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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科54巻1号

2000年01月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

網膜色素上皮の老化

著者: 松永裕史

ページ範囲:P.9 - P.12

 1998年初め,アメリカのGeron companyが,細胞レベルでの老化の抑制に成功し,5年以内にはヒトの老化を抑制する薬を開発できると発表し,話題になった。今,老化の研究はかなり進んできており,非常におもしろい研究分野になってきている。老化の学説は,遺伝子に内蔵されたプログラムによって進行するというプログラム説と,細胞に変異が蓄積して最終的に細胞分裂が止まると考えるエラー蓄積説に大別される。ここでは,プログラム説を中心に老化の分子機構である細胞老化と,網膜色素上皮細胞の細胞老化について述べる。

眼の組織・病理アトラス・159

眼内リンパ球炎性偽腫瘍

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.14 - P.15

 眼球の周囲組織および眼内には種々のリンパ球増殖性疾患lymphoproliferative lesionsが発生する。
 Zimmemmanは眼内リンパ球増殖性疾患を1つの疾患単位ではなく,症候群としてとらえ,下記の4群に分けることを提唱している。

眼の遺伝病・5

ロドプシン遺伝子異常による網膜変性(2)

著者: 玉井信

ページ範囲:P.18 - P.20

 ロドプシンは348個のアミノ酸からなり,視細胞桿体外節の円盤に存在し,桿体外節蛋白の80%を占めている1)(図1)。光が当たるとロドプシンは構造変化を起こし,この構造変化は外節円盤内に含まれるトランスジューシンと呼ばれる蛋白を活性化し,さらにいくつかの蛋白を次々に活性化して光情報が伝達され,視細胞の興奮を引き起こす。この一連の過程は光情報変換機構(phototras-duction cascade)と呼ばれる(図2)。ロドプシン遺伝子は第3番染色体長腕に存在する(図3)。
 遺伝盲の第1位を占める網膜色素変性がさまざまな遺伝様式を示すことはよく知られ,それによって分類されたり,予後が語られてきた。しかしその遺伝子異常が証明されたのは,常染色体優性遺伝形式を示す家系において,桿体視物質であるロドプシン遺伝子の配列に起きた突然変異によることが報告された。最初の報告例はロドプシン蛋白の23番目のアミノ酸Prolineをコードしている塩基配列(コドン) CCCの1つの塩基C (シトシン)がA (アデニン)へ点突然変異を起こしCACとなったため,それによって決定されるアミノ酸がHistidineに変化し,発症したものであった2)。現在までロドプシン遺伝子には約100種類の遺伝子異常が確認されている(図4)3)。

眼科手術のテクニック・121

水晶体を温存した周辺部硝子体切除術

著者: 池田恒彦

ページ範囲:P.22 - P.23

はじめに
 近年,硝子体手術時に水晶体摘出術と眼内レンズ挿入術を同時に施行する術者が増加している。硝子体手術時に水晶体を摘出すると,より周辺部の硝子体切除が可能となり,術後に生じる前部増殖性変化を最小限に防止することができる。しかし,増殖糖尿病網膜症(以下PDR)などの眼内血管新生性疾患では,術後に無水晶体眼あるいは偽水晶体眼になると,血管新生緑内障が一定の頻度で生じるなどの問題があり,また若年者で透明な水晶体を摘出することは,術後の調節力の点からも依然として異論のあるところである。
 筆者は従来から,白内障や散瞳不良のため術中の眼底視認性が不良の症例や硝子体腔内のフレアが高く,術後に高度の前部増殖性変化が生じる可能性が高い症例以外はできるだけ水晶体を温存する方針をとっている。今回,その具体的な手術手技につき述べる。

他科との連携

老年科とのカンファレンス

著者: 阿部徹

ページ範囲:P.70 - P.71

 眼科には,糖尿病患者がしばしば入院する。糖尿病患者は,眼疾患以外の全身的合併症を有することが多い。しかし,筆者を含めて,血糖コントロールを始めとする全身管理を得意とする眼科医は少ない(と思う)。

