icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科55巻10号

2001年09月発行

雑誌目次

特集 EBM確立に向けての治療ガイド 序文

EBM構築の第一歩となることを願って

著者: 西田輝夫

ページ範囲:P.6 - P.7

 医学が“Art and science”であるとよくいわれています。Artは個人の資質に依存し一代限りの伝承できない秘伝の部分があることは否めませんが,scienceには時空を超えて常に再現性があることが求められます。私たちが教育を受け実践している医療は,その大半がscienceとしての医学の進歩に依存しています。また,病気で苦しんでいる人々に対して本当に必要なのは,どの医師が行ってもある一定の成績を期待できる,しかも高度なレベルの医療です。医師個人の一代での力で医学や医療が築き上げられてきたのではありません。先人たちの努力と葛藤と反省のなかから,私たちが今日行っている医療が築き上げられてきました。一人一人の医師の経験を集約することも人切ですし,同じ時代を生きている医師同士の知識の交換とともに次の世代への知恵の継承をも行わねばなりません。同僚や次の世代の医師に私たちが手に入れた知恵を分け合い,伝承することが大切です。
 近年Evidence-Based Medicine (EBM)という概念が強調されてきています。豊富な知識と経験を持っておられる医師は,当たり前のこととして個人のデータベースに基づいてEBMを何気なく実践しています。それらの個人的なデータベースを,社会としてより大きなより信頼できるデータベースとして構築し,患者も医師もすべての人々がこれらの知識を共有できるシステムを構築しようとするものです。

小児眼科

はじめに—小児眼科におけるEBM

著者: 根本裕次

ページ範囲:P.8 - P.9

知らぬは医者ばかりなり!?
 小児眼科には他の眼科分野にみられない医療上の特徴がある。それは,異常の発見,治療方針の決定,そして治療効果の評価をするのは,患児本人ではなく周囲の人間,特に親の役割が非常に大きい,という点である。大学病院や専門病院の外来には患児に付き添って親が来院するが,近年「この治療法では,成功率はどの位で,どこまで治るのか?」「前医が勧める治療法よりも優れたものはないか?」「治療方針に納得できない」というセカンド・オピニオン説明の希望が目立つようになってきた。
 この変化には,少子化,情報の発達など,現代の社会的状況が反映していると思われる。患児の親の世代(30〜40代)は,子供の数が少なく,育児に手を掛ける習慣が普遍化しており,治療による改善要求水準も高い。そして,その判断材料として,視力や手術成功率など,数字で表すことのできる客観的そうなデータを重視する。さらに,この世代はインターネットなどを駆使した情報収集が上手である。現在,インターネット上では,疾患についての解説から,どの医師が何の治療をしているかなどの膨大な情報が公開されており,しかも時間とともに増加の一途をたどっている。

未熟児網膜症とEBM

著者: 吉村圭子

ページ範囲:P.10 - P.22

はじめに
 未熟児網膜症は新生児の網膜血管の未熟性を基盤として酸素の影響により発生,進行する網膜血管増殖性疾患である。多くの血管増殖性疾患と同様,わが国では凝固治療が試みられ1,2),普及してきた。本症は失明に至る可能性がある一方で自然治癒傾向の強い疾患でもある。このことが諸外国において凝固治療の有効性を疑問視する一因であった。アメリカでは本症の活動期に対する積極的な治療は長く行われてこなかったが,1990年に冷凍凝固に関する多施設共同研究(CRYO-STUDY)がなされ,冷凍凝固の有用性が認められた3〜5)。その後,双眼倒像鏡用のレーザー装置の普及により光凝固に冷凍凝固と同等の有用性が認められ6,7),凝固治療の主流となっている。近年,新生児の全身管理は飛躍的に進歩したが,本症の基盤は未熟性であるだけに予防は困難で,出生児の救命率の上昇に伴い以前よりも超低出生体重児の割合が増加し,重症の未熟児網膜症が増えてきたともいえる。本稿ではレーザーなどの凝固治療を中心に本症の眼科的管理について述べる。

