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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科55巻2号

2001年02月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

後発白内障の成因と対策

著者: 林研

ページ範囲:P.129 - P.133

 後発白内障は,水晶体核と皮質を除去したときに起こる,水晶体上皮細胞による創傷治癒と再生過程である。後発白内障は,従来から①後嚢線維化,②Elschnig pearls,③Soemmering's ring形成の3つに大別されていたが,continuous capsulorhexisが標準となった現在では,臨床的に④前嚢線維化と,さらに新しく⑤液状後発白内障も問題となってきた。しかし,①と④は嚢線維化という一連の創傷治癒反応であるし,②と③は水晶体線維の再生過程なので,基本的には2種類の組織反応とみなされる。⑤はいまだに原因が確定せず分類できない。一方,後発白内障が後嚢中央に及び視機能を障害する場合を後嚢混濁と呼ぶ。このように厳密には“後発白内障”は病理学的な用語であり,“後嚢混濁”は臨床的な用語である。

眼の組織・病理アトラス・172

チン小帯

著者: 猪俣孟 ,   千々岩妙子

ページ範囲:P.134 - P.135

 チン小帯zonule or ligament of Zinnは毛様小帯ciliary zonule,水晶体支持靭帯suspensory ligamentof lens,第三次硝子体tertiary vitreousなどの呼び名があり,水晶体との接着部位によって,次の4群に分けられる。
1)前チン小帯anterior zonule:毛様体ひだ部およ び扁平部と水晶体赤道前部に接着する。

眼科手術のテクニック・122

硝子体手術における網膜下液排除と裂孔の凝固法

著者: 竹田宗泰

ページ範囲:P.138 - P.140

網膜の復位のために
 裂孔原性網膜剥離の治療は裂孔を塞ぐことである。硝子体側(経網膜)からこれを行うために,裂孔部の網膜下液の完全な排除(復位)と裂孔の確実な凝固(網脈絡膜癒着)が必要である。
 はじめに硝子体手術で網膜裂孔部付近を中心に,網膜牽引に関係する硝子体ゲルや増殖膜(網膜前および網膜下)は根こそぎ除去する。

眼の遺伝病・18

RDH5遺伝子異常と眼底白点症(2)

著者: 和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.141 - P.143

 前回は,RDH5遺伝子1085delC/insGAAG変異は日本人眼底白点症の高頻度変異であると報告した。しかしながら1992年にMiyakeら1)により報告されたように,眼底白点症も症例によっては錐体ジストロフィを合併し,表現型の多様性があることが和られている。今回は,RDH5遺伝子Gly35Ser変異を持ち,眼底白点症に錐体ジストロフィを合併した家系を報告する。

眼科図譜・372

高血圧性脈絡膜症のインドシアニングリーン蛍光造影所見

著者: 須藤勝也 ,   飯田知弘 ,   萩村徳一 ,   岸章治

ページ範囲:P.146 - P.148

 緒言 急性の高血圧では網膜症だけでなく,脈絡膜症を生じることがある。フルオレセイン蛍光造影(fluorescein angiography:FA)では,脈絡膜の充盈遅延と網膜色素上皮からの蛍光漏出が観察されるが,脈絡膜の血管病態はよく知られていない。「今回,腎性高血圧に合併した脈絡膜症の血管病変をインドシアニングリーン蛍光造影(indocyanine green angiography:IA)で検索した。

あのころ あのとき・2

原田病治療の副腎皮質ホルモン大量治療

著者: 増田寛次郎

ページ範囲:P.150 - P.151

 原川病については,原田永之助氏の報告以来,多くの発表や論文が出されていて,その治療についても多くの発表がすでにされている。
 私たちが大学に入局した昭和40年代の東京大学医学部附属病院眼科外来のぶどう膜炎のなかで,第1位はベーチェット病でほぼ25%から30%を占めていた。原田病はそれに続いて第2位で十数%であったと思う。原田病,あるいはぶどう膜炎として東大病院に紹介され,当時では最新の検査方法であった蛍光眼底検査によって(蛍光眼底検査は当時講師をされていた清水弘一先生が一手に引き受けてられていたが)原田病の特徴である網膜浮腫,網膜剥離が網膜血管からではなく,脈絡膜側から網膜下に滲出してできたものであることが明らかにされた。また本症が全身の色素細胞を系統的に侵す自己免疫疾患として理解されはじめたころでもあった。自己免疫疾患であるならば,その免疫異常を正す目的で副腎皮質ホルモンの使用は当然ながら考えられ,実際にも使われていた。しかし,その量はプレドニゾロンで約8mg/日であり,この量では原田病の進行をどうしても止められなかった例も多くあり,日に日に視力が低下していくのに困惑したことがしばしばあった。原田病は一般には予後のよい疾患として考えられていたが,実際にはそうでもなく,一時的であるが両眼がほとんど見えなくなることもあり,また最終的には夕焼け状眼底になって炎症は治癒するが視力は黄斑部変性のため著しく悪くなることもあり,また続発緑内障などの厄介な合併症に悩まされることも決して少なくなかった。

