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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科56巻3号

2002年03月発行

雑誌目次

特集 第55回日本臨床眼科学会 講演集(1) 特別講演

角結膜疾患に対する最近の臨床

著者: 澤充

ページ範囲:P.229 - P.240

 角膜疾患の臨床の基本は細隙灯顕微鏡検査による所見と臨床経過の観察である。一方で細隙灯顕微鏡検査は定性的,主観的検査であるため複雑な病態の理解,診断には限界がある。したがって,細隙灯顕微鏡検査の限界を補完するためには病理学的手法や,補助的診断法の拡充が不可欠である。今回は角結膜上皮疾患に関して,角膜上皮障害定量化システムを含む日常診療での診断,検査法を中心に述べた。また以下の項目について述べた。
 1)アレルギー疾患について,涙液中の抗原特異的IgE抗体,eosinophil cationic proteinなどの診 断意義および眼局所免疫機構に関する動物モデル,局所減感作療法の可能性。
 2)感染症ではヘルペス感染症,STD(sexually transmitted disease)でのpolymerase chain reaction 法,蛍光抗体法などの抗原検出法による診断および治療効果判定への応用。さらに角膜潰瘍や免疫輪などの病態について動物モデルでの検討。
 3)角膜外傷のうち薬物火傷での早期の結膜・羊膜移植の有用性について,臨床例および動物実験による奏効機序についての検討。
 4)角膜ジストロフィでのβig-h3遺伝子を中心にした遺伝子異常と,臨床および病理学的異常の対比と症例の検討。

原著

Acute idiopathic blind spot enlargement syndrome(AIBSE)の1症例

著者: 板橋俊隆 ,   中川陽一 ,   玉井信

ページ範囲:P.241 - P.244

 33歳女性の左眼に,耳側視野欠損が1週間前に突発した。矯正視力は両眼とも1.5で,眼底には検眼鏡的に異常がなかった。左眼視野に盲点拡大があり,multifocal ERG (MERG)で左眼乳頭を含む領域に応答密度が低下していた。急性特発性盲点拡大症候群acute idiopathic blind spot enlargement syndrome (AIBSE)と診断し,プレドニゾロンの全身投与を開始した。発症の2週間後に盲点が縮小し,自覚症状が改善したが,MERGの応答密度には変化がなかった。本症候群の網月莫機能検査としてMERGが有用であった。

新しいパラメータを使用したNerve Fiber Analyzer GDxによる早期緑内障の検出力

著者: 八百枝潔 ,   白柏基宏 ,   船木繁雄 ,   中枝智子 ,   福島淳志 ,   船木治子 ,   阿部春樹

ページ範囲:P.245 - P.248

 Nerve Fiber Analyzer GDx (GDx)を使い,健常50例50眼と早期緑内障50例50眼での乳頭周囲網膜神経線維層厚(NFLT)を測定した。緑内障眼は,すべてハンフリー30-2閾値検査でのmean deviationが−5dB以上とした。パラメータとして,symmetry,superior ratio,inferior ratio,superior/nasal,max.modulation,ellipse modulationのほか,新規に導入されたnormalized sup.area,nor—malized inf.area,ellipse standard deviation,discriminant analysis,sector analysisの11項目を採用した。これらパラメータのいずれかが異常と判定されたときの緑内障診断の感度は86%,特異度は54%であった。新しいGDxパラメータを用いたNFLT測定は,早期緑内障の検出に有用である可能性がある。

ボツリヌス毒素製剤による眼瞼痙攣治療成績

著者: 三島一晃 ,   津田恭央 ,   出口裕子 ,   小川明日香 ,   林田裕彦 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.249 - P.252

 A型ボツリヌス毒素治療を眼瞼痙攣患者43名に行った。本態性眼瞼痙攣33例,Meige症候群10例のうち男性11名,女性32名であり,平均年齢は65.5±10.6歳であった。眼輪筋への注射は,眼瞼部5か所と下眼窩部1か所に行った。著明な改善が36例(84%)に得られ,再投与が必要になるまでの期間は平均6.8±3.3か月であった。格別の副作用はなかった。効果持続期間が既報よりも長かったのは,患者の環境と地域性によると考えた。以上の結果から,眼瞼痙攣にはボツリヌス毒素による治療が有効かつ安全であり,特に高齢者に対しては外科的治療よりも優先すると結論される。

