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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科55巻6号

2001年06月発行

雑誌目次

特集 第54回日本臨床眼科学会講演集 (4) 特別講演

ぶどう膜炎の免疫学

著者: 櫻木章三

ページ範囲:P.1065 - P.1071

はじめに
 免疫現象が関与しない疾患はないといってよいまでに免疫学の守備範囲は拡大した。眼科領域では,ぶどう膜炎を免疫現象で解釈できる代表的疾患として理解してきた。ただ,原因不明の疾患の多くを免疫疾患というあいまいな概念で理解せざるを得なかったことも確かである。ステロイドの発見後は,ステロイドが著効する疾患とした,同じくあいまいな概念での理解と共存した時期を経てきた。
 免疫学が分子生物学的手法で解析されるに至り,免疫現象を細胞・分子レベルで解釈することが可能になり,今までのあいまいさや隔靴掻痒の感からようやく解放されつつあるといってよかろう。人のぶどう膜炎への外挿の適否はさておき,実験的自己免疫性ぶどう膜炎experimental auto—immune uveitis (EAU)の解析結果は多くのことを教えてくれた。

加齢黄斑症の臨床所見と経過

著者: 尾花明 ,   郷渡有子 ,   三浦央子 ,   和田園美 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.1229 - P.1234

 少なくとも1眼に加齢黄斑症のある453例906眼を遡及的に検索した。男314例,女139例で,年齢は48〜91歳,平均69±8.9歳であった。診断時の所見として,早期加齢黄斑症151眼,漿液性網膜色素上皮剥離21眼,加齢黄斑変性510眼(滲出型489眼,萎縮型21眼)があった。経過中に早期加齢黄斑症の2眼が黄斑変性に,1眼が萎縮型に移行した。滲出型の約60%に滲出持続や線維化進行があり,35%で視力が低下した。いわゆるclassic型の新生血管を含む眼は予後不良であった。約20%の症例がMacular Photocoagulation Study Groupの治療基準に合致した。フルオレセイン蛍光造影で病巣の境界が不鮮明な眼の75%に,インドシアニングリーン(ICG)蛍光造影で新生血管が検出された。ICG造影に基づく治療で,約60%の眼で視力が維持された。

原著

白内障手術後眼内炎予防のための抗生物質(flomoxef sodium)の投与法と前房内移行

著者: 草野良明 ,   折原雄一 ,   安田明弘 ,   佐久間敦之 ,   大越貴志子 ,   山口達夫

ページ範囲:P.1072 - P.1076

 白内障手術後の眼内炎予防のためにfiomoxef sodium (FMOX)の投与法と眼内移行を検討した。33例にFMOX 1.6gを術前60分から180分前に静注し,術中に前房水を採取してその濃度を測った。150分前の投与で最高値2.1±1.7μg/mlに達した。146例にはFMOX 10ないし20mgを術前30分から300分前に結膜下に注射した。前房内濃度の最高値は53.4±22.6μg/mlから110.4±67.9μg/mlの範囲にあった。179例すべてに副作用はなかった。白内障患者100眼の結膜嚢から,21眼で9種の細菌が分離された。これらの最小発育阻止濃度(MIC)は,その多くが0.5μg/ml以下であった。手術室に置いた培地から分離されたStaphylococcus epidermidisのMICは4.0μg/ml以下であった。以上の結果から,術後の眼内炎予防のためには,FMOXの静脈内投与よりも結膜下注射のほうが有効であると推察される。

Pigment epithelium derived factor(PEDF)の硝子体内濃度

著者: 緒方奈保子 ,   西村哲哉 ,   ,   松村美代

ページ範囲:P.1077 - P.1079

 Pigment epithelium-derived factor (色素上皮由来因子:PEDF)は,網膜色素上皮細胞から産生される蛋白で,神経栄養作用と,強力な眼内血管新生抑制作用があるとされる。硝子体手術を行った23眼で,硝子体内PEDF濃度をELISA (enzyme-linked immunosorbent assay)で測定した。内訳は,増殖型糖尿病網膜症8眼,裂孔原性網膜剥離7眼,特発性黄斑円孔4眼,その他である。PEDF濃度は,増殖型糖尿病網膜症で0.37±0.13μg/ml,裂孔原性網膜剥離で3.53±0.85μg/mlであった。特発性黄斑円孔では1.76±0.46μg/mlであり,正常値に近かった。増殖型糖尿病網膜症で硝子体PEDFが低濃度であることは,これによる眼内血管新生抑制効果が低いことを示すと思われた。裂孔原性網膜剥離で高値であることは,剥離網膜の神経細胞保護に作用している可能性があると推定された。

糖尿病黄斑症のタイプ分類と硝子体手術成績

著者: 小川邦子 ,   川路隆博 ,   中尾功 ,   松井淑江 ,   石郷岡均 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.1080 - P.1084

 糖尿病黄斑症を型別に分類し,硝子体手術の適応と判断された56眼について治療法と手術成績を検討した。びまん性黄斑浮腫(M1型)では後部硝子体剥離の作成を基本とし,浮腫が高度なものは内境界膜剥離や嚢胞様黄斑浮腫穿刺を併用した。M1型45眼では29眼(64%)で2段階以上の視力改善を得た。網膜下に硬性白斑のあるM2型とM3型では,後部硝子体剥離に加え,網膜下の白斑を除去した。M2型7眼では全例が2段階以上に視力が改善した。M3型4眼では早期手術例を除き,視力予後は概して不良であった。

増殖糖尿病網膜症に伴う傍中心窩毛細血管網閉塞に対する硝子体手術の効果

著者: 中村朝子 ,   澤田英子 ,   安藤伸朗

ページ範囲:P.1085 - P.1088

 傍中心窩毛細血管網閉塞のある虚血性糖尿病黄斑症22眼に硝子体手術を行った。術後,蛍光眼底造影で評価した中心窩毛細血管網閉塞は,6眼で再疎通し,14眼では不変,2眼では拡大した。再疎通6眼での視力は3眼で2段階以上改善,3眼で不変であり,悪化はなかった。全22眼での視力は,7眼で改善,14眼で不変であり,1眼で悪化した。虚血性糖尿病黄斑症に対して硝子体手術が有効である可能性を示す症群である。

硝子体手術によって改善した乳頭浮腫の1例

著者: 鈴木由美 ,   平形明人 ,   三木大二郎 ,   森村佳弘 ,   岡田アナベルあやめ

ページ範囲:P.1089 - P.1093

 55歳男性が両眼の飛蚊症と霧視で受診した。約2か月前から感冒様症状,意識障害,播種性血管内凝固症候群があり,中心静脈栄養を受けていた。視力は良好で,軽い硝子体混濁があった。両眼の霧視はその後増悪し,7か月後に乳頭浮腫と嚢胞様黄斑浮腫が生じた。全身検査で原因は特定できなかった。右眼に診断的硝子体手術を行い,後部硝子体膜が乳頭面に癒着していた。ステロイド薬の全身投与を行い,右眼の炎症所見は消退した。持続する左眼の乳頭浮腫と黄斑浮腫に対し,硝子体手術で硝子体の乳頭牽弓を解除した。乳頭浮腫と黄斑浮腫は速やかに改善した。ぶどう膜炎の原因は特定できなかったが,硝子体の乳頭牽引が慢性ぶどう膜炎様の炎症に関与する可能性が考えられた。

クリスタリン網膜症の1例

著者: 渡部大介 ,   平田裕也 ,   尾崎志郎 ,   山名隆幸 ,   喜多美穂里

ページ範囲:P.1094 - P.1097

 45歳男性が半年前からの夜盲で受診した。矯正視力は右0.2,左0.7であった。角膜には結晶様沈着物はなく,角膜内皮細胞数は正常であった。両眼底には,後極部を中心に閃輝性の黄白色小斑が散在していた。フルオレセイン蛍光造影(FAG)では,早期から後期にかけて斑状の低蛍光野が多数あったが,閃輝性小斑は過蛍光も低蛍光も示さなかった。インドシアニングリーン蛍光造影(IA)では,FAGでの低蛍光野に相当する部位が低蛍光を示した。本症では,網膜色素上皮層と脈絡毛細血管板に病変があると考えられているが,IA所見もそのことを示唆した。

アトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離に対する硝子体手術成績

著者: 村田茂之 ,   櫻井真彦 ,   岡本寧一 ,   井上治郎

ページ範囲:P.1099 - P.1104

 アトピー性皮膚炎に伴う網膜剥離18例18眼に対して硝子体手術を行った。年齢は15〜35歳,平均24.4歳であった。12眼は有水晶体であり1うち4眼は白内障で眼底検索が困難であった。網膜剥離手術の既往が4眼にあった。有水晶体眼では前嚢を残して水晶体を切除した。外傷によると思われる網膜または毛様体への牽引を解除するため,基底部まで硝子体を切除した。毛様体ひだ部裂孔がある例ではその部の水晶体嚢を切除した。全例に輪状締結を行い,網膜裂孔がある例にはその部にバックルを追加した。初回手術で全例に復位が得られ,術後6〜48か月,平均25か月の観察で再剥離はなかった。このような症例に対して本術式が有効であったと結論される。

糖尿病網膜症と血清ヘモグロビン濃度の関係

著者: 森田啓文 ,   鈴木亨 ,   伊比健児 ,   田原昭彦

ページ範囲:P.1105 - P.1107

 糖尿病網膜症の程度と末梢血ヘモグロビン濃度の関係を306人について検索した。網膜症の程度を3群に分けた。網膜症なし(Ⅰ群),光凝固の既往のない単純網膜症(Ⅱ群),重度網膜症(Ⅲ群)であり,Ⅲ群には光凝固の既往のある単純網膜症,前増殖網膜症,増殖網膜症を含むものとした。ヘモグロビン濃度の平均値を,男女別と,年代層別(50歳未満,50,60,70歳台,80歳以上)に設定した。低ヘモグロビンの頻度は,Ⅰ群44.1%,Ⅱ群27.9%,Ⅲ群27.9%あり,高ヘモグロビンの頻度は,Ⅰ群57.7%,Ⅱ群23.5%,Ⅲ群18.8%であり,ヘモグロビン低値者と高値者間に有意差があった(p<0.05,X2検定)。この結果は,糖尿病網膜症の程度とヘモグロビン濃度との間に正の相関があることを示している。

アトピー白内障術後のヤグレーザー後嚢切開率

著者: 坂上欧 ,   吉田秀彦 ,   宮本和明 ,   近藤武久

ページ範囲:P.1108 - P.1110

 アトピー白内障手術後にヤグレーザーによる後発白内障切開術を必要とした症例を検討した。対象は,超音波白内障手術と眼内レンズ挿入術を受けた2施設での51例74眼である。年齢は17歳から49歳,平均30.1歳であった。術後6か月から8年6か月(平均3年8か月)の間に,20眼(27%)がヤグレーザーによる後発白内障切開術を必要とした。この頻度は,通常の白内障に対して報告されている術後5年間での30.4%とほぼ同じであった。

眼圧コントロール不良例におけるラタノプロストの効果

著者: 永山幹夫 ,   山口樹一郎 ,   田村直之 ,   大月洋 ,   井上康 ,   小郷卓司 ,   樋口亜紀子

ページ範囲:P.1111 - P.1115

 他の眼圧下降薬で眼圧コントロールが得られない緑内障150名150眼にラタノプロスト点眼を行った。内訳は,原発開放隅角緑内障83眼,正常眼圧緑内障41眼,続発緑内障12眼,その他14眼であり,緑内障手術の既往が12眼にあった。点眼開始から2か月までのoutflow pressureの改善が30%以上を著効,10%以上を有効,10%未満を不変とした。有効群と著効群のうち,それ以後に眼圧が点眼開始前の値以上になった場合を効果減弱とした。有効は119眼(79%)で,うち著効が63眼(42%)であり,不変が27眼(18%),点眼中止が4眼であった。効果減弱は有効群の56眼(47%),著効群の18眼(29%)に認められた。著効群での効果減弱に影響する因子は,併用薬の数と点眼開始前の眼圧であった。

角膜移植術後の遷延性角膜上皮欠損でPCR法にて単純ヘルペスウイルスが検出された2例

著者: 久持彩子 ,   鶴秀敏 ,   門田遊 ,   鶴丸修士 ,   杉田稔 ,   田口千香子 ,   木原邦博 ,   佐野裕子 ,   山川良治

ページ範囲:P.1117 - P.1121

 70歳と55歳男性の左眼に全層角膜移植術を行った。術前診断は,それぞれ真菌性角膜潰瘍と,虹彩切開術後の角膜浮腫であった。角膜移植後に拒絶反応が起こり,免疫抑制剤投与中に遷延性角膜上皮欠損が生じた。両症例とも,上皮欠損は母角膜と移植片にまたがり,創部に沿った不整な形で,典型的な上皮型角膜ヘルペスの所見ではなかった。しかし,角膜上皮のPCR法による検査で単純ヘルペスウイルスが検出され,アシクロビル投与で角膜上皮欠損が消失した。角膜疾患で臨床所見のみでは診断が困難な場合にPCRが有用であることを示す症例である。

睫毛内反症に続発した角膜アミロイドーシス

著者: 江口洋 ,   佐藤寛之 ,   賀島誠 ,   塩田洋 ,   三河洋一

ページ範囲:P.1123 - P.1126

 23歳男性が右眼角膜の白色腫瘤で受診した。幼少時から右眼下眼瞼に睫毛内反症があり,右眼角膜の瞳孔領の下方に3×4mm大の膠様滴状の白色腫瘤があったが,視力は良好であった。病理学的に角膜アミロイドーシスと診断した。免疫組織化学と電子顕微鏡検査で発症原因についての新知見は得られなかったが,睫毛内反症に続発したと推定された。われわれの知る限り,角膜アミロイドーシスとしては最若年例であり,睫毛内反症に続発したことを明記した最初の報告である。

Marfan症候群の毛様体所見

著者: 小西健一 ,   野下純世 ,   加藤整 ,   大島健司

ページ範囲:P.1127 - P.1130

 Marfan症候群の3症例に対し,超音波生体顕微鏡にて毛様体部の観察を行った。症例は,術後無水晶体眼4眼,水晶体完全脱臼1眼,水晶体亜脱臼1眼の合計6眼であり,正常眼と比較すると6眼すべてで毛様体の平坦化および毛様体突起の短縮を認めた。23歳時に経毛様体扁平部水晶切除術を施行された症例では,術後6年経過していたが,平坦化が比較的軽度であり,突起も他の5眼に比べ比較的明瞭に描出された。一方,水晶体切除術を施行された先天白内障の症例は術後30年経過していたが,平坦化,突起短縮の所見はなく,Marfan症候群では毛様体襞部の平坦化と突起部短縮という毛様体の低形成が特徴的な所見であることが示唆された。

神経線維腫症1型の小児例における眼科学的所見

著者: 安成隆治 ,   白木邦彦 ,   服部英司 ,   三木徳彦

ページ範囲:P.1131 - P.1133

 神経線維腫症1型の3歳から16歳の9例18眼の眼底を検索した。赤色単色光を使う走査型レーザー検眼鏡(SLO)で,全例に高輝度の結節様病変が観察された。この所見は,筆者らが22歳から61歳の成人症例12例23眼で報告したものと同様であった。この脈絡膜異常は,神経線維腫症1型で高頻度かつ早期から生じる合併症であると考えられる。

プリズムレンズ装用による半盲治療

著者: 中里啓子 ,   高松俊行

ページ範囲:P.1134 - P.1138

 後大脳動脈領域の脳梗塞により同名半盲となった男性6例,女性2例の計8例と視神経疾患により水平半盲となった女性2例に対しプリズムレンズの基底を盲側として装用させた。プリズムレンズ装用により,盲側の視野情報を健常側網膜に投影させ,同名半盲および水平半盲の視野が拡大するか否かを検討した。ゴールドマン視野計を用いた視野の測定では,プリズムレンズ装用により全例で視野が盲側にずれ,中心部の視野拡大が認められた。さらに,10プリズムジオプタのFresnelの膜プリズムを両側眼鏡に装着することにより,日常生活に十分な視野の拡大を認めた。Fresnelの膜プリズムは安価で軽く,着脱も簡易であることから,半盲の矯正法として実用的な方法と考えた。