眼科医のための「医療過誤訴訟」入門・2

「医療水準」について

著者: 岩瀬光

ページ範囲:P.181 - P.183

1.「医療水準」とは何か
 医療過誤訴訟で問題となるのは,過誤を起こした医療側が診察・治療に関する注意意義務を十分果たしていたかである。裁判所がそれを判断するための「基準」となるのが「医療水準」である。
 すなわち,裁判所が問題の医療行為について「医療水準に満たない」と判断すれば,注意義務違反による過失があることになる。そして,医療水準以下の医療行為が原因で損害が発生したならば,責任が医療側にあると認められ賠償責任が発生することになる。したがって,ここで「医療水準」を裁判所がどのように考えているかが問題となる。

他科との連携

当直で学ぶ

著者: 足立諭紀

ページ範囲:P.184 - P.185

 昭和大学附属豊洲病院は,内科系(循環器科,消化器科,小児科)と外科系(外科,整形外科,眼科)の診療科があり,病床数155床の規模の病院である。当直は,内科系医師と外科系医師が1人ずつ行っている。私は,まだ4年目。学年順に当直回数が決まっており,当然,私は月に何回も当直があたる。大学病院にいた1年目のときは,月に6,7回,多いときは10回も当直があったが,眼科の患者だけを診ていればよかった。一晩に次から次へと患者が来て寝れないことも多かったが,眼科の知識だけで何とかしのいでこれた。しかし,大学を離れ,出張病院に行くと全科当直というところが多い。前の赴任病院も全科当直だった。2年目の私に全科を任せるとは,今考えても恐ろしく大胆であるが,1年間特に問題もなく終わった。そこに比べ当院は全科ではなく,内科の先生も当直をしているのでまだ安心だ。実際何度も当直の内科の先生に助けていただいた。
 眼科は,内科系,外科系のどちらに入るかといえば,確かに外科系ではあるが,かなり特殊ないわゆるマイナー科である。眼以外のこととなると,本当に何もできない。眼科の患者は高齢者が多く,糖尿病や高血圧などの基礎疾患をもっている患者も多いので,当然全身管理ができなくてはいけないのだが,ついつい,内科の先生にお願いしてしまっている。

今月の表紙

アデノウイルス結膜炎を疑われたHLA-B27関連ぶどう膜炎

著者: 大野重昭

ページ範囲:P.149 - P.149

 アデノウイルス結膜炎の起因ウイルスとしては,D亜群の8型,19型,37型をはじめ,E亜群の4型,B亜群の3型,7型,11型などが代表的である.
 表紙写真に示した患者は25歳の男性で,数日前からの右眼の充血,眼痛,流涙,軽度の眼脂を主訴に近医を受診した。アデノウイルス8型による流行性角結膜炎といわれ,点眼薬を処方されたが,症状が改善しないため,大学病院を受診した。初診時,右眼の瞼結膜に炎症所見はみられず,右前房内にフィブリンの析出を伴う強い虹彩毛様体炎がみられた。検査所見ではHLA-B27が陽性であった。ステロイド点眼薬,散瞳薬の頻回点眼により,症状は改善した。

臨床報告

エアバッグ眼外傷の2例

著者: 野中文貴 ,   永山幹夫 ,   松尾俊彦 ,   白神史雄 ,   大月洋

ページ範囲:P.158 - P.162

 シートベルト着用下でのエアバッグ作動による眼外傷を2例経験した。症例1は助手席にいた62歳の男性。左眼は角膜内皮障害,虹彩離断,水晶体脱臼,硝子体出血,外傷性黄斑円孔を生じており緊急に手術した。術後,矯正視力は右眼1.2,左眼0.05であった。症例2は運転手の62歳,男性。左眼の角膜びらん,角膜内皮障害,網膜振盪,黄斑浮腫を認めた。受傷後1か月の左眼矯正視力は0.9であった。2例とも左眼のほうが右眼より障害が高度であり,また角膜内皮障害が強かった。エアバッグ眼外傷の予後は比較的に良好のことが多いが,症例1のように視力改善が不十分となる場合もある。今後,衝突安全装置のさらなる改善が望まれる。