地図状脈絡膜炎の赤外蛍光眼底造影像と治療経過

著者: 鈴木水音 ,   戸張幾生

ページ範囲:P.253 - P.257

 73歳女性が,10日前からの左眼霧視で受診した。初診時の矯正視力は右0.5,左0.03であった。乳頭周囲と後極部に網膜浮腫を伴う灰白色滲出病変が左眼にあり,地図状脈絡膜炎と診断した。右眼眼底は正常であり,フルオレセイン蛍光造影(FA)は正常であったが,インドシアニングリーン(ICG)赤外蛍光造影では脈絡膜に中・大血管の拡張と血管透過性亢進があった。その2週後に右眼視力が0.15に低下した。眼底に左眼と同様の病変があり,ICG造影で,病巣部内に造影早期から後期に至る低蛍光があった。12か月後に病変は沈静化した。ICG造影所見として,萎縮巣に低蛍光が残ったが,急性期にあった脈絡膜血管の変化は改善した。地図状脈絡膜炎では,前毛細血管部での脈絡膜動脈閉塞が原因とされているが,脈絡毛細血管板レベルでの循環不全が生じる前に,脈絡膜の中・大血管の異常があることが推定された。

涙嚢鼻腔吻合術における骨窓形状

著者: 浜津靖弘 ,   後藤恭孝 ,   佐野真理江 ,   田澤豊

ページ範囲:P.259 - P.263

 涙嚢鼻腔吻合術(DCR)において篩骨蜂巣への穿破を避ける骨窓の形状を検討するために,涙嚢窩と節骨蜂巣の位置関係を調べた。DCRの適応となった患者100例100側(男性28名,女性72名,45〜83歳,平均70.6歳)を対象に,眼窩のCT撮影をドイツ水平面に平行に行った。内眼角の高さとその5mm下方の高さとにおいて,涙嚢窩の前後径および前涙嚢稜から篩骨蜂巣前端までの長さを,それぞれ計測した。内眼角の高さでは涙嚢窩の前後径は7.9±1.0mm,前涙嚢稜から篩骨蜂巣前端までの長さは3.3±1.7mmであり,内眼角から5mm下方の高さでの各々の値は,8.3±1.1mm,5.4±2.6mmであった。篩骨蜂巣の前端は涙嚢窩の下方ほど後涙嚢稜寄りに位置し,骨窓の形成には後方へと広げる余地がある。

ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV—Ⅰ)ぶどう膜炎の併発白内障に対する手術成績

著者: 川口龍史 ,   高橋哲也 ,   田邊樹郎 ,   鮫島智一 ,   宮田和典 ,   望月學

ページ範囲:P.267 - P.270

(P−109) ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLV−1)ぶどう膜炎に併発した白内障,24名34眼の手術成績を検討した。男性4名,女性20名で,年齢は32歳から82歳,平均59歳であった。すべて術前の消炎期間が2か月以上のものとした。術式は超音波乳化吸引術27眼,計画的嚢外摘出術7眼で,眼内レンズは25眼に挿入した。視力は全例で改善し,術後視力は平均0.72±0.48であった。ぶどう膜炎が19眼(56%)で再発し,その時期は術後13.1±7.3か月であった。ぶどう膜炎の再発と術後視力に相関はなかった。HTLV−1ぶどう膜炎に併発した白内障には,術前に十分消炎が得られていれば,積極的に手術を行ってよいと結論される。

