icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科54巻2号

2000年02月発行

雑誌目次

特集 診断と治療の進歩—第53回日本臨床眼科学会シンポジウム

1.オキュラーサーフェスの検査法と考え方

著者: 島﨑潤

ページ範囲:P.117 - P.121

 オキュラーサーフェスの最も重要な役割とは,外界とのバリアーを保ちながら,角膜の透明性を維持することである。そのためには「十分な量の質の良い涙液が,角結膜上皮と接する」ことが必要である。最近のオキュラーサーフェス検査の特徴は,角膜上皮の形態・機能,および涙液の質や分布といった,より臨床像に合致した,細胞レベルの検査を非侵襲的に行うことを可能にした点にある。

2.角膜・結膜疾患治療の進歩—前眼部再建術について

著者: 下村嘉一

ページ範囲:P.122 - P.125

 近年,角膜・結膜疾患に対する治療において,基礎研究および臨床研究の進歩発展には注目すべきものが多いが,本稿ではまず幹細胞疲弊症の概念に言及し,幹細胞疲弊症に対する前眼部再建術,特に羊膜移植,輪部移植,角膜上皮形成術,深層角膜移植について概説する。

3.アレルギー性結膜疾患の診断と治療の進歩

著者: 熊谷直樹

ページ範囲:P.126 - P.129

 アレルギー性結膜疾患はわが国の人口の約20%でみられ,極めて頻度の高い疾患である。アレルギー性結膜疾患は大きく,アレルギー性結膜炎と春季カタルに分類される。アレルギー性結膜炎では自覚的には掻痒感,他覚的には結膜充血や浮腫がみられるが,角膜傷害は伴わず視力予後は良好である。一方,春季カタルでは結膜に巨大乳頭などの増殖性変化を伴う強い炎症反応がみられ,角膜潰瘍・角膜プラークなどの角膜病変を伴う。春季カタルは,今後検討すべき課題の多い疾患である。

総合討論・Ⅰ:アトピーと眼疾患

ページ範囲:P.130 - P.141

 西田輝夫(司会)ただいま島崎先生と下村先生と熊谷先生に,前眼部を中心として新しい診断と治療法の進歩についてお話しいただきました。
 これから,「アトピーと眼疾患」という総合討論を行わせていただきます。

4.緑内障画像診断の進歩

著者: 阿部春樹

ページ範囲:P.142 - P.147

 近年のコンピュータテクノロジーの進歩に伴い,種々の眼科診断検査機器が新たに開発され,それらが臨床応用されることにより,緑内障の診断技術が飛躍的に進歩向上している。特に共焦点走査型レーザー検眼鏡の開発により,眼底に関しても従来の定性的評価に加えて,視神経乳頭や網膜神経線維層の客観的かつ定量的評価が可能となった。本シンポジウムにおける講演では,主として共焦点走査型レーザー検眼鏡の中で,Heidelberg Retina Tomographによる視神経乳頭解析と,Nerve Fiber AnalyzerGDx Glaucoma Scanning Systemによる網膜神経線維層解析に関する最新の進歩について述べた。今後のさらなる進歩によって,視神経乳頭と網膜神経線維層解析が,視野と並んで臨沫的に有用な検査となることを期待したい。

5.緑内障治療の最近の進歩

著者: 山本哲也

ページ範囲:P.148 - P.152

 最近における緑内障治療の進歩について概観した。治療目標眼圧をより低い値に設定するようになったことと,眼圧下降治療の限界が認識されるようになったことが,最近の緑内障治療概念の主たる変化である。こうした低い目標眼圧を達成可能とする薬物や手術が実際に利用可能となってきたことは特記すべき進歩であり,また,眼圧下降治療の限界を打破するために神経保護治療が模索され始めている。

