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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科56巻4号

2002年04月発行

雑誌目次

特集 第55回日本臨床眼科学会 講演集(2) 原著

加齢黄斑変性に対する黄斑移動術

著者: 武田哲郎 ,   宗今日子 ,   大庭啓介 ,   津田恭央 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.409 - P.413

 過去19か月間に黄斑移動術を加齢黄斑変性25例25眼に対して行った。男性17例,女性8例で,年齢は59歳から88歳,平均74歳であった。中心窩下脈絡膜新生血管の大きさは0.5乳頭径から3乳頭径,平均1.4±1.6乳頭径であった。有水晶体眼には,超音波乳化吸引術を施行した。術後視力は,2段階以上の改善が8眼(32%),不変9眼(36%),悪化8眼(32%)であった。術前視力,術後視力,網膜循環時間の相互間には有意の相関がなかった。回旋複視10眼以外の重篤な術後合併症として,裂孔原性網膜剥離が3眼に生じ,うち1眼は増殖性硝子体網膜症になった。これら3眼には追加手術を必要とした。黄斑移動術により,3乳頭径以内の中心窩下脈絡膜新生血管に対して視力改善が期待できると結論される。

周辺部網膜冷凍凝固術が有効であった血管新生緑内障の5症例

著者: 山中修 ,   雑賀司珠也 ,   岡田由香 ,   加藤格 ,   林佑子 ,   石田為久 ,   大西克尚

ページ範囲:P.415 - P.418

 発症から6か月以内の血管新生緑内障5眼に網膜冷凍凝固術を施行した。可能な限りの汎網膜光凝固が全例ですでに行われていた。年齢は55歳から78歳であり,すべて片眼性で,原因疾患は糖尿病網膜症4眼,網膜動脈分枝閉塞症1眼であった。4眼で隅角は開放でルベオーシスがあり,1眼では前房出血などで観察不能であった。経結膜的に,輪部から12mm以上後方に2ないし3列の冷凍凝固を全周に施行した。全例で5日から14日で新生血管が消退または減少し,眼圧は全例で点眼薬併用または無併用で20mmHg以下になった。汎網膜光凝固が奏効しない比較的発症早期の血管新生緑内障に対して,網膜冷凍凝固術は有効な治療の選択肢の1つであると結論される。

近視性新生血管黄斑症の中心窩移動術の手術成績

著者: 津田恭央 ,   森彩乃 ,   武田哲郎 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.419 - P.422

 過去16か月間に行った近視性新生血管黄斑症6例6眼に対する中心窩移動術の成績を検索した。男性2例,女性4例であり,年齢は47歳から69歳,平均54歳である。中心窩の平均回転角度は10.5度である。393日から663日,平均508日の術後観察期間で,矯正視力は5眼で改善し,2段階以上が3眼(50%),4段階以上が2眼(33%)であった。1眼(17%)で手術19か月後に新生血管が再発した。唯一の術中合併症として,1眼でパーフルオロカーボンが網膜下に迷入したが,増殖性硝子体網膜症などには至らなかった。近視性新生血管黄斑症に対する中心窩移動術は安全かつ有用であると結論される。

原田病予後不良例の臨床的検討

著者: 四方歩 ,   太田浩一 ,   朱さゆり ,   吉村長久

ページ範囲:P.423 - P.425

過去7年間の新鮮な原田病自検例23例を検索した。最終視力との関連で統計学的に解析した項目は,年齢,病型,虹彩炎の程度,髄液細胞数と蛋白濃度,黄斑剥離の持続期間,治療法,副腎皮質ステロイド薬の総量,遷延化,眼合併症である。1.0以上の最終視力が18例36眼(78%)で得られ,0.2未満が3例5眼(11%)であった。片眼視力が0.5以下の5症例を転帰不良群と定義した。転帰不良群中4例が70歳以上で,平均年齢は転帰良好群に比べて有意に高かった(p<0.05)。黄斑剥離の持続期間は,転帰良好群で14.1±2.6日,不良群で34.4±3.9日であった。白内障と緑内障とは最終視力に影響せず,漿液性網膜剥離以外の眼合併症が転帰不良群に多かった。以上のように,原田病の視力転帰不良に関係する因子は,高齢,30日以上の黄斑剥離の持続,眼合併症であった

