icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科55巻3号

2001年03月発行

雑誌目次

特集 第54回日本臨床眼科学会講演集(1) 原著

正常遺伝子型を持つ色覚異常例の解析

著者: 山出新一 ,   小田早苗 ,   田中敬 ,   上山久雄 ,   田辺詔子 ,   林孝彰 ,  

ページ範囲:P.265 - P.269

 先天(赤緑)色覚異常の遺伝子レベルでの解明が進み,色覚異常の遺伝子型と表現型(臨床診断)とは1対1に対応するかのように考えられている。筆者らは167例の先天色覚異常の遺伝子を解析した。122例(73.1%)では遺伝子型はその表現型と一致したが,残りの45例では解決すべき問題点が残った。赤緑どちらの遺伝子も持つ正常遺伝子型のケースが19例存在した。PAが3例,Dが3例,DAが13例であった。これらのケースを詳細に解析すると,正常遺伝子型の第2異常の16例中14例(88%)に緑遺伝子のプロモーターの-71の位置にアデニン(A)がシトシン(C)に置き換わっている変異(A-71C)が認められた。この変異は他の異常例や正常色覚例にも存在したが,有意に低い頻度であった。トランスフェクションおよびゲルシフトアッセイにより,A-71Cを持つプロモーターの転写活性が野生型と比べて50%程度に低下していることがわかった。この変異は第2異常の発症と密接に関連していると推測できる。

白内障手術後の糖尿病黄斑浮腫の病態と進展予測

著者: 船津英陽 ,   清水えりか ,   野間英孝 ,   山下英俊 ,   三村達哉 ,   中西雄一郎 ,   春山賢介 ,   中村新子 ,   今野泰宏 ,   北野滋彦 ,   堀貞夫

ページ範囲:P.271 - P.275

 白内障手術後の糖尿病黄斑浮腫(黄斑浮腫)進展の病態を解明するために,白内障手術時に前房水を採取した2型糖尿病患者44例(44眼)を対象に,6か月間の経過観察にてコホート研究を行った。予後因子として,前房水中のvascular endothelial growth factor (VEGF)とinterleukin-6(IL−6)濃度,黄斑前の後部硝子体の状態,前房蛋白濃度,1年間のHbA1c平均値,罹病期間を取り上げた。白内障手術6か月後の黄斑浮腫の推移は,悪化26%,不変56%,改善19%であった。黄斑浮腫進展に関与する因子としては,前房水中のVEGFとIL-6濃度,黄斑前の後部硝子体の状態,前房蛋白濃度があげられ,これらの要因は黄斑浮腫進展において相互に関与していることが示唆された。

Snowbankを伴う中間型ぶどう膜炎の赤外蛍光眼底造影像と治療経過

著者: 鈴木水音 ,   矢部比呂夫 ,   戸張幾生

ページ範囲:P.278 - P.281

 66歳の男性が,1か月前からの左眼霧視で受診した。左眼矯正視力は0.5で、軽度の硝子体混濁と耳側網膜周辺部にsnowbankがあった。フルオレセイン蛍光造影(FA)でsnowbankからの色素漏出,赤外蛍光造影(IA)で脈絡膜循環不全による低蛍光と血管透過性亢進があった。中間型ぶどう膜炎と診断した。3か月間のステロイド薬の結膜下注射と内服でsnowbankは消失し,視力は1.0に回復した。FAでは正常,IAでは脈絡膜循環不全の所見が得られた。ステロイド薬離脱後に再発した。中間型ぶどう膜炎での病態把握と治療の評価には,頻回のIAが有用である。

