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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科56巻13号

2002年12月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

後発白内障

著者: 茨木信博

ページ範囲:P.1749 - P.1753

 この10年の間に,超音波白内障手術手技,眼内レンズなど白内障手術を取り巻く環境は急激に進歩した。しかし,白内障術後の最大の合併症である後発白内障については,術後に残存した水晶体上皮細胞が各種サイトカインにより筋線維芽細胞様細胞に形質転換するため,あるいは細胞増殖し線維細胞に分化する結果生ずること,臨床的にアクリソフが後発白内障の発症が少ないこと,トラニラストに後発白内障抑制効果が認められることなどが明らかになったが,いまだ完全には克服できていない状況である。本稿では,後発白内障の病態,混濁の定量化,手術的予防法,薬物による治療法について最近の報告を整理し解説する。

眼の遺伝病・40

FSCN2遺伝子異常とは?

著者: 和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.1754 - P.1755

 現在までに常染色体優性網膜色素変性の候補遺伝子は,われわれが報告したFSCN2遺伝子を含め,CRX, HPRP3, IMPDH1, NRL, PRPC8,PRPF31, RDS, RHO, ROM1, RP1,の11種類が報告されている。特にロドプシン遺伝子異常は欧米諸国では,常染色体優性網膜色素変性の20〜30%に認められ,その中でもPro23His変異が高頻度変異である。しかしながら,この結果は日本人の常染色体優性網膜色素変性の頻度とは大きく違い,日本で報告されたロドプシン遺伝子変異はGly106Arg, Asn15Ser, Glu181Lys, Thr17Met,Pro347Leu変異で,頻度は欧米諸国に比べてかなり低い。このように原因遺伝子異常に人種差があることに着目し,海外では原因遺伝子と報告されていないFSCN2遺伝子を用いてスクリーニングを開始し,208delG変異を確認した。

眼科手術のテクニック・153

脆弱チン小帯眼に対する手術法

著者: 三好輝行

ページ範囲:P.1757 - P.1759

はじめに
 白内障手術に残された最後の問題点はチン小帯脆弱例にあると思う。その症例のチン小帯がいつまでもつのか?水晶体嚢拡張リング1)を挿入して手術が無事終了した例の長期予後は?あやしい例は眼内レンズ(intraocular lens:IOL)をすべて毛様溝に縫着すればよいのか?これらの問いに完全に答えられる術者はいない。ここではチン小帯は脆弱であるものの,何とかIOLを縫着せずにすむと判断される例について述べてみる。

あのころ あのとき・24

あの時わたしは

著者: 中尾主一

ページ範囲:P.1760 - P.1761

 小学校,旧制中学校,旧制高校と軍国主義の強い熊本で育った私には,世界大戦の時ほど社会情勢に意外な印象を受けたことはなかった。世間一般には,武士道の精神を貫ぬこうと宣言されてはいたものの,必ずしも徹底しておらず,西欧の植民地主義と変わらない傾向があったことは否定できなかった。また軍国主義のため,科学的研究結果も,軍人の思うままに操られているのではないかと考えざるを得ない状況もあった。細かいことは後述の図書に記述しているので控えるが,当時の社会情勢は,東大受験をやめて阪大受験に変えた動機にも関係している。
 当時,戦地には行かずとも,内地においてでも人の生死には無関係ではなかった。ことに忘れられないのは,昭和20年3月の大阪大空襲の時のことである。当日は,病院の介護隊として2年生らが集まり,隣の電報局まで土煙の中を連絡に走らされた。ちょうど1キロメートルほど北に大阪駅があって,1トン爆弾が投下されたということで,負傷者が何十人となく運び込まれてきて,目の前で何人もの人々が亡くなっていった。なかでも忘れられないのは若い学生に付き添っていた父親の姿である。その学生の入学準備で大阪駅を通った時に爆弾投下に遭遇したらしく,父親の叫びが聞こえてきた。