今月の表紙

上斜筋の動的形態—MRI画像による観察

著者: 佐藤美保 ,   三宅養三

ページ範囲:P.13 - P.13

 近年の画像診断の進歩により外眼筋の詳細な形態をとらえることができるようになった。眼位を変えながらMRI撮影を行うことにより,眼筋の収縮を観察することができる。
 これは正常者の右眼上斜筋を,上方からMRI画像で観察したものである。上段の3組の画像では上斜筋腱が滑車部を通り眼球へ付着する状態が,下段の3組の画像はそれよりも低い位置でのスライスで,眼窩深部における上斜筋の筋腹の状態が観察できる。左側から上方視,正面視,下方視である。上斜筋腱は上方視においては,付着部が後方に動くため滑車部で鋭角に折れ曲がるのに対し,下方視においては,付着部が前方に動き,滑車でほぼ直角に屈曲する。一方,下段で見られるように,上斜筋の筋腹は眼窩内壁と内直筋の間に存在する。左側から上方視においては弛緩し,右側の下方視においては筋が収縮し太くなっているのがわかる。上斜筋麻痺患者の多くでは筋腹が萎縮し,このような眼位変化に伴う筋の収縮力は著しく低下している。

臨床報告

角膜屈折矯正手術の合併症

著者: 佐久間俊郎 ,   貞松良成 ,   加藤卓次 ,   石川隆 ,   中安清夫 ,   田中稔 ,   金井淳

ページ範囲:P.31 - P.38

 角膜屈折手術後に合併症が生じた5症例を検索した。術式は,放射状角膜切開術(radial keratotomy:RK),エキシマレーザー角膜屈折矯正手術(photorefractive keratectomy:PRK),レーザー角膜内切削形成術(laser in situ keratomileusis:LASIK)のいずれかである。RKでは,遠視化と術後不正乱視と屈折値の日内変動が各1例に生じた。PRKでは,屈折のもどり(再近視化)と上皮下混濁が1例にあった。LASIKでは,角膜フラップおよび実質前層の混濁と角膜フラップ下の異物が各1例にあった。現時点では,上記の3術式とも完成されたものではなく,予想される合併症に対して十分な対策を立て,それぞれの術式の長所や短所を考慮して適応を選択することが望まれる。

メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)による術後眼内炎の1例

著者: 鈴木正恵 ,   堀尾直市 ,   池間毅 ,   水上庸子 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.39 - P.44

 83歳の男性に白内障手術が他医により行われ,その5日後に眼内炎が発症した。薬物療法は奏効せず,高度の前眼部炎と硝子体混濁が生じ,発症後4日目に紹介された。ただちに硝子体切除と眼内レンズ除去を行った。術中に,網膜上に膜状の白色塊,網膜前出血,強い眼内炎の所見があった。術後に炎症は寛解し,0.7の最終視力が得られた。摘出した眼内レンズからメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)が検出された。術直前の網膜電図では,律動様小波は消失していたが,b/a比は1.0以上であった。本症例では,臨床所見に比べて網膜電図で示される機能障害が軽度であり,硝子体切手術により視機能が改善したことと関係があると考えられた。

網膜中心動脈閉塞症に対する硝子体手術

著者: 久保朗子 ,   谷内修

ページ範囲:P.46 - P.50

 3例の網膜中心動脈閉塞症に対して,網膜の血流改善を目的として硝子体手術を行った。年齢は69歳,83歳,51歳であり,手術は,それぞれ発症7時間,6時間,30時間後に行った。有茎硝子体切除後に,乳頭部の動脈をソフトテーパード針で加圧し,同時に灌流圧を低下させた。術後の蛍光眼底造影では遅延していた循環時間が全例で短縮し,視力はそれぞれ0→0.06,手動弁→0.03,指数弁→0.01へと改善した。発症直後の網膜中心動脈閉塞症に硝子体手術は有効であったと判断した。

光干渉断層計が有用であった経過の異なる糖尿病黄斑症の2例

著者: 岩瀬真実 ,   今井雅仁 ,   飯島裕幸

ページ範囲:P.53 - P.57

 3年前に汎網膜光凝固を受けている増殖糖尿病網膜症の59歳男性(症例1)の左眼と,前増殖糖尿病網膜症の49歳男性(症例2)の右眼の経過を,光干渉断層計(OCT)で追跡した。2症例ともびまん性黄斑浮腫があった。症例1では視力低下に先行して網膜厚が増大した。症例2では黄斑浮腫に対して硝子体手術を予定していたが,OCTで網膜厚の減少傾向が確認されたので手術を延期したところ,手術を行うことなく視力が改善した。2症例とも全身状態などのために,蛍光眼底造影は実施できなかった。

