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文献詳細

雑誌文献

臨床眼科54巻10号

2000年10月発行

やさしい目で きびしい目で・10

『白鳥はいつも水をかいている』

著者: 湯沢美都子1

所属機関: 1駿河台日本大学病院眼科

ページ範囲:P.1715 - P.1715

文献概要

 若かった時にNijmegen大学に留学し,Deutman教授の教えを受けた。帰国が迫った夕方,教授に呼ばれ「Will you become a professor in the future?」と聞かれた。私は即座に「Never」と3回くらい言ったと思う。次に「Why not?」と聞かれてつまってしまった。その時まで,大学に残って研究を続け,教授を目指そうなどと夢にも思ったことがなかった。しばらくして「自分には研究の才能がない。賢くないから」と答えた。「天才はほんの少ししかいない。後は同じだ。大切なのは常に上に目標をおいて,それに向かって努力すること。人間が考えることはほとんど同じで,気づくのが少し早いか,遅いかの違いだけだ。気づいたらそれをいかに行うかの方法論を速く考え,関連のある論文をできるだけ読み,一心に努力すること。白鳥はいつも水をかいている」と言われた。黄斑疾患の権威で,臨床医としても優れ,私にとっては雲の上の人であるDeutman教授の言葉に,私は驚き,その日までの彼が過ごした日々を想像し,振り返って自分の漫然とした日々を恥じた。病院を出て見上げた時の満天の星を忘れることはないと思った。
 やがて帰国し,Deutman教授の言葉を忘れたわけではなかったが,バタバタと忙しく半年が過ぎた。忘年会の帰りで,私は松井名誉教授と一緒にタクシーの中にいた。「湯沢君,うちの若い人はみんなポテンシャルは高いのに,なんで一生懸命努力をしないのだろう。いかに早く気づいて努力するかだけなのに。興味さえ持って勉強していれば,気づくし,楽しくなるし,努力もできるのに」と言われた。若い人といわれたが,その言葉は私に対してであると思った。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1308

印刷版ISSN:0370-5579

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