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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科55巻4号

2001年04月発行

雑誌目次

特集 第54回日本臨床眼科学会講演集(2) 原著

ハイドロジェルレンズとアクリルレンズの術後早期成績の比較

著者: 松島博之 ,   吉田紳一郎 ,   泉雅子 ,   松井英一郎 ,   永田万由美 ,   鈴木重成 ,   千葉桂三 ,   枝美奈子 ,   妹尾正 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.417 - P.420

 小切開白内障手術用眼内レンズであるアクリルソフトMA60BM (アルコン社,83眼)とハイドロジェルH60M (ボシュロム社,88眼)の術後早期成績を比較検討した。術後3か月まででは視力,眼圧は差がなかった。角膜内皮細胞はハイドロジェル群のほうが減少していたが,有意な差はなかった。前房内フレア値は術後1日,1か月でハイドロジェル群が増加しており,術後1か月で統計学的有意差があった。術後屈折誤差は両群とも差がなく,軽度近視化していた。眼内レンズの傾斜,偏心はアクリル群に比べ,ハイドロジェル群のほうが少なかった。ハイドロジェルレンズの評価には今後,後発白内障,術後炎症などの長期経過観察が必悪である。

自然寛解した第1期黄斑円孔の網膜断層像

著者: 下田幸紀 ,   岸章冶

ページ範囲:P.421 - P.424

 自然寛解がみられた第1期黄斑円孔4例6眼の自然寛解前後での経時的変化を光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)を用いて観察した。初診時,3眼で後部硝子体皮質の中心窩での接着がみられ,中心窩は1眼が嚢胞,2眼が肥厚を示した。他の3眼ではすでに中心窩硝子体剥離(vitreofoveal separation:VFS)が生じており,中心窩は2眼が嚢胞,1眼は網膜剥離を示した。平均8.6か月の経過中,硝子体接着のあった3眼もVFSを生じ,最終的にこれら6眼すべてが中心窩の陥凹を復活した。自然寛解により2段階以上視力が向上したのは5眼(83%),不変は1眼(17%)であった。OCTで硝子体皮質と中心窩の状態を観察することができ,予後の判定に有益であった。

後部ぶどう腫内の網膜剥離と硝子体皮質

著者: 橋本英明 ,   小林秀雄 ,   岸章治

ページ範囲:P.425 - P.427

 後部ぶどう腫のある強度近視に発症した網膜剥離5例5眼を検索した。黄斑円孔がある3眼,円孔がない1眼,黄斑バックルで円孔閉鎖後に網膜剥離が再発した1眼である。細隙灯顕微鏡検査では5眼とも後部硝子体剥離はなかった。光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)では,黄斑円孔のある3眼中2眼で薄く剥離した硝子体皮質が円孔の縁に接着しており,1眼では硝子体皮質が同定できなかったが,網膜に接着した硝子体皮質を術中に確認できた。円孔のない1眼では,中心窩周囲に硝子体剥離が生じるとともに網膜剥離が拡大した。黄斑バックル例では,薄く剥離した硝子体皮質が網膜を挙上していた。強度近視眼の網膜剥離では、硝子体皮質のトランポリン様の剥離による前後方向の牽引が作用していると考えられる。

糖尿病黄斑浮腫への硝子体手術の有効性

著者: 大谷倫裕 ,   岸章治

ページ範囲:P.429 - P.433

 糖尿病黄斑浮腫への硝子体手術の有効性を検討するために,両眼性の糖尿病黄斑浮腫の片眼に硝子体手術を実施し,他眼を対照群として硝子体手術前後の中心窩厚と視力を調べた。両眼に同様の黄斑浮腫があり,片眼術後5か月以上経過を追えた7例を対象とした。手術実施群の中心窩厚(平均)は,術前630μmが術後280μmに有意に減少した(p<0.05)。対照群の中心窩厚(平均)は,術前590μmが490μmに減少したが有意差はなかった。手術実施群の術前後の視力は,改善3眼(43%)1不変3眼(43%),悪化1眼(14%)であった。同様に対照群では,視力の改善1眼(14%),不変2眼(29%),悪化4眼(57%)であった。糖尿病黄斑浮腫への硝子体手術の有効性が客観的に示された。

テルソン症候群に対する硝子体手術の成績

著者: 京本敏行 ,   横山里佐子 ,   北島秀一 ,   石原淳

ページ範囲:P.435 - P.438

 テルソン症候群により高度の視力低下を起こした5例8眼に対して比較的早期に硝子体手術を施行した。硝子体切除後,内境界膜下に黄白色化した出血塊が認められた6眼については,内境界膜とともに除去した。全例において白内障同時手術は行わなかった。術中術後を通して黄斑上膜,黄斑円孔,網膜剥離といった合併症は認められず,全例で著明な視力改善を認めた。テルソン症候群に対して比較的早期に硝子体手術を施行することにより,良好な術後視力が得られる可能性が示唆された。特に両眼発症者においては,早期に視力回復することによる日常生活レベルの改善,職場への早期復帰も期待できると思われる。

重症な若年者増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術

著者: 三上尚子 ,   鈴木幸彦 ,   中沢満 ,   桜庭知己

ページ範囲:P.439 - P.442

 水晶体摘出・硝子体手術の際に,網膜症が重症であるために眼内レンズ挿入を断念した若年者糖尿病網膜症10例11眼を検討した。術前から3眼に血管新生緑内障を,1眼に牽引性網膜剥離を合併していた。手術は,超音波水晶体手術,硝子体手術の後,眼内光凝固を周辺部まで十分に行い,血管新生緑内障では毛様体光凝固も併用した。術後,5眼(45%)で血管新生緑内障のために再手術を要した。最終矯正視力は0.1以上が6眼(55%),0.01〜0.09が1眼(9%),0.01未満が4眼(36%)であった。眼内レンズ挿入を断念するほどの重症例では,たとえ徹底的な硝子体手術を行っても予後不良例が少なくなく,早期手術が望まれると考えられた。

眼内灌流液によるコアリングの経験

著者: 光藤春佳 ,   小堀朗 ,   田中朋子 ,   鈴木和代 ,   長谷川千絵 ,   植村攻

ページ範囲:P.443 - P.445

 白内障手術の際に,灌流液BSS PLUSTM中に浮遊している黒色異物を手術室の看護婦が発見した。製造元の検査で,灌流瓶のゴム栓の一部が針を穿刺した際に削りとられて液中に落下したコアリングであると確認された。当日に行われたすべての手術患者に,眼内異物や眼感染症は起こっていない。製造元によると,コアリングの発生率は約0.01%である。その防止策として,針を刺入部の中央に垂直に刺してねじらないこと,複数回の刺入を避けることなどが挙げられる。また,万一これが発生したときのために,フィルタの使用,灌流瓶内の異物の有無をチェックすることなどの対策が望まれる。

屈折矯正手術後の白内障手術における眼内レンズパワー決定方法

著者: 村中公正 ,   小松真理 ,   魚里博 ,   清水公也

ページ範囲:P.448 - P.453

 近視手術の既往がある5例5眼に白内障手術と眼内レンズ移植術を行った。放射状角膜切開術3眼とLASIK (laser in situ keratomileusis)2眼である。眼内レンズパワー決定には眼軸長とSRK/T式を用いた。K値は3方法で計算した。従来の角膜表面の屈折力を角膜全面のそれとする方法,等価球面度数値変化から換算した角膜屈折力,OrbscanTMで得られた角膜前後面の屈折力から角膜全面のそれを算出する方法である。術後1か月の屈折は、前者よりも後2者が優れていた。4眼では遠視側へのずれがあった。眼内レンズ再挿入を必要とする症例はなかった。