内斜視治療とEBM

著者: 久保田伸枝

ページ範囲:P.24 - P.31

はじめに
 内斜視は,小児期に治療しなければならない疾患である。内斜視のなかにはいくつかの種類があって,それにより治療法・予後が異なるために種類別の検討が重要である。また,内斜視は小児に多い疾患であるが,長期の経過観察が必要であり,治療成績も長期予後を踏まえてなされなければならない。
 内斜視の治療は,調節性内斜視以外は手術である。斜視手術は,術式,手技,量定などが各術者で微妙に異なるために,多施設の成績を基に評価することは難しい。そこで,小児の内斜視について,種類別・長期予後を重視して,一施設で同じ方針で多数例について長期間観察したデータ1〜3)を基に治療法および治療成績について検討する。

外斜視治療とEBM

著者: 林孝雄

ページ範囲:P.32 - P.39

はじめに
 外斜視の治療目的は,眼位を矯正し,両眼視機能を正常に回復させることである。治療方法には非観血的治療と手術とがあるが,手術の場合,外斜視の種類によっては過矯正や低矯正になったり1),術後の長期経過により術直後の良好な眼位がずれ,いわゆる外斜視の“再発”をきたすことも少なくない。また良好な眼位が保たれているにもかかわらず,正常な両眼視機能が得られないこともある。すべてに満足のいく結果が得られない場合もあるので,それぞれの患者や家族が満足するような治療法をともに話し合いながら,インフォームドコンセントをしっかり行い,治療を行っていかなければならない。
 外斜視の種類には主に表1に示すようなものがある。このうち,臨床的に最も多くみられるのは間歇性外斜視である。そこで,ここでは主に間歇性外斜視を中心に,しかも,治療としての手術療法を中心に検討してみる。

弱視のEBMを目指して

著者: 羅錦營

ページ範囲:P.40 - P.48

弱視の定義
 弱視の定義は「一眼または両眼に斜視や屈折異常があったり,形態覚の遮断または健眼からの異常な両眼相互作用が原因で生じた視機能の低下」とすることができる1)。これらの機序は,1)適宜な中心窩また周辺網膜刺激の欠如による不使用(視覚入力系),2)両中心窩からの闘争性視覚入力における異常な両眼相互作用(皮質有線領),として考えることができる。弱視は,サルの実験的結果とヒトの病理的所見の相似性から,臨床的には異なっていてもほぼ同一の病態ではないかと推測されている(表1)1〜3)

角膜疾患

はじめに—角膜疾患のEBM

著者: 小幡博人

ページ範囲:P.50 - P.51

 われわれ医師は,患者に対し病状,検査,治療,予後などについて説明する責任がある。そして,それを実際に履行しなければならない。では,どのように実践するのが理想的であろうか。今までの経験的,習慣的,耳学問的な感のあった医療をもう一度見直し,evi—dence (証拠,根拠)に基づいた科学的,論理的,合理的な患者中心の医療が求められる時代になっている。
 EBM (evidence based medicine)の概念は1991年に始まり,現在世界各国へ広がりつつある。EBMは「根拠に基づく医療」と一般的に訳されているが,その定義は最近の検討会の報告によると,①利用可能な最善の科学的根拠,②患者の価値観および期待,③臨床的な専門技能の3要素を統合し,患者の立場に立った医療を目指すもの1),である。

角膜感染症治療におけるEBM

著者: 宇野敏彦

ページ範囲:P.52 - P.61

はじめに
 角膜感染症は起炎菌の菌量・菌力も千差万別で感染部位の違いなども加わり,画一的な考え方が困難な疾患である。このため,昨今のevidence-based-medicine (EBM)に基づいた治療方法があまり考慮されず,習慣的な処方が行われてきた感がある。さしあたって,われわれができることとしては,薬理学的にこれまで理解されている事項や,全身感染症において行われている試みを整理し,眼科的にどのような応用が可能か考察することではないだろうか。
 角膜感染症として代表的な細菌性角膜炎・真菌性角膜炎・角膜ヘルペスに関連し,少しでもEBMに近い,合理的な治療方法を考えていく一助になることを目的として,最近の知見をまとめてみたい。

