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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科54巻9号

2000年09月発行

雑誌目次

今月の表紙

網膜色素変性症

著者: 和田裕子 ,   鈴木武敏 ,   玉井信

ページ範囲:P.1527 - P.1527

 患者は9歳の男子で,右眼の視力低下を主訴に来院した。
 1か月前から右眼の視力低下,赤視症を自覚した。夜盲の自覚はない。親戚に全盲の人がいるという。初診時視力は右0.04(0.05),左0.05(1.2)で,訴えはないものの,電気生理学的検査ではERG,EOGともに網膜色素変性の所見を示した。OCTにより,視力低下の原因は黄斑部の軽度漿液性剥離によるものであることがわかった。

連載 今月の話題

緑内障の治療概念の変遷

著者: 谷原秀信

ページ範囲:P.1529 - P.1536

 緑内障に対する治療概念は,緑内障という眼疾患の理解が深まるにつれて変遷しつつある。本稿においては,このような緑内障治療概念の進化を,その流れのなかでわれわれが現在進めている研究を交えながらまとめたい。

眼の組織・病理アトラス・167

脈絡膜欠損

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.1538 - P.1539

 脈絡膜欠損choroidal colobomaは,胎生裂em-bryonal fissureの閉鎖不全によって起こる眼先天異常である。胎生裂の両縁では眼杯の内板が早く成長するため軽度に外反している。正常の発達では,胎生裂縁が接着すると未分化な網膜の両端で融合が起こる。しかし,胎生裂の閉鎖障害がある場合には,眼杯内板の外反が著しくなり,内板が融合できなくなる。同時に外板も癒合せず,そのために網膜色素上皮細胞層およびそれと密接な関係にある脈絡毛細血管板が発達しない。欠損部では強膜も発育が悪く,網膜も形成不全を示す。
 欠損は,胎生裂に一致して,視神経乳頭,脈絡膜,毛様体,虹彩に生じる。眼杯の下鼻側に発生するものを定型的欠損と呼び,下鼻側以外のもの,例えば黄斑欠損などを非定型的欠損と呼ぶ。多くは小眼球である。これを欠損性小眼球colobomatous microphtahlmosと呼び,欠損を伴わない真性小眼球nanophthalmosと区別する。視神経乳頭小窩optic pit,朝顔症候群morning glory syndrome,先天性傾斜乳頭症候群congenital tilted disc syndromeなどはいずれも欠損性小眼球に関係する先天異常である。また,胎生裂がいつまでも閉鎖しない場合には,内板の未分化な神経外胚葉性細胞が眼球外で嚢胞を作り,先天嚢胞眼congenital cystic eye,あるいは眼窩嚢胞を伴う欠損性小眼球coloboma-tous microphthalmos with cystになる。

眼の遺伝病・13

アレスチン遺伝子異常と網膜変性(1)—小口病-1

著者: 和田裕子 ,   中沢満 ,   玉井信

ページ範囲:P.1541 - P.1543

 小口病は常染色体劣性遺伝を示す停止性夜盲性疾患である。金箔様眼底を示し,長時間暗順応後に正常の眼底の色調に戻る水尾—中村現象が有名である。われわれは1995年にドイツとの共同研究で,アレスチン遺伝子1147delA変異が日本人小口病の高頻度変異であることを報告した。
 今回対象としたのは,小口病7家系10名である(図1)。表1に遺伝子検索の結果と臨床像のまとめを示す。また最も特徴的とされる金箔眼底に注目すると,金箔の分布にも黄斑部を含み眼底全体に認められるもの(+++),黄斑部以外の眼底全体に認められるもの(++),部分的にのみ認められるもの(+)と多様性が認められた(図2)。代表例を1症例ずつ紹介する。

眼科手術のテクニック・129

増殖糖尿病網膜症に対する増殖膜処理—膜分層におけるトラブルシューティング

著者: 白神史雄

ページ範囲:P.1546 - P.1548

 増殖糖尿病網膜症(proliferative diabetic retinopathy:PDR)は,この約10年間における硝子体手術の黄斑疾患への適応拡大に伴い,また重症例の減少によって,硝子体手術の中で話題になることが少なくなってきた。以前であれば当たり前であることを知らない術者が意外に多いようである。そのため,PDR手術の本当の恐さを知らない術者が,PDRに伴う黄斑浮腫例に手術をして,途中で立ち往生ということになりうる。そこで,復習も兼ねて,増殖膜処理の中で手技的に難しい膜分層(delamina-tion)におけるトラブルへの対処を中心に述べる。

