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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科55巻13号

2001年12月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

細菌性角膜潰瘍

著者: 松本光希

ページ範囲:P.1939 - P.1943

 細菌性角膜潰瘍は直接,視機能に影響することが多く,緊急性を要する重要な疾患である。主たる起炎菌は,肺炎球菌やブドウ球菌などのグラム陽性球菌と緑膿菌などのグラム陰性桿菌であるが,非定型抗酸菌やPropionibacterium acnesなどによる角膜潰瘍も散見される。また,メチシリン耐性の黄色ブドウ球菌(MRSA)や多剤耐性緑膿菌などの耐性菌が問題となっている。近年,コンタクトレンズ装用やlaser in situ keratomileusis (LASIK)などの屈折矯正手術の増加に伴い,これらに関連した細菌性角膜炎が注目されている。診断面では角膜生検やpolymerase chain reaction(PCR)の有用性が報告されている。

眼の遺伝病・28

XLRS1遺伝子異常と網膜分離症(7)

著者: 和田裕子 ,   板橋俊隆 ,   玉井信

ページ範囲:P.1946 - P.1948

 今回は,XLRS1遺伝子異常にAla101Val変異を伴った症例を報告する。Ala101Val変異は現在まで報告がないので,この変異が引き起こす臨床像について詳細に紹介する。
 本症例は,初診時は弱視と診断され経過観察されていたが,遺伝子検索,臨床像の詳細な検査の結果,若年性網膜分離症と診断した。今回のように,家族歴に特記すべきことが認められない家系でも,遺伝学診断により正確かつ迅速に診断が可能になってきており,網膜分離症の遺伝子診断は今後の遺伝カウンセリングに大きな役割を果たしてくると考える。

眼科手術のテクニック・142

硝子体脱出時の処置

著者: 三好輝行

ページ範囲:P.1950 - P.1951

 前回,硝子体脱出を起こしていない後嚢破損時の処置について述べた。今回は創口から硝子体脱出(以下,硝脱)をきたした場合の処置について述べる。

あのころ あのとき・12

網膜微細構造研究のきっかけ

著者: 山田英智

ページ範囲:P.1952 - P.1953

 解剖学を専攻する私が「臨床眼科」から原稿の依頼を受けるのは,「眼」に関係した研究をしてきたことによるのであろう。“網膜の微細構造の研究を手がけられたきっかけは?”と聞かれることが多い。強いていえば,いくつかの要因があったように思う。
 1945年3月に九州大学医学部を繰り上げ仮卒業して軍務につき,敗戦,復員後,9月に正式に卒業して解剖学教室に入り,顕微鏡を使った研究に従事することになった。学生時代の夏休みに病理学教室で顕微鏡用標本作製法の手ほどきを受けていたが,改めてメスの研ぎ方に始まり,固定,包埋,薄切,染色という過程を身につけることに努力した。一方,これら各段階でいろいろな疑問が生じ,組織中の結合水の量を測定したり,切片上で細胞構成分の等電位点を調べることを試みたりした。また,昭和初期に購入された紫外線顕微鏡があったので,単波長の紫外線を使って細胞内の核酸の局在を映像化することに熱中した。いずれも,師事した先生の指示によるものではなく,興味の赴くままに試行錯誤の毎日であった。その師(石澤政男教授)が1953年に亡くなられ,第2巻まで刊行されていた名著「組織学提要」続巻のための原稿が途中まで残されていた。それで未完の部分を補充して完成するという大役が私の肩に載ることになった。残された原稿に含まれていた「泌尿器」と「生殖器」の章のために,標本を作り,顕微鏡写真を撮り,付図をつけて,第3巻として刊行した。残った「内分泌器」と「感覚器」の章の原稿をつくるために,文献を調べ,標本を作り,勉強した。このことが「眼」の構造に興味を持つようになった第1の要因といえよう。

他科との連携

誕生日のプレゼント

著者: 並木美夏 ,   渡辺朗

ページ範囲:P.1985 - P.1986

 あなたは,誕生日にプレゼントに何がほしいですか? もし,その答が“ブローアウトフラクチャー”だとしたら……。
 ある日の,病棟回診担当のとき。

今月の表紙

Best病(卵黄状黄斑変性)の光学的干渉断層計(OCT)所見

著者: 田村泰

ページ範囲:P.1945 - P.1945

 卵黄様黄斑変性(vitelliform macular dystrophy)は黄斑部に卵黄様病変をきたす常染色体優性の遺伝性疾患である。卵黄病巣は長い経過中に妙り卵状になり,最終的に萎縮病巣となる。妙り卵期,萎縮期の病巣では,色素上皮細胞や網膜下のマクロファージにおけるリポフスチン顆粒の蓄積が報告されている。しかし卵黄期の卵黄様物質がどこに貯留するかは不明である。
 左図は17歳男性の左眼眼底所見である。黄斑部に境界明瞭,色調の均一な卵黄病変を認め,卵黄期にあたると考えられる。左眼視力は1.0(n.c)である。