角膜移植におけるEBM

著者: 山田昌和

ページ範囲:P.62 - P.71

はじめに
 Evidence-based Medicine (EBM)は,「個々の患者を治療するうえで最良の科学的根拠を求めるための臨床疫学的方法論」と定義される1)。従来,分離しがちであった臨床医学と臨床疫学を結びつけ,臨床疫学を「個々の」患者の診断や治療,予後の判定に活用していくための方法論である。この意味でEBMは,あくまでもpatient-orientedなものであり,医療費抑制のための画一的な診療ガイドラインや米国のメディケアが目指すものとは対極に位置する。
 ここでは角膜移植に関係したさまざまな臨床的場面で,診断,検査,治療,予後などの判定にEBMをどのように適用できるのか考えてみることにする。一般に,EBMで臨床判断を裏付ける根拠を得るためのステップは,
  (1)臨床問題(臨床例)
  (2)臨床上の質問の抽出
  (3)最も可能性の高い供給源の選択  (4)検索戦略
  (5)得られた根拠の批判的吟味と要約  (6)根拠の適用から成る(表1)1)。このうち(3)の根拠の供給源としては,当該施設のデータベース,教科書,文献データベースなどが考えられる。ここでは自前のデータベースとして慶應義塾大学医学部眼科学教室での成績(論文になっているもの)を,教科書としてKrachmerらのCornea2)を,文献データベースとしてMed—lineを用いるものとした。

ドライアイのEBM

著者: 横井則彦

ページ範囲:P.72 - P.85

はじめに
 近年の医療における治療方針の決定の流れとして,根拠に基づく医療(evidence based medicine:EBM)が求められ,眼科診療においてもEBMに基づくことにより,より効果的な治療を行うことができる可能性がある。本稿では,角膜上皮障害のなかでも点状表層角膜症(superficial punctate keratopathy:SPK)をきたす代表疾患であるドライアイに的をしぼって,当科での考え方や治療法を紹介しながら,検討してみることにした。
 ドライアイにおいては,現行の検査の感度に難点があり,症例の重症度を一致させることが難しいことや,本邦において使用可能な点眼液の種類が限られていることなどのために,客観性のある根拠を文献的に得ることは難しい。当科でのアプローチや考え方(他施設から得た考え方を大いに含むものであるが)を示すことによって,今後のEBMの確立に向けて何らかの手がかりを提供できれば幸いである。

円錐角膜治療におけるEBM

著者: 林仁 ,   前田直之

ページ範囲:P.86 - P.94

はじめに
 円錐角膜のEBMを論ずるにあたり,まず症例を呈示しよう。
 〈症例〉32歳,男性

結膜疾患

はじめに—結膜疾患治療のEBM

著者: 熊谷直樹

ページ範囲:P.96 - P.97

 結膜炎,翼状片をはじめとする結膜疾患は臨床でしばしば遭遇する疾患である。これらの結膜疾患は軽症例が多く,失明に至る重症例は少ない。このために眼科研修や臨床研究の対象としてはあまり重要視されない場合もある。このために,EBMを導くに足る臨床データの蓄積が内眼部の疾患に比して少ないともいえる。われわれは,これらの疾患は現在用いられている治療でほとんどの結膜疾患を適切に治癒に導くことができると仮定して日常診療を行っている。
 しかしながら,この仮定は必ずしも正しくないようである。「アレルギー性結膜炎」の項で高村先生が記載されているように二重盲検にて抗アレルギー薬の単独投与で中等度以上の改善を示す症例は一般に60〜75%程度であり,4人に1人は薬剤が無効である。実際にはプラセボ投与群でも,実施された国を問わず一般に40%程度が中等度以上の改善を示している。したがって抗アレルギー薬の点眼液に含まれる薬物の薬効で症状が改善する症例は20〜35%程度に過ぎないことになる。われわれが,抗アレルギー薬の有効性として判定しているものの大半の有効性が抗原や生理活性物質を洗い流すことや,点眼することによる安心感や期待感,アレルギー結性膜炎の季節性の自然寛解によって得られている可能性がある。また,「翼状片」の項で近間先生が記載されているように,翼状片の患者では初回に結膜有茎弁移植を行った患者でも17%に再発がみられ,再発した患者ではさらに治療成績が悪い。このように,日常われわれが接している結膜疾患に対して,すべての症例を治癒せしめるレベルには達していないのが現状である。