眼窩筋炎の3例

著者: 永野咲子 ,   太田浩一 ,   吉村長久

ページ範囲:P.1139 - P.1142

 ステロイド薬による治療後,異なる経過をとった眼窩筋炎の3症例を経験した。いずれも女性であり,年齢は,42歳,47歳,39歳である。片眼性の急性期の1例は,ステロイド治療後に寛解した。片眼性の慢性期の1例は,ステロイドパルス療法後も眼球運動障害が残った。両眼性の急性期の1例は,ステロイドパルス療法後に軽快したが4か月後に再発した。眼窩筋炎の治療では,発症早期に十分量のステロイド薬を投与すること,その漸減を急がないことが重要であること,両眼性の症例にはステロイドパルス療法が望ましいことが推論される。

甲状腺眼症に対するステロイドパルス療法と放射線療法が奏効した3例

著者: 浅見哲 ,   京兼郁江 ,   佐橋一浩 ,   広瀬浩士 ,   安藤文隆 ,   加藤恵利子

ページ範囲:P.1143 - P.1146

 両眼の眼球突出,眼球運動障害,視力低下のある甲状腺眼症3例を治療した。1例に甲状腺機能亢進があり,他の2例は甲状腺機能が正常であった。甲状腺刺激抗体の高値が2例にあった。MRI画像で全例に顕著な外眼筋肥大があり,T2強調像では2例で外眼筋内のT2緩和時間が延長していた。2例にステロイドパルス療法と放射線療法,1例に放射線療法のみを行った。全症例で,視力,中心フリッカー値,外眼筋の肥大が改善した。甲状腺眼症では,甲状腺機能障害の有無にかかわらず,ステロイドパルス療法と放射線療法が有効であることを示す症例群である。

新しいコントラスト感度検査装置(CAT−2000)試作機の評価

著者: 李俊哉 ,   滝本正子 ,   簗島謙次 ,   林弘美 ,   中嶋花子 ,   志和利彦 ,   大原國俊 ,   平上智子 ,   稲垣泰子 ,   脇大悟 ,   宗像夏樹

ページ範囲:P.1147 - P.1150

 網膜コントラスト感度検査装置としてCAT−2000を試作した。本装置はランドルト環を用い,視標面の輝度が一定に設定され,任意のコントラスト感度測定が可能である。これを使って,視力1.0以上の正常眼61眼,偽水晶体眼38眼,白内障眼52眼の3群で,昼間視,グレア負荷昼間視,夜間視,グレア負荷夜間視の状態でコントラスト感度を測定した。白内障群は,他の2群に比べ,昼間視,グレア負荷昼間視,グレア負荷夜間視でのコントラスト感度の低下を示した。本装置によるコントラスト感度測定は,日常生活上での視機能評価法として有用であると結論される。

眼内レンズ挿入術による緑内障予後

著者: 山川慶太 ,   渡辺めぐみ ,   吾妻潤子 ,   齋藤了一 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.1151 - P.1154

 過去8年間に白内障手術と眼内レンズ(IOL)挿入術を行った緑内障88眼72症例を検索した。年齢は平均69.5±13.8歳であり,1年以上の経過を観察した。白内障術式,IOLの種類,IOLの固定状態は,いずれも術後の視力,眼圧,視野,一過性高眼圧と有意差はなかった。術中に破嚢した5眼と破嚢しなかった83眼との間に,術後の視力,眼圧,視野について有意差はなかった。術後の一過性高眼圧は,破衝群3眼(60%),非破嚢群10眼(12%)に生じ,有意差があった(p=0.003)。この差には,破嚢眼での粘弾性物質の残留と術後の炎症が関係していると推定された。

ラタノプロスト投与後に増悪した続発開放隅角緑内障の1例

著者: 高瀬一嘉

ページ範囲:P.1155 - P.1158

 70歳男性の両眼に,虹彩炎による続発開放隅角緑内障発作が過去8年間に反復していた。右眼にラタノプロストを1回点眼した。点眼後に虹彩炎が増悪し,点眼前28mmHgであった右眼眼圧は,2日後45mmHg,3日後55mmHgに上昇した。ステロイド薬の点眼,結膜下注射,経口投与で虹彩炎は軽快し,眼圧は22mmHg以下になった。活動性の虹彩炎を伴う続発緑内障がラタノプロスト点眼で急性に増悪することがあるので,注意が必要であることを示す症例である。

マイトマイシンC術中使用を併用した江口式翼状片手術の成績

著者: 久保満 ,   堀裕一 ,   福井佳苗 ,   塩谷易之 ,   木内良明 ,   石本一郎

ページ範囲:P.1159 - P.1161

 江口式結膜弁移植法とマイトマイシンCの術中塗布による翼状片手術を22眼に行った。19眼が初回手術で,3眼が再手術であった。結膜弁は17眼では下方,5眼では上方に作成した。術後3か月以上の観察で,19眼(86%)で治癒が得られた。再発は,結膜弁を下方に作成した17眼中2眼(12%)と,上方に作成した5眼中1眼(20%)に起こった。初回手術では1眼(6%)に,再手術では2眼(50%)に再発した。以上の成績は,今回の術式が再発率が低く,有用であることを示している。

ぶどう膜炎による続発緑内障に対するラタノプロストの使用経験

著者: 植木麻理 ,   川上剛 ,   奥田隆章 ,   杉山哲也 ,   中島正之 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1163 - P.1166

 ラタノプロスト点眼液をぶどう膜炎による続発緑内障14例19眼に投与し,眼圧と炎症への影響を検索した。点眼開始4週間後では投与前後で有意の眼圧下降効果は得られず,炎症の継続群8眼と1年以上の炎症静止群11眼の間で有意差はなかった。しかし10眼(53%)に,outflow pressure法で30%以上の眼圧下降率が得られた。炎症については,継続群6眼(75%)にぶどう膜炎の増悪,静止群5眼(45%)に炎症の再燃があった。ステロイド薬を併用している5眼では,そのすべてで炎症が増悪した。ぶどう膜炎に続発した緑内障へのラタノプロスト点眼では,有効な眼圧下降が得られることがあるが,高率にぶどう膜炎の再燃または増悪があるので注意が必要である。

ラタノプロスト点眼における眼圧の変動

著者: 伊藤賢司 ,   木村保孝 ,   岸章治

ページ範囲:P.1167 - P.1170

 βプロッカー薬を1日2回点眼している緑内障25例50眼にラタノプロストの就寝前1回点眼を追加し,眼圧下降効果を評価した。追加点眼で午前・午後ともに眼圧が有意に低下した。開放隅角緑内障20眼では,追加前には午後に有意な眼圧上昇があったが,追加後には午前・午後間に有意差がなくなり,午後の眼圧上昇が抑制された。正常眼圧緑内障16眼では,午後の眼圧上昇を抑制できなかった。血管新生緑内障6眼では,午後の眼圧上昇が抑制された。βプロッカー薬へのラタノプロスト追加は,終日の安定した眼圧降下に効果があった。

血管新生緑内障に対する塩酸ドルゾラミド点眼の効果

著者: 萩原有紀 ,   木村保孝 ,   三浦文英 ,   伊藤賢司 ,   大坪朗子 ,   萩原直也 ,   上原博 ,   小池智明 ,   岸章治

ページ範囲:P.1171 - P.1174

 血管新生緑内障43例54眼への塩酸ドルゾラミド点眼の効果を評価した。内訳は,糖尿病網膜症49眼,内頸動脈の狭窄または閉塞3眼,網膜中心動脈閉塞症1眼,網膜動静脈閉塞症1眼であった。全例に汎網膜光凝固があらかじめ行われた。3か月以上の観察で,点眼ないし内服で眼圧コントロールが39眼(72%)で得られた。他の15眼は濾過手術,毛様体光凝固術,網膜光凝固術の追加を必要とした。点眼単独の30眼では,点眼開始後1,3,6か月の時点で,点眼開始前よりも平均眼圧が有意に低下した。炭酸脱水酵素阻害薬を経口的に投与されていた9眼では,点眼後4眼でこれを中止でき,2眼では減量できた。塩酸ドルゾラミド点眼が血管新生緑内障での眼圧降下に有効であり,炭酸脱水酵素阻害薬の中止または減量を可能にすることを示す所見である。

糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対するKrasnov式濾過手術岩田変法

著者: 澤田英子 ,   中村朝子 ,   安藤伸朗 ,   岩田和雄 ,   福地健郎

ページ範囲:P.1175 - P.1178

 増殖糖尿病網膜症に併発した血管新生緑内障8例9眼に対するKrasnov式濾過手術岩田変法の眼圧への効果を検討した。全例にマイトマイシンCを併用した。年齢は58.7±11.4歳,経過観察期間は10.7±10.6か月,術前眼圧は26.2±5.8mmHgであった。術後眼圧が点眼の有無にかかわらず21mmHg以下の場合をコントロール良好とした。7眼(78%)がコントロール良好であり,これら7眼での眼圧は,術後3か月で10.1±4.3mmHg,6か月で12.3±5.8mmHg,12か月で10.6±2.5mmHgであった。本術式が血管新生緑内障に対して有効であることを示す所見である。

輪部基底結膜弁と円蓋部基底結膜弁の非穿孔性線維柱帯切除術短期成績

著者: 永木憲雄 ,   良藤恵理子 ,   半田幸子

ページ範囲:P.1179 - P.1181

 マイトマイシンC併用非穿孔性線維柱帯切除術を行った33眼での結果を検索した。17眼では輪部基底結膜弁を作成し,16眼では円蓋部基底結膜弁を作成した。全例が開放隅角緑内障であり,術前平均眼圧は,輪部基底群で20mmHg,円蓋部基底群で21mmHgであった。術後6か月以上の観察で,最終平均眼圧は,輪部基底群で12.2mmHg,円蓋部基底群で12.5mmHgでありd両群間に有意差はなく,いずれの方法も有効であった。

マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後,長期経過して発症した眼内炎の2例

著者: 山口希 ,   佐藤文平 ,   渡邊敏夫 ,   廣辻徳彦 ,   徳岡覚 ,   池田恒彦 ,   横山順子

ページ範囲:P.1183 - P.1186

 58歳男性と62歳女性が眼内炎で紹介され受診した。2例とも約3年前にマイトマイシンC併用線維柱帯切除術が行われていた。1例は脳梗塞による半身不随と長期間の独居,他の1例は無治療の糖尿病があり,要介護者と同居していた。両症例とも,マイトマイシンCの結果として濾過胞の結膜が血管に乏しく,結合組織が粗になり,その結果,結膜のocular surfaceとしての機能が低下したことが眼内炎の誘因になったと考えられた。両症例とも,独居,糖尿病,要介護者の存在など、感染因子が増加する背景因子があった。マイトマイシンC併用線維柱帯切除術では長期間後に眼内炎が発症する可能性があることを示す2症例である。

アクリルとシリコーンのソフトレンズにおける術後視力による後発白内障の評価

著者: 山本泰史 ,   中村浩平 ,   桑原ちひろ ,   寺井朋子 ,   齋藤総一郎 ,   西垣昌人 ,   岩崎義弘 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1187 - P.1190

 アクリルソフトレンズとシリコーンソフトレンズ移植後に起こる後発白内障の発生状況を視力から検討するため,当院で両眼同時期に白内障手術を受けた患者のなかで白内障以外の視力に影響する眼疾患を持たない25症例50眼に,それぞれの左右各眼に異素材レンズを移植した。後発白内障の発生に影響を与える因子である術式,眼内レンズ固定法,術前後の消炎方法などは統一し,1年以上の経過観察を行った。アクリルソフトレンズ挿入群とシリコーンソフトレンズ挿入群において術1週間後と1年後の視力を比較検討した結果,アクリルソフトレンズとシリコーンソフトレンズにおいて術後1年以内における後発白内障の発生に統計学的に有意差はなかった(p=0.2806)。

角膜内皮障害を伴う白内障に対する経毛様体扁平部水晶体摘出術

著者: 今井仁 ,   廣瀬浩士 ,   安藤文隆

ページ範囲:P.1191 - P.1194

 角膜内皮細胞密度が1,500個/mm2以下の白内障3例3眼に経毛様体扁平部水晶体摘出術を行った。2眼には眼内レンズ挿入を行い,毛様溝固定とした。年齢はそれぞれ67歳,80歳,92歳であった。全例で視力が改善し,角膜内皮細胞密度には術前後で変化はなかった。術中合併症として1眼で皮質落下があった。経毛様体扁平部水晶体摘出術では前嚢が温存されるので,水晶体乳化の際の超音波エネルギーや灌流液の前房への影響が少なく,角膜内皮障害を防止すると考えられた。この方法は,角膜内皮障害がある白内障への有効な術式であると結論される。

50歳未満の増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績

著者: 花井徹 ,   小紫裕介 ,   渋木宏人 ,   秋元晶子 ,   横山篤 ,   吉村長久

ページ範囲:P.1195 - P.1198

 過去5年4か月間に硝子体手術を行った増殖糖尿病網膜症のうち,発症年齢が40歳以下,手術時年齢が50歳未満である59例83眼の手術成績を検討した。内境界膜剥離を行った症例は除外した。術後最終視力は,46眼(55%)で改善,14眼(17%)で不変,23眼(28%)で悪化した。最終視力が0.1未満であった主原因は,術前の黄斑剥離や虹彩ルベオーシスの併発であった。失明の原因は,術後の血管新生緑内障6眼,増殖硝子体網膜症8眼,前部硝子体線維性血管増殖2眼であった。良好な最終視力を得るには,早期硝子体手術が必要であると考えられた。

ぶどう膜炎に対する硝子体手術成績

著者: 太田敬子 ,   高野雅彦 ,   中村聡 ,   門之園一明 ,   飯島康仁 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1199 - P.1202

 ぶどう膜炎25眼に対して硝子体手術を行った。サルコイドーシス8眼,ベーチェット病・原田病・網膜血管炎各1眼,原因不明14眼である。手術の目的は,硝子体混濁15眼,網膜剥離6眼,嚢胞様黄斑浮腫4眼である。術後5か月以上の経過観察で、視力の向上が硝子体混濁14眼(93%),嚢胞様黄斑浮腫2眼(50%),網膜剥離2眼(33%)で得られた。炎症の評価は,前房の混濁・細胞と硝子体混濁を合わせて15段階にスコア化して行った。2段階以上の炎症の軽減化が,硝子体混濁11眼(73%)と嚢胞様黄斑浮腫1眼(25%)で得られた。硝子体手術がぶどう膜炎の合併症と,ぶどう膜炎そのものに有効でありうると結論される。

前房内粘弾性物質注入が有効であった硝子体手術後の低眼圧黄斑症の1例

著者: 松永裕史 ,   西村哲哉 ,   松村美代

ページ範囲:P.1203 - P.1206

 39歳男性の両眼の網膜剥離に対して強膜内陥術を行い,復位を得た。右眼は術後1か月ごろから黄斑部耳側に増殖膜が生じ,硝子体手術を行った。眼圧は徐々に低下し,4か月後に4mmHgになり,低眼圧黄斑症になった。以後4か月間低眼圧が持続したので,その原因と考えられた残存前部硝子体切除を行った。眼圧が改善しないため,その2週後に前房内に粘弾性物質を注入した。これにより眼圧は正常化し,黄斑症が改善した。本症例では,初回の硝子体手術後に残存した前部硝子体が毛様体を牽弓し,房水の産生が低下したことが低眼圧の原因であったと推定された。前房内に粘弾性物質を注入することで,毛様体解離が閉鎖し,房水産生が回復したと推定された。低眼圧黄斑症に対して前房内粘弾性物質注入が有効であった症例である。

各種ぶどう膜炎とツベルクリン反応

著者: 浦野哲 ,   荒木理子 ,   熊谷直樹 ,   田口千香子 ,   棚成都子 ,   吉村浩一 ,   疋田直文 ,   山川良治

ページ範囲:P.1207 - P.1210

 ぶどう膜炎の診断におけるツベルクリン反応の有用性を415症例で検討した。全例がぶどう膜炎発症から1か月以内の活動期にあり,ステロイド薬を含む消炎薬の全身投与を受けていないものとした。陰性38%,陽性59%,強陽性3%であった。疾患別の陽性率は,ベーチェット病15例と結核性ぶどう膜炎8例で100%,イールズ病4例で75%,サルコイドーシス69例で38%,急性網膜壊死3例で0%であった。ヒトTリンパ球向性ウイルス1型ぶどう膜炎27例での陽性率は70%であり,サルコイドーシスでのそれと有意差があった。ツベルクリン反応は古典的な検査であるが,ぶどう膜炎の補助的診断法として重要であることを示す所見である。

