧は10mmHg前後に回復した。黄斑部の固定皺襞は術後3か月以上残存し,視力は0.5であった。光干渉断層計(OCT)と螢光眼底造影の所見から,長期視機能障害は網膜上膜による皺襞形成,網膜下組織の器質化,網膜色素上皮の増殖に加え,外傷時の視神経乳頭の循環障害よると推定された。

硝子体手術における液空気置換時の眼内動態

著者: 橋本貴夫

ページ範囲:P.1559 - P.1562

 硝子体手術術後周辺部視野欠損の原因として,液空気置換時の流入空気による網膜の障害が有力視されている。そこで硝子体手術液空気置換時の流入空気の流量を測定した。さらに流入空気を可視化してその流れを記録した。液空気置換時の空気流量は0〜420ml/分であった。灌流針から流出する空気の流れは100ml/分の低流量でも30mm以上直進し,灌流ポートの対側網膜は流入空気の大部分に曝されていると考えられた。以上より液空気置換時には空気の「流入風」による網膜への侵襲が最小限になるよう配慮が必要であり,硝子体手術装置や灌流針自体への流入空気流量制限装置の内蔵や,眼内環境モニターシステムの開発が望まれると考えた。

Ultrasound biomicroscopeによる隅角癒着解離術,レーザー隅角形成術施行後の隅角形態の観察

著者: 春田雅俊 ,   山川良治 ,   青山裕美子 ,   上野聰樹

ページ範囲:P.1563 - P.1567

 慢性閉塞隅角緑内障7眼に対して,白内障手術を併用した隅角癒着解離術を行い,術後にレーザー隅角形成術を行った。白内障手術を併用した隅角癒着解離術後では,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)による生体計測で,angle opening distance250μm (AOD 250)は術前と比べて変化がなく,angle Opening distance 500μm (AOD 500)は有意に増加していた。白内障手術を併用した隅角癒着解離術では隅角の開大が得られるが,周辺部は狭隅角になる傾向があった。さらにレーザー隅角形成術を行ったのちには,AOD 250は有意に増大し,AOD 500には変化がなかった。レーザー隅角形成術は周辺部の隅角の形態改善に有効であり,隅角癒着解離術後の再癒着を防止すると考えられた。

偽水晶体眼の網膜剥離とその発生因子

著者: 阿部素郎 ,   小原真樹夫 ,   清水公也

ページ範囲:P.1569 - P.1572

 過去5年間に,超音波水晶体乳化吸引術後に網膜剥離が発症した24眼を検索した。危険因子を過去3年間に白内障手術を受けた1,098眼と対比した。男性であること,術中の後嚢破損,眼軸長24mm以上が危倹因子であると同定された。術中の後嚢破損は術後早期の網膜剥離に関係した。

Cushing症候群による漿液性網膜剥離の1例

著者: 勝田聡 ,   鈴木純一 ,   田川博 ,   前田亜希子 ,   大黒浩 ,   中川喬

ページ範囲:P.1573 - P.1576

 46歳の男性が両眼霧視で受診した。30歳から高血圧の治療中であり.肥満と満月様顔貌が顕著化してきた。副腎腫瘍によるCushing症候群と最近診断された。尿中のカテコールアミンと血中のACTHは正常値であったが,コルチゾール値が血液と尿で上昇していた。矯正視力は左右とも1.0で,両眼の眼底に漿液性網膜剥離があり,後極部では黄白色滲出斑が多発していた。フルオレセイン螢光造影で早期に過螢光,後期に網膜下の色素貯留があった。初診から5週間後に副腎腺腫摘出が行われ,2週間後にコルチゾール値が正常化し、漿液性網膜剥離は消失した。Cushing症候群で漿液性網膜剥離が発症しうることを示す症例である。

ステロイドパルス療法と放射線療法が奏効した甲状腺眼症の1例

著者: 田中雄一郎 ,   溝渕宗秀 ,   大野美季 ,   井上あい ,   日比野美治 ,   水村幸之助 ,   西本好子

ページ範囲:P.1577 - P.1581

 ステロイドパルス療法と放射線療法が奏効した甲状腺眼症を経験した。症例は54歳男性で,内科的に甲状腺機能亢進症と診断され,眼科的には眼球突出,眼瞼後退,外眼筋肥大を認めたことから,甲状腺眼症と診断した。眼窩MRIのT2強調画像で,外眼筋肥大と外眼筋内に活動性の指標であるhighintensityを認めた。ステロイドパルス療法と放射線療法を施行したところ,複視の消失,眼球突出の軽減,外眼筋肥大の著明な改善がみられた。本症例から,甲状腺眼症の治療に関しては病期を的確に判断し,活動期にステロイドパルス療法と放射線療法を行うことが重要と考えられた。

