icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科55巻12号

2001年11月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

遺伝性網膜ジストロフィとアポトーシス

著者: 村上晶

ページ範囲:P.1819 - P.1825

 近年,遺伝性網膜ジストロフィと関連する遺伝子が次々と発見されている。原因となる遺伝子の違いにもかかわらず,そのほとんどは視細胞のアポトーシスという共通した細胞死の形をとると考えられている。さまざまな遺伝子の変異による視細胞や網膜色素上皮の機能障害が,どのような機序で視細胞のアポトーシスを起こすのであろうか。代表的な網膜ジストロフィの遺伝子変異を中心に視細胞の細胞死を起こす機序を検討し,有効な治療の可能性について考案してみたい。

眼の遺伝病・27

XLRS1遺伝子異常と網膜分離症(6)

著者: 和田裕子 ,   板橋俊隆 ,   玉井信

ページ範囲:P.1828 - P.1830

 今回は,XLRS1遺伝子,Arg102Trp変異とArg200Cys変異を伴った2症例を報告する。症例1は,初診時は近医で網膜剥離と診断され,東北大学病院眼科を紹介され受診となった。当科にて網膜分離症を疑い,遺伝子診断を行った結果,網膜分離症と診断が確定され,遺伝カウンセリングにおいても有効であった。症例1のArg102Trp変異は,前回のシリーズでもその臨床像を報告しているので,その臨床像と比較していただければ,この変異を持つ患者の臨床像の多様性がうかがえる。さらに症例2の変異は,今までのシリーズで報告していない変異である。

眼科図譜・374

片眼性急性特発性黄斑症の1例

著者: 牧野伸二 ,   清水由花 ,   伊野田繁 ,   大野研一

ページ範囲:P.1831 - P.1834

緒言
 片眼性急性特発性黄斑症(unilateral acute idio—pathic maculopathy:UAIM)は,1991年にYannuzziら1)により初めて報告された疾患概念で,多くは感冒様症状に引き続いて,急激な片眼性の視力低下で発症し,黄斑部のみの滲出性網膜剥離を認め,急速に自然寛解する疾患である。これまで海外では29例の報告1〜5)があるが,本邦での報告はない。今回筆者らは,UAIMと考えられた1例を経験したので報告する。

眼科手術のテクニック・141

後嚢破損時の処置

著者: 三好輝行

ページ範囲:P.1835 - P.1837

 白内障手術に習熟するにしたがって後嚢破損を起こす確率は減少してくる。しかしいかなる名人,熟練者といえども発生率を完全に0%にすることはできない。硝子体脱出時の処置は次回にゆずるとして,今回は後嚢破損が生じる要因,ステップ,対処法について述べる。

あのころ あのとき・11

電子顕微鏡による研究のころ

著者: 樋渡正五

ページ範囲:P.1838 - P.1839

 昭和34年10月,筆者が日本医科大学附属病院の眼科部長兼教授になった時には講師が1人しかいなくて,患者は1日に平均して5人くらいしかいない状態で,噂に勝るひどいものであった。
 いろいろと事情を聞き,これではいかぬと思い定めていろいろ改革の手を打った。そして次第に患者の数も少しずつながら増えていった。診療・診察を丁寧にして遺漏なきを期した。こうして一般診療のほうは順調に進んでいき,外来は活発になったが,医局員が1人もいないのがいかにも残念であった。そのうちに同愛記念病院からも2人の医師が来てくれたし,卒業式が終わって数人の医師が医局に入ってきてくれた。筆者はこれらの人々に対しては出来るだけのことを尽くして指導した。有名な映画女優の来診,先天性白内障の患者で外国人が寄贈した金での手術成功例など,大きく新聞で宣伝されたことが重なって,患者も増えてきた。

他科との連携

開業の先生からの患者ご紹介

著者: 毛塚剛司

ページ範囲:P.1882 - P.1883

はじめに
 東京医科大学八王子医療センターは,東京都八王子市高尾駅からバスで10分ほどのところにある病院です。東京といっても高尾山が間近にそびえ,近年急に宅地化が進んだ新興住宅地であり,すぐ近くに山梨県,神奈川県の県境があるため,都下や都内だけではなく,他県からも多くの患者さんが受診しています。また,当センターは地域における中核の総合病院であることを自負しており,開業医の先生方からも多くの患者さんをご紹介して頂いています。開業の先生方から勉強させていただくことも数多くあります。

