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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科54巻4号

2000年04月発行

雑誌目次

特集 第53回日本臨床眼科学会講演集(2) 学会原著

加齢黄斑変性に対する放射線治療の効果に影響を与える因子についての検討

著者: 万代道子 ,   高橋政代 ,   松村美代 ,   笹井啓資 ,   小椋祐一郎 ,   本田孔士

ページ範囲:P.509 - P.513

(R-7AM-4) 加齢黄斑変性31眼30例に対して1回2Gy,総計20Gyの放射線照射を行った。1年後の評価で,21眼(68%)でスコア化した病巣の眼底像と蛍光像が改善し,Log視力は2割で改善し,5割で維持された。視力改善率は治療前の滲出斑の量が多いほど有意に良かった(p<0.01)。血管板の型(クラシック主体,オカルト主体,オカルトのみ),血管板の大きさ,網膜下液の量,網膜出血の有無は,視力改善率とは相関しなかった。

Low Vision Evaluator(LoVE)による網膜色素変性の視機能評価

著者: 山田翼 ,   中川陽一 ,   和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.516 - P.520

(G-7AM-5) 筆者らが開発した光覚測定装置Low Vision Evaluatorで,網膜色素変性症3例での光認知能を検索した。従来の検査法では評価が困難な重症例でも,簡便に視機能の評価が可能であった。Lipo-prostaglandin E1(Lipo-PGE1)の全身投与で,自覚的視機能が改善した2症例で,本装置による視機能評価を行った。背景光のある条件では応答に変化がなかったが,背景光のない条件では投与直後に応答が増加した。この結果から,Lipo-PGE1が主に杆体に作用していると推定された。

糖尿病黄斑症に対して内境界膜除去は必要か

著者: 田中稔 ,   邱彗 ,   竹林宏 ,   清川正敏 ,   小林康彦 ,   土方聡 ,   林真

ページ範囲:P.521 - P.524

(R2-7PM-5) 増殖糖尿病網膜症,虹彩ルベオーシス,硝子体出血,び漫性黄斑浮腫のある49歳男性の左眼に硝子体手術を行った。後部硝子体剥離を作製し,内境界膜は除去しなかった。び漫性黄斑浮腫は消失し,視力は手動弁から0.01に改善した。同様な網膜症のある右眼には手術を行わなかった。1年後に全身状態が悪化して死亡した。摘出した右眼(非手術眼)では,電子顕微鏡による検索で,内境界膜とミューラー細胞が浮腫状を呈し,硝子体側に肥厚した膜があった。左眼(手術眼)では,内境界膜の肥厚と多数の円形の空胞があり,ミューラー細胞に浮腫はなく,網膜内層の浮腫も右眼よりもはるかに軽度であった。内境界膜を切除しなかった左眼に網膜浮腫の改善があったことと,浮腫状に肥厚した内境界膜の切除が実現困難であることから,糖尿病黄斑症での内境界膜の除去は必ずしも必要でないと結論される。

小児に対する眼内レンズ挿入術後の術後成績

著者: 西山隆恒 ,   黒坂大次郎 ,   中村邦彦 ,   根岸一乃 ,   加藤克彦

ページ範囲:P.525 - P.529

(P-1-52) 新術式による眼内レンズ挿入術を,小児5例6眼に行った。手術時の年齢は4歳8か月から8歳10か月,平均6歳1か月であり,術後の観察期間は6か月から3年9か月,平均17.5か月である。まず前嚢切開と水晶体吸引ののち後嚢切開と前部硝子体切除を行い,嚢内に挿入した眼内レンズの光学部を後嚢切開窓から硝子体側に脱臼させ,Optic captureを行った。術中,術後に問題になる合併症はなく,後発白内障は軽度であり,視力は全例で改善した。角膜内皮細胞の減少率は2.9%であった。屈折は,経過観察期間内に平均0.69Dの近視化があった。本術式は,眼軸長が安定する2歳6か月以降の白内障や後部円錐水晶体に対する,安全で有用な手技であると評価される。

宮田眼科病院における後房レンズ毛様溝縫着術の術後成績

著者: 大谷伸一郎 ,   宮田和典 ,   小野恭子 ,   高橋哲也 ,   坂ノ下和弘 ,   中原正彰

ページ範囲:P.531 - P.535

(R1-7AM-15) 後房レンズ毛様溝縫着術を行った110例110眼の術後成績を検討した。このうち1次挿入眼は73眼(1次挿入群),2次挿入眼は37眼(2次挿入群)であった。裸眼視力は両群ともにほとんどの症例で改善した。眼圧は1次挿入群で一時的な上昇を認めた。術後12か月での角膜内皮細胞数減少率は,1次挿入群,2次挿入群それぞれ14,4±12.6%,15.4±12.1%であった。術後合併症として前房・硝子体出血,眼内レンズの偏位・傾斜,網膜剥離などを認めたが,両群間の発症率に有意差はなかった。当術式は視力改善手段として有用であるが術後合併症は少なくなく,慎重な経過観察が大切である。

春季カタル患者の結膜擦過物中サイトカイン産生細胞の解析とその治療前後の比較

著者: 松浦範子 ,   内尾英一 ,   中沢正年 ,   松本覚 ,   高増哲也 ,   南陸彦 ,   大野重昭

ページ範囲:P.537 - P.541

(R1-7PM-3) さまざまな疾患において,ヘルパーT細胞Thにおけるサイトカイン産生の比率(丁h1/Th2比)が免疫制御に重要であるといわれている。筆者らは,フローサイトメーターを用いて春季カタル患者3症例の結膜から採取されたT細胞における結膜インターフェロン(lFN)-y産生T細胞/インターロイキン(lL)-4産生T細胞比を求め,治療前後における変化を検討した。3症例ともにステロイド点眼または内服後に結膜正FN-y産生T細胞/lL-4産生T細胞比の増加がみられた。これより,結膜正FN-y産生T細胞/lL-4産生T細胞比は春季カタルの重症度に相関していることが示唆された。

難治性アカントアメーバ角膜炎の病態からの診断,治療

著者: 山田利津子 ,   上野聰樹 ,   南早紀子 ,   渡辺達磨 ,   宮本豊一 ,   原沢功 ,   藤田紘一郎 ,   ,   月舘説子 ,   山田誠一

