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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科54巻11号

2000年10月発行

雑誌目次

特集 眼科基本診療Update—私はこうしている 巻頭言

序文 21世紀の眼科基本診療をめざして

著者: 水流忠彦

ページ範囲:P.8 - P.9

 西暦2000年も残すところわずかとなり,21世紀を目前にしたこの時期に「眼科基本診療Update—私はこうしている」を発刊することになった。実は1991年に,「限科基本診療—私はこうしている」というタイトルで「臨床眼科」の増刊号が発刊されており,今回はそのUpdate版ということになる。編集者としては,現代の眼科基本診療の水準を明らかにし,来たるべき21世紀の眼科診療に備えるべく決定版ともいうべきものを目指したつもりである。そのため,現在眼科診療の第一線でご活躍中で,豊富な経験と高い見識をもっておられる先生方に得意分野のご執筆をお願いした。
 1990年代の日本は長期不況に見舞われ,社会や経済あるいは産業の構造改革も進まず,俗に“失われた10年”といわれている。しかし,1991年に発行された「眼科基本診療」と今回の「眼科基本診療Update」を比較していただくと明らかなように,各先生方には記述を必要最小限にお願いしてもなお,頁数の大幅な増加をみることになった。眼科に関する限り,1990年代はまさに輝かしい変革を遂げた10年といっても過言ではない。

1.診断に必要な基本技術 一般的検査

視力・屈折測定—コツと注意点

著者: 魚里博

ページ範囲:P.11 - P.13

 視力検査
 視力は視機能のなかでも最も重要な検査項目であるが,視力障害の原因には,大別すると屈折異常によるものと眼疾患によるものがある。前者は屈折検査により検出され,後者は種々の検査から診断されるため,両者の鑑別が必要である。裸眼視力と矯正視力を調べる検査で,ここでは,一般的な検査を中心に解説する。特殊なものは専門書を参照されたい。

視野検査—コツと注意点

著者: 小島ともゑ ,   不二門尚

ページ範囲:P.14 - P.16

 静的視野測定と動的視野測定
 視野検査には,静的視野測定と動的視野測定があり,それぞれ長所,短所がある。ゴールドマン視野(Goldmann perimeter:GP)測定は,動的視野測定であり,広い範囲の視野測定ができる点や,声かけをしながら計測することによって,データの信頼性を向上させることが可能な点が長所である。短所としては,中心視野の精密測定が困難な点,検者の熟練度に結果が影響を受ける点などである。
 緑内障の初期変化を捉えたり中心視野や傍中心暗点の測定は静的精密視野が優れている。視野の進行が数値で判定可能であり,統計処理上も有利である。

眼鏡処方—コツと注意点

著者: 酒井正典

ページ範囲:P.17 - P.18

 はじめに
 眼鏡の処方に際して,眼科医は十分な役割を果たしているであろうか。眼鏡処方箋を発行することは医療行為で,医師のみに許されるものであるが,明治時代から今日にいたるまで,眼鏡店による検眼,眼鏡処方という法律違反が黙認されている。この原因の1つに“屈折矯正は面倒だ”とする眼科医の意識にも責任があったと思われる。「メガネを作るくらいでわざわざ眼科まで来るな」と患者に言ってはばからない眼科医が存在していたと聞かされたことがある。眼鏡士問題がとりざたされているが,法的に“眼鏡処方は眼科医が行うものである”ということを堅持するためにも,限鏡処方にもっと力を入れるときにきているとの反省の声も聞かれる。
 さて,眼鏡の処方にあたっては,眼鏡処方箋の書き方に加え,レンズと眼鏡枠の材質や種類,眼鏡調整の手順についても知っておく必要がある。さらに,眼鏡光学の基礎知識,調節の屈折値への介入などの知識を土台として眼鏡処方にあたることが必要となる。眼鏡は,コンタクトレンズと違い,眼鏡レンズが眼から離れた位置に保持され,レンズの眼に対する相対的位置が眼の動きにより変化する。このことが,本来期待された矯正効果以外の副次的な効果を持ち込むことになる。眼鏡処方における注意点の多くは,このことを理解することにほかならない。また,眼鏡処方は,年齢,遠用か近用か,遠近両用かなどの個別に考慮しなくてはならない事項が多いが,本稿では一般的な注意点に的を絞って述べる。

コンタクトレンズ処方—コツと注意点

著者: 渡邉潔

ページ範囲:P.19 - P.22

 はじめに
 コンタクトレンズ(CL)の処方は,処方直後の診察と約3か月ごとの定期検査も含めて考えるべきである。処方直後の診察は,そのCLをそのまま使用してよいかをチェックする重要な診察である。定期検査は,CLやケア用品の誤用確認や角結膜の障害の初期変化を発見するのに重要である。
 CLは医療用具である。患者がCLを購入する場合には「①医師の診察を受け,処方を受ける」,「②販売店で購入し,開封せずに眼科に持っていく」,「③医師の前で購入(または購入予定)のCLを装用し,診察を受ける」の3つのステップが必要である1)(表1)。
 医師が医療用具を直接販売してはいけないという法律があるために,診療所に併設したCL販売会社が販売することになる。一部のリテイラー(医師以外の商売人のCL販売店)は,医薬分業と同じように,眼科診療所と販売店は全く別の場所に設置すべきであると主張している。2000年4月に,金券ショップがCLの販売を開始し,診察を受けるのが面倒な患者は金券ショップで毎回購入してしまう。これは,処方と診察を行わないので非常に危険である。診療所と販売店が併設されれば,必ず購入したCLの診察ができ,安全なCL装用には併設でなければ患者の健康は守れないと考える。

細隙灯顕微鏡の使い方

著者: 沖波聡

ページ範囲:P.23 - P.25

 検査を始める前に
 細隙灯顕微鏡は光源が明るくて解像力がすぐれている必要がある。ツァイス社,ローデンストック社,ハーグ・ストレート社(ゴールドマン900型)の製品を使うことが多い。検査を始める前に接眼レンズの視度と瞳孔距離を適切に合わせておく。複数の検者がいる施設では特に必要である。検査を楽に行えるように患者の顎,姿勢と検者の姿勢を,椅子,器械台,顎台を上下させて調節しておく。また,隅角鏡検査や眼底検査を行うために肘台を用意しておく。観察は低倍から行い,必要に応じて高倍で観察する。

眼圧測定

著者: 勝島晴美

ページ範囲:P.26 - P.27

 眼圧計の種類
 限圧計には圧平眼圧計と圧入眼圧計とがあるが,強膜に変形を生じないという点で圧平眼圧計が優れている。圧平眼圧計には,ゴールドマン眼圧計(Goldmann applanation tonometer:GAT),非接触型眼圧計(noncontact tonometer:NCT),手持ち眼圧計(hand applanation tonometer:HAT)がある。それぞれ利点・欠点があり,私は使用目的によって使い分けている(表1)。トノペンは圧平眼圧計というよりも,圧入限圧計の一種とするのが妥当のようである1)。眼圧は角膜上から測定するので,圧平眼圧計であっても角膜乱視,角膜表面の状態,涙液量などの影響を受ける。最近は,角膜厚と眼圧とに正の相関があることや,エキシマレーザーによる屈折矯正術後に眼圧が低くなることが報告されている2,3)

フレアセルメータ

著者: 澤充

ページ範囲:P.28 - P.30

 はじめに
 フレアセルメータは前眼部炎症に伴って生じる血液房水関門の破綻による房水中の蛋白濃度の増加と細胞数を測定する目的で開発された装置である(図1)。本装置による検査は「レーザー前房蛋白細胞数検査」として保険適用になってすでに10年以上になる。正しい検査結果を得るには適正な検査条件のもとでの測定と測定結果の解釈が必須である。これには検査法の原理を理解することが必要である。近年はすぐれた検査法,自動化装置が開発されているが,測定原理・条件を無視した検査結果のひとり歩き,すなわち不適切な測定,誤差の無祝などがしばしばみられる。眼科の基本的装置であるアプラネーション眼圧計においても人眼と家兎眼での測定値の単純比較は意味をもたない。異なる測定法による角膜厚の相違も1つの例である。今回,改めてフレアセルメータの原理を述べ,原理に基づく検査結果の解釈の重要性を考える一助としたい。

超音波検査

著者: 川野庸一

ページ範囲:P.31 - P.34

 はじめに
 超音波検査装置は,トランスデューサから発振された音波が組織内を通過する際に音響特性の異なる組織界面から生じる反射を感知して画像表示する。1960年代から眼科的使用が始まり,現在Aモードおよび二次元画像表示のBモードの検査が広く行われている。これらの「一般的」超音波検査に対して,UBM (ultrasound biomicroscopy)はPavlinらによって眼科臨床に導入され,従来観察が困難であった前限部の構造を高い解像度で観察することを可能にした(「Zoom up 1」参照)。特に閉塞隅角緑内障,前眼部の腫瘍性疾患や先天異常などで威力を発揮する。
 本稿では筆者が診療する機会が多い腫瘍性疾患とぶどう膜炎の超音波像につき述べる。

瞳孔反応異常の検出法

著者: 内海隆

ページ範囲:P.35 - P.36

 はじめに
 瞳孔反応としては次の7種類のものがある。①対光反応light reflex (光による縮瞳) ②近見反応near reflex (近見による縮瞳) ③精神知覚性散瞳psychosensory pupillary dilatation (mydriasis)(非常に大きな恐怖,怒りや驚き,耳が痛くなるほど大きな音や突然加えられた激痛による散瞳) ④三叉神経反射trigeminal reflex, oculo-pupillary reflex(角膜刺激などの三叉神経刺激による散瞳と,その後の縮瞳) ⑤暗黒反応darkness reflex (遮光による散瞳) ⑥閉瞼時の縮瞳(lid closure miosis) ⑦側方視時の散瞳(ターネイTuorney反応) このうち臨床的に利用されているのは①②③の3つであり,④⑤⑥は研究目的で使われる。⑦は存在が否定されている。
 本稿では①②③について,その異常の検出法と注意点をわかりやすく紹介していきたい。