多剤併用中の原発開放隅角緑内障患者におけるラタノプロストによる薬剤数の減少効果

著者: 松本宗明 ,   木村貞美 ,   洪里卓志 ,   疋田康子

ページ範囲:P.426 - P.428

 複数の点眼薬を使用中の原発開放隅角緑内障11例21眼にラタノプロスト点眼を行った。2剤を使用中の10眼をラタノプロスト単独点眼としたとき,眼圧が変更前20.2±1.4mmHg,変更後17.5±4.9mmHgとなり,有意に下降した(p=0.04)。3剤を使用中の11眼をラタノプロストとβ遮断薬の2剤併用にしたとき,眼圧が変更前17.2±2.8mmHg,変更後17.2±4.0mmHgとなり,有意差がなかった。使用する点眼薬数を減らしても,それ以前と同等以上の眼圧下降が得られ,コンプライアンス向上に寄与したと評価される。

濾過胞穿孔例にsuture canalizationを下方に施行した1例

著者: 滝沢寛重 ,   高橋現一郎 ,   佐野雄太 ,   小池健 ,   青木容子 ,   中野匡 ,   北原健二

ページ範囲:P.429 - P.432

 38歳女性が右流涙で受診した。20歳で緑内障と診断され,22歳のとき両眼に線維柱帯切開術,26歳のとき左眼線維柱帯切除術,30歳のとき右眼に5—フルオロウラシル併用の線維柱帯切除術を受けた。右眼上方に強膜と結膜創の穿孔があり,浅前房であった。結膜被覆術を行ったが眼圧がコントロール不良になった。5か月後に,超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術,下耳側にsuture canali—zationを施行した。以後12か月間,眼圧はコントロールされ、重篤な合併症は生じていない。濾過胞を作らないsuture canalizationは線維柱帯切除術と同様な眼圧下降効果が得られ,下方輪部に行っても安全で有効であった症例である。

ハイドロジェル眼内レンズ挿入眼の後嚢混濁の変化.第2報

著者: 中村昌弘 ,   梶原万祐子 ,   林振民 ,   小俣仁 ,   藤掛福美 ,   筑田眞

ページ範囲:P.433 - P.436

 両眼白内障患者の片眼にハイドロジェルIOL.他眼にアクリルソフトIOLを挿入し,12か月経過観察可能であった24例48眼の後嚢混濁の変化について比較検討した。後嚢混濁は前眼部画像解析装置EAS−1000を用いて,スリット像および徹照像を撮影し,後嚢混濁濃度(単位CCT:computer compatible tapes)を定量的に測定した。後嚢混濁濃度は、ハイドロジェルIOL挿入眼で術後1週11.9CCTに比べ,3か月16,7CCT,6か月18.8CCT,12か月23.5CCTと有意に増加していた。アクリルソフトIOL挿入眼では大きな変化はなかった。