ページ範囲:P.543 - P.547

(R1-8AM-8) 両眼性アカントアメーバ角膜炎6例を経験した。全員が女性で,ソフトコンタクトレンズ装用者であった。角膜擦過標本またはその培養から,Acanthamoeba(ll群)の嚢子または栄養型が全例で検出された。角膜掻爬,ミコナゾール点眼,シソマイシン点眼,チニダゾール内服を行い,全例で視力が改善した。4匹の有色家兎の角膜実質内に嚢子懸濁液を接種して実験的アカントアメーバ角膜炎を作成した。組織学的に,角膜,結膜,毛様体,硝子体内に炎症性細胞と栄養型アメーバが検出され,栄養型原虫が角膜以外の組織にも侵入している所見が得られた。これがアカントアメーバ角膜炎が遷延し,局所治療に抵抗する原因の1つであると解釈された。本症には,早期発見と適切な薬物の全身投与が重要であると結論される。

小切開白内障手術後隅角色素散乱

著者: 松島博之 ,   泉雅子 ,   吉田紳一郎 ,   千葉桂三 ,   鈴木重成 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.549 - P.552

(R1-8PM-16) 術後炎症管理のために隅角への侵襲の程度を色素散乱(pigment dispersion)を指標に検討した。獨協医科大学附属病院眼科において小切開白内障手術を行った63症例86眼を対象に,術前,術後に隅角を観察し,Scheie分類でその程度を判定した。術後に隅角部色素に変化のみられなかった無変化群48眼,増加した増加群38眼についてその発生要因を検討し,眼圧,角膜内皮細胞数フレア値の変化を解析した。
 その結果,隅角色素散乱の要因として,手術時間,眼内レンズの種類,糖尿病,術前の隅角部色素沈着の存在が考えられた。術後に色素沈着が増加した群では,フレア値が観察期間を通して統計学的に有意に増加していた。以上より,術後に隅角色素散乱を増加させる要因が存在する場合は,消炎を主体とした管理が必要である。

前房蓄膿を伴うぶどう膜炎に関する検討

著者: 合田千穂 ,   小竹聡 ,   笹本洋一 ,   有賀俊英

ページ範囲:P.553 - P.556

(R1-9AM-11) 1991年から1998年に当科を受診した前房蓄膿を伴うぶどう膜炎患者94例115眼の,原疾患と臨床像につき検討した。ぶどう膜炎の原疾患はベーチェット病が最も多く(55例72眼),次いでHLA-B27関連ぶどう膜炎(15例17眼)であった。疾患ごとの出現頻度は,HLA-B27関連ぶどう膜炎が50%,真菌性眼内炎が38%,ベーチェット病が23%であった。同時に出現した眼所見では虹彩後癒着が59%と最も多く,次いで線維素の析出(30%)であった。治療は全例,ステロイド薬の点眼と散瞳薬が使用されていた。ベーチェット病など眼底病変を伴う疾患の他は視力予後は良好であった。

放射線療法が奏効した転移性脈絡膜腫瘍のインドシアニングリーン蛍光眼底造影所見

著者: 片山俊江 ,   大橋千尋 ,   小澤勝子

ページ範囲:P.557 - P.561

(R1-9AM-12) 53歳の女性が左眼の霧視で受診した。42か月前に両側の乳癌手術を受け,6か月前に胸膜転移が発症した。右眼に6乳頭径大,左眼に4乳頭径大の黄白色隆起性腫瘤があり,いずれにも漿液性網膜剥離が併発していた右眼ではこの他に2乳頭径大の腫瘤を2か所認めた。乳癌の脈絡膜転移と診断した。総線量40Gyの放射線照射後,腫瘍は平坦化し,網膜剥離は消失した。照射終了9日後のフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では,造影初期にあった腫瘍部の低蛍光領域が減少し,後期の色素漏出はほぼ消失した。照射終了1か月後のインドシアニングリーン蛍光眼底造影(lA)では,治療前に腫瘍でブロックされていた脈絡膜血管が造影初期から観察され,治療前の造影後期にあった腫瘍の辺縁部の輪状過蛍光が消失した。FAは網膜色素上皮の障害と修復,lAは治療後の腫瘍の消失と脈絡膜の血流改善を知るのに有用であることを示す所見である。

黄斑円孔に対する硝子体手術後の空気灌流装置別の視野欠損発生率

著者: 石郷岡均 ,   馬渡祐記 ,   小川邦子 ,   橋本雅 ,   荻野誠周 ,   蓮村直 ,   平田憲 ,   根木昭 ,   秋田穣 ,   寺内博夫 ,   出水誠二 ,   栗原秀行 ,   渥美一成 ,   松村美代

ページ範囲:P.563 - P.567

(R2-7AM-8) 黄斑円孔に対して硝子体手術を7施設で行い,円孔閉鎖が得られた270眼を評価した。硝子体灌流装置として,GFX (Alcon),アキュラス(Alcon),またはVT-5000(ニデック)のいずれかを用いた。術後に視野欠損が37眼(13.7%)に生じ,その発生率には施設間で最大4倍の違いがあった。発生率は,18.3%(GFX)14.5%(アキュラス),10.0%(VT-5000)であった。灌流空気の加湿の有無は発生率と無関係であった(p<0.1)。灌流圧50mmHgでは,30mmHgよりも発生率が有意に高かった(p<0.05)。黄斑円孔に対する硝子体手術では,空気灌流圧を30mmHg以下に保つことが視野欠損を予防するために望ましいが,GFXではこれが困難な可能性が推測された。

視力予後が良好であった糖尿病黄斑浮腫の検討

著者: 西垣士郎 ,   恒川卓子 ,   玉置晋 ,   岩城正佳

ページ範囲:P.569 - P.572

(R2-7PM-7) 過去2年間に硝子体手術を行った糖尿病黄斑浮腫55例78眼を検索した。男性32例46眼,女性23例32眼であり,年齢は32歳から79歳,平均57.4歳であった。全例に汎網膜光凝固が行われており,手術時に後部硝子体剥離はなかった。術後6か月以上の経過観察で29眼(37.2%)が0.7以上の視力であった。これら29眼は,最終視力が0.7未満の49眼よりも,術前の視力が有意に良好であり(p<0.001),硬性白斑もより軽度であった。良好な術後視力を得るためには,浮腫発生後に早期硝子体手術が必要であることが結論される。

一般住民における糖尿病網膜症の有病率の調査:久山町研究

著者: 田原義久 ,   高田陽介 ,   藤澤公彦 ,   石橋達朗 ,   猪俣孟 ,   清原裕 ,   藤島正敏

ページ範囲:P.573 - P.575

(R2-8AM-15) 九州大学医学部第二内科により,1961年から福岡県糟屋郡久山町の40歳以上の住民を対象とする健康診断が継続して行われている。1998年の糖尿病網膜症の有病率を調査した。4,187人の40歳以上の住民中,1,785人(42.6%)が散瞳下での倒像眼底検査と眼底撮影を受けた。糖尿病は291人(163%)にあり,うち46人(15.8%)に網膜症があった。糖尿病者の網膜症発症率は,40歳台では5.7%,60歳以上では21.7%であった。

