icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科53巻9号

1999年09月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

内境界膜剥離術

著者: 松村美代

ページ範囲:P.1623 - P.1626

 最近注目を集めている硝子体手術手技の1つに内境界膜剥離がある。網膜を伸展させるためにはこの手技が不可欠である,とする考えがある一方で,網膜の構造物である内境界膜を取り除いてしまうのは問題があるという考えもある。結論はまだ出ていないが,この手技が登場した経緯や,もとになる考え方を紹介しながら功罪を考えてみたい。

眼の組織・病理アトラス・155

網膜色素上皮細胞の増殖

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1628 - P.1629

 網膜色素上皮細胞は神経外胚葉由来の細胞で網膜の最外層に存在し,視細胞などの網膜外層の栄養,視細胞外節の視物質の還元,陳旧化した視細胞外節の貪食,網膜下液排出のポンプ機能,脈絡膜から網膜への異常物質の流入を阻止する外側血液網膜関門など,網膜の機能維持に重要な生理的機能を有している。また,病的状態においても,網膜色素上皮細胞は病変に対して反応し,各種病変が感覚網膜に波及してその機能を障害することを防止するように働く。例えば,網膜を光凝固すると,凝固斑の周囲では網膜色素上皮細胞が増殖して,光凝固によって破綻した外側血液網膜関門が修復される。さらに,加齢黄斑変性で脈絡膜血管新生が網膜下に広がった場合には,網膜色素上皮細胞が増殖し,新生血管を網膜色素上皮層で覆って,ここでも新たに外側血液網膜関門を構築する。
 網膜色素上皮細胞の増殖性反応を実際に細胞分裂像として組織学的にとらえることは極めてまれである。しかし,動物の網膜を光凝固して,硝子体中に3H-tymidineを注入して,その取り込みを観察することによって,網膜色素上皮細胞の増殖を実証することができる(図1)。

眼の遺伝病・1【新連載】

シリーズをはじめるに当たって

著者: 玉井信

ページ範囲:P.1632 - P.1633

 20世紀は生化学が蛋白科学,酵素科学として著しく発展をとげ,病気の解明と結びついた。特に,今世紀最後の四半世紀に至って,生物学は分子レベル,遺伝子レベルの解析が進み,分子生物学の時代に突入した。1951年秋,ケンブリッジ大学キャベンデッシュ研究所で共同研究を始めた23歳の生化学者ワトソンと物理学者で35歳のクリックによってDNAの螺旋構造が発見され,1953年,Nature誌に発表されて始まったことはご存じのとおりである1)。その後,解析機器,分析に必要なプライマーと呼ばれるペプチド鎖,抗体,さまざまな試薬を含めたキット類が商品化される時代を迎え,われわれのように臨床に明け暮れている者にとっても,患者を診察する立場にあるがゆえに,その血液から病気の本質を発見するチャンスをつかみ得る時代になった。血液病,先天異常をはじめ,さまざまな因子が絡み合う生活習慣病といわれる疾患群までも,その原因となる遺伝子異常が報告されつつある。
 眼科学の分野においても,分子生物学が発展を続けており,特に網膜色素変性をはじめとする網膜の遺伝性疾患は,その病態が全くわからなかった難病であるが,1990年以降分子遺伝学の手法によって次々と遺伝子異常が発見,報告され,その成果には目を見張るものがある。ロドプシンのアミノ酸配列がNathansら2)によって決定されてから15年,その遺伝子の点突然変異がDryjaら3)によって報告されてから10年が経過した今日,日本人における網膜色素変性,眼形成異常,角膜変性など遺伝子異常の発見報告が相次いでいる。それをみると欧米の報告と日本人におけるそれが必ずしも同じ結果ではなく,発症頻度も遺伝子の異常部位も異なることがしばしばで,人類の長い進化の過程で生じてきたものであることを示しており,興味深い。

眼科手術のテクニック・117

硝子体手術後再出血への対処

著者: 安藤伸朗

ページ範囲:P.1636 - P.1637

 硝子体手術後の合併症として,硝子体出血は比較的頻度の高いものであり,なかには再手術を要するものも少なくない。再手術の場合,特に留意すべき点について述べる。
 ポイントは,最周辺部の硝子体を可及的に完全切除することである。そのためには以下のことが必要となる。