臨床報告

滲出型加齢黄斑変性の自然軽快例の光干渉断層計所見

著者: 西川真生 ,   高橋寛二 ,   正健一郎 ,   松村美代

ページ範囲:P.1964 - P.1969

 滲出型加齢黄斑変性症と診断され,経過中に脈絡膜新生血管の活動性が自然軽快した6例6眼を光干渉断層計(OCT)で検索した。活動期には病巣からの出血・滲出と,0.5〜2乳頭径大の新生血管があり,Gass分類で2型5眼,1+2型1眼と判定した。OCT所見からみた新生血管の退縮形式には2つのタイプがあった。1つは2型新生血管に一致する多重高反射が経過中にさらに高い反射に変化して縮小したもの4眼で,他の1つは2型新生血管の感覚網膜側に白色反射を交える高反射層が生じて新生血管が縮小したもの2眼である。滲出型加齢黄斑変性症での新生血管自然退縮の形式として,前者は新生血管板の線維化による退縮,後者は網膜色素上皮の囲い込みによる新生血管の退縮に相当すると解釈した。

球結膜下出血と緑内障

著者: 周和政 ,   杜元洪 ,   周雄 ,   曽艳彩

ページ範囲:P.1970 - P.1972

 球結膜下出血131例につき,球結膜下出血と緑内障との関係を検索した。健康診断を受けた正常者125名を対照とした。緑内障の判定は,閉塞隅角緑内障については眼圧,暗室うつむき試験,隅角所見,開放隅角緑内障については負荷試験などを含む眼圧,視野経乳頭陥凹,視野に基づいて行った。球結膜下出血群では,14例が緑内障,23例が緑内障疑診と判定され,対照群では,1例が緑内障,8例が緑内障疑診と判定された。両群での頻度には有意差があった(p<0.001)。球結膜下出血群では,初発者よりも再発者の緑内障有病率が有意に高かった(p<0.001)。緑内障有病率は,咳,便秘,目をこするなどの誘因で起こった者よりも,特発的に起こった者で有意に高かった(p<0.02)。以上の結果から,球結膜下出血と緑内障の間には高い関連があると結論される。

硝子体手術と術中汎網膜光凝固で網膜復位と虹彩新生血管の消退を得た成人Coats病の1例

著者: 櫻田規全 ,   白尾裕 ,   棚橋俊郎

ページ範囲:P.1973 - P.1976

 61歳女性が左眼視力障害で受診した。6年前に眼底出血と広範な網膜滲出斑が発見された。矯正視力は1.5であったが当科受診時には0.1に低下していた。左眼虹彩に新生血管,後極部眼底に多量の網膜下滲出物と索状物,滲出性網膜剥離,周辺部網膜に血管拡張と牽引性網膜剥離があった。成人性Coats病と診断した。硝子体手術で網膜を復位させ,術中に汎網膜光凝固を行った。術後,滲出性網膜剥離はほとんど消失し,虹彩新生血管は消退した。以後15か月間,再発はない。硝子体手術による網膜復位と術中汎網膜光凝固が,牽引性網膜剥離などのために経瞳孔的網膜光凝固が不可能なCoats病に奏効した症例である。

外科手術が未熟児網膜症の重症化に及ぼす影響

著者: 具志堅直樹 ,   加治屋志郎 ,   三木嘉宏

ページ範囲:P.1977 - P.1980

 1999年までの10年間に当院のNICUに入院し,外科手術が施行された超・極低出生体重児25例50眼の経過記録から,外科手術が未熟児網膜症の重症化に及ぼす因子を検討した。手術の内容は,壊死性腸炎に対する開腹術5例,頭蓋内出血へのV-Pシャント7例,動脈管開存症への開胸術13例であった。II型の未熟児網膜症は,外科手術時の在胎修正週数が30週以前で外科手術時の体重が900g未満の症例に集中して発症した。この条件を満たす症例に外科手術を行う場合には未熟児網膜症の重症化の可能性が大きく,格別の注意が必要である。

眼窩腫瘍摘出における前方アプローチ法の検討

著者: 高村浩 ,   山下英俊

ページ範囲:P.1987 - P.1993

 過去14年間に摘出手術または生検を行った原発性眼窩腫瘍35例を検索し,前方アプローチ法による腫瘍の完全摘出の可能性を検討した。アプローチの経路は,前方16例,側方3例,経頭蓋4例,経上顎洞1例であり,生検のみが11例であった。前方アプローチ法による完全摘出率は81%で,生検を除いた摘出術24例すべてでの完全摘出率は79%であった。前方アプローチ法の術後合併症は,眼瞼下垂1例と再発1例のみであった。前方アプローチ法で完全摘出が期待できる腫瘍の条件は,(1)皮膚上から触知できること,(2)後端が眼窩先端部まで進展していないこと,(3)被膜に覆われていて浸潤性でないこと,(4)周囲組織との癒着が強くないことであった。前方アプローチ法は術後合併症の頻度が低く,適応の選択と手術操作に注意すれば積極的に行ってよい術式であると結論される。