若年者の増殖糖尿病網膜症に対する早期硝子体手術の長期経過

著者: 牧内玲子 ,   上村昭典 ,   土居範仁 ,   中尾久美子

ページ範囲:P.163 - P.168

 網膜光凝固に抵抗して進行する若年者の増殖糖尿病網膜症に対して,早期に硝子体手術を行った6例9眼の術後長期経過について報告した。平均3年の経過観察で,術後最終視力0.5以上を得たものが7眼(78%)あった。術後合併症として硝子体出血が8眼(89%)でみられ,うち5眼で再手術が必要であった。最終的に全例で網膜症は安定化した。網膜光凝固に抵抗する若年者の増殖糖尿病網膜症に対する早期硝子体手術は,再出血例が多いものの,術後の視力転帰は良好で,網膜症の安定化に有効であった。

自己免疫性膵炎に合併したMikulicz症候群の1例

著者: 楢崎陽子 ,   吉川洋 ,   久保田敏昭 ,   猪俣孟 ,   井上修二朗

ページ範囲:P.169 - P.172

 自己免疫性膵炎に合併したミクリッツ症候群の1例を経験した。症例は31歳性で,両眼の上眼瞼腫脹を自覚して眼科を受診した。涙腺部腫瘤の生検で炎性偽腫瘍と診断した。同時に顎下腺の腫脹も合併していた。内科的精査で自己免疫性膵炎,およびそれによる糖尿病が発見された。副腎皮質ステロイド薬の全身投与で涙腺部の腫瘤は著明に縮小し,糖尿病も改善した。

浅前房をきたしたエアーガンによる眼外傷の1例

著者: 小林史郎 ,   湯口琢磨 ,   海谷忠良

ページ範囲:P.173 - P.176

 11歳男児の右眼にエアガンの弾丸が命中し,視力低下で救急受診した。右眼視力は手動弁で,眼圧は右7mmHg,左10mmHgであった。右眼に前房出血があった。受傷翌日に右眼視力は回復したが,−5Dの近視があり,右眼圧は5mmHgに低下した。前房深度は右2.24mm,左3.74mmであった。超音波生体顕微鏡(UBM)検査で右眼の隅角に毛様体解離があった。プレドニゾロン内服を行い,受傷から2週後に眼圧は正常化し,前房深度の左右差が消失した。受傷1か月後のUBM検査で毛様体解離は消失していた。隅角検査ができない外傷性浅前房にはUBM検査が有用であることを示ず症例である。

慢性閉塞隅角緑内障に対する非穿孔トラベクレクトミーの経験

著者: 勝島晴美 ,   丸山幾代 ,   八鍬のぞみ

ページ範囲:P.187 - P.191

 77歳男性が治療に抵抗する両眼の緑内障で紹介された。眼圧は左右とも25mmHgであった。散瞳により眼圧は32mmHgに上昇した。レーザー虹彩切開術とレーザー隅角形成術後の眼圧は左右とも24mmHgとほとんど下降せず,前房深度は右1.9mm,左1.8mmであった。隅角所見などと合わせて,台地状虹彩を伴う慢性閉塞隅角緑内障と診断した。マイトマイシンC併用で非穿孔トラベクレクトミーを両眼に行った。前房深度は術前と同様に維持された。左眼には術直後に濾過胞再建術を,右眼には術後10か月にYAGレーザー隅角穿刺術を追加した。術後1年の眼圧は無治療で右8mmHg,左14mmHgであった。