涙腺多形腺腫症例の臨床的検討

著者: 高村浩 ,   今野伸弥 ,   山下英俊

ページ範囲:P.454 - P.458

 過去14年間の原発性眼窩腫瘍35自検例のうち,9例が涙腺多形腺腫であり,これを解析した。年齢は19歳から63歳,平均49.O±14.0歳であった。性差,左右差はなかった。発症から当科受診までの期間は5か月から10年,平均4.4±3.7年であった。初発症状には眼球突出と腫瘍触知が多かった。全例に腫瘍摘出術を行った。8例で再発はなく,他施設での腫瘍摘出後に再発した1例が当科で手術を受け,10年後に再発したが,悪性化はなかった。涙腺多形腺腫では,再発と悪性化を防ぐために,初回手術で被膜ごと完全に摘出することが重要である。

硝子体手術後の有水晶体眼と偽水晶体眼の屈折値の経時的変化

著者: 築城英子 ,   三島一晃 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.459 - P.462

 42眼について硝子体手術後の屈折値変化を追跡した。7眼では水晶体はそのままとし,35眼では水晶体摘出と眼内レンズ挿入を同時に行った。術後1年間の観察で,有水晶体眼では有意に近視化し,2眼では白内障が進行したため硝子体手術の1年後に白内障手術が行われた。偽水晶体眼では有意な屈折変化はなかった。以上の所見から,硝子体手術後には白内障と近視化が生じやすいために,眼内レンズ挿入術を同時に行うことが勧められる。

涙嚢部原発腺様嚢胞癌の1例

著者: 相川恵秀 ,   砂川光子 ,   深沢伸一 ,   安渕幸雄 ,   岡本英一

ページ範囲:P.463 - P.466

 49歳女性が10か月前に右眼内眼角の鼻側に腫瘍を自覚した。鼻涙管通過障害はなかった。径20mmで弾性硬の腫瘍が当科初診時にあった。磁気共鳴画像法を含む臨床所見から,涙嚢の慢性炎症または悪性腫瘍が疑われた。腫瘍摘出術後の病理診で涙嚢原発の腺様嚢胞癌と診断された。周囲への転移はなかった。涙嚢癌の頻度は極めて低いが,臨床像が慢性涙嚢炎に酷似することがあるので,十分な注意が必要である。

原田病の超音波生体顕微鏡所見

著者: 網野憲太郎 ,   谷原秀信

ページ範囲:P.469 - P.472

 原田病患者4例8眼の前眼部を超音波生体顕微鏡で観察した。2例は発症から2日,2例は推定1か月であり,3例6眼の後極部に漿液性網膜剥離があった。全8眼に毛様体から赤道部に及ぶ脈絡膜上腔に液体の貯留があった。平均前房深度は初診時2.04±0.35,治療終了後2.61±0.12mmと有意に増大した(p<0.01)。ステロイド薬治療で全例が軽快したが,視力回復後も脈絡膜上腔の液体貯留が長期間持続していた。2症例では初診時に近視化があり,治療により改善した。超音波生体顕微鏡による脈絡膜上腔の貯留液の観察は,原田病の治療効果の判定と,ステロイド薬減量の指標として有用である。

走査型レーザー検眼鏡による健常人の回旋眼位角度の測定

著者: 大庭啓介 ,   山田浩喜 ,   北岡隆 ,   雨宮次生 ,   奥竜太 ,   重野浩一郎

ページ範囲:P.473 - P.476

 走査型レーザー検眼鏡(SLO)を用い,健常人における静止固視時の回旋眼位の角度を調べた。また,SLOでの検査の信頼性を評価するために,同一被験者において複数回の検査を行い,その再現性を検討した。対象は10歳から60歳までの,平衡障害のない,眼疾患を認めない矯正視力の良好な健常人のボランティア54例108眼である。結果は全例外旋位であった。片眼の回旋眼位角度の平均は7.6±3.4(0〜15.8)度で,両眼平均は15.1±5.1(3.8〜25.3)度であった。すべての結果に年代による有意差はなかった。左右眼の差も個人差が大きく,最大10度あったが,有意差はなかった。再現性は左眼,右眼とも平均1.7度で,4度以内の再現性があった。

梅毒性髄膜炎に伴う視神経炎と思われる1例

著者: 古川貴子 ,   橋本禎子 ,   八子恵子 ,   鈴木美佐子

ページ範囲:P.477 - P.480

 30歳男性が1週間前からの両眼視朦で受診した。矯正視力は右1.2,左1.0であった。両眼に乳頭の高度の腫脹があり,視神経炎と診断した。血清学的に梅毒反応が高度陽性であり,髄液の梅毒トレポネーマ血球凝集反応(TPHA)が陽性で,髄液細胞増多があった。コンピュータ断層画像(CT)と磁気共鳴画像(MRI)で頭蓋内に異常所見はなかった。駆梅療法としてペニシリンG1,200万単位を10日間投与し,プレドニゾロンの長期全身投与を併用した。治療開始から15週後に血清と髄液検査値が改善し,乳頭浮腫は消退した。本症例は梅毒性髄膜炎に続発した視神経炎であると解釈した。

前極部アトピー白内障水晶体上皮細胞の形態学的検討

著者: 松本直 ,   斉藤伸行 ,   松橋正和

ページ範囲:P.481 - P.484

 前極部前嚢下アトピー白内障9例9眼で,前嚢を手術により採取し,水晶体上皮細胞を検索した。年齢は24〜46歳,平均28.8歳である。検索には実体顕微鏡と走査電子顕微鏡を用いた。水晶体上皮細胞は混濁部位,これを囲む混濁部位周辺,透明部位とに分けて検討した。混濁部位周辺では水晶体上皮細胞の面積は混濁部位の面積と強く相関し(r=0.97),年齢とは相関しなかった。透明部位では水晶体上皮細胞面積が年齢と強く相関した(r=0.87)。前極部アトピー白内障での上皮細胞障害が前極部混濁部位の面積に大きく影響されることを示す所見である。

ガス透過性ハードコンタクトレンズのレンズケースのバイオフィルムの観察

著者: 針谷明美 ,   工藤昌之 ,   上野聰樹 ,   山本啓之 ,   寺久保繁美 ,   嶋田甚五郎 ,   佐々木千鶴子 ,   与那覇朝英

ページ範囲:P.485 - P.488

 消毒を必要としないガス透過性ハードコンタクトレンズの装用者のレンズケア状況を把握するため,汚れを認めたレンズケースの微生物検査を試みた。外来やコンタクトレンズの定期検査を受診の患者から汚れを認めたレンズケースを35例回収した。レンズケース内の溶液を培養し,コロニーをグラム染色した。また,汚れの強いレンズケースを電子顕微鏡で観察した。細菌の陽性率は91%であった。約70%がグラム陰性桿菌であった。電子顕微鏡観察では,レンズホルダーのバイオフィルムの形成と球菌や桿菌,酵母型真菌の接着を認めた。以上のことから汚染されたレンズケースから感染の危険性が考えられた。

網膜静脈分枝閉塞症の蛍光眼底造影所見と光干渉断層所見

著者: 山口由美子 ,   大谷倫裕 ,   岸章治

ページ範囲:P.489 - P.492

 急性期の網膜静脈分枝閉塞症24眼を光干渉断層計によって観察し,中心窩厚と視力との関係を調べた。さらにフルオレセイン蛍光眼底造影により,黄斑部蛍光漏出面積,周中心窩毛細血管の閉塞角度,出血範囲を調べ,中心窩厚との関係を検索した。中心窩網膜の断層像は,網膜外層膨化(100%)・嚢胞様変化(96%)・漿液性網膜剥離(20%)が,単独あるいは複合してあった。中心窩厚は140〜780μm (平均470μm)で,視力はO.1〜1.2(平均0.5)で,中心窩厚と視力は中等度の負の相関を示した(R=0.42,p<0.05)。黄斑部蛍光漏出面積が広いほど、中心窩は厚い傾向があった。