ベーチェット病の併発白内障に対する超音波乳化吸引術

著者: 田中孝男 ,   箕田宏 ,   毛塚剛司 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.577 - P.580

(D-7AM-8) ベーチェット病の併発白内障に対して,超音波乳化吸引術(PEA)と後房眼内レンズの挿入術を施行し,合併症や術後の眼炎症発作回数などの問題を検討した。対象はベーチェット病9例14眼,対照群は肉芽腫性ぶどう膜炎の症例8例13眼とした。ベーチェット病群に術中合併症はみられなかったが,対照群では2眼にみられた。術後視力はベーチェット病群で0.8,対照群で0.7であった。ベーチェット病群で眼圧は,術後1日目に平均24mmHgへ上昇し,対照群の術後1日目の平均値は16.9mmHgであった。前房フレア値は,ベーチェット病群で術後3日目に39pc/msecまで上昇し,対照群は術中合併症のため,術後1日目に52pc/msecまで上昇した。術後眼炎症発作回数は,ベーチェット病で1眼当たり平均1.9回みられた。ベーチェット病にPEA+PCIOLを施行する場合,術後の眼圧上昇と眼炎症発作に対する治療が必要であった。

眼トキソカラ症の治療と視力予後

著者: 横井克俊 ,   後藤浩 ,   坂井潤一 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.581 - P.585

(D-7AM-13) 過去11年間の眼トキソカラ症36例の治療内容と視力予後について検討した。全例が片眼性であり,後極部肉芽腫型が13例(37%),周辺部腫瘤型が23例(63%)であった。無投薬またはステロイド薬の局所投与が15例,ステロイド薬のみの全身投与が9例,ステロイド薬と駆虫薬の併用が12例であり,硝子体手術を15例に行った。最終視力は1.0以上が18例(50%),0.1以下が5例(14%)であった。治療法による視力転帰には有意差はなかった。視力予後が不良であった主因は,黄斑前膜,黄斑変性,視神経萎縮であった。本症の視力予後は概して良好であること,網膜または硝子体の合併症に対しては硝子体手術が必要であることが結論される。

線維柱帯切除術後の角膜不正乱視のフーリエ解析

著者: 前野亜矢 ,   林研 ,   大鹿哲郎 ,   林英之 ,   林文彦

ページ範囲:P.587 - P.590

(D-8AM-7) 目的:線維柱帯切除術後の角膜不正乱視の解析。
 症例と方法:同一術者により初回の線維柱帯切除術を受けた40例40眼を対象とした。原発開放隅角緑内障20眼,落屑緑内障17眼,原発閉塞隅角緑内障3眼であり,有水晶体眼18眼,偽水晶体眼19眼,無水晶体眼3眼である。術後1年まで,角膜中央3mm領域の形状をTMS-1で検査し,屈折力をフーリエ解析して,球面度数,2次正乱視,1次非対称乱視高次不正乱視の各成分を算出した。
 結果:角膜の球面度数成分と2次正乱視成分は,観察期間を通じて変化しなかった。角膜不正乱視を示す1次非対称乱視成分は,術後有意に増加した後,術後12か月までに術前の値に回復した。高次不正乱視成分も一過性に増加した。
 結論:線維柱帯切除術後に,角膜不正乱視成分,特に1次非対照乱視成分は有意に増加し,術後12か月までに術前の値に回復する。

スポーツ選手における2種類の動体視力の検討

著者: 大久保真司 ,   勝木建一 ,   岡野亮介 ,   中正二郎 ,   有村尚也 ,   小松原敬子

ページ範囲:P.591 - P.594

(G-7AM-7) スポーツ選手267名とリハビリテーション加賀八幡温泉病院および北陸体力科学研究所の職員28名に対して,静止視力(SVA)および2種類の動体視力としてkinetic visual acuity (KVA)およびdynamic visual acuity (DVA)を測定した。スポーツ時のSVAが1.0未満の人が全体の40%であった。KVAとSVAとの間には相関関係がみられたが,DVAとSVAとの間には相関関係はみられなかった。眼鏡による矯正かコンタクトレンズによる矯正かによってKVA, DVAともに差はみられなかった。良好なKVAを得るためには良好なSVAが必要であるが,スポーツ時に40%の人でSVAは不十分であり,眼科医がそのスポーツに適した視力矯正に積極的に関与すべきである。

長期間にわたって経過観察することができた小眼球症の1例

著者: 鈴木康仁 ,   檜垣忠尚

ページ範囲:P.595 - P.598

(G-7PM-14) 4歳男児を両眼の小眼球症と診断した。母は35歳で,正常分娩であり,生下時の体重は2,450gであった。右胸心があった。前眼部に異常はなく,眼底に偽視神経炎と網膜血管の蛇行があった。両眼とも+22Dの強度遠視で,初診時の視力は0.01であった。まず眼鏡を装用させ,1年後からソフトコンタクトレンズを併用した。2年後の矯正視力は左右とも0.4であった。15歳の現在,屈折値に変化はなく,矯正視力は左右とも0.6であり,眼軸長は右14.75mm,左14.59mmである。強膜肥厚,浅前房,狭隅角,uveal effusionはない。

遠隔転移による海綿静脈洞腫瘍17症例の臨床的検討

著者: 中野直樹 ,   佐藤実佐子 ,   宮坂忍 ,   吉原睦 ,   石川弘

ページ範囲:P.599 - P.602

(G-8PM-7) 日本大学医学部附属板橋病院を主とした施設で,海綿静脈洞の占拠性病変が画像診断で検出され,原発巣も確認された片側性の転移性海綿静脈洞腫瘍17症例の臨床像および画像診断の特徴について検討した。年齢は15歳から72歳の男性9例,女性8例であった。全例眼筋麻痺を示し,13例で三叉神経障害を合併した。視神経障害は4例でみられ、全例全外眼筋麻痺となった。7例が瞳孔不同を示した。CTおよびMRIでは転移巣が海綿静脈洞の外壁の突出像あるいは洞部の腫大像として観察できた。