総合討論・Ⅱ:同時手術について

ページ範囲:P.154 - P.163

 根木 昭(司会)阿部春樹先生,山本哲也先生,どうもありがとうございます。緑内障の概念,治療が大きく変わりつつあります。今,山本先生がおっしゃったように,眼圧下降以外の治療,視神経保護という治療がどれほど実現できるかが来世紀に向けての宿題かと思います。
 それでは,総合討論「同時手術について」に移りたいと思います。緑内障と申しますと,白内障手術との同時手術が頻度的には一番多いのですが,白内障手術の技術的な革新によって,以前に増して積極的に行われています。その問題についてはすでに多くの学会で取り上げられ,問題点も一応把握できておりますので,今回の「同時手術について」の討論は,網膜硝子体と緑内障という観点から捉えてみたいと思います。

総合討論・Ⅱ:紙上発言

著者: 阿部春樹 ,   安藤文隆 ,   荻野誠周 ,   栗原秀行 ,   桑山泰明 ,   谷原秀信 ,   山本哲也

ページ範囲:P.164 - P.169

 血管新生緑内障は,前房隅角における新生血管と,線維性血管膜の増殖により隅角が閉塞し,高眼圧を生じるものであり,主として糖尿病網膜症や,網膜中心静脈閉塞症など,網膜に広範な血管閉塞領域が発生する疾患に認められる。一般的に,血管新生緑内障の治療成績は,他の緑内障に比して不良であるため,虹彩や隅角に新生血管を認めたならば,早急な治療が必要である。
 虚血網膜組織より産生されたVEGFをはじめとする血管新生因子は,硝子体腔を経て,網膜のみならず虹彩や隅角の血管新生と,線維性血管膜の発生を誘導する。現在のところ,これらの血管新生の抑制には基本的に光凝固しかないのが現状であり,虚血網膜を間引き,残りの網膜に脈絡膜からの酸素の拡散を促進させて,相対的に網膜の虚血を改善することが重要である。線維性血管膜による虹彩前癒着に伴う隅角閉塞を防ぐには,隅角のルベオーシスが消失するまで徹底的に光凝固を行うことである。

6.形態と機能からみた黄斑部手術の治療評価

著者: 寺崎浩子

ページ範囲:P.170 - P.174

 光干渉断層計(OCT)をはじめとする画像診断の進歩は黄斑部手術の形態面での評価に貢献した。しかしながら解剖学的に元に戻ったようにみえても,しばしば機能的には残存する障害がある。したがって術後視機能の解析を行い後遺症となった病態を知ることにより,さらに今後の手術方法やその他の治療が発展すると考えられる。本講演では特に特発性黄斑円孔と糖尿病黄斑浮腫について,形態の回復の程度と網膜機能の関係をOCTと黄斑部局所網膜電図(FERG)やデンシトメトリーを用いた層別網膜機能検査により分析する。また,内境界膜剥離術は特発性黄斑円孔手術に再びホットな話題を提供しているので,FERGによる解析の結果を述べる。

7.糖尿病網膜症治療の進歩—分子生物学の臨床応用

著者: 池田恒彦

ページ範囲:P.175 - P.179

 近年の,硝子体手術の進歩により,硝子体出血や牽引性網膜剥離を伴う増殖糖尿病網膜症(proliferative diabeticetic retinopathy:PDR)の治療成績が向上している。しかし,なお再増殖,再剥離,血管新生緑内障,視神経萎縮などの術後合併症が後を絶たないのが実情である。手術成績をさらに向上させるためには,PDRの分子レベルでの病態を解明し,治療に役立てる必要がある。本稿では,硝子体手術時に採取した硝子体液および培養ヒトミュラー細胞を使用した細胞増殖因子の研究結果を踏まえ,今後の分子生物学の臨床応用の可能性につき述べる。

8.網膜硝子体疾患診断の進歩

著者: 岸章治

ページ範囲:P.180 - P.186

 この10年で網膜硝子体疾患学は革命的な進歩を遂げた。12年前,われわれは黄斑円孔の発症機序も治療法も知らなかった。この間,黄斑前硝子体の構造が解明され,黄斑円孔の原因治療ができるようになった。この経験に基づいて糖尿病黄斑浮腫を始めとする網膜硝子体界面病変の治療が実現した。光干渉断層計は眼底病変の組織構造を非侵襲的に観察することを可能にし,病態の理解に大きく貢献した。眼底の循環動態も走査レーザー検眼鏡を用いれば動的に観察できるようになった。インドシアニングリーン赤外蛍光造影は脈絡膜血管の観察を可能にし,これにより血管造影の新しい分野が開拓された。錐体磯能は多局所網膜電図により測定できるようになり,光干渉断層計を併用すれば,組織所見との対応を知ることができる。超音波生体顕微鏡によりさまざまな疾患での毛様体の変化が解明された。今後,分子生物学の臨床応用が期待される。