EBMに基づいたアレルギー性結膜炎の治療薬

著者: 高村悦子

ページ範囲:P.100 - P.108

はじめに
 1984年に抗アレルギー点眼薬であるインタール点眼薬が医薬品として用いられるようになる以前は,アレルギー性結膜炎の治療には,血管収縮薬の点眼や,ステロイド点眼薬が用いられていた。しかし,ステロイド点眼薬には,ステロイド緑内障などの副作用があるため,治療の継続が必要となるアレルギー性結膜炎に対しては,安全性の点からも現在では抗アレルギー点眼薬が第一選択薬として不動の位置を保っている。その上,スギ花粉症患者の増加も拍車をかけ,わが国は欧米諸国に比べ抗アレルギー点眼薬が早くから注目され,種々の抗アレルギー点眼薬を処方することができる。しかし,これらの抗アレルギー点眼薬の効果には差があるのか,何か特徴があるのかといった疑問も出てくる。
 そこで,スギ花粉症の症例を呈示し,現在用いられている抗アレルギー点眼薬について,アレルギー性結膜炎に対し行われた臨床試験の結果をもとに治療薬の評価を見直してみたい。

翼状片治療のEBM

著者: 近間泰一郎

ページ範囲:P.110 - P.118

はじめに
 翼状片は日常診療においてしばしば遭遇する疾患である。診断は比較的容易であるが,悪性でないにもかかわらず再発しやすい。再発を抑制するためのさまざまな手術法が紹介され,その結果が報告されてきた。しかしながら,手術の適応や術式の選択に関してはいまだに施設間あるいは術者間で差があり,統一された結論がないのが現状である。Evi—dence based medicine (EBM)を提供するためには,多数の翼状片症例に対して同一の治療法での治療効果を同一の判定基準で評価する必要がある。本稿では,翼状片について特に治療法に関する現在までの報告を参考にしながら,EBMの確立に向けての展望を考えてみたい。

水晶体・屈折矯正

はじめに—水晶体・屈折矯正のEBM

著者: 大木隆太郎

ページ範囲:P.120 - P.121

 ものを見るということ。これは,眼底および視神経を含む中枢系が健常であれば,光が角膜と水晶体によって屈折して網膜に結像することに始まる。視機能のうちで最も重要な視力の基本が屈折であり,そこには調節という生理機能も介在するだろう。単に見えるということではなく,より快適に見えるということ。今われわれ臨床医に問われていることは,よりqualityの高い視力を,いかに提供するかということである。
 屈折矯正といえば,医学の世界にとどまらず社会に多くの話題を提供しているのが,手術治療である。この手術による屈折矯正は,医療経済をはじめとする多くの問題を抱えているが,RK (radial keratotomy)に始まり,PRK (photorefractive keratectomy)からLASIK (laser in situ keratomileusis)へ発展し,成果を挙げていることは否定できない。

白内障治療のEBM

著者: 綾木雅彦 ,   谷口重雄

ページ範囲:P.122 - P.129

はじめに
 白内障の診療は眼科医にとって最も多い業務であり,診療ガイドを作成することは非常に重要である。ここでは筆者らの施設での方法と10,000例以上の統計結果を示し,日常診療ならびにインフォームドコンセントの参考資料となるようにしたい。また,文献の他に日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート結果やアメリカ眼科アカデミーのガイドラインも紹介し1〜5),EBM6)確立に向けての白内障診療ガイドを作成してみた。なお,本診療ガイドでは成人の白内障を対象としており,小児白内障は該当しない。

屈折矯正手術のEBM

著者: 山口達夫

ページ範囲:P.130 - P.140

 近年,近視,乱視,遠視などの屈折異常を手術的に矯正する術式が種々開発されてきた1,2)。なかでもエキシマレーザーを用いるPRK (photorefractive keratectomy)とLASIK(laser in situ keratomileusis)はこの10年間の主役であり,現在はLASIKが圧倒的に数多く行われている3,4)。2000年に米国では140万人がLASIKを受けたといわれており,また日本でも2万人が矯正手術を受け,そのほとんどがLASIKであろうといわれている。
 一方,1990年代に入って導入された「信頼できる最新のデータに基づいた理に適った医療」,すなわちEBM (Evidence-based Medi—cine)は多くの医療人に支持され,客観的な臨床データを重視した患者指向の医療の流れのなかで重要な位置を占めつつある5)