眼球突出の定量的評価と画像診断

著者: 後藤公子

ページ範囲:P.37 - P.39

 はじめに
 眼球突出をきたす眼窩内病変の診断は,画像診断の進歩により容易になってきた。個々の眼窩内病変における画像上の特徴や鑑別診断については多くの報告や成書での記載がある。しかし,眼球突出度の計測の実際および最近の標準値についての記載は少ないので,今回はこの点について記す。

斜視・眼位異常の評価

著者: 牧野伸二

ページ範囲:P.40 - P.41

 はじめに
 眼位異常を訴えて来院した患者の主訴は何かを,まずしっかり確認することが大切である。また,詳細な病歴の聴取はその後の診断,治療方針を立てる上で重要である。眼位異常の発症時期,程度,頻度などの問診においては,写真で角膜反射の位置を目安に眼位を確認したり,小児の場合は検者の後ろに家族を立たせ,患者側の眼位に関する訴えと実際の眼位とを照合して説明しておくことも大切である。複視,斜頸,片眼つぶりの有無,過去の治療歴,家族歴なども問診しておく。
 以下,特別な検査機器を用いないでできる検査から述べることとする。

幼少時の眼所見の評価

著者: 黒田紀子

ページ範囲:P.42 - P.44

 はじめに
 小児眼科の最終目標はよい視力とよい両眼視機能の発達,獲得にある。幼少時の眼所見に対しても,そのような観点から評価する。
 視機能を評価する,視力をはじめとした種々の検査は大半が自覚的検査によるもので,乳幼児では検査時の気分や環境によって左右されることが多く,検査結果にも再現性や信憑性を欠きやすい。実際,検査によって得られた数値をそのまま評価できないことが多い。検査時の状況,小児の様子を十分に観察し考慮に入れねばならないし,一度の結果で判断することは危険で,何回かの検査をもとに総合的に判定する。確信の持てる評価をするためには安定した信頼度の高い検査結果を出すことが当然のことであり,他覚的検査をできるだけ組み入れたり,正確な結果を得るように乳幼児,保護者との間によい信頼関係をつくることも大きなポイントとなる。

眼球運動障害の定量的評価

著者: 鈴木康夫

ページ範囲:P.45 - P.47

 眼球運動障害を視診だけで正確に診断することは非常に難しい。診断の精度を高めるためには何らかの方法で眼球運動を電気信号に変換し,その信号波形から鑑別診断を行わなければならない。ここでは,どのような眼球運動記録法にも共通した信号波形の定量的評価のポイントについて解説する。

電気生理学的検査—1.網膜電図と眼球電図

著者: 白尾裕 ,   瀬川安則 ,   北勝利

ページ範囲:P.48 - P.51

 ERGとEOGはどう違う?
 ERG (網膜電図)もEOG (限球電図)も同じように眼球から出る電位を記録する検査である。ERGは角膜(子供では眼瞼のこともある)に電極を置いて光刺激を照射した際の電位変化を直接記録したもので,臨床的には電極の分極や接触不良,眼球動揺,角膜障害などの問題があるので短時間(普通長くて0.5秒ほど)の電位しか記録できない。一方,EOGは短時間の応答の記録には向かないが,分単位の遅い電位変化の記録に適する。

電気生理学的検査—2.視覚誘発電位

著者: 水野谷智

ページ範囲:P.52 - P.53

 VEPとは?
 視覚誘発電位(visually evoked potentials:VEP)はさまざまな視覚刺激によって誘発される電位変化である。大脳皮質から記録されるためcorticalの語を入れてVECPともいわれているので,以下,ここではVECPを用いる。
 VECPは視覚領近くの頭皮上に電極を置いて記録される電位であり,視覚領付近の大脳皮質ニューロンからの総合的な電位と考えられている。網膜の中心部からの情報は視覚領の後部に拡大投射されているため,VECPは主として網膜の中心部の機能を反映する。また視覚領はもちろんであるが,視神経などの視覚情報を伝達する経路の情報を,刺激方法によっては中間透光体の状態や屈折などの情報も反映する。

多局所網膜電図検査

著者: 谷川篤宏

ページ範囲:P.54 - P.57

 はじめに
 多局所網膜電図(multifocal ERG)は,米国のSutterら1)によって開発された新しい局所ERGの記録装置である。本装置では,複数の網膜部位を擬似ランダム刺激(binary m-sequence)を使って同時に刺激して,各部位から局所ERGを記録することができる。これによって短い検査時間で後極部の網膜機能の障害の有無や,障害部位の範囲とその程度を測定,評価することが可能である。本稿では多局所ERGの記録方法とそのポイント,対象疾患に関する注意点や臨床応用について述べたい。

正常眼窩の画像診断

著者: 八子恵子

ページ範囲:P.58 - P.62

 近年の画像診断技術の発展は眼窩疾患の診断と理解を飛躍的に進歩させた。その結果,多くの眼窩疾患に画像検査が行われるようになったが,その所見を正しく判読するためには,まず正常眼窩の画像をしっかり理解しておく必要がある。本稿では,紙面の都合上すべてを網羅できないが,日常,眼窩の画像を読影する上で知っておくべきポイントや誤りやすい所見について図を中心に示したい。

角結膜検査

眼表面の検査

著者: 松田彰

ページ範囲:P.63 - P.65

 細隙灯顕微鏡所見と角膜知覚検査
 私自身は見落としを少なくするために,次の順番で細隙灯顕微鏡所見を取り,必要に応じて角膜知覚検査を加えている。

涙液評価

著者: 横井則彦

ページ範囲:P.66 - P.68

 涙液検査の目的
 涙液の異常は,結果として眼表面の上皮障害を引き起こすため,涙液検査を行って何らかの異常を検出する必要がある。しかし,一般的な検査は,その目的を達するには再現性の乏しいものであり,実際にはいくつかの検査を行って総合的に考えるしかない。そこで,検査を再現性よく行うための基本検査のポイントについて述べてみたい。

前眼部画像解析装置

著者: 林研

ページ範囲:P.69 - P.71

 ここではニデック社前眼部解析装置の全容を紹介するのではなく,日常の臨床に応用可能な測定項目,撮影・解析のコツと注意点に絞って述べる。林眼科病院では白内障手術前後の検査として利用することが多く,現在まで使用した測定項目について述べる。

角膜形状解析

著者: 猪原博之 ,   前田直之

ページ範囲:P.73 - P.76

 はじめに
 わが国においてもエキシマレーザー屈折矯正手術が認可され,今後屈折矯正手術が次第に普及していくと考えられるが,これに伴って日常臨床での角膜形状解析装置の利用の機会も増加すると思われる。また,角膜形状解析検査が2000年度から保険適用となったことは,角膜形状解析が研究的な検査ではなく,一般的な眼科検査として認知されたことを意味している。ここでは,われわれがルーチンとして行っている角膜形状解析について概説させていただく。

スペキュラーマイクロスコピー

著者: 大黒伸行

ページ範囲:P.78 - P.79

 はじめに
 スペキュラーマイクロスコピーは鏡面観察の原理を用いた生体顕微鏡であり,対物レンズ(角膜と接触する部分のレンズ)を使い分けることにより,角膜内皮細胞や上皮細胞を観察できる(図1)。最近では非接触型の機種が開発され,初心者でも簡単に撮影することができるようになり,日常臨床において活躍する機会も増加している(図2)。特に,内眼手術前の非接触型スペキュラーマイクロスコピーによる角膜内皮検査を必須検査としておられる先生方も多数おられるのではないだろうか。

眼底検査

新しい眼底画像ファイリング装置

著者: 金上貞夫

ページ範囲:P.80 - P.81

 世はコンピュータ時代に入り,眼科映像もご多分に漏れず新しい電子機器に置き換わりつつある。スペキュラー・マイクロスコープに始まり,角膜トポグラフィ,OCTなど新旧取り混ぜての電子映像が普及してきた。
 眼底カメラも各社から電子化された画像ファイリングに対応したカメラが開発され,コンピュータに接続できる装置が発売されている。現在これらの機器からはわれわれが十分に満足すべき画質は得られていないが,臨床においてはかなり実用の域に達したものと評価できる段階に到達している。

フルオレセイン蛍光眼底造影

著者: 鈴木純一

ページ範囲:P.82 - P.86

 検査の基本
 フルオレセイン蛍光眼底撮影(fluorescein fun-dus angiography:FAG)はフルオレセイン・ナトリウムを肘静脈から注射して,眼動脈から末梢の血行動態を観察する定性的な検査で,網膜・脈絡膜疾患の診断と病態の把握には欠かせない検査法である。最近ではインドシアニングリーン蛍光造影やレーザーを用いたものなどが開発されているが,FAGはいまなおその基本となる検査法である。
 造影剤として用いるフルオレセイン・ナトリウム(分子量376.27)は血中では大部分が主にアルブミンと結合している。眼底カメラはストロボ光を用いた白色光源の照明となるので,その途中に490nmにピークをもつブルーフィルター(励起フィルター)で眼底を照明すると(励起,excita-tion),そのフルオレセイン・ナトリウムから520nmにピークをもつグリーンイエローの蛍光が発生する。青色光を遮断してこの励起された蛍光のみを透過させるためにさらに途中に濾過フィルター(barrier filter,通常緑あるいは黄色)を入れて,グリーンイエローの蛍光だけを選択し,これを白黒フィルムでとらえて画像化する。