ハイデルベルグ・レチナ・アンジオグラムを使用した網膜色素上皮リポフスチン由来自発蛍光の観察

著者: 白木邦彦 ,   洪里卓志 ,   河野剛也 ,   柳原順代 ,   三木徳彦 ,   森脇光康

ページ範囲:P.283 - P.287

 網膜色素上皮リポフスチン由来の自発蛍光を,特殊な付属装置なしのハイデルベルグ・レチナ・アンジオグラム(HRA)で観察した。症例は,加齢黄斑変性症33例,中心性漿液性網脈絡膜症9例,その他6例の48例89眼である。正常眼では,乳頭,網膜血管,黄斑領域がシルエット状に観察された。病的眼では,蛍光の低下領域が,網膜色素上皮萎縮,線維成分に畠んだ脈絡膜新生血管組織,網脈絡膜萎縮部に観察された。蛍光の増強が,すべての網膜色素上皮剥離部と,一部の色素沈着部・漿液性網膜剥離部・網脈絡膜萎縮の隣接部位に観察された。今回観察されたリポフスチン由来の自発蛍光は,特殊な付属装置を使った過去の報告と同様であった。

走査型レーザー検眼鏡を用いた中心窩移動術の回転角度の測定

著者: 津田恭央 ,   宗今日子 ,   山田浩喜 ,   大庭啓介 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.289 - P.292

 中心窩移動術を行った14眼14症例で網膜回転角度を測定した。測定には走査型レーザー検眼鏡(SLO)のスコトメトリープログラムを使用した。原疾患は,加齢黄斑変性症11眼,近視性新生血管黄斑症3眼であった。術前術後にSLOで撮影した画像をプリントアウトし,乳頭中心部と固視点を結ぶ線から回転角度を算出した。回転角度は15.5度〜44.7度,平均30.4度であった。術後に自覚的複視を強く自覚した9症例での回転角度は平均30.6度,その他の5症例での回転角度は平均29.0度で,回転角度と複視の間には相関はなかった。SLOのスコトメトリープログラムで,自覚的回転角度の測定が可能である。

日帰り角膜移植の患者満足度

著者: 石岡みさき ,   深川和己 ,   榛村重人 ,   島崎潤 ,   坪田一男

ページ範囲:P.293 - P.296

 過去1年間に同一術者が全層角膜移植術を125症例に行った。入院手術70例,日帰り手術55例であった。両群についてアンケート調査を行い,CSQ-8Jを使って患者満足度を評価した。8項目のスコアの合計は両群間に差がなく,各群の性別・年齢・疾患別でも差がなかった。患者満足度は術後の裸眼視力,矯正視力,矯正視力の改善度とは相関せず,入院群での裸眼視力の改善度のみと有意に相関した。以上の事実から,全層角膜移植術後の患者満足度は,入院と日帰り手術でほとんど同様であることが結論される。

深層角膜移植術で角膜輪部よりデスメ膜を露出する方法

著者: 佐々木究 ,   鹿谷安明

ページ範囲:P.297 - P.299

 角膜実質に混濁がある2眼に,角膜輪部よりデスメ膜を露出する方法を用いて深層角膜移植術を行った。トレパンで角膜表層の約4分の3を切除した後に,角膜輪部に3×4mmの強膜弁を作製し,シュレム管とデスメ膜を露出した。スパーテルでデスメ膜と角膜実質間を剥離し,その間にポリスチレンのシートを挿入した。角膜表面からシートに達するまで切開し,シートを除去してデスメ膜を露出させた。本法は,深層角膜移植術でデスメ膜を安全に露出させることに有用であった。

一般地域住民における角膜中心厚と年齢との関係

著者: 野村秀樹 ,   田辺直樹 ,   新野直明 ,   安藤富士子 ,   下方浩史 ,   三宅養三

ページ範囲:P.300 - P.302

 一般地域住民1,116名の右眼(男性590眼,女性526眼,年齢40〜80歳)に対して,スペキュラーマイクロスコープを用いて角膜中心厚(CCT)を測定した。CCT (平均値±SD)は男性0.518±0.032mm,女性0.511±0.032mmと男性で有意に厚かった(p<0.001)。年齢群別平均値(±SD)(男性/女性)は40歳代0.521±0.032/0.515±0.037mm,50歳代0.522±0.029/0.510±0.033mm,60歳代0.516±0.031/0.514±0.030mm,70歳代0.514±0.034/0.506±0.028mmであった。CCTは男性において年齢と有意な負の相関を示し(p<0.01),女性においても高年齢ほど薄い傾向であった(p=0.10)。

