icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科54巻13号

2000年12月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

超音波生体顕微鏡の臨床応用—UBMの10年間

著者: 栗本康夫

ページ範囲:P.1873 - P.1879

 Pavlinら1)によって超音波生体顕微鏡(ultrasound biomicroscopy:UBM)が発表されてから10年が経過した。この間にUBMの眼科臨床現場への普及・浸透が進み,UBMは眼科診療に不可欠の臨床検査機器として定着した観がある。UBM登場から10年目にあたり,UBMが眼科臨床にもたらしたものと今後の展望について本稿で概観したい。

眼の組織・病理アトラス・170

毛様体平滑筋腫

著者: 吉川洋 ,   堤千佳子 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.1882 - P.1883

 毛様体に発生する腫瘍の1つに平滑筋腫leio-myoma of the ciliary bodyがある。比較的まれな腫瘍であるが,しばしば大型化し,悪性黒色腫との鑑別が問題になる。また,視機能を障害することがある。その意味で,悪性黒色腫に次いで重要な毛様体腫瘍である。
 平滑筋腫は,子宮,消化管,皮膚など全身のさまざまな部位に発生する。眼内では,毛様体や虹彩に発生する。虹彩の平滑筋腫は瞳孔括約筋や瞳孔散大筋に由来する。脈絡膜は血管平滑筋が豊富であるが,平滑筋腫の発生は少ない。したがって,毛様体平滑筋腫は,毛様体に豊富に存在する毛様体筋に由来するとされている。

眼の遺伝病・16

アレスチン遺伝子異常と網膜変性(4)—小口病−3

著者: 和田裕子 ,   中沢満 ,   玉井信

ページ範囲:P.1885 - P.1887

 前回は,小口病と網膜色素変性が同一家族内に発症した症例を述べた。今回は,アレスチン遺伝子1147delA変異を持ち,網膜色素変性と小口病に特徴的な金箔反射を合併した症例,および典型的網膜色素変性の症例について述べる。

眼科手術のテクニック・132

血管性増殖膜に対するen bloc excision

著者: 竹田宗泰

ページ範囲:P.1888 - P.1889

 硝子体手術で牽引性網膜剥離を伴う血管性増殖膜(以下,増殖膜)切除時の困難性は,眼内剪刀を片手(右利きでは右手)だけで操作することにある。特に増殖膜が広範で癒着が強かったり,剥離で網膜が菲薄化しているときは,増殖膜を保持・固定できないと切ろうとしても逃げてしまう。
 解決法として,双手法がある。これは器具のセッティングが複雑で,照明も不十分になりがちで,操作も容易とはいえない。En bloc excisionは硝子体円錐の一部を残し,その牽引を左手の代わりに使用して,増殖膜を固定し,epicenterを切開する1〜3)。

眼科図譜・370

末梢血幹細胞移植後の移植片対宿主病でみられた角結膜病変

著者: 武居予至子 ,   藤田亜希子 ,   土田陽三 ,   松尾俊彦 ,   大月洋

ページ範囲:P.1890 - P.1892

緒言
 近年,白血病の根治的治療法として骨髄移植,なかでも同種骨髄移植または末梢血幹細胞移植が盛んに行われるようになってきた1)。移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)は,その発症時期や主症状により急性GVHDと慢性GVHDとに分けられ,急性GVHDの眼症状としては偽膜性結膜炎が知られている2〜5)。今回筆者らは,白血病に対する末梢血幹細胞移植後にGVHDを発症し,角膜にプラーク付着を認めた症例を経験し,採取したプラークの組織学的検討および核型の解析を行ったので報告する。