近視度数による乳頭形状の比較

著者: 有本あこ ,   清水公也 ,   庄司信行 ,   小原真樹夫

ページ範囲:P.603 - P.606

(G-8PM-10) 近視矯正手術予定の正常人47名の乳頭解析をHeidelberg Retina Tomograph (HRT)にて行い,近視度数による乳頭形状を比較した。症例を中等度近視(−6D未満)と強度近視(−6D以上)に分け,2群間の各パラメーターの比較,近視度数とパラメーターの相関を検討した。Disc area (p<0.05),rim area (p<0.01),rim volume (p<0.05)が2群間で有意差を示し(Mann-Whitney U検定),近視度数と有意な相関を示した(Spearman順位相関)。今回の対象では近視度数により乳頭形状は異なり,またrim volumeはHRT判定プログラムに影響するため,近視度数に応じた判定プログラムが必要と考えた。

PEA+IOL+トラベクロトミーとシヌソトミー併用手術との比較

著者: 吉田和代 ,   小堀朗 ,   田中朋子 ,   光藤春佳 ,   武藤眞子 ,   幸道智彦 ,   村上惠風 ,   谷原秀信

ページ範囲:P.607 - P.611

(G-8PM-17) 超音波乳化吸引術(PEA)+眼内レンズ挿入術(IOL)+トラベクロトミー(LOT)+シヌソトミー(SIN)をSIN併用群,PEA+IOL+LOTを併用なし群とし,両群で手術成績を比較検討した。対象はSIN併用群が18眼,併用なし群が14眼であった。平均術後眼圧は,SIN併用群が14.0mmHg,併用なし群が14.6mmHgであり有意差はなかった。一過性高眼圧(21mmHg以上)はSIN併用群が39%,併用なし群が36%とほぼ同じ割合で生じたが,最高眼圧の平均値はSIN併用群が24.0mmHgに対して,併用なし群が32.6mmHgと有意に高値であった。

長期眼内異物の1例と分析電顕所見

著者: 青沼秀実 ,   増田光司 ,   青島明子 ,   村中祥悟 ,   津島一晃

ページ範囲:P.613 - P.617

(HD-9AM-1) 45歳男性が左眼霧視で受診した。26年前にポンチをハンマーで叩いていたときに異物が左眼に入ったが,無症状であり,放置していた。左眼矯正視力は0.5,眼圧は当初41mmHgで,薬物治療後にも28mmHgであった。左眼に白内障があり,上鼻側の眼底に腫瘤塊があった。CTで高輝度の金属性異物様の所見があった。白内障手術と硝子体切除を行い異物を摘出し,眼圧の下降が得られた。摘出した異物周囲の被膜には,透過電顕で線維芽細胞,コラーゲン,高電子密度の沈着物があった。X線分光測定spectrometryで,鉄,リン,塩素が高電子密度の部位に一致して検出された。異物がコラーゲンの被膜に覆われ,鉄がマクロファージなどに取り込まれていたことが,長期間無症状で経過した原因であると推定された。

間質性肺炎治療中に発症したアシクロビル耐性角膜ヘルペスの1例

著者: 渡邊敏夫 ,   清水一弘 ,   田聖花 ,   豊田静宜 ,   中島正之

ページ範囲:P.619 - P.622

(P-1-19) 57歳の女性が左眼の異物感で受診した。6週間前から,間質性肺炎に対してプレドニゾロンとシクロスポリンによる免疫抑制療法を受けていた。左眼に典型的な樹枝状角膜病変があり,角膜ヘルペスと診断した。アシクロビル眼軟膏と全身投与を行ったが,病変はさらに悪化した。病巣から単純ヘルペスウイルスが検出された。角膜擦過を繰り返し,初診の1か月後からトリフルオロチミジン1日6回の点眼を開始した。以後,角膜病変は軽快,治癒した。本症は,不適切なアシクロビルの使用が耐性株に移行させたと推定された。

白内障術後屈折度と自覚的満足度の調査

著者: 高原真理子 ,   矢野啓子 ,   長野悦子 ,   吉村宏子 ,   木ノ内智賀子 ,   野口説子 ,   平山信隆 ,   本多仁司

ページ範囲:P.623 - P.627

(P-1-58) 白内障手術と眼内レンズ挿入術を両眼に受けた172名にアンケート調査を行った。術後の屈折は,−3.0D以上13名,−3.0D〜−1.0D55名,−1.0D以下104名であった。144名(84%)が術後の屈折に満足であると答えた。6%の人が遠見障害(平均屈折度−2.1D),10%の人が近見障害(平均屈折度−0.2D)を訴えた。屈折が−1.0Dより強い近視者の96%が裸眼で新聞を読めた。−1.0D以下の近視者では,新聞が読めない訴えと近見障害が増えた。裸眼での遠方視力が0.6以上で,新聞が読め,眼鏡を必要としない症例は33名で,その左右眼の平均屈折度は,プラス寄りの眼が−0.4±0.5D1マイナス寄りの眼が−1,0D±0.6Dであり,左右差として1.5D以内が許容範囲と思われた。術後に眼鏡装用を望まない白内障患者では,第一眼での術後屈折を−1.0Dと意図し,その結果により第二眼に多少の差をつけて調整することが望ましいと判断された。

ベーチェット病の統計的考察

著者: 高橋敏江 ,   四倉次郎 ,   安達恵美子

ページ範囲:P.629 - P.632

(P-1-63) 1999年8月までの64か月間に受診したベーチェット病患者135例を検索した。男性72例,女性63例であり,45例(33.3%)が完全型,90例(66.7%)が不全型であった。不全型では43例(47.4%)に眼症状があった。29例(21.5%)が,神経,腸管,血管などの特殊病型であり,8例(27.6%)に眼症状があった。この頻度は,非特殊病型での75.5%よりも有意に低かった(p<0.0001)。特殊病型29例中24例が副腎皮質ステロイド薬の内服を受けていた。眼症状は,この24例中6例(25.0%)にあり,ステロイド薬の日数,1日量,総量とは無関係であった。

虹彩毛様体切除を行った毛様体黒色細胞腫の1例

著者: 小堀朗 ,   田中朋子 ,   吉田和代 ,   光藤春佳 ,   幸道緑 ,   堀祐子 ,   小西二三男

ページ範囲:P.633 - P.636

(P-1-74) 霰粒腫で加療中の72歳女性の左眼に,虹彩の隆起が発見された。矯正視力は右1.0,左0.02。CT検査で左眼の下方虹彩の後方に直径5mmの腫瘤があった。腫瘤部に隅角閉塞と併発白内障があった。経強膜的に虹彩毛様体切除術による腫瘍の全摘出を行った。組織学的に,腫瘍は毛様体黒色細胞腫であった。白内障手術と硝子体手術で視力は1.0に回復した。黒色細胞腫は色素性良性腫瘍であるが,毛様体に生じるものは拡大傾向があり,悪性黒色腫との鑑別が困難であることを示す例である。