網膜剥離術後の脈絡膜血流量の変化

著者: 大坪朗子 ,   磯野博明 ,   木村保孝 ,   町田恵子 ,   岸章治

ページ範囲:P.493 - P.497

 黄斑を境界とする裂孔原性網膜剥離が復位した18眼で,脈絡膜循環を検索した。網膜剥離発症から復位までの推定期間は平均45日,復位から脈絡膜循環の検索までの期間は平均3か月であった。レーザースペックル法を用い,網膜剥離復位部と非剥離部の脈絡膜血流をsquare blur rate (SBR)を視標として定量的に測定した。10眼ではインドシアニングリーン蛍光造影(IA)で,脈絡膜循環を定性的に検索した。IAでは網膜剥離境界部の両側で差がなかったが,レーザースペックル法では18眼中17眼でSBR値が網膜剥離復位部で有意に減少し,さらに剥離部と非剥離部を含む黄斑部での血流量が他眼のそれよりも有意に減少していた。陳旧性の網膜剥離復位眼では,剥離があった部位の脈絡膜血流量が減少することを示す所見である。

C型慢性肝炎患者におけるインターフェロン網膜症発症の検討

著者: 堤千佳子 ,   坂本泰二 ,   石橋達朗 ,   猪俣孟 ,   遠城寺宗近 ,   中牟田誠 ,   絹川直子

ページ範囲:P.499 - P.503

 C型慢性肝炎に対してインターフェロン(interferon:IFN)の投与を受けた患・者29名について,網膜症の発症頻度とその関連因子を検討した。網膜症は15例(52%)に発症した。多変量解析で,高血圧の合併(p=0.0078)と血清中の高いウイルス量(p=0.0022)が網膜症の発症と有意に関連していた。患者の性,年齢,体重,糖尿病の既往,body mass index,ウイルス型,ウイルスの消失の有無,IFNの種類と投与方法は,いずれも網膜症の発症とは相関しなかった。

化学療法が奏効した転移性脈絡膜腫瘍における腫瘍周囲の血流変化

著者: 奥野高司 ,   杉山哲也 ,   喜田照代 ,   田聖花 ,   池田恒彦 ,   吉原正晴 ,   岩本伸二 ,   野原丈裕 ,   谷川允彦

ページ範囲:P.504 - P.508

 62歳女性の乳癌からの転移性脈絡膜腫瘍において,腫瘍とその周囲の血流変化をレーザースペックル法で測定した。腫瘍は右眼黄斑部の上方にあり,大きさは6乳頭径で,矯正視力は1.0であった。腫瘍の耳側に血流が豊富な領域があつた。化学療法で腫瘍は縮小し平坦化した。化学療法終了後に腫瘍が再発したが,再び他の化学療法で平坦化した。視力は再発時に0.15に低下したが,0.6まで改善した。化学療法終了後,腫瘍とその耳側の血流は治療前よりも日月らかに減少し,当初あった耳側の血流豊富な領域は消失した。左眼の血流は全経過中ほぼ不変であった。レーザースペックル法は,転移性脈絡膜腫瘍周囲の血流変化と治療効果の判定に有用であった。

網膜色素線条に伴った傍中心窩脈絡膜新生血管に対する放射線治療

著者: 千葉可芽里 ,   藤原貴光 ,   佐野真理江 ,   田澤豊

ページ範囲:P.509 - P.513

 52歳男性が2か月前からの左眼視力低下で受診した。矯正視力は右1.2,左0.8であった。両眼に網膜色素線条があり,左眼では色素線条が中心窩に達し,中心窩に脈絡膜新生血管があった。皮膚科での生検で弾力線維性仮性黄色腫が証明された。2か月後に左眼視力が02に低下した。6MVでの放射線照射を1回2Gyで2週間,総量20Gyを左眼後極部に行った。以後4か月間,左眼視力は0.2に維持され,脈絡膜新生血管の広さに変化はなく,病巣は平坦化し,病巣からの蛍光漏出は低下し,照射による副作用は起こっていない。

放射線治療が奏効した眼瞼の扁平上皮癌の1例

著者: 鈴木育子 ,   朝元綾子 ,   森田晧三

ページ範囲:P.515 - P.517

 82歳女性が左上眼瞼の径20mm大の硬性腫瘤で受診した。腫瘤に相当する部位の球結膜に潰瘍があった。生検で高分化型扁平上皮癌と診断した。電子線6MeVによる放射線治療を行った。4Gyでの週2回の照射を計9回行った結果,腫瘍の永続的な治癒が得られた。以後10か月間の観察で,網膜や水晶体などに副作用は生じていない。総計36Gyの少ない線量で眼瞼の扁平癌が根治できることを示す症例である。

眼表面温度の分布とその変動

著者: 新美勝彦 ,   江崎淳次

ページ範囲:P.521 - P.525

 眼表面温度への涙液の関与を検討した。対象は,眼疾患がない20代から50代の34人で,涙液分泌減少12人を含んだ。医用サーモグラフィ(日本アビオニクス社)を眼前20cmから,開瞼を維持させ,直後,5,10,15秒後の順に測定した。眼表面は部位により温度差があり,上眼瞼鼻側が最も高温で,涙丘付近の眼球結膜が続いた。角膜はこれらの箇所より1.5℃以上低く,開瞼に伴い低温化したが,上方からの涙液に覆われると温度上昇した。涙液分泌減少例では開瞼持続に伴い表面温度の較差が大きくなった。涙液は眼表面の湿度とともに温度の恒常性に役立っており,サーモグラフにより涙液の動的な観察ができた。

Laser in situ keratomileusis後,鈍的外傷によりフラップの偏位を起こした1例

著者: 福本光樹 ,   荒井宏幸 ,   戸田郁子 ,   堀好子 ,   坪田一男

ページ範囲:P.526 - P.528

 48歳女性が近視に対して両眼のIaser ih situ keratomileusis (LASIK)を受けた。経過は順調で,矯正視力は左右とも1.5であった。術後19日目に飼い犬の前足が左眼にあたり,霧視が生じて受診した。左眼の角膜フラップがわずか上方に偏位し,視力は1.0であった。その翌日に視力は1.2となり,角膜フラツプの偏位は軽減した。6か月後の視力は1.5でありr角膜フラップに雛襞や上皮細胞迷入などはなく,自然寛解の状態にある。LASIK後19日を経過し,角膜上皮細胞の再生が完了していると推定されても,角膜フラップが鈍性外傷により偏位する可能性があることを示す症例である。

白内障手術における角膜後面乱視の変化

著者: 中塚三恵子 ,   名和良晃 ,   桝田浩三 ,   丸谷弘 ,   原嘉昭 ,   福原潤 ,   田中史恵

ページ範囲:P.529 - P.531

 強主経線切開自己閉鎖創白内障手術を行った22眼について,術後3か月までの角膜前後面乱視の変化を測定し,切開方向に対する惹起角膜乱視量を検討した。測定には角膜トポグラフィ(Orbscan)を用いた。惹起角膜乱視量は,角膜前面形状から換算して得られるSimKと角膜後面屈折力からHolladay法で求めた。術後の惹起角膜乱視により角膜乱視は減少した。また,惹起角膜乱視量は1週後,1か月後,3か月後に有意差はなく,術後の角膜乱視が早期に安定していると判断された。

視野指標からみた緑内障の進行要因

著者: 市岡伊久子 ,   市岡尚 ,   市岡博

ページ範囲:P.532 - P.536

 緑内障35名54眼につき,視野を含む諸所見の変化を平均5.3年間追跡した。嚢性緑内障を含む原発開放隅角緑内障23眼,慢性閉塞隅角緑内障8眼,正常眼圧緑内障23眼である。視野検査にはハンフリー静的視野30-2プログラムを用い,mean deviation (MD)とcorrected pattern standard deviation (CPSD)を検索した。正常眼圧緑内障ではMDが有意に低く(p<0.01),CPSDが有意に高かった(p<0.001)。原発開放隅角緑内障と慢性閉塞隅角緑内障では,MDとCPSDは眼圧と視神経乳頭陥凹の進行に相関しなかった。正常眼圧緑内障では,3眼を除き,眼圧が13mmHg以上の例に視野が進行する傾向があり,MDの低下とCPSD上昇とに相関した(p<0.05,p<0.01)。MD値が—5dB以下,またはCPSDが6dB以上の正常眼圧緑内障では,眼圧を13mmHg以下に維持すべきであると結論される。