他科との連携

そう遠くない未来の「連携」

著者: 針谷紀

ページ範囲:P.1598 - P.1599

 西暦200×年,○×医科大学附属病院眼科外来にて「どうしましたか?」と患者さんに問診すると,3日前から右眼の視力低下を自覚したために受診したとのこと。糖尿病の既往があり,5年前より内服での治療を近医で受けているという。私は,すぐに患者さんの国民ID番号を聞くと,医療ネットワークにアクセスした。もちろん,電子カルテを閲覧することの同意書にサインをもらったのはいうまでもない。最後に,患者さんに暗証番号を入力してもらい,手続きを経て内科のかかりつけ医の電子カルテを閲覧した。投薬内容,最近の血液データなどを確認し,主治医宛に電子メールで,現在の状態についての診療情報の提供を依頼しておいた。明日の午後までには,電子メールで返事が届くはずだ。

臨床報告

嚢胞様黄斑浮腫に対する内境界膜剥離とガスタンポナーデ

著者: 高橋京一 ,   宇都木憲子 ,   岸章治

ページ範囲:P.1555 - P.1560

 網膜循環障害に随伴する遷延性の嚢胞様黄斑浮腫に対する内境界膜剥離とガスタンポナーデの有効性を検討した。光凝固治療にもかかわらず6か月以上びまん性黄斑浮腫が持続した糖尿病網膜症7眼,網膜中心静脈閉塞症4眼,網膜静脈分枝閉塞症1眼を対象として,内境界膜剥離を併用した硝子体手術とSF6ガスによるタンポナーデを行った。12眼中10眼で嚢胞様黄斑浮腫を合併していた。術前に5眼で後部硝子体剥離があった。手術後早期から黄斑浮腫は改善し,術後1〜7か月の間に12眼中11眼で嚢胞様黄斑浮腫は不明瞭化し,光干渉断層計では網膜外層の膨化の減少と嚢胞の縮小ないし消失が観察された。12眼中7眼(網膜中心静脈閉塞症2眼,糖尿病網膜症5眼)で視力が2段階以上向上したが,黄斑浮腫発症から手術までの期間が短いほど最終視力がよい傾向にあった。内境界膜剥離とガスタンポナーデは,遷延化した嚢胞様黄斑浮腫の改善に有効であると結論される。

緑内障・白内障同時手術の成績

著者: 日比安以子 ,   杉田美由紀 ,   西澤きよみ ,   遠藤要子 ,   渡辺洋一郎 ,   中村聡 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1561 - P.1565

 過去23か月間に緑内障と白内障同時手術を行った26眼を検索した。術式は,マイトマイシンC併用線維柱帯切除術,水晶体超音波乳化吸引術,折りたたみ眼内レンズ挿入術である。同時期にマイトマイシンC併用線維柱帯切除術を単独で行った41眼を対照とした。Kaplan-Meier法で解析した術後6か月以上での眼圧調整率は,同時手術群では83.3%,単独手術群では78.0%であり,両群間に差はなかった(p=O.698)。同時手術群では77%で2段階以上に視力が改善した。今回の手技による緑内障と白内障同時手術は有用であると結論される。

石原式と韓式色覚検査表における混同色

著者: 韓天錫

ページ範囲:P.1567 - P.1570

 石原式色盲検査表と韓式色覚検査表において,第1,第2色覚異常検出ならびに分類程度区分用混同色が異なっている。それは石原氏が1916年,色覚異常者を相手に実験により,筆者は1975年,Judd氏色覚異常者混同色理論に従い,CIE色度図を用い色覚検査表を考案したためである。
 筆者はミノルタ分光測色計を用い,混同色を測定して.得られたデータをCIE色度図上にプロットし,その正確度につき検討した。韓式表の検出用混同色は5GY (緑)と10YR (褐色),分類程度用混同色は10RP (紫赤)と2.5BG (青緑)で測定した結果,ほとんど一致しているが,石原表は検出と分類用混同色がともにCIE色度図の上で混同色線に対し,誤差が多く認められた。