特発性黄斑上膜に対する硝子体手術後の中心窩網膜厚と網膜感度

著者: 熊谷和之 ,   荻野誠周 ,   出水誠二 ,   新城歌子 ,   塩屋美代子 ,   上田佳代

ページ範囲:P.59 - P.62

 特発性黄斑上膜15眼に対する硝子体手術を行った。視力,中心窩網膜厚,中心窩網膜感度を術前,術後1,2,3,6か月に測定した。中心窩網膜厚はRetina MapTM,中心窩網膜感度はハンフリー視野計を用いて測定した。術後,視力は有意に改善し,網膜厚は有意に薄くなったが,網膜感度は改善しなかった。術前は中心窩網膜厚および網膜感度と視力は有意に負の相関を示した。術後は相関しなかったが,術後後期ほど負の相関傾向を示した。内境界膜剥離眼は非剥離眼と比較して,視力改善度には差がなかったが、中心窩網膜感度の改善度は有意に悪かった。

隅角発育異常緑内障の手術成績

著者: 久保田敏昭 ,   高田陽介 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.75 - P.78

 目的:最近の隅角発育異常緑内障の手術成績を検討した。
 対象と方法:手術後少なくとも3か月間経過を観察できた,隅角発育異常緑内障の21例33眼である。このうち牛眼は4例6眼で,隅角発育異常緑内障晩発型は17例27眼であった。牛眼に対してはトラベクロトミーを行い,晩発型に対しては14例20眼にサイヌソトミー併用トラベクロトミーを行い,6例7眼にはトラベクロトミーのみを行った。
 結果:牛眼の術前の平均眼圧は25.0mmHgで,術後の平均眼圧は12.7mmHgであった。サイヌソトミー併用トラベクロトミーを行った群の術前眼圧は29.5±7.5mmHgで,術後眼圧は14.2±4.3mmHg,トラベクロトミーを行った群の術前眼圧は29.1±6.4mmHgで,術後眼圧は13.4±3.5mmHgであった。併用群と非併用群では,最終観察時の眼圧に違いはなかったが,術後最高眼圧が術前眼圧より高い例が併用群で3眼.非併用群で2眼あり,非併用群で多い傾向があった。
 結論:隅角発育異常緑内障にはトラベクロトミーが有効で,サイヌソトミー併用は,眼圧コントロールにはあまり影響しないが,術後の一過性の眼圧上昇を抑制する可能性がある。

飛蚊症の特徴と後部硝子体剥離

著者: 高野明枝 ,   長内泰子 ,   大西通広 ,   秋葉純

ページ範囲:P.79 - P.82

 飛蚊症を主訴として受診した118例136眼を対象に,飛蚊症の特徴と後部硝子体剥離との関係について検討した。病歴を詳細に聴取した後,前置レンズおよびゴールドマン三面鏡と細隙灯顕微鏡を用いて硝子体を検査した。136眼中102眼(75%)で後部硝子体剥離を認めた。50歳以上の108眼中100眼(93%)で後部硝子体は剥離していたが,50歳未満の28眼では2眼(7%)でのみ後部硝子体剥離を認めた(p<0.01)。また,耳側視野の陰影を訴えた96眼中86眼(90%)で後部硝子体は剥離しており,剥離した後部硝子体皮質上に輪状,線状,あるいは塊状の乳頭前環が観察された。
 一方,視野の中央に陰影を訴えた38眼では14眼(37%)でのみ後部硝子体剥離を認めた(p<0.01)。以上の結果から,耳側視野に1,2個の濃い陰影を自覚する50歳以上の症例では,後部硝子体剥離により生じた乳頭前環が飛蚊症の主因と考えられた。

走査型レーザー検眼鏡(SLO)による回旋偏位の解析—上下斜視の自覚的回旋偏位と他覚的回旋偏位の比較

著者: 堀川晶代 ,   平井美恵 ,   河野玲華 ,   長谷部聡 ,   大月洋

ページ範囲:P.85 - P.88

 自覚的回旋偏位と他覚的回旋偏位の関係を51例の上下斜視について検討した。自覚的偏位についてはHarmsの正切に回旋計測器を組み合わせた方法で,他覚的偏位については走査型レーザー検眼鏡で得られた画像から,乳頭図心と中心窩を結ぶ線と水平線のなす角度を計測して決定した。後天性麻痺例ならびに20歳以降に自覚症状が出現し治療を必要とした先天性麻痺例では,自覚的と他覚的回旋偏位の間に有意な相関があった(p=0.0007,p<0.0001)。20歳以下の先天性麻痺例では有意な相関はなかった(p>0.05)。先天性麻痺例の自覚的および他覚的偏位の差は,成人例のほうが若年例よりも比較的小さかった。