総合討論・Ⅲ:網膜硝子体手術について

ページ範囲:P.188 - P.191

 三宅養三(司会)この10年,20年の診断・治療の進歩についていろいろな角度からお話をしていただきました。網膜の硝子体手術をみましても,なぜ硝子体手術が効果があるのかなどまだ判明していない疾患もあり,今いろいろな角度から詰めているわけです。これだけ臨床試験が出てまいりましても,はっきり決着がついてない疾患が結構あると思います。それを全部やっている時間もございませんので,そのうちの1つ,ぶどう膜炎の手術的な治療といいますか,硝子体手術に関しまして少しディスカッションしたいと思います。
 岸先生,まずお願いいたします。

9.ぶどう膜炎の治療における現状と進歩

著者: 後藤浩

ページ範囲:P.193 - P.199

 ぶどう膜炎の治療は,多くの基礎データに裏付けられた病態の理解や発症機序の解明とともに進歩を遂げてきた。しかし,内因性ぶどう膜炎の治療については,その副作用を懸念しつつも副腎皮質ステロイド薬を中心とした非特異的な消炎療法がいまだに中核をなしているのが現状である。ベーチェット病に対する免疫抑制薬の応用は難治症例の視機能の予後を向上させたが,無効例もあり,重篤な副作用の問題も解決されていない。今後,内因性ぶどう膜炎の治療は効果的なdrug delivery systemの開発とともに,抗サイトカイン療法や新たな免疫抑制薬の応用が進められ,器質的,機能的障害を有する続発症に対しては,外科的治療法の適応がさらに拡大されていくことであろう。

10.内因性ぶどう膜炎の診断と新しい治療

著者: 中村聡

ページ範囲:P.201 - P.205

 ぶどう膜炎の発症機序と,診断と治療に重要な免疫学的特異性について,われわれの施設で出した最近の知見をまとめた。
 ぶどう膜炎の疾患感受性遺伝子:ベーチェット病についてはHLA-Bローカス近傍のMICA遺伝子の関与も考えられるが,現時点ではHLA-B51が最右翼に属する。他にも原田病の疾患感受性遺伝子として一義的に関わっているのはHLA-DR4であること,サルコイドーシスについてはDRB1遺伝子の第1超可変部領域の11番目のセリンであること,HLA-B27関連ぶどう膜炎についてはMICAのマイクロサテライトの多型性の偏倚(A4)が存在することなどが明らかになっている。

総合討論・Ⅳ:ステロイドの使い方

ページ範囲:P.208 - P.219

 望月 學(司会)それでは,総合討論に移ります。
 ただいま,お2人の先生から,ぶどう膜炎の治療ということで,お話を伺いましたけれども,その中でもありましたように,副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)がやはり治療の中心であることは間違いございません。ステロイドは抗生物質とともに,おそらく今世紀の薬物治療の中で,医療への貢献の一番大きい薬剤ではないかと思います。近々21世紀を迎えるにあたり,この日常診療でよく使われておりますステロイドを,もう一度見つめ直すということは時宜を得たことではないかと考える次第です。

総合討論・Ⅳ:紙上発言

著者: 阿部春樹 ,   島﨑潤

ページ範囲:P.220 - P.221

 ステロイド起因性緑内障(steroid-induced glaucoma)とは,副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)の全身投与または眼局所投与によって高眼圧が誘発され,それに伴って視神経障害と視機能障害が惹起された病態である。
 Steroid responder,すなわちステロイドに感受性を有する患者の眼圧上昇は一過性で,投与を中止すると眼圧は正常となるが,長期間ステロイドを使用した症例では,不可逆性の眼圧上昇をきたして緑内障性視神経障害を生ずることがあり,その結果として視力障害や視野障害をはじめとする視機能障害が発生する。