視交叉部および周辺に肥厚性硬膜炎を認めた1例

著者: 石井敦子 ,   石井正三 ,   高萩周作 ,   尾田宣仁

ページ範囲:P.637 - P.641

(P-1-84) 62歳男性が左眼視力低下で受診し,その翌日に右眼霧視が生じた。2年前に両側の末梢性顔面神経麻痺を発症し,ステロイド投与で軽快している。矯正視力は右1.0,左0.01であり,左眼視野の高度狭窄があった。ガドリニウム増強磁気共鴫画像検査(MRl)で視神経,視交叉,下垂体が強く造影され,斜台硬膜に肥厚があった。血中のアンギオテンシン交換酵素が高値を示した。サルコイドーシスと診断し,副腎皮質ステロイドの全身投与で3週後に視力と視野は改善した。6か月後に左眼視朦が再発した。開頭手術で,視神経周囲の肥厚した硬膜を剥離した。ステロイド投与を併用し,左眼視力は正常化した。摘出硬膜は線維性に肥厚し,慢性非特異的炎症細胞の浸潤があった。サルコイドーシスに続発した頭蓋底部の肥厚性硬膜炎と診断した。

白内障術後に眼内レンズ摘出に至った症例

著者: 鈴木幸彦 ,   桜庭知己 ,   柳橋さつき ,   水谷英之 ,   松橋英昭 ,   中沢満

ページ範囲:P.642 - P.647

(P-1-101) 白内障手術後に何らかの理由により,眼内レンズを摘出せざるを得なかった症例を遡及的に検討した。対象は過去に超音波白内障乳化吸引術を受け,1995〜1998年の間に弘前大学医学部附属病院眼科において硝子体手術を受け,術中に眼内レンズを摘出された29例30眼である。摘出に至った原因は,糖尿病網膜症の悪化11眼(37%),眼内炎9眼(30%),網膜剥離6眼(20%),外傷2眼(7%),眼内レンズ偏位2眼(7%)であった。各疾患のうち術後に0.1以上の矯正視力が得られたのは,糖尿病網膜症4眼(36%),眼内炎7眼(78%),網膜剥離3眼(50%),外傷1眼(50%),眼内レンズ偏位2眼(100%)であり,糖尿病網膜症での成績が不良であった。

虹彩血管新生を伴う増殖糖尿病網膜症の検討

著者: 岡部純子 ,   市川琴子

ページ範囲:P.648 - P.652

(P-1-103) 初診から3週以内に虹彩血管新生が発見された増殖糖尿病網膜症7例12眼を検討した。全例がインスリン非依存性糖尿病であり,年齢は44歳から65歳,平均57歳であった。6例(86%)で糖尿病の罹病期間が10年以上であった。6例(86%)で初診前1年間のHbA1C値が9.0%以上であった。11眼に汎網膜光凝固,6眼に網膜冷凍凝固,6眼に硝子体手術を行った。治療にもかかわらず虹彩血管新生が残存した2例4眼で,両側の内頸動脈の狭窄または閉塞があった。以上の所見は,治療に抵抗する糖尿病虹彩血管新生には内頸動脈不全が関与している可能性があることを示す。

眼底に巨大隆起性病変を認めた多発性骨髄腫の1例

著者: 東永子 ,   李俊哉 ,   大原國俊

ページ範囲:P.653 - P.656

(P-1-116) 61歳の女性が,5日前からの左眼眼痛,充血,変視症で受診した。29年前に乳癌手術と輸血による慢性C型肝炎,2年前にlgA-λ型の多発性骨髄腫,21か月前から慢性腎不全を発症し,人工透析中であった。矯正視力は右0.6,左0.1。左眼の乳頭耳側に黄斑部を含む黄白色の隆起性病変があり,大きさは縦横ともに7乳頭径であった。さらにその耳側から下方に網膜剥離があった。プレドニゾロンの全身投与を行い,5日後に腫瘍の縮小と平坦化が得られた。このことから,乳癌の転移ではなく,骨髄腫の転移であると解釈された。受診から25日後に死亡したが,剖検は行われなかった。

女性の中心性漿液性網脈絡膜症

著者: 清水敬子 ,   三田知直 ,   戸張幾生

ページ範囲:P.657 - P.659

(P-1-130) 女性に発症した中心性漿液性網脈絡膜症12例の自我状態と行動パターンを検索した。平均年齢は50±5歳であった。エゴグラムで「順応した子供(AC)優位型」とA型傾向判別表で「タイプA行動パターン」を数量化した。年齢をほぼマッチさせた女性の健常者12例を対照とした。AC優位型,タイプA,両型の混在のいずれかに分類されたのは,症例群中9例(75%),対照群中3例(25%)であり,両群間には有意差があった(p<0.05)。以上の所見は,中心性漿液性網脈絡膜症が発症した女性には,AC優位型かタイプAが多いことを示している。

眼球摘出—過去16年における変遷

著者: 上松聖典 ,   栄田裕子 ,   津田恭央 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.661 - P.664

(P-2-10) 1983年から1998年の16年間に長崎大学医学部附属病院眼科において施行した眼球摘出術を検討した。眼球摘出した73眼における原因疾患の内訳は,外傷性眼球破裂22眼(30%),眼内悪性腫瘍22眼(30%),感染性全眼球炎14眼(19%),有痛性眼球癆13眼(18%),その他2眼(3%)であった。前後8年間で原因疾患の割合に変化はなかった。眼内悪性腫瘍以外では,眼球をなるべく保存する傾向がみられた。外傷性眼球破裂によるものは全員が男性だったが,他の原因では男女差はなかった。義眼台は約半数で埋没し,ハイドロキシアパタイト義眼台が主流になりつつある。

長崎県内5総合病院における新患患者疾病調査

著者: 津田恭央 ,   谷口亮 ,   元田正憲 ,   小川明日香 ,   古賀美智子 ,   田中陽子 ,   藤川亜月茶 ,   米良明子 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.665 - P.670