他科との連携

急増する糖尿病患者の眼科診療

著者: 阿部春樹

ページ範囲:P.1794 - P.1795

 近年,欧米の先進諸国では,「糖尿病」が急増しており,それに伴い糖尿病網膜症を代表とする糖尿病眼合併症が失明原因の第1位となっています。また現在,本邦でも成人の失明原因の第1位は糖尿病網膜症です。1998年に発表された厚生省糖尿病実態調査によれば,本邦では約690万人の糖尿病患者がいると推定されています。これは実に40歳以上の成人10人に1人が糖尿病患者であることになります。さらに糖尿病の予備軍を含めますと,1,370万人と倍増し,その数は10年後には2,000万人を超えると推定されています。そして,その中で眼底に糖尿病による何らかの異常所見,すなわち糖尿病網膜症が認められる頻度は,糖尿病患者全体の約30〜60%と推定されています。
 またすでに1989年には,本邦の視覚障害者の失明原因は,糖尿病網膜症が約18%で第1位となりました。そして,現在でも糖尿病網膜症が成人の失明原因の第1位であることに変わりはありません。さらに近年,糖尿病の急増に伴い,糖尿病網膜症をはじめとするさまざまな眼合併症を有する患者が増加していますが,そのような患者は他にも高血圧,高脂血症,腎症,動脈硬化,冠動脈性心疾患,神経障害そして足壊疽などの全身の合併症を有することが多く,さまざまな合併症を合わせ持った糖尿病患者が増加しています。したがって,われわれ眼科医が糖尿病網膜症の経過を追跡したり治療するときには,その患者における網膜症以外の全身合併症の状態と血糖コントロールの状態を把握しておく必要があります。なぜならば,糖尿病網膜症のために視力障害が出現しているような患者では,すでに腎障害や神経障害,そして動脈硬化が出現している可能性が高いからです。さらに,腎障害を有する糖尿病患者の眼科的手術を行う際には,腎障害の程度により,点滴量やその内容,そして抗生剤の種類と量や投与法を変えなければならない場合が起こりえます。

今月の表紙

染色体転座t(3;14)(q27;q32)をもった結膜悪性リンパ腫

著者: 安積淳

ページ範囲:P.1764 - P.1764

 症例は,48歳男性。左の眼瞼腫脹を訴えて近医を受診したところ,結膜の悪性リンパ腫を疑うということで神戸大学眼科に紹介された。外来手術で結膜生検を行ったが,その際,病理組織検査に加えて遺伝子検査,フローサイトメトリー,染色体検査を行った。病理組織学的にはmarginal zone B cell lymphoma of mucosa associated lymphoid tissue type (MALTリンパ腫)と回答された。免疫グロブリン遺伝子の再構成は陽性で,フローサイトメトリーによる細胞表面マーカの検索でもCD5-,CD10-,CD20+,smIg-M+でsmIg-λが優位であり,病理診断をサポートする結果であった。しかし染色体検査では染色体転座t (3;14)(q27;q32)が認められた。
 この染色体転座は,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫や濾胞性リンパ腫にみられることが知られており,MALTリンパ腫での報告はない。この結果が病理診断に投げかける問題はさておき,臨床的には,本症例が一搬的な結膜のMALTリンパ腫とは異なる臨床経過をとる可能性が危惧される。

臨床報告

黄斑部網膜前出血をきたした網膜色素線条症の1例

著者: 土屋忠之 ,   福田紹平 ,   西村栄一 ,   貴嶋孝至 ,   稲富誠

ページ範囲:P.1781 - P.1785

 25歳男性が右眼視力障害を自覚し,その8日後に受診した。矯正視力は右0.15,左1.0であった。両眼の視神経乳頭周囲に網膜色素線条があり,右眼黄斑部に2.5乳頭径大の網膜前出血があった。3日後に出血の境界面にヤグレーザーを照射し,その後2回の追加を行った。初回照射から3週間後に網膜前出血はすべて消失し,1か月後に矯正視力が0.8に回復した。初診から2か月後に軽度の硝子体出血と網膜前出血が再発したが,11日後に視力は1.0に回復し,6週問後に網膜前出血はすべて消失した。以後1年以上経過した現在まで出血は起きていない。網膜色素線条に合併した網膜前出血に,ヤグレーザーによる後部硝子体膜と内境界膜切開が安全かつ有効であった1例である。