塩酸チモロール点眼からニプラジロール点眼への切り替えによる緑内障性視野に与える短期的影響

著者: 高木和子 ,   齋藤了一 ,   谷口寛恭 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.537 - P.540

 0.5%マレイン酸チモロール点眼で治療していた緑内障12名20眼で,点眼をニプラジロール(ハイパジールTM)に切り替えた。原発開放隅角緑内障16眼とステロイド緑内障4眼である。切り替えから平均4.1±2.1か月の経過を追った。切り替え前の眼圧は平均15.5±2.8mmHgであり,切り替え後の眼圧にはこれと有意差がなかった。ハンフリー視野検査では,閾値テストのmean deviation値が切り替え後に上昇し,pattern standard deviation値が有意に低下した。ニプラジロールへの点眼切り替えが視野改善に有効である可能性を示す所見である。

遊離結膜弁移植による緑内障手術での濾過胞形成

著者: 山中修 ,   加藤格 ,   雑賀司珠也 ,   大西克尚

ページ範囲:P.541 - P.544

 複数回の手術の既往がある54歳女性の開放隅角緑内障に対して7回目の濾過手術を行った。すでに結膜が菲薄化し,以後の手術では房水漏出の可能性が高いと考えられたので,失明していた他眼からの遊離結膜弁移植を用い,マイトマイシンCを併用した。術後に房水漏出はなく,眼圧コントロールも良好で,他眼にも著変なく経過した。当初から房水漏出が予想される再手術で,計画的な他眼からの結膜弁移植が有用であることを示す症例である。

房水漏出を認める濾過胞に対する遊離結膜弁移植

著者: 岡部純子 ,   木村英也 ,   野崎実穂 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.545 - P.549

 緑内障濾過手術後に濾過胞に房水漏出が生じた3例3眼に対して,同側から採取した遊離結膜弁を移植した。2眼は過去にマイトマイシンC併用の線維柱帯切除術を受け,1眼では手術内容は不明であった。濾過胞炎の既往が2眼にあった。眼圧は3眼とも4mmHg以下であった。遊離結膜弁移植術後,眼圧は6から16mmHgに維持され,濾過胞消失や房水漏出はなかった。房水漏出のある濾過胞に対して遊離結膜弁移植は有効である。

Deep sclerectomy併用非穿孔性線維柱帯切除術の短期予後

著者: 齋藤了一 ,   雨宮次生 ,   嵩義則 ,   小川月彦

ページ範囲:P.553 - P.556

 Deep sclerectomyを併用した非穿孔性線維柱帯切除術を21眼に行った。対象は原発性開放隅角緑内障11眼,正常眼圧緑内障2眼,水晶体嚢性緑内障3眼,原発性閉塞隅角緑内障2眼,外傷性緑内障1眼,発達緑内障1眼であった。13眼は単独手術,8眼には白内障手術を併用した。術後の観察期間は平均3.7±1.5か月であった。全21眼の眼圧の平均は術前22.5±6.5mmHg,術後12.8±3.0mmHgであり,有意に低下した(p<0.05)。抗緑内障薬数は術前2.5±1.3,術後0.7±1.1であり,有意に減少した。単独手術群と白内障手術併用群とで,眼圧と抗緑内障薬数に有意差はなかった。術後に視野が大きく悪化した症例はなかった。合併症として,前房への穿孔3眼,白内障手術の際の後嚢破損1眼,結膜創離開「眼があった。周辺部虹彩前癒着が10眼にあった。

ハイドロジェル眼内レンズの検討

著者: 中村昌弘 ,   梶原万祐子 ,   林振民 ,   小俣仁 ,   藤掛福美 ,   筑田眞 ,   吉田紳一郎

ページ範囲:P.557 - P.560

 両眼白内障に対し,片眼にハイドロジェル眼内レンズ(intraocular lens:IOL),他眼にアクリルソフトIOLを挿入し,術後3か月経過観察可能であった34例68眼について比較検討した。検討項目は術後視力,前房フレア値,角膜内皮細胞密度,また前眼部画像解析装置EAS-1O00による後嚢混濁濃度である。視力,前房フレア値,角膜内皮細胞密度減少率に差はなかった。細隙灯顕微鏡で淡い線維性の後嚢混濁がハイドロジェルIOL挿入眼に多くみられた。後嚢混濁濃度はハイドロジェルIOL挿入眼で術後1週11.3,1か月13.5,3か月17.5と有意に増加したが,アクリルソフトIOL挿入眼では1週10.6,1か月10.6,3か月9.7と差はなかった。後嚢切開術を施行した症例はなかった。

ハイドロジェル眼内レンズ挿入眼の前房フレア値上昇

著者: 花崎秀敏

ページ範囲:P.561 - P.564

 3か月間に白内障手術と眼内レンズ(intraocular lens:IOL)挿入術を59眼に行った。ハイロドジェルIOL (H60M, Storz社)を43眼,S140NB (Allergan社)を16眼に挿入した。年齢と性別について、両群間に有意差はなかった。術後3か月間の経過を追跡した。術後の矯正視力と角膜内皮細胞密度について,両群間に有意差はなかった。術翌日の前房フレア値の平均値は両群で上昇したが,H60M群でのそれはS140NB群よりも有意に高かった(t<0.05)。前群43眼中11眼ではフレア値が50を超え,うち4眼では100以上であり,2眼でフィブリン反応が生じた。これら11眼では,特定の2つのロットのIOLが関与していた。術前のフレア値が高い症例で術後のフレア値上昇が強かった。術後1週以降では,両群間に前房フレア値には差がなかった。ハイロドジェルIOL挿入後には一過性の前房フレアの上昇がありうることと,術前のフレア値が高い症例では挿入を回避すべきであると結論される。

含水ゲル眼内レンズ挿入眼の術後早期コントラスト感度

著者: 阿部聡 ,   平井香織 ,   黒川直行 ,   野田航介 ,   細田ひろみ ,   林康司 ,   小西美奈子 ,   野田徹 ,   田中靖彦 ,   根岸一乃

ページ範囲:P.565 - P.567

 可塑性(フォルダブル)眼内レンズ(intraocular lens:IOL)挿入を受け,良好な視力を得た67眼の術後早期でのコントラスト感度を測定した。含水ゲルIOL25眼,シリコーンIOL12眼,アクリルソフトIOL30眼である。マルチビジョンコントラストテスター(MCT8000TM, Vistech)を用いて昼間視コントラスト感度を測定した。測定は術後0.4から3.6月(平均1.7月)に行った。術後コントラスト感度の平均値は,各IOL群問に有意差がなかった。含水ゲルIOL挿入眼での術後早期の後嚢混濁と水晶体上皮細胞の伸展は,視機能に影響する可能性が少ないと半1」断された。

42年前の穿孔性眼外傷による陳旧外傷性白内障の手術例

著者: 橋本浩隆 ,   小塚勝 ,   小林秀樹 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.568 - P.570

 56歳女性の右眼外傷性白内障を手術した。白内障は42年前に矢が当たって生じた穿孔性外傷であると推定された。視力は右光覚弁,左1.2であった。右眼の角膜上方に陳旧化した穿孔創があり,小瞳孔で,器質化した白内障があった。嵌頓部の虹彩を切開し,水晶体と器質化した水晶体嚢を摘出し,混濁硝子体を切除し,眼内レンズ挿入術と瞳孔形成術を行った。視力は0.3に改善した。長期間持続した白内障であっても,手術が有効であることを示す症例である。

ベーチェット病患者に対する超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術

著者: 小笠原勝則 ,   高沢朗子 ,   五嶋摩理 ,   新妻卓也 ,   氏原弘 ,   松原正男

ページ範囲:P.571 - P.574

 ベーチェット病に併発した白内障7例9眼に,超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行った。術後6か月から25か月,平均14.3か月の経過を追跡した。術前の矯正視力は平均0.03±0.71,術後のそれは0.20±0.61であり,有意に改善した(p<0.05)。術後6か月間の眼発作回数は平均0.44であり,術前の0.77と有意差がなかった。術前の消炎期間が6か月未満の4眼についても同様であった。術後の眼圧上昇が6眼にあったが,それ以外の合併症はなかった。ベーチェット病に併発した白内障には,超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を第一選択としてよいことと,白内障の状態によっては術前消炎期間が6か月未満であってもよいことを示す所見である。

