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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科55巻5号

2001年05月発行

雑誌目次

特集 第54回日本臨床眼科学会講演集 (3) 特別講演

白内障/IOL手術と術後眼—近未来の諸問題

著者: 三宅謙作

ページ範囲:P.739 - P.751

 白内障/IOL手術は,安定した術後成績を示し,20世紀眼科学の成果の1つである。しかしなお,超音波乳化吸引法に一定の頻度でみられる術中合併症,後発白内障など術後合併症,術後視力の質などの問題とともに,大量の症例が手術されることから,手術教育の問題が残されている。ここでは,これらの問題に関連し,レーザー手術など超音波乳化吸引法に代わる新手技の前臨床評価,対緑内障点眼薬により惹起される嚢胞様黄斑浮腫の成因,選択的COX2阻害非ステロイド点眼の可能性,および新しい手術観察システムである高感度高品質3D-TVシステムの白内障/I0L手術教育に対する応用について説明する。

原著

アトピー性白内障に対するヘパリン結合眼内レンズと通常眼内レンズとの比較

著者: 永谷周子 ,   張野正誉 ,   岩橋佳子 ,   上村穂高

ページ範囲:P.755 - P.758

 アトピー性白内障に,ヘパリンで表面を改良したヘパリン結合PMMA眼内レンズ(IOL)と,ほぼ同形状のPMMA-IOLを挿入し,術後経過を比較した。18眼を無作為に2群に分け,9眼にはヘパリン結合IOL,他の9眼にはPMMA-IOLを挿入した。術中経過はすべて順調であった。術後視力は両群すべてで良好であり,術後前房フレア値,矯正視力,後発白内障,レンズ沈着物について両群に有意差はなかった。以上の結果から、アトピー性白内障への手術で,ヘパリン結合IOLと通常のPMMA-IOLとは同等の効果があることが結論される。

硝子体手術におけるシリコーンオイル注入眼の視機能

著者: 三島一晃 ,   上松聖典 ,   築城英子 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.759 - P.762

 硝子体手術に伴ってシリコーンオイル注入を受けた58眼の視機能を検索した。原疾患は,糖尿病網膜症22眼,増殖性硝子体網膜症22眼,加齢黄斑変性症7眼,その他であった。34眼でシリコーンオイルが抜去され,24眼では非抜去のままであった。抜去群の視力は非抜去群よりも有意によかった(p<0.5)。視力と抜去時期の間に有意差はなかった。糖尿病網膜症と増殖性硝子体網膜症では抜去群と非抜去群の間に視力の差はなかった。抜去群では,抜去後の眼圧が抜去前よりも有意に下降した(p<0.05)。非抜去群では,手術前後に眼圧の有意差はなかった。合併症と視機能維持の面から,シリコーンオイルはできるだけ抜去すべきであると結論される。

網膜静脈分枝閉塞症に続発した黄斑浮腫に対する硝子体手術導入後の治療方針

著者: 石郷岡均 ,   川路隆博 ,   中尾功 ,   小川邦子 ,   松井淑江 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.763 - P.766

 黄斑浮腫のある網膜静脈分枝閉塞症の発症から6か月以内の新鮮例への治療方針を5年前に設定し,これによる65眼での成績を評価した。軽度黄斑浮腫15眼は保存的に治療し,中等度黄斑浮腫22眼には光凝固を行い,高度黄斑浮腫28眼中24眼には硝子体手術を行った。最終視力は61眼全例で0.3以上,54眼(89%)で0.5以上,47眼(77%)で0.7以上であった。高度黄斑浮腫24眼中14眼(58%)で0.7以上の視力が得られた。高度黄斑浮腫のある網膜静脈分枝閉塞症新鮮例に対して硝子体手術を行うことで,高率の視力改善が期待できることを示す所見である。

網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術後の網膜虚血の経時的変化

著者: 中尾功 ,   川路隆博 ,   小川邦子 ,   松井淑江 ,   石郷岡均 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.767 - P.770

 網膜静脈分枝閉塞症続発黄斑浮腫に対して硝子体手術を施行し,1年以上経過観察した11例11眼について,蛍光眼底造影にてびまん性黄斑浮腫,嚢胞様黄斑浮腫,中心窩周囲毛細血管網の障害,周辺部無血管野の術前・術後の状態および術前・術後の視野の比較検討を行った。術後1年以上経過した症例では黄斑浮腫は全例で改善した。術前に中心窩周囲毛細血管網の閉塞を認めた9眼のうち8眼は術後に閉塞が消失し,周辺部無血管野は術後に9眼中8眼で消失した。また,術前・術後に視野検査を行った7眼のうち,3眼で改善,3眼で悪化を認めた。硝子体手術を行った症例では網膜虚血の改善それに伴う視野の改善が得られる可能性が示唆された。

ぶどう膜炎に対する硝子体手術の長期予後

著者: 三浦清子 ,   小泉範子 ,   高井七重 ,   多田玲 ,   佐藤文平 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.771 - P.774

 硝子体手術を行ったぶどう膜炎16眼の長期経過を検索した。原疾患は,サルコイドーシス9眼,桐沢型ぶどう膜炎3眼,ベーチェット病1眼,眼トキソカラ症1眼,原因不明2眼である。術前に3眼が偽水晶体眼であり,術中に他の13眼中12眼に水晶体摘出を行った。術後の経過観察期間は6か月から9年9か月,平均37か月であった。術後6か月の時点で2段階以上の視力改善が13眼(81%)で得られ,最終視力は9眼(56%)で改善した。サルコイドーシス2眼で増殖性変化または炎症遷延のために視力が悪化した。ぶどう膜炎に対する硝子体手術では,硝子体混濁が除去できる一方,術後に増殖性変化や炎症が遷延または再燃することがあるので,水晶体摘出,周辺部硝子体の徹底的な切除術後の消炎管理が必要であると結論される。

Negative ERGを示した杆体—錐体ジストロフィ

著者: 今泉雅資 ,   松本惣一セルソ ,   原恵美 ,   古嶋正俊 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.775 - P.779

 原因不明の視力低下がある25歳男性とその20歳の妹を検索した。兄の矯正視力は右0.1,左0.15,妹のそれは左右とも0.3であった。眼底と蛍光眼底造影には異常所見がほとんどなかった。網膜電図(ERG)では,両名とも杆体系と錐体系とに振幅低下と頂点潜時の延長があった。兄のERGは,杆体系,錐体系ともnegative typeであった。妹では錐体系ERGの刺激強度を高めたときにのみnegative typeを呈し,黄斑部局所ERGは消失型であった。これらERG所見から,両名とも病期が異なる杆体—錐体ジストロフィと診断した。ERGがnegative typeを示したことから,on型双極細胞の障害が併発していると推定した。

眼サルコイドーシスに対するメトトレキサート内服療法

著者: 山口恵子 ,   東永子 ,   中嶋花子 ,   陳軍 ,   大原國俊

ページ範囲:P.781 - P.786

 眼サルコイドーシス4例5眼に対してメトトレキサート7.5mgを週1回,6か月以上投与した。全例がステロイド薬が無効な重症であるか,副作用でステロイド薬の投与継続が不可能であった。視力は2眼で不変,3眼でやや低下した。嚢胞様黄斑浮腫と血管炎は5眼中2眼で改善し,新生血管は3眼中3眼で改善した。ステロイド薬は全例で投与不要または減量が可能になった。副作用として,胃部不快感と間質性肺炎の疑いが各1例あった。少量の経口メトトレキサートが重症眼サルコイドーシスに有効である可能性があるが,適応と用法についてはさらに検討が必要である。

