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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科54巻7号

2000年07月発行

雑誌目次

座談会

緑内障の薬物療法—新しい点眼薬の使い方

著者: 根木昭 ,   吉川啓司 ,   桑山泰明

ページ範囲:P.1 - P.13

 1999年の後半に緑内障および高眼圧症治療のための点眼薬が多数発売され,薬物療法における薬剤の選択肢が大きく広がった。しかしその一方で,臨床現場において薬剤の選択や併用に混乱が生じていることも事実である。そこで本誌では,緑内障臨床の第一人者にお集まりいただき,「緑内障の薬物療法—新しい点眼薬の使い方—」というテーマでお話し合いいただいた。

連載 今月の話題

MRIによる眼筋の評価

著者: 佐藤美保

ページ範囲:P.1311 - P.1315

はじめに
 MRIの進歩と普及によって多くの施設でMRIが使われ,特にMRIによる外眼筋の評価は甲状腺眼症などでは治療方針決定のために必要不可欠なものとなってきている。ここでは,主に先天性上斜筋麻痺など先天性の斜視においてMRIがどのように役立つかを述べる。

眼の組織・病理アトラス・165

らい

著者: 猪俣孟 ,   藤田晋吾

ページ範囲:P.1318 - P.1319

 らいleprosyまたはハンセン病Hansen diseaseは,らい菌Mycobacterium lepraeによって起こる感染症である。らい菌は強い抗酸性を示すグラム陽性の桿菌で,アジア,アフリカ,中南米などの発展途上国に広く蔓延し,全世界で約1,500万人の患者がいると推定されている。男性患者が女性の2〜3倍である。
 感染源は患者の上気道,鼻粘膜,皮膚病変である。らいに感染して発症までの潜伏期間は,短い場合で3か月,長い場合は10年以上,平均4〜5年といわれている。発症は個人の免疫状態に関係する。栄養や衛生状態が悪く,免疫不全の状態にある患者では,らい菌がマクロファージ内で無制限に増殖して腫瘤を形成する(図1〜3)。これをらい腫型lepromatous typeという。比較的細胞性免疫が強い患者では,炎症細胞の浸潤を伴い類結節型tuberculoid typeになる。その中間の免疫応答を示すものを境界型borderline typeとする。らい菌に対する免疫応答を規定するする遺伝子としてHLA-DR2が報告されている。

眼の遺伝病・11

ペリフェリン/RDS遺伝子異常による網膜色素変性(6)—Val200Glu変異と常染色体優性錐体—桿体ジストロフィー

著者: 直井信久 ,   中沢満 ,   和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.1322 - P.1325

 今回紹介するのはペリフェリン/RDS遺伝子のコドン200の点突然変異による常染色体優性錐体—桿体ジストロフィで,家系図(図1)に示すように4世代にわたっている。この家系の遺伝子異常はコドン200のGTGのチミン(T)がアデニン(A)に点突然変異を起こしたもので,アミノ酸がバリンからグルタミン酸(GAG)へと変異した。

眼科手術のテクニック・127

黄斑上膜の剥離

著者: 小椋祐一郎

ページ範囲:P.1326 - P.1327

 黄斑上膜の剥離には膜剥離(membrane peeling)と呼ばれる手技が用いられ,硝子体手術の手技の中でも基本的なものの1つである。膜剥離は鉗子で膜の一端をつかみ,膜を網膜から鈍的に分離していく方法であり,黄斑上膜などの網膜と比較的癒着の弱い増殖膜の除去に用いられる。器具としては,膜の取っかかりを作るV-ranceあるいは注射針の先端を曲げたフックト・ニードルと硝子体鉗子を使用する。

他科との連携

普段なじみのない講座

著者: 古田歩

ページ範囲:P.1373 - P.1374

 眼科と関連が深い“他科”といえば,内科,耳鼻科,脳神経外科,神経内科……などを思いつくが,先日は普段なじみのない,ある講座にもお世話になることになった。
 患者は30代の男性である。ある日突然に,悪心,嘔吐,下痢が出現し,近くの総合病院内科に入院した。その翌日,過呼吸状態となり,BEが−25.1mmol/Lと著明な代謝性アシドーシスになった。治療により徐々に全身状態は改善し1週間後に退院したが,視力低下を自覚し近医眼科を受診した。