種々の眼内レンズにおけるSRK/T式の精度

著者: 高良由紀子 ,   深井寛伸 ,   伊藤勇 ,   稲富誠 ,   小澤哲磨 ,   金子雅信

ページ範囲:P.437 - P.441

 434眼に3種類のいずれかの眼内レンズを挿入し,SRK/T式による予想屈折度と実際の術後屈折度の差を検討した。246眼にはアクリル眼内レンズ,87眼にはPMMAスリーピース眼内レンズ(メニコン),101眼にはPMMAスリーピース眼内レンズ(ORC)を用いた。等価球面度数に換算した予想と実際の屈折度の差を誤差と規定した。この3群それぞれの約80%で,誤差は±1D以内にあった。アクリル眼内レンズ群では,眼軸長が22mmから24.5mmの範囲の場合には84%,24.5mmから27mmの範囲の場合には100%で誤差が±1D以内であったが,眼軸が短い眼と度数が高い眼内レンズ挿入眼では予想屈折度の精度が低下した。また,眼軸長22mm未満の30眼では角膜径が小さいと精度が低下した。以上,今回の3種の眼内レンズについてSRK/T式は有用であるが,眼軸が短い眼,角膜径が小さい眼,度数が高い眼内レンズ挿入など,SRK/T式で考慮されていない要因が存在する可能性がある。

シリコーンオイル注入併用硝子体手術例における術後増殖膜発症要因

著者: 渡辺めぐみ ,   大庭啓介 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.443 - P.446

 シリコーンオイル注入を併用した硝子体手術後に発症する増殖性硝子体網膜症(PVR)の全身的,局所的要因を検討した。症例は,過去18か月間に手術を行った57眼,男性32例34眼,女性22例23眼で,平均年齢は60歳である。原疾患は,裂孔原性網膜剥離20眼,糖尿病網膜症15眼,加齢黄斑変性15眼,脈絡膜新生血管6眼,眼内炎1眼であった。PVRは17眼(30%)に生じ,他の40眼には生じなかった。PVR発症は,基礎疾患,年齢,性別など全身的要因のいずれとも相関せず,手術回数とシリコーンオイル貯留期問とも相関しなかったが,網膜冷凍凝固術の併用時には有意に多く,網膜剥離の範囲が1象限未満のときに有意に少なかった。PVRの発症が網膜冷凍凝固術と網膜剥離の範囲に関係するという以上の結果は,従来の報告と一致する。

過去5年間の内因性細菌性眼内炎の検討

著者: 藤関義人 ,   高橋寛二 ,   山田晴彦 ,   南部裕之 ,   西村哲哉 ,   松村美代

ページ範囲:P.447 - P.450

 過去5年間に内因性細菌性眼内炎7例7眼を当科で治療した。3例に糖尿病の既往があり,原発巣は肝膿瘍3例,足壊疽,歯肉炎,心臓弁膜症各1例などであった。クレブシエラが2例に検出された。3例で失明が回避でき,うち2例に硝子体手術,1例に薬物治療が行われた。発熱から抗生物質の点滴を開始するまでの期間は平均6日で,1週間以内に開始した5例中3例で失明が回避できた。糖尿病などの基礎疾患があり,肝膿瘍などで発熱を伴う眼症状が生じた場合には,内因性細菌性眼内炎を疑い,早急に対処すべきである。

外因性細菌性眼内炎の視力予後

著者: 嘉村由美 ,   佐藤幸裕 ,   霧生忍 ,   島田宏之 ,   澤充

ページ範囲:P.451 - P.454

 過去18年間に治療した外因性細菌性眼内炎45例45眼の視力転帰に関連する因子を検討した。眼内炎の原因は眼手術35眼と穿孔性外傷10眼である。硝子体手術を行った38眼では,初診時視力が手動弁以上の24眼に比べ,光覚弁の14眼で最終視力0.02以下が有意に多かった(p<0.01)。これら38眼では,白内障手術後に発症した19眼に比べ,これ以外による19眼で最終視力0.02以下が有意に多かった(p<0.03)。角膜混濁のために硝子体手術が不能な7例は,すべて発症時の視力が光覚弁,最終視力が0.02以下であった。以上,外因性細菌性眼内炎の視力転帰が不良である因子は,硝子体手術が不能,発症時視力が光覚弁,原因が白内障手術以外であると結論される。