硝子体手術を行ったnanophthalmosを伴うuveal effusion syndromeの2症例

著者: 藤関義人 ,   高橋寛二 ,   山田晴彦 ,   松村美代 ,   黒田真一郎 ,   吉田宗徳

ページ範囲:P.787 - P.791

 真性小眼球(nanophthalmos)に併発したuveal effusion syndromeの2眼2症例を治療した。いずれも女性で,年齢は各72歳と36歳であった。両症例とも強膜開窓術に抵抗し,硝子体手術が奏効した。1眼では人工的に後部硝子体剥離を作製するのが困難であり,これが作製できた部位のみに網膜剥離が軽減した。他の1眼では2回目の硝子体手術ではじめて後部硝子体剥離を完全に作製でき1シリコーンオイル下で網膜が復位した。本症候群では,網膜に強固に接着した粘稠性の高い硝子体が病態に関与していることが推定された。

両眼の前眼部炎症および視神経乳頭炎を呈したネコひっかき病の1例

著者: 宮本裕子 ,   河原澄枝 ,   森村佳弘 ,   岡田アナベルあやめ

ページ範囲:P.792 - P.796

 12歳女児が3週間前に両眼の視力低下を自覚し、他医で虹彩炎と視神経乳頭炎と診断された。当科受診時の矯正視力は右0.1,左0.09であった。両眼に前房の細胞遊走,虹彩後癒着,前部硝子体混濁,視神経乳頭の腫脹と発赤があり,周辺に網脈絡膜滲出斑が散在していた。両眼に中心暗点があり,左眼の下方視野に狭窄があった。問診で野良ネコとの接触があり,Bartonella henselaeの血清抗体価が上昇していたため,ネコひっかき病を疑った。抗菌薬とステロイドの全身投与を行い,視力がやや改善し,乳頭腫脹が軽減した。ネコひっかき病の診断基準と治療法はまだ確立されていない現在,参考になる症例である。

硝子体手術で復位した近視性黄斑円孔網膜剥離の円孔形態

著者: 小林秀雄 ,   高橋京一 ,   石原克彦 ,   岸章治

ページ範囲:P.799 - P.803

 硝子体手術で円孔縁に光凝固せずに網膜が復位した,近視性黄斑円孔網膜剥離10眼の黄斑部を光干渉断層計(OCT)で観察し,円孔形態と視力転帰を検討した。硝子体手術では5眼で黄斑前の硝子体皮質を除去し,5眼でさらに円孔周囲の内境界膜を剥離した。硝子体皮質を除去した5眼中3眼で円孔が閉鎖し,中心窩の陥凹が復活した。2眼は円孔が開口したまま網膜が復位していた。内境界膜を剥離した5眼はすべて,円孔が開口したまま網膜が復位していた。円孔閉鎖群と非閉鎖群では,視力転帰に相関はなかった。黄斑円孔網膜剥離では,硝子体手術で網膜が復位しても多くは円孔閉鎖しないことが,術後の再発率が高い一因と考えた。

上斜筋筋腹萎縮を伴う先天性上斜筋麻痺症例の臨床的特徴

著者: 山根貴司 ,   大月洋 ,   長谷部聡 ,   河野玲華 ,   堀川昌代 ,   平井美恵 ,   小林薫

ページ範囲:P.805 - P.808

 片眼性先天性上斜筋麻痺29症例を検索した。磁気共鳴画像検査(MRI)で上斜筋筋腹萎縮がある11例と,ない18例である。第1眼位での上下偏位は萎縮群でより大きい傾向があり,Bielschowsky頭部傾斜試験での上下偏位は萎縮群で有意に大きかった。他覚的回旋偏位には両群問に有意差がなかった。Vパターンは非萎縮群に多かった。頭部傾斜試験での大きな上下偏位には,患眼上斜筋の下転作用の低下と上直筋の上転作用の亢進が関与していると考えられた。臨床所見から上斜筋の形態異常を推定することが可能である。

全身麻酔下眼科手術患者の特徴

著者: 今村ひろみ ,   山下啓行 ,   八塚秀人 ,   中塚和夫 ,   野口隆之

ページ範囲:P.809 - P.812

 大分医科大学病院眼科において1990年から1999年に施行された全身麻酔下手術633件を対象に,手術患者の特徴を検討した。全身麻酔選択に関して、患者側に何らかの要因があったものは全体の72.9%と,疾患や手術の性質以上にウエイトが大きかった。とりわけ術中患者の協力が得られない小児や知能障害者が多かった。若年者の割合が高く,14歳以下の小児が全体の62.4%を占めていた。緊急手術は全体の11.5%であった。術式では斜視手術が全体の32.4%で最多であった。全体の32.7%に何らかの術前全身合併症があり,全身麻酔のリスクとなる合併症も含まれていた。

血清IgEの上昇を伴った眼窩・肺真菌症の1例

著者: 佐藤章子 ,   三好永利子 ,   吉岡由貴 ,   田中隆夫

ページ範囲:P.813 - P.817

 57歳の男性が1か月前からの右眼視力障害で受診した。糖尿病が17年前に発見されたが最近は無治療である。右眼視力は零で,眼球突出,全方向の眼球運動障害があり,眼窩尖端症候群の所見を呈した。鼻腔と副鼻腔には異常がなく,CTなどで眼窩腫瘤と肺の異常陰影が証明された。血清免疫グロブリン(IgE)が高値であり,真菌症が疑われた。眼窩腫瘤切除術を行い,眼窩ムコール症が証明され,術野をフルコナゾールで洗浄した。その後生検で肺クリプトコッカス症が診断された。血糖コントロールとフルコナゾールの全身投与で血清IgEと細胞性免疫能が改善し,眼窩と肺の真菌症は寛解した。これら真菌症には高血糖と細胞性免疫能の低下が関与していると推定された。血清IgEの異常高値は本症を疑う最初の重要な所見であった。

鈍的外傷による眼球破裂の手術治療

著者: 山嵜圭 ,   松井孝明 ,   加藤整 ,   林英之 ,   大島健司

ページ範囲:P.819 - P.823

 過去8年余の期間に治療した,鈍的外傷による眼球破裂18眼の転帰を検討した。全例が片眼性であり,初診時の視力は手動弁以下であった。受診直後に,眼球摘出を5眼(28%),破裂創の縫合を13眼(72%)に行った。創縫合を行った13例中4眼(22%)には術直後に光覚がなく,眼球癆となった。8眼では創傷縫合から約2週後に硝子体手術を行い,他の1眼は手術を拒否した。硝子体手術を行った8眼すべてに,以後6か目以上の期間,網膜剥離は発症しなかった。18眼での最終視力は,O.O1以上が6眼(33%),0.1以上が3眼(17%)であった。

ロービジョン患者の受診形態に関する調査

著者: 久保明夫 ,   簗島謙次 ,   滝本正子

ページ範囲:P.825 - P.828

 国立身体障害者リハビリテーションセンターにおけるロービジョンクリニックの概要を知るために調査を行った。対象・者は過去5年間の患者751名である。方法は診療録を調べた。疾患の分類では網膜色素変性症が最も多かった。平均年齢は45.7歳であった。患者の身分は在宅者が46%であった。働く者は39%であった。ケア回数は1回または2回が多く73%であった。患者が受けたケアは視機能活用だけでなく,社会的な相談も多かった。医療機関におけるロービジョンケアは患者の個々のニーズに合わせた総合的なケアが重要であるといえる。