今月の表紙

OCTで追った特発性黄斑円孔の形成過程と手術による回復

著者: 三宅養三

ページ範囲:P.1320 - P.1320

 症例は右眼の特発性黄斑円孔のため来院し右眼の手術を受けた患者の左眼の10か月の経過をOCTで追った所見である。来院時には左眼の視力は1.2であり,OCTは一見,正常な黄斑部の形態を示していた(最上段)。その後,中心窩を挟むヒゲ状の硝子体膜の牽引が始まったが(上から2段目),まだ自覚症状はない。牽引がさらに強くなり,自覚症状が現れ,裂隙を生じ(中央),硝子体膜はoperculumを伴って網膜表面から分離しようとしている(下から2段目)。視力は0.2に低下した。この時点で手術がなされ,術後に,黄斑部の形態は正常に戻った。特発性黄斑円孔の形成に硝子体—黄斑牽引症候群でみられるような前後方向の牽引が重要な役割をしていることを示す例である。このヒゲ状の牽引所見は黄斑円孔に発展する危険因子である。

臨床報告

涙腺原発の粘表皮癌の1例

著者: 木村久理 ,   阿部俊明 ,   所敏広 ,   玉井信 ,   後藤邦彦

ページ範囲:P.1339 - P.1343

 66歳男性が3か月前からの右眼球突出と複視で受診した。11年前に脳梗塞,3年前に胃癌手術の既往があり,11年前から右眼窩内の占拠性病変が発見されている。画像診断で,右眼窩の上外側部に境界明瞭な腫瘤があった。腫瘤は眼窩の上外側壁に広く接し,骨浸潤が疑われるCT所見があり,眼球を圧迫していた。複視と眼球突出が悪化し,眼窩内容除去術を行った。組織学的には腫瘍は粘表皮癌であり,涙腺由来であると推定された。摘出した腫瘍塊の断端に腫瘍細胞があったために,化学療法と放射線照射を行い,以後6か月間,再発はない。粘表皮癌は緩徐に発育し,組織型によっては予後不良であるので,今後の長期観察が必要である。

腫瘍摘出術を行った拡大傾向の著明な虹彩黒色細胞腫の1例

著者: 石井清 ,   国松志保 ,   小島孚允 ,   兼子耕

ページ範囲:P.1347 - P.1351

 60歳女性が右眼の虹彩腫瘍で紹介され受診した。腫瘍は色素が豊富で,直径は2.5mmであり,角膜後面に接触していた。以後14か月後に腫瘍は1.5倍に増大した。悪性黒色腫の可能性と角膜内皮細胞などへの悪影響などを考慮して腫瘍を摘出した。病理診断は虹彩黒色細胞腫であった。拡大傾向のある虹彩黒色細胞腫は悪性黒色腫との鑑別が困難であり,角膜内皮や水晶体に合併症が生じる可能性がある場合には摘出手術が望ましいことを示す症例である。

脳血管障害性眼球運動神経麻痺による麻痺性斜視の手術成績

著者: 河野玲華 ,   長谷部聡 ,   細川満人 ,   山根貴司 ,   白神史雄 ,   大月洋

ページ範囲:P.1353 - P.1357

 1984年から1999年に岡山大学医学部附属病院眼科で手術を行った,脳血管障害が原因と考えられる眼球運動神経麻痺28例を対象に臨床的特徴と手術成績を検討した。対象は虚血性眼球運動障害15例,脳内出血・梗塞によるものが13例で,病型は核上性麻痺10例,動眼神経麻痺8例,滑車神経麻痺6例,外転神経麻痺3例,核・核下性複合神経麻痺1例であった。全身合併症としては高血圧(54%)と糖尿病(21%)が多く認められた。手術で16例(57%)に機能的治癒が得られた。機能的治癒が得られなかった12症例のうち核上性麻痺が7例を占め,この原因として,脳内出血・梗塞の後遺症による融像機能障害や眼球運動神経支配の障害が推察された。