Forme fruste keratoconusに対するLASIKの結果と手術の可否

著者: 越智利行 ,   中山伊知郎 ,   中山典子 ,   吉田照宏

ページ範囲:P.271 - P.276

(p−97) 潜在型円錐角膜(forme fruste keratoconus)27眼に,屈折矯正手術を行った。手術方法は,レーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)2眼と,レーザー角膜内皮切削形成術(LASIK)25眼である。術後3か月から2年8か月までの最終裸眼視力は,1.0以上が21眼(78%)であった。長期予後を推定するために,潜在型円錐角膜13眼と単純近視眼12眼について,LASIK後の角膜後面の前方偏位量をスリットスキャン型角膜形状解析装置で測定した結果,LASIKを行った潜在型円錐角膜13眼での角膜後面は,近視眼12眼と比較して,有意に前方に偏位していた(p=0.01)。潜在型円錐角膜群では残存角膜量が少ないほど前方偏位量が大きく,矯正量と切除量が大きいほど角膜後面が前方に偏位していた。長期予後の上から,現時点では潜在型円錐角膜へのLASIKは積極的に行うべきではないと結論される。

網膜芽細胞腫に対する新しい化学療法(chemoreduction)の治療成績

著者: 敷島敬悟 ,   金子明博 ,   内山浩志 ,   加藤陽子 ,   柳澤隆昭 ,   湯坐有希 ,   北原健二

ページ範囲:P.277 - P.281

(290) 眼内網膜芽細胞腫8例12眼に対して化学療法(chemoreduction)を行った。両眼発症が7例,片眼発症が1例で,3例では片側の眼球摘出術がすでに行われていた。化学療法の開始時の年齢は2か月から2歳11か月で,Shieldsらの6コース法に準じ,vincristine,etoposide,carboplatinを投与した。眼底はReese-Ellsworth分類で評価し,治療開始時ではⅠとⅡが7眼,ⅢとⅣが2眼,Ⅴが2眼であり,硝子体出血のための評価不能1眼であった。効果判定は腫瘍の大きさとregression patternで行った。全例で腫瘍が縮小したが,多くは追加治療を必要とした。最終的に完全寛解が6眼で得られ,放射線外照射追力口が2眼,眼球摘出が3眼に行われた。Reese-Ellsworth分類Ⅴでは効果が弱く限界があったが,今回のchemoreductionは従来からの眼球保存療法の主体である放射線外照射に代わる有効な選択肢になると結論される。

眼窩先端部症候群として発症した眼窩真菌感染症の1例

著者: 楠原仙太郎 ,   山本博之 ,   安積淳 ,   根木昭

ページ範囲:P.283 - P.287

(P−340) 75歳女性が,5週間前からの右眼窩先端部症候群で紹介され受診した。1か月前から右三叉神経痛に対して副腎皮質ステロイド薬治療を受けていた。矯正視力は右眼0,左眼1.0であった。磁気共鳴画像検査(MRI)で,右後篩骨洞から眼窩先端部に浸潤性病変があり,真菌感染が疑われた。眼窩前方アプローチによる眼窩生検の結果は炎性偽腫瘍であった。抗真菌薬と副腎皮質ステロイド薬の全身投与と放射線照射で加療したが,初診から5か月後に左眼視力が消失した。経鼻的に篩骨洞と視神経管開放術を行い,右後篩骨洞に大量の真菌塊が発見され,アスペルギルスが同定された。手術の3週後に患者は真菌の脳内浸潤で死亡した。眼窩先端部症候群を呈する真菌症はしばしば致死的であり,診断と治療には他科との十分な連携が必要である。

膿疱性乾癬に網膜血管炎を合併した2例

著者: 大石賢嗣 ,   本田恭子 ,   佐藤文平 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.289 - P.291

(P−126) 46歳男性と25歳女性が,片眼霧視で受診した。両症例とも全身皮膚に小膿疱を伴う紅斑があり,皮膚科で膿疱性乾癬と診断されていた。両症例とも,霧視がある眼の視神経乳頭周辺に軟性白斑が散在していた。眼科的に無治療のまま,1例では約2週,他の1例では6週後に軟性白斑は消失した。軟性白斑の原因は,網膜血管炎による網膜血管の局所的閉塞であると推定した。膿疱性乾癬の症例では,定期的な眼底検査が望まれる。