インドシアニングリーン蛍光眼底造影

著者: 福島敦樹

ページ範囲:P.87 - P.91

 インドシアニングリーン(indocyanine green:ICG)蛍光眼底造影(indocyanine green angio-graphy:IA)は1980年代後半に眼科領域に応用され始めた比較的新しい検査法である。ICGはそのほとんどが血漿蛋白と結合するため脈絡膜毛細管板からの漏出が遅く,脈絡膜循環を長時間にわたり観察できる。そのため,IAはフルオレセイン蛍光眼底造影(fluorescein angiography:FAG)では検出できなかった脈絡膜レベルの変化を捉えることができ,さまざまな疾患の病態を理解する上で多くの情報を提供しつつある。しかし,実際の診療においては,IAのみで診断することは難しく,FAG所見と対比することが重要である。本稿ではIA異常所見を説明し,IAが診断に役立っ疾患についてFAGと対比しつつIA所見を概説し,病態の解釈における有用性について述べる。
 紙面の都合上,IA写真は割愛するので,他書を参照されたい(文末の文献)。

光干渉断層計

著者: 飯田知弘

ページ範囲:P.92 - P.94

 はじめに
 われわれ眼科医は,日常臨床において10μmの精度で眼底を観察している。フルオレセイン蛍光眼底造影を行えば網膜の毛細血管レベルの病変を観察できるし,網膜中心動脈閉塞症などで血流が極端に遅いときには血管の中を移動する赤血球を見ることもできる。しかし,眼底を直接観察できても,その病理所見を得る機会はほとんどない。
 光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)の登場により,非侵襲的に眼底の断面を光学顕微鏡で組織切片を見るかのように観察することが可能になった。OCTは,多くの眼底疾患で病態の解釈に新たな情報を提供し,さらには治療方針の決定や効果判定にも応用されてきている。解像度は,走査方向で20〜50μm,垂直方向で10〜20μmである。2000年4月現在,わが国で約70台が駆動している。
 OCTの原理,各種疾患の所見などについてはテキストや論文をみていただくこととし,本稿ではOCT画像を解釈する上での注意点と使用する際のコツを中心に述べる。なお,所見を正しく解釈するにはOCTの原理1,2)を理解していることが前提であり,さもないと思わぬ落とし穴に陥る。

網膜・視神経循環測定

著者: 玉置泰裕

ページ範囲:P.95 - P.97

 はじめに
 糖尿病網膜症,網膜血管閉塞症などの多くの網膜疾患の病態に網膜循環動態の異常が関与していることは,蛍光眼底撮影法などにより周知の事実となっている。また,緑内障性視神経障害,特に正常眼圧緑内障の病因として,機械的因子すなわち眼圧の他に,視神経乳頭の循環障害が関与することが示唆されている。したがって,網膜および視神経乳頭の循環動態を定量的に解析することが可能となれば,網膜および視神経疾患の病態を正確に把握し,さらに治療効果を判定していくうえで非常に有用であると考えられる。
 本稿では,臨床応用が可能な種々の網膜および視神経循環測定法について概説する。

眼疾患の診断に関する基本の知識

感染性角結膜疾患の診断

著者: 松本光希

ページ範囲:P.98 - P.101

 はじめに
 感染性角結膜疾患の診察にあたっては,主たる感染部位が結膜なのか,あるいは,角膜なのかを判断する。さらに,感染症を惹起している微生物を突き詰めていく。感染性角結膜疾患を起こす微生物にはウイルス,クラミジア,細菌や真菌などがある。患者の年齢層,片眼性か両眼性か,発症状況(誘因)などが診断上,助けとなる。確定診断には,眼脂や角結膜擦過物の直接鏡検や培養などが必要である。

視神経乳頭炎・浮腫の鑑別診断

著者: 柏井聡

ページ範囲:P.102 - P.104

 定義
 眼底検査で視神経乳頭の隆起を認めれば,先天性に乳頭低形成のため隆起してみえるのか,後天性に視神経が混濁・腫脹して隆起してきたのかをまず区別する(表1)。
 頭蓋内圧亢進による視神経乳頭の腫脹・隆起をうっ血乳頭(choked disc)と呼ぶ。英語圏ではこれをpapilledemaと称し,原因によらず視神経乳頭が腫脹・混濁した状態をdisc edemaという。日本語の乳頭浮腫はdisc edemaの意味で用いられることが多いが,混乱を避けるため,検眼鏡的所見は乳頭腫脹(disc swelling),乳頭隆起(disc ele-vation)のように具体的に記述し,脳脊髄圧の上昇を確認して初めてうっ血乳頭papilledemaと診断する。

角膜ジストロフィ疾患の診断

著者: 山本修士

ページ範囲:P.105 - P.108

 角膜ジストロフィの原因遺伝子
 最近の分子遺伝学の進歩は著しい。1997年から1999年にかけて,日常診療でわれわれが遭遇するほとんどの角膜ジストロフィ疾患の原因遺伝子が明らかにされた(表1)。顆粒状角膜変性症,アベリノ角膜変性症,格子状角膜変性症,ライス・ビュックラーズ角膜変性症(以上,ケラトエピセリンの変5異),ミースマン角膜上皮変性症(ケラチン3,ケラチン12),膠様滴状角膜変性症(M1S1遺伝子)の原因遺伝子が報告された1〜6)。また,斑状角膜変性症も遺伝子座までは報告されていたが,ようやく原因遺伝子も判明した(表1の注**)。

甲状腺眼症の所見と診断

著者: 大塚賢二

ページ範囲:P.109 - P.111

 甲状腺眼症に対する大いなる誤解
 甲状腺眼症,いわゆるバセドウ病(グレーブス病)は,成人女性200人に1人の割合で発症する比較的頻度の高い疾患であるにもかかわらず,これほど誤解の多い疾患もないと思われる。甲状腺眼症に対する誤解とは,以下のようなものである。

眼窩腫瘍性病変の診断

著者: 中村裕

ページ範囲:P.112 - P.114

 はじめに
 眼窩に生じる腫瘍性病変は,病理組織学的には良性,悪性に分類され,また原発部位別には,眼窩そのものからのもの,隣接組織(例えば眼瞼,副鼻腔,頭蓋内)からの進展や浸潤によるもの,さらには遠隔部位からの転移によるものなどに分類される。眼窩腫瘍性病変の治療は,手術的切除,放射線療法や化学療法などの保存療法,また眼窩偽腫瘍などに特異的に使用される副腎皮質ステロイド薬投与など多岐にわたることから,その組織学的性格,原発部位などを把握することは大変重要である。
 以下に,眼窩腫瘍性病変の診断について,その要点および,適応の重要性と順序,さらに施行時期などについて述べる。

眼窩周囲の骨折外傷の診断

著者: 敷島敬悟

ページ範囲:P.115 - P.116

 はじめに
 眼窩内には,視神経,眼球運動神経,外眼筋,涙器などのさまざまな重要な組織が含まれ,眼窩周囲には,頭蓋腔や副鼻腔が隣接する。したがって,このような組織の機能障害をを合併する眼窩の骨折が問題となる。眼窩部外傷に遭遇した際の,重篤な眼窩骨折の診断のポイントを述べる。

穿孔性眼外傷の診断

著者: 河井克仁

ページ範囲:P.117 - P.119

 はじめに
 不測の事態に,不慮の事故として発生する眼外傷では,初診医の初期診断と処置の内容如何が,受傷眼の予後に大きくかかわってくる1)。特に穿孔性眼外傷の場合では,救急時,初診医は外力によって,どこまで侵襲されたのかを見極め,受傷眼の視機能維持のために救急治療計画を速やかに組み立てねばならない。
 本稿では,初診医が救急外来で穿孔性限外傷に遭遇したときのものの見方,考え方について述べてみたい。

ぶどう膜炎の隅角・硝子体眼底変化

著者: 疋田直文

ページ範囲:P.120 - P.122

 はじめに
 ぶどう膜炎の診断には,まず問診や眼所見および眼外症状などと,診断を裏付けるための血清学的,免疫学的,分子生物学的あるいは病理組織学的検査などのなかから必要なものを選択して診断を確定していく作業が必要である。
 本稿では,検査選択の出発点となる眼所見のなかでも,特に注意すべき所見の見方,考え方について述べる。

緑内障の視神経乳頭形状および近傍眼底所見の評価

著者: 富田剛司

ページ範囲:P.123 - P.125

 緑内障診断における眼底の観察
 視神経乳頭変化を観察する手段として最も簡便な観察法は,眼底鏡を用いた観察である。少なくとも初診時は事情が許すかぎり十分に散瞳し,十分な光量を用いて直像鏡で観察するのがよい。中間透光体の混濁が強い場合を除き,14Dあるいは20Dのような倍率の低いレンズによる倒像鏡検査は乳頭像が小さくなりすぎ観察には不向きである1)。陥凹の大きさを判定する際には立体的な観察も重要である。この場合,78D,90Dなどのレンズを用いて行うのも有用である。所見は立体眼底写真で記録するのが最良であるが,そうでなくともポラロイド写真などで記録を診療録に残しておくことは重要である。

黄斑部ジストロフィの診断

著者: 伊佐敷靖 ,   大庭紀雄

ページ範囲:P.126 - P.129

 はじめに
 黄斑部の網膜脈絡膜が原発性に変性・萎縮する遺伝性眼底疾患の一群を黄斑部ジストロフィ(以下,黄斑ジストロフィ)と総称する1)。臨床像を的確に把握することはもちろんであるが,最近明らかになった疾病遺伝子の病的変異を証明することは有力な診断根拠になる。ここでは,代表的ないくつかの黄斑ジストロフィについて,診断に関連する事項を述べる。診断の要点を表1にまとめた。

黄斑部病変の画像診断

著者: 大谷倫裕

ページ範囲:P.130 - P.132

 はじめに
 黄斑疾患の診断には,光干渉断層計(opticalcoherence tomography:OCT),螢光眼底造影,走査レーザー検眼鏡(scaning laser ophthalmoscope:SLO)などの補助検査が有用である。さらに,これらの検査によって治療効果の判定が可能である。ここでは,OCTを中心に黄斑疾患の画像診断について述べる。