1年以上遷延したがその後の治療予後良好であった真菌性眼内炎の1例

著者: 南野桂三 ,   山田晴彦 ,   西村哲哉 ,   松村美代 ,   田中一巨

ページ範囲:P.193 - P.198

 真菌性眼内炎が1年以上遷延したが,治療後の視力予後が良好であった1例を経験した。症例は74歳男性で,約1年前に悪性リンパ腫で腫瘍切除と化学療法を受け,寛解していた。司時期に右眼霧視を自覚,近医でぶどう膜炎を指摘され,ステロイド薬の全身ならびに局所投与を受けた。改善しないため当院眼科を紹介され入院となった。リンパ腫の再発を疑い,全身検索を行ったが診断に至らず,硝子体手術を施行した。切除硝子体の培養でCandida albicansが検出され,抗真菌薬を投与したところ著明な視力の改善をみた。ステロイド抵抗性のぶどう膜炎では,真菌性眼内炎も考えて経過に注意する必要がある。硝子体手術が診断,治療に有効であった。

穿孔性眼外傷に対する術後早期の副腎皮質ステロイド薬全身投与の検討

著者: 高橋義徳 ,   中村さくら ,   山下英俊

ページ範囲:P.199 - P.203

 山形大学医学部附属病院眼科での最近5年間の穿孔性眼外傷の原因,治療および受傷早期の炎症による組織損傷抑制を目的とした副腎皮質ステロイド薬の投与について検刮した.症例は19例,19眼であった。性別は男性15例,女性4例。受傷原因は電動草刈り機によるものが3眼と最多であった。術直後から消炎目的に副腎皮質ステロイド薬の全身投与を施行されたものが14眼と多かったが,感染症などの合併症はみられなかった。副腎皮質ステロイド薬の投与によりフィブリンの消退は速やかであり,受傷早期の炎症による組織損傷の抑制に有効であると考えられた。

視神経陰影の肥大を認めたTolosa-Hunt症候群の1例

著者: 加藤基寛 ,   富田直樹 ,   堀口正之

ページ範囲:P.205 - P.207

 Tolosa-Hunt症候群に視神経腫脹を伴った1例を経験した。症例は52歳男性で,頭痛および左眼窩痛に弓き続き複視が出現し,近医から紹介された。初診時全方向性の眼球運動麻痺を認め,頭部CT,MRI上,左視神経陰影が肥大していたが,4日後には無治療にて眼球運動や他の臨床症状が改善した。本症例は臨床経過および検査所見から,Tolosa-Hunt症候群と考えられた。本症候群に視神経陰影の肥大を伴った報告は稀である。視神経陰影の肥大は眼窩内静脈のうっ滞によるものと思われる。

眼サルコイドーシスにおける網膜新生血管の病型分類

著者: 山口恵子 ,   大原國俊 ,   東永子 ,   中嶋花子 ,   矢口智恵美 ,   茨木信博

ページ範囲:P.209 - P.214

 眼サルコイドーシスにおける網膜新生血管の病型分類を行った。対象は1996年から1998年に初診の,網膜新生血管を呈した眼サルコイドーシス確診4例である。網膜血管閉塞の有無、後眼部炎症所見の程度,新生血管の部位,治療と効果について検討した。病型として血管閉塞型,炎症型,混合型の3型に分類できた。血管閉塞型では,無血管野に対する網膜光凝固術で新生血管は消退した。無血管野はないが著明な後眼部炎症を認めた炎症型では,ステロイド内服が無効で硝子体手術が有効である可能性があった。混合型では光凝固とステロイド内服を併用し,病勢は沈静化した。新生血管の成因は血管閉塞によるものと炎症が関与するものがあり,有効治療はそれぞれの原因で異なる。

視力低下および水平半盲をきたした眼窩静脈瘤の1例

著者: 大石賢嗣 ,   杉山哲也 ,   岡村展明 ,   菅澤淳 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.217 - P.220

 64歳男性が左眼の視力障害と視野欠損で受診した。20年前から伏臥位で眼球突出を自覚していた。左眼の矯正視力は0.4で,左眼の下方視野に水平半盲があった。伏臥位直後に左眼の眼球突出が生じた。網膜静脈が著明に蛇行し,乳頭が蒼白化していた。レーザースペックル法で,乳頭の血流は右眼に比べて顕著に低下していた。CTとMRIで,左眼窩静脈瘤と診断した。以後1年間の経過観察で,病像に変化はなかった。本症例の視力低下と水平半盲は,眼循環動態の異常に続発した虚血性視神経症によるものと推定した。