中高年者における日常生活視力と矯正視力

著者: 野村秀樹 ,   浅野和子 ,   田辺直樹 ,   棚橋尚子 ,   安藤富士子 ,   新野直明 ,   下方浩史 ,   三宅養三

ページ範囲:P.293 - P.296

(P−140) 40歳以上の一般住民2,263名について,日常生活視力と5m矯正視力を測定した。日常生活視力は,通常使用している遠用眼鏡での視力と定義した。日常生活視力,矯正視力ともに高年齢群ほど低視力の割合が多かった(p<0.001)。日常生活視力が0.5未満の頻度は,40歳台8.6%,50歳台6.2%,60歳台7.5%,70歳台16.O%であり,矯正視力では,40歳台0%,50歳台0.5%,60歳台1.2%,70歳台5.6%であった。日常生活視力が0.5未満で矯正視力が0.5以上である頻度は,全体の7.7%であり,50・60歳台に比べ,70歳台で有意に多かった(p<0.05)。高齢者では適切な屈折矯正により日常の視力が改善される可能性があることを示す所見である。

眼窩腫瘍218例の臨床統計

著者: 後藤浩 ,   阿川哲也 ,   臼井正彦

ページ範囲:P.297 - P.301

(P−142) 1991年から2000年までの10年間に,東京医科大学病院眼科で眼窩腫瘍と診断された218例について,レトロスペクティブに検討した。眼窩腫瘍の頻度は同期間の眼科新患患者数の0.2%に相当した。片側性199例(91%),両側性19例(9%)で,両側性腫瘍のうち8例は炎性偽腫瘍,7例は悪性リンパ腫であった。全218例中,153例(70%)は良性,65例(30%)は悪性腫瘍であった。原発性腫瘍150例中,125例(83%)は良性で,主な疾患は炎性偽腫瘍41例血管腫13例,反応性リンパ組織過形成11例,神経原性腫瘍8例などであった。続発性腫瘍は68例中,副鼻腔嚢腫および術後性嚢胞が23例,副鼻腔悪性腫瘍が17例,転移性腫瘍が21例を占めた。今回の調査では過去の本邦の報告と比較して,悪性リンパ腫や転移性悪性腫瘍の占める割合が多かった。今後は画像診断検査や脳ドックなどの検診の普及に伴い,無症候性眼窩腫瘍の増加も予想される。

涙丘母斑から発生した乳頭腫

著者: 名和良晃 ,   植村佐知子 ,   川崎健輔 ,   中塚三恵子 ,   原嘉昭 ,  

ページ範囲:P.303 - P.305

(P−148) 57歳男性に,幼少時から涙丘の茶黒色塊が左眼にあり,2年前に異物感のあるブルーベリー様の赤色隆起が増大して,受診した。隆起の大きさは7×5×5mmで,鼻側が茶黒色,耳側が赤色であった。全摘した腫瘤は,病理学的には本来は上皮下母斑であり,これに乳頭腫が隣接して発生し,両者間に色素性母斑細胞が付属腺の過形成上皮を取り囲む部位があった。涙丘の上皮下母斑と乳頭腫が併発した稀な事例である。

甲状腺眼症へのtriamcinolone acetonide眼窩内局所投与の効果

著者: 赤塚俊文 ,   西村昌之 ,   田淵昭雄

ページ範囲:P.307 - P.311

(P−166) 甲状腺眼症に対して,懸濁糖質副腎皮質ホルモン剤であるトリアムシノロン(triamcinolone ace—tonide)の眼窩内注射療法の効果を検討した。症例は13例25眼で,眼症が無治療の群,副腎皮質ステロイド薬のみの群,ステロイドパルス療法と放射線照射群に分け,それぞれにトリアムシノロンの眼窩内注射を合計4回行った。自覚症状と他覚的所見を治療開始前と終了後3か月で評価した。眼瞼腫脹はほとんどの例で改善し,痛み,複視も軽減した。他覚的所見である眼球突出,眼球運動障害,外眼筋肥厚の顕著な改善はなかった。本治療による重篤な副作用はなかった。以上,トリアムシノロン注射で劇的な改善効果はなかったが,患者の満足は得られた。本薬剤は徐放薬で持続性があるので,ステロイド緑内障について注意が必要である。