在宅医療における眼科訪問診療

著者: 西村奈美子 ,   平松克基 ,   沖波聡

ページ範囲:P.829 - P.831

 在宅医療の一環として当院で取り組んでいる眼科訪問診療について検討した。1998年4月から2年間で,在宅医療対象者38名のうち眼科訪問診療を行ったのは22名で,平均年齢は83歳であった。診療動機の大部分は白内障による視力障害であった。4名7眼に白内障手術を行った。眼科訪問診療を行い他科と連携することで,生活の質を考慮した全人的医療が可能となり,通院の困難な患者に対する視機能改善の機会が増えた。問題点として,十分な検査ができにくい,診療時間の確保の問題などがあった。超高齢社会の到来とともに在宅医療における眼科のニーズは高まると予想され,プライマリケアを担う医療機関の眼科においても,今後対応の拡充が必要と思われる。

再発を繰り返した両眼性桐沢型ぶどう膜炎の1症例

著者: 間山夏子 ,   水谷英之 ,   野田康子 ,   中沢満

ページ範囲:P.833 - P.836

 5歳女児が右眼の視力低下で受診した。右眼に虹彩後癒着,硝子体混濁,周辺部の網脈絡膜萎縮,網膜血管白鞘化があり,原因不明のぶどう膜炎の瘢痕期と診断した。2年後に左眼に桐沢型ぶどう膜炎が発症した。アシクロビルとプレドニゾロンの全身投与で鎮静化した。15歳のとき,左眼にぶどう膜炎が再発した。硝子体切除術,輪状締結術,アシクロビルの硝子体灌流を行った。硝子体液は,polymerase chain reaction (PCR)法で単純ヘルペスウイルスDNAが陽性であった。17歳のとき左眼が再燃し,18歳のとき右眼虹彩炎が生じたが,いずれも薬物投与で改善した。この2回の再発時に前房水からヘルペスウイルスDNAが検出された。19歳の現在,炎症は鎮静化し,右0.03,左1.2の矯正視力を維持している。

前房水からEBウイルスDNAが検出されたぶどう膜炎の1症例

著者: 尾崎孝次 ,   佐々木洋 ,   甲田倫子 ,   原田幸子 ,   望月雄二

ページ範囲:P.837 - P.840

 73歳の女性が1週前からの右眼充血で受診した。右眼には虹彩炎と雪玉状の硝子体混濁があり,両眼の隅角に周辺虹彩前癒着があり,肉芽腫性ぶどう膜炎の所見を呈していた。リゾチームとγグロブリンの血清値が上昇し,サルコイドーシスが疑われたが,PCR法で前房水にEpstein-Barr (EB)ウイルスDNAが検出され,診断が確定した。ステロイド薬の点眼と結膜下注射でやや軽快した。アシクロビル全身投与は無効であった。本症例は,治療に抵抗する慢性肉芽腫性ぶどう膜炎にEBウイルスが関与する可能性があることを示している。

硝子体・白内障同時手術後の角膜形状に影響を及ぼす因子の検討

著者: 小林かおり ,   山崎有加里 ,   岩崎美和子 ,   吉田秀彦

ページ範囲:P.841 - P.844

 硝子体・超音波水晶体乳化吸引・眼内レンズ移植同時手術(トリプル手術)を行った55眼での角膜形状変化を,24週以上にわたって検索した。38眼ではSF6ガス置換術を併用した。術後の惹起角膜乱視量は経時的に減少した。多変量解析で,術後2週の角膜惹起乱視と相関のある因子は,ガスタンポナーデ,前房のフィブリン析出,虹彩後癒着であった。ガスタンポナーデ施行群の術後2週の惹起角膜乱視量は,非施行群よりも有意に大きかったが,術後12週以降では有意差はなかった。

パーソナルコンピュータによるフリッカー視野自動測定

著者: 福原潤

ページ範囲:P.845 - P.849

 パーソナルコンピュータの画面上に矩形波フリッカー視標を呈示し、時間変調閾値を測定した。対象は正常者26眼,高眼圧症106眼,緑内障24眼などである。中心,5度,10度,15度の同心円上の25点で5,10,15,20Hzの時間周波数で求める極限法と,中心部60度の範囲の59点を20Hzで測定するbracketing法を用いた。平均測定時間は極限法で5分,bracketing法で6.5分であった。Bracketing法は極限法よりも長い測定時間を要するが,背景と視標輝度が等しいので固視が安定し,疲労が少なく,広範囲の年齢層の被検者で容易に測定できた。高眼圧症患者では,自動視野計では感度に異常がなく,フリッカー視野のみに感度低下がある例があった。緑内障眼では,フリッカー感度低下に周波数特異性がほとんどなかった。

多発性後極部網膜色素上皮症の光干渉断層計所見

著者: 山田晴彦 ,   南野桂三 ,   福地俊雄 ,   藤関義人 ,   高橋寛二 ,   松村美代

ページ範囲:P.850 - P.853

 多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)の7例7眼(男性6例,女性1例,平均年齢49歳)に対して,滲出斑の部を光干渉断層計(OCT)を用いてその断層像を検討した。7眼全例で網膜深層,あるいは網膜下に網膜の外層に接するように比較的高反射を示す領域が認められた。また,5眼で網膜滲出斑の部の網膜は浮腫によって肥厚していた。強い網膜浮腫を生じた5例のうち,網膜深層の高反射領域が浮腫を取り囲むようにあったものが3例あった。網膜深層の浮腫によって黄白色に見えるとされていた滲出斑の部は,浮腫を囲い込むように網膜深層から網膜下に高反射を示すフィブリンの沈着や,血漿成分の析出があるのではないかと推測された。

黄斑浮腫に対する各治療別の光干渉断層計による評価

著者: 谷口寛恭 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.854 - P.858

 網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対し,アセタゾラミド投与,高気圧酸素療法,格子状網膜光凝固術,硝子体手術を施行し,その有効性を光干渉断層計を用いて評価した。対象は網膜静脈分枝閉塞症で黄斑浮腫を伴う4症例で,各治療の前後の視力,光干渉断層計により測定した黄斑部網膜厚,静的視野を比較した。視力,網膜厚は全症例で改善したが,高気圧酸素療法においては,治療を中止すると再び網膜厚が厚くなった。静的視野は網膜光凝固後において増悪した。結果として,硝子体手術が黄斑浮腫を最も早く,効果的に改善できた。またOCTは黄斑浮腫に対する治療効果の評価に有用である。

ポリープ状脈絡膜血管症の活動性とインドシアニングリーン蛍光造影所見

著者: 佐藤拓 ,   飯田知弘 ,   萩村徳一 ,   高橋慶 ,   渡辺五郎 ,   佐藤栄寿 ,   岸章治

ページ範囲:P.859 - P.862

 ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidaL choroidal vasculopathy:PCV)40例51眼の臨床経過とインドシアニングリーン(ICG)蛍光造影所見を検討した。ICG蛍光造影後期像では,ポリープ全体からの蛍光漏出を示すもの(51眼中23眼)と,ポリープの内部が低蛍光となり血管壁が染色され,ポリープの壁染(51眼中35眼)になるものとがあった。このポリープの壁染数は活動期において平均1.2個,安定期には平均2.8個で安定期に高率にみられ,PCVの活動性を示唆ずる所見と考えた。典型的脈絡膜新生血管を合併した症例では,ポリープの状態にかかわらず,脈絡膜新生血管により黄斑病変の予後が左右された。

インドシアニングリーンを使用した内境界膜切除術とその術後経過

著者: 芦苅正幸 ,   野崎実穂 ,   小島麻由 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.863 - P.866