日眼百年史こぼれ話・9

明治の眼科女医たち

著者: 三島濟一

ページ範囲:P.1626 - P.1626

 今日では,女性が医師になるのは当然で,だいたい男性よりよく勉強するから,医学部への合格者が多い。なかでも眼科は女性に人気があり,女医さんの多い科である。
 明治時代は封建世界から解放された女性が社会進出を始めたが,医師になるには多くの障壁があった。日本最初の女医は荻野吟子で,明治18年医師の資格を得たが,彼女の苦しみは大変なものであった。吉岡弥生も苦労して医師になったが,明治33年女医学校を創立,今日もなお日本唯一の女子だけの医学校として続いている。

今月の表紙

脈絡膜剥離

著者: 高野良真 ,   長屋慶 ,   玉井信

ページ範囲:P.1627 - P.1627

 症例は62歳の男性で左眼霧視・視力低下を主訴に来院した。視力は右0.2(矯正不能),左0.1(矯正不能),眼圧両側10mmHg,眼底は両眼とも耳側,鼻側を中心に強い脈絡膜剥離を認めた(表紙写真は右眼)。螢光眼底像では原田病に特有な漿液性剥離はみられない(図1右眼)。既往歴として高血圧(+),大腸ポリープ(受診2年前,ポリペクトミー施行),糖尿病(−),眼疾患(−),家族歴として父が12歳時に左眼失明(詳細不明),父方叔父が全盲(詳細不明)であった。原田病,idiopathic uveal effusionなどが疑われ,髄液穿刺を施行したところ,細胞増多(120)(mono 116,poly 4),protein 43を示し,HLAは,A2,A33(19),B27,B60(40),Cw4,Cw7,DR4,DR12(5)であったため,原田病と診断した。第24病日からプレドニゾロン100mg/日による治療を開始したところ,脈絡膜剥離は徐々に改善し,第79病日に視力は右1.2(矯正不能),左0.4(矯正不能)に快復,退院となった。この経過中,漿液性網膜剥離は出現せず,脈絡膜剥離は徐々に消退し(図2右眼),のちに螢光眼底像で示される脈絡膜顆粒状色素沈着を残した。
 原田病は多彩な眼底所見をとることを示している。

座談会

白内障手術の研修と習熟

著者: 稲用和也 ,   小松真理 ,   杉田美由紀 ,   堀尾直市 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1638 - P.1651

 屈折矯正手術のレベルにまで到達したといわれる白内障手術。基本ともいわれるこの手術の教育をどう進めるかが眼科医学界全体の関心を集めています。本誌では指導医の立場にある4人の方々から現状と将来への思いとを率直に語っていただきました。

臨床報告

急性前骨髄性白血病の寛解導入療法中に発症した浸潤性視神経症の1例

著者: 村田晃彦 ,   徳田和央 ,   熊谷直樹 ,   西田輝夫 ,   阿武孝敏 ,   佐藤穣 ,   岡芳知

ページ範囲:P.1653 - P.1658

 14歳女性が急性前骨髄性白血病と診断され,寛解期導入療法を受けて血液学的に良好な経過をとっていた。治療開始から17日目に左眼視力が低下し,両眼の白血病網膜症と診断した。その後,両眼の視神経乳頭腫脹と左眼の網膜剥離が発症した。MRI検査で視神経腫大と視神経周囲の高信号があり,限界フリッカ値低下があった。これらから浸潤性視神経症と診断した。髄液検査で白血病細胞はなかったが,抗癌剤の点滴静注,髄腔内注入と放射線照射を行い,眼所見は改善した。白血病では良好な血液学的経過にかかわらず重篤な視神経症が生じることを示す例である。

春季カタルおよびアレルギー結膜炎における血清可溶性接着分子

著者: 小野慎也 ,   内尾英一 ,   池澤善郎 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1661 - P.1665

 血清中の可溶性マーカーであるsoluble intercellular adhesion molecule-1(slCAM-1)とsoluble vascular cell adhesion molecule-1(sVCAM-1)濃度を,春季カタル30例,アレルギー結膜炎30例,正常人20例で測定した。春季カタル例のうち20例にアトピー性皮膚炎が合併していた。春季力タル群でのsICAM-1とsVCAM-1は,他の2群よりも有意に高かった。アレルギー結膜炎と正常群とには差はなかった。アトピー性皮膚炎を合併している春季カタル群でのsICAM-1値は,非合併群よりも有意に高かった。春季カタルでのsVCAM-1値は,アトピー性皮膚炎の有無に無関係であった。アトピー性皮膚炎の重症度は,sICAM-1とsVCAM-1値には相関しなかった。以上の所見は,sVCAM-1が春季力カタル臨床像の指標として有用である可能性を示す。

