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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科56巻12号

2002年11月発行

雑誌目次

特集 眼窩腫瘍

序説 眼窩腫瘍を特集するにあたって

著者: 水流忠彦

ページ範囲:P.1641 - P.1642

 眼窩疾患は,角結膜疾患や緑内障,白内障,あるいは網脈絡膜・硝子体疾患とは異なり,比較的頻度の低い疾患である。しかし,眼窩疾患は眼球突出,眼球偏位,複視,眼瞼下垂などの諸症状を引き起こすのみならず,診断や治療が遅れると重大な視機能障害を残したり,場合によっては患者の生命に危険を及ぼすこともある。その点では,頻度は低いとはいえ,眼窩疾患の重要性は他の眼疾患に勝るとも劣らぬのものがある。しかしながら,眼窩疾患の診療では他の眼疾患とは異なる診断法や治療法あるいは臨床経験が必要となる場合が多く,実際に患者を前にして診療に苦慮することが少なくない。
 眼窩疾患には,炎症性疾患,外傷,先天異常,内分泌性疾患,腫瘍性疾患などがあるが,本特集では眼窩腫瘍に的を絞ることにした。そこで,大西克尚先生には「眼窩腫瘍の疫学」を,八子恵子先生には「眼窩腫瘍の画像診断」を,辻 英貴先生には「眼窩腫瘍の保存的治療」を,安積 淳先生には「眼窩腫瘍の外科的治療」を,酒井成身先生には「眼窩腫瘍の形成外科」の各項目のご執筆をお願いした。

眼窩腫瘍の疫学

著者: 大西克尚

ページ範囲:P.1644 - P.1647

はじめに
 眼窩腫瘍の頻度は高くはないが,眼球突出,眼球偏位,複視,眼瞼下垂などを主訴として来院する患者はそれほど少なくはないので,鑑別疾患として眼窩腫瘍は常に念頭におく必要がある。その種類,頻度などを知っておくと診断に役立つ。また,眼窩腫瘍のなかには生命予後が悪い疾患もあり,早期に診断しなければならない。
 眼窩腫瘍が眼科で取り扱う腫瘍のなかでどの程度の頻度であるかは興味深い。米国の陸軍病理研究所(AFIP)の3,648例の眼部腫瘍のなかで眼窩腫瘍は396例(11%)であるが,これには涙腺腫瘍や視神経腫瘍は含まれていない(表1)。涙腺腫瘍53例,視神経腫瘍34例を含めると眼窩腫瘍の割合は眼部腫瘍のなかで13%になる1)。腫瘍の発生には地域差,人種差があるので,今回はわが国の報告で,1980年から2002年までのうち,調査期間が10年以上で病理組織診断が行われているものについて検討を加えた(表2)2〜13)

眼窩腫瘍の画像診断

著者: 八子恵子

ページ範囲:P.1650 - P.1656

はじめに
 眼窩腫瘍の存在を疑うことは容易であるが,それを確認するには画像診断が不可欠である。一方,近年の画像検査法の進歩は,検査時間の短縮で患者への負担を軽減するとともに,画像の質の向上で,診断や治療法の選択に重要な情報を提供している1,2)。眼窩腫瘍の診断に用いうる画像検査法はCTやMRIをはじめ数種類あるが,それぞれに特徴があり,目的に応じて施行する必要がある。適切な検査法の選択と読影が画像診断をより精度の高いものにする。

眼窩腫瘍の保存的治療

著者: 辻英貴

ページ範囲:P.1658 - P.1664

はじめに
 眼窩は眼球を収めている眼窩骨に囲まれた漏斗状のスペースで,前方の眼瞼とは眼窩隔膜により分けられる。眼窩内には涙腺など上皮性の組織や神経,血管,筋肉,脂肪などが存在する。腫瘍はこれらの組織から発生するが,そのほとんどは手術により摘出されるべきものであり,保存的治療の適応は限られてくる。また眼窩腫瘍の特徴として,同じ腫瘍でも他部位にできるものと比べて予後がよいことが多く(悪性リンパ腫,横紋筋肉腫など),また小児と成人では,発生しやすい腫瘍の種類が異なることが挙げられる。
 本稿では眼窩腫瘍の保存的治療の代表である放射線療法および化学療法について,まず両者の概説と,施行の際に眼科医としての留意すべき点を述べ,次に保存的治療の適応となる各眼窩腫瘍について述べていくこととする。