虹彩腫瘍によって発見された肺腺癌の1例

著者: 山本亜紀 ,   滝昌弘

ページ範囲:P.303 - P.306

 79歳の男性が左眼眼痛で受診した。左眼虹彩毛様体炎と診断,治療し,眼痛は消失した。受診から4週後に,白色の隆起性病変が左眼虹彩に発見された。全身検査で右肺野部に4×5cmの腫瘤が発見され,肺癌が疑われた。左眼の腫瘍は急速に増大し,高眼圧が持続したので,眼球摘出を行った。虹彩腫瘍は腺癌であり,肺癌からの転移と診断した。抗癌剤の全身投与を行ったが,脳転移が続発し,初診から5か月後に死亡した。保存的療法を行っても転移性虹彩腫瘍が続発緑内障になり,眼球摘出が必要になることを示す症例である。

先天網膜分離症の兄弟例

著者: 入船元裕 ,   国吉一樹 ,   楠部亨 ,   下村嘉一 ,   上野山典子 ,   山本修士

ページ範囲:P.307 - P.313

 6歳の男児が視力障害で受診した。矯正視力は左右とも0.4で,両眼に銀箔様の網膜反射と車軸状黄斑変性があった。周辺網膜に分離症はなかった。フラッシュERG (網膜電図)のb/a比は,右1.40,左1.17であった。7歳の兄の矯正視力は右0.5,左0.3で,両眼に銀箔様の網膜反射と車軸状黄斑変性と,下耳側に網膜分離症があった。フラッシュERGのb/a比は右0.96,左0.89であった。X染色体劣性遺伝の網膜分離症ではMüller細胞の異常があるとされ,フラッシュERGのb/a比が減弱することがあるが,これが1以上を示す症例がありうる。

斜視角が変動する交代性外斜視を伴った両側内側縦束症候群(WEBINO症候群)の1例

著者: 小沢信介 ,   坂本郁夫 ,   小池生夫 ,   岡野智文 ,   皆本敦 ,   三嶋弘

ページ範囲:P.315 - P.318

 38歳女性に複視が突発し,軽快しないので7日後に受診した。矯正視力は両眼1.2で,眼底その他に異常はなかった。右側に著明な,左側に軽微なMLF (内側縦束)症候群があった。斜視角が正位から最大30度と不規則に変動する交代性外斜視があった。輻軽は不可能であった。交代性外斜視を伴うMLF症候群(WEBINO症候群)と診断した。8日後に交代性外斜視は外斜位になり,さらに7日後には外斜位と両眼の内転制限は消失した。比較的若年の女性であり,症状が急速に改善したことから多発性硬化症を疑った。頭部MRI検査では異常所見はなく,WEBINO症候群の原因は特定できなかった。

若年の1型糖尿病患者に発症した前部虚血性視神経症の1例

著者: 佐井豊幸 ,   加茂雅朗 ,   上江田信彦 ,   豊川彰博 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.319 - P.323

 31歳女性が右眼霧視と視野異常で受診した。8年前に1型糖尿病と診断され,3年前から経口糖尿病薬,2年前からインスリン投与を受け,1年前に汎網膜光凝固が両眼に行われた。矯正視力は両眼とも1.0であった。右眼に顕著な乳頭浮腫と下鼻側の傍中心暗点があり,前部虚血性視神経症(AION)と診断した。発症翌日から1か月間ステロイド薬の内服を行った。視力低下はなく,視野障害も悪化しなかった。若年の1型糖尿病に併発したAIONに,巌格な血糖コントロールとステロイド薬内服が奏効することを示す症例である。

連載 今月の話題

黄斑部とミュラー細胞

著者: 西川真平

ページ範囲:P.245 - P.250

 黄斑部におけるミュラー細胞の分布を,その特異的酵素であるグルタミン合成酵素を中心として調べたところ,ヒト網膜黄斑部ではグリア細胞の密度が低いことがわかった。これだけ少ないミュラー細胞が,そのほかの部分を占める多数の神経細胞の活動と代謝を支えなければならないことは,大変な負担がこの神経膠細胞にかかっていることを示している。