今月の表紙

木質結膜炎

著者: 熊谷直樹 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1827 - P.1827

 木質結膜炎は再発性の結膜の偽膜形成を特徴とする結膜疾患で,しばしば眼瞼が木のように硬化することから命名されている。近年,フィブリノーゲンの遺伝子の異常が本疾患の原因の1つであることがわかってきている。
 この症例は53歳の男性で,4か月持続している眼瞼結膜の偽膜のために当科を紹介された。偽膜は中央部で結膜と連続しており,中央部に結膜血管瘤がみられた。組織学的に偽膜はフィブリンで形成されており,わずかな炎症細胞の浸潤がみられた。難治性の結膜偽膜では本症を疑う必要がある。

臨床報告

成人に発症した樹氷状網膜血管炎の1例

著者: 川﨑尚美 ,   清家千鶴子 ,   樺澤みさと ,   大橋裕一

ページ範囲:P.1845 - P.1851

 49歳の男性が2日前からの右眼霧視で受診した。35歳で多嚢胞腎を指摘され,1年前から慢性賢不全で透析を行っている。矯正視力は右0.1,左1.0であった。特徴的な眼底所見から右眼の樹氷状血管炎と診断し,ステロイド大量点滴療法を行った。開始から17日後に網膜血管の白鞘はほぼ消退し,36日後に右眼視力は1.0に回復し,以後1年間の経過は良好である。疾患群としての樹氷状血管炎では,網膜の閉塞性病変の有無が治療効果に関係すると推定された。

陳旧性外傷性低眼圧黄斑症1例の視機能と術後回復

著者: 布佳久 ,   谷川篤宏 ,   加地秀 ,   寺崎浩子 ,   三宅養三

ページ範囲:P.1853 - P.1857

 43歳女性が左眼視力低下で受診した。13か月前に飛入した石で左眼が受傷した。左眼矯正視力は0.7,眼圧は7mmHgであり,部分的毛様体解離があった。左眼は陳旧性低眼圧黄斑症の所見を呈した。全視野ERGは正常であったが,黄斑部局所ERGは,a波,b波,律動様小波がいずれも健眼の約50%に低下し,頂点潜時が延長していた。これらの所見から,黄斑部の視細胞レベルに機能障害があることが推定された。強膜短縮術により眼圧は正常化し,矯正視力は1.2に回復し,電気生理学的所見の左右差がほぼ消失した。外科的治療により,陳旧化した低眼圧黄斑症での視機能が回復しうることを示す症例である。

黄斑下血腫に対する硝子体内ガス注入

著者: 山田教弘 ,   飯田知弘 ,   萩村徳一 ,   岸章治

ページ範囲:P.1859 - P.1864

 黄斑下血腫11眼に対し,中心窩からの血腫の移動を目的として,硝子体内に6フッ化硫黄ガス(SF6)0.5mlを注入した。その結果,3眼で血腫が中心窩から排除され,8眼で血腫が薄くなった。血腫が大きいほど移動量が大きかった。手術前の原因疾患は5眼(46%)で同定されたが,術後は10眼が加齢黄斑変性症,1眼がポリープ状脈絡膜血管症であることが判明した。血腫移動後のフルオレセイン・インドシアニングリーン蛍光造影で,加齢黄斑変性症10眼中6眼で脈絡膜新生血管(CNV)の隠蔽部が新たに検出された。3眼ではCNVの範囲は不変,1眼ではCNVの全体像を確定できなかった。ポリープ状脈絡膜血管症1眼では,つた状の血管網が血腫移動後に検出された。全例を通じ,ガス注入に伴う合併症はなかった。術後の最高視力は,2段階以上の改善7眼,不変3眼,低下1眼であった。黄斑下血腫へのガス注入は,蛍光造影でのCNVの検出率を高め,視力向上にも効果がある簡便で安全な処置であると結論される。