眼窩蜂巣炎症状を伴った桐沢型ぶどう膜炎の1例

著者: 藤井清美 ,   中山智寛 ,   猪原博之 ,   原吉幸

ページ範囲:P.1211 - P.1215

 52歳男性が左眼の違和感で受診した。左眼に前部ぶどう膜炎と乳頭周囲の浮腫出血があった。6日後に眼瞼腫脹と結膜浮腫が生じ,眼窩蜂巣炎が疑われた。さらに3日後に周辺部眼底に黄白色滲出斑が生じ,桐沢型ぶどう膜炎と診断した。ステロイド薬とアシクロビル,硝子体手術などで眼内病変は寛解した。右眼は全経過中異常はなかった。三叉神経第1枝が眼窩と眼内組織に分布していることから,本症例での眼窩蜂巣炎と桐沢型ぶどう膜炎とには共通した原因が関係していると推定された。

沈下型蛍光漏出を示す胞状網膜剥離の臨床的特徴

著者: 渡辺五郎 ,   飯田知弘 ,   高橋慶 ,   佐藤拓 ,   岸章治 ,   清水正明

ページ範囲:P.1217 - P.1220

 特発性漿液性網膜剥離のうち,フルオレセイン蛍光造影で網膜色素上皮からの蛍光漏出が下方に向かう症例の特徴を検索した。沈下型蛍光漏出は,胞状網膜剥離69例115眼のうち8例8眼(7%)にあり,典型的な中心性網脈絡膜症630例840眼ではこれがなかった。沈下型蛍光漏出は,全例で網膜色素上皮剥離の縁から始まっており,漏出液の周囲には網膜下の滲出斑(白色斑紋)があった。7眼では白色斑紋の中に網膜下液の通路に一致して,淡く透明な部位があった。蛍光漏出が下方に向かい,周囲に白色斑紋を伴う現象は,漏出液が蛋白などの成分に富み,網膜下液よりも比重が大きいためと推定した。

外傷性毛様体上皮剥離に巨大裂孔網膜剥離を合併した1例

著者: 佐和未央 ,   津山嘉彦 ,   安達惠美子

ページ範囲:P.1221 - P.1223

 35歳女性が交通事故で顔面を強打し,両眼の飛蚊症で受傷10週後に受診した。以前に家庭内暴力による数回の顔面外傷の既往があった。初診時の矯正視力は両眼とも1.2であった。両眼に虹彩炎と硝子体内の色素塊,全周に及ぶ毛様体上皮剥離があった。その9日後に左眼視野欠損が突発した。視力は手動弁で,眼底上方に巨大裂孔と翻転網膜を伴う網膜剥離があった。パーフルオデカリンとC3F8を併用する硝子体手術で網膜は復位した。右眼には予防的に網膜光凝固を行い,以後16か月間安定している。外傷性の広範な毛様体上皮剥離には,光凝固または輪状締結術などの網膜剥離に対する予防処置が望ましいことを示す症例である。

初回に硝子体手術を行った眼内レンズ挿入眼の網膜剥離

著者: 加藤千晶 ,   森敏郎 ,   戸來透 ,   劉玉蓮

ページ範囲:P.1225 - P.1228

 過去7年間に初回に硝子体手術を行った眼内レンズ挿入眼の網膜剥離の成績を評価した。硝子体切除術単独が7眼,周辺硝子体牽引除去を目的に強膜内陥術を併用したのが15眼であった。20眼(91%)で初回に復位が得られた。再手術を必要とした2眼は,いずれも硝子体切除単独例であった。最終的に21眼(95%)で復位が得られた。術後視力は,2段階以上の改善が18眼(82%),悪化が2眼(9%),不変が2眼(9%)であった。術後合併症として,瞳孔捕獲と黄斑パッカーが各1眼,増殖硝子体網膜症が2眼に生じた。眼内レンズ挿入眼の網膜剥離に対して初回手術としての硝子体手術が有効であることを示す症例群である。

特発性黄斑上膜のOCT所見と視力の相関

著者: 杉田稔 ,   高島保之 ,   馬場順子 ,   山川良治

ページ範囲:P.1235 - P.1238

 特発性黄斑上膜19眼につき,光干渉断層計(OCT)所見と,視力,蛍光造影所見との関係を検索した。OCTで計測した中心窩厚と傍中心窩厚は,logMAR視力と負の相関があった。この相関は,中心窩厚よりも傍中心窩厚について強かった。黄斑部の形状,黄斑下嚢胞の有無視力とは相関しなかった。蛍光眼底造影による黄斑部の漏出の有無は,視力および中心窩厚と相関しなかった。

特発性黄斑上膜に対する内境界膜切除術の評価

著者: 劉玉蓮 ,   加藤千晶 ,   戸來透 ,   森敏郎

ページ範囲:P.1239 - P.1243

 特発性黄斑上膜に対して硝子体手術を行った19眼につき,術前と術後3か月の所見を検索した。9眼では内境界膜を切除し,10眼では切除しなかった。両群間に,術前の年齢,視力,中心窩厚,多局所網膜電図(MERG)の振幅と潜時には有意差はなかった。術後3か月では,両群間に,視力,中心窩厚,MERGの潜時に差はなく,MERGの振幅のみが切除群で非切除群よりも有意に低かった。短期間の術後成績では,黄斑上膜に対する内境界膜切除の有効性は示されず,より長期の評価が必要であると結論される。

網膜動脈閉塞症に対するCO2吸入療法

著者: 野田実香 ,   黒坂裕代 ,   川村真理 ,   増田純一

ページ範囲:P.1244 - P.1246

 目的:急性期の網膜中心動脈閉塞症の治療として二酸化炭素(CO2)と酸素の混合吸入療法で,動脈血のCO2分圧を反映する終末呼気のCO2濃度を計測しながら吸入CO2濃度を調節すること。対象と方法:網膜中心動脈閉塞症4例と網膜動脈分枝閉塞症4例を対象とした。年齢は68歳から87歳で,平均76.7歳である。麻酔器を使ったマスク換気下で,CO2と酸素の混合気体を投与し,終末呼気濃度が動脈拡張に有効で安全と思われる45〜60mmHgの範囲になるように吸入CO2を調節した。1回の吸入は15分とし,日中は2時間ごと,夜間は3時間ごとに,改善が認められるまで,発症から48時間を限度として行った。全例に眼圧下降療法と血栓溶解剤などの点滴を併用した。結果:適切な吸入CO2濃度には個人差があり10〜14%で,同一症例でも変動があった。視力は網膜中心動脈閉塞症1例と網膜動脈分枝閉塞症4例で改善した。結論:呼気のCO2濃度を計測しながらCO2と酸素の混合気体を投与する新しい方法は,網膜動脈閉塞症の初期治療として有効である。

眼底血圧計の試作

著者: 西川憲清 ,   福田全克 ,   星川勝四郎

ページ範囲:P.1247 - P.1249

 吸引式の眼底血圧計を試作した。圧力調節リモコンや吸引cupの強膜固定用スイッチを装着した。吸引圧300mmHg以上,550mmHg以上で鳴る2種類の警告音発生装置を設置した。圧解除スイッチを設置し,安全性を高めた。操作性や眼底血圧値の再現性は良好であった。この眼底血圧計の使用は眼循環動態把握に役立つと考えられた。

未熟児網膜症の硝子体手術における灌流ポート設置法

著者: 山上高生 ,   荒川朋彦 ,   辻本真実 ,   佐藤文平 ,   菅澤淳 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1251 - P.1254

 5期未熟児網膜症4例4眼に対して,硝子体手術を行った。生後18週から23週であり,在胎期間は24週から28週であった。長さ2.5mmの灌流ポートを角膜輪部から1.5mm後方に置き,毛様体雛襞部を貫通し,水晶体内に先端を刺入した。まず水晶体切除と水晶体後面の増殖膜処理を行い,網膜の牽引を十分に開放した時点で硝子体内にヒアルロン酸を注入して漏斗状の網膜を伸展させた。術中に医原性裂孔が生じた場合には気圧伸展網膜復位を行った。4眼中1眼に完全復位,2眼に部分復位が得られた。この灌流ポート設置法は,周辺部網膜を損傷する危険が少ないこと,角膜内皮障害が少ないこと,術野が十分に確保できることなどの利点を有し,未熟児網膜症の硝子体手術の一変法として有用であると考えられた。