網膜血管病変の所見の取り方

著者: 川崎良 ,   佐藤浩章 ,   佐藤武雄 ,   山下英俊

ページ範囲:P.133 - P.134

 はじめに
 網膜血管病変を呈する疾患は多岐にわたる。日常臨床で遭遇する機会の多い疾患の基本病態として網膜浮腫,出血,血管閉塞など循環障害が重要な位置を占めている1)。疾患により網膜循環障害の原因,程度や分布が異なり,眼底像は異なるが,眼底所見からその病態を推し量り,病期や重症度を把握することができれば適切な治療の糸口が得られる。
 以下に網膜循環障害による眼底所見を,1)毛細血管瘤,硬性白斑,2)網膜出血,3)軟性白斑,4)血管の異常,5)新生血管に分けて述べる。

網膜周辺部裂孔発見のテクニック

著者: 三田村佳典

ページ範囲:P.135 - P.137

 はじめに
 裂孔原性網膜剥離の治療に関しては,術前にすべての網膜裂孔をもれなく確実に検出することが最も重要なポイントである。特に小さな網膜周辺部裂孔の見落としがないよう細心の注意をはらう必要がある。

未熟児網膜症の程度判定基準

著者: 鎌田裕子 ,   東範行

ページ範囲:P.138 - P.140

 はじめに
 未熟児網膜症は発達途上の網膜血管に起こる増殖疾患である。最周辺部への血管の成長が完了するのは満期の40週ころなので,未熟児で出生した場合,網膜血管は発育途上である。未熟な細胞のある成長の先端部で,異常方向に成長や増殖を始めるのが網膜症の本能である。網膜症の発生頻度や程度に最も大きく関与する因子は網膜血管の未熟性であり,一般的に修正在胎週数,出生時体重が少ないほど重症の網膜症となることが多い。さらにその発症に関与する危険因子として,呼吸窮迫症候群,無呼吸発作,敗血症,脳室内出血などの全身状態の異常が挙げられる。酸素投与は発症の直接の原因ではないが,網膜症を悪化させる要因である。

眼内腫瘍性病変の診断

著者: 箕田健生

ページ範囲:P.141 - P.144

 はじめに
 眼内腫瘍性病変の診断に際して,主治医は患者の視機能ばかりでなく,悪性腫瘍の場合は患者の生命予後にかかわる重大な責任を負っていることを自覚して事にあたる必要がある。
 実践的見地から,眼内腫瘍性病変の診断は,1)小児の眼内腫瘍性病変—特に網膜芽細胞腫および類似疾患の鑑別,2)成人の眼内腫瘍性病変—特にぶどう膜悪性黒色腫および類似疾患の鑑別,に大別して述べることにする。

遺伝子診断とカウンセリング

著者: 真島行彦

ページ範囲:P.145 - P.147

 はじめに
 最近の分子生物学の進歩により,現在,遺伝性の網脈絡膜疾患,角膜疾患,神経疾患,緑内障などの疾患において,その病因となる遺伝子が同定され,患者のもつ遺伝子の変異がわかるようになってきた。多くの疾患は研究室レベルの話であるが,レーベル病の遺伝子診断は検査会社が有料で行っており,一般の臨床医が利用できる。
 実際に臨床の場で遺伝子診断が有用となる場合は,1)確定診断としての遺伝子診断,2)子供への遺伝のカウンセリング,または出生前診断,3)疾患の予後の予測,であろう。しかしながら,2)では,治療法のない疾患に関しては,倫理上行うことは困難なことが多い。これらのことを考えると,臨床に有用と思われる疾患は1)と3)の関連でレーベル病,2)との関連では緑内障と思われる。

Special lecture

病診連携の意義

著者: 近藤義之

ページ範囲:P.149 - P.152

 病診連携,その基本的な意義
 「病診連携」は,もともと患者の紹介を中心とした,診療所と病院の協力関係を表す言葉であった。診療所では,設備や人的資源の規模に限りがあるため,重症の患者を高度の医療機関へ転送する必要があり,患者の立場からも,近隣にある診療所で対応できることは診療所で済ませ,もし対応できなければ,高次の医療機関へ紹介してほしいという希望がある。病院からみれば,診療所が患者の重症度を判定したうえで,入院や高度な医療を要する患者を選別し送ってくれれば,効率的な医療サービスの供給が行えるという利点がある。
 表1に病診連携のメリット,意義を,診療所側と病院側からまとめてみる。

インフォームドコンセントと情報開示

著者: 出田秀尚

ページ範囲:P.153 - P.155

 インフォームドコンセントと情報開示の必要性
 インフォームドコンセント(以下,IC)と情報開示は,必要なものであろうか。先日,私の経験した例を挙げてみる。
 68歳の男性の患者であるが,他医で白内障の手術を受けた。術後視力がいったん良くなったが,低下しはじめ,術後眼内炎といわれ治療中である。しかし,良くならず,心配して前医に無断で受診した。確かに眼内炎らしい症状を示しているので,しばらく抗生物質で治療したが,改善されない。よく見てみると,硝子体の混濁は後極部に強く,黄斑部網膜の浮腫が強いので,黄斑部疾患を疑い,フルオレスセインとインドシアニングリーンによる網脈絡膜の血管造影検査を行った。すると,脈絡膜に新生血管が証明され,円盤状黄斑変性であることがわかった。ビデオで撮影した結果を,付き添いの家族の人と一緒に見て説明すると,患者も十分に納得が入って安心し,その後の治療も依頼された。

日帰り手術の現状と今後

著者: 杉田元太郎

ページ範囲:P.156 - P.158

 はじめに
 眼科手術のなかで日帰り対象となる手術は多数あるが,そのなかでも代表的な白内障眼内レンズ挿入術に限って,現状と今後について私見を述べる。

屈折矯正手術の現状と今後

著者: 鈴木雅信

ページ範囲:P.159 - P.161

 はじめに
 海外においては,1970年代の角膜放射状切開術(radial keratotomy:RK)に続き,1980年代のエキシマレーザー手術の開発・発展により屈折矯正手術が広く普及している。一方,本邦における屈折矯正手術は1940年代に角膜前後面切開術で始まったが,その後,多くの術後水疱性角膜症をきたすに至った。この反省から,特に眼科医の間ではRKに対して慎重な態度をとったため本邦では普及しなかった。その後のレーザー手術の発展により,2000年1月にレーザー角膜屈折矯正術(photorefractive keratectomy:PRK)が厚生省から認可を受け,本邦でも今後は屈折矯正手術の普及が見込まれる。本稿では主な屈折矯正手術(表1)の現状と今後について概説する。

硝子体網膜手術の適応拡大と最新技術

著者: 池田恒彦

ページ範囲:P.162 - P.164

 はじめに
 1970年代にMachemerにより開発された近代的硝子体手術は,その後飛躍的な進歩をとげ,従来難治とされてきた種々の網膜硝子体疾患の治療を可能にしてきた。最近では,硝子体手術の適応がさらに拡大され,特発性黄斑円孔,加齢黄斑変性,糖尿病黄斑浮腫などの黄斑疾患が治療対象となってきている。
 本稿では,最近の硝子体手術の適応拡大と,最新技術について解説する。

緑内障治療概念の進歩

著者: 上野聰樹

ページ範囲:P.165 - P.167

 はじめに
 緑内障治療の概念の進歩をこのようなわずかの紙面ですべてわかったように書けるものでは決してないため,筆者が眼科医に成り立ての時代から現在までの余り長くもない期間にかなり変化したあるいは進歩したと考えられる点についてだけを脈絡なく簡単に述べるにとどまることを最初にお断りしておきたい。

小児水晶体疾患の治療と問題点

著者: 福島美紀子

ページ範囲:P.168 - P.172

 はじめに
 小児期,特に乳幼児期は,視力の発達過程にあり,健全な発達のためには,網膜に鮮明な像が得られる適性な視性刺激が必要である。小児水晶体疾患(表1)により視性刺激遮断が生じると形態覚遮断弱視(視性遮断弱視)となる。この現象は両眼性の場合にも生じるが,特に左右差のある場合には競争に負けた弱い眼の発達(両眼でシナプス形成を競合するとされている)は著しく障害される。さらに3歳までは眼球の大きさが急速に変化する時期であり,それに伴い屈折も大きく変化する。この点から小児水晶体疾患の治療は成人と大きく異なる。視機能の発達を促し弱視を予防することが小児水晶体疾患の治療目標である。

詐盲の鑑別診断

著者: 田淵昭雄

ページ範囲:P.173 - P.175

 定義
 詐盲とは,本来,視力や視野など視機能の障害はないか,あっても軽度であるのに,何らかの目的(通常は金銭的問題がからむ)をもって,故意にそれらの視機能が重度に障害されているように訴えたり,振る舞うことである。
 現症自体は心因性視覚障害や神経症などと類似し,鑑別に困難なことが多い1〜3)

画像ファイリングシステムと電子カルテ

著者: 永田啓

ページ範囲:P.176 - P.178

 はじめに
 眼科では眼底写真やフォトスリットといった高精細のフィルム画像をずいぶん昔から日常的に使用してきました。診察室がカラースライドのつまったスライドボックスだらけになったり,蛍光眼底のネガであふれるといった風景はごく普通に見受けられます。あふれたフィルムは箱詰めになってどこかの部屋に大切にしまい込まれているかもしれません。いざ,必要なフィルムを取り出そうとしても,どこにあるのかがわからなくなったり,せっかく探しあてても,以前の学会で使用して戻していないために,スライドフォルダの肝心のところだけが抜けていたり,といった経験をされた方もおられるのではないでしょうか。
 コンピュータが低価格化し,個人レベルで使えるようになってきたころから,眼底写真や蛍光眼底・フォトスリットなどのフィルムをデジタル化して残せば,以前の写真を捜し出したり,保存スペースを考えなくていいのではないか,といったアイディアがたくさん発表されてきました。しかし,あらゆる眼科のクリニックであたりまえにこうしたものが使用されるようには,いまだになっていません。
 ここでは,画像ファイリングの問題点と現時点での実現方法,そして電子カルテとの関連について紹介します。