眼窩腫瘍の外科的治療

著者: 安積淳

ページ範囲:P.1666 - P.1673

はじめに
 コンピュータ断層撮影(CT)や核磁気共鳴画像(MRI)を始めとする画像診断技術の飛躍的な向上に伴い,眼窩腫瘍の術前診断はかなりの精度で行われるようになった。その結果を基に,眼窩腫瘍治療の次のステップとして,腫瘍の治療法を決定することになる。従来の観血的腫瘍摘出や放射線治療,化学療法に加えて,γナイフや重粒子線といったradiosurgeryの長足の進歩など,眼窩腫瘍治療の選択肢も多様化してきた。
 こうした一連の眼窩腫瘍治療において,眼窩腫瘍に対する外科的アプローチの意義は,1)腫瘍の根治をめざした腫瘍切除,2)画像診断と非観血的治療の間にあって病理学的確定診断を目的とした腫瘍生検,の2つに大別できる。本稿では,眼窩腫瘍の外科的治療を,全摘出を目的としたものに限らず,腫瘍生検を含めた観血的治療手段という観点から,腫瘍手術の実際をまとめる。

眼窩腫瘍と形成外科

著者: 酒井成身

ページ範囲:P.1674 - P.1680

はじめに
 眼窩部の腫瘍は眼窩と眼瞼に広がる腫瘍もあり,悪性腫瘍の切除後に眼窩部の形成を必要とすることが多い。眼球内容除去後や眼窩内容除去後は眼窩部が陥凹し,拘縮を起こし,結膜嚢が非常に小さく義眼を装着できない場合が多い。また義眼が装着できても,眼窩部全体が陥凹していて左右非対称の状態であれば,これらを修正する手術が必要となる。特に眼窩部の悪性腫瘍切除後に放射線治療がなされた場合は眼窩部の萎縮,瘢痕拘縮は著しい。
 幼少時に眼球摘出が行われた場合は義眼台や義眼を挿入しないで放置すると眼窩の発育は健常側に比して不良で,かつ小児期に成長とともに義眼を更新しなかった場合も更新がなされた例よりも成長は遅れ変形をきたす1)。したがって眼窩部腫瘍切除後は何らかの処置を施し義眼を装着できるようにし,また義眼装着部が左右対称となるように形成しなければならない。

「仙台緑内障セミナー21」聴衆参加型討諭会

21世紀の緑内障研究と治療法の展望

著者: 玉井信 ,   北澤克明 ,   谷原秀信 ,   岩瀬愛子 ,   山本哲也 ,   布施昇男 ,   中澤徹 ,   富田浩史

ページ範囲:P.1 - P.11

 本セミナーは,高齢化社会に向けて重視される緑内障の病態・診断・治療について,仙台緑内障セミナー21と興和株式会社により3年前に企画され,年2回のペースで計6回にわたり開催されてきた(別掲)。演者は緑内障診療および緑内障研究の第一線で活躍中の方々で,さらにこのセミナーに参加した医療関係者が勉強用資料として活用できるように,講演内容が記録として残されてきた。シリーズを終えるにあたり,第6回目のセミナーで講演を担当された先生方ならびに参加者により,「21世紀の緑内障研究と治療法の展望」と題して討論が行われた。

今月の表紙

虹彩分離症

著者: 相良健

ページ範囲:P.1657 - P.1657

 本症例は64歳男性にみられた虹彩分離症である。虹彩分離症は虹彩実質が前葉と後葉の2層に分離し,線維状になった前葉の断端が前房中に浮遊している状態をさす。虹彩萎縮の稀な一型で,本邦では20例ほどしか報告されていない。原因としては老人性虹彩萎縮に伴う変化,虹彩血管硬化による変化,外傷,先天梅毒などが示唆されている。発症は60歳以降で,両眼性が多い。虹彩萎縮をきたす疾患の鑑別としてICE症候群とAxenfeld-Rieger症候群が挙げられる。ICE症候群やAxenfeld-Rieger症候群は瞳孔偏位,孔形成あるいは角膜内皮異常などを伴い,若年時に見つかることが多く,虹彩分離症との鑑別は容易である。虹彩分離症の約半数が緑内障を合併するといわれており,眼圧に注意する必要がある。