多彩な眼症状を呈した肥厚性硬膜炎の1例

著者: 斉藤信夫 ,   松倉修司 ,   気賀澤一輝 ,   赤塚一子 ,   浜野均 ,   政所広行 ,   柴田将良 ,   鬼島宏

ページ範囲:P.1255 - P.1258

 61歳女性が左眼結膜充血で受診した。左眼に虹彩毛様体炎,乳頭浮腫,毛様体扁平部の黄白色隆起性病変があり,結核が疑われた。頭痛と左側の多発性脳神経障害があり,磁気共鳴画像検査(MRI)で肥厚性硬膜炎と診断した。抗結核薬で諸症状は改善しなかった。硬膜生検で結核は否定された。ステロイドパルス療法で眼症状は著明に改善し,MRIでの硬膜肥厚は縮小した。肥厚性硬膜炎の多くは原因不明であるが,原因として結核が疑われた本例では,治療方針の決定に硬膜生検が有用であった。

蝶形骨洞嚢胞による眼窩先端部症候群の1例

著者: 植村明弘 ,   武田憲夫 ,   水野谷智 ,   佐々木幸三 ,   柿沼健裕 ,   佐内明子 ,   鈴木誉 ,   沼澤環 ,   朴栄華

ページ範囲:P.1259 - P.1262

 68歳男性が2週間前からの右眼眼球運動障害と霧視で受診した。矯正視力は0.4で,視野狭窄があった。右眼の眼球運動が全方向で制限され,外斜視,眼瞼下垂,瞳孔散大,relative afferent pupillarydefectがあり,眼窩先端部症候群の所見を呈した。眼窩のCTとMRIで蝶形骨洞から眼窩先端部に陰影があり,蝶形骨洞嚢胞と診断された。耳鼻咽喉科で手術と薬物療法を行い,眼球運動と眼瞼下垂は改善したが,視機能の回復は不完全であった。副鼻腔嚢胞による視神経病変には早期治療が重要であると考えられた。

東京医科大学眼科における前部虚血性視神経症の動向

著者: 小森敦子 ,   田中孝男 ,   小林昭子 ,   原澤佳代子 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.1263 - P.1267

 過去6年間に当科を受診した前部虚血性視神経症15例17眼の動向を検索した。罹患側は右5眼,左12眼で,2例が両側発症であった。男性10例,女性5例で,平均年齢は,男性63.3±16.0歳,女性61.0±10.8歳であった。視力の転帰は,改善5眼,不変8眼,悪化4眼であった。初診時の視野は,水平半盲7眼(41%),中心暗点3眼(18%),傍中心暗点3眼(18%)などであり,複数回の視野検査ができた13眼での転帰は,改善2眼,不変7眼,悪化4眼であった。治療として,12眼に血管拡張薬と副腎皮質ステロイド薬の投与、3眼に血管拡張薬のみの投与,1眼に副腎皮質ステロイド薬の投与を行い,1例が無投薬であった。

眼窩骨壁をまたぐ亜鈴型皮様嚢腫の2症例

著者: 西垣惠行 ,   安積淳 ,   井上正則 ,   根本昭

ページ範囲:P.1269 - P.1273

 眼窩内外にまたがる皮様資腫の2例を経験した。1例は29歳男性で,15年前から左眉毛外側に腫瘤を自覚し,腫瘤を圧迫すると眼球が突出した。第2例は52歳女性で,左変視症を主訴とし,網脈絡膜搬襲があった。画像診断で眼窩腫瘤が証明され,眼窩外側骨壁を賃いて亜鈴型に眼窩内外にまたがっていた。側方アプローチによる腫瘍全摘出術を行った。腫瘍は頬骨蝶形骨縫合部の骨欠損孔から眼窩内に連続していた。骨縫合部では骨膜と腫瘍の癒着が強く,剥離中に破嚢した。腫瘍は皮様嚢腫であった。眼窩内外にまたがる亜鈴型皮様嚢腫は側方アプローチのよい適応であるが,成人例では骨欠損部での骨膜との癒着が強固なので,術中の破嚢を避けることが必要である。

網膜芽細胞腫におけるtransforming growth factor—β受容体Ⅰ型レセプターの蛋白質レベルでの発現

著者: 辻英貴 ,   堀江公仁子 ,   小島孚允 ,   兼子耕 ,   山下英俊 ,   加藤聡

ページ範囲:P.1274 - P.1276

 Rb遺伝子の異常は網膜芽細胞腫の原因と考えられるが,網膜芽細胞腫細胞はTGF—βによる増殖抑制が効かず,それが悪性化のさらなる一因と考えられている。そのメカニズムを検討するためTGF—βI型受容体(TGFβRI)の蛋白質レベルでの発現を網膜芽細胞腫摘出眼8眼のパラフィン標本を用いて免疫組織学的に観察した。7眼ではTGFβRIは発現がみられなかった。未分化型の1眼の腫瘍内の血管周囲にTGFβRIの発現がみられ,腫瘍内の分化・成熟過程において異なったTGF—β受容体(TGFβR)の発現を示す可能性が考えられた。TGFβRIの発現低下が腫瘍のTGF—βに対する感受性低下に関与する可能性が推定された。

伐採中の竹による眼球破裂の1例

著者: 小林武史 ,   尾崎弘明 ,   大里正彦 ,   加藤整 ,   小沢昌彦

ページ範囲:P.1277 - P.1279

 46歳女性が竹を伐採中に,しなった竹が左眼にあたり,即日受診した。強膜裂傷と硝子体脱出があった。強膜異物を除去し,鼻側の輪部から内直筋付着部後方に至る長さ9mmの裂傷を縫合し,強膜輪状締結を行った。残存する脈絡膜血腫と硝子体出血に対し,2週後に硝子体手術,脈絡膜血腫排出,水晶体切除,空気灌流,SF6ガス注入を行った。左眼矯正視力は0.3に改善し,良好な結果を得た。植物による外傷としては異例の高度な眼球障害であったが,早期の適切な加療で,眼組織の障害を最小限に抑え,視機能の維持ができた。

涙嚢部に原発した血管周皮腫の1例

著者: 近藤仁美 ,   安積淳 ,   井上正則 ,   根木昭 ,   南利江子 ,   大林千穂

ページ範囲:P.1281 - P.1284

 75歳女性が左側涙嚢部の腫脹で受診した。コンピュータ断層撮影で,境界明瞭で内容均一な涙嚢部腫瘤と,骨破壊を伴わない涙窩の拡大があった。慢性涙嚢炎と診断し,予定術式として涙嚢鼻腔吻合術を開始した。術中に腫瘍性病変が疑われ,涙嚢を切開したところ充実性であり,術式を腫瘍摘出術に変更した。術後の病理診断で血管周皮腫と診断された。切除した断端が腫瘍陽性であったため,残余腫瘍に対して放射線照射を追加した。以後1年間,再発はない。涙嚢に血管周皮腫が原発することは稀有であるが,術前の鑑別診断は慎重に行うべきである。

長期に眼内鉄片異物が存存したが網膜機能が良好であった眼鉄錆症の1例

著者: 原田行規 ,   伊比健児 ,   広瀬直文 ,   田原昭彦 ,   松野康二 ,   横田健司

ページ範囲:P.1285 - P.1289

 62歳男性が右眼の視力低下で受診した。37年前に鉄板を切断中に異物が右眼に当たった既往があった。前医で高眼圧に対する点眼を受けていた。右眼視力は0.01で,白内障,虹彩と隅角の色素増加があった。CTで毛様体扁平部に異物があり,摘出した。異物の周囲に被膜はなかった。異物の組成は95%以上が鉄であり,前房水に鉄イオンの増加と,虹彩に鉄成分の沈着があった。白内障手術後の視力は1.5で,眼底の色調は正常であり,網膜電図に異常はなかった。鉄性異物が被膜で覆われていなくても,長期間網膜機能が良好であり得ることを示す症例である。

続発緑内障,網膜出血を伴った慢性関節リウマチの1例

著者: 小山玲子 ,   杉山哲也 ,   奥野高司 ,   清水一弘 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1290 - P.1294