鼻側網膜動脈分枝閉塞症の1例

著者: 中島直子 ,   敦賀孝典 ,   野間堯 ,   岡志郎 ,   矢野隆 ,   鈴木雅信

ページ範囲:P.1667 - P.1670

 70歳男性が1週間前からの右眼耳上側霧視で受診した。右眼視力は1.5。右眼の視神経乳頭縁の鼻側半周が乳白色に混濁し,鼻上側網膜動脈と鼻側網膜動脈起始部に栓子があった。螢光眼底造影で右眼の腕網膜循環時間が延長し,鼻側網膜動脈に循環遅延があった。塞栓による鼻側動脈分枝閉塞症と診断した。既往歴に頭部外傷と高血圧があり,全身検査で高脂血症,陳旧化した脳梗塞,右外頸動脈と左内頸動脈の中等度狭窄が発見された。栓子は右外頸動脈由来のコレステロール栓子と推測された。鼻側網膜動脈閉塞は稀な疾患として注目される。

遷延性原田病のステロイド治療経過中に角膜穿孔をきたした1症例

著者: 常世佳希 ,   落合万理 ,   山上聡 ,   川島秀俊 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.1675 - P.1678

 現在66歳の男性が,30歳のときに原田病を発症した。炎症が遷延し,ステロイド薬の内服と点眼を続けていた。51歳で右眼白内障手術を受けた。61歳のときに角膜潰瘍が生じ,角膜びらんを繰り返して角膜中央部が菲薄化した。64歳でデスメ膜瘤が生じ,角膜が穿孔したので全層角膜移植を行った。角膜菲薄化の原因として,長期のステロイド薬の点眼による副作用,ドライアイによる薬剤毒性の増強などが考えられた。

ハンフリー視野計による正常眼圧緑内障の長期臨床経過

著者: 松本行弘 ,   原浩昭 ,   白柏基宏 ,   福地健郎 ,   阿部春樹 ,   岩田和雄 ,   澤口昭一

ページ範囲:P.1679 - P.1685

 正常眼圧緑内障と診断され,10年以上ハンフリー視野計で経過観察した13例26眼の長期臨床経過について報告した。初診時平均年齢は57歳6か月(42〜65歳),平均観察期間11年9か月であった。mean deviation(MD値),corrected pattern standard deviation(CPSD値)とも3dB以上の進行を悪化としたところ,全症例のうちMD値の悪化は6例10眼であり,CPSD値のそれは5例6眼であり,全体では9例13眼が悪化した。また26眼中22眼では矯正視力は1.0以上に保たれた。正常眼圧緑内障の進行,悪化はこれまでの報告のように全体的には極めて緩徐であった。しかしながら初診時から高度の視機能障害をきたしていた症例のなかに急激に悪化する症例がみられることから,症例ごとにきめの細かい対応が必要である。

同一術者によるトラベクロトミートリプル手術の成績

著者: 落合優子 ,   落合春幸 ,   千原悦夫

ページ範囲:P.1689 - P.1693

 トラベクロトミーと超音波乳化吸引術(PEA),眼内レンズ(IOL)挿入術のトリプル手術を行った83例119眼の術後成績について検討した。手術はすべて同一の術者が2ポート法にて行った。術前眼圧は22.3±3.8mmHg,術後12か月では15.4±2.4mmHgであり,各時点での術後眼圧は有意に低下していた(p<0.001)。投薬点数も術前3.9±1.5に対し,術後12か月0.7±1.1と有意に低下していた(p<O.001)。生命表を用いた検討では術後12か月で21mmHg以下の生存率が97.5%,18mmHg以下の生存率が78.5%と良好な成績であった。術中,術後,また経過中に重篤な合併症はなかった。トラベクロトミートリプル手術は早期から中期の原発開放隅角緑内障,偽落屑緑内障と白内障の合併例に対して安全で有用な術式の1つである。

超音波生体顕微鏡による再現性ある前房深度測定

著者: 古嶋正俊 ,   今泉雅資 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.1695 - P.1699