アンホテリシンB硝子体内注入を併用した内因性真菌性眼内炎の3例

著者: 坂田典繁 ,   山本成径 ,   佐藤正樹 ,   本村幸子

ページ範囲:P.455 - P.459

 腹部外科手術後に高カロリー輸液療法を受けている3症例の両眼に真菌性眼内炎が発症した。全例にフルコナゾール全身投与を行ったが4眼で眼内炎が改善しなかった。フルコナゾール全身投与をさらに続行し,硝子体混濁が強い3眼に硝子体手術とアンホテリシンBの硝子体内注入,1眼にアンホテリシンBの硝子体内注入を行い,眼内病変が消退した。フルコナゾール全身投与に抵抗する内因性真菌性眼内炎に対して,アンホテリシンBの硝子体内注入の併用が奏効した症例群である。

パーソナルコンピュータによるフリッカー視野の自動測定

著者: 福原潤

ページ範囲:P.461 - P.465

 パーソナルコンピュータを用いるフリッカー自動視野計を開発した。視野中央の直径60度以内の59点での矩形波光に対する時間変調閾値を20Hzで測定できる。正常者256眼と高眼圧症眼にこれを応用した。フリッカー感度は中心から周辺に離れるにつれて低下し,高年齢者ほど低下した。Bracketingにtendency-oriented perimetry (TOP)の手法を加えたプログラムで,短時間での測定ができ,固視が安定し疲労が少なく,再現性のある結果が得られた。高眼圧症眼ではフリッカー感度の低下が鋭敏に検出された。本装置により短時間でフリッカー視野が測定でき,緑内障性視神経障害の早期検出が可能であり,明度識別自動視野と同様な臨床的価値がある。

マックスウェル視を用いたロービジョン用網膜投影装置の開発

著者: 白木邦彦 ,   安成隆治 ,   田淵仁志 ,   三木徳彦 ,   安東孝久 ,   中村肇 ,   山口成志 ,   志水英二

ページ範囲:P.466 - P.469

 空間光変調素子に表示された電子的映像を,ダイオードレーザー光を用いてマックスウェル視させることにより,焦点深度の深い明瞭な像を屈折異常に関係なく直接網膜上に呈示する網膜投影装置を視覚補助器として作製した。試作器では,屈折異常の矯正の有無にかかわらず像は明瞭に観察された。12例の偏心固視患者で読書拡大器として使用した場合,ヘッドマウントディスプレイ装置と比較して読書速度においては有意差はなかった。6例では網膜投影装置で文字の輪郭がより明瞭に見えた。装置の光軸を瞳孔領に合わせるのに時間がかかるが,視覚補助器として使用できる可能性がある。

特発性血小板減少性紫斑病に合併した急性網膜壊死の1例

著者: 三浦清子 ,   高井七重 ,   小林正人 ,   池田恒彦 ,   多田玲 ,   春田恭照

ページ範囲:P.470 - P.474

 50歳女性が右眼視野狭窄で受診した。16年前に全身性紅斑性狼瘡(SLE),4か月前に特発性血小板減少性紫斑病と診断され,以後,副腎皮質ステロイド薬の投与を受けている。初診時の右眼矯正視力は1.0で,虹彩毛様体炎,眼底に融合性の滲出斑,網膜血管炎があった。前房水から水痘・帯状ヘルペスウイルスDNAが検出され,急性網膜壊死と診断した。診断が確定するまでの3週間に滲出斑は急速に消退し,網膜壊死病巣は萎縮化して治癒した。免疫低下状態にあったにもかかわらず炎症が沈静化し,良好な経過をとった症例である。