総合討論・Ⅴ:糖尿病眼合併症の現在と未来

ページ範囲:P.223 - P.227

 三宅養三(司会)朝9時からたくさんの方にいらしていただきまして,感激しております。最後のセッションは少し短くいたしますけれど,このシンポジウムを初めから熱心にリードされました西田教授に,代表してお話しいただきたいと思います。今回のシンポジウムの目的は,前眼部から後眼部までを総合的に関連づけてディスカッションするということでしたので,「角膜から糖尿病網膜症を見る」という面白い題です。そして,その後の時間を総合討論に当てたいと思います。
 西田先生,お願いいたします。

今月の表紙

緑膿菌性角膜潰瘍

著者: 大野重昭 ,   和田浩卓

ページ範囲:P.113 - P.113

 周辺部の角膜潰瘍は免疫反応によって起こることが多いのに対し,中央付近の潰瘍は感染性が多い。この症例は58歳の男性で,左眼の異物感,視力低下を主訴に受診した。左眼の著明な毛様充血,中央から耳側にかけての広範な角膜潰瘍,輪状膿瘍,前房蓄膿がみられた。潰瘍周辺の進行縁を擦過したところ,多数の好中球とともに緑膿菌が検出された。抗生物質の局所,全身治療により,潰瘍は徐々に消失しつつある。
 患者は皮膚の基底細胞癌に罹患しており,免疫能の低下があった。

やさしい目で きびしい目で・2

『近視手術40年後の悲劇』

著者: 久保田伸枝

ページ範囲:P.229 - P.229

 先頃,身体障害者手帳の視覚障害1級の診断書を書いた。63歳の男性で,21歳の頃,両眼に近視の手術を受けている。61歳までは,乱視の眼鏡は装用していたが,普通に見えていたとのことである。
 その後,角膜障害のため,この2年間で,視力は,両眼とも手動まで低下し,角膜移植も困難な状態であった。近視手術が,術後40年を経て,なおこのような合併症に怯えなければならないことは,当時は,想像だにしなかったことと思う。近視の手術は,術式こそ違え,本邦では過去の歴史から消極的な眼科医が多い反面,一方では,多数の症例に行われていることも事実である。

連載 眼の組織・病理アトラス・160

第一次硝子体過形成遺残

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.234 - P.235

 第一次硝子体過形成遺残persistent hyperplasticprimary vitreous (PHPV)は1955年にReeseによって命名された稀な眼先天異常である。その病因は不明であるが,胎生7〜8か月で退縮する硝子体動脈と第一次硝子体が,退縮しないで残存したために起こる。本症は水晶体後面に線維血管組織が形成される前部型anterior PHPVと,視神経乳頭から線維血管組織が索状に硝子体の前部に向かって伸びている後部型posterior PHPVに分けられる。両方の病変が同時に起こっている例も多い(図1)。かって鎌状網膜剥離 falciform retinal detachmentと呼ばれた疾患は,後部第一次硝子体やBergmeis-ter乳頭の過形成による索状増殖組織が網膜や乳頭を牽引したものであり,posterior PHPVに属する。
 PHPVの臨床症状は,多くは片眼性の小眼球で,白色瞳孔,白内障,長い毛様突起,眼底では視神経乳頭から伸びる索状の線維性増殖組織などである。水晶体後面のMittendorf dotや後部円錐水晶体posterior lenticonusはanterior PHPVに属し,硝子体動脈遺残persistent hyaloid arteryはposteriorPHPVの範疇に入る。Anterior PHPVは臨床的には白色瞳孔を示した場合には,未熟児網膜症や網膜芽細胞腫との鑑別が必要である。

眼の遺伝病・6

ペリフェリン/RDS遺伝子異常による網膜色素変性(1)—Asn244Lys変異と常染色体優性網膜色素変性

著者: 玉井信 ,   和田裕子 ,   中沢満

ページ範囲:P.236 - P.238

 今回の症例は,ペリフェリン/RDS遺伝子のコドン244に変異が生じ,常染色体優性網膜色素変性となったものである。コドン244のAACのCがAに変異しAAAとなったため,アスパラギン(Asn)からリジン(Lys)に代わったものである。ペリフェリン/RDS遺伝子は第6染色体短腕に存在し,視細胞の錐体と桿体外節に共通に発現し,その蛋白質は視細胞外節の円盤膜にある(ペリフェリン/RDSについては次回IV−2-2を参照されたい)1〜4)