調節治療のEBMを目指して

著者: 梶田雅義

ページ範囲:P.142 - P.151

はじめに
 Gullstrand1)によれば,光が眼球内に入り,角膜と水晶体によって屈折し,網膜上に結像することを眼屈折という。広義には,ある調節状態の機能的結像状況を屈折と呼ぶが,通常は調節休止状態での結像状況を屈折と呼ぶことが多い。これに対して,近方視のために水晶体の屈折力を変化させて一時的に変動した屈折状態を動的屈折,あるいは調節という。
 調節機能は視覚の成立に関する最も重要なシステムの1つであり,全身の異常に最も鋭敏に反応することはよく知られている。IT革命が急速に進行している現在,長時間の近方作業を強いられる環境も少なくなく,わずかな調節異常でも容易に眼精疲労を発症する。このような環境と生体との関わりの変化を熟知せず,これに応じた処理がなされないとき,患者の訴えを理解するだけの臨床検査成績が得られない。

ぶどう膜疾患

はじめに—ぶどう膜疾患のEBM

著者: 内尾英一

ページ範囲:P.152 - P.153

ぶどう膜疾患治療におけるエビデンスの実際
 ぶどう膜疾患の大部分はいわゆるぶどう膜炎であり,本邦ではベーチェット病,原田病およびサルコイドーシスの3大内因性ぶどう膜炎をはじめとして,多数の疾患が知られている。ぶどう膜炎は眼内炎などの感染性のものを除くと原因不明であるものがほとんどで,治療の主体は薬物治療による内科的治療である。シクロスポリンやタクロリムスをはじめとする免疫抑制薬の開発によって治療成績には進歩がみられ,数多くの臨床研究や基礎研究も報告されている。本章ではぶどう膜疾患の治療をステロイド薬,免疫抑制薬および手術治療の観点からEBMの応用の現状とその問題点について,それぞれの専門のエキスパートに論じていただいた。
 一般にはエビデンスとしては通常文献を用いるが,その研究の証明力は,他の章でも述べられているように,ランダム化比較試験>コホート研究>症例対照研究>症例報告の順に強く,特に治療の有効性の評価としては実際にはランダム化比較試験でなければならないとされている。しかし,ぶどう膜炎の治療の報告としてはランダム化比較試験によるものは疾患の重症度が高いことや,症例数が確保しにくいことなどから極めて少ない1)。文献で治療成績が報告されているものの多くはコホート研究である2〜4)

ぶどう膜疾患ステロイド薬治療のEBM

著者: 南場研一 ,   小竹聡

ページ範囲:P.154 - P.162

はじめに
 ステロイド薬は抗炎症作用と抗免疫作用を有し,広くさまざまな疾患に対して用いられている。十分なEBMに基づいたものとはいえないが,ステロイド薬がぶどう膜炎の治療にも広く用いられてきたことは事実である。しかし,ぶどう膜炎といってもその原因にはさまざまなものがあり,当然その治療法も千差万別であるため,画一的に「ぶどう膜炎にはこのようにステロイド薬を使いなさい」とはいえない。また,副作用の多い薬剤であること,使い方によってはリバウンドを起こしうること,免疫抑制作用を持つため感染症を悪化させうること,これらを十分理解した上で使用すべきである。
 ここではまず最初に,ステロイド薬を使う際に気をつけるべき点を述べ,のちに代表的な疾患についてその使用法を述べたい。ただし,ステロイド薬点眼については触れない。