眼の組織・病理アトラス・173

硝子体

著者: 猪俣孟

ページ範囲:P.252 - P.253

 硝子体vitreousは,水晶体,網膜,毛様体で囲まれた部位に存在する透明でゲル状構造の組織で,眼球全体の80%の容積を占める。硝子体の90%以上は水分である。眼球壁に近い部分は皮質cortexと呼ばれ,線維成分,細胞および糖蛋白に富む。とくに網膜面の硝子体は線維成分が濃厚である。線維成分はⅡ型コラーゲンを主体とし,それにⅤ型,Ⅵ型,Ⅹ型コラーゲンが含まれている。硝子体細胞hyalocyteは主として網膜に近い皮質に存在し,ヒアルロン酸を産生する。また貧食能を有し,眼球内の病変に際して,網膜や毛様体に出入りする。硝子体細胞は網膜の血管と関連して存在するミクログリアmicrogliaもこの細胞と関係し,単核球を起源としたマクロファージの一種と考えられる。
 硝子体は発生学的に次の三部からなる(図1)。

眼の遺伝病・19

RDH5遺伝子異常と眼底白点症(3):RDH5とは

著者: 玉井信 ,   和田裕子

ページ範囲:P.255 - P.257

 前2回にわたって眼底白点症の遺伝子異常と臨床症状について症例を呈示したが,今回はRDH5とは何かについて解説する。
 すでに本シリーズ14の「アレスチン遺伝子異常と網膜変性(2)」で示したように,視サイクルと呼ばれる視物質の代謝回路には多くの酵素が関与している1)。その1つが11—cis retinol dehydrogenase(RDH5)である。ビタミンA代謝の最終段階の発色団(chromophore)形成段階で,その異性体である11—cis retinoiを11—cis retinalに変換するところで働く。11cis-retinalはCRALBP (cellularretinaldehyde binding protein)と結合して色素上皮から網膜下腔に出され,その後IRBP (interphoto—receptor retinol binding protein)と結合し,視細胞外節へと運ばれる(図1)。視細胞外節ではオプシンと結合して外節円盤に取り込まれ,光刺激によりこの11—cis retinaldehydeの11—cisの部分がall—transに異性化し,これが視細胞内で光刺激のエネルギーが電気的な信号に変換される一連の反応(phototransduction cascade)の最初のステップになる。図1に示すように,その後11-cis retinalはall-trans retinolに還元され,これはIRBPに結合して外節から運び出され,色素上皮に取り込まれ,色素上皮内で代謝される。色素上皮内でall-transretinolから11-cis retinolに異性化された後,11-cis retinol dehydrogenaseの働きで酸化されて11-cis retinaldehydeとなり,再び視細胞に戻される。RDH5は32-kDaのミクロゾームの細胞膜に存在する酵素で,色素上皮に発現していることがわかっていた。

眼科手術のテクニック・135

視認性をよくするコツ

著者: 竹田宗泰

ページ範囲:P.258 - P.260

視認性をよくするコツ
 硝子体手術は患者の光学系を用いて行うclosed eye surgeryであり,手術の成功には視認性が必須の条件である(図1)。

あのころ あのとき・3

角膜研究の仲間たち

著者: 三島済一

ページ範囲:P.261 - P.263

 1950年に眼科医になり,故萩原朗先生に角膜の研究をするよう命ぜられたのが,私の眼科医としての人生を決定付けることになった。
 1959年ロンドンに留学,David Mauriceに教えを受けた後,ボストンに移った。