水晶体切除を併用した硝子体手術後の眼内レンズ二次挿入術

著者: 井上賢治 ,   櫻井真彦

ページ範囲:P.1359 - P.1363

 過去に硝子体手術と毛様体扁平部経由の水晶体切除術を受けた13眼に,毛様溝固定による二次的眼内レンズ挿入術を行った。全例で前嚢は温存されていた。硝子体手術が行われた原疾患は,増殖糖尿病網膜症6眼,硝子体出血12眼,ぶどう膜炎2眼,眼内炎2眼,黄斑円孔網膜剥離1眼であった。眼内レンズ挿入術後に2段階以上の視力低下は皆無であった。増殖糖尿病網膜症と細菌性眼内炎各1例で術後の角膜内皮細胞密度が10%以上減少した。術中・術後に重篤な合併症はなかった。過去に硝子体手術と水晶体切除を受けた眼に対して,毛様溝固定による眼内レンズ二次挿入術は有効であった。

コンピュータ断層撮影によるcalcified scleral plaqueの検討

著者: 高橋知子 ,   曽賀野茂世 ,   望月清文 ,   加納道久 ,   寺島圭一 ,   川上秀昭 ,   澤田明 ,   北澤克明

ページ範囲:P.1365 - P.1368

 Calcified scleral plaqueの発生頻度を頭部コンピュータ断層撮影(CT)を用いて検討した。頭部CTを施行した239例中6例(2.5%)に高吸収域が水平筋付着部付近に認められ,全例が70歳以上であった。高吸収域を認めた6例中4例で細隙灯顕微鏡によるcaLcified scleral pLaqueを確認した。また超音波生体顕微鏡を施行した1例ではacoustic shadowが認められ,本疾患の特徴的所見と考えられた。高齢者においてCT像で前眼部付近に石灰化像がみられた場合に鑑別疾患の1つとして念頭におくべき病態である。

飲酒起因の自己眼球摘出により視交叉部血腫を呈した1例

著者: 仁上靖 ,   鈴木美奈子 ,   君塚佳宏

ページ範囲:P.1375 - P.1378

 51歳男性が飲酒中に酩酊状態になり,転倒して右眼をジョッキに打ちつけた。脱臼した右眼を自分の指で摘出した。摘出された眼球は形を維持していたが,4直筋は付着部で断裂し,視神経は眼球の50mm後方で断裂していた。左眼に固視点を含む耳側半盲があり,視力は0.08であった。受傷4日後のコンピュータ断層撮影(CT)と磁気共鴫画像検査(MRDで視交叉部に径10mmの血腫があった。左眼の耳側半盲の原因として,血腫による視交叉部圧迫と視交叉部での神経線維損傷が考えられた。左眼の最終矯正視力は0.4に回復した。

硝子体手術後に黄斑円孔が生じた網膜静脈分枝閉塞症

著者: 後藤輝彦 ,   今井雅仁 ,   春山洋 ,   神戸孝

ページ範囲:P.1381 - P.1384

 54歳男性が1か月前からの左眼変視症と視力低下で受診した。左眼の矯正視力は0.3で,眼底に線維血管増殖膜と牽引性黄斑剥離があり,蛍光眼底造影で陳旧性の網膜静脈分枝閉塞症と診断した。硝子体手術で,増殖膜剥離,ガスタンポナーデ、眼内レーザー凝固を行った。手術1週後に全層黄斑円孔が発見された。黄斑円孔手術により円孔は閉鎖し,最終視力0.7が得られた。黄斑円孔の原因として,牽引性剥離で萎縮し薄くなった黄斑部網膜がガスタンポナーデで伸展され,中心窩で断裂した可能性が考えられた。