灌流領域の異なる黄斑部に漿液性網膜剥離を併発した網膜静脈分枝閉塞症の1例

著者: 尾崎恵子 ,   中島久美子 ,   疋田春夫 ,   林英之

ページ範囲:P.313 - P.316

(P−245) 58歳男性が右眼の飛蚊症で受診した。矯正視力は左右眼とも1.0であった。左眼の乳頭下方に出血を伴う静脈の拡張と蛇行があり,黄斑を含まない網膜静脈分枝閉塞症と診断した。両眼とも小乳頭であり,視神経乳頭低形成の所見を呈した。初診から5週後に左眼矯正視力が0.15に低下した。眼底所見は初診時と同様であったが,黄斑部に網膜浮腫様の所見があり,網膜厚解析装置(RTA)で漿液性網膜剥離と同定された。プレドニゾロンの内服を行い,視力は4日後に0.5,5か月後に1.0に回復した。悪化1か月後に黄斑部の網膜剥離は改善し,2か月後に黄斑部の網膜厚は悪化以前のそれに回復した。本症例の黄斑部網膜剥離の原因として,網膜静脈閉塞症に好発する黄斑浮腫ないし漿液性網膜剥離とは異なり,視神経乳頭低形成による脈絡膜循環障害の関与が推定された。

被爆者の眼軸長

著者: 脇山はるみ ,   岸川泰宏 ,   今村直樹 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.317 - P.320

(P−339) 日赤長崎原爆病院眼科で過去4年間に白内障手術を受けた778名につき,被爆歴,眼軸長,屈折状態を病歴から検索した。すべて1945年以前の出生で,年齢は76.5±8.6歳であり,男性263名,女性515名であった。被爆歴は356名にあり,被爆歴のない422名は対照として扱った。白内障の型は,被爆者と対照群との間に差はなかった。強度近視は,被爆者11名(3.2%),対照群24名(6.0%)にあり,有意差はなかった(p=0.083)。被爆時に18歳以下で被爆距離が2km以内のものは24名であり,強度近視者はいなかった。眼軸長は,男女間,および被爆者と対照群との間に有意差はなかった。被爆者であっても放射線の影響がないと推定されるものがあり,個々についての被爆線量が不明なので,今回の検索結果は必ずしも確定的ではない。

光干渉断層計を用いた緑内障眼における視神経乳頭形状の解析

著者: 隈上武志 ,   齋藤了一 ,   木下明夫 ,   大谷信夫 ,   久保田伸 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.321 - P.324

(P−51) 開放隅角緑内障38眼で,乳頭陥凹の形状と視野変化の関係を検索した。乳頭形状の評価には光干渉断層形(OCT)を,視野測定にはHumphrey視野計のプログラム30-2を用い,各測定要素を回帰分析で解析した。乳頭の陥凹/直径比(C/D比)と,MD値とPSD値とには有意な相関があった(MD:r=0.328,p=0.0443,PSD:r=0.354,p=0.0294).乳頭の下掘れ部の直径/乳頭直径比(UD/D比)とMD値には相関がなく(r=0.196,p=0.2390),PSD値には有意な相関があった(r=0.342,p=0.0355)。乳頭の下掘れ部の直径/乳頭陥凹比(undermining index:UI)とMD値には相関がなく(r=0.092,p=0.5838),PSD値にも相関しなかった(r=0.073,p=0.6622)。以上,乳頭陥凹の下掘れ現象と視野には相関がなかったが,下掘れ現象を客観的に評価できる点でOCTは有用であった。

今月の表紙

犬回虫症

著者: 柳田哲司 ,   玉井信

ページ範囲:P.211 - P.211

 症例は,27歳女性。近医にて眼底出血を指摘され来院。上記疾患を疑い,検査および加療目的にて入院を勧めたが,自宅から当院が遠かったため自宅近くの総合病院を紹介し,受診し加療された。しかし,受診したとの病院からの返事はあったが,検査および加療結果についての返事がなく,上記疾患と確定できていないが,犬回虫症ではないかと思い写真展に応募した(眼底カメラ Kowa XV−3,画像ファイリングシステム VK−3)。
 写真展会場にて,眼底疾患に造詣の深い先生方に写真を見ていただき,犬回虫症も考えられるが,血管腫(retinal capillary haemangioma)ではないかとの指摘も受けた。