他科との連携

大学病院で思うこと

著者: 相原一

ページ範囲:P.1922 - P.1923

 大学病院は広い。最近出来た外来棟はゆったりしていて快適であるし,今度完成する14階建ての病棟も今よりぐっと広そうだ。しかし,広いだけあって,なかなか他の民間病院のように他の科の先生と顔を合わすことが少ない。先日も,廊下で大学の同期に会ったら,「久しぶりだね。いつ戻ったの?」,「去年の春だよ」などといった有様だ。大所帯だと,医局は違うし,人事異動も張り出されないから,いくら同期が多くても役に立たないのである。私は卒後10年経ったし,同期も大学に結構戻っているから,医師も事務も知り合いが多い。頼まれごとが多い分,他科を含め,手術部や検査部門と連携しやすい環境になった。顔を合わせたらまめに挨拶しておくことが,一番大切だと思っている。
 患者Mさんは長野県の農家の人だ。流涙を主訴に近所の眼科に出かけた。左眼軽度眼球突出で,脳神経外科でCTをとってもらい,眼窩から視神経管にかけての腫瘍の疑いで,当院の脳神経外科に紹介された。MRI,血管造影をやってやはり生検してみようということになり,脳神経外科で,クレーンライン法で全身麻酔3時間の手術予定になった。眼窩先端部にも及ぶ病変で,私もちょっと首を突っ込んで画像を見せてもらったら,生検だけなら外直筋をはずすだけで十分腫瘍に手が届くようであった。Mさんはというと自覚症状に乏しいし,「俺の目は昔からこんなだ!」と,周りが大げさになってきたため不安で仕方がない様子であった。

臨床報告

増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術3年後の視力予後

著者: 向野利寛 ,   武末佳子 ,   加藤博彦 ,   有田直子

ページ範囲:P.1901 - P.1904

 増殖糖尿病網膜症の硝子体手術例で,最終手術1か月後と3年後の視力を比較検討した。対象は1991年1月から1995年8月までに福岡大学筑紫病院眼科で初回硝子体手術を受けた増殖糖尿病網膜症例のうち,3年後に視力が測定できた96例120眼で,120眼中4眼は手術不成功であった。術後視力と比べて3年後の視力が2段階以上改善したのは23眼(9.2%),不変は89眼(74.2%),悪化は8眼(6.7%)であった。視力悪化の原因は,眼虚血が2眼,緑内障による視神経萎縮が2眼,白内障の進行が1眼,黄斑変性が1眼であり,残りの2眼は手術不成功後に光覚なしとなった症例であった。手術1か月後の視力が良好な例では3年後も良好な視力を維持する症例が多かったが,増殖糖尿病網膜症に対する硝子体術後の視力は長期にわたり維持されると考えた。

新たに考案した視力検査用視標

著者: 藤井良治

ページ範囲:P.1905 - P.1909

 従来,一般に使われてきた視力検査の視標は,基準視標のランドルト環に限らず,すべて図形としての方向性を有しているため,1つの視力段階の視標のうち,どの視標を選ぶかによって識別上の難易の差が生じ得る。特に乱視の場合はこの傾向が生じやすい。この欠陥を除くため,全く方向性のない視標を新たに考案した。これは,1重の円と2重の円を組み合わせたものを1つの視標とし,2重の円がどこに配置されているかを判別させるものである。774眼について,この視標による視力と,ランドルト環だけによる視力とを比較したところ,両者の間には明確な相関があることが確かめられ,本視標が実用性に富むことを認めた。

結核患者の右眼にみられた虹彩結節の1例

著者: 秋澤尉子 ,   田中明子 ,   高橋哲也 ,   岡本加奈子

ページ範囲:P.1925 - P.1928

 49歳の男性肺結核患者の右眼に,結核治療開始7か月を経てのち,結節性虹彩炎が出現した。初診時は6時および12時部瞳孔縁に小結節が認められた。散瞳後,6時の虹彩裏面からカリフラワー状の多房性結節が前房中に出現した。既往歴から結核性を疑い,前房水を採取し,抗酸菌培養とPCR法にて検索したが陰性であった。すでに抗結核薬の投与を受けていたためステロイド点眼薬と散瞳薬を投与した。4か月後,結節のあった瞳孔縁に虹彩後癒着を残し,治癒となった。眼結核は右眼に多く,右片眼性の結節性虹彩炎は結核の可能性がある。結核は,内服開始後3か月を経過すると菌は検出できない。治療的診断であろうと,投薬前に菌の検査が必要である。

偽円孔所見を呈した黄斑部網膜上膜の手術成績

著者: 土居範仁 ,   上村昭典 ,   中尾久美子 ,   山切由紀子

ページ範囲:P.1931 - P.1934

 偽黄斑円孔所見を呈した特発性黄斑部網膜上膜症例9眼について,膜除去術前後の偽円孔の形態および視力を検討した。術後,9眼中4眼で偽円孔の形態が改善し,7眼で2段階以上の視力改善を得た。偽円孔所見が改善した4眼は,術前視力が比較的良好で,うち3眼においては1.2の術後視力が得られた。一方,偽円孔が不変であった5眼は術前視力が悪いものが多く,術後の視力回復も限られていた。偽円孔を有する網膜上膜に対する手術では,術前の視力が良好な場合には偽円孔所見が改善しやすく,術後視力も良好である。