(P-2-22) 1999年3月までの1年間に,長崎県内の5総合病院の眼科を受診した新来患者9,506名を調査した。これは長崎県人口の0.62%に相当する。患者の男女比は,46%対54%であった。疾患の内訳は,外眼部8.2%,前眼部23.5%,ぶどう膜1.5%,水晶体25.6%,網膜硝子体18.0%,緑内障3,8%,斜視1.1%,眼腫瘍0.4%,屈折異常9.5%であった。白内障が最も多く,網膜硝子体関連では糖尿病網膜症が最も多かった。水晶体疾患,緑内障,腫瘍は県南地区に有意に多く,外眼部と前眼部疾患は県北地区に有意に多かった。網膜静脈分枝閉塞症は県南地区に多かった。

「診療科別標準病名集」を用いた診療支援システムの開発

著者: 石岡みさき ,   楊浩勇 ,   深川和己 ,   坪田一男

ページ範囲:P.671 - P.674

(P-2-36) 電子カルテ,診療報酬請求書の電算化を前にして,共通の病名を得るために厚生省,支払い基金が各学会の協力のもとに「診療科別標準病名集」を作成している。デジタル形式で提供されている病名集を診療支援システム,POM system (株式会社メディカルデータ・リサーチ社製)に導入し,病名登録を行った。実際の外来診療時に見出された不足病名は20あまりであるが,保険請求にも必要な病名の不足があった。病名入力,検索の使いやすさとしては,①部位別の分類は使いにくいことがある、②検索方法に工夫が必要,といったことが挙げられる。今後の電子カルテの普及,その利用目的を考えると,眼科全体での共通見解に基づく病名が必要である。

手術治療を要したボスナー・シュロスマン症候群の3例

著者: 繪野亜矢子 ,   前田秀高 ,   中村誠

ページ範囲:P.675 - P.679

(P-2-64) 眼圧下降手術を必要としたボスナー・シュロスマン症候群3例を経験した。いずれも男性で,年齢は35歳,42歳,51歳であった。いずれも片眼発症で,罹病歴はそれぞれ15年,3年,6年である。薬物により十分な眼圧コントロールが得られず,2症例では緑内障特有の網膜神経線維層欠損を伴う視野障害が生じたために,マイトマイシンC併用の線維柱帯切除術を行った。全例で眼圧が正常域になり,発作の頻度は低下している。本症候群には難治例があり,濾過手術が必要なことを示す症候群である。

視神経乳頭血管腫(von Hippel-Lindau病)の腫瘍血管に対する選択的光凝固

著者: 安岡直美 ,   政岡則夫 ,   上野脩幸

ページ範囲:P.680 - P.684

(P-2-93) 26歳の女性が左眼視力低下で受診した。2年前に小脳血管芽腫の摘出手術を受けている。母と妹に多臓器性の血管腫が発見されている。初診時の矯正視力は,右1.2,左0.04であった。右眼は正常で,左眼に視神経乳頭に3×4乳頭径大の血管腫があり,滲出性網膜剥離が併発していた。ヒッペルリンダウ病の眼合併症と診断した。インドシアニングリーン蛍光造影で検出した血管腫の栄養血管を,波長577nmのレーザー光で計8回凝固した。以後,腫瘍の縮小,網膜剥離の軽減,栄養血管の狭細化,視力の改善が得られている。視神経乳頭の血管腫に対して,この方法による光凝固が有効であった。

黄斑前膜を伴う網膜血管腫の2例

著者: 山本由香 ,   皆本敦 ,   三嶋弘

ページ範囲:P.685 - P.687

(P-2-127) 若年者に生じた網膜前膜を伴う網膜血管腫2例を経験した。症例1は28歳の男性,左眼の眼底に黄斑前膜を伴う網膜血管腫を認めた。左眼経毛様体扁平部硝子体切除,黄斑前膜剥離,眼内光凝固術を行った。症例2は23歳の男性,左眼の眼底に黄斑前膜を伴う網膜血管腫を認めた。左眼血管腫に対して4回の光凝固を行い,その後左眼水晶体乳化吸引,眼内レンズ挿入,経毛様体扁平部硝子体切除,黄斑前膜剥離を行った。2例とも血管腫は周辺部網膜に多発しており,球状で,大きさも0.5乳頭径以下,周囲には硬性白斑を認め,Leberの粟粒血管腫の形態であった。2例とも術後視力改善が得られ,再発もなく経過良好である。

特発性脈絡膜新生血管に対する黄斑下手術の成績

著者: 秋山満 ,   門之園一明 ,   和田浩卓 ,   立原蘭 ,   西澤きよみ ,   樋口亮太郎 ,   大野重昭

ページ範囲:P.689 - P.692

(P-2-129) 新生血管膜が1乳頭径を超える特発性脈絡膜新生血管(idiOpathrc choroldal neovascularization:lCNV)に対し,1998年11月から1999年2月の間に新生血管膜摘出術を4例4眼に行った。発症年齢は平均37歳,全例女性であり,屈折誤差は+0.5から−3.5Dであった。術前矯正視力は全例0.1以下であり,脈絡膜新生血管膜の大きさは平均1.93乳頭径(1.62から2.24)であった。視力の改善が得られた症例は3例で,不変は1例であった。また術後の絶対暗点面積は,全例で術前と比較して縮小した。脈絡膜新生血管が大型で,術前の視力が悪いICNVに対しては,黄斑下手術が有効な治療法の1つになると思われた。

硝子体手術を施行した傍乳頭網膜分離症の1例

著者: 中村秀夫 ,   酒井美也子 ,   森根百代 ,   澤口桂子 ,   早川和久 ,   澤口昭一

ページ範囲:P.693 - P.696

(P-2-137) 27歳の女性に左眼視力低下が突発し,その翌日受診した。矯正視力は右1.5,左0.3であった。左眼に,鼻側から乳頭を含み黄斑部に連なる網膜分離症とその一部に網膜剥離があった。黄斑には車軸状の嚢胞があった。網膜裂孔はなく,嚢胞様変性が全周にあった。乳頭鼻側に内層孔と推定される2個の円孔があった。両眼の乳頭は小さく発赤し,乳頭低形成と解釈された。視神経乳頭低形成に伴う傍乳頭網膜分離症に網膜剥離が併発したと考えられ,硝子体切除,強膜輪状締結,眼内光凝固,SF6ガス注入を行った。網膜分離症と網膜剥離は消失し,0.8の最終視力が得られた。本疾患は,朝顔症候群やpit-macular syndromeのような発生過程での異常が関与していると推測した。

連載 今月の話題

ステロイド薬によるぶどう膜炎の治療

著者: 小竹聡

ページ範囲:P.493 - P.498

 ぶどう膜炎に対する治療の切り札としてステロイド薬が使われている。多くの副作用が知られていながら使い続けられている理由は,他に代わる治療薬がないためである。本稿ではステロイド薬の作用機序に関する最近の知見を示し,筆者のぶどう膜炎に対する本剤の使用方針を概説する。