眼科医のための「医療過誤訴訟」入門・3

白内障術後眼内炎の法律的問題

著者: 岩瀬光

ページ範囲:P.329 - P.331

はじめに
 白内障の手術手技は向上し,手術時間も短くなり,乱視などを含めた視機能への満足度も向上している。その成功率は90数%を超え,医者の行う手術の中で最も成功率が高く,また満足度の高い手術といわれる。しかし,確率は0.4%にも満たないながら,術後眼内炎が発症し,最悪術眼が失明かそれに近い状態になった場合,期待が大きいだけに患者さんならびに家族の失望は大きく,訴訟問題になるケースが多い。
 日本眼科医会の「医事紛争の集計」によると,水晶体疾患の医事紛争の原因を行為別にみると手術が94.4%と圧倒的に多く,さらに白内障手術のうちの紛争原因を調べると後嚢破損が28.4%,感染が22.4%と多くを占めている。今回は,これらの裁判例や裁判に至らない仲裁例を分析してみて,眼科専門医がいかにして術後眼内炎を防止できるか,また眼内炎が発生したとしてもどうすれば過失を免れることができるかを考えてみたい。そのために,例として白内障術後眼内炎を起こした事例A・事例Bを登場させる(いくつかの事例を併せた典型例と理解していただきたい)。

他科との連携

コネも実力のうち

著者: 佐々木秀次

ページ範囲:P.332 - P.333

 「他科との連携」というテーマで原稿を依頼された。さて,困った。『他科との連携』なんて呼べるようなことを何かしているだろうか。他の大学病院ではどんなことをしているのだろうと思い,バックナンバーをめくってみた。老年科とのカンファランス,糖尿病合併症研究会……などなど。うーん,素晴らしい。うちも何か1つくらいないものかと周りの人たちに尋ねても,いいアイデアは浮かばない。
 思えば,関連病院にいた頃は,意識しなくとも他科の先生方との連携はうまくいっていたような気がする。夕方になって医局に行けば,多くの科の先生が診療が終わってくつろいだり,勉強をしたりしていた。何か問題のある患者がいれば,カルテやレントゲンフィルムを持ってきて,気軽に相談することができた。即席のカンファランスである。また,小さい病院ではドクター以外にも知り合いの検査技師さんや薬剤師さんもいて,困った時にはいろいろと助けてもらった。

今月の表紙

全脈絡膜萎縮症の蛍光眼底写真

著者: 西村治子 ,   玉井信

ページ範囲:P.251 - P.251

 患者は30歳の男性で,1997年3月ころに右眼に変視症が出現し,3月7日に当科を受診した。視力は右0.9(矯正不能),左1.0(1.5×0.5D cyl−0.25DAx90°)で,視野検査では両眼ともに狭窄,沈下があった。眼底は健常網膜を黄斑部にのみ残す,広範な脈絡膜萎縮を認めた。血清オルニチンは正常であり,保因者である母親に特徴的な斑紋上眼底を認めたため,全脈絡膜萎縮症と診断された。本症はX染色体遺伝性の,びまん性のtotal choroidal vascular atrophyと規定される脈絡膜ジストロフィの一型であり,男性のみに発生する。眼底には初期からびまん性の網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管板との萎縮,消失が発生し,脈絡膜の中血管,大血管が透見されるようになる。この時期でも網膜内層や視神経は比較的健常に保たれているこの蛍光眼底写真では,黄斑部を除く部位では色素上皮と脈絡膜毛細血管板の萎縮,消失があるため,脈絡膜の血管造影像が明瞭に認められる。黄斑部は色素上皮と脈絡膜毛細血管板が残存しているため,脈絡膜血管は見えない。

やさしい目で きびしい目で・15

『メガネで一人前』

著者: 亀山和子

ページ範囲:P.325 - P.325

 30数年前,眼科へ入局した頃のことを思い返すと,何をとっても人の力が主体で,コンピュータ時代の現在と較べると,未開の時代であった。種々の検査機器も未開発で,屈折検査にもオートレフラクトメータではなく,自分の眼と技術が頼みの検影法で行っていた。またORTなる職種もなく,新人からベテランに至るまで自らが屈折矯正,視力検査をはじめ,視野検査はもとより弱視の訓練も行っていた。そして「眼鏡の処方が一人でできたら一人前になったと認めよう」と先輩(オーベン)に言われた。
 現在では,眼鏡処方はORTや眼鏡店の眼鏡士の役目と考えられているところがある。しかし視力検査は眼科診療の基礎であり,屈折検査はその第1歩として修得したい技術である。視野検査しかり,眼筋機能検査しかりである。少なくとも研修医の間にぜひ身につけたいものである。一言で屈折検査,眼鏡処方といっても,その使用目的によってさまざまな種類がある。かつては遠用,近用の2種類であり,遠近両用は二重焦点レンズであった。しかし現在では累進焦点レンズが主流となり,生活状態に応じて遠近,中近などの使い分けをするようになった。特に近年では屈折の矯正はめざましい進歩があり,PRKやLASIKが広がりつつあるが,まだ眼鏡が大きな役割を占めている。またOA器機の使用により眼精疲労を訴える者が多く,特に調筋力の低下した老視の初期では,症状が強調されて訴えられる。