やさしい目で きびしい目で・35

これからの希望として

著者: 西田朋美

ページ範囲:P.1683 - P.1683

 早くも今回の連載の最後となった。何を書こうかと迷ったが,今,私が患者さんと一緒に活動していることをご紹介できたらと思っている。
 ひとつには,2001年の春に私は共著で1冊の本を出版した。もしかしたらご存じの方もおられるかもしれない。主婦の友社からで『お父さんの失明は私が治してあげる』というタイトルである。3部構成になっており,父のベーチェット病と闘う半生記,私のこれまでの生い立ち,最後に大野教授のベーチェット病に関するわかりやすい解説となっている。私たち著者一同の共通の願いは,この本を通じてベーチェット病のことをもっと知ってほしいということだ。もしもご興味がある方がいらしたら,ぜひお読みいただけると幸いである。

連載 眼の遺伝病・39

FSCN2遺伝子異常と網膜変性(3)

著者: 和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.1691 - P.1693

 ひき続き,FSCN2遺伝子208delG変異を持つ網膜色素変性の家系を報告する。今回の報告は,家系内でもかなり表現型に多様性がある例である。
 筆者らは2001年に初めて208delG変異が常染色体優性網膜色素変性を起こすことを報告した。しかし症例報告として臨床像を詳細に示すのは,「眼の遺伝病」のFSCN2遺伝子異常と網膜変性(1)から(3)のシリーズが初めてである。網膜色素変性をスクリーニングする際に表現型からスクリーニングする1つの指標にもなると考えられるので,ぜひ参考にしていただきたい。

眼科手術のテクニック・153

ライトガイドを用いない白内障手術中の落下水晶体皮質および核片の除去法

著者: 門之園一明

ページ範囲:P.1696 - P.1697

はじめに
 白内障手術中の破嚢時に生じる合併症の1つに水晶体皮質および核の落下がある。皮質には抗原性があり,水晶体起因性ぶどう膜炎の原因となる。保存的治療の場合は,強い炎症を伴い高眼圧となることがあり,術後の消炎に苦労することが多い。また,飛紋症の原因ともなる。このため,残留水晶体皮質は放置せず,手術中にできるだけ除去することが望ましい。水晶体皮質および小核片の落下は,核落下と異なり,硝子体手術装置や液体パーフルオロカーボンを用いる必要がなく,前部硝子体カッターのみで除去が可能である。
 眼底を詳細に観察するには,通常,眼内照明(ライトガイド)が必要である。顕微鏡からの照明では,眼底観察のための入光量が少ないこと,すなわち反射光が多いため,眼底観察には不適であった。しかし,硝子体観察用多層膜コートレンズ(マルチコートレンズ)を用いると,眼底の観察が顕微鏡照明のみで可能となる。顕微鏡照明光の内部透過率が99%に上昇するからである。今回は,白内障手術装置に装備している前部硝子体カッターを用いた,二手法による水晶体皮質の除去にマルチコートレンズを用いた手術手技を紹介する。

あのころ あのとき・23

視神経炎の研究—生体の水の磁気共鳴(MR)へ

著者: 諫山義正

ページ範囲:P.1698 - P.1700

 神戸大学医学部眼科学教室は当時,神経眼科がテーマで,主としてし視神経疾患の臨床と研究が行われていた。私は,井街譲教授の宿題報告の手伝いが1957年に終ったころのことである。
 視神経炎は,欧米では脱髄疾患の一分症のことが多いが,日本では少ないといわれていた。しかし単発例でも臨床症状は同じと考えられている。初発臨床症状は,要約すると次のようになる。

他科との連携

「小さな協定」

著者: 赤木好男

ページ範囲:P.1728 - P.1730

 目を見て心がわかるかどうか知りませんが,眼科診察によって全身病や他科疾患が初めて発見されることは珍しくありません。両眼性の特徴的な網膜症が存在するため内科へ紹介し,初めて糖尿病が発見される症例,また乳頭周囲の白斑・出血や浮腫を観察しやはり内科に紹介して,初めて高血圧がわかった症例などはよくある話です。ここでは,あまり経験しないような症例を紹介します。

臨床報告

涙嚢に原発したB cell lymphomaの1例

著者: 秋澤尉子 ,   安澄健次郎 ,   島田典明 ,   田中明子

ページ範囲:P.1702 - P.1706

 40歳女性が8か月前からの右眼の流涙,眼脂,内眼角部の腫脹で受診した。他医で涙嚢炎として治療を受けていたが無効であった。右眼内眼角部に2cm大の無痛性腫瘤があり,内側眼瞼腱を越えて進展していた。通水試験では涙管に通過障害はなく,血性逆流はなかった。磁気共鳴画像検査(MRDで涙嚢腫瘍があり,涙嚢摘出術を行った。病理組織学的に悪性であり,免疫染色検査はL−26陽性で,B cell lymphomaと診断された。末梢血には異常がなく,全身的にリンパ節の腫脹はなく,頸部・胸部・腹部のCT検査で涙嚢以外にはリンパ腫は検出されず,涙嚢に原発したと判断した。