両眼開放による白内障手術—小型DVD液晶カラーテレビの応用

著者: 浅原智美 ,   浅原典郎 ,   武藤政春 ,   篠田陽子 ,   脇大悟

ページ範囲:P.1787 - P.1791

 白内障手術中の眼位を安定させる目的で,両眼を開放し,僚眼で小型DVD液晶カラーテレビ画面を固視させた。手術直前にテレビ画面を観賞させ、手術開始後にはこれを視標として用いた。この方法で61例61眼に白内障手術を行った。僚眼による画面固視により,55例(90%)で手術眼の眼位が安定し,手術操作が円滑に行うことができた。術前のテレビ画面観賞では,高血圧のない患者で血圧が安定した。この方法は,手術眼の眼位を安定させ,患者の不安と緊張を緩和し,安全に手術を行うために有効であった。

若年者増殖糖尿病網膜症の硝子体手術成績

著者: 向野利寛 ,   武末佳子

ページ範囲:P.1805 - P.1809

 40歳未満の増殖糖尿病網膜症16例24眼に行った3ボート硝子体手術の成績を検索した。11眼に輪状締結,16眼に水晶体切除を併用した。初回手術成功例は20眼(83.3%)であった。不成功の原因は,光凝固の追加で消失しない虹彩ルベオーシス2眼,術後14日以上持続する硝子体出血1眼,網膜再剥離1眼であった。これら4眼は再手術で成功した。最終視力は,0.1未満が1眼(4%),0.1〜0.4が5眼(21%),0.5以上が18眼(75%)であった。術後の経過観察期間(6か月から54か月,平均18か月)中に視力が低下した症例はなく,若年者でも良好な手術結果が得られた。

開放隅角緑内障におけるラタノプロストとウノプロストンの併用効果

著者: 相馬剛至 ,   木内良明 ,   福井佳苗 ,   林田康隆 ,   大西貴子 ,   石本一郎 ,   斉藤喜博

ページ範囲:P.1811 - P.1815

 ウノプロストンを1日2回点眼中の開放隅角緑内障患者23名23眼に対して,同じくプロスタグランジン系であるラタノプロストの1日1回点眼を追加した。平均4.4±2.0か月の両者の併用期間中に少なくとも眼圧を2回測定した後,ウノプロストンの点眼を中止した。ラタノプロスト追加前の眼圧は18.9±2.4mmHgであり,両者併用中の眼圧は15.0±2.3mmHgに下降した(p<0.01)。ウノプロストン点眼中止後の眼圧は15.1±2.4mmHgであった。今回の症例群では,ラタノプロストとウノプロストンの併用による眼圧下降への相加的効果は,ラタノプロスト単独点眼と有意差がなかった。

カラー臨床報告

縫合が可能であった高齢者の外傷性下直筋断裂

著者: 山尾信吾 ,   菅澤淳 ,   辻村総太 ,   清水一弘 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1767 - P.1771

 80歳女性が作業中にS字型の針金性フックで左眼を突き,即日来院した。左眼結膜は輪部下方で180°にわたって断裂し,左眼に高度の下転障害があり,上斜位を呈していた。ただちに手術を施行したが,下直筋の中枢側が発見できず,結膜縫合のみを行った。2日後の再手術でテノン嚢内の深部に下直筋の断端を発見し,末梢側の断端と3針縫合した。9日後に眼球運動障害は中等度に回復し,6週後には下方視での複視がほぼ消失した。外傷性外眼筋断裂では,断裂した筋の中枢側の断端を発見することが通常は困難である。本症例では,下直筋の中枢側の断端がLockwood靭帯のために後退しなかったことが,その発見と再縫合を可能にしたと考えた。