ぶどう膜炎免疫抑制薬治療のEBM

著者: 中村聡 ,   石原麻美

ページ範囲:P.164 - P.171

ぶどう膜炎と免疫
 免疫応答とは,微生物をはじめとする環境からの侵襲(非自己の抗原)を排除する目的で起こる一連の生体反応であり,個体が生存するために不可欠な反応である。しかしこの反応はときに過剰に働き,自身に害を及ぼす場合がある。眼科領域においてぶどう膜炎は免疫応答の亢進によって引き起こされる疾患の代表であり,治療にあたっては,現時点で選択できる免疫抑制薬の効果と副作用を十分理解している必要がある。
 現在臨床の場で用いられている主な免疫抑制薬として,プリン代謝拮抗物質であるアザチオプリン(イムラン),6—メルカプトプリン,ブレディニン(ミゾリビン),細胞毒(アルキル化薬)であるシクロフォスファミド(エンドキサン),あるいはいわゆるイムノフィリンリガンドのシクロスポリン(サンディミュン)などがある。いずれも副作用や管理の難しさを考えると,原因不明の難治性網膜ぶどう膜炎や,重篤な眼発作を頻発するベーチェット病のような症例にその適応があり,日常的に用いられるものではない。以下にシクロフォスファミドとシクロスポリンの特徴と使用法,使用上の注意について述べる。

ぶどう膜炎併発白内障における手術成績

著者: 薄井紀夫 ,   鎌田研太郎 ,   毛塚剛司 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.172 - P.181

緒言
 ぶどう膜炎に対する治療の基本は,適切な抗炎症療法を行うことによって虹彩,毛様体,脈絡膜の炎症性変化を最小限に抑えながら,周囲の角膜,線維柱帯,水晶体,硝子体,網膜,視神経などに及ぶ影響を可能な限り防ぐことにある。したがって,もしぶどう膜炎の初期治療において完全な消炎ができれば,ほとんどの場合において手術治療の必要性はないわけである。しかし,実際にはぶどう膜における短期間の著しい炎症や,あるいは炎症の遷延化や可燃により,ぶどう膜および周囲組織において保存的治療だけでは不可逆的な障害が発生する結果,手術療法が必要となる。
 ぶどう膜炎において手術が必要な局面は,ぶどう膜炎併発白内障に対する白内障手術,続発緑内障に対する周辺虹彩切除術や線維柱帯切除術,感染性ぶどう膜炎やサルコイドーシスあるいは悪性リンパ腫の眼内浸潤などにおける硝子体混濁およびウイルス性壊死性網脈絡膜炎に合併する網膜剥離に対する硝子体切除術などである。その他,非観血的な手技として光凝固療法が適応となる場合もある。いずれの手術においても,ぶどう膜に炎症を有している眼に対して,あるいは炎症の既往があった眼に対して外科的な侵襲を加えることでさらに炎症を誘発する危惧が考えられ,以前はその適応に関してかなり慎重に判断されてきた。

網膜・硝子体疾患

はじめに—網膜・硝子体疾患のEBM

著者: 山口克宏

ページ範囲:P.182 - P.183

 今日,眼科領域においても科学的根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)の重要性が広く認識されつつある。一般的に,EBMは,1)利用可能な最善の科学的根拠,2)患者の価値観および期待,3)臨床的な専門技能の3要素を統合するものと期待され,IT (情報技術)革命の波に乗って急速に普及してきている。その実践手順には,以下のステップがあると考えられている。すなわち,(1)目の前の患者に関して臨床上の疑問点を抽出する,(2)疑問点に関する文献を検索する,(3)得られた文献の妥当性を自分自身で評価する,(4)文献の結果を目の前の患者に適用する,(5)自らの医療を評価する,の5つのステップである。これは,必要な情報を探し,それを評価し,現実での適用性を見極め判断に利用していく方法論に基づいている。
 EBMに用いられる論文のエビデンスの質は,通常最も信頼性の高いレベル1から最低のレベル5までの5段階に分類されている。すなわち,レベル1:ランダム化比較試験による報告,レベル2:非ランダム化比較試験による報告,レベル3:症例対照研究による報告,レベル4:ケースシリーズやコホート研究,レベル5:症例報告や一般的レヴューの5段階である。

網膜静脈閉塞症治療のEBM

著者: 張野正誉

ページ範囲:P.184 - P.195

 本稿では網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症のEBMについて論じてみることにする。

裂孔原性網膜剥離治療のEBM

著者: 鵜殿徹男 ,   平形明人

ページ範囲:P.196 - P.215

はじめに
 裂孔原性網膜剥離(rhegmatogeneous reti—nal detachment:RRD)の病態は非常に幅広く,原因や背景因子も異なり,治療の原則は共通していても,目的を達成するための手術手技の組み合わせはさまざまである。例えば,その裂孔のタイプや病態によって以下のようにも分類できる。