臨床報告

全層角膜移植術後難治性緑内障に対する半導体レーザー経強膜毛様体光凝固術

著者: 粕谷貴生 ,   原岳 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.335 - P.338

 全層角膜移植術(penetrating keratoplasty:PKP)後難治性緑内障に半導体レーザー経強膜毛様体光凝固術(transscleral cyclophotocoagulation:TSCPC)を施行した10例10眼の成績を報告した。治療回数は1.5±0.7回,観察期間は238.1±61.9日であった(平均±SD)。眼圧は術前37.2±8.5mmHgから,最終観察時において投薬中の症例を含め18.4±10.5mmHgと低下した(平均±SD)。8眼において21mmHg以下の良好な眼圧コントロールを得ることができた。移植角膜片が術前に透明であった5眼のうち4眼においてその透明性が維持された。重篤な合併症として強膜穿孔および硝子体出血が1眼あった。末期緑内障の2眼では眼圧は正常化したが,最終的に光覚を喪失した。TSCPCはPKP後難治性緑内障の手術治療の1つとして有用と結論された。

第3世代眼内レンズ計算式の精度

著者: 鈴木聡志 ,   小出良平 ,   陰山俊之 ,   大西健夫 ,   谷口重雄 ,   高良由紀子

ページ範囲:P.339 - P.344

 Holladay式,Hoffer Q式およびSRK/T式を従来からの各計算式のアクリルソフトレンズを用いた際の精度を検討した。超音波水晶体乳化吸引術,アクリルソフト眼内レンズ(MA30BA,アルコン社)嚢内挿入術を行い術後矯正視力がO.5以上であった111症例148眼の結果からpACD, SFを算出した。その値を同様の条件を満たす他の母集団304例390眼において,Holladay式,Hoffer Q式,SRK/T式,SRK式,SRKⅡ式,SRK修正式の精度を比較した。その結果,pACDは5.45±0.59mm,SFは1.69±0.44mmであった。誤差±1D未満の症例の割合はHoffer Q式84.9%,Holladay式84.1%,SRK/T式80.0%,SRK修正式75.9%,SRK式72.6%,SRKⅡ式70.3%であった。HOIIaday式,Hoffer Q式およびSRK/T式は,SRK,SRKⅡに比較して有意に精度が高かった(p<0.05)。以上のように第3世代計算式は,アクリルソフトレンズを用いた小切開白内障手術においても高い精度であった。

水晶体上皮細胞の重層とアポトーシス

著者: 馬嶋清如 ,   桐渕恵嗣 ,   糸永興一郎 ,   山本直樹

ページ範囲:P.347 - P.351

 Fasおよびslngle stranded DNA (ssDNA)は,細胞のアポトーシスを示す指標である。手術時に採取した水晶体上皮細胞にこれら指標が存在するか否かを免疫組織学的に検索した。資料としたのは、前極に混濁がある22歳男性のアトピー白内障と,白内障手術と眼内レンズ挿入術を受けた6年後に前嚢切開縁に生じた65歳女性の線維性混濁である。前極白内障では,錐体状混濁部の重層する水晶体上皮細胞にFasとssDNAが存在した。後発白内障では,前嚢切開縁の混濁部にある重層する水晶体上皮細胞にFasは存在せず,ssDNAが存在した。この領域の水晶体上皮では,Fasを介さない経路でアポトーシスが起こっている可能性が推定された。