サルコイドーシスの臨床統計

著者: 石原麻美 ,   鳥山聖子 ,   鈴木高佳 ,   中村聡 ,   石田敬子 ,   石原広文 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1583 - P.1588

 1991年から1997年に横浜市立大学医学部附属病院眼科を受診したサルコイドーシス患者91例について,診断方法,眼科的所見ならびに全身病変の合併についてretrospectiveに検討した。組織診断群は75例(82%)であり,経気管支肺生検および皮膚生検で診断された割合が高かった。また,眼症状を有する症例は68例(75%)であり,組織診断群と臨床診断群では後者に続発緑内障の頻度が有意に高かった以外,眼科的所見に差はみられなかった。一方,眼症状を有する群では顔面神経麻痺をはじめとする神経病変の合併頻度が高い反面,皮膚病変の合併頻度が有意に低く,眼症状の有無で全身病変の合併頻度に相違がみられた。

脳室周囲白質軟化症に視神経異常と外斜視を合併した1例

著者: 高橋真紀子 ,   河野玲華 ,   長谷部聡 ,   大月洋 ,   中平洋政

ページ範囲:P.1593 - P.1597

 外斜視に視神経異常および視野欠損を合併し.MRI検査で脳室周囲白質軟化症(periventricularleukomalacia:PVL)がみられた22歳女性の1例を報告した。周産期に頭蓋内出血の既往があり,これがPVLの成因と推察した。PVLが本症例にみられた外斜視,視神経異常の原因と考えた。外斜視に対する手術により整容治癒は得られたものの,立体視の獲得はできなかった。乳幼児期に早期診断・治療ができていれば,よりよい治療結果が得られた可能性もあり,PVLの早期診断とこれによる眼合併症の早期発見・早期治療が望まれる。

ガンシクロビルと硝子体切除が有効であった桐沢型ぶどう膜炎の2例

著者: 中村ひかる ,   石本聖一 ,   藤澤公彦 ,   岡田豊和 ,   田原義久 ,   中村武彦 ,   木村一賢 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.1599 - P.1603

 45歳と72歳の女性がいずれも片眼の桐沢型ぶどう膜炎を発症した。前房水と硝子体から水痘帯状疱疹ウイルスが検出された。アシクロビルの全身投与は無効であったが,ガンシクロビルの全身投与の後に硝子体切除を行った。1例では術中にガンシクロビルの眼内灌流を行った。これにより病勢が鎮静化した。アシクロビル治療に抵抗する桐沢型ぶどう膜炎にガンシクロビルと硝子体手術が有効であることを示す症例である。

体表部の化膿巣から生じた内因性細菌性眼内炎の2例

著者: 冨田実 ,   戸部隆雄 ,   安藤彰 ,   高橋寛二 ,   西村哲哉 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1605 - P.1609

 要約 体表部の化膿巣が原因で内因性細菌性眼内炎を発生し,急激に進行して失明に至った2症例を経験した。感染源は1例では点滴静注の留置部が化膿したもの,他例では義歯による歯肉炎と思われた。2例ともに基礎疾患はなかった。基礎疾患のない健常人でも,体表部の化膿巣から細菌が眼内へ血行性に転移し,内因性細菌性眼内炎を起こすことがあるので注意が必要である。

日眼百年史こぼれ話・8

梅錦之丞,謙次郎兄弟

著者: 三島濟一

ページ範囲:P.1581 - P.1581

 日本人最初の眼科学教師梅錦之丞は,明治16年3月からわずか1年半の任期で早世したので,残された業績が少なく,調査に苦労をした。
 幸い山賀勇先生が日眼60周年に際し,昭和30年の日本医事新報に記録を残されたので,有難かった。実はこの記録は,弟であり法学者であった梅謙次郎の継嗣から得たものであった。

第52回日本臨床眼科学会専門別研究会1998.10.23神戸

レーザー眼科学

著者: 岡野正

ページ範囲:P.1610 - P.1611

 昨年から光干渉断層計(OCT)も含めたが,その演題が増加した。特別講演を,OCT発明者の丹野直弘教授(山形大工学部)にお願いした。一般演題の座長を戸張幾生先生(1〜4席)と別所健夫先生(5〜7席)にお願いし,特別講演の司会は岡野がさせていただいた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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