濾過胞を有する眼に対する超音波白内障手術の眼圧と濾過胞への影響

著者: 北田浩美 ,   中村弘 ,   南野麻美 ,   小林博和 ,   安田典子

ページ範囲:P.1385 - P.1389

 超音波白内障手術と眼内レンズ挿入術を,過去に線維柱帯切除術による濾過胞がある29眼に行った。原発開放隅角緑内障17眼,原発閉塞隅角緑内障6眼,嚢性緑内障6眼である。視力は29眼中24眼(83%)で改善した。眼圧は,術前と比較して術後24か月まで差がなく,眼圧が18mmHg以下の眼数は,術後1年で91%,術後3年で74%であった。濾過胞は,1年後で78%,3年後で55%で維持されていた。点眼スコアは,術前と最終観察時との間に差がなかった。濾過胞の生存期間が眼圧コントロール不良と有意に関係していた(p<0.05)。濾過胞がある白内障眼への超音波白内障手術と眼内レンズ挿入術が,視力と眼圧に関して有効で安全であり,術後の濾過胞の観察が必要であると結論される。

カラー臨床報告

内境界膜剥離術を施行した網膜細動脈瘤による内境界膜下血腫の1例

著者: 矢那瀬淳一 ,   栗原秀行

ページ範囲:P.1329 - P.1332

 74歳女性が右眼視力低下を4週間前に発症した。右眼視力は30cm指数弁であり,黄斑部に3乳頭径大の内境界膜下血腫と網膜下出血があった。蛍光眼底造影所見などから網膜細動脈瘤破裂による出血と診断した。その2週後に硝子体手術を行い,内境界膜を剥離して血腫を吸弓除去した。網膜下出血は中心窩外にあったので放置した。黄斑部に萎縮が残ったが,3か月後に0.7に改善した。内境界膜を剥離して血腫を吸引除去する手技が本症に有効であることを示す症例である。

インターフェロンβ投与により発症した腎性網膜症の1例

著者: 石井由佳 ,   久保田敏昭 ,   本田祐恵 ,   猪俣孟 ,   斉藤雅之

ページ範囲:P.1333 - P.1337

 33歳女性が4年前にC型肝炎と診断され,インターフェロンβの投与開始直後に受診した。矯正視力は正常で,近視以外に眼科的に異常はなかった。ネフローゼ症候群が発症し,投与は7週目で中止されたが,その5日後に矯正視力が右0.6、左0.1に低下した。両眼の乳頭周囲に軟性白斑が多発し,網膜の表層性出血,黄斑浮腫があった。さらに5日後に視力が右0.15,左0.06に低下した。星芒状白斑が出現し,腎性網膜症と診断した。5か月後に視力と眼底所見がほとんど正常化した。本症例は,インターフェロンβの投与により腎性網膜症が起こり得ることを示している。

やさしい目で きびしい目で・7

やさしい目で,きびしい目で

著者: 松村美代

ページ範囲:P.1369 - P.1369

 昔の眼科手術はつかむ・切る・縫うといった操作に習熟していればよかった。つまり手で手術を行ったわけで,足は顕微鏡操作だけであった。現代の眼科手術は足(つまりフットスイッチ)で行う手術といってもよいくらいだ。両足が自由に動かせるように,ベッドの高さやフットスイッチの配置を調整しておかないとやりにくい。人並はずれて短足である私は,手術室が替わるとベッドと床ばかり見ている。
 私が手術の修行を始めたころは,十分低くなる眼科用手術ベッドなどはなく,何でも外科用ベッドで行っていた。つまり立って手術するためのベッドである。初めて術者になる前,ベッドの下から師の声が聞こえてきた。「椅子にすわって,顕微鏡を覗いてみて,椅子の高さを調整して。あ,やっぱり足がぎりぎりだね。つま先立ちでは手術はやりにくいからだめですよ。顕微鏡とクライオのフットスイッチ(当時フットスイッチはこの2つしかなかった)を足台の上におきましょう。どう,このくらいの高さでよいかな? 楽に踏めますか?」指導医は手術ベッドの下にもぐりこんで足台を置いてくれていたのだった! 転勤先での初めての手術室では,いつもこの声が聞こえるような気がしたものだ。

専門別研究会報告(第104回日本眼科学会)2000.4.9京都

視野

著者: 山崎芳夫

ページ範囲:P.1390 - P.1391

 今回の専門別研究会「視野」は日本臨床眼科学会時の開催から日本眼科学会総会での開催に移り,初めての研究会である。演題は一般演題8題,教育講演1題,シンポジウム5題と,質量ともに充実した発表と討論が行われた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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