裂孔原性網膜剥離に対する白内障硝子体同時手術の成績

著者: 鈴木幸彦 ,   三上尚子 ,   中沢満 ,   桜庭知己

ページ範囲:P.575 - P.578

 過去5年間に初回手術として白内障・硝子体手術を同時に行った裂孔原性網膜剥離73眼の成績を評価した。増殖硝子体網膜症と黄斑円孔網膜剥離は除外した。術式は,超音波水晶体手術の後,硝子体手術を行い,周辺硝子体を十分に切除し,液空気置換,眼内光凝固,眼内レンズ挿入,ガス置換の順とした。強膜輪状締結を16眼に併用した。術後観察期間は6〜48か月,平均23か月であった。初回復位が69眼(95%)で得られ,4眼(5%)で再手術を行った。最終的復位は71眼(97%)で得られた。周辺部の硝子体牽引が確実に行える本術式は,裂孔原性網膜剥離の初回手術として価値があると判断された。

IgA腎症の経過中に前部ぶどう膜炎を合併した1症例

著者: 千葉益子 ,   末廣伸太郎 ,   五十嵐祥了 ,   四倉次郎 ,   柿栖米次 ,   安達恵美子

ページ範囲:P.579 - P.582

 42歳男性が3か月前からの両眼視力低下で受診した。28年前からIgA腎症があった。矯正視力は右0.5,左0.9であった。両眼に角膜後面沈着物を伴わない+2の前房混濁があった。隅角と蛍光眼底造影所見は正常であった。10か月間のステロイド薬点眼で前部ぶどう膜炎は寛解し,右0.7,左1.Oの視力を得た。間質性腎炎に伴うぶどう膜炎は多いが,本症例はIgA腎症でもぶどう膜炎が起こりうることを示している。

黄斑円孔術後早期に発症した交感性眼炎の1例

著者: 久保勝文 ,   中沢満 ,   荒井優子 ,   桜庭知己

ページ範囲:P.583 - P.586

 62歳女性の左眼黄斑円孔に対して,硝子体手術,内境界膜切除,水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術を行った。術後8日目に前房フィブリン膜が左眼に生じ,その翌日に虹彩炎と漿液性網膜剥離が右眼に起こった。右眼の蛍光眼底造影で黄斑部に蛍光漏出と色素の網膜下貯留を確認した。両眼の交感性眼炎と診断した。全身と局所のステロイド薬投与と抗生物質投与で両眼の炎症所見は速やかに消失し,右眼視力は0.6から1.0に回復した。HLA検査でDR4陽性であった。黄斑円孔に対する白内障硝子体同時手術後の早期に交感性眼炎が起こりうることを示す症例である。

男児の両眼に発生した脈絡膜骨腫の1例

著者: 森谷聡美 ,   関圭介 ,   小林義治

ページ範囲:P.587 - P.591

 13歳男児に右眼視力低下が突発し,2日後に受診した。矯正視力は右0.1,左1.2であった。両眼眼底に12×10乳頭径の橙赤色病変があり,超音波とCTを含む諸検査から脈絡膜骨腫と診断した。右眼眼底には網膜下出血があり,光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)で網膜分離症を伴う網膜剥離があった。右眼矯正視力は2か月後に0.8,8か月後に1.0に自然回復した。フルオレセイン蛍光眼底造影(fluorescein angiography:FA)とインドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreen angiography:IA)とで異常蛍光と検眼鏡的な病変部の範囲が一改せず ,FAで造影された範囲が実際の骨腫の存在部位であると考えられた。OCTは網膜剥離などの同定に有用であったが,骨腫の反射像は明瞭でなかった。

長崎大学における裂孔原性網膜剥離に対する復位術の検討

著者: 出口裕子 ,   森彩乃 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.593 - P.595

 過去27か月間に手術を行った裂孔原性網膜剥離114名118眼を遡及的に検討した。強膜内陥術が94眼,硝子体手術が24眼であった。初回復位は強膜内陥術群の82%,硝子体手術群の77%で得られ,最終復位は前群の98%,後群の89%で得られた。硝子体手術群では,術前に黄斑剥離があっても90%以上で視力が改善した。経強膜手術での非復位例は,違った象限にある複数の裂孔,巨大裂孔,深部裂孔,高度近視の症例であり,その程度により術式を検討する必要があると結論される。

中心窩移動術の合併症

著者: 金沢佑隆 ,   宗今日子 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.596 - P.598

 中心窩下脈絡膜新生血管に対し全周網膜切開による中心窩移動術を施行した22眼について,その術中,術後の合併症について検討した。対象は加齢黄斑変性14眼,網膜色素線条1眼,高度近視に伴う脈絡膜新生血管7眼である。22眼中,21眼に眼合併症が生じた。術中合併症はDK line乳化1眼,DK lineの網膜下迷入5眼,網膜色素上皮剥離2眼であった。術後合併症は,眼圧上昇12眼,前房内フィブリン析出8眼,後発白内障6眼,前房出血3眼,シリコーンオイルの前房脱出3眼,網膜剥離2眼,網膜下出血2眼,瞳孔ブロック1眼,硝子体出血1眼,眼内レンズ偏位1眼であった。術後網膜剥離の2眼はいずれも加齢黄斑変性で,そのうち1眼は増殖性硝子体網膜症を生じた。術後視力は増殖性硝子体網膜症を生じた症例以外では改善傾向にあった。

アトピー性皮膚炎に伴った子午線方向の巨大な裂孔を呈した網膜剥離の1例

著者: 千原秀美 ,   矢部比呂夫 ,   西山功一

ページ範囲:P.599 - P.602

 子午線方向の巨大な裂孔を呈したアトピー性皮膚炎に伴う扁平な網膜剥離の稀少な15歳男性の症例を経験した。原因裂孔は3時方向鋸状縁から上耳側血管アーケードにかけて子午線方向に位置しており,同方向に一致して水晶体混濁とチン小帯断裂が認められた。裂孔は経毛様体硝子体切除術と冷凍凝固により閉鎖し,術後8か月経過した後も網膜は復位している。アトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離の報告は数多くあるが,その発生機序は明らかではない。本症例における局所的な水晶体混濁とチン小帯断裂の存在は,アトピー性皮膚炎における網膜裂孔の発症原因として機械的損傷との関わりを強く示唆するのと思れる。

抗結核療法が奏効した網膜静脈周囲炎の1例

著者: 平田文郷 ,   小澤勝子 ,   大橋千尋

ページ範囲:P.603 - P.606

 31歳男性が肺結核と診断され,エタンブトール投与前の検査として眼科を受診した。ツベルクリン反応は強陽性で,結核性胸膜炎が併発していた。矯正視力は右1.5,左0.7であり,両眼に網膜静脈周囲炎,左眼に血栓性静脈炎による黄斑浮腫があった。全身状態を考慮してステロイド薬は用いず,3剤併用による抗結核療法のみで治療した。左眼視力は3週問後に0.2に低下したが,6か月後に網膜静脈周囲炎は寛解し,左眼視力は1.5に改善した。経過中に網膜新生血管が発生したために網膜光凝固を行った。結核性網膜静脈周囲炎へのステロイド薬の全身投与は,抗結核療法への反応をみてから考慮すべきであることを本症例は示している。

輪状暗点が拡大した症例における読書能力の変化

著者: 中村仁美 ,   小田浩一 ,   湯澤美都子

ページ範囲:P.607 - P.610

 網膜色素変性症の50歳男性の左眼について,読書チャートMNREAD-Jによる読書評価を行った。左眼視力は0.7で,視野の中心部に直径4度を残した9度の輪状暗点があった。読書能力に文字サイズの違いによる2つのピークがあった。15か月後に視力は0.5に低下し,中心視野は直径1度に狭窄したが,輪状暗点の外方の視野には変化がなかった。このとき小さな文字に対する読書能力が低下したが,大きな文字での読書能力には変化がなかった。輪状暗点があるロービジョンでは,中心視野を使って小さな文字を読む状態と,暗点の外側の視野を使って大きな文字を読む状態の2つがあることを,この事例は示している。