サルコイドーシスぶどう膜炎での結膜生検の有用性

著者: 原田幸子 ,   佐々木洋 ,   甲田倫子 ,   阿久津行永 ,   佐々木一之

ページ範囲:P.1865 - P.1869

 初診時に眼科臨床所見からサルコイドーシスぶどう膜炎が疑われ結膜生検を行った34例62眼を対象に,結膜生検の有用性を検討した。最終診断での内訳は臨床診断群(A群)が19例,サルコイドーシスが疑われたが臨床診断群の基準を満たさなかった症例(B群)8例,サルコイドーシス以外のぶどう膜炎の確診例(C群)7例であった。生検標本は点眼麻酔後,下結膜円蓋部中央付近の結膜を約2×4mm切除した結膜片を用いた。陽性率はA群58%,B群,C群は0%であった。隅角結節,豚脂様角膜後面沈着物がある症例,発症早期でステロイド未使用例は生検陽性率が高い傾向があった。結膜生検は,サルコイドーシスの組織学的診断には有用であり,初診時に他の侵襲の大きい生検に先んじて施行するべきことを改めて提唱したい。

外眼筋のT2緩和時間による甲状腺視神経症の評価

著者: 尤文彦 ,   前田利根 ,   井上トヨ子 ,   井上洋一

ページ範囲:P.1871 - P.1875

 甲状腺眼症の活動性は,磁気共鳴画像(MRI)のT2値で評価できる。これを甲状腺視神経症15例15眼の評価に応用した。外眼筋肥大のない甲状腺眼症20例40眼を対照群とした。視神経症群では,ステロイド薬による治療後にT2値は有意に低下したが,対象群よりは高値であった。MRIのT2値が甲状腺視神経症の治療効果の判定に有用であることが結論される。

後嚢切開術後にぶどう膜炎が再発した2例

著者: 佐藤修一 ,   上野里加 ,   金井光

ページ範囲:P.1889 - P.1894

 ぶどう膜炎の既往がある後発白内障2眼に対してNd:YAGレーザーによる後嚢切開を行い,その3日後以内にぶどう膜炎が再発した。後嚢切開後,1眼ではぶどう膜炎の再発頻度が増加し、遷延化した。他の1眼では強い硝子体混濁が生じた。ぶどう膜炎の既往がある後発白内障では,後嚢切開術後にぶどう膜炎の再発がありうることと,実施に際してはその時期と手技に配慮する必要のあることが結論される。

インドシアニングリーン染色が有用であった硝子体再手術の2例

著者: 横山光伸 ,   木村亘 ,   三好輝行 ,   吉田博則

ページ範囲:P.1897 - P.1900

 インドシアニングリーン(ICG)染色を使って,硝子体再手術を2眼に対して行った。硝子体手術後の糖尿病網膜症による黄斑浮腫眼では,ICG染色で後極部に輪状の境界不鮮明な部位が現れた。これは硝子体ポケット後面に相当した。この所見を手掛かりにして,後部硝子体剥離を作成し,内境界膜を剥離した。4年前の手術後に黄斑円孔が再開した眼では,ICG染色で内境界膜剥離の範囲と剥離縁の増殖膜が確認でき,増殖膜を含む広範囲に内境界膜を剥離した。ICG染色は,前回の手術術式の確認と,再手術時の手技の決定に有用であった。

インドシアニングリーン染色の種々の網膜硝子体疾患への応用

著者: 多田英司 ,   高木均 ,   桐生純一 ,   大橋啓一 ,   渡部大介 ,   本田孔士

ページ範囲:P.1901 - P.1904

 内境界膜のインドシアニングリーン(ICG)染色を併用して,10眼に硝子体手術を行った。黄斑上膜4眼,糖尿病黄斑浮腫2眼,増殖糖尿病網膜症1眼,近視性黄斑円孔網膜剥離2眼,増殖硝子体網膜症1眼である。黄斑上膜では全例で上膜が非染色領域として明瞭に描出され,膜の辺縁の同定と上膜に連続して剥離した内境界膜の観察に有用であった。硝子体が残存する症例では染色性にむらがあり,残存しない症例では内境界膜が均一に染色された。内境界膜剥離を目的としない今回の症例群で,ICG染色は残存硝子体の判別に有用であった。