連載 今月の話題

ヴィスコカナロストミー

著者: 三宅三平

ページ範囲:P.213 - P.217

 最近,緑内障手術として線維柱帯部を穿孔させない非穿孔性手術や,これと深層強膜切除(deep sclerectomy)とを組み合わせた手術が注目されている1〜3)。今回述べるviscocanalostomyもこのような術式のひとつで,ここではその手術法と筆者の経験6)ならびに本法の長所と問題点について記載する。

眼の遺伝病・31

RP2遺伝子異常とは?

著者: 和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.218 - P.220

 X染色体劣性網膜色素変性は,常染色体優性,または常染色体劣性網膜色素変性に比べ重症なことが多く,30代から40代で失明することが多い。遺伝形式の頻度にも人種差があり,海外では網膜色素変性患者の20から30%をX染色体劣性網膜色素変性が占めると報告されているが,日本ではその頻度は2〜3%にすぎない。
 図1に,X染色体に現在までマップされているもの(黒),遺伝子まで単離されているもの(水色)を示す(2001年)。この図からもわかるようにRP2遺伝子のほか,現在遺伝子診断が大きな役割を果たしている若年性網膜分離症のXLRS1遺伝子,コロイデレミアのCHM遺伝子がある。

眼科手術のテクニック

分散性粘弾性物質を利用した白内障手術中の角膜乾燥防止法

著者: 高橋雄二 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.222 - P.224

はじめに
 ソフトシェルテクニック1)で知られるように,分散性の粘弾性物質であるヒアルロン酸ナトリウム/コンドロイチン硫酸ナトリウム(ビスコートTM)は前房内に注入した場合,超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsification and aspiration:PEA)時の灌流,吸引において角膜内皮から除去されにくい2)。このことから角膜上皮に塗布すれば,角膜上皮からも同様に除去されにくいことが推測される。この特性を利用すれば角膜の乾燥,混濁を防ぐことができる。すなわちビスコートTMを角膜に塗布して,角膜を一様に覆うのを確認してから白内障手術を行えば,手術の全経過を通して改めて角膜を湿らせなくとも,前房および水晶体の視認性を維持できる。この方法(以下,ウェットシェルテクニック)を用いて市立伊東市民病院眼科で耳側角膜切開にて白内障手術を施行したところ,好成績を上げることができた。
 従来,白内障の手術の際には助手に角膜に水をかけてもらわないと,角膜上皮が乾燥して水晶体の視認性が低下し(図1),手術がやりにくくなるのは白内障術者には周知のことである。助手との呼吸が合っていないと,水をかける間隔が長すぎて角膜が乾燥し水晶体が見えにくくなるし,あるいはかけすぎるとその行為自体が手術をする上で大変邪魔になる。助手が水かけをするには手術顕微鏡下での作業に慣れるなど,ある程度熟練が必要である。

あのころ あのとき・15

糖尿病網膜症の研究(2)

著者: 福田雅俊

ページ範囲:P.225 - P.227

 私が糖尿病網膜症の診療を手掛けるようになったのは,東大の眼科学教室に呼び返されて(昭和35年11月),徳田久弥先生(外来医長・講師)と一緒に仕事をするようになってからである。私は病棟医長・講師であった。やがて徳田先生は請われて,熊本大学眼科学教室の助教授に赴任されることになった。昭和36年7月のある日,徳田先生にある食事会に出席するように言われた。
 病院内のその会に出てみると「徳田先生送別会」で,主催は東大沖中内科糖尿病専門外来であった。一応の挨拶が外来の主任の内科講師や徳田先生からあって「私の後は,そこにおります福田君が担当しますのでご心配なく」と結ばれたのには驚いた。徳田先生も苦慮された結果なのだろう,有無を言わさず後を引き受けさせられた。徳田先生は最初沖中内科に入局され,何か事情があって1年後東大分院の眼科へ転向されたという経緯のあった方で,その関係で本院に来られてからは,同外来所属の糖尿病患者の眼底検査を一括して担当しておられたらしい。

他科との連携

私たちの経験

著者: 東佑美 ,   岸岡浩之

ページ範囲:P.332 - P.333

1.未熟さを実感した入局したての頃
 東 佑美
 私が入局してまだ数か月のある日のこと,オーベンが学会出席のため,入院患者を託されました。
 その中のひとりに,白内障術後経過良好で,明日退院を控えている患者さんがいました。

やさしい目で きびしい目で・27

視力を測っている場合ではない?!