ポリープ状脈絡膜血管症の中心窩病変と視力予後の比較

著者: 纐纈美歌 ,   黒岩さち子 ,   立岩尚 ,   春日勇三 ,   吉村長久

ページ範囲:P.611 - P.615

 ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy:PCV)の中心窩病変を中心窩下異常血管網群(n=12)と中心窩下ポリープ状拡張血管群(n=14)に分類,視力予後を比較した。異常血管網群では滲出性病変の悪化によりlogMAR視力でO.2以上視力低下が進行した2眼(17%)と,中心窩にかかる滲出性病変の悪化は認められないにもかかわらず徐々に視力低下が進行した3眼(25%)を経験した。後者は異常血管網上の網膜色素上皮の萎縮が進行していた。ポリープ状拡張血管群では9眼(64%)が滲出性病変の悪化が原因で視力低下をきたした。PCVの視力低下の主な原因は滲出性病変の悪化であるが,中心窩下に広がる異常血管網上の網膜色素上皮の萎縮も視力低下の原因として重要である。

放射線治療が著効した白血病視神経浸潤の造影所見

著者: 松原明久 ,   小島麻由 ,   尾関年則 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.617 - P.621

 33歳男性が両眼の視力低下で受診した。8か月前に慢性骨髄性白血病と診断され加療中であった。矯正視力は左右とも0.09であった。白血病に対する薬物治療により,6週後に視力は回復した。さらに5か月後に左眼視力が0.1に低下した。左眼眼底に,顕著な乳頭腫脹,乳頭周囲の隆起性病変,漿液性網膜剥離があった。白血病の視神経浸潤と診断した。総量46Gyの放射線照射で眼底病変は寛解した。フルオレセイン蛍光造影で,乳頭周囲にあった毛細血管拡張は顕著に改善していた。インドシアニングリーン蛍光造影では,照射終了後も乳頭周囲の隆起性病巣に一致した部位が低蛍光を呈していた。この所見は,白血病細胞の乳頭周囲脈絡膜への浸潤を示すと解釈された。

脈絡膜新生血管に対する光凝固の血管新生因子に及ぼす影響

著者: 大橋啓一 ,   高木均 ,   大谷篤史 ,   小山真二 ,   王英泰 ,   剣持誠司 ,   植村明壽 ,   渡部大介 ,   本田孔士 ,   小椋祐一郎 ,   杉田元太郎

ページ範囲:P.622 - P.626

 目的:光凝固後に再発して摘出した脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization:CNV)組織について光凝固部位と再発部位を比較し,光凝固の作用を検討すること。
 症例と方法:症例は特発性CNVの48歳女性と加齢黄斑変性の71歳男性。摘出したCNV組織を免疫組織化学的に検索した。
 結果:両症例とも,再発部位には著しい新生血管があり,光凝固部位には内皮細胞がほとんどなかった。再発部位には血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF),アンジオポイエチン—2(angiopoietin2:Ang2)などの増殖因子の強い発現があり,光凝固部位では発現が低下していた。
 結論:光凝固はVEGFやAng2の発現を抑制し,新生血管形成を抑える可能性がある。

視覚誘発電位で興味ある経過を示した糖尿病乳頭症の1例

著者: 水鳥川俊夫 ,   山崎広子 ,   黄鴻釣 ,   池尻充哉 ,   津山嘉彦

ページ範囲:P.627 - P.630

 未治療の糖尿病がある46歳女性が左眼視力低下で受診した。矯正視力は右1.2,左0.15であった。増殖前糖尿病網膜症が両眼にあり,左眼に乳頭の発赤腫脹と過蛍光があり,糖尿病乳頭症と診断した。左眼視野に盲中心暗点があった。視覚誘発電位(visually evoked cortical potentials:VECP)は振幅低下と潜時延長を示した。インスリンによる糖尿病治療を開始した4週後に左眼視力は0.6に回復したが,さらにその4週後に視力正常の右眼のVECP振幅が低下し,続いて乳頭発赤が生じ,視力が0.4に低下した。全6か月の経過で視力と視野は回復し,VECP潜時は正常化した。糖尿病乳頭症で,視力障害に先だってVECPの振幅低下が生じ,視力回復に伴って潜時が短縮したことから,VECPが本症での視神経障害の評価に有用であると結論される。

甲状腺機能異常のない甲状腺眼症の視神経症に対して早期の眼窩減圧術が奏功した1例

著者: 永田征士 ,   米澤博文 ,   畑谷芳功 ,   鳥山建二

ページ範囲:P.631 - P.635

 62歳女性に右眼視力低下が突発し,前部虚血性視神経症と診断された。その2か月後に眼窩に腫瘍性病変が発見され,当科を受診した。複視はなく,右眼は矯正視力0.2で,眼球突出と乳頭浮腫があった。磁気共鳴画像検査で外眼筋の肥厚があり,全身的に異常がなかったことから,甲状腺眼症類似の視神経症と診断した。初診から3か月後に眼窩外壁骨切除術を行った。得られた眼窩内容はBリンパ球細胞主体の脂肪組織であった。術後に乳頭浮腫は消失し,1.2の最終視力を得た。甲状腺機能に異常がない視神経症に対して眼窩減圧術が奏功した1例である。

眼虚血症候群における虹彩ルベオーシスの発生と予防

著者: 永井あづさ ,   金森章泰 ,   井上正則

ページ範囲:P.636 - P.640

 経過中に虹彩ルベオーシスが発生した眼虚血症候群7例7眼の臨床像を解析した。症例は53歳から67歳で,全例男性である。罹患眼の初診時視力は全例0.4以上で,3mmHg以上の眼圧の左右差が3例にあった。頸動脈の高度狭窄が3例,閉塞が4例にあった。虹彩ルベオーシスは初診後2か月から2年後に発生した。眼底には1例を除いて低循環による網膜症があった。眼動脈カラードップラー検査で4眼に逆流現象があった。経過中に汎網膜光凝固を2眼に行い,1眼に網膜中心動脈閉塞症が発症した。低循環網膜症,眼圧の左右差,眼動脈の逆流現象が虹彩ルベオーシス発症の危険因子であり,その予防には光凝固のみでは不十分であることが結論される。

色誤認の実態を反映する新しい色覚検査の試み

著者: 中村かおる ,   岡島修 ,   西尾佳晃 ,   北原健二

ページ範囲:P.641 - P.645

 色覚異常者における色誤認の実態を評価するために,従来の色覚検査とは異なった視点から2種類の新しい検査法を考案した。1つは順不同に示した赤,緑灰,黄,青の5色,計10本の線から,赤,緑,灰色の線を選択させ,もう1つは,多数の緑の葉の中に配置した10個の赤いツツジの花を指摘させるものである。これを15〜40歳の色覚正常者20名と色覚異常者75名で検討した結果2色型と異常3色型,異常3色型と色覚正常者間でそれぞれ正答数に有意差が示された。
 本検査は色覚異常者に日常生活のなかで無意識に生じている色誤認を反映すると考えられ,簡便かつ鋭敏で再現性にも優れており,職業適性を判断する指標などに発展させることが可能である。

アトピー性皮膚炎患者にみられたステロイド緑内障

著者: 柿沼健裕 ,   武田憲夫 ,   水野谷智 ,   佐々木幸三 ,   植村明弘

ページ範囲:P.646 - P.649

 アトピー性皮膚炎患者3名5眼に開放隅角緑内障が発症した。年齢はそれぞれ24歳,36歳,29歳であった。皮膚炎の加療歴はそれぞれ約20年,20年,14年であり,全例がステロイド薬軟膏,2例はステロイド薬内服を行っていた。2例では眼圧が当初は正常値であったが経過中に上昇し,1例では当初から高度に上昇していた。点眼により眼圧が下降しないため,5眼すべてに線維柱帯切開術を行い,眼圧が正常化した。アトピー性皮膚炎ではステロイド緑内障が起こることがあるので,定期的な眼科的管理が必要である。