新しいレーザードプラ装置による網膜血流の測定信頼度

著者: 北西久仁子 ,   張野正誉

ページ範囲:P.1707 - P.1711

 新しく開発されたレーザードプラ血流計(CLBF100,キヤノン)で健常者11名と糖尿病患者7名の血流速度を測定し,その信頼性を検討した。健常者6名(A群)では約30分の時間をかけて厳密に3回測定し,他の5名(B群)では測定時間を15分以内に短縮して3回測定し,網膜血管径,血流速度,血流量の変動係数を動静脈それぞれについて求め検討した。B群で動脈血流速度の変動係数が有意に小さく,他の要因には両群問に有意差がなかった。糖尿病患者群では,動脈血流速度,静脈血流速度,静脈血流量の変動係数がB群よりも有意に大きかった。網膜動静脈の血流量の変動係数の範囲は健常者では10〜14%,糖尿病患者では20〜23%にあった。この測定法は変化の小さな測定値を比較することには限界はあるが,臨床的な応用の可能性があると考えられた。

視覚障害をきたす原因疾患の推移

著者: 伊藤忠 ,   田村正人 ,   中沢満

ページ範囲:P.1713 - P.1718

 少なくとも片眼の視力が0.1未満である症例の頻度と具体像を,当科外来初診患者について検索した。1986年までの5年間をI群,2001年までの3年間をⅡ群として比較した。視覚障害の原因疾患では,両群とも糖尿病網膜症が最も多く,その頻度は1群で14.7%,Ⅱ群で20.4%であった。加齢黄斑変性症は,I群にはほとんどなく,Ⅱ群ではその第2位の9.2%に増加していた。老人性白内障は,I群では9.4%(第2位)であり,Ⅱ群では3.4%(第10位)に減少していた。両眼とも0.01以下の高度視覚障害の原因は,両群とも糖尿病網膜症が第1位であり,I群で23.1%,Ⅱ群で24.5%であった。

粘弾性物質注入に起因した術後眼内異物の1例

著者: 渡辺牧夫 ,   高見淳也 ,   上野脩幸

ページ範囲:P.1719 - P.1721

 84歳女性の両眼に白内障手術を行った。右眼手術には問題がなかった。左眼手術のときに前房に粘弾性物質を注入した際に無数の微細粒子が混入し,術後3日目には眼内レンズと後嚢の間隙に直径0.4mmの白色異物になった。この眼内異物の原因は,粘弾性物質の滅菌容器に潤滑剤として使われているシリコーンオイルであると判断された。術後の視力と静的視野に左右の差がないため,眼内異物はそのまま放置し,以後3か月間に問題は生じていない。このような眼内異物は今後も続発する可能性があり,白内障手術での新しい合併症として注意が望まれる。

小児白内障手術症例の検討

著者: 山田義久 ,   中泉裕子 ,   芹原清志 ,   阪本明子

ページ範囲:P.1723 - P.1727

 小児の白内障11例19眼に手術を行い,その長期経過を検索した。5歳以下の先天白内障7例12眼,6歳から15歳までのアトピー白内障3例6眼,9歳の外傷性白内障1眼であり,先天白内障5眼とその他の7眼には眼内レンズを挿入した。11眼(58%)で1.0以上の視力が得られた。角膜内皮細胞減少率は17.5%であり,両眼視機能もおおむね良好であった。眼球振盪2例,緑内障3眼,網膜剥離2眼,後嚢混濁17眼が主な合併症であった。術前に眼球振盪がない症例には眼内レンズ挿入術,眼鏡またはコンタクトレンズによる術後の屈折矯正,さらに必要があれば弱視訓練を行ったことが比較的多くの症例で良好な視力が得られたと判断される。

文庫の窓から

「布列私解剖図譜」とその附図

著者: 中泉行史 ,   中泉行弘 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1731 - P.1733

 「布列私解剖図譜」とその附図はフレスの解剖書(J.A.Fles:Han—dleiding Aot de stelselmatige beschrijvende ontleedkunde van den Mensch.Utrecht,1866)を大阪鎮臺病院医員の中欽哉(定勝)が訳述した翻訳書といわれている(小川鼎三)。
 本書は「布列私解剖図譜」と「布列私解剖図」2冊一組よりなり,ともに明治5年(1872)初夏新鐫の思々齋蔵版本である(図1,2)。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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