眼の組織・病理アトラス・162

乳頭周囲網脈絡膜萎縮

著者: 久保田敏昭 ,   猪俣孟

ページ範囲:P.500 - P.501

 乳頭周囲にみられる網脈絡膜萎縮は,正常眼でも観察されるが,近視眼や緑内障眼では明瞭に,しかもより広い範囲で観察され,これを乳頭周囲網脈絡膜萎縮parapapillary chorioretinal atropyと呼ぶ。これは,絶対緑内障で観察されるので,かっては緑内障輪halo glaucomatosusと呼ばれていた。しかし,乳頭周囲網脈絡膜萎縮は,晩期緑内障だけでなく,早期の緑内障眼でも高頻度にその面積が増加していることがJonasら1)によって示された。乳頭周囲網脈絡膜萎縮は,α領域とβ領域に分けられる。α領域は検眼鏡的に乳頭縁から遠位にある色素のむらの部位で,β領域は乳頭縁の近位にあり,強膜あるいは脈絡膜の血管が透見できる部位である(図1)。いずれも緑内障眼における傍中心暗点の拡大と密接に関係している。
 α領域は,光学顕微鏡では,網膜色素上皮細胞が不規則になり,細胞内に多量の黒色色素を含んでいる。視細胞は存在するが,その数が減少している。これに対しβ領域は,網膜色素上皮細胞が完全に消失して,ブルッフ膜が網膜下に露出した形になっている(図2)。ここでは,視細胞の数が著しく減少している。

眼の遺伝病・8

ペリフェリン/RDS遺伝子異常による網膜色素変性(3)—Asn244His変異と常染色体優性錐体—桿体ジストロフィ

著者: 玉井信 ,   和田裕子 ,   中沢満

ページ範囲:P.503 - P.505

 これはペリフェリン/RDS遺伝子のコドン244に変異が生じたため,家系(図1)に示すような常染色体優性遺伝で,錐体—桿体ジストロフィの臨床像を示す症例である。コドン244はAACで本来アスパラギン(Asn)をコードしているが,AがCに変異したためCACとなり,アミノ酸がヒスチジン(His)に代わったものである。先に述べた同じコドン244の変異でも,Asn244Lysでは桿体機能が先に傷害され,桿体—錐体ジストロフィの病型を示したが,今回示す症例は,錐体機能が先に傷害された。このように,同じ部位に突然変異が起きても,その変異の種類が異なると,病型が全く異なることを示している1〜3)

眼科手術のテクニック・124

網膜剥離における視機能維持・改善のための工夫—術後視力1.0および視野欠損0%を目指して

著者: 石郷岡均

ページ範囲:P.506 - P.508

 裂孔原性網膜剥離に対する硝子体手術における,視力・視野を中心とした視機能維持・改善のための工夫のポイントとして(1)液—空気置換の方法,(2)網膜下液吸引,(3)裂孔凝固,(4)膨脹性ガス注入および(5)術後の体位について述べる。なお,術後視力の点から,小児など特殊例を除き,原則的に白内障手術は併用する。

他科との連携

EBMの構築と実践

著者: 高村浩

ページ範囲:P.712 - P.713

 他科との連携での要点は2つあると考えられます。まず第1は患者を治すという共通の目的を,あらゆる診療科で協同して目指しましょうという医師本来の理念に基づくアピールです。第2は医師同士,または医師とパラメディカルスタッフとの良好な人間関係をいかに築くかによるということです。
 今回,山形大学医学部眼科での臨床経験を紹介し,日頃の経験からわれわれが作り上げてきたシステムについて,考察してみたいと思います。

今月の表紙

Weiss ringを貫く硝子体動脈遺残

著者: 西上信一 ,   玉井信

ページ範囲:P.499 - P.499

 患者:男性,70歳。眼脂を主訴として来院した。診断は,アレルギー性結膜炎,硝子体動脈遺残,後部硝子体剥離。
 撮影:カメラはトプコンSL−7E7F,スリット幅はやや広め,フラッシュ3,倍率25倍。フィルムはFUJICHROME SENCIAII 100。レンズはGOLDMAN906 3MIRROR LENS 10mm pediatric。

第53回日本臨床眼科学会専門別研究会1999.10.10東京

視神経

著者: 敷島敬悟 ,   北原健二

ページ範囲:P.698 - P.699

 専門別研究会は,第53回日本臨床眼科学会最終日の10月10日(日),眼の愛護デーに開催されました。「視神経」の専門別研究会は,基礎的研究,非典型的な正常眼圧緑内障例,さまざまな病態に起因する視神経症例など,視神経疾患の本態に迫ろうとする,多岐にわたる興味ある演題がそろいました。

眼精疲労・テクノストレス

著者: 庄司倫子 ,   青木繁

ページ範囲:P.700 - P.701

 昨年度はこの専門別研究会は狭い部屋で行われ,座席に座れずに立ち見で講演を聞かれた方が多くいましたが,今年度は昨年度の約1.5倍くらいの広さのため,座席に多少余裕がみられました。といっても前のほうのほんの一部ですけれど。
 今年度は,一般講演のみ5題と非常に少なく,そのため他の専門別研究会より開始時間も遅く,発表時間もたっぷりと,また討論もゆったりできました。場所は,他の研究会から少し離れたところであったため,開始前は聴衆の人々が集まってもらえるのかどうか非常に心配しておりましたが,実際始まってみますと第1席からほぼ満席の状態で,最後の第5席まで多少の人の出入りはありましたが,満席状態は続いておりました。この専門別研究会に関して,多くの人が興味を持っておられることに今さらながらびっくりしました。

色覚異常

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.702 - P.703

 10月10日,東京国際フォーラムG407にて開催。世話人挨拶の後,本年のトピックスである遺伝子分析2題,先天赤緑異常保因者の遺伝子型についての田辺(名古屋第一赤十字病院)と先天色覚異常遺伝子の解析についての山出(滋賀医大)の発表があった。
 田辺らは,家系から確認できる色覚異常の保因者30名の女子の末梢血からgenomic DNAを抽出し,いわゆる赤遺伝子と緑遺伝子のexon4,exon5を増幅し調べ報告した。その全例に赤遺伝子と緑遺伝了が検出され,24名は赤遺伝子と緑遺伝子のみを有し,5名は赤緑雑種遺伝子または緑赤雑種遺伝子を持っていた。第1色盲保因者1名は,赤遺伝子がなく,緑遺伝子と緑赤雑種遺伝子を有していた。保因者の遺伝子型は,いずれも正常男子にみられる遺伝子型であることから,家系上の異常者の遺伝子型の結果と矛盾する例はないものの,この解析方法では保因者の特定は困難と報告した。