2.治療に必要な基本技術 外眼部疾患の治療

麦粒腫・霰粒腫・眼瞼腫瘍の治療

著者: 小島孚允

ページ範囲:P.179 - P.181

 麦粒腫
 1.薬物治療
 起炎菌は黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌であることが多いので,グラム陽性菌に感受性を持つ抗生物質を局所投与する。外麦粒腫では抗生物質眼軟膏を,内麦粒腫では抗生物質の点眼を用いる。筆者は患者の苦痛を速やかに除去し,眼窩蜂窩織炎のような重症例に移行する機会を少なくするために,薬物アレルギーの既往のあるもの,抗生物質の全身投与を希望しないものなどを除いて,原則として初期の例でも局所投与に並行して抗生物質内服薬を数日間(3〜5日)投与する。

涙道再建治療の適応と術式選択

著者: 栗橋克昭

ページ範囲:P.183 - P.186

 はじめに
 涙道再建は解剖に始まり解剖に終わるといってよい。正しい涙道の三次元の形態学的知識が最重要であるが,今まで信じられていたことが必ずしも正しくない。これが大問題である。
 涙道再建の失敗の原因のほとんどが不正確な三次元の形態学的知識に基づいている。涙道再建はprobing, silicone intubation,特にdirect siliconeintubation(DSI),dacryocystorhinostomy(DCR),またはそれに準じた術式(例えばcanaliculorhi-nostomyなど)に大別できるが,それぞれ単独に,あるいは組み合わせて手術を行う。DCRにおいては,涙道だけでなく,その周辺にある鼻腔や前頭蓋底などの解剖学的知識も重要である(図1)。

涙嚢洗浄とブジー法

著者: 原嘉昭

ページ範囲:P.187 - P.189

 はじめに
 先天性鼻涙管閉塞は鼻涙管の末端の膜様閉鎖,すなわち下鼻道耳側壁の鼻涙管開口部のHasner弁による閉鎖である1)。このHasner弁を突破することが先天性鼻涙管閉塞の治療となる。
 涙道ブジー法は,流涙症の治療として乳幼児の先天性鼻涙管閉塞では通常1回で完治するため,“ブジーは魔法のつえ”と呼ばれても不思議でないほどである。一方,成人の後天性鼻涙管閉塞は線維性増殖を伴う粘膜の癒着によるので2),ブジー法は無効の場合が多い。
 ここでは主として先天性鼻涙管閉塞のブジー法について述べたい。

眼表面・角膜疾患の治療

コンタクトレンズ障害の治療

著者: 稲葉昌丸

ページ範囲:P.190 - P.192

 はじめに
 永続的な視力障害をもたらすような,重篤なコンタクトレンズ(CL)障害については多くの研究,報告がなされている。しかし,一般の眼科医が診療の場で遭遇するCL障害のほとんどはもっと軽度なものである。日常的に遭遇するコンタクトレンズ障害は,次の4つに分けて対処を考えることになる。
 1)放置してよい障害 2) CL装用の中止やCL変更を必要とする障害 3)積極的な眼科治療を必要とする障害 4)専門クリニックによる集中的な治療が必要  な障害(先述したように,ここでは取り上  げない)

ドライアイの治療

著者: 戸田郁子

ページ範囲:P.193 - P.196

 はじめに
 ドライアイは日常診療において1日に1人は遭遇する非常に頻度の高い疾患である。わが国においては以前はドライアイの概念が浸透しておらず,また診断法も確立していなかったため見過ごされやすい疾患であったが,近年,ドライアイの診断基準が統一され,不定愁訴を訴える患者の多くがドライアイと診断されるようになった。しかし,診断率が上がる一方で,その原因に基づく根本治療はいまだ確立されていないのが現状である。したがってドライアイの治療の基本は対症療法とならざるを得ないが,ドライアイがさまざまな要因によって起こる複合疾患であることを考慮し,各ドライアイのタイプ(発症機序)になるべく適した治療法を選択することが大切である。
 ドライアイは大きく涙液水層の不足(aqueoustear deficiency)と蒸発過剰(evaporative dry eye)に分類される。前者はシェーグレン症候群に代表され,後者には涙膜破壊時間(tear film breakuptime:BUT)短縮タイプのドライアイや,マイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction:MGD)に合併するドライアイなどが含まれる。本稿ではこれら代表的なドライアイのタイプに対する治療法につき紹介する。

アレルギー性角結膜炎の治療

著者: 内尾英一

ページ範囲:P.197 - P.199

 アレルギー性角結膜炎の治療の考え方
 非増殖型病変を特徴とするアレルギー性結膜炎およびアトピー性角結膜炎を「アレルギー性角結膜炎」とすると,その治療の中心は抗アレルギー薬とステロイド薬による薬物治療である。アレルギー性角結膜炎は頻度も高く,年余にわたって治療を継続する必要のある症例も多いために,他種類の薬剤の特徴とその問題点を把握した投与法が重要である。

春季カタルの治療

著者: 後藤晋

ページ範囲:P.201 - P.204

 春季カタルが変化してきた
 アレルギー性結膜疾患のなかに占める春季カタルの割合は1.62%と低く,最近15年余の全国調査でもその患者数に大きな変動はない1)。男女比は3〜4:1である。

流行性角結膜炎の予防と治療

著者: 高村悦子

ページ範囲:P.205 - P.207

 はじめに
 眼科領域で院内感染が問題となるとき,まず考えておかなければならないのはウイルス性結膜炎,なかでもアデノウイルスによる流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis:EKC)である。日常臨床の場で遭遇する機会も多く,一度気を許すとあっという間に医師の手指や検査に使用した器具,点眼薬を介して,患者へ,ときには医療従事者へと感染が拡がる。
 EKCの蔓延を予防するためには,臨床的特徴を十分把握し,怪しい場合は,疑ってかかることが大切である。ここでは,外来診療でEKCを診察するときの注意点,外来で蔓延しないようにする工夫,院内感染が起った場合の対策などについて述べる。

治療的レーザー角膜切除術

著者: 下村嘉一

ページ範囲:P.209 - P.211

 はじめに
 角膜表層の病変部の瘢痕,変性組織,あるいは沈着物に対して,従来は機械的切除,表層角膜移植術,あるいは電気分解などが行われていた。しかし,これらの方法ではときに術後角膜表面が不正になったり,混濁が生じたりして視力改善が不十分であった。しかし,1998年4月にエキシマレーザーによる治療的レーザー角膜切除術(phototherapeutic keratectomy:PTK)が厚生省により認可され,本邦でも幾つかの施設で施行され,冒頭に挙げた疾患病変に対して良好な成績を収めている1)
 ここでは,PTKについて,その適応と実際に私が行っている手技について述べたい。

角膜移植および羊膜移植の適応と注意点

著者: 島﨑潤

ページ範囲:P.214 - P.217

 角膜移植の適応
 角膜の役割は,大きく分けて,1)光を通す。すなわち,透明であること,2)光を屈折する。よく知られているように,角膜は水晶体の約2倍の屈折率を持っている,3)強膜とともに,眼球壁の一部を形成している,の3つがある。角膜移植は,これらの働きが損なわれ,かつ内科的治療でこれを治すことができないときに適応となる。具体的には,1)角膜が混濁したとき,2)角膜が光を正しく屈折しないとき——この2つは,いわゆる「光学的角膜移植」の適応であり,角膜実質炎やヘルペス角膜炎後の混濁,あるいは円錐角膜がその例となる。これに対し,3)角膜が穿孔したときに行われるのは「治療的角膜移植」にあたり,外傷,潰瘍の穿孔がその例となる。
 わが国の角膜移植で頻度の高い原因疾患は,1.角膜白斑,2.水疱性角膜症,3.再移植,4.円錐角膜である(図1)。特に水疱性角膜症は,内眼手術の増加とともに頻度が増加しており,白内障術後,硝子体手術後,レーザー虹彩切開術後に発症する例が増えている。

角膜縫合のコツと注意点

著者: 山田昌和

ページ範囲:P.218 - P.220

 はじめに
 自己閉鎖創を用いた白内障手術が主流になった現在,一般の眼科医にとって角膜(強角膜)を縫合する機会は非常に少なくなっているものと推測される。逆にいえば,角膜と強膜の剛性の違いや,縫合の深さの感覚などを体感的に習得する機会が減少しているわけであり,実際に穿孔性眼外傷などの角膜縫合を行う場合に慌てることになりかねない。
 ここでは,眼鏡のレンズで角膜裂傷をきたした場合を想定して,角膜縫合の実際について述べる。

水晶体疾患の治療

白内障手術手技の現状

著者: 永原國宏

ページ範囲:P.221 - P.224

 手術手技の選択
 白内障手術手技は術前検査の段階であらかじめどの術式を選択するかを決定するが,第一選択は超音波乳化吸引術である。診察のときには,核の硬さ,チン小帯の状態を正確に把握しておくことが重要である。
 核硬度が5以上の症例は細隙灯顕微鏡で黒褐色に見え,水晶体後嚢まで観察することができない。このような症例は水晶体嚢外摘出術の適応になる。しかし硬度が5程度の症例は,実際には手術顕微鏡の下で核の硬さを判断し,最終的に術式を決定している。核硬化の強い白内障では,無散瞳で観察した場合,瞳孔領に見られる水晶体核の中央だけが硬く,周辺部は軟らかい場合もあるため,硬さを誤って判断しやすい。硬いと思われる症例は必ず散瞳し,確認しておくことが大切である。