鼻内視鏡による鼻涙管下部開口の観察

著者: 大野木淳二

ページ範囲:P.650 - P.654

 慢性涙嚢炎を伴わない流涙症患者20名40側を対象として,鼻内視鏡を用いて膜性鼻涙管の下部開口部を観察した。その形態学的な特徴から,(A)円形開放型,(B)弁状型,(C)袖状型および(D)癒着型の4群に分類された。それぞれの割合は(A)10%,(B)10%,(C)55%および(D)25%であった。今回の観察では,(C)袖状型が最も多くみられた。骨性鼻涙管の開口部の形態に一番近似するとみなされる(A)円形開放型の形態は全体の1割にとどまり,残りは何らかの膜様構造物で修飾された形態を呈した。

繊細な手術操作を必要としない内境界膜剥離方法

著者: 西村彰 ,   瀬川安則

ページ範囲:P.655 - P.656

 櫻井らの受動吸引による内境界膜剥離方法を改変した。エクストルージョンニードルのシリコンチューブの先端を少し斜めに切断し,吸引口と網膜表面の隙間を少なくすることにより内境界膜を効率的に吸着できるようにしたものを作製し使用した。本方法ではシリコンチューブを伸ばせば金属性の外筒を網膜に近づけなくても吸引できるため,ブラシ付きバックフラッシュニードルに比較して繊細な操作を必要とせず,網膜損傷の危険性が少ないと思われた。

連載 今月の話題

ヘルペス性眼疾患の最近の話題

著者: 井上幸次

ページ範囲:P.397 - P.400

 ヘルペス属ウイルスによる眼感染症についての臨床面での最近の話題を概説する。角膜ヘルペスについては大規模な多施設二重盲検の臨床研究が米国でなされ,ステロイド点眼併用の有効性やアシクロビル内服による再発予防の効果が確かめられている。また,一方で,cidofovir点眼やphosphonoformic acid点眼などの新たな抗ヘルペス点眼薬,あるいはribonucleotide reductase inhibitorという全く新しい機序の抗ヘルペス薬も考案されてきている。後眼部ではHSV2型による桐沢型ぶどう膜炎や,最近のAIDS患者の免疫能の著明な改善に伴い,サイトメガロウイルス網膜炎に続発して認められるようになったimmune recovery vitritisが話題となっている。

眼の遺伝病・20

RPE65遺伝子異常と網膜変性—(1)レーバー先天盲

著者: 和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.401 - P.403

 レーバー先天盲(Leber's congenital amaurosis:LCA)は,乳児期から高度に視機能が障害され,失明状態であることも稀ではなない症例である。明らかな原因が指摘できない網膜ジストロフィに付けられる診断名で,常染色体劣性遺伝形式を示す。この疾患の原因遺伝子として1997年に欧米でRPE65が報告された1,2)。RPE65は網膜色素上皮に多く発現しており,ビタミンAの代謝に関係している。
 今回の症例は,筆者らが経験した日本人レーバー先天盲1家系2名の症例で,RPE65遺伝子の変異を複合ヘテロで認めた。

眼科手術のテクニック・136

黄斑下増殖膜の除去

著者: 竹田宗泰

ページ範囲:P.404 - P.406

黄斑下増殖膜
 黄斑下増殖膜には脈絡膜新生血管のほか,網膜下索状物,硬性白斑や無血管性増殖膜,網膜下血腫(器質化した)などがある。これらの除去手術は増加しつつあるが,手技的な操作は基本的に共通したものがある。
 高齢者(50歳以降)では,通常,白内障手術(超音波乳化吸引+眼内レンズ挿入)を実施して,強角膜創を1糸縫合後,硝子体手術を行う。硝子体ゲルの除去後,カッターで後部硝子体剥離を作成する。出血を避けるため,眼内レンズ挿入を含め,白内障手術の操作は脈絡膜新生血管の抜去前に行うのが望ましい。

あのころ あのとき・4

胞状網膜剥離を伴う中心性漿液性脈絡膜症,多発性後極部網膜色素上皮症

著者: 塚原勇

ページ範囲:P.407 - P.410

未経験の非裂孔原性網膜剥離との出会い
 1968年,大阪市において第34回日本中部眼科学会が開催された。会長は大阪市立大学眼科の池田一三教授であった。学会の約1年前に,池田会長から中心性網膜炎について講演をするようにとの要請を受け,お引き受けすることになった。
 講演までの時間的余裕はあまりなかったが,そのころ普及し始めていた蛍光眼底造影および細隙灯顕微鏡を用いた眼底検査を中心にできるだけ多くの患者の眼底を集中的に観察し,一部の患者で蛍光色素漏出点に光凝固を行って治療効果をみた。

眼科医のための「医療過誤訴訟」入門・4

眼科と医療事故

著者: 岩瀬光

ページ範囲:P.661 - P.663

1.はじめに
 私は,法学部を卒業してから医師になった関係上,法学部同級の弁護士の推薦もあり「医療問題弁護団」に参加して,主に眼科関係の医療事故について法律的かつ医学的なアドバイスを弁護士さんにしている。これまで多数の眼科関係の医療事故を分析した経験と,過去の判例分析を通じて,医師(眼科以外の医師の事件もある)が過失を起こしやすい眼科領域の場面が明らかになってきた。そうした場面を提示して,眼科医ならびに眼科関係の患者を診ることになる他科の医師の医療事故防止の参考にしたいと思う。以下は,目の部位別または疾患別に分けて論ずる。

他科との連携

耳鼻科と共同で行う眼窩底骨折の整復術

著者: 小池正直

ページ範囲:P.664 - P.665

 「他科との連携」の原稿を「臨床限科」から依頼されて気軽にOKしてしまってから,バックナンバーを見返してみた。眼科は耳鼻咽喉科,脳神経外科,神経内科,内分泌内科などと連携して診断,治療をすることが多いので簡単に執筆できると思ったが,私が考えつくようなことはすでに掲載されてしまっていることがわかり,はたと困ってしまった。何か読者の参考になる症例はないか,珍しい症例はないかと,いろいろ考えてみたが,一部の読者にしか参考にならないような“特殊な連携”しか思い浮かばなかった。
 そこで,現在当科で行っている耳鼻科との“特殊な連携”について紹介させていただきます。この耳鼻科との連携は眼窩底骨折の整復術での共同手術です。眼窩底骨折は眼科の臨床ではしばしばみられる外傷性の疾患ですが,治療法は手術か経過観察をするかになります。当科では複視の認められる症例に対しては,積極的に手術療法を選択しています。

臨床報告

網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対する硝子体手術の成績

著者: 岩城正佳 ,   杉浦由美 ,   竹内実 ,   堀川寿美代 ,   鈴木裕子 ,   内田英哉 ,   白井美恵子

ページ範囲:P.667 - P.671

 1999年までの4年間に硝子体手術を行い,術後1年以上経過観察できた網膜静脈閉塞症に続発した黄斑浮腫50例50眼を回顧的に評価した。網膜静脈分枝閉塞症27眼,網膜中心静脈閉塞症23眼である。術前の矯正視力は手動弁からO.8まで分布していた。白内障,黄斑上膜,網膜新生血管などの症例は除外した。最終視力とその改善度は両群で有意に上昇し,最終視力は網膜静脈分枝閉塞症のほうが有意に良好であった。最終視力とその改善度は,両群ともに発症から1か月未満で手術を行ったものは,それ以上経過したものよりも良好であった。最終視力は,65歳未満群が65歳以上群よりも有意によかった(p<0.05)。23眼には術前に光凝固が行われていたが,術前の光凝固の有無は手術の結果に関係しなかった。以上の結果は,網膜静脈閉塞症に併発した黄斑浮腫に対する早期硝子体手術は有効であることを示しているように思われる。