糖尿病網膜症治療のEBM

著者: 上野暁史 ,   坂本泰二 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.216 - P.225

はじめに
 糖尿病網膜症(以下,網膜症と略す)は毛細血管瘤のみが認められるものから,血管新生緑内障を併発し,網膜全剥離を起こすものまでさまざまである。網膜症の進行速度や予後は,眼局所の状態(後部硝子体剥離の有無など)や全身状態(年齢,罹患期間,血糖コントロールなど)などにより大きく異なるため,いわゆる経験的評価では正しい診断や治療が困難であることは広く知られていた。そのため,古くから網膜症の分類や,治療結果(光凝固や硝子体手術)を評価する大規模なスタディが行われてきた。これは客観的事実に基づいた大規模な評価システムであり,まさに今日のEBMにあたるものといえる。
 本稿ではこれらについて略述して,筆者らのデータを一部紹介する。

加齢黄斑変性治療のEBM

著者: 湯沢美都子

ページ範囲:P.226 - P.233

はじめに
 加齢黄斑変性(age-related macular degen—eration:AMD)には脈絡膜新生血管(choroi—dal neovascularization:CNV)に基づく病変,CNVを伴わない網膜色素上皮剥離,網膜色素上皮—脈絡毛細血管板の萎縮に基づく病変の3種がある。このうち治療の適応になるのはCNVに基づく病変のみであるので,それについて述べたい。

特発性黄斑円孔治療のEBM

著者: 大谷倫裕

ページ範囲:P.234 - P.241

現在行われている特発性黄斑円孔への治療
 1.特発性黄斑円孔の発生機序
 黄斑円孔は硝子体皮質の中心窩への牽引によって起こる1)。黄斑前方には後部硝子体皮質前ポケットがあり,後極の硝子体皮質はゲルから分離した薄い線維膜として存在する2)。この硝子体皮質が収縮すると弧が弦になろうとする前方へのベクトルが発生する。そのため硝子体皮質は黄斑部から剥がれようとするが,中心窩と視神経乳頭では硝子体と網膜との癒着が強いため,そこでの接着は維持される。硝子体皮質は中心窩で接着し,その周囲で剥離することで慢性的な牽引を中心窩に及ぼすと考えられる。

緑内障

はじめに—緑内障治療におけるEBM

著者: 根木昭

ページ範囲:P.242 - P.243

 EBMは患者本位の医療を目指すために導入された一種の意識改革的医療である。従来,医療人が最も信頼を置いてきた基礎的研究の成果や経験的知識に基づく治療が単に理論的なものではなく,本当に患者のQOLの改善につながったかを問いただし,再現性や信頼性の高い,有用性の証明された治療のみを選択していこうというものである。基礎医学上の大きな業績から誘導された治療法が必ずしも臨床的に有益な効果をもたらすものではないし,長年の個人的な経験や直感が治療を誤った方向に導くことも稀ではない。患者が実際に有用であったと実感できる治療効果のみを選択し,不確実な治療を医師の裁量のみで施行せず,患者への負担,不利益を極力なくそうとすることは医療者サイドからの医療から,患者サイドの医療へ転換する上で必要な考えである。
 緑内障治療をこのEBMという視点から見ると誠に厳しい状況にある。疾患の性質上,自覚症状に乏しく,治療により患者にとって自覚できる改善効果がないこと,効果の判定が年単位の長期にわたるなどのため,治療に際してはどうしても医療人サイドのパターナリズム的傾向がでるからである。エビデンスを集めるにしても比較の基準となる無治療群を年余にわたって観察することは現代では倫理的に許されないこともある。

EBMに基づく緑内障の薬物療法

著者: 田中麻以 ,   白土城照

ページ範囲:P.244 - P.253

 緑内障の治療手段として従来から眼圧下降療法が広く行われてきた。近年,眼循環改善療法や神経保護治療が新たな緑内障治療手段として注目されているが,普遍性のあるデータとして認められる臨床研究は未だなされていない。本稿では,わが国での多施設共同研究データによる各薬剤の眼圧下降効果を中心に述べる。