眼内レンズの種類と選択

著者: 吉富文昭

ページ範囲:P.225 - P.226

 昔の思い出
 かつてわれわれが後房型眼内レンズを折り畳まずに挿入していた時代があった。その時代がかなり長期間であったためか,いろいろな眼内レンズが現れては消えていった。おおむね光学部の形は正円形であったが,ときには楕円形のものもあった。また光学部にpositioning holeという名のdial-ingの際フックをかける穴まで用意したuserfriendlyなレンズもあった。レンズ支持部hapticsの形もJ型とC型があり,その長さもまちまちだった。レンズ光学部の大きさにいたっては,大きいものでは直径7mmから小さいものは5mmと至れり尽せりであった。そのほか,レンズ光学部の前面を凸にするか,後面を凸にするか,両面を凸にするかとか,エッジに縁取りを付けるとかなど,幾多のマイナーチェンジがあった。それやこれやでこの時代,レンズの種類とその使用経験報告は星の数となった。
 しかしながら今からその時代を振り返ると,その時代の眼内レンズは2種類しかなかったように感じられる。PMMA製の光学部にポリプロピレン製支持部を装着した前期のものと,光学部も支持部もともにPMMA製の後期のものである。この支持部のポリプロピレンからPMMAへの変更は,この時代に得られた最も大きな収穫であった。これによってレンズの長期の安定性が格段に向上したのである。それまではレンズ偏位など日常茶飯事だったのである。

白内障手術装置の特徴と条件設定の決め方

著者: 杉浦毅

ページ範囲:P.229 - P.234

 白内障手術装置の特徴
 白内障手術装置は,より効率のよい核の破砕吸引を行いつつも,いかに前房の安定性を確保するかという二律背反する課題を満たすべく技術的な進歩を遂げてきた。
 現在の超音波水晶体乳化吸引術(PEA)の方向性には,2つの大きな流れがあると考える。1つには,ボトルを高くして前房内圧を高めて前房,後嚢を安定させ,high vacuumとhigh超音波(US)パワーとhigh aspiration rateで,短時間で効率のよい核の破砕吸引を目指す方向性である。もう1つは,装置の前房内圧センサーの機能を高めてhigh vacuumでも前房を安定させ,ボトルの高さとaspiration rateは通常どおりで,極めて低いUSパワーで,安全で角膜内皮に“やさしい”核の破砕吸引を目指す方向性である。

水晶体脱臼の治療

著者: 德田芳浩

ページ範囲:P.236 - P.237

 はじめに
 チン小帯脆弱と断裂でも,すでに水晶体亜脱臼(図1)に進展していれば,経毛様体扁平部水晶体切除か水晶体全摘出術を行って眼内レンズ(intraocular lens:IOL)を縫着するのが一般的であり,超音波乳化吸引術に挑戦することは絶対禁忌である。運良く水晶体嚢を残し,IOLを嚢内固定してハプティクスで赤道部を伸展する試みも,長期予後は不良である。
 従来の水晶体嚢拡張リング(以下,通常リング)は,術中の水晶体嚢虚脱には有効であるが,術後に嚢の偏位,亜脱臼,硝子体腔落下もありうる。現段階では全摘+IOL縫着が最も安全で標準的な術式であろうが,オプションとして水晶体嚢縫着固定リング(以下,縫着リング)を紹介する。

白内障術後乱視の原因と対処

著者: 宮田和典

ページ範囲:P.238 - P.241

 はじめに
 白内障手術は近年,超音波水晶体乳化吸引術および小切開用foldable IOLの開発により,飛躍的に安全性,正確性が向上した。それに伴い,術者は術後の高い視機能,良好な裸眼視力が要求されるようになってきた。そのためにも,数ある因子のなかでも直接的に術後視機能に影響を与える術後乱視対策を十分考慮しなければならない。
 本稿では,角膜乱視の術後視機能に与える影響,術前乱視を矯正するための多重手術,術後乱視の矯正法につき述べたい。

小瞳孔への対処

著者: 陰山俊之 ,   谷口重雄

ページ範囲:P.242 - P.244

 はじめに
 小瞳孔症例は,日々遭遇する白内障手術難症例のうち,最も頻度が高い難症例の1つである。昭和大学医学部附属藤が丘病院眼科におけるその頻度は,過去9年の間に行われた超音波白内障手術症例8,197眼を対象とした場合,過熟,成熟白内障症例145眼(1.8%)に続いて第2位(113眼,1.4%)であった。
 本稿では,筆者らが日々行っているいくつかの小瞳孔対処法を述べ,読者の小瞳孔攻略法の1つのバリエーションとして理解していただければ幸いである。なお本症例は,術前の診察時における術式の検討が特に大きな意味を持つため,術前診察における留意点も簡単に述べる。

緑内障の治療

緑内障薬物治療の基本と考え方

著者: 塚本秀利 ,   三嶋弘

ページ範囲:P.247 - P.250

 はじめに
 緑内障治療には,薬物療法ならびに手術療法があるが,特殊な病型を除いた多くの緑内障に対して,薬物療法が第一選択となる。
 現在,本邦では多種多様な緑内障治療薬が発売されており,これらの薬剤をどのように使い分けたらよいのか,選択の判断に迷うことがある。
 本稿では,私たちが実際にどのような考え方で緑内障薬物療法を行っているのかについて説明する。

緑内障に対するレーザー治療

著者: 安達京 ,   白土城照

ページ範囲:P.251 - P.254

 はじめに
 レーザー緑内障治療の多くは眼球壁に切開を加えることなく,その手術目的を達することができる点で従来の観血的手術にない利点を有している。多くの術式の中で現在広く行われている術式はレーザー虹彩切開術とレーザー線維柱帯形成術である。本稿ではこの2つの術式を中心に述べる。

緑内障手術治療の手技と選択基準

著者: 山本哲也

ページ範囲:P.255 - P.257

 緑内障の手術治療に関して筆者が重要と考えていることを数項目述べる。

術後前房再生不良・脈絡膜剥離に対する治療

著者: 沢口昭一 ,   早川和久

ページ範囲:P.258 - P.260

 はじめに
 線維柱帯切除術(trabeculectomy:PT)術後の合併症として,前房の再生遅延による浅前房,あるいは脈絡膜剥離は比較的高頻度に観察される。通常,術後浅前房は一過性で,いずれ改善することが多いが,問題となるのは角膜内皮と水晶体前面が接触する場合である。こうなると角膜内皮数は間違いなく減少する。また水晶体は接触した部位で混濁を生じ,さらには白内障が一層進行するため,多くの場合,不可逆的な視力低下をきたす。
 かつてマイトマイシンC(MMC)を用いないPTでは強膜半層フラップをゆるめの2針で縫合していたが,術後の浅前房は,経過中必ず遭遇する現象であった。しかしほとんどが一過性であり,完全な前房消失を伴わない場合は特に処置を行わず,アトロピン点眼と,比較的安静を保ってもらうことで済んだ。
 しかし筆者らがMMCをPTに用い始めたころ,初期の数例では,上記の縫合を行ったところ,前房が再生せず,非常な困難を経験したことがあった。本稿では最近経験した症例を中心に,筆者らが行っている処置,治療法について述べる。
 なお,術後浅前房は,その程度により次の3つに分類される1)
 grade 1:周辺虹彩が角膜内皮に接触しているが,前房は形成されている。grade 2:瞳孔辺縁まで虹彩は角膜内皮に接触しているが,瞳孔領でかろうじて前房は形成されている。grade 3:瞳孔領においても角膜内皮は水晶体前面に接触し,虹彩は押しつぶされており,完全に前房消失の状態。grade 2,3では,角膜内皮障害,白内障発症,進行の危険性が高まっており,早急な治療が必要となる。

房水漏出・術後晩発感染症への対処

著者: 松尾寛

ページ範囲:P.262 - P.265

 濾過胞管理の重要性
 濾過手術の主流は5-フルオロウラシルの併用からマイトマイシンCを併用するトラベクレクトミーへと変遷し,最近では術後合併症を低減すべく非穿孔トラベクレクトミー(advanced nonpen-etrating trabeculectomy)といった術式も考案された。しかし機能濾過胞を有する以上やはり眼内炎は起こりうる。代謝拮抗薬は創傷治癒の機転にさまざまな修飾を加えている可能性があり,術後晩期にはさらに注意深い術後管理が必要である。

続発緑内障の治療

著者: 阿部春樹

ページ範囲:P.266 - P.269

 はじめに
 続発緑内障(secondary glaucoma)は,原発緑内障に対する概念であり,種々の病因が含まれる。そして,その眼圧上昇機序により開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障に大別されるが,前者はさらに4型に,後者はさらに3型に分類される(表1)。このように続発緑内障を,その眼圧上昇機序から7型に分類することは,治療法を選択する上で重要である。
 続発緑内障の治療法と,その予後はその病因によって異なる。したがって,適切な治療を行ううえで最も重要な点は,正しい診断を下すことである。
 次に,続発緑内障に共通の治療方針としては,まず原疾患に対する治療を行い,それと並行して眼圧下降手段をとる必要があるということである。すなわち,原疾患に対する治療としては,ぶどう膜炎に対するステロイド治療,血管新生緑内障に対する汎網膜光凝固術,そして水晶体脱臼や膨隆白内障に対する水晶体摘出手術が挙げられる。そして眼圧下降手段としては,薬物治療,レーザー治療,手術治療が挙げられる。
 以下に,代表的な続発緑内障の治療方針と治療法について述べる。