眼瞼脂腺癌20例の治療成績

著者: 田村千恵 ,   小島孚允 ,   石井清

ページ範囲:P.475 - P.478

 過去10年間の眼瞼脂腺癌20例の治療成績を検討した。男性5例,女性15例で,初診時の年齢は43歳から90歳,平均68.5歳であり,上眼瞼が17例,下眼瞼が3例であった。腫瘍はすべて眼瞼内に限局していた。発症から当科受診までの期間は2か月から8年1か月,平均25か月であった。12例は以前に霰粒腫として切開術を受けていた。初回治療として16例に手術切除を行い,うち6例には放射線照射を追加した。早期例3例には光線力学的療法で腫瘍を縮小させたのち手術を行った。当初から腫瘍が大きな1例には放射線単独照射を行った。治療開始から3か月から8年1か月,平均3年2か月の期間中,腫瘍が瞼裂幅の2/3以下の18例には再発がなく,これよりも大きい2例のうち1例に転移,1例に雨発と転移が生じた。眼瞼脂腺癌が瞼裂幅の2/3以下であるときには,手術で完全切除を行い,必要に応じて放射線照射を追加することが勧められる。

白内障術後眼内炎から摘出した眼内レンズの電子顕微鏡による観察

著者: 小林円 ,   針谷明美 ,   徳田直人 ,   井上順 ,   吉沢利一 ,   上野聰樹 ,   佐々木千鶴子 ,   与那覇朝英

ページ範囲:P.479 - P.483

 66歳女性の左眼に白内障手術を行い,シリコーン製のfoldable眼内レンズを挿入した。直後の経過は順調であったが,2か月目から虹彩炎を主体とする眼内炎が生じた。硝子体手術は無効であった。眼内レンズと後嚢混濁の関与を疑い,5か月目に眼内レンズと水晶体嚢を摘出した。これにより虹彩炎は寛解した。前房水と硝子体の培養は陰性であった。電子顕微鏡による検索で,眼内レンズの表面側に球菌,裏側に桿菌のバイオフィルム形成があり,支持部に球菌と桿菌のバイオフィルム形成があった。臨床経過と検査所見から,本症例はバイオフィルム感染症であると判断した。

糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術後の毛細血管瘤数の減少

著者: 古川真理子 ,   熊谷和之 ,   荻野誠周 ,   沖輝彦 ,   中村宗平 ,   渥美一成 ,   舘奈保子

ページ範囲:P.485 - P.488

 糖尿病黄斑浮腓21例28眼に対して硝子体手術を行い,術前後での毛細血管瘤数を検索した。男性17眼,女性11眼で,年齢は40歳から67歳,平均60歳であった。黄斑浮腫は術後全例で消失し,消失するまでの期間は1〜18か月,平均4.6か月であった。中心窩から3乳頭径内の毛細血管瘤数を蛍光眼底写真上で計測した結果その平均数は術前72±40,術後52±33で,有意に減少した(p=0,001)。毛細血管瘤減少数は黄斑浮腫が消失するまでの期間と有意に相関した。男性より女性,年齢は高いほど毛細血管瘤の減少が顕著であった。毛細血管瘤の減少は,糖尿病黄斑浮腋に対する硝子体手術後の背景網膜症の改善を反映すると解釈した。

入院患者の眼脂培養による細菌検査

著者: 藤紀彦 ,   鈴木亨 ,   田原昭彦

ページ範囲:P.489 - P.492

 3年3か月の期間内に眼脂のある入院患者338人644眼につき,眼脂を培養した。441眼から572株の細菌が検出され,陽性率は68.5%であった。陽性率と同定された株数は,1998年度では70.1%と218株,99年度では72.1%と200株であり,新病棟に移転した2000年度では58.2%と105株であった。陽性率と同定された株数が新病棟に移転した後に減少したのは,病院の環境改善が影響していると考えられた。

ヌンチャク型涙管シリコーンチューブ挿入,初期連続100例の中長期効果

著者: 寺西千尋 ,   井藤紫朗

ページ範囲:P.495 - P.498

 ヌンチャク型涙管シリコーン管抜去後の涙道閉塞87名100眼の経過を6か月以上追跡した。78眼で流涙が消失または軽快した。改善率は,涙点閉塞4眼中4眼,鼻涙管閉塞74眼中60眼,慢性涙嚢炎12眼中8眼,涙小管閉塞10眼中6眼であった。本法は,涙点閉塞と鼻涙管閉塞には中長期的に有効であると判断される。通水検査は流涙消失例においては良好であったが,軽度例では不通もあり,本法には自覚症状の改善効果があると推測された。無効例22眼(22%)のほとんどが抜去後6か月以内に再発しており,治療効果の判定の指標になりうる。