緑内障手術療法のEBM

著者: 吉富健志

ページ範囲:P.256 - P.264

はじめに
 緑内障の手術療法は現在,さまざまな術式が検討されている。マイトマイシン併用トラベクレクトミーは,現在最も基本的な術式として受け入れられているが(図1),非穿孔トラベクレクトミー,viscocanalostomyなどの新しい術式が次々と発表される背景には,現在の緑内障手術の術式に誰も完全に満足していないことがある。緑内障の手術療法はかつて,眼圧を正常域へコントロールすることのみを目標としていた。しかし,それぞれの症例において目標とする眼圧が異なるという,「健常眼圧」の概念が広がるにつれ,手術の方向性は変わってきたように思う。これは「どうなれば手術が成功したと見なされるか?」という問題をわれわれに突きつけてきた。かつては眼圧が20mmHg以下にコントロールされれば一応手術は成功したと見なされていたが,もともと眼圧が20mmHg以下である正常眼圧緑内障に対する手術では,むろんこの基準は当てはまらない。眼圧を10mmHg以下にコントロールすることを狙った場合,今度は低眼圧黄斑症などの合併症の問題が出てくる。眼圧は下がったが,視力も下がってしまったというのでは,とても「手術が成功した」とは言えまい。このように緑内障手術療法の評価は,多方面から検討を必要とする時代に入った。そのため,各術式の比較も多方面から検討する必要があり,「どちらの術式のほうが優れている」とは簡単に言えなくなってしまった。これを簡単にまとめると,「合併症と眼圧コントロールの間のどこで折り合いをつけるか」ということに尽きる。
 緑内障の手術療法は,濾過手術と流出路再建術という大きな2つの流れがある。これはとりもなおさず「少ない合併症」と「眼圧下降」という,しばしば矛盾する2つの要求を高いレベルで満たそうとする流れでもある。

神経眼科

はじめに—神経眼科におけるEBM

著者: 関谷善文

ページ範囲:P.266 - P.267

 神経眼科部門においても,近年,治療方法がEBMの見地から再検討され,徐々に変革されつつある。
 特に視神経の疾患のなかで,比較的治りやすいと考えられる「視神経炎」と,逆に予後がよくない「虚血性視神経症」は,一般外来でもまま遭遇し,その診断と治療に悩む場合も多い。この2つの対照的ともいうべき疾患群について今回は取り上げて,お二人の先生方に診療方法の最新の知見をまとめていただいた。

視神経炎治療のEBM

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.268 - P.273

はじめに
 ここでいう視神経炎は急性視神経炎と称されたり,脱髄性または特発性視神経炎といわれるものをさし,これは多発性硬化症の初発であったり,部分症であってもよい。以下,その治療につき,まず自験例を示し,その考察を行った上で,できるだけEBMを意識しながら,治療について展望することにする。

虚血性視神経症治療のEBM

著者: 三村治

ページ範囲:P.274 - P.282

はじめに
 虚血性視神経症(ischemic optic neuropa—thy:ION)には,病初期から視神経乳頭に変化のみられる前部虚血性視神経症(anterior ION:AION)と,初期には乳頭に変化のみられない後部虚血性視神経症(posterior ION:PION)の2つのタイプがある1)。AIONは乳頭を栄養する後毛様動脈の急性の虚血によるものであるが,PIONにはそのように明確に特定できる動脈はなく,むしろ全身的な貧血や血液灌流低下によることが多い。また,この両者のうちで圧倒的に多数を占めるAIONは,その病因から巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis)による動脈炎性ION (arteritic AION:A-AION)と,動脈炎には起因しない非動脈炎性ION (nonarteritic AION:NA—AION)に分類される1)。AIONはいったん発症すれば重症となるものが多く,また僚眼(反対眼)にも高率にAIONを発症することなどから,古くから予後不良と考えられてきたが,最近視力に関しては一定の比率で改善することが相次いで報告されている。したがって,種々の治療法が真に有効かどうかのevi—denceは,この視力の白然経過と比してどの程度改善をみるかということになる。
 また日本ではAIONの中でもNA-AIONが大多数を占めるが,NA-AIONとA-AIONは発症機序だけでなく治療の上でも大きく異なるので,以下に個別にその治療法を述べる。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?