眼科図譜・368

混合性結合組織病患者にみられた角膜穿孔の1例

著者: 田中恵子 ,   松尾俊彦 ,   永山幹夫 ,   大月洋 ,   井上康 ,   小郷卓司

ページ範囲:P.239 - P.241

 緒言
 混合性結合組織病(mixed connective tissuedisease:MCTD)は膠原病の1つで,全身性エリテマトーデス(SLE),進行性全身性硬化症,多発性筋炎の臨床症状を部分的に併せ持つ疾患である。その診断は,血清学的にSLEに特異的な抗Sm (Smith)抗体や抗2本鎖DNA抗体を持たず,抗RNP(ribonucleoprotein)抗体のみが単独高値を示すことで確定する。臨床症状はレイノー現象,ソーセージ様手指,関節痛,皮膚の硬化,肺高血圧症などがみられる。
 膠原病に合併する角膜潰瘍は,通常角膜周辺に深い潰瘍を形成することが多い1,2)。また角膜潰瘍を伴う膠原病としては慢性関節リウマチ,Wegener肉芽腫においての報告が多く,MCTDに合併した報告はほとんどない3)。今回筆者らは,MCTD患者に角膜中央部の潰瘍を認め角膜融解を発症し,急速に穿孔にまで至った症例を経験したので報告する。

眼科手術のテクニック・122

網膜剥離における周辺硝子体処理(1)

著者: 石郷岡均

ページ範囲:P.242 - P.243

 裂孔原性網膜剥離に対する硝子体手術において,網膜復位を確実に得るために必要な周辺硝子体処理のポイントとして,(1)完全後部硝予体剥離(以下,PVD)作製・拡大,(2)裂孔部の硝子体牽引の完全除去,(3)剥離部周辺硝子体の切除,(4)ポート部硝子体処理,(5)格子状変性部の硝子体牽引切除があげられる。以下に各ポイントにおける実際の手術操作上でのコツあるいは注意点を示す。

他科との連携

1枚のFAXから

著者: 菅原岳史

ページ範囲:P.244 - P.245

 同じ病院の中でも…
 以前,外来で患者さんから内科の先生の話をされた時,紹介状を通して名前は知っているものの,人柄はもちろん,顔もわからなくて困ったことがあった。
 糖尿病の治療の1つに,患者の教育や啓蒙の重要性は以前から盛んに言われてきたが,その前に,糖尿病医療スタッフ間の仲間意識が必要であろう。糖尿病専門の各科の医師が,それぞれの名前と顔が一致しないのは,とんでもないことなのだ。

臨床報告

前嚢連続環状切開後にみられたdouble-ring sign

著者: 新城光宏 ,   森根百代 ,   桐山通隆 ,   酒井美也子

ページ範囲:P.251 - P.254

 過去7か月間の前嚢連続環状切開による白内障手術後に,いわゆるdouble-ring signが16眼に生じた。これによる術後成績には悪影響はなかった。すべて高齢者であり,平均年齢は74.9歳であった。これが生じる症例では前嚢に裂隙形成があり,高齢者では前嚢の不均質化があるとされている。Double-ring signは前嚢の分層剥離によって生じるとされ,水晶体嚢真性落屑の前段階であると考えられる。これが白内障手術後に生じる頻度が大きいことから,水晶体嚢真性落屑の保因者がかなり存在することが推定される。