異なる濃度のマイトマイシンCを用いた線維柱帯切除術の術後成績—マイトマイシンC濃度0.2mg/mlと0.4mg/mlの術後短期成績の比較検討

著者: 川路隆博 ,   宮川真一 ,   根木昭

ページ範囲:P.1935 - P.1938

 手術既往のない緑内障110眼に,マイトマイシンC(MMC)を併用した線維柱帯切除術を行い,6か月後の成績を評価した。症例は原発開放隅角緑内障71眼,水晶体嚢性緑内障24眼,閉塞隅角緑内障15眼である。42眼には濃度0.2mg/ml(低濃度群),68眼には0.4mg/ml(高濃度群)のMMCを用いた。術前平均眼圧は,低濃度群21.4mmHg,高濃度群21.0mmHgであった。術後無治療で眼圧15mmHgを基準とした眼圧生存率は,低濃度群で76.2%,高濃度群で88.2%であり,両群間に有意差はなかった。低眼圧や白内障などの合併症については,両群間に有意差はなかった。以上,MMCを併用した線維柱帯切除術の6か月後の眼圧コントロールと合併症については,0.2mg/mlと0.4mg/mlのMMCの間では差がなかった。

抗lipoarabinomannan-B抗体陽性ぶどう膜炎患者の臨床像

著者: 村中公正 ,   上甲覚 ,   沼賀二郎 ,   藤野雄次郎 ,   並里まさ子 ,   和泉眞蔵

ページ範囲:P.1939 - P.1942

 ぶどう膜炎患者25例に対し,抗酸菌の共通抗原であるipoarabinornannan-Bに対する抗体価をELISA法で測定した。陽性は6例であり,内訳はベーチェット病が1例,サルコイドーシス1例,イールズ病1例,原因不明3例であった。このうち全身的に抗酸菌感染を疑わせる例はイールズ病と原因不明例の計2例であった。抗体陽性例に特徴的なぶどう膜炎の臨床所見はなかった。

カラー臨床報告

眼窩減圧術後の全層角膜移植術により視力が回復した悪性眼球突出症の1例

著者: 柳井亮二 ,   相良絵見 ,   近間泰一郎 ,   田中俊朗 ,   西田輝夫 ,   中村泰久

ページ範囲:P.1893 - P.1897

 53歳女性が半年前に両眼の眼痛と視力低下で受診した。6か月前にGraves病を発症し,内科で加療中であった。矯正視力は右0.05,左0.08であり,両眼に眼球突出があり,閉瞼不能で兎眼性角膜潰瘍があった。眼窩減圧術とMüller筋延長術を行い,8か月後に右0.4,左0.03の矯正視力を得た。左眼の角膜混濁に対して全層角膜移植術と白内障手術を行い,0.5の矯正視力を得た。兎眼性角膜潰瘍を伴う悪性眼球突出症に対して,2段階での眼窩減圧術と全層角膜移植術が奏効した例である。

今月の表紙

輪状暗点とマリオット盲点拡大が認められたAZOORの1例

著者: 石橋一樹

ページ範囲:P.1912 - P.1912

 Acute zonal occult outer retinopathy (AZOOR)は急性発症する視野異常,眼底正常,網膜電位図の異常を特徴とする若年女性に好発する稀な網膜疾患である。Gassにより1つの疾患群として提唱されて以来,近年報告症例数が増加している。
 本症例は24歳の健康な女性で急激な右眼の視野欠損を自覚して近医を受診した。神戸大学医学部附属病院眼科初診時は両眼ともに矯正視力1.0で良好な視力であった。眼底,蛍光眼底造影検査では異常がなかったが,ゴールドマン視野では右眼の輪状暗点,左眼のマリオット盲点拡大が測定された。Visual Evoked Response lmaging System (VERIS)を用いた多局所ERGで測定したところ,視野異常と一致した部位に応答密度の低下が認められ,本症例の視野異常は網膜レベルでの障害であることが推察され,AZOORと診断した。