 20歳台の健常者6名6眼で,超音波生体顕微鏡(UBM)による前房深度を測定した。眼球を回転させ,回転時の部位と画像を記録し,UBMの二次元情報に三次元的位置情報を加えて測定値の変動を小さくすることを試みた。検出画像の座標変換行列式をコンピュータで三次元座標計に変換し,形状を再構築して計測部位を決定した。2日間の同時刻で行った測定での変動係数は,散瞳下で0.24%,無散瞳で0.42%であり,両日間に有意差はなかった。画像の部位を設定することで,UBMによる前房深度計測に再現性が得られた。

大型ソフトコンタクトレンズ装用による線維柱帯切除術

著者: 岩崎美紀 ,   堀貞夫 ,   門谷正規

ページ範囲:P.1701 - P.1704

 開放隅角緑内障9眼と閉塞隅角緑内障2眼の計11眼にマイトマイシンC併用の線維柱帯切除術を行い,独自に開発した大型ソフトコンタクトレンズを2日間装用させ,そのバンデージ効果を検討した。術前の前房深度は,2.96±0.44mm,術後3日目で2.77±0.62mmであった。眼圧は,術前19.5±4.6mmHg,術後7日目で7.6±2.2mmHg,術後12か月で14.1±2.8mmHgであった。コンタクトレンズ装用による合併症はなかった。

巨大前頭葉腫瘍2症例の視機能の経過

著者: 高原真理子 ,   本田仁司 ,   矢野啓子 ,   青木信彦 ,   及川明博 ,   酒井龍雄

ページ範囲:P.1705 - P.1709

 視力障害から巨大な嗅窩部髄膜腫が発見された2症例を経験した。症例1は60歳男性,9×7×5cmの腫瘍があり,初診時右眼無光覚,左眼光覚弁であった。症例2は47歳女性,7×7×6cmの腫瘍があり,初診時視力右眼(0.7),左眼(0.2)であった。眼底検査により症例1では右視神経乳頭の軽い退色と左乳頭の軽い発赤が,症例2では両視神経萎縮がみられた。それぞれ2回に分けて1/2から2/3の腫瘍が部分摘出された。術後,症例1では視力右眼50cm指数弁,左眼(0.01),症例2では右眼(0.9),左眼(0.9)と改善した。良性の巨大前頭葉腫瘍の場合,部分摘出術であっても視機能の回復が期待でき,視力回復の可能性があることが示された。

特発性黄斑円孔術後の白内障手術

著者: 引地泰一 ,   柳谷典彦 ,   秋葉純 ,   吉田晃敏 ,   武田守正 ,   木ノ内玲子

ページ範囲:P.1711 - P.1714

 特発性黄斑円孔術後の核白内障に対し白内障手術を行った症例の視力推移を検討した。特発性黄斑円孔に対し水晶体同時手術を併用しない硝子体手術を行い,円孔の閉鎖が得られ,術後の核白内障に対し白内障手術を行った13例14眼を対象とした。硝子体手術前視力,硝子体手術後から白内障手術までの最高視力,白内障手術直前視力,および白内障手術後最高視力のLogMAR値は0.93±0.25,0.33±0.19,0.61±0.17,0.19±0.17で,これらにはいずれも有意な差がみられた。1眼で白内障術後に黄斑円孔が再開放した以外,明らかな術中,術後合併症はみられなかった。黄斑円孔手術後の視力向上に核白内障が負の要因として関与しており,白内障進行例には積極的に白内障手術を行うのがよいと考える。

文庫の窓から

「視学一歩」

著者: 中泉行史 ,   中泉行弘 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1716 - P.1717

 文政6年(1823)に和蘭医官シーボルト(Phillipp Franz von Siebold,1796〜1866)が長崎に渡来し,語学のほかに博物学を伝えた。高野長英,戸塚静海,伊東玄朴,伊東圭介,岡研介,高良斎らがその門弟となり,医学の外に物理,化学,博物の諸科が大いに進展し,正に蘭学の全盛ともいうべき時代であった。このころ,洋方医家として大阪に開業し,稲村三伯(海上随鴎)に蘭学を学んでいたのが中環(丹後の人,名を環,字は環中,思々斎,天海と号す。1783〜1835)である。環中はひろく科学の翻訳書を繙き,当時,最新の知識を備えた先覚の学者の1人であった(「緒方洪庵と足守」)。
 『視学一歩』については先輩諸先生のご研究によりよく知られているところであるが,筆者らの手許にある2,3の史料を調べたので紹介する。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?