 69歳女性が両眼の充血と霧視で受診した。高血圧,脳底動脈狭窄症,心筋梗塞,慢性関節リウマチの既往があった。両眼に眼圧上昇があり,強膜炎による続発緑内障と推定した。両眼に網膜出血があった。ステロイド薬点眼で眼圧と眼底所見は正常化した。レーザースペックル法で,治療前に網脈絡膜の血流低下と治療後の血流増加が認められ,強膜炎の治療効果の指標として有用であった。

ロービジョンケアに適したQOL評価表の試作

著者: 西脇友紀 ,   田中恵津子 ,   小田浩一 ,   岡田アナベルあやめ ,   樋田哲夫 ,   藤原隆明

ページ範囲:P.1295 - P.1300

 視機能の低下は,視覚を使用する行動を困難にし,quality Of life (生活の質:QOL)の低下をもたらす。ロービジョン(LV)ケアの目的は,患者の低下したQOLの向上であり,ケア開始時のQOL評価はケアの選択に重要である。今回,当院のLV外来通院患者のニーズ調査,およびそれに対して実施したケア内容についての調査を行った。また既存のQOL評価表について,当院でのLVケアにおける有用性を検討した。それらの結果を基に,LVケアに適した評価表として必要な要素を検討し,時間制限のある外来で適切なケアを,組織的かつ効率よく行うためのQOL評価表を試作した。

ロービジョン者の日常生活評価

著者: 宮崎茂雄 ,   谷藤真弓 ,   長浜綾 ,   菊入昭 ,   田淵昭雄

ページ範囲:P.1301 - P.1305

 ロービジョン外来に登録されている245名を対象に,視覚に関する日常生活の実態についてアンケート調査を行った。106名(43%)から回答が得られた。能力障害の程度の評価とロービジョンケアが必要な事項を明確にするなど,目的を意識してアンケート項目を設定することが必要であると考えられた。また,ロービジョン者の日常生活様式や年齢を考慮することも重要であった。残存視機能の評価には「視能率」が有用であった。ロービジョン者へのアンケート調査では,その目的に応じて,妥当性のある質問項目を設定することが必要である。

連載 今月の話題

分子生物学からみた網膜色素上皮の病態

著者: 緒方奈保子

ページ範囲:P.1037 - P.1043

 網膜色素上皮は血液網膜柵を形成し,脈絡膜,感覚網膜との相互作用を有している。生理的状態では分裂,増殖しないが,いったん病的状態におかれると,盛んに増殖して多くのサイトカインや生理活性物質を産生する。この網膜色素上皮の機能を理解することは,網膜の生理を知るだけでなく,眼内における神経保護,細胞増殖,血管新生をはじめ,多くの疾患の病態の解明と治療に重要である。

眼の遺伝病・22

XLRS1遺伝子異常と網膜分離症(1)

著者: 和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.1044 - P.1046

 網膜分離症は,表現型の多様性に富む疾患であり,ときに診断に困ることが多い。XLRS1遺伝子が網膜分離症の原因遺伝子と報告されて以来,網膜分離症の診断には,眼底検査,網膜電位図に並んで,この遺伝子の検索が大きな役割を果たしてきている1,2)
 今回はXLRS1遺伝子のArg102Trp変異を伴った網膜分離症の1家系を紹介する。

眼科手術のテクニック

白内障手術時における虹彩脱出とレンズグライドの利用

著者: 稲見達也 ,   高瀬正郎 ,   矢那瀬淳一 ,   栗原秀行

ページ範囲:P.1050 - P.1052

はじめに
 現在における白内障手術の中心である超音波乳化吸引術と眼内レンズ(intraocular lens:IOL)挿入術の術中の合併症は多岐にわたるが,なかでも超音波チップなどの手術器具やIOLの挿入時に伴う虹彩損傷は比較的発生頻度が高く,術後の虹彩萎縮の原因となることも多い。
 レンズグライドは1978年にSheetsら1)によって考按され,sheets glideとも呼ばれる。当時のものは長さ2.0cm,幅4.5mm,厚さ0.3mmの弾性プラスチック製で,前房レンズ挿入時のiris tugや,脱出硝子体の前房レンズや創口への嵌頓を防止するのに有用であったが,前房レンズの挿入自体が極めて稀なものとなった現在においては,レンズグライドの使用機会も少なくなっている。

あのころ あのとき・6

前房隅角図譜

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.1054 - P.1055

 1964年(昭和39年)の7月に東大眼科の講師になった。鹿野信一先生がこの年の4月に東大教授に就任され,このお話をいただいた。1958年(昭和33年)の入局なので,医局の7年生になってすぐの時期である。
 臨床の教授になると,出版社が押し寄せてきて,「教科書を書いてください」という。たまたま南山堂がそのような目的で設営した席に一緒に招かれた。鹿野先生は江戸っ子らしく,いつもはっきりものを言われる。「お前たちは儲かる話しか持ってこないけれども,まず儲からない仕事をさせれば教科書を考えてもよい」と言われた。

他科との連携

腰は低く,胸は張って

著者: 竹林宏

ページ範囲:P.1316 - P.1317

 Impact factor全盛の時代,価値ある論文を有名な雑誌に載せることは,教授職という地位に昇るには不可欠に思えますが,毎日の仕事のなかで他科・他部門との連携を非常に完壁にこなせる医師は,周囲の人から重宝がられ,他科の医師からも信頼を受ける代わりに,雑用が多く苦労しがちな気もします。しかし,この教科書には載っていないスムーズな連携を行う技術は,患者さんに病状をわかりやすく説明し,やさしい気持ちで接することと同じくらい大切で,手術を短時間に上手に行うことや,学会でどんどん発表することより重要かもしれません。どんな社会でもお互いのコミュニケーションが肝心であり,私たちの職場ではそれが最近の頻発する医療事故の予防にもつながると思います。
 小規模な総合病院で勤務しているなら,総合医局で麻雀でもしながら他科の医師と仲よくなって気軽に頼みごとができますが,大学附属病院のように規模の大きい場所では,他科や他部門の医師,職員の名前は知っていても顔はわからなかったり,名前さえも知らないことがあったりして非常に困ります。眼科は特に「ギブ」するよりも「テイク」する機会が多い気がします。例えば,糖尿病の患者でなるべく早く白内障ないしは硝子体手術をしたいとき,血糖コントロール状況を十分把握しないまま入院させ,手術前日に内科へ「いつもお世話になります。○×の手術を明日予定しているDM患者ですが,術前のご高診ならびに留意点などがありましたらご教示ください」などともっともらしい手紙を書いたはいいけれど,内科医師から,“こんなコントロールの悪い患者を明日手術するから今からコントロールっけてくれと言われても困る!”と怒られたり,心臓の悪い患者を循環器内科と麻酔科に相談することなく局所麻酔下で白内障手術をしようとして怒られたりした経験はだいたいの人はあるでしょう(僕だけかな?すみません)。これらの例はこちらのミスであって,もっと事前に入院前の時点で正しい対処が必要ですが,どうしてもというときはやはりあるもので,眼科が他科に頼まれて「ギブ」するより「テイク」するほうが多いでしょう。

眼科医のための「医療過誤訴訟」入門・6

原田病ステロイド治療中の成人水痘による死亡事例

著者: 岩瀬光

ページ範囲:P.1323 - P.1325

問題の所在
 若い健康な男性が,眼底病変の軽度な「原田病」として総合病院に入院した。眼科医は,当然のように大量ステロイド点滴投与を開始した。視力は回復していったが,入院24日目の,まだステロイド減量中に,成人水痘を発症し患者さんは急死した。
 この事案で,眼科医の過失はどこにあるのか,過失を回避し患者さんの死亡という最悪の結果を避けるための幾つかの道筋はなかったのかを今回は検討していきたい。

今月の表紙

上眼瞼に寄生したダニ

著者: 加藤美千代 ,   根木昭

ページ範囲:P.1047 - P.1047

 症例は82歳の男性で,当院において両眼PEA+IOLの手術を行い,経過観察中の患者である。1999年9月に山仕事をした後,左上眼瞼部が膨脹し,同部位に径3mmの腫瘤様のものが認められ,痛みが生じてきたために受診した。腫瘤様のものはダニと判明したため,直ちに除去された。ダニは廃棄されたため,詳細は不明であるが,写真から,体幹後方にみられる切れ込み(花彩)があることからマダニ科のダニと考えられる。
 撮影はコーワ社製SC−6フォトスリットカメラを用い,条件は倍率25倍,拡散撮影にて行った。フィルムは,フジカラー400PROVIAを使用した。