涙膜の動きの観察

著者: 新美勝彦 ,   塩瀬芳彦 ,   橋本紀子

ページ範囲:P.499 - P.504

 瞬目に伴う角膜の涙膜油層の動的所見を検索した。一般臨床検査で異常のない外来患者50名を対象とし,男性9名,女性41名で,年齢は10歳台から70歳台である。涙膜油層の動態の観察には,非接触型のスペキュラーマイクロスコープを用い,ビデオテープに記録して解析した。まず5秒間閉瞼させ,以後は自然瞬目させ,約4分間の所見を記録した。縞模様,干渉による着色,白線が主要な所見であったが,必ずしも再現性はなかった。縮緬皺模様と局部的な着色の出没は,涙液量減少,角膜染色異常,アレルギー,コンタクトレンズ不調,眼疲労感などに多かった。これらの知見は過去の実験研究と符合することが多かった。この方法は非侵襲性で簡便であるが,これを日常の臨床に導入するには,映像を容易に取り出せる周辺機器の整備が必要である。

不顕性感染を認めた流行性角結膜炎の院内感染

著者: 須網政浩 ,   加藤勝 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.507 - P.510

 2000年9日から3か月間に,当病院で流行性角結膜炎の院内感染が起こった。入院患者全員と本症感染が疑われる外来患者に免疫クロマトグラフィ法を行い,ウイルス陽性である患者50名を検索した。入院患者18名,外来患者32名である。50名中14名が自覚的に無症状であり,うち3名で細隙灯顕微鏡検査で流行性角結膜炎が否定された。ウイルス陽性であった50名から症状の有無にかかわらず5名を無作為に選択し,ウイルスの分離と同定を行い,全員からアデノウイルス8型が同定された。以上から,同一のウイルスによる感染でも症状に個体差があることと,角結膜炎所見がない患者への対処が二次感染の予防に重要であると結論される。

核が硝子体中に自然落下した過熟白内障の1例

著者: 安藤百合子 ,   池尻充哉 ,   溝田淳 ,   宮内修 ,   末廣伸太郎 ,   安達惠美子

ページ範囲:P.511 - P.513

 76歳女性が1週前からの左眼痛と頭痛で受診した。10年前に白内障を指摘されたが放置していた。矯正視力は右0.9,左指数弁で,眼圧は右17mmHg,左25mmHgであった。左眼に角膜浮腫と前房に強い炎症所見があった。瞳孔領に破嚢した水晶体嚢の断端とその赤道部があり,その後下方に水晶体核と硝子体混濁があった。過熟白内障に続発した水晶体核の自然落下と診断し,手術を行った。水晶体核を前房内に移勤させ,強角膜切開創を通じて娩出し,硝子体手術で残存皮質と硝子体混濁を除去した。水晶体核の後方落下は,過熟白内障に伴う水晶体嚢とチン小帯の脆弱化がその原因であると推定した。

過熟白内障手術におけるビスコートTMの角膜内皮保護効果

著者: 水島尚子 ,   秋山満 ,   加藤明世 ,   井上克洋

ページ範囲:P.514 - P.516

 過熟白内障手術でのビスコートTMの角膜内皮保護効果を検討した。本剤は3%ヒアルロン酸ナトリウムと4%コンドロイチン硫酸ナトリウムの合剤である。同一術者により8か月間に31例31眼に手術を行った。ソフトシェルテクニックを用い,0.5%インドシアニングリーンで前嚢を染色し,con—tinuous curvilinear capsulorrhexis (CCC)を行った。全例に超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行った。CCC成功率は100%で,平均角膜内皮細胞数は術前2,883個/mm2,術後2,764個/mm2で,減少率は4.96%であった。術中と術後6か月の間,重篤な合併症はなかった。ビスコートTMは,過熟白内障手術での角膜内皮保護に有用であると結論される。