ラタノプロストによると考えられる角膜上皮障害

著者: 田聖花 ,   中島正之 ,   植木麻理 ,   清水一弘 ,   池田恒彦 ,   張野正誉

ページ範囲:P.1995 - P.1999

 ラタノプロストを追加あるいは変更投与したために角膜上皮障害をきたしたと考えられた緑内障患者5例8眼を報告した。そのうち4例7眼はβ遮断薬を併用していた。4例はラタノプロストあるいはラタノプロストを含む全点眼を中止し,人工涙液頻回点眼を基本とした治療によってすみやかに改善し,1例は抗生物質の眼軟膏点入によって改善した。ラタノプロストによって角膜上皮障害が生じる可能性があり,特にβ遮断薬との併用には注意を要すると考えられた。

下垂体腺腫を伴った脈絡膜骨腫の1例

著者: 宮崎賢一 ,   山中修 ,   雑賀司珠也 ,   大西克尚

ページ範囲:P.2003 - P.2007

 30歳女性が糖尿病と成長ホルモン高値を伴う下垂体腺腫と診断され,眼科的検査のため受診した。矯正視力は右1.0,左1.2であった。右眼眼底の乳頭上方に2.3×3.3乳頭径大の境界が比較的鮮明な機黄色の病変があり,脈絡膜骨腫と診断した。眼科受診の1か月後に下垂体腺腫亜全摘手術が行われた。6年後に骨腫は3.4×3.8乳頭径大に拡大したが,血管新生などの合併症はなく,良好な視力を維持している。成長ホルモン産生型下垂体腺腫に脈絡膜骨腫が合併した報告例はないが,前者が後者の発症の一因となった可能性がある。

Epstein-Barr virus DNAとvaricella zoster virus DNAが検出された急性網膜壊死の1例

著者: 帯刀真也 ,   木許賢一 ,   八塚秀人 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.2009 - P.2013

 57歳女性が10日前からの右眼の霧視と充血で紹介され受診した。右眼の矯正視力は0.5であり,前房に強い炎症,硝子体混濁,眼底に典型的な急性網膜壊死の所見があった。左眼には異常がなかった。初診日に採取した前房水から,PCR法でEpstein-Barr virusとvaricella zoster virusのDNAが検出された。薬物投与と手術で病変は鎮静化し,最終矯正視力0.6を得た。Epstein-Barr virusはヘルペスウイルス群に属するので、これが病変に関与した可能性がある。

カラー臨床報告

眼アルカリ外傷に対して結膜切除術に羊膜移植術を併用した1例

著者: 近本信彦 ,   村重高志 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1957 - P.1961

 セメント原料を含む強アルカリ溶液が爆発し,31歳男性の顔面にかかつた。左眼に角膜上皮全欠損,広範囲な結膜上皮欠損,鼻側から下方に結膜壊死病巣があった。眼底には病的所見はなかった。その2日後に結膜壊死病巣の拡大があり,羊膜移植術を併用する広範囲結膜切除術を行った。術後炎症は軽減し,残存していた耳側上方の結膜から上皮が伸展し,4か月後には球結膜および角膜は上皮化された。瞼球癒着,眼瞼内反などの合併症はなかった。

やさしい目で きびしい目で・24

働く女医100年

著者: 伊田幸子

ページ範囲:P.1981 - P.1981

 与謝野晶子の第一歌集「みだれ髪」が東京新詩社から刊行されたのは明治34年8月(1901年)。今年はその100周年にあたる。21世紀日本の女たちの革命はこの小さな若い歌集から始まる,と記されている(芳賀徹氏)。さっそく晶子出生地堺市の下山ミチ子先生(眼科医で俳人)にかねてから聞いていた晶子資料館の設立はどうなったかと連絡を入れたら「まだ,まだ。しかし晶子文芸館としてギャラリが設けられている」とのことであった。原稿料で家計のやりくりをし,11人の子育て,鉄幹にもよくつくし,歌集・小説・女性の権利に焦点をあてた評論など,数多くの業績を残された。今もし「外相を」といわれても,理路整然と答弁もし,その任務を果たすであろうと思われるほどに聡明な,明治女性のたくましいエネルギーには脱帽である。
 そこで日本女医史をひもどいてみると,日本最初の公許女医荻野吟子先生が世に出られたのが明治18年(1885年)。今から116年前である。その後,吉岡弥生先生夫妻が東京女医学校(現東京女子医大)を開かれたのが明治33年(1900年)。その間には男女平等,封建制度の打破と大変なご苦労があった。そのご苦労は言語に絶するものであり,なみなみならぬ先達のご努力のおかげで今日がある。現在の繁栄を前にして女医たるもの,その足跡を振り返ってみる必要がある。そうすれば恵まれた現代で少々の苦労はもののかずではない。

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臨床眼科 第55巻 総目次・物名索引・人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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