原田病様眼底を示した慢性骨髄性白血病の1例

著者: 郡山昌敬 ,   松永裕史 ,   高橋寛二 ,   松村美代

ページ範囲:P.673 - P.677

 57歳男性が5日前からの両眼の霧視で受診した。7年前に慢性骨髄性白血病と診断され加療中であった。裸眼視力は右0.2,左0.15,遠視を矯正して右1.2,左1.0であった。前眼部に炎症所見はなく,両眼の眼底後極部に漿液性網膜剥離があった。フルオレセイン蛍光造影で,早期には乳頭と黄斑部の周囲に多数の点状蛍光点があり,後期にはこれが拡大して網膜下に蛍光貯留が生じた。内科でプレドニゾロンと抗癌剤の投与を行った。初診から1週後に網膜剥離は軽減し,視力が改善した。このときのICG蛍光造影で,早期には脈絡膜への充盈遅延があり,中期には脈絡膜血管が不明瞭で全体的に低蛍光であった。眼底と蛍光造影所見は原田病のそれに酷似したが,本例では,脈絡膜に白血病細胞が浸潤し,脈絡膜循環障害の結果として網膜色素上皮細胞が障害され,漿液性または浸潤性網膜剥離が生じたと解釈される。ICG蛍光造影で,脈絡膜循環障害が眼底の広範囲にあることが確認できた。

仮面症候群を示した眼悪性リンパ腫の蛍光眼底像

著者: 寺島和人 ,   山口克宏 ,   佐藤武雄 ,   山下英俊

ページ範囲:P.679 - P.684

 73歳女性が5か月前から両眼の視力低下を自覚し,ぶどう膜炎として紹介され受診した。受診時の矯正視力は右0.5,左手動弁であった。眼底には,小型病巣として点状黄白色斑,中型病巣として斑状黄白色斑,大型病巣として隆起性黄白色斑の3型があった。眼底所見と,フルオレセインならびにインドシアニングリーン蛍光眼底造影所見,およびその経過から眼悪性リンパ腫と診断した。眼底の各病型は,網脈絡膜での腫瘍細胞の増殖と浸潤の程度と相関していると判断した。放射線照射で眼底病変は寛解し,右0.9,左0.3の最終視力を得た。以後5年間,再発はない。本疾患は仮面症候群として注意が必要である。

全層角膜移植術20年後の角膜内皮細胞

著者: 井上賢治 ,   木村内子 ,   天野史郎 ,   大鹿哲郎 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.685 - P.689

 全層角膜移植術後に移植角膜の透明性を20年以上維持した15眼を検索した。原因疾患は,円錐角膜10眼とヘルペス性角膜炎5眼である。手術時の年齢は6歳から45歳,平均25.3±10.4歳であった。全例に3日以内保存された角膜を用いた。mm2当たりの角膜内皮細胞密度は,術後10年で998±343,20年で852±245であり,10年間の減少率は12.1±16.3%であった。この減少率は,術後の拒絶反応,最終視力,原因疾患,手術時の患者年齢,ドナーの年齢といずれも関連しなかった。以上の所見から,移植角膜の透明性が20年以上維持された症例では,術後10年以降の角膜内皮細胞の障害が小さいことが結論される。

カラー臨床報告

新規のPAX6遺伝子変異568delGを無虹彩症患者に認めた日本人の1家系

著者: 鈴木健史 ,   和田裕子 ,   阿部俊明 ,   相良淑子 ,   玉井信

ページ範囲:P.411 - P.416

 日本人1家系の構成員3人に無虹彩症,白内障,黄斑低形成,続発緑内障が認められた。この3人のpaired box DNA binding protein 6(PAX6)遺伝子の変異検索の結果,Exon6に568delGの変異が発見された。この新規の遺伝子変異によりPAX6タンパクはN-terminal subdomainの末端部で切断されるが,この不完全な生成タンパクも,表現型の形成に関わっている可能性がある。また,この家系において合併白内障が軽度であったのは,この変異が水晶体で発現するPAX6アイソフォームに影響を及ぼし得ないことに関係している可能性がある。

今月の表紙

散瞳により前房内水晶体脱臼をきたしたMarfan症候群の症例

著者: 福井勝彦 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.428 - P.428

 患者は47歳,女性で,左眼視力0.03(0.1×S−20.0D),眼圧12mmHg,前房は深く清明で虹彩振盪を認めた。水晶体は外側下方に大きく偏位し,散瞳後に前房内完全脱臼を呈し,仰臥位をとらせると水晶体は前部硝子体に戻るのが確認された。身長170cm,指極173cmでクモ指が認められ,手首徴候が陽性であり,心血管系の合併症は認められないが,内科にてMarfan症候群と診断されている。散瞳後に水晶体を前房内に脱臼させ,ピロカルピンで縮瞳させ,強角膜四面切開と圧出法を用いて水晶体嚢内摘出術を施行した。水晶体偏位は,その原因,経過により種々の程度を示すが,脱臼水晶体の散瞳検査が直接の契機となって遊走水晶体を生じた例である。
 表紙の写真は,水晶体が前房内完全脱臼した直後にスリット光と背景照明を併用して撮影したものである。細隙灯顕微鏡検査では焦点深度が浅いため眼位をやや内側に傾斜させ,スリット光とカメラの傾斜角を広げて水晶体前嚢から後嚢までの焦点深度を捕捉したが,水晶体内に写り込む光源のキャッチライトを解除することは困難であった。フォトスリットはコーワ社製SC−1200,フィルムはFUJI-RHP (ISO400)を使った。

やさしい目で きびしい目で・16

出逢い

著者: 亀山和子

ページ範囲:P.657 - P.657

 出逢いとは不思議なものである。恩師との出逢い,友人,仲間,先輩,後輩,配偶者との出逢いなど,いろいろな出逢いがあるが,患者さんとの出逢いもその1つである。特に慢性疾患をもつ患者さんとは何年にも及ぶつきあいが始まるのである。
 新患では,アナムネーゼをとるのに担当した初診医により診断に行きつくまでの時間が異なる。患者さんの性格により症状の訴え方が違う。正確に話す者と,訴えたいことに行きつくまで時間のかかる者とがある。初診医は主訴からさまざまな病態を想像し,診断に必要な検査を選ばねばならない。比較的短時間で必要な検査に行きつくものは特に問題ないが,誘導してはじめて診断に重要な症状を訴えるものも多い。“Listen to the patient, he is telling the diagnosis”は糖尿病学の平田幸正先生が好まれ,よくおっしゃった言葉である。患者さんの話の中に診断に重要な言葉があり,これをきちんと捉えられるか,聞き流すかで診断に行きつく経過が異なるのである。

第54回日本臨床眼科学会専門別研究会2000.11.3東京

地域予防眼科

著者: 小野浩 ,   赤松恒彦

ページ範囲:P.691 - P.693

 2000年の「地域予防眼科」研究会は,主催した順天堂大学金井教授からの要請で,Vision2020国内活動についてのシンポジウムをテーマに開催された。
 Vision2020は,WHO (世界保健機構)の提唱する視覚保全,失明予防の活動を21世紀の目標とした活動計画である。今回の学会にWHOの専門官であるDr.B.ThyleforsとDr.S.Resnikofが招待されるので,この方々を交えたシンポジウムの企画となった。WHOの先生方にはvision2020について話してもらい,元WHo専門官で現在もWHOの仕事をなさっておられる順天堂大学の紺山和一にはアジア地域の実情を,また国内事情については,柳川リハビリテーション病院眼科の高橋広が高齢者視覚障害者の問題について,名古屋の高柳泰世が日本における屈折異常とLow Visionリハについて,山梨医大の柏木賢治が緑内障対策について,山梨医大の今井雅仁が糖尿病性網膜症対策について,さらに昭和大の大西健夫が人材育成の一環として行っている「タイ国でのコーラートコースに参加して」という題で講演してもらうことになった。

眼の形成外科

著者: 古田実

ページ範囲:P.694 - P.695

 「眼の形成外科」の専門別研究会は,会場を広くしていただいたので,はたしてどのくらいの人に集まっていただけるか心配であったが,最終的には立ち見の方が出たくらいの盛況であった。眼の形成に対する興味の深さが窺えた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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