やさしい目で きびしい目で・12

『門前の小僧のDuke-Elder』

著者: 林みゑ子

ページ範囲:P.1913 - P.1913

 私が駆け出しの研修医のころ,当然ながらまわりのヒトビトは皆偉い方々ばかりに見え,また何をやっても出来ないこと知らないことだらけで,意気消沈の毎日だった。そのようななか,毎週1回のクリニカルカンファレンスで,発表者に対して偉い先生方がよく訊ねることの中に,「で,これについて『デュークエルダー』には何と書いてあった?」という問いかけがあった。これに対して発表者が当然のように,「えー,これこれこういうことが書いてありました」と答えると,「ふむ」ということで,「デュークエルダー」というのは水戸黄門の葵に近いものかと,何もわからない新参者にもそれだけはよくわかった。「デュークエルダー」がご威光のある書物で,とにかくこの本を引いておけばいいんだ,ということはわかったのだった。
 その後,幾星霜,「デュークエルダーとはDuke-Elder著のSystemof Ophthalmologyのことで,全15巻は1958年から1976年にかけて出版されたこと,そしてDuke-Elder自身は1978年に亡くなっており,当時まだ私は医学生で眼科医にもなっていなかった,ことがわかる。眼科医になり数年たって,論文に引用するため,何度かこのSystem of Ophthalmologyを図書館で調べることはあったが,書き馴れぬ論文で頭がいっぱいで,門前の小僧の私は「デュークエルダー」に特に興味を持ちもしなかった。ところが最近とみに,このSystemof Ophthalmologyが素敵にみえる。年を取ったお蔭でしょうか(?),System of Ophthalmologyを手元において,いつか全部読んでみたい,と思っているのだ。なにせ20世紀半ば過ぎに書かれた本であるから,21世紀になろうとする今,疾患概念や治療法は書かれた当時より当然変化しているが,System of Ophthalmologyでおもしろいのは,時代が変わっても変わらぬ項,たとえばGeneral considerationsやHistoryの項で,特に楽しいものがふんだんにちりばめられている挿画が「イカして」いる。挿画は,写真あり絵画ありカリカチュアあり,などなどで,眺めているだけでも,ときに「!」の楽しさである。

リポート

「第1回国際シルクロード病(ベーチェット病)患者の集い」を終えて

著者: 西田朋美 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1917 - P.1921

はじめに
 ベーチェット病とは,国の難病に指定されている疾患であり,眼,皮膚,口腔内,関節,消化器,外陰部など,全身に反復性の炎症,潰瘍をもたらす疾患である。また,その世界的な発症分布をみた場合,いわゆるシルクロード沿いに多く,「シルクロード病」と呼ばれることもある。なかでも,眼の炎症は網膜ぶどう膜炎をきたすことが多く,重症な場合は失明することもあり,眼科領域では名の知られた疾患である。しかし,一般社会ではこの病名や病気の実態はほとんど知られていないのが実状である。
 今回,私どもは世界で初めての試みである「第1回国際シルクロード病(ベーチェット病)患者の集い」を2000年5月19日から22日まで,神奈川県葉山町において開催した。これは現在,厚生省ベーチェット病調査研究班班長を勤める大野重昭が国際ベーチェット病会議に継続して出席し,毎回諸外国から勉強熱心な患者さんが集まってきているのに,どうして交流の機会が与えられていないのだろうという疑問がきっかけで,企画が立ち上がることになった。この企画を通じ,少しでも多くの方々にこの病気のことを正しく理解していただき,さらに国境や地域を超えて,同じ病気で悩む患者さん,患者さんご家族,医療従事者の意見交換,現状報告,これからの展望などに関して大いに語り合うことが目的であった。
 結果として,参加総数316名,参加国数18か国という,初回にしては大盛況のうちに終えることができた。また,集いの報告を韓国ソウルで行われた「第9回国際ベーチェット病会議」で報告させていただいたが,その成果が認められ,2002年6月27日から29日に第10回国際ベーチェット病会議と併せて,第2回国際ベーチェット病患者の集いが開催されることが正式に決定された。

文庫の窓から

トラホーム予防撲滅運動から生まれたトラホームの唱(3)

著者: 中泉行史 ,   中泉行弘 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1944 - P.1946

「トラホーム」豫防治療宣傅鴨緑江節
        奈良市西部トラホーム治療所
1)治療宣傅
 トラホーム,かかれば早く,治療うけよ 目星,パンヌス,アノサカマツゲ,ヨイショ 油断する間に ヨコリャ 重くなるヨ めくらに マタ ならぬように身の要心 チョイチョイ
2)豫防宣傅
 トラホーム,家内にでれば,はや氣を附けよ 手拭,ハンカチ,アノふろの中 ヨイショ 油断する間に ヨコリャ みなうつるヨ うつりゃ マタ めいわく身の要心 治善い治善い

--------------------

臨床眼科 第54巻 総目次・物名索引・人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?