 特発性黄斑円孔,糖尿病黄斑浮腫に対し,インドシアニングリーン染色を用いて内境界膜切除術を施行し,その術後経過について検討したので報告する。症例は,特発性黄斑円孔10例11眼,糖尿病黄斑浮腫3例3眼であり,年齢は57歳から71歳(平均65歳)であった。インドシアニングリーン染色を用いることにより手術操作は容易になった。術後,走査型レーザー検眼鏡(レチナアンギオグラフ,Heidelberg社)を用いて眼底を観察すると,インドシアニングリーンの残存と考えられる蛍光が,全症例で術後1か月以上認められた。網膜嚢胞内,黄斑円孔底部にもインドシアニングリーンが残存する所見も観察された。今後も長期的な経過観察,検討が必要であると考えられた。

結膜原発悪性リンパ腫の1症例

著者: 平田博文 ,   馬場正道 ,   蔦宗直人 ,   西田保裕 ,   可児一孝

ページ範囲:P.867 - P.870

 45歳女性が,1年前からの左下眼瞼の腫瘍で受診した。左眼の球結膜に鮭紅色の腫瘤があり,生検でびまん性小細胞型悪性リンパ腫と診断した。免疫組織化学的にCD20とCD79aが陽性でB細胞性であり,PCR法による分子生物学的検索で単クローン性を示した。磁気共鳴画像検査(MRI)と67Gaシンチグラフィによる全身検索で左眼結膜以外には異常がなく,結膜に原発した悪性リンパ腫と診断した。病理組織所見,臨床病期,患者の希望に基づき,総線量48Gyの放射線単独照射を行い,腫瘍は縮小した。以後2年半,局所再発と転移はなく,経過は良好である。

重篤な眼合併症を生じた慢性関節リウマチの2例

著者: 宇佐美好正 ,   須網政浩 ,   町田拓幸 ,   加藤勝 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.871 - P.875

 重篤な眼合併症を生じた慢性関節リウマチ(RA)の2症例を経験した。症例1は64歳,女性。右角膜穿孔,左角膜潰瘍にて当科に紹介された。免疫抑制療法や角膜移植を考慮したが全身状態が悪く本人が手術を拒否したため行わなかった。症例2は57歳,女性。両眼の強膜炎,硝子体混濁,滲出性網膜剥離,眼底周辺の隆起病変にて当科に紹介された。ステロイドと免疫抑制剤の点眼および内服による治療を行い,眼所見は改善した。RAの重篤な眼合併症の出現は,致死的血管炎の悪化の徴候とされており,また眼局所の治療のみでは治療が困難であるため,免疫抑制剤を用いた局所的,全身的治療を考慮する必要があると思われた。

パルス療法後の再発性後部強膜炎の1例

著者: 良藤恵理子 ,   永木憲雄 ,   半田幸子

ページ範囲:P.876 - P.878

 60歳女性が左眼瞼腫脹と眼痛で受診した。過去5年間,2〜3か月ごとに強膜炎が反復していた。左眼矯正視力は0.6であった。強膜充血,虹彩炎,胞状網膜剥離,黄斑部雛襞形成があり,超音波検査で眼球後壁の肥厚があった。後部強膜炎と診断した。デキサメタゾン4mg/日の内服で寛解したが,3か月後に再発した。2日間のステロイドのパルス療法ののち,プレドニゾロン30mg/日の内服とベタメタゾンの眼球周囲注射で寛解した。2年2か月後に後部強膜炎が再発したが,プレドニゾロン3mg/日の内服とベタメタゾンの眼球周囲注射で寛解が得られた。

内境界膜剥離が有効であったレーザー外傷による黄斑円孔の1例

著者: 田代裕二 ,   櫻井真彦 ,   三宅正晃 ,   井上治郎

ページ範囲:P.879 - P.882

 34歳男性が実験中にレーザーによる誤照射を左眼に受け,直後からの視力低下で受診した。使用したレーザーはNd:YAGレーザー(半波長532nm)で,出力は10ml,照射時間は0.Ol秒であった。受傷当日の左眼矯正視力は0.5で,黄斑部の白濁と網膜出血があった。1週後に視力は0.6になり,黄斑円孔が生じていた。以後,視力改善と円孔閉鎖の傾向がなく,変視症が持続したため,受傷の6週後に内境界膜剥離を行った。術後6か月の現在,受傷部の網膜下にレーザーによる瘢痕が残っているが,円孔は閉鎖し,視力は1.2に改善した。レーザー外傷による黄斑円孔に対して本術式が有効であったと考えられる症例である。

乳房Paget病にみられた結膜リンパ腫の臨床像

著者: 大庭美智子 ,   谷口亮 ,   上松聖典 ,   陣林浩美 ,   岩崎啓介

ページ範囲:P.883 - P.886

 51歳の女性が,7か月前からの右眼球結膜の腫瘤で受診した。9か月前から左乳房の湿疹様変化があり,Paget病と診断され,1週間前に単純乳房切除術を受けた。右眼の下方球結膜から下円蓋にかけて鮭紅色の境界明瞭な楕円形の腫瘤があった。腫瘤の病理組織学的所見として,小型リンパ球組織が増殖し,濾胞様構造が一部分残っており,炎性偽腫瘍のリンパ腫型と診断した。乳房Paget病の転移ではなかった。眼組織がたまたま慢性炎症のある結膜のリンパ球を刺激して炎症性変化が続発し,今回のような病変が生じたと推定した。この2疾患に関係する病態生理は不明であった。

Acinetobacter calcoaceticusが分離された眼科感染症の検討

著者: 大石正夫 ,   宮尾益也 ,   尾崎京子

ページ範囲:P.887 - P.890

 過去8年間に新潟大学医学部眼科感染症クリニックで,Acinetobacter calcoaceticusが分離された7症例を検討した。内訳は,急性結膜炎1例,慢性結膜炎2例,急性涙嚢炎1例,角膜びらん1例,角膜潰瘍2例である。入院患者4例,外来患者が3例である。眼科的には兎眼や鼻涙管狭窄,全身的には糟尿病,肝炎,中枢神経障害などの基礎疾患が多く,易感染性宿主の状態にあった。治療として,oOfloxacinの点眼と,imipenem, levofloxacinの全身投与を行い,症状が改善した。分離されたA.calcoaceticusはminocycline, ofloxacinに対して高感受性を,ペニシリン系,セフェム系には低感受性を示した。

Zinn小帯断裂例における虹彩レトラクター使用経験

著者: 前谷悟 ,   岸浩子 ,   藤堂浩敏 ,   奥田隆章

ページ範囲:P.891 - P.894

 白内障手術中にZinn小帯が断裂した3眼で,虹彩レトラクターで水晶体嚢を拡げることを試みた。断裂が120°以内の2眼ではこれが成功し,眼内レンズを費内に固定できた。断裂が180°に及ぶ1眼では2個のレトラクターを使用しても嚢が拡がらず,最終的に眼内レンズを6時と12時の位置に毛様満縫着した。この方法は簡便で,水晶体前世の円形切開が維持でき,小帯断裂が広範囲でない場合には有用である。