滑車神経麻痺様症状を呈した遅発型重症筋無力症の2例

著者: 野中文貴 ,   河野玲華 ,   大月洋

ページ範囲:P.255 - P.259

 今回筆者らは滑車神経麻痺と診断し,斜視手術を施行した後に重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)が判明した2症例を経験した。2名とも(77歳と40歳の女性)当科受診以前より数年間,垂直方向の両眼性複視を自覚していた。上斜筋麻痺と判定するため,9方向むき眼位におけるプリズム交代遮蔽試験やHess赤緑試験Parks 3-step test,赤色ガラスを用いたHarms正切スクリーンテストによる回旋偏位の定量を行った。術後,両症例ともに麻痺眼における眼瞼下垂と垂直偏位が再発した。その後テンシロンテストを含めた神経眼科的精査により,遅発型MGと診断されるに至った。外眼筋麻痺が単一あるいは複数の外眼筋にみられる場合,単一外眼筋麻痺と誤診されやすいが,MGをも鑑別に挙げるべきと考える。

涙道閉塞に対するヌンチャク型涙管シリコンチューブ挿入—(第2報)留置中および抜去時の合併症

著者: 寺西千尋

ページ範囲:P.261 - P.264

 ヌンチャク型シリコンチューブを挿入した涙道閉塞61例62側において,留置中および抜去時に発生した12例13側(21%)の合併症につき,まとめた。
 最多はcheese wirlngの4例5側(8.1%)であったが,予後に影響はなかった。注意すべきは,抜去困難(3例3側,4.8%)と蜂窩織炎(1例1側,1.6%)であった。抜去困難は涙点切開で抜去できたが,涙小管閉塞で発生しやすい。涙嚢炎では,蜂窩織炎防止のため,涙嚢洗浄や抗菌薬などの前処置を十分に施すべきである。これらの合併症は本チューブを否定するものではないが異物であることと,涙道を非直視下に操作することを常に注意すべきであろう。

レーザースペックル法により血流動態が確認できたAIONの1例

著者: 橋本雅人 ,   田川博 ,   大塚賢二

ページ範囲:P.265 - P.268

 78歳の女性に左眼耳側の視朦が突発した。矯正視力は両眼とも1.0であり,左眼に比較的求心性瞳孔障害(RAPD)があった。左眼に乳頭面の鼻側と乳頭の鼻側網膜に蒼白浮腫があり,蛍光眼底造影で乳頭鼻側の脈絡膜に流入遅延があった。前部虚血性視神経症(AION)と診断した。レーザースペックル検査で蒼白浮腫のある部位に血流量の低下があり,経過とともに改善した。レーザースペックル検査は,AIONの診断と経過観察に有用であった。

脳動脈瘤クリッピング手術後に網膜循環不全をきたした3例

著者: 山本明彦 ,   富田直樹

ページ範囲:P.271 - P.274

 くも膜下出血が,47歳男性,53歳女性,43歳男性に発症した。脳血管造影で眼動脈起始部の近くに動脈瘤が発見され,緊急クリッピング手術が行われた。全例に同側の眼瞼浮腫と患側の視力障害が術後に生じた。それぞれ術後3週,3か月,1週に眼科を受診した。患眼の矯正視力はそれぞれ指数弁,手動弁,手動弁であった。2例では乳頭が蒼白で網膜動脈が狭細化し,網脈絡膜萎縮の所見を呈した。第3例では初診時には眼底が正常であったが,2週後に同様の所見が生じ,眼球運動制限が起こった。クリッピング手術後の視力障害の原因として知られている術中の眼動脈,視神経,眼窩先端部への圧迫はなく,発症原因は特定できなかった。

カラー臨床報告

両眼に網膜色素上皮裂孔を伴った多発性後極部網膜色素上皮症の1例

著者: 平井香織 ,   杉本敬 ,   永堀通男 ,   気賀沢一輝 ,   尾羽沢大

ページ範囲:P.246 - P.250

 ネフローゼ症候群に対しプレドニゾロンの全身投与を受けている67歳男性の両眼に,急激な視力低下が生じた。両眼に滲出性網膜剥離,多発性網膜色素上皮裂孔があり,蛍光眼底造影で蛍光色素の漏出と貯留,網膜色素上皮裂孔に一致した過蛍光があった。多発性網膜色素上皮症multiple posteriorpigment epitheliopathy (MPPE)と診断した。蛍光色素の漏出点と網膜色素上皮裂孔に対してレーザー光凝固を行い,網膜下液の吸収と消失,蛍光色素漏出の停止が得られた。自然寛解の傾向がない本症に対して光凝固術が有効であることを示す症例である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?