網膜・硝子体疾患の治療

硝子体手術の適応疾患

著者: 小田仁 ,   平形明人

ページ範囲:P.270 - P.273

 はじめに
 近年,硝子体手術の適応は拡大してきており,その代表が黄斑円孔と黄斑下新生血管膜である。また裂孔原性網膜剥離に対しても,初回から硝子体手術を選択する術者も増えている。
 図1は1995年から1999年までの過去5年間に杏林大学医学部附属病院眼科で行われた網膜硝子体手術の内訳である。全部で2,956件の網膜硝子体手術が施行されているが,強膜バックリング(646件,21%)を除いた2,310件が硝子体手術である。
 このうち最も多いのが網膜剥離で27%,次いで糖尿病網膜症が24%となっている。この他には黄斑円孔,黄斑上膜,硝子体出血が多い。以前と比べると,黄斑部疾患の割合が増加し,重症の糖尿病網膜症や増殖性硝子体網膜症(prolifera-tive vitreoretinopathy:PVR)の割合が減少しているようである。
 以下に代表的な疾患に対する硝子体手術の適応を述べる(表1)。

硝子体出血で眼底が透見できない場合の治療方針

著者: 佐藤幸裕

ページ範囲:P.274 - P.276

 はじめに
 突発する視力低下で患者が来院し,硝子体出血で眼底が透見できない場合に,「止血剤を処方しますから,しばらく様子を見ましょう」などと呑気に構えるのは危険である。

加齢黄斑変性の手術治療

著者: 沢美喜 ,   大路正人

ページ範囲:P.277 - P.280

 はじめに
 中心窩外の脈絡膜新生血管に対しては光凝固治療が確立している。一方,加齢黄斑変性や近視で生じる脈絡膜新生血管は,中心窩下に存在することが多く,光凝固を行うと中心暗点を形成するため,光凝固は困難である。そこで,治療方針としては,インターフェロン,放射線照射,光線力学療法(photodynamic therapy:PDT)といった内科的治療,新生血管膜摘出術,中心窩移動術といった外科的治療が考えられる(表1)。

加齢黄斑変性のレーザー治療の適応

著者: 湯沢美都子

ページ範囲:P.281 - P.284

 はじめに
 加齢黄斑変性(age-related macular degenera-tion:AMD)で生じる脈絡膜新生血管(chroidalneovascularization:CNV)は主に網膜色素上皮下に生じ,中心窩を含むことが多く,自然治癒傾向がまずない。AMDに対する光凝固はフルオレセイン蛍光造影(fluorescein angiography:FA),インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreen angiography:IA)のいずれかにCNVあるいはその栄養血管が造影されている場合だけが適応になる。しかしCNVは典型像を示さないことも多く,視機能の観点から適応にならない中心窩CNVもあり,限界がある。

糖尿病黄斑症の病型と治療方針

著者: 小椋祐一郎

ページ範囲:P.285 - P.287

 はじめに
 糖尿病黄斑症は網膜症のいろいろな病期に合併し,糖尿病患者の視力障害の原因として最も頻度が高い。増殖病変の治療はいうまでもなく,黄斑病変の診断,治療がその患者の視力予後を大きく左右する。早期診断,早期治療が重要で,糖尿病患者が受診したら毎回必ず散瞳して,細隙灯顕微鏡下に黄斑部を詳細に観察し,毛細血管瘤,網膜浮腫,硬性白斑の程度を記録することを心がける。

網膜剥離に対する術式選択と治療方針

著者: 竹内忍

ページ範囲:P.288 - P.290

 はじめに
 裂孔原性網膜剥離の手術方法は大きく経強膜手術と硝子体手術に分けられ,裂孔凝固と気体注入のいわゆるpneumatic retinopexyはその中間に位置する。手術法を選択するうえで基本的に考慮する点は,裂孔の大きさ,数,位置,硝子体の液化の程度,後部硝子体剥離および増殖性変化の有無である。これらの点を踏まえながら,本編では裂孔の形態別に手術法を示す(表1)。

強膜バックリングのコツと注意点

著者: 福島伊知郎 ,   松村美代

ページ範囲:P.291 - P.294

 はじめに
 すべての手術についていえることであるが,強膜バックリングを行う上で大切なことは,1つひとつのステップを確実に行うことである。しかし,そのステップのテンポは一定ではない。結膜切開から裂孔の凝固までは小気味よく,強膜通糸から網膜下液の排液までは慎重に,強膜内陥は確実に,そしてスピーディに術野を閉じる。もし,裂孔の凝固が不十分であったり,裂孔がバックル上に正しく乗っていなかったりすると網膜剥離は治らないので,術者は術野を閉じる前に眼底を確認し,必ず治ることを確信して終了しなければならない。そうしないと網膜剥離は絶対治らない。その意味では白内障や緑内障の手術と違って,網膜剥離の手術には“ねばり”が必要といえる。

糖尿病網膜症のレーザー治療

著者: 北野滋彦

ページ範囲:P.295 - P.298

 はじめに
 糖尿病網膜症は,成人における失明の原因疾患としてトップを占めている。1997年の厚生省による糖尿病実態調査は,糖尿病患者数の増加に加えて,糖尿病を強く疑われると判定された人のうち,治療を受けている人は半数以下であったと報告している。この報告から,眼科的治療の適切な時期を逸する糖尿病網膜症患者がいまだ多く存在し,これが糖尿病網膜症による失明の原因となっていることが推測される。それでは,糖尿病網膜症のレーザー治療の適切な時期とは,具体的にどのような時期であろうか。実際には,症例間にかなりのバリエーションが存在し,レーザー治療が適切とされる時期にも幅があると思われる。したがって,レーザー治療を一元的に対処していては,糖尿病網膜症の進展を阻止しえないし,逆に黄斑浮腫を主としたレーザー治療の合併症も生じてしまう。
 本稿では,糖尿病網膜症に対するレーザー治療の実施時期と,その留意すべき点について述べる。なお,硝子体手術を前提とする進行した増殖網膜症や黄斑症に対するレーザー治療については,紙面に限りがあり割愛する。

ぶどう膜疾患の治療

感染性ぶどう膜炎の治療

著者: 坂井潤一

ページ範囲:P.299 - P.301

 感染性ぶどう膜炎の特徴
 感染性ぶどう膜炎の特徴をよく理解した上で,その病態に応じた治療戦略を立てる。今,眼で何が起こっているかを知ることから治療が始まる。

ベーチェット病の治療

著者: 川島秀俊 ,   藤野雄次郎

ページ範囲:P.302 - P.304

 はじめに
 ベーチェット病は,Vogt—小柳—原田病,サルコイドーシスとともに,わが国の三大ぶどう膜炎の一角を占める。昨今,ベーチェット病患者数の減少およびその軽症化がいわれているが,現在でもベーチェット病患者の視力予後は,Vogt—小柳—原田病,サルコイドーシスと比べ,はるかに悪く,ベーチェット病の治療は依然としてぶどう膜炎患者診療において重要な位置を占めている。以下に,われわれの行っているベーチェット病治療を述べる。

原田病の治療

著者: 山木邦比古

ページ範囲:P.305 - P.306

 原田病の治療には的確な診断
 原田病の診断は比較的簡単であると考えられがちであるが,臨床症状・所見だけからでは,ときとして診断に苦慮することがある。また統一された診断基準も確立されていない。しかしながら治療を遅らせることは原田病の治療にとっては重大な支障をきたすことがある。このことから原田病を疑わせる患者に対しては脳脊髄液検査,ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)の遺伝子型などを積極的に調べる必要があると思われる。脳脊髄液検査は必ずしも必要ではないとする考え方もあるが,特段の支障がない限り全例に施行することが望ましい。またHLAの遺伝子型はSRLなどの商業検査機関にても実施しているので,自費ではあるが依頼することができる。
 脳脊髄液の細胞増多は原田病患者の約90%以上に認められ,またHLAの遺伝子型は日本人ではHLA DRB1*0405が原田病患者の90%以上にみられる。したがって臨床症状に加えてこれらの検査所見が陽性であれば,原田病の診断は極めて精度の高いものとなる。

サルコイドーシスの治療

著者: 笹本洋一

ページ範囲:P.307 - P.310

 サルコイドーシスの眼症状
 サルコイドーシスは,非乾酪壊死性の類上皮肉芽腫を全身の諸臓器に形成する疾患である。眼病変は肺病変に次いで出現頻度が高く,サルコイドーシス患者の約60〜70%にみられる。本邦では,厚生省特定疾患「びまん性肺疾患」調査研究班のサルコイドーシス診断の手引きが用いられ,眼症状については,眼サルコイドーシス診断の手引きが参考として使用されている1)
 眼症状には,涙腺腫脹,眼瞼肉芽腫,結膜肉芽腫,顔面神経麻痺,外眼筋麻痺,ぶどう膜炎,視神経肉芽腫などがみられるが,ぶどう膜炎が最も多い2)

交感性眼炎の早期発見と処置

著者: 中村聡

ページ範囲:P.311 - P.313

 はじめに
 交感性眼炎は日常臨床の場で診ることの少ない疾患であるが,その発症機転,治療が遅れた場合の予後を考えると,見落としは許されない。ここでは交感性眼炎の基本をまとめたので,今後の診療と治療の参考にされたい。

神経眼科疾患の治療

視神経炎の治療

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.315 - P.317

 視神経炎の一般的理解
 球後視神経炎と視神経乳頭炎を総称して視神経炎といい,これらは脱髄性疾患で,多発性硬化症と同一スペクトルムにある疾患というのが眼科医の一般的理解と思われる。この「いわゆる視神経炎」は「特発性視神経炎」「脱髄性視神経炎」「急性視神経炎」を指し,比較的若年から中年に好発する疾患ととらえているのである。こういう一般的理解は,書かれてある内容だけをみると,概ね正しいとはいえる。ところが,実際の臨床では,そこからはみだす視神経炎あるいは視神経症が決して少なくない。したがって,治療の話をいきなりし始めると,混乱が生ずるのである。

外眼筋麻痺の治療

著者: 大平明彦

ページ範囲:P.318 - P.321

 はじめに
 眼球運動障害に関連した主訴(複視,頭位異常)で患者が受診した場合,原因疾患により全く対応が異なってくる。ここでは,糖尿病や脳動脈瘤などの他科領域での原因疾患に対する治療や,眼窩内腫瘍・偽腫瘍,眼窩壁骨折,外眼筋炎,甲状腺眼症,眼筋型重症筋無力症,トロッサハント症候群など,眼科独自に必要な治療については別資料に当たっていただき,全般的な話を進める。