薬物療法で鎮静化が得られた眼トキソカラ症の1例

著者: 園尾純一郎 ,   山本成径 ,   糸賀俊郎 ,   武井一夫 ,   本村幸子

ページ範囲:P.895 - P.899

 仔犬との接触歴のある14歳女子が,1週間前からの左眼霧視と眼痛で受診した。矯正視力は左0,15で,左眼に硝子体索と周辺部眼底に黄白色の隆起性病変があった。血清のトキソカラ抗体が陽性であり,特徴的な眼所見と合わせ眼トキソカラ症と診断した。ステロイド薬の全身投与は無効であり,4週間後に視力が0.02に低下した。初診6週後からジエチルカルバマジンの全身投与を開始した後,病巣は急速に瘢痕化し,網膜浮腫と血管炎が著明に改善し,視力が0.6に回復した。薬物療法のみで眼トキソカラ症が改善しうることを示す症例である。

裂孔原性網膜剥離に対する手術後の一過性網膜深層変化

著者: 松井淑江 ,   中尾功 ,   川路隆博 ,   小川邦子 ,   石郷岡均 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.901 - P.904

 裂孔原性網膜剥離に対する手術後,術後経過が良好であっても,斑状の網膜深層変化が一過性に生じることがある。これについて,過去8年2か月間に手術を行った裂孔原性網膜剥離214眼を検討した。斑状の網膜深層変化は,経強膜手術141眼中3眼,硝子体手術群73眼中1眼にあった。この斑状変化は,術前に網膜剥離が存在した範囲内に術後1〜3か月の時点で出現し,その後4〜5か月間に自然消退した。蛍光眼底造影では,3眼が過蛍光,1眼が低蛍光を呈した。この違いから,病態は必ずしも1つではないと考えられた。

網膜中心動脈閉塞症の網膜断層像

著者: 須藤勝也 ,   萩村徳一 ,   飯田知弘 ,   岸章治

ページ範囲:P.905 - P.908

 網膜中心動脈閉塞症5例5眼の網膜厚と形態を光干渉断層計(OCT)で経時的に観察した。男4例,女1例で,年齢は51〜65歳,平均60歳であった。観察期間は4〜11か月,平均8か月である。急性期では全例で網膜が肥厚し,時間の経過とともに菲薄化した。OCTでは,急性期では網膜内層が厚く高信号であり,最終観察時には網膜内層が菲薄化していた。最終視力が0.1以上の3眼(良好群)と0.1未満の2眼(不良群)を比較すると,不良群のほうが急性期での網膜内層の肥厚が強く,その後の菲薄化も強かった。不良群では中心窩周囲の菲薄化により中心窩の陥凹が消失したが,良好群では中心窩の陥凹が残った。OCTは網膜中心勤脈閉塞症での網膜障害の程度の評価に有用であった。

硝子体出血をきたした急性骨髄性白血病の1例

著者: 藤田亜希子 ,   土田陽三 ,   白神史雄 ,   大月洋 ,   坂口紀子 ,   武居予至子

ページ範囲:P.909 - P.912

 19歳の男性が両眼の視力低下で受診した。4日前に急性骨髄性白血病と診断され,化学療法を開始した直後であった。両眼に白血病網膜症があり,蛍光眼底造影で広範囲の無血管野と網膜前出血があった。両眼に網膜光凝固を行ったが,乳頭周囲に新生血管が生じた。初診から3か月後の2回目の化学療法直後に硝子体出血が発症し,さらに2か月後に視力が左右とも手動弁に低下した。全身状態の安定を待って両眼に硝子体手術と網膜光凝固を施行した。矯正視力は右0.1,左0.06に改善し,新たな網膜出血などは生じていない。

未熟児網膜症に対する保育器内光凝固治療の成績

著者: 長崎比呂志 ,   山川良治

ページ範囲:P.913 - P.916

 活動性未熟児網膜症に対する保育器内光凝固治療を,双眼倒像鏡半導体レーザー光凝固装置を用いて行)た。対象は保育器内光凝固を施行した35例67眼(Ⅰ型3期55眼,Ⅱ型あるいは中間型12眼)で,生下時体重は981.9±237.9g,在胎週数は28.0±2.1週であった。10眼では冷凍凝固も併用した。治療結果は瘢痕期分類1度60眼(89.6%),2度弱度3眼(4.5%),2度中等度1眼(1.5%),2度強度1眼(1.5%),5度2眼(3.O%)であった。保育器内光凝固は保育器内の限られた空間で,患児を体位変換させながら光凝固を行うため,操作にやや熟練を要するが,全身状態の悪い患児でも早期に治療ができ,有用であると思われた。

胆管細胞癌原発の転移性脈絡膜腫瘍の1例

著者: 中村幸生 ,   天野浩之 ,   菅敬文 ,   杉田威一郎 ,   飯島美穂 ,   入江智美 ,   宮保浩子 ,   広崎嘉紀

ページ範囲:P.917 - P.920

 79歳男性が左眼網膜剥離で紹介を受け受診した。3年6か月前に胆管細胞癌に対して肝左葉切除術を受け,4か月前に断端再発に対して放射線照射を受けていた。左眼に3象限にわたる裂孔不明の胞状網膜剥離があった。術中にはじめて耳側に脈絡膜腫瘍が発見された。その5週後に全身状態が悪化して死亡した。病理解剖で,胆管細胞癌からの転移性脈絡膜腫瘍であると判明した。悪性腫瘍の既往がある網膜剥離では,術前に眼内転移の可能性を検討ずる必要がある。

眼球マッサージで栓子が移動して予後良好であった網膜動脈分枝閉塞症の1例

著者: 山下啓介 ,   榊原由美子 ,   白井正一郎

ページ範囲:P.921 - P.924

 63歳の男性に左眼視力低下が突発し,その2時問後に受診した。1年前に胸部解離性大動脈瘤の手術の既往があった。矯正視力は右1.0,左0.01で,左眼黄斑部を含む後極部に網膜混濁があり,耳上側網膜動脈に栓子があった。網膜動脈分枝閉塞症と診断し,ただちに細隙灯顕微鏡と三面鏡で眼底を観察しながら眼球マッサージを繰り返し,数分後に動脈内の栓子が末梢側に移動した。その直後に左眼視力は0.7になり,視野欠損が軽度改善した。その後栓子は消失し,視力・視野は正常化した。網膜動脈分枝閉塞症に早期の眼球マッサージが奏効した症例である。

先天網膜動静脈吻合の1例

著者: 津田泰弘 ,   関圭介 ,   小林義治

ページ範囲:P.925 - P.929

 感覚性外斜視で受診した26歳女性にみられた,先天網膜動静脈吻合の1例を報告した。拡張,蛇行した血管は視神経乳頭から全方向に広がり,FAでは蛇行血管の全てが直接造影された。1Aでは網膜から戻った血管が脈絡膜へ分布する様子が観察された。また,硝子体中に突出して見える拡張した血管は,OCT上では網膜内の種々の深さの低信号領域として描出された。これは先天網膜動静脈吻合で,lAおよびOCT画像の初めての報告である。

びまん性浸潤型網膜芽細胞腫の1例

著者: 川上玲奈 ,   太田浩一 ,   風間淳 ,   吉村長久 ,   保谷卓男

ページ範囲:P.931 - P.934

 年長児の片眼にみられ,ぶどう膜炎症状を主体としたびまん性浸潤型網膜芽細胞腫の1例を経験した。症例は6歳,男児。左眼飛蚊症を主訴に来院した。初診時左眼視力(0.5),白色の角膜裏面沈着物,前房cell (3+),偽前房蓄膿を認めた。虹彩,水晶体上および硝子体に白色の滲出物を認めた。上方網膜に黄白色の滲出斑,網膜血管の拡張を認めた。CT,MRIにて眼内腫瘤が疑われた。硝子体混濁の改善を目的にステロイドパルス療法を施行した。しかし,硝子体混濁は不変かつ白色腫瘤の増大傾向を認めたため,網膜芽細胞腫の診断にて,左眼球摘出術を施行した。術後組織診にて,びまん性浸潤型網膜芽細胞腫と確定した。