黄斑円孔手術後の耳側視野欠損症例の長期経過

著者: 迫田由紀子 ,   上村昭典 ,   土居範仁

ページ範囲:P.1571 - P.1575

 黄斑円孔に対する硝子体手術後に耳側周辺視野欠損を生じた症例のうち,術後2年以上経過が追えた6例7眼について視野異常の変化と眼底変化とを検討した。術後平均45か月の観察期間を経ても視野異常の程度に変化はなかった。経過中に上鼻側眼底に変化が生じたものが5眼あり,その最も特徴的な所見は限局性の網脈絡膜の変性萎縮であった。以上のことから,黄斑円孔手術後の周辺視野欠損は術後長期間を経てもその程度は変化しないこと,視野異常に相当する眼底に網脈絡膜変性が出現してくる例があることがわかった。

傍乳頭肉芽腫を呈した視神経炎の1例

著者: 中村弘佳 ,   三嶋弘 ,   末廣龍憲 ,   地庵浩司 ,   小坂敏哉 ,   横山光伸

ページ範囲:P.1577 - P.1582

 11歳女児が髄膜炎の疑いで小児科に入院中に,右眼の視力低下を自覚した。矯正視力は,右0.03,左1.2であった。右眼の視神経乳頭は発赤腫脹し,その下方に肉芽腫様病変があり,傍乳頭肉芽腫を伴う視神経炎と診断した。当初サルコイドーシスを疑い,ステロイドパルス療法で病変は軽快した。しかし,全身検査でサルコイドーシスの所見がないこと,抗トキソカラ抗体が陽性であること,犬飼育歴があることから,眼トキソカラ症であると診断した。

光干渉断層計で網膜神経線維層変化が観察された前部虚血性視神経症の1例

著者: 田中剛 ,   石田為久 ,   岡田由香 ,   雑賀司珠也 ,   吉富健志 ,   大西克尚

ページ範囲:P.1583 - P.1587

 57歳女性に左眼の上方視野欠損が突発し,その6日後に受診した。矯正視力は右1.0,左0.05であった。左眼の視神経乳頭は境界不鮮明で蒼白浮腫状であり,その下方の網膜に出血斑と動脈の狭細化があった。蛍光造影所見などから,左眼の前部虚血性視神経症と診断した。発症9日目の光干渉断層計による検索で,左眼の神経線維層厚が乳頭下方では増加し,上方では菲薄していた。発症68日目には,神経線維層厚が乳頭の全周で著しく菲薄化していた。その後,菲薄化はやや回復したが,最終視力は0.02であった。前部虚血性視神経症では,早期から神経線維層の異常が生じることを示す症例である。

向精神病薬の長期投与により発症したと考えられる水晶体,角膜混濁の1例

著者: 角田雅宏 ,   阿部俊明 ,   玉井信

ページ範囲:P.1589 - P.1592

 58歳の女性が,両眼周囲の痒みで受診した。20歳の頃から精神分裂病があり,フェノチアジン製剤,プロムペリドール,カルバマゼピン,塩酸メチキセンの4種を10年以上前から服用していた。軽度の眼瞼炎があり,矯正視力は両眼とも1.0以上であった。両眼の角膜後面にびまん性の黄白色の色素沈看があり,水晶体内部に黄白色の細粉が散在していた。角膜浮腫はなく,角膜内皮細胞密度は正常値であった。向精神薬の長期投与によって,視力障害を伴わない角膜と水晶体に色素沈着が生じうることを示す症例である。

白内障術後早期に角膜穿孔した1例

著者: 早野真紀 ,   田中稔 ,   木村吉孝

ページ範囲:P.1601 - P.1604

 93歳男性の右眼の白内障手術を行った。上方に強膜トンネルを作製し,10時と2時の位置にサイドポートを作った。水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入を行ったが,核が固く,術中に後嚢が破損して手術に50分を要した。術翌日から,角膜浮腫,前房出血,前房混濁が生じ,3日目に角膜中央部が融解穿孔して眼内レンズが脱出した。6日目に角膜融解部は径7mmになり,壊死部切除と角膜輪部縫合による結膜被覆を行い,義眼を装着した。全経過中,原因菌は検出されなかった。術後感染症を予防するために,眼周囲の皮膚や腱毛の徹底的消毒,結膜嚢の消毒の強化,耳側切開の禁止,縫合の実施などが必要であると考えられた。