虚血性視神経症の治療

著者: 三村治

ページ範囲:P.322 - P.324

 はじめに
 虚血性視神経症(ischemic optic neuropathy:ION)は視神経を栄養する血管の急性循環障害(梗塞)によって生じる視機能障害であり,主に高齢者にみられる。病変部位による分類では,後毛様動脈の循環障害が強膜篩状板近傍に生じて,乳頭が蒼白浮腫を呈する前部虚血性視神経症(AION)と,病変が視神経後部で生じる後部虚血性視神経症(PION)に分けられているが,日常臨床では前者が圧倒的に多く,また後者は診断そのものがつきにくい。
 IONの治療について述べる前に,まずIONそのものを正確に診断する必要がある。鑑別を要する疾患として特に重要なものは,視神経(乳頭)炎,Leber遺伝性視神経症(LHON)の2つである(「ここがポイント」参照)。

緊急処置の実際

急激な視力障害を訴える患者—まず何を考えるか

著者: 安藤伸朗

ページ範囲:P.326 - P.327

 はじめに
 眼科救急外来において,急激な視力低下を訴える患者がきたときにどう診断するかについて考えてみたい。すなわち,視野検査もままならず,利用できるものは視力表,ペンライト,細隙灯顕微鏡と検眼鏡のみという状況で,緊急処置が必要なことが多い。要領よく診断を進めることが求められる。以下,診断について検査手順に沿って述べる。

急激な視野障害を訴える患者—まず何を考えるか

著者: 関谷善文

ページ範囲:P.328 - P.330

 主訴の検討
 急激な視野障害を訴えて眼科を訪れる患者の場合は,まず両眼性であるのか,片眼性であるのかを慎重に判断しなければならない。
 どちらかというと,初診の際の患者自身の訴えとしては片眼性のものの割合が多い。なぜなら,同名半盲や両耳側半盲のような両眼性のものであっても,これをうまく表現できずに,患者は「視野障害」よりも「視力障害」と表現するため,こちらからいろいろと聞き直して,はじめて「視野障害」と判断できる場合が多いからである。

眼痛を訴える患者—まず何を考えるか

著者: 前田利根

ページ範囲:P.331 - P.333

 はじめに
 眼痛を訴えて夜開に受診する救急患者のほとんどは角膜疾患であろう。まず何を考えるかといわれたら,角膜疾患に尽きる。しかし眼痛といってもさまざまである。著しい疼痛が起こるはずの疾病で何ら疼痛を感じない症例もあれば,大した疼痛が生じないはずの疾病で大騒ぎをする症例もいる(「ここがポイント」参照)。
 救急処置を要する眼痛を訴える眼疾とはいかなるものか。見落としてはいけない眼疾とはいかなるものか。代表的なものを表1に列挙した。これら疾患のほとんどの診断は通常の眼科検査で容易である。しかしながらCT・MRIなどの画像診断を要する眼窩内疾患には注意を要する。

角膜潰瘍の穿孔時の処置

著者: 外園千恵

ページ範囲:P.334 - P.337

 はじめに
 角膜潰瘍が穿孔してしまったときは,疾患の診断が不適切であった,あるいは治療が不十分であった可能性がある。まずは穿孔要因を冷静に分析し,その上で治療変更の必要はないか,手術の適応があるか,手術はどのような術式で行うかなどの方針を立てる。穿孔時の処置は単に穴をふさぐものではなく,視力予後を考慮する必要がある。また視機能改善のためには穿孔に伴いやすい合併症を知っておかねばならない。
 本稿では,角膜潰瘍穿孔時の治療戦略について述べてみたい。

角結膜の薬物腐食の緊急処置

著者: 庄司純

ページ範囲:P.338 - P.340

 薬物腐食の診察
 1.薬物腐食の原因検索
 角結膜における薬物腐食は,薬物の種類や濃度により重症度と予後が異なる。酸性物質は,凝固壊死を生じるため組織浸透性は弱いが,アルカリ性物質は融解壊死を生じるため持続的に組織深部へと浸透して重症化しやすく,虹彩炎,併発白内障,緑内障などの合併症を伴いやすい。救急受診時には,原因となった薬剤を同定することが重要である。表1に,日常よく遭遇する原因薬物と角結膜障害について示した。
 原因物質のpHが不明の場合には,涙液のpHを洗眼前にリトマス試験紙またはブロモチモールブルー(B.T.B.)試験紙を用いて測定しておくとよい。涙液pHの正常値は約7.4である。

手術中の駆出性出血の早期発見と対処

著者: 山本禎子

ページ範囲:P.341 - P.343

 はじめに
 近年,白内障手術では,術式と器械・装置の目ざましい発展により創口が小さくてすむようになり,術中の極端な眼圧の変動が少なくなった。このため白内障手術による駆出性出血の頻度は低下した。しかしその反面,後眼部の手術では,ますます疾患の適応が拡大され,大がかりな手技が行われるようになり,一定の頻度で駆出性出血が発生している。
 本稿では,駆出性出血の発生予防,早期発見,その処置について述べたい。

術中・術後の意識障害と血圧変動への対処

著者: 赤澤訓

ページ範囲:P.344 - P.347

 はじめに
 眼科領域では高齢者が手術の対象となることが多く,これらの患者では脳循環障害,糖尿病,高血圧,冠動脈疾患や慢性肺疾患などの基礎疾患を合併している頻度が高い。これらの疾患は,周術期における意識レベルの変調や循環動態の変動に関わる重要な危険因子であることから,術前に可能なかぎり病態の改善を図っておくことが安全な周術期管理につながるといえる。
 本稿では,周術期の意識障害および血圧変動の原因と対策について概説する。

救急処置の実際

術後患者の眼痛,嘔吐,頭痛への対処

著者: 田中住美

ページ範囲:P.348 - P.350

 はじめに
 術後患者の眼痛,嘔気,頭痛の原因で,早期の鑑別診断および対処が必要なものとして,①術後高眼圧,②術後感染,③術後炎症が重要と考えられ,さまざまな成書にその鑑別法や対処法が詳述されているが,実際の症例では症状の出現が非典型的であったり,原因診断に困難をきたすことが少なくない。
 本稿では,実際に経験された症例を掲げ(症例1は他医から相談を受けた複数の症例について代表的な特徴を筆者が要約したもの,症例2は筆者が再手術を施行し,症例3〜5は筆者が実際に経験した症例である),その問題点と対策を考察する。

網膜動脈閉塞症に対する処置

著者: 喜多美穂里

ページ範囲:P.351 - P.352

 治療開始までの時間が視力予後を決定
 網膜動脈閉塞症は眼科における救急疾患の1つで,発症から治療開始までの時間が,視力予後を決定する重要な因子である。
 急激な視力低下,後極部網膜白色混濁,黄斑部cherry red spot,網膜動脈狭細化,顆粒状血流などから診断は難しくない(図1)。診断がつき次第,直ちに処置を開始する。外来で診断までに,いたずらに時間を費やすことのないよう,網膜動脈閉塞症を思わせる訴えの患者が来院した場合は,散瞳を待つことなく眼底検査を施行することはもちろん,パラメディカルにも緊急の処置が必要であることを日ごろから教育しておく。

術後の感染性眼内炎への対処

著者: 堀尾直市

ページ範囲:P.354 - P.356

はじめに
 「白内障術後にしては,いつもより炎症が強いなあ。患者も『見にくくなった』と言っている」
 これが,眼内炎のはじまりかもしれない(図1)。「術中操作に問題はなかったか,患者に炎症を起こしやすい素因(ぶどう膜炎,糖尿病など)はなかったか,縫合不全や外傷は?」などと考えるが,思い当たることがない場合,「もしかして,術後眼内炎?」—この疑いが重要である。

緑内障急性発作に対する処置

著者: 近藤武久

ページ範囲:P.357 - P.360

 はじめに
 緑内障の発作を起こしやすい状態としては,劇場や映画館で長時間暗所にとどまっているときや,また長時間の近業などが続いているときが多いとされている。その他,精神的な感動や感冒薬の服用などもトリガーとなる1,2)
 発作には,急激な大発作から極めて緩慢な小発作まで,いろいろな段階がある。したがって緩慢なタイプでは,あまり自覚症状も強くなくて自然寛解を繰り返して経過しているような例もある。急性の大発作では,自覚症状も激烈であり迅速な処置が求められる3)
 診断は臨床症状と細隙灯観察所見,隅角鏡所見,眼圧値などで診断は確定されるが,発症メカニズムの解析,的確な治療方針の決定には超音波生体顕微鏡検査(ultrasound biomicroscopy:UBM)は欠かせないところである4)

眼球打撲時の検査

著者: 河野眞一郎

ページ範囲:P.361 - P.363

 はじめに
 眼球打撲は眼球および眼球周囲のあらゆる組織にさまざまな損傷をもたらす。治療の必要のない結膜下出血のような軽微なものから,緊急に観血的治療を要する眼球破裂のような重篤なものまで,その損傷は実に多彩である。臨床における最終的な目標は,いうまでもなく最善の治療を行うことにあるが,それは正しい診断という基礎の上に成り立つ。眼球打撲では治療方針の決定は急がれることが多い。過不足のない迅速な検査を行って病態を正しく把握すること,それが的確な治療を行うためには不可欠の条件である。
 眼球打撲時に限らず,検査というものは系統的に進めるのが合理的かつ効果的である。また,重大なものから順に否定していくのが筋道である。そのための前提として,眼球打撲によってどの部位にどのような損傷が起こり得るか,どのような所見を呈するかを知っておくことが必要である。そこでまず,多種多様の障害を部位別に整理しておくことにする(表1)。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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