視神経乳頭部毛細血管腫の1例

著者: 佐々木幸三 ,   武田憲夫 ,   水野谷智 ,   柿沼健裕 ,   植村明弘 ,   古山文子

ページ範囲:P.935 - P.938

 53歳の女性が3か月前からの右眼霧視で受診した。右眼矯正視力は1.0であった。右視神経乳頭上から上耳側にかけて1.5乳頭径大の赤色,円形の腫瘍があり,黄斑部に軽度の浮腫があった。蛍光眼底造影で腫瘍塊は急速に造影され,視神経乳頭部の毛細血管腫と診断した。以後9か月間に所見に変化はない。過去の報告のほとんどは滲出性変化や網膜剥離を合併し,レーザー光凝固などを受けているが,予後は必ずしも良好ではない。早期に発見された本症例でも厳重な経過観察が必要である。

原田病の治療指針としてのOCTの意義

著者: 稲見達也 ,   田中千春 ,   中野健一 ,   高瀬正郎 ,   矢那瀬淳一 ,   荻野誠周 ,   栗原秀行

ページ範囲:P.939 - P.944

 原田病3症例の治療経過を追跡した。全例ともステロイドに抵抗し,5か月から11か月にわたって遷延した。視機能が良好で検眼鏡的に黄斑部に病変が確認されない時期でも,光干渉断層計(OCT)による検索では微細な網膜下浮腫が認められる場合があり,ステロイド治療で網膜下浮腫が緩解する経過が観察できた。慢性化した本症での治療効果の判定と経過観察にOCTが有用であると考えられた。

緑内障様視神経萎縮がみられた有機溶媒中毒

著者: 山本俊一 ,   城間正 ,   仲村佳巳 ,   仲村優子 ,   早川和久 ,   澤口昭一

ページ範囲:P.945 - P.948

 有機溶媒による両眼の視神経萎縮2例を経験した。1例は25歳男性で,過去5年間のシンナー吸引歴があった。矯正視力は右0.08,左0.06であり,陥凹を伴う視神経萎縮が両眼にあった。他の1例は40歳男性でアルコール依存症があり,2か月前にメチルアルコール500mlを飲んだのち急激な視力低下が生じた。視力は左右とも30cm手動弁であった。右眼の乳頭が発赤,腫脹し,左眼には高度の視神経萎縮があった。3か月後に視力が左右とも光覚弁になり,両眼に陥凹を伴う高度の視神経萎縮があった。走査レーザー検眼鏡(scanning laser ophthalmoscope:SLO)で,露出した篩状板孔の形態が正常であることが観察された。SLOを用いることで,中毒性の視神経陥凹を緑内障性のそれと鑑別することが可能である。

偽脳腫瘍の6歳男児例

著者: 上村敦子 ,   藤本尚也 ,   安達惠美子

ページ範囲:P.949 - P.951

 小児では稀な偽脳腫瘍例を経験した。症例は6歳男児で,発熱,頭痛にて発症した。両眼の乳頭浮腫および頭蓋内圧の亢進を認めたが,髄液の性状には異常なく放射線学的検査で異常を認めなかった。視力,視野,パターン視覚誘発電位は正常であった。脳圧亢進の原因は特定できず,高浸透圧剤の点滴および腰椎穿刺にて脳圧は下降し,乳頭浮腫も改善した。

視神経鞘髄膜腫にみられたoptociliary shunt vesselsの経時的変化

著者: 伊永牧子 ,   藤原美樹 ,   中山正

ページ範囲:P.953 - P.956

 52歳の女性が右眼の乳頭浮腫で紹介され受診した。矯正視力は左右とも1.5であった。右眼の乳頭が発赤,腫脹し,optociliary shunt vessel (OSV)と思われる拡張した血管が乳頭にあった。1年後にはこの血管が複数化し、蛍光眼底造影でこれが7本あり、OSVであることが証明できた。初診から7年後に右視力は0になった。OSVは3本になっていた。眼窩のCT検査で右視神経がひょうたん状に腫大していた。開頭視神経腫瘍摘出術を行い,視神経鞘髄膜腫であることが確認された。視神経鞘髄膜腫でOSVが起こりうることと,その血管構築が経時的に変化することを示す症例である。

経静脈的塞栓術後に眼所見が改善した特発性頸動脈海綿静脈洞瘻の1例

著者: 成田亜希子 ,   舩田雅之 ,   田邊益美 ,   八幡健児 ,   玉井嗣彦 ,   根本繁 ,   井川鋭史

ページ範囲:P.957 - P.961

 74歳の女性に頭痛と複視が発症し,左滑車神経麻痺と診断された。6か月後に左眼底に網膜静脈拡張が生じた。脳血管造影で左側の特発性頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)が同定された。その2か月後に左眼に網膜中心静脈閉塞症が発症し,矯正視力が0.2に低下した。経静脈的栓塞術が行われ,その2週後に球結膜の静脈拡張が消失し,6週後に眼球運動がほぼ正常化した。手術の5か月後に視力は0.9に改善した。CCFが滑車神経麻痺の原因になりうることと,視力低下のあるCCFには早期手術を行うべきことが結論される。

グリースによる眼窩内異物の1例

著者: 衞藤崇彦 ,   八塚秀人 ,   古嶋正俊 ,   今泉雅資

ページ範囲:P.962 - P.965

 49歳の男性がパワーショベルの修理中,グリースが高圧で噴射して右眼に当たった、,翌日の受診時,右眼は視力O.06,眼圧は35mmHgであった。右眼に眼球突出と高度の眼瞼腫脹があり,眼球不動であった。虹彩離断,虹彩炎,散瞳があった。CT検査で異物は同定されなかった。眼球突出と眼瞼腫脹は持続した。6週後のCT検査で,下眼瞼から眼窩内に,グリースによると推定される肉芽腫が発見された。観血的にグリースを吸引除去したのち,眼球突出と眼瞼腫脹は軽減し,眼球運動もほぼ正常化した。

脈絡膜新生血管をみたEhlers-Danlos症候群と黄色肉芽腫性腎盂腎炎の合併例

著者: 木許賢一 ,   帯刀真也 ,   古嶋正俊 ,   中塚和夫

ページ範囲:P.966 - P.970

 34歳男性が右眼の硝子体出血で受診した。右眼の矯正視力は0.03で,眼底に網膜下出血と黄白色の滲出性病変があった。全身検査で,Ehlers-Danlos症候群(Ⅱ型),後頭部に感染性粉瘤,腎に両側性の嚢胞性病変が発見された。血清の抗リン脂質抗体が陽性であった。硝子体切除術後,Ⅱ型脈絡膜新生血管が中心窩の近傍にあった。以後通院が中断したが,約11か月後の左腎破裂の際に右眼に全網膜剥離が生じていた。腎嚢胞から黄色ブドウ球菌が検出され,病理学的に黄色肉芽腫性腎盂腎炎と診断された。腎摘出後に左眼に網膜色素上皮障害が生じた。脈絡膜新生血管に多数の要因が関係することを示す症例である。