中心窩網膜剥離を合併した若年性網膜分離症の治療経験

著者: 池田史子 ,   吉田三紀 ,   岸章治

ページ範囲:P.1773 - P.1780

 黄斑網膜剥離が併発した若年性網膜分離症2例4眼に,硝子体腔へのガス注入を単独,または硝子体手術と併用して行った。1例は34歳女性で両眼に−7.5Dの近視があった。初診時の矯正視力は右0.5,左1.0であり,10年後に右0.1,左0.5になった。光干渉断層計(OCT)で,両眼の中心窩に網膜分離と黄斑網膜剥離が経過中に証明された。初診から11年後に,右眼にSF6ガスを注入した。6日後に視力は0.5に向上し,黄斑部の網膜分離は消失し,網膜剥離はほとんどなくなった。それまで中心窩に付着していた硝子体皮質は剥離した。左眼にはSF6ガスを2回注入した。黄斑部の網膜剥離は消失したが,中心窩の網膜内層が硝子体皮質とともに剥離し,分層円孔を経て全層円孔になった。視力は0.9に向上した。他の1例は26歳男性で,両眼に−3.5Dの近視があり,矯正視力は右0.3,左0.9であった。右眼に硝子体切除を行い30%SF6ガスで硝子体を置換した。視力は0.9に向上したが,黄斑萎縮が進み0.1になった。左眼は初診から7年後に網膜剥離が黄斑部に生じ,視力が0.5に低下した。右眼と同様な手術を行い,網膜剥離と分離はともに改善し,視力が0.8に向上した。両症例とも,中心窩の網膜分離と黄斑部の網膜剥離の発症に後部硝子体皮質の牽引が関与していることが推定された。

やさしい目で きびしい目で・36

はじめての出産

著者: 大野京子

ページ範囲:P.1797 - P.1797

 このエッセイのご依頼を頂いてから何について書こうか悩んでおりましたが,やはり私にとってこれまでの人生で最大のビッグイベントであった,「はじめての出産」について書きたいと思います。今年2002年2月28日,大安吉日の夕方5時に長女,京香(きょうか)を出産いたしました。女医にとって,いつ子供を出産するかというのは悩むところです。早い時期,研修医であるうちに出産してその後仕事に追いつくべきか,それともある程度キャリアを積んでから産むのか。私の場合は医師になって間もない頃は,公私ともにまだまだやりたいことがたくさんあったため,ある程度のキャリアを積んで30代前半で産もうと思っていました。しかしその後留学の機会を頂くなどして,当初の自分の予定からはずいぶんと日が経っていました。いわゆるマル高に入ってしまってどうしよう……と思っていた時期に,今回の妊娠が発覚したのです。まさにぎりぎりセーフの状態です。
 そんなこんなでバタバタの中で妊娠し,しかも妊娠中も夜遅くまで,土日もほぼフルに働いていたという過酷な状況のわりには妊娠経過は至って順調でした。しいていえばつわりがひどかったくらいです。外来診療中は吐きたくなると,「ちょっと失礼」といってトイレに駆け込むことができますが,大勢の学生相手の長時間の講義中では,途中退出はなかなかできません。吐き気を催しながらも何度も我慢して休み時間を待ってトイレに走るような状況でしたので,学生さんには迷惑をかけました。

文庫の窓から

「解剖摘要図」所載の眼の解剖図

著者: 中泉行史 ,   中泉行弘 ,   斎藤仁男

ページ範囲:P.1818 - P.1819

 解剖学の翻訳書として,松村矩明らの「解剖訓蒙」,「虞列伊氏解剖訓蒙図」が明治5(1872)年に大阪医学校官板として出版され,さらに明治9(1876)年に松村矩明,高木玄眞の「解剖摘要」(図1,2)が出版された。
 「解剖摘要」は米国ペンシルヴェニア学校教師,尼児(ニール)・私密斯(スミス)両氏合著で,1869年鏤行の七科撰述の中,解剖書を松村矩明が口述し,高木玄眞によって綴録し,明治9年6月に敬處堂(高木玄眞堂号)蔵版にて新刻された。

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臨床眼科 第56巻 総目次・物名索引・人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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