自傷癖のある知的障害者の白内障手術

著者: 檜垣忠尚 ,   上江田信彦 ,   鈴木康仁 ,   康成隆治

ページ範囲:P.517 - P.521

 眼自傷癖のある知的障害者5名の8眼に白内障手術を行った。年齢は17歳から50歳,平均33歳であり,精神障害者と痴呆者は含まれない。2例3眼には水晶体摘出術,3例5眼には眼内レンズ挿入術を合わせて行った。術後の視力改善に伴い,全例で眼自傷行為はなくなった。術後2か月目に網膜剥離が1例に,18か月後に角膜変性による視力障害が他の1例に起こり,眼自傷行為が再発した。患者が住んでいる施設での日常生活動作の改善度は,施設指導員の報告では,無水晶体者と眼内レンズ挿入者との間で明らかでなかった。重度知的障害者では,視力障害が眼自傷行為発現の原因である可能性があるので,速やかに視力障害を治療することが望ましい。

Pit-macular syndromeに対する治療経験

著者: 下田倫子 ,   山口由美子 ,   戸所大輔 ,   岸章治

ページ範囲:P.522 - P.526

 Pit-macular症候群8例8眼の治療経過を光干渉断層計(OCT)を用いて評価した。乳頭縁にレーザー光凝固を行った3眼では,黄斑部網膜剥離と乳頭黄斑間の網膜分離は消失しなかった。硝子体内ガス注入を行った2眼では,網膜剥離の軽減ないしは黄斑外への移動があり,視力が改善した。硝子体手術にガスタンポナーデを併用した3眼では,網膜剥離と網膜分離が復位し,視力が改善した。硝子体牽引が本症の増悪因子であると考えられ,硝子体手術にガスタンポナーデの併用が治療の第一選択であると結論される。

離島(五島列島)における網膜剥離の現況

著者: 嵩義則 ,   大谷信夫 ,   武田哲郎 ,   雨宮次生 ,   宗今日子 ,   小川月彦

ページ範囲:P.527 - P.530

 長崎県五島列島での裂孔原性網膜剥離の発症と経過を検索した。1995年から2000年までの6年間に38名39眼が発症し,その頻度は人口11,932人あたり1名である。内訳は男性14名,女性24名であり,年齢は平均61.9歳で,50歳以上が84%を占めた。病型は狭義の裂孔原性網膜剥離29眼(74%)と黄斑円孔網膜剥離10眼(26%)である。地元医療施設から長崎市の最終医療機関に移送される間に,10眼(26%)で視力がさらに低下し,これは五島列島の郡部に居住する患者で有意に多かった。以上の所見は,離島に特有な年齢分布と生活環境が関係していると推定された。

術前に裂孔不明であった裂孔原性網膜剥離に対する硝子体手術成績

著者: 鈴木幸彦 ,   桜庭知己 ,   松橋英昭 ,   中沢満

ページ範囲:P.531 - P.534

 術前に裂孔が不明であった裂孔原性網膜剥離15眼に手術を行った。裂孔が不明であった原因は,重複を含め,脈絡膜剥離4眼,角膜混濁3眼,小瞳孔3眼,網膜皺襞3眼,白内障2眼,硝子体出血または混濁2眼である。全例に超音波水晶体乳化吸引術または眼内レンズ摘出ののち,硝子体切除,網膜裂孔の検索,液・空気置換,裂孔凝固,ガスタンポナーデを行った。9眼に輪状締結,2眼に眼内レンズ挿入を併用した。術後14眼(93%)が復位し、1眼は再剥離のため再手術を行った。裂孔が不明な網膜