眼窩腫瘍(緑色腫)として発症した急性骨髄性白血病の2症例

著者: 金森章泰 ,   齋藤和子 ,   安積淳 ,   井上正則 ,   根木昭 ,   大林千穂

ページ範囲:P.971 - P.976

 眼窩緑色腫として初発した急性骨髄性白血病の2症例を経験した。1例は15歳女児で,右眼の眼球突出で初発し,炎症性眼窩偽腫瘍としてステロイド薬内服で治療し寛解した。治療終了の3週後に再燃し,生検で悪性リンパ腫の疑いとされた。放射線照射で腫瘍は消失した。6年後に腹部に巨大腫瘤が生じ,腹水と血液から急性骨髄性白血病(FAB分類M2)と診断された。6年前の病理組織の再検討で,眼窩腫瘍は緑色腫と確定した。他の1例は2歳男児で,両側の眼球突出が生じ,中頭蓋底から両眼窩を含む深部顔面骨に浸潤する腫瘍が発見された。両側の視神経を絞扼しているため,脳神経外科で腫瘍を切除した。病理診断は緑色腫であり,急性骨髄性白血病(FAB分類M3)と確定した。両症例とも急性骨髄性白血病の全身症状はなく,診断は困難であった。若年者の眼窩腫瘍は緑色腫である可能性があるので,血液学的精査が必要である。

ラテックスアレルギー患者の白内障手術経験

著者: 深森史子 ,   塚原祐子 ,   塚原康友

ページ範囲:P.977 - P.980

 39歳の女性が左眼の視力低下で受診した。矯正視力は右1.2,左0.5であった。14歳のとき,アトピー性皮膚炎と診断された。33歳のとき,歯科で使用したゴム手袋で顔面皮膚に発赤が生じた。ラテックスと果物などの食物に強いアレルギー反応を示し,ラテックスアレルギーと診断した。アトピー性白内障が進行したため,初診から8年後に左眼の白内障手術を行った。術前に皮膚科医,麻酔科医,ナースと協議し,手術室ではすべてのラテックス製品を除去し,その代替品または非ラテックス製品を使用した。さらに,アレルギー反応が起こった場合に対処できるよう準備した。手術は無事に終了した。ラテックスアレルギーは増加傾向にあり,これのある患者には周到な配慮が必要である。

連載 今月の話題

羊膜移植の基礎と臨床

著者: 島﨑潤

ページ範囲:P.719 - P.723

 羊膜による眼表面再建には、大きく分けて以下の3通りの応用法がある。1)基質としての羊膜移植,2)カバーとしての羊膜移植,3)コラーゲンの代用としての羊膜移植。羊膜の角結膜に与える影響が解明されるにつれ,羊膜移植の適応と限界も明らかとなりつつある。

眼の遺伝病・21

RPE65遺伝子異常と網膜変性(2):RPE65とは?

著者: 和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.724 - P.725

 RPE65は網膜色素上皮の特異的な遺伝子としては初めての遺伝子であり,そして,1番染色体短腕にある。1997年にヨーロッパの2つのグループから,この遺伝子の変異によりレーバー先天盲〈Leber's congenital amaurosis (LCA)〉または,若年発症の網膜色素変性が起こることが報告された1,2)
 Leber先天盲の原因遺伝子としては,Ret GC遺伝子に次いで2番目である。それ以来,世界中のいろいろなグループがこのRPE65遺伝子をを用いてスクリーニングを開始した3〜6,8)

眼科手術のテクニック

ICGを使用した内境界膜剥離方法

著者: 高橋雄二 ,   加来昌子 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.728 - P.729

はじめに
 Brooks1)は1995年に特発性黄斑円孔手術にて内境界膜を剥離することによって,円孔の閉鎖率が向上することを報告した。内境界膜剥離による網膜機能に関して長期的な予後は未だ不明であるが,黄斑円孔に対してこの手技を行うことは,円孔の閉鎖率向上という観点から習得すべき手技であると考える。
 内境界膜剥離の方法について,これまでにもさまざまな方法の報告2)がなされている。内境界膜は非常に薄くかつ透明であるため,その認知には顕微鏡の解像度や患者の中間透光体の混濁の影響を直接受け,特に最初の取っ掛かりがつかめなかったり,剥離した断端がわからなくなることが多い。そこで確実に内境界膜を認知するには色素で染めることが確実であると考え,以前から済生会宇都宮病院眼科で過熟白内障の際に前嚢を染色しているインドシアニングリーン(以下,ICG)に着目し,内境界膜剥離の際,染色を実施している。

あのころ あのとき・5

UCSF留学の思い出

著者: 中泉行史

ページ範囲:P.730 - P.731

 昭和36年(1961)にアメリカに留学した。サンフランシスコにあるProctor眼研究所で,Hogan教授が主任であった。
 留学を勧めてくださったのは,東大の萩原 朗教授である。まだ海外には自由に行けない時期だったが,Kimura教授の紹介で招聘状を先方から貰い,渡航費・滞在費などはプロクター財団からいただいた。

眼科医のための「医療過誤訴訟」入門・5

糖尿病治療と糖尿病性網膜症との関係における法律的問題

著者: 岩瀬光

ページ範囲:P.981 - P.984

1.問題の所在
 今回は内科医の糖尿病治療と糖尿病性網膜症との関係における法律的問題を考えてみる。内科医が主役となるが,網膜症の悪化にっながるとの意味で眼科医にも大いに関係があると考え,今回取り上げた。問題点は大きく2つに分かれる。
 1つは,糖尿病治療に熱心でない内科医が引き起こす問題であり,もう1つは,糖尿病治療に熱心な内科医(多くは糖尿病専門医)の引き起こす問題である。

他科との連携

災い転じて福となす

著者: 武井一夫

ページ範囲:P.985 - P.986

1.手術場改修—手術件数激減の危機に直面して
 筑波大学附属病院は創立20年を過ぎ,多方面で設備の老朽化が目立つようになりました。特に中央手術室においては,配水管の内部腐食により流水圧が下がり,手洗いも満足にできなくなったため,1998年10月より改修工事を始めることが急遽決まりました。中央手術室は12室あり,ほぼ10室が常時稼働していましたが,4室ずつ改修工事に入り,そこに隣接する2室も実質的に使用困難となるため,使用可能な部屋は半減する見込みとなりました。必然的に,外科系は手術件数を減らさざるを得ない状況になりましたが,一方では病院収入をなるべく減らさないで効率のよい病床運営をするよう文部省から求められ,また附属病院は筑波研究学園都市の中核病院として存在するものの,近年,周辺の中規模病院も充実して病院間の競争も激化しており,一旦離れてしまった外科手術対象患者を呼び戻すことが難しいと予想されることから,できる限り手術件数も減らさぬようにとの,不可能とも思えるお達しが病院執行部から出されました。
 従来,全身麻酔の必要な手術のほとんどは中央手術室で行われており,改修期間は循環器,呼吸器,消化器外科などの手術を優先せざる得ず,これらの手術は長時間に及ぶものが多いため,時間効率のよい局所麻酔手術で件数を稼ぐ方法も困難と思われました。

今月の表紙

非接触型眼圧計,角膜圧平の瞬間

著者: 西上信一 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.726 - P.726

 筆者はここ数年,教科書に載っていそうで載っていない写真というテーマで撮影を行っています。この写真はその中の1枚です。空気で角膜が圧平されている瞬間をとらえようという構想から3年(必要器材などを購入し),画質的にやっとお見せできる程度のものになりました(右)。
 カメラ:Canon EOS 55,接写用レンズ:Canon Macro Lens EF 100mm (1:2.8 USM),フラッシュ:Canon Macro Ring Lite MR−14EX,補助光:接写用のSFCレフランプ(コピーランプ)250w1灯,シャッタースピード:1/2,000,しぼり:オート,フィルム:Fuji sensia Ⅱ 100,撮影スタッフ:検者,被検者,補助光の照明係,撮影者の4名