著者: 石岡みさき

ページ範囲:P.327 - P.327

 先日,調剤薬局の人から「なんでそちらは視力を測るんですか?」と聞かれ,「…眼科なんですけど」と答えたのですが,その人の話によると,この近辺では開業医は視力は測らないとのこと(これがどこまで事実なのかは不明ですが)。「そちらはとにかく検査が多くて料金が高くて困るという苦情をよく聞きますよ」とも言われてびっくり。うーん,本当にうちでの患者さんの負担は多いのかしら,と私は計算してみました。

臨床報告

視覚障害認定患者の実態調査—網膜硝子体外科医の立場からの検討

著者: 引地泰一 ,   藤尾直樹 ,   小笠原博宣 ,   廣川博之 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.341 - P.344

 視覚障害者の認定に至った患者の実態を,網膜硝子体外科医の立場から検討した。1995年から2000年の6年間に,旭川医科大学附属病院眼科において視覚障害者認定の申請を行った70例(男性31例,女性39例,平均年齢51歳)を対象とした。視覚障害の原因疾患は,糖尿病網膜症が22例(31%)と最も多く,以下,強度近視に伴う眼底病変が10例(14%),網膜色素変性が7例(10%),緑内障が5例(7%),角膜疾患,ぶどう膜炎,加齢黄斑変性,視神経疾患がそれぞれ4例(6%)であった。糖尿病網膜症22例のうち13例(60%)は少なくとも片眼に硝子体手術の既往があった。視覚障害の原因疾患は後眼部疾患が主であり,網膜硝子体疾患を精力的に治療してきた当施設としては,視覚障害者となる症例の減少を目指し,さらなる努力が必要であることを痛感した。

鈍的外傷による角膜内皮障害

著者: 井上賢治 ,   奥川加寿子 ,   大鹿哲郎 ,   天野史郎

ページ範囲:P.345 - P.349

 片眼の鈍的外傷による眼球打撲52症例を対象とし,鈍的外傷が角膜内皮に及ぼす影響を検討した。受傷眼と健常他眼の角膜内皮細胞を,非接触型スペキュラーマイクロスコープを用いて測定した。角膜内皮障害の指標として角膜内皮細胞密度,変動係数,六角形細胞出現率を用いた。全症例での比較,あるいは受傷原因(交通事故,手拳,ボール)別や出現した臨床症状(前房内炎症,相対性求心性瞳孔反応欠損,網膜振盪症,眼窩骨折)別に比較した。全症例,受傷原因別,出現した臨床症状別のすべてで,受傷眼と健常他眼の間に3つのパラメーターで有意差はみられなかった。角膜内皮は比較的軽傷の鈍的外傷による瞬間的な角膜の変形に対して安定であることが示唆される。

硝子体手術を施行した眼内鉄片異物症例の検討

著者: 坂元有至 ,   土居範仁 ,   中尾久美子 ,   上村昭典

ページ範囲:P.350 - P.354

 1994年から1999年の6年間に,硝子体手術を施行した眼内鉄片異物症例25例25眼(男性22例,女性3例)を対象に,術前の臨床所見,術後視力ならびに術後視力に影響する因子を調査した。受傷原因は草刈り機使用中が14眼(56%)と最も多かった。穿孔部位は,角膜が19眼(76%),強膜が6眼(24%)で,異物の所在は網膜が21眼(84%),硝子体内が4眼(16%)であった。術前合併症として白内障が18眼(72%),硝子体出血が16眼(64%)にみられた。術前視力0.01未満は15眼(60%)あったが,術後,13眼(52%)において1.0以上の視力を得た。術前視力,異物の大きさ,および術前の硝子体出血が術後視力の転帰に関係していた。