眼科と東洋医学

著者: 竹田眞

ページ範囲:P.704 - P.705

 今回の専門別研究会は臨床眼科学会の最終日(日曜)の午前中に開かれました。開業医にとっては出席しやすかったと思います。また,特別講演をお願いした寺澤教授は,一般口演にも出席され,いろいろとお教え下さいました。
 第1席は茅根重一先生が,「六味丸および越婢加朮湯により改善した関節リウマチを合併するシェーグレン症候群の1例」について口演されました。上記漢方薬を内服し,涙液分泌能の改善と,角膜上皮障害の軽減をみたとのことでした。寺澤先生より,リウマチと涙液分泌減少症の合併が比較的多いこと,そのような症例には人参養栄湯が有効なこと,さらにこの演題の症例は,越婢加朮湯で眼表面の刺激症状を抑制し,六味丸の滋潤作用が涙液分泌を促進したと考えられると追加されました。

やさしい目で きびしい目で・4

『蘭の花を咲かせる』

著者: 本村幸子

ページ範囲:P.707 - P.707

 この数年あまり,蘭を30数鉢育てている。温室があるわけではないので寒さに強いシンビジウムとデンドロビウム,少し寒さに順応したファレノプシスである。鉢は廊下,居間や書斎などの一隅に置いてある。深夜と不在となる昼間は防災のため暖房を切るので,曇りや雨の冬の日は結構な低温になる。このような条件下での育成に疑問はあったが,美しく開花した蘭の鉢を頂戴して,次の年も花を咲かせてみようと思ったのがきっかけであった。多くの蘭は冬に開花するし,開花期間も長い。花の少ない冬に豪華な蘭が咲き乱れていたら,幸せである。しかし,そのためには花の終わる頃から,約10か月もの手厚い管理が必要であった。
 鉢に咲く花は,十分に楽しんでから時機をみて切り,切り花として最後まで楽しめる。いつまでも株に花をつけておくと,株は弱り,次には花をつけないか,花数が少なくなる。春から鉢を屋外で管理するが,株が大きくなり過ぎたものは,鉢をひとまわり大きくするか,株分けをする。そのまま放置すると,次の花つきは極めて悪い。しかし,鉢替えは,分相応のものでなければならない。大き過ぎる鉢は,根を張ることに株の力が使われて,花芽を作る余力はなく,次の開花は望めない。植替え時には,すでに出始めている新芽も整理して適切な数にすると花付きも良く,豪華な花を楽しめる。晩秋までの屋外でうまく管理できたと思っても,全く花芽が出来ず,開花してくれないこともある。このような株も諦めずに3年待つと花を付けてくれることも知った。今年もほとんどすべての鉢で花芽が伸び始めている。花数についてはこれからの楽しみである。

臨床報告

急性前部ぶどう膜炎で発症した原田病の2例

著者: 斎藤航 ,   小竹聡 ,   高橋光生 ,   笹本洋一

ページ範囲:P.721 - P.724

 59歳と53歳の男性が,線維素析出を伴う急性前部ぶどう膜炎を初発症状とする原田病を発症した。基礎疾患として,症例1に強直性脊椎炎,症例2に尋常性乾癬がみられた。両例とも副腎皮質ステロイド剤の大量投与で良好な最終視力が得られたが,症例1では原田病の診断が遅れ,遷延化した。急性前部ぶどう膜炎に関係する基礎疾患を持つ患者に発症する原田病は,通常とは異なる経過をとる場合があることを示している。

糖尿病患者に対する白内障手術と眼内レンズ素材—左右眼の比較

著者: 内山昌明 ,   正田真悟 ,   江口秀一郎 ,   江口まゆみ ,   江口甲一郎

ページ範囲:P.725 - P.728

 片眼にシリコーンレンズ,他眼にアクリルレンズを挿入された糖尿病患者33名66眼(以下,糖尿病群)と全身疾患を有さない患者45名90眼(以下,コントロール群)の白内障手術術後経過を観察した(観察期間は6か月)。前房フレア値は,糖尿病群の術後3か月,コントロール群の術後1日,1か月,3か月でシリコーンレンズがアクリルレンズに比べ有意に高値を示した。前房フレア比(シリコーン/アクリル)は,コントロール群の術後1日,1週,1か月,3か月で術前値に比べ有意に高値を示した。矯正視力,角膜内皮細胞密度減少率,Nd-YAGレーザー後嚢切開術頻度,糖尿病網膜症病期の推移は,レンズ素材間に有意差を認めなかった。

鈍的外傷による眼球破裂の視力予後についての検討

著者: 張祖蘭 ,   布施昇男 ,   玉井信

ページ範囲:P.729 - P.733

 1998年までの3年間に,東北大学医学部附属病院眼科で経験した鈍的打撲による眼球破裂の10例10眼の視力転帰を検討した。0.02以上の視力が得られたのは4眼であった。視力転帰は裂傷の位置と範囲と関係していた。強角膜縁に近い裂傷はこれよりも後方に及ぶ裂傷よりも,そして裂傷が1象限以内のものはこれ以上のものよりも,転帰が比較的良好であった。

カラー臨床報告

陳旧性網膜中心動脈閉塞症での乳頭上ループ状血管の血行動態

著者: 池田史子 ,   高橋京一 ,   宇都木憲子 ,   岸章治

ページ範囲:P.714 - P.720

 網膜中心動脈閉塞症の2症例を長期観察した。いずれも片側発症で,それぞれ69歳と71歳の男性である。乳頭上にループ状血管が形成されていることを,それぞれ発症から9か月と7年8か月後に発見し,これに対してインドシアニングリーン蛍光眼底造影を行った。1例には6本のループ状血管があり,そのすべてで造影が脈絡膜動脈と同時に始まり,さらに網膜動脈枝に色素が流出した。網膜中心動脈は一貫して造影されなかった。他の1例では,3本のループ状血管があり,その1本で造影が脈絡膜動脈と網膜中心動脈のそれと同時に始まった。このループ状血管は網膜動脈系と連絡していた。以上の所見は,網膜中心動脈閉塞症に続発する乳頭上のループ状血管が,脈絡膜動脈系から網膜動脈系への側副血行路であることを示している。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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