臨床報告

乳頭上新生血管を伴った網膜色素変性症の硝子体手術の1例

著者: 林振民 ,   林麗如 ,   伊勢武比古 ,   鈴木君代 ,   筑田眞

ページ範囲:P.991 - P.995

 28歳女性が最近の両眼視力低下で受診した。矯正視力は右0.2,左0.3であった。両眼の眼底に典型的な網膜色素変性症の所見,乳頭上新生血管と網膜増殖膜があり,左眼にはさらに硝子体出血があった。蛍光眼底造影で網膜色素変性症に相当する所見と乳頭上新生血管からの色素漏出があった。両眼とも10°の求心性視野狭窄があり,網膜電図は消失型であった。両眼に硝子体手術を行い,増殖組織を除去した。術中の眼底への光曝露を最小限にとどめ,術中の高眼圧を避け,手術時間を短くすることで,視機能への悪影響を防ぐよう留意した。以後の約2年間,増殖膜,新生血管,硝子体出血などの再発はなく,視力は右0.3,左0.2で安定している。

脳回転状網脈絡膜萎縮の1例

著者: 深沢伸一

ページ範囲:P.996 - P.999

 41歳女性の左眼に消毒液が入って受診した。両眼とも-8Dの近視であり,矯正視力は右0.4,左0.5であった。両眼眼底に典型的な脳回転状網脈絡膜萎縮の所見があった。両眼に視野狭窄があり,網膜電図は記録不能であった。血清中のオルニチン値は597.3nmol/mlと高値であり,脳回転状網脈絡膜萎縮の診断が確定した。1日量180mgのピリドキシン(ビタミンB6)の投与を開始し,10週後の血清オルニチン値は455.5nmol/mlになり,約24%低下した。初診から14か月の経過観察で,視力,眼底所見,視野には変化がない。本症はオルニチンアミノトランスフェラーゼ欠損が原因であり,その補酵素であるピリドキシンの大量投与が病変の進行を阻止する可能性がある。

角膜移植眼に生じた感染性角膜炎の検討

著者: 中島秀登 ,   山田昌和 ,   真島行彦

ページ範囲:P.1001 - P.1006

 慶應義塾大学病院眼科において角膜移植を施行した症例のうち、1994年から1998年の5年間に感染性角膜炎を発症した14例14眼について遡及的に検討した。感染性角膜炎の病型は縫合糸膿瘍型8例と非縫合糸膿瘍型6例に分けられ,前者の発症時期はさまざまであったが,後者は角膜上皮の状態の不良な術後ごく早期か,移植片機能不全に陥った晩期に多く発症していた。発症の誘因としては縫合糸の緩み,断裂,コンタクトレンズ装用,角膜上皮の不整などがあり,ステロイド薬の点眼を含め全例で複数の誘因が関与していた。起因菌は黄色ブドウ球菌(MRSA 3例を含む)が6例と最も多く,次いでカンジダ,コリネバクテリウム,緑膿菌が各2例で,起因菌が同定されなかった例は2例あった。14例中11例は薬物治療に反応したが,3例では移植片交換などの外科的治療を要した。角膜移植術後の患者に対しては危険因子の存在を常に念頭に置き,長期にわたり慎重に経過槻察していくことが必要と考えられた。

術前視力不良例の糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術成績

著者: 水谷匡宏 ,   西垣士郎 ,   玉置晋 ,   岩城正佳

ページ範囲:P.1007 - P.1010

 術前矯正視力が0.1未満の糖尿病黄斑浮腫に対ずる硝子体手術の成績を検討した。対象は後部硝子体剥離の認められない糖尿病黄斑浮腫19例26眼で,全例で術中に人工的後部硝子体剥離を完成させた。最終受診時に黄斑浮腫の消失・軽減を認めたのは26眼中20眼(77%)で,そのなかで視力の改善が得られたものは9眼にとどまった。術前視力不良例でも硝子体手術で視力改善することはあるものの,良好な視力を得られる可能性は低いと思われた。

眼圧上昇を伴った角膜内皮炎の1例

著者: 野々山深 ,   渋谷勇三 ,   枡田尚 ,   高梨泰至 ,   大平明弘 ,   高鳥葉子

ページ範囲:P.1011 - P.1014

 症例は37歳の女性で,右眼の視力低下を主訴に島根医科大学附属病院眼科に紹介された。初診時の矯正視力は右0.03,左1.2眼圧は右29mmHg,左12mmHgで,右角膜は中央部の上皮に小水胞,全層に浮腫を認めた。細胞浸潤はなかった。角膜内皮に強いスリガラス状の混濁がみられ,混濁部位に一致して後面沈着物を認めた。高眼圧に対してβ遮断薬の点眼を行い眼圧は下降した。角膜病変はステロイド薬,アシクロビルの局所投与に反応せず,アシクロビルの内服投与で軽快した。最終的にヘルペス性中央部浮腫聖角膜内皮炎と診断した。中央部浮腫型角膜内皮炎は,眼圧上昇を伴いステロイド薬やアシクロビルの局所投与に反応しないことがある。そのような症例にはアシクロビルの内服投与も考慮すべきと思われた。

カラー臨床報告

黄斑円孔手術後に脈絡膜新生血管を生じた症例

著者: 池上英里子 ,   山田晴彦 ,   永井由巳 ,   高橋寛二 ,   西村哲哉 ,   松村美代

ページ範囲:P.732 - P.737

 69歳の女性が1年前からの右眼視力低下で受診した。矯正視力は右0.02,左0.7であった。右眼に傾斜乳頭症候群とGass分類4期の黄斑円孔があり,左眼には白内障以外には異常がなかった。右眼に超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術,硝子体手術、円孔底擦過術,SF6ガス注入を行った。黄斑部網膜に膜様物はなかった。これにより円孔は閉鎖した。術後8か月目の右眼矯正視力は0.1で、円孔部は色素塊で閉鎖し,その周囲の網膜下に線維化した新生血管板があった。手術的に除去した新生血管板は,中心窩下に網膜色素上皮と思われる色素細胞が集積し,膠原線維が豊畠な線維血管組織であった。本症例で脈絡膜新生血管が生じた理由として,傾斜乳頭症候群による黄斑部のBruch膜の脆弱化と,手術時の円孔底擦過によるBruch膜の障害とが推定された。

やさしい目で きびしい目で・17

『もっと雑談しましょう』

著者: 能勢晴美

ページ範囲:P.987 - P.987

 私が母校の眼科医局に入局したのは30数年前で,ちょうど白内障の手術が昔の嚢外摘出術から嚢内摘出術に移行しつつあった頃である。当時の医局長であったF先生は,私たちの指導にとても熱心な先生で,積極的に新しい手術法などを取り入れようとしておられた。そのお陰で私たちは症例にも恵まれ,また多くの手術を経験することができたと感謝している。
 昼食を摂る時間もないほどに忙しかった外来や入院患者さんの診療を終え,夕方になると皆三々五々医局に戻ってくるが,それからがまた楽しい時間でもあった。先輩の先生方に今日の患者さんの疑問点につき質問し,その解決方法につき教えていただくのも医局での大きな収穫である。さらに研究のこと,教科書や参考書の選択はもちろんのこと,果てはタウン情報に至るまで学問,雑学,ありとあらゆるジャンルにわたり,医局は最大の情報源であった。時には他愛のないことを言い合って笑ったりしながら,縦にも横にもコミュニケーションが深まっていったように思う。一見無駄な時間のようであるが,これこそ雑談の効用ではないだろうか。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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