巨大内頸動脈瘤による圧迫性視神経症の1例

著者: 山本亜紀 ,   滝昌弘

ページ範囲:P.1605 - P.1610

 76歳の男性に左眼視力障害が突発した。左眼矯正視力は0.6であったが,その4か月後に0.02に低下した。眼底に異常所見はなかった。脳血管造影などで両側の内頸動脈瘤が発見され,動脈瘤による圧迫性視神経症と診断された。左は内頸動脈サイフォン部から中大脳動脈に及ぶ巨大血管瘤であった。動脈瘤は両側性なので手術は行わなかった。以後右眼にも視野狭窄が生じ,初診から2年後の現在,矯正視力は左眼指数弁,右眼0.4である。原因不明の視力障害が内頸動脈瘤に続発しうることを示す症例である。

ミトコンドリア遺伝子の3460番塩基対変異を認めたレーベル病の1例

著者: 由井あかり ,   堀田喜裕 ,   藤木慶子 ,   武田美佐子 ,   村井恵子 ,   林誠一郎 ,   金井淳

ページ範囲:P.1613 - P.1616

 43歳の男性が,4か月前からの両眼視力低下で受診した。矯正視力は左右とも0.03であり,両眼眼底に視神経乳頭の蒼白化があった。蛍光眼底造影で特に異常はなく,両眼に中心暗点が検出された。家族歴については協力が得られなかったが,孤発例であると推定された。臨床所見からレーベル病が疑われ,ミトコンドリアDNAを検索した。11778番塩基対には異常がなく,稀な異常である3460対のGからAへの変異があり,レーベル病の診断が確定した。

カラー臨床報告

網脈絡膜炎が先駆した亜急性硬化性全脳炎

著者: 後藤温子 ,   宮川真一 ,   宮嶋聖也 ,   根木昭 ,   友田明美 ,   三池輝久

ページ範囲:P.1549 - P.1553

 8歳男児が右眼の黄斑変性で紹介された。矯正視力は右0.2,左1.2であった。その21か月後に左眼の黄斑部と周辺部に滲出斑と血管炎が生じたが,1か月で消炎し,黄斑部は右眼に酷似する瘢痕病巣になった。この頃から軽度の健忘症状が現れ,続いてミオクローヌス様不随意運動と意識消失発作が生じた。髄液のPCR解析で麻疹ウイルスが検出され,亜急性硬化性全脳炎と診断された。亜急性硬化性全脳炎では,精神神経症状の出現以前に,特徴的な網脈絡膜炎が先駆することがあることを示す1例である。

やさしい目で きびしい目で・9

『医師と女性を両立するのは難しいけれど』

著者: 湯沢美都子

ページ範囲:P.1593 - P.1593

 医学部を卒業すると女性でも医学という広い分野に進出し,仕事をする権利が与えられるが,それには義務を伴う。少し前まで,結婚,出産と医学の両立が難しかったのは,主に社会構造のためであると思っている。以下は結婚と出産についての私の持論であり,若い女医さんに贈るエールである。

調査報告

アンケート調査からみた学校眼科検診

著者: 田辺由紀夫

ページ範囲:P.1617 - P.1620

 眼科検診や目・視力についての生徒の意識を知るためにアンケート調査を行った。対象は公立高校の1年生で,1997年から1999年の毎年.眼科検診前に調査用紙を配布,回収した。総数は883件であった。アンケートの結果,眼科医の行う検診の印象は薄く,眼科というと視力検査の印象が強いことが示唆された。また,生徒の視力についての関心は高いものの,視力や屈折異常についての誤解が多いと考えられた。この結果と現在の疾病構造や社会環境を考え合わせると,今後の眼科校医の役割として,正しい知識の啓発が重要と考えられた。

専門別研究会報告(第104回日本眼科学会)2000.4.9京都

Closed Eye Surgery

著者: 三宅養三

ページ範囲:P.1622 - P.1623

 昨年までは本会は秋の臨床眼科学会のサテライトとして行われてきたが,2000年から日本眼科学会の最終日の翌日(日曜日)の午前中に開催されることとなった。この移動に関して意見を求められたことがあり,世話人の立場からは引き続き臨眼で行うことを希望した。しかし「Closed Eye Surgery」には毎年500人を越す参加者があり,専門別研究会の中で最も観客動員数の多い会であったため,日眼にもっと人を集めることを目的としたこの移動には賛同せざるをえなかった。しかし4月9日(日)の本会には50名足らずの参加者しかなく,今までのあれだけの参加者は臨眼という背景の賜物であったことを痛感した。
 今年度は4題の一般講演と3時間のシンポジウム「黄斑移動術」を企画した。一般講演は9時から10時まで樋田哲夫教授(杏林大)の座長で行われた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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