涙小管炎9例の検討

著者: 中村靖子 ,   福田昌彦 ,   国吉一樹 ,   下村嘉一 ,   前野知子 ,   古田格

ページ範囲:P.1907 - P.1910

 過去22か月間の涙小管炎の自検例9例を検索した。男性4例,女性5例であり,いずれも片眼性であり,左右差ないし上下差はなかった。罹病期間は4日から2年(平均205±266日),経過観察期間は3か月から13か月(平均8.2±3.8か月)であった。菌塊のグラム染色で,全例にグラム陽性桿菌が検出され,分枝のある糸状菌の集積が6例にあった。嫌気培養で8眼に菌が発育した。主な内訳は,Propionibacterium Propionicus 4株と,Actinomyces israelii 3株であった。涙小管内の菌塊の除去,抗菌薬による涙嚢洗浄,抗生物質の点眼で全例に治癒が得られた。

高度視機能障害における光線投影測定の試み

著者: 渡辺聡 ,   宇治幸隆 ,   佐宗幹夫 ,   宮村昌孝 ,   伊藤良和 ,   泉奈々

ページ範囲:P.1913 - P.1917

 われわれが考案した光線投影測定計で,視機能障害眼での視機能評価を行った。増殖糖尿病網膜症14眼,網膜色素変性症3眼,高度白内障3眼を対象とした。ゴールドマン視野計で測定ができない高度視機能障害眼でも,本法で視機能を量的に評価できた。ゴールドマン視野計で測定が可能な症例では,本法による測定結果がゴールドマン視野とほぼ相応した。

カラー臨床報告

黄斑部手術におけるインドシアニングリーン染色

著者: 岡部泰史 ,   豊田英治 ,   白神史雄 ,   岡野内俊雄 ,   弓山真矢 ,   山本敏広 ,   大月洋

ページ範囲:P.1840 - P.1844

 黄斑円孔10眼と黄斑上膜4眼への硝子体手術中に,黄斑部綱膜の内面を0.5%インドシアニングリーン溶液(ICG)で染色した。染色された膜を採取し,透過型電子顕微鏡で検索した。さらに,術中に観察された染色の程度と採取した膜の病理組織学的所見とを比較した。黄斑円孔第2, 3, 4期のうち7眼の黄斑部網膜の表面はICGで均一で良好に染色された。第3, 4期の残りの3眼と黄斑上膜の4例すべてで,黄斑部網膜の表面はICGにより不均一に染色されるか,染色性が不良であった。病理組織学的には,良好に染色された膜には内境界膜のみがあり,染色性が不良な膜には内境界膜上に細胞増殖があるか,または細胞性増殖膜のみがあった。ICGによる網膜内面の染色は,術中に内境界膜や網膜上の増殖膜を同定するのに有用である。

やさしい目で きびしい目で・23

女性医師へのアンケート調査から

著者: 小田泰子

ページ範囲:P.1877 - P.1877

 眼科医になって半世紀が過ぎた。私が学生だった頃は,大学に学ぶ女子学生は多くはなかったが,それでも「女子学生亡国論」が言われ,「女は結婚したら家庭に入るもので,仕事も家庭も子供もというのは贅沢だ」というのが大方の考えだった。現在は,女性の労働力に頼らなければ社会が成り立たなくなり,必然的に職業につく女性が増え,医師国家試験合格者も30%以上を女性が占める時代になった。だからといって,女性が働きやすくなったか,というと必ずしもそうではない。育児・家事・介護などは女性の仕事という社会通念は変わっていない。
 かつては,医局にいる女性医師が少なかったために長期出張や当直などに配慮されたが,今はそれを期待できない。また,私の子育て時代には,住み込みを雇うこともできたが,それも今は難しい。そういう点では,子どもを育てながら仕事や研究を続けるのは,現在のほうが困難だといえよう。

解説

LASIK手術で医師の過失を認めた最初の判決の教えるもの—大阪地裁,平成12年判決全文を読んで

著者: 岩瀬光

ページ範囲:P.1884 - P.1885

1.はじめに
 2000年に大阪地裁で2つの「LASIK (laser insitu keratomileusis)手術に関して医師の過失を認めた判決」が出された。2000年6月7日判決(事案Aとする)と,2000年9月22日判決(事案Bとする)である。
 事案Aは1審で確定,事案Bは控訴中である。LASIKに関する判決はこれらが初めてだと思われ,今後予想されるLASIK手術自体の数の増加と,それに伴う紛争の増加を考えると,ここでその内容を紹介して,今後LASIKを行う側と受ける側双方の参考にしたいと思って筆を取った。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?