黄斑円孔術後再開例の検討

著者: 熊谷和之 ,   荻野誠周 ,   出水誠二 ,   渥美一成 ,   栗原秀行 ,   岩城正佳 ,   石郷岡均 ,   舘奈保子

ページ範囲:P.353 - P.358

 同一術者が連続して行った黄斑円孔手術例594眼中,同手術により閉鎖した553眼中で再開した31例32眼(5.8%)を対象として,臨床像と視力予後を検討した。内訳は男性が9例9眼(28%),女性が22例23眼(72%)で,黄斑円孔の両眼性が8例(26%)あった。再再開例が3眼,再再再開例が1眼であった。初回手術前の平均視力は0.19,再開前は0.53,再開後が027であった。再開後の手術例の25眼中23眼(92%)が閉鎖し,平均視力は0.41に改善した。再手術をしなかった7眼の平均視力は0.26を維持した。以上のように,黄斑円孔再開例には女性と両眼性が多かった。再開例に対する手術は有効であったが,再開前視力には戻らなかった。再開のより少ない術式が求められる。

ぶどう膜炎による続発緑内障に対するマイトマイシンC併用線維柱帯切除術の成績

著者: 今泉佳子 ,   栗田正幸 ,   杉田美由紀 ,   斎藤秀典 ,   大野重昭

ページ範囲:P.359 - P.363

 ぶどう膜炎による続発緑内障(UG)に対するマイトマイシンC併用線維柱帯切除術の成績について検討した。対象はUG 53例59眼で,Kaplan-Meier生命表を用い,原発開放隅角緑内障(POAG)65例82眼と比較検討した。UG群の術後21mmHg以下への最終眼圧調整率は術後5年で47.3%であり,POAG群と比べ有意に低下していたが,初回手術例のみで比較すると最終眼圧調整率は76.3%であり,有意差はなく良好であった。また術後の炎症再燃もわずかであった。マイトマイシンC併用線維柱帯切除術は,UGの初回手術には有用と考えられる。

線維柱帯切除術後に生じた脈絡膜血腫の1例

著者: 山田寿真子 ,   杉田美由紀 ,   大野重昭

ページ範囲:P.365 - P.368

 59歳男性が右眼の高眼圧で紹介を受け受診した。幼少時から両眼に-7.5Dの近視があった。左眼は35歳の頃失明し,受診時には水晶体全脱臼と網膜全剥離があった。右眼には水晶体摘出術と線維柱帯切開術の既往があった。薬物治療で右眼眼圧が48mmHg以下に下降しないため,マイトマイシンC併用の線維柱帯切除術を行った。術翌日の眼圧は3mmHgの低眼圧で前房の形成があったが,脈絡膜剥離が内方周辺部にあり,以後これが増悪して胞状の脈絡膜全剥離になった。術後19日目の磁気共鳴画像検査MRIで脈絡膜血腫が同定された。以後眼圧は15mmHgに維持され,血腫は術後50日で消失し,術前の手動弁の視力が0.4に改善した。この脈絡膜血腫は駆逐性出血に準じる機序によって生じたと解釈され,術前の高眼圧,無水晶体眼,強度近視,加齢,術後の低眼圧が危険因子として関係したと推定された。

黄斑前膜の硝子体手術に影響する因子の検討

著者: 川端紀穂 ,   田中稔 ,   邱彗 ,   清川正敏 ,   安藤雅子 ,   竹林宏

ページ範囲:P.371 - P.376

 1991年11月から1999年4月までの期間に,黄斑前膜症例に行った硝子体手術の成績を術前後の視力変化,自覚症状の存在期間,膜の性状,蛍光漏出の有無などの因子について比較した。対象は硝子体手術を施行し,手術後6か月以上経過観察できた特発性黄斑前膜35例37眼,続発性黄斑前膜20例20眼の計55例57眼である。統計学的に有意差はみられなかったが,術前視力が良好で自覚症状のある期間が明らかに短いもののほうが,術後視力は良好であった。膜の性状では,セロファン状のもの,さらに術前の蛍光眼底検査で,網膜からの蛍光漏出のない症例のほうが視力改善が良好であった。本症に対する手術の適応については,術前視力は0.4もしくはそれ以上で,膜の混濁する前で蛍光漏出のない症例に対しての,いわゆる早期手術によってよりよい術後視力が得られるものと思われた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?