緑内障患者の日常生活調査

著者: 石井るみ子 ,   木村泰朗 ,   藤田邦彦 ,   金井淳 ,   稲葉裕

ページ範囲:P.89 - P.94

 80名の緑内障患者に,①対象者の背景,②健康状況,③視機能,④生活状況,⑤経済状況,仕事,⑥医療関係,⑦精神状態(主観的QOL)のアンケートを施行し,結果を解析した。対象は平均61.8歳,男性55名,女性24名(不明1名),平均罹病期間10.1年だった。早期から段差の判別,すれ違う人の顔の判別,駅の料金表の判読に障害が生じ,病期の進行とともに増加した。進行期ではさらに外出,車の運転,信号の判別,銀行のATMの画面の読み取りが障害され,仕事量減少,減収,治療費増加も認められた。60%が治療にほぼ満足していた。精神的QOLスコアは病期の進行に伴い低下したが,多変量解析によれば病期以上に,外出,テレビの字幕,駅の料金表の判読の障害との強い関連がみられた。

眼虚血症候群を示さなかった眼動脈閉塞の1例

著者: 島袋幹子 ,   大路正人 ,   青松市子 ,   福井健寛 ,   塚本浩子 ,   川口敏 ,   田中康夫 ,   西川憲清 ,   北西久仁子 ,   尾崎俊也

ページ範囲:P.97 - P.101

 48歳男性が5分間の左眼暗黒感を自覚し,その2週後に受診した。麻痺,構語障害,めまいなどの脳神経症状はなかった。視力は正常で,眼球運動や眼底には異常所見はなかった。網膜中心動脈圧は正常で左右差はなく,腕—網膜と網膜内の循環時間に遅延ないし左右差はなかった。脳血管撮影で左眼動脈は起始部から造影されなかった。眼窩ドプラ検査で左眼動脈の中枢側は眼窩内では描出されず,血液は外頸部動脈の涙腺動脈を経由して逆行性に流れていた。片側の眼動脈の完全閉塞があるにもかかわらず,眼虚血症候群が生じなかった例である。

カラー臨床報告

高齢者に初発した春季カタルの1症例

著者: 古森愛子 ,   福田憲 ,   熊谷直樹 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.25 - P.29

 61歳の男性が右眼の視力低下と異物感を主訴に近医を受診した。右眼の角膜上皮障害に対し角膜保護剤の点眼にて加療されたが,改善しないため当科に紹介された。アレルギー疾患の既往歴および家族歴に特記する点はなかった。初診時,両眼に点状表層角膜症,右眼角膜に浸潤があった。上眼瞼結膜には巨大乳頭や線維性の増殖性変化があった。結膜擦過物には多数の好酸球があり,血清学的検査でヤケヒョウヒダニ,ハウスダスト,カビに対する血清中抗原特異的IgE抗体価が上昇していた。これらの所見から,61歳と高齢であったが春季カタルと確定診断した。

やさしい目で きびしい目で・1

美人は3日で飽きる

著者: 久保田伸枝

ページ範囲:P.65 - P.65

 かつて教室の助教授であったA先生は,よく,“美人は3日で飽きるが,ブスは1か月もすれば慣れる”とのたまっていた。どのような意味で話していたかは知らないが,当時は,私に対する当て付けぐらいにしか思っていなかった。しかし,よく考えるとなかなか味のある言葉である。
 このごろは,若い人も早くから白内障の手術を行うようになり,それに付けこむように,次々と新しい手術機器が開発され,器具が良ければ手術も上手になるかのように錯覚している。確かに,良い器械を使えば手術も容易であろう。しかし,新しい器械は,上手に使いこなすまでが大変である。多少悪くても慣れた器械のほうが,たとえ良いものであっても,新しい器械に勝るのである。ブスが美人より長持ちするように……。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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