多施設におけるニプラジロール他剤併用投与による眼圧下降効果の検討

著者: 中川貴則 ,   高橋哲三 ,   田中彩絵 ,   荒木ひろ美 ,   武井歩 ,   由井あかり ,   橘信彦 ,   木村泰朗 ,   金井淳

ページ範囲:P.355 - P.360

 β遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,プロスタグランジン関連薬などの緑内障点眼薬を使用中で,さらに眼圧下降が必要な52症例88眼に,ニプラジロール点眼の追加または切り替えを行い,その効果を6施設でプロスペクティブに検討した。対象は開放隅角緑内障50眼,正常眼圧緑内障19眼,高眼圧症19眼である。ニプラジロール点眼前の眼圧は18.1±0.2mmHg (mean±SD),2または3か月投与後の眼圧は16.8±0.3mmHgであり、有意に低下した(p<0.001)。眼圧下降効果は,β遮断薬単剤点眼からの切り替えのとき最も顕著で,切り替え前18.4±0.4mmHg,切り替え後16.8±0.3mmHgであった(p<0.001)。脈拍数,血圧,涙液量については,切り替え前後で有意差はなかった。

偽黄斑円孔手術における内境界膜剥離

著者: 熊谷和之 ,   荻野誠周 ,   出水誠二 ,   渥美一成 ,   栗原秀行 ,   石郷岡均

ページ範囲:P.361 - P.367

 偽黄斑円孔手術における内境界膜剥離の影響を検討した。同一術者が行った偽黄斑円孔手術の99例105眼を対象とした。男性30例33眼,女性69例72眼,年齢は39〜85歳,平均66歳であった。内境界膜剥離群75眼と非剥離群30眼に分け,偽黄斑円孔消失率,術後の黄斑円孔発生率および視力成績を比較した。偽黄斑円孔消失率は内境界膜剥離群が87%,非剥離群が20%(p<0.0001),黄斑円孔発生率は内境界膜剥離群が11%,非剥離群が7%(p=0.53)であった。術後視力は2群とも有意に改善した。術後平均視力は内境界膜剥離群が0.92,非剥離群が0.84(p=0.14)であった。偽黄斑円孔手術における内境界膜剥離は偽黄斑円孔所見を改善するが,視力成績には有効ではなく,黄斑円孔の発生率を高くする。内境界膜剥離は避けるべきかもしれない。

カラー臨床報告

もやもや病の9歳女児にみられた脈絡膜骨腫の1例

著者: 牧野伸二 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.335 - P.340

 9歳女児が1週間前からと推定される右眼視力低下で受診した。矯正視力は右0.3,左1.2であった。右眼底に,視神経乳頭から黄斑部に至る4乳頭径大の黄白色のわずかな隆起があり,辺縁は不整であった。腫瘤部の網脈絡膜に萎縮と網膜下出血があった。以前から存在した脈絡膜骨腫に新生血管が合併し,網膜下出血のために視力が低下したものと判断した。右眼に視神経乳頭陥凹の拡大があり,脈絡膜骨腫の影響があると推定した。左眼は正常であった。1歳時に左片麻痺があり,もやもや病と診断されていた。もやもや病と脈絡膜骨腫とは偶然に発症した可能性が高いと考えた。

第55回日本臨床眼科学会専門別研究会2001.10.11京都

「画像診断」印象記

著者: 中尾雄三

ページ範囲:P.368 - P.369

 今年も本研究会は大変な盛会となり,各種の眼科疾患の診断に超音波,CT-scan,MRIなどの画像検査法を応用し,疾患の原因,発生機序,病態に向かっての検討と興味ある新知見が発表された。いずれも臨床的な意義の深い内容ばかりであった。世話人指名講演は,三次元超音波断層撮影についてであった。また超音波眼科用語の試案については,教育的な意義もあるため特別討議の場を設け,議論していただいた。今回も各セッションを担当された座長に口演と講演の印象を語っていただいた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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