臨床報告

眼窩偽腫瘍と網膜動脈分枝閉塞症を合併した全身性エリテマトーデスの1症例

著者: 竹下孝之 ,   中川陽一 ,   玉井信

ページ範囲:P.1327 - P.1330

 36歳男性に左眼の視力障害が突発し,ただちに受診した。6か月前から左眼腫脹があった。矯正視力は右1.5,左指数弁で,左眼に網膜動脈分枝閉塞症,眼球突出,眼球運動制限があった。磁気共鳴画像検査(MRI)で左眼の外眼筋と視神経の腫脹があり,眼窩偽腫瘍と診断した。プレドニゾロンの全身投与で,眼底所見と眼窩偽腫瘍の所見が軽快した。1年後に皮膚と血液所見から全身性エリテマトーデス(SLE)と診断された。SLEを背景とした眼窩偽腫瘍の経過中に閉塞性網膜血管病変が発症しうることを示す稀な例である。

前立腺癌に関連した傍新生物網膜症(paraneo-plastic retinopathy)と考えられた1症例

著者: 廣瀬美央 ,   小林博

ページ範囲:P.1331 - P.1336

 76歳男性が右眼の視力低下と夜盲で受診した。矯正視力は右0.6,左1.0であり,右眼視野に感度低下,左眼に中心暗点があった。眼底は正常であり,蛍光造影で網膜血管の透過性亢進が両眼にあった。網膜電図では,a波は維持され,b波が欠如していた。9か月後に視力は右0.02,左0.2に低下し,両眼に中心暗点と輪状暗点が検出された。初診から11か月後に前立腺癌が発見された。局所浸潤のみで転移はなく,内分泌療法と放射線照射で軽快した。以後,矯正視力は左右とも0.1を保っている。血清からはウシ網膜に反応する抗体は検出されなかったが,臨床症状から前立腺癌に関連する抗双極細胞抗体による傍新生物網膜症(paraneoplastic retinopathy)と推定した。

後天性免疫不全症候群に関連しないサイトメガロウイルス網膜炎の5例

著者: 鵜殿徹男 ,   阿部俊明 ,   佐藤雅美 ,   玉井信

ページ範囲:P.1337 - P.1343

 後天性免疫不全症候群(AIDS)に関連せず,典型的なサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎が両眼にある5症例を経験した。3例は内科的疾患に対してステロイド剤と免疫抑制剤を長期投与中であり,2例は悪性腫瘍に対して化学療法中であった。1例ではCMVが尿と咽頭から分離培養され,4例では前房水または硝子体からPCR法でCMVのDNAが検出された。4例ではガンシクロビルなどによる抗ウイルス療法と手術で網膜炎が消退し,以後の再発はなかった。1例では全身状態の悪化とともに網膜炎が他眼に発症して死亡した。非AIDS患者に発症したCMV網膜炎は,的確な診断と治療を行い,全身状態が安定していれば比較的良好な経過をとることを示す症候群である。

投薬量減量で改善し治療が継続可能となった重篤なインターフェロン網膜症の1例

著者: 粕谷貴生 ,   中島富美子 ,   杉浦毅 ,   加藤直也 ,   藤野雄次郎

ページ範囲:P.1344 - P.1350

 32歳男性の慢性C型肝炎患者に対し,インターフェロンβを600万単位(6MU)連日投与したところ,両眼眼底後極に多数の軟性白斑と網膜出血,左眼眼底に嚢胞様黄斑浮腫が出現し,矯正視力右眼0.7,左眼0.15に低下した。フルオレセイン蛍光眼底造影にて,軟性白斑に一致した低蛍光と網膜静脈からの著明な蛍光漏出がみられた。患者の強い希望のため投与を中止せず,投与量を3MU週2回投与に減量したところ,網膜症が改善し視力も両眼矯正視力1.0に回復した。減量後も約2か月間,C型肝炎ウイルス陰性が維持された。インターフェロン投与により重篤な視力障害をきたした場合でも,一律に投与を中止するのみでなく慎重な経過観察を行いながら,減量して投与を継続することも選択肢として考慮されるべきである。

カラー臨床報告

中心性漿液性脈絡網膜症様の症状を呈した脈絡膜色素性母斑の2症例

著者: 小林かおる ,   山田晴彦 ,   和田光正 ,   高橋寛二 ,   松村美代

ページ範囲:P.1057 - P.1061

 脈絡膜母斑に中心性漿液性脈絡網膜症に酷似する漿液性網膜剥離が黄斑部にある2眼2症例を経験した。1例は51歳男性,他の1例は34歳女性であった。脈絡膜母斑は低蛍光を呈した。網膜剥離の内部に蛍光色素の漏出があった。蛍光漏出点のある1例には,中心性漿液性脈絡網膜症に準じる弱い光凝固を行った。網膜剥離は消失したが,新しい漏出点が出現し,中心性漿液性脈絡網膜症よりも難治であった。これら2症例は,黄斑部の脈絡膜母斑に漿液性網膜剥離が併発し得ることを示している。脈絡膜母斑の診断にはインドシアニングリーン蛍光造影が有効であった。

第54回日本臨床眼科学専門別研究会2000.11.3東京

オキュラーサーフェス

著者: 大橋裕一

ページ範囲:P.1306 - P.1307

 専門別研究会「オキュラーサーフェス」は,11月3日(金)9時から12時まで東京国際フォーラムのホールDで開催された。今回,専門別研究会に初めての登場であったが,前半は眼科アレルギー研究会,後半はドライアイ研究会が盛況のうちに行われた。以下にその内容を要約して報告する。

眼科と東洋医学

著者: 竹田眞

ページ範囲:P.1308 - P.1309

 2000年の本会は,なるべく新しい先生の発表と新しい先生の司会をと考えました。このためか,例年にも増して活発な質議応答がされ,あっという間の3時間でした。
 第1席は,鬼怒川雄久先生が「眼瞼痙攣に著効を奏したツムラ抑肝散の使用経験」について発表されました。有効であり,副作用がなかったことを強調されました。加味迫遥散のほうが効くのではないか,抑肝散加陳皮羊夏との使い分けはどうか,などに質問,追加がありました。

眼先天異常

著者: 野呂充 ,   玉井信

ページ範囲:P.1310 - P.1312

1.著明な眼球突出を伴った頭蓋縫合早期癒合症の1例
 野呂 充・板橋俊隆(東北大);饗場 智・堺 武男(同小児科);吉田康子(同脳神経外科);鈴木洋一(同遺伝病);真田武彦・今井啓道(同形成外科)
 高度な眼球突出を伴った頭蓋縫合早期癒合症を,出生前から経過を詳細に追うことができ,またその治療法につき苦慮した経験を報告した。

色覚異常

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.1313 - P.1315

 一般演題8題についての報告があった。昨年度より懸案の用語の問題について話し合う時間を十分にとるため口演時間が長くなり過ぎないようにとのお願いが最初の演題の座長よりあった。また抄録の順番と異なり,演者が他の専門別研究会発表のため第3題は第7題の後に発表された。

やさしい目で きびしい目で・18

女性が医師であり続けるために

著者: 中泉裕子

ページ範囲:P.1319 - P.1319

 ある日のこと,女子学生が私の部屋にやってきた。「どうしたら女医としてずっと仕事を続けることができるのでしょうか」—これが彼女の質問であった。女性が生涯医師として仕事を続けるにはどうしたらよいのか,医局の女医群を見ながら,最近増えてきた女子学生を見ながら私自身常日頃よく考えることである。
 「お前,眼科医になれ」内科医であった父は近くに眼科がなく,不便を感じ,私にその役をさせようとしたわけである。結婚するとき父は夫となる人の前で「一生医者として続けさせてくれるなら許そう」そう言った。私は父のその一言を今でも鮮明に覚えている。そしてそのときは何げなく聞いていた私も,生涯医師として続けていきたいと思っている今,そう言ってくれた父にとても感謝している。外科医である夫は家の仕事,育児を手伝ってくれたわけではないが,主婦業をしない私に文句は言わなかった。しかし育児を一人でこなすのは大変であった。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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