ラタノプロスト点眼液の正常若年者の調節・瞳孔に及ぼす作用

著者: 勝村浩三 ,   内海隆 ,   渡邊敏夫 ,   奥英弘 ,   菅沢淳 ,   中島正之

ページ範囲:P.221 - P.225

 プロスタグランディンF誘導体であるラタノプロスト0.005%点眼液の調節と瞳孔径に及ぼす影響を検索した。26歳から31歳の正常者10名の片眼に5分間の間隔で2回点眼し,4時間後にアコモドメータで遠点・近点・調節力を,赤外線電子瞳孔計で瞳孔径を,圧平眼圧計で眼圧を測定した。全例でわずかな眼圧下降が起こった(p<0.01)。遠視化が2例,近視化が2例,近点延長が4例,散瞳が4例に起こった。これら調節と瞳孔径の変化は,点眼による毛様筋の弛緩と毛様筋間隙の増大によると推定した。これらの副作用は,ラタノプロスト点眼による緑内障治療に際して留意すべきである。

カラー臨床報告

網膜色素上皮剥離型の加齢黄斑変性の光干渉断層計像

著者: 佐藤拓 ,   飯田知弘 ,   萩村徳一 ,   須藤勝也

ページ範囲:P.152 - P.157

 網膜色素上皮剥離(retinal pigment epithelium detachment:PED)を主病変とする加齢黄斑変性31例31眼を光干渉断層計(Optical coherence tomography:OCT)で観察した。OCT上,PEDは網膜色素上皮(retinal pigment epithelium:RPE)による高反射層のドーム状隆起としてみられ,RPE下腔は低反射域を示した。31眼中20眼で,脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization:CNV)の部位では隆起したRPE層がくびれて「空間的notch sign」を示し,PEDの隆起は二峰性のドーム状に観察された。31眼中11眼で,CNVに一致して,剥離したRPE後面には高反射帯が接していた。この高反射帯の後方では脈絡膜の反射は減衰し,暗くなっていた。PEDを伴った加齢黄斑変性では,Gassの示した平面的なnotch signだけでなく,OCTでは三次元的にも「空間的notch sign」が存在し,これはCNVによりRPEとブルッフ膜とが癒着している像と考えられた。断層像でみられる[空間的notchsign」はCNVを示す所見として診断価値があると結論された。

やさしい目で きびしい目で・14

『1対8』

著者: 林みゑ子

ページ範囲:P.177 - P.177

 10年にわたって医学部の4年,5年のBST (bed side teaching)を担当したので,ほとんど毎週20代前半の若い人たちのグループを教える経験をした。BSTでは最初のころ白内障手術に関して教えていた時期があり,私は学生にする話に時事や世間話を盛り込むのが好きなので(ついでに笑いも取れたら嬉しい),当時白内障/IOL手術の体験記を出版していた現代文字の曽野綾子や吉行淳之介を話題に出したが,9割以上の学生はこれらの作家の名前を知らなかった。もちろん作家ということを知らないのだから作品を読んだこともない。で,私が「えっ?? 本当に知らないの」と思わず言ってしまうと,(そんな作家の名前なんて知らなくてもいいでしょ,何くだらんこと聞いてくるの,この先生は……)の表情が学生の顔に浮かび,続いて座がしーんとなってしまう。私としては,学生が手術を身近に感じて興味を持てば,おもしろいBSTになると思い,まさか知らないとは思わず話に出したのだが,知らない作家の話をふっても,何の足しにもならない。
 BSTは,通常は8人のグループで回ってくるのだが,年度末は人数割りがうまくいかない端数処理のような感じで,突然4人のグループの時期がある。すると俄然,BSTが最高のでき上がりになるのだ。そこで,私が今にして思うのは,いわゆる小グループ教育の人数は8人では多すぎて4人程度が適当なのではないか,ということである。曽野綾子や吉行淳之介でしらけたのは,学生の数も関係あったのではないかと思うのだ。というのは,学生を教えていて,ときには学生の教わる側としてのマナーのなさに頭の血管が切れそうになったり,学生の不真面目な態度にあとあとまでいやな気分が持続したりするのだが,これが4人以下のグループのときは,すべてのグループで思う存分教えることができ,学生たちも活発に質疑応答し,楽しい充実した思い出が多い。4人だと,このうちの1人に質問していても他の3人は真剣に聞いている。しかし8人の場合,他の7人のうちに心ここにあらずで往々にして教師の目前で平気で眠りだす失礼な奴がでてくるのである。学生8人に教師1人は,物理的にも,というより私のオーラ不足かもしれないが,何だか教師が弱い感じになってしまうのだ(黒い羊に囲まれた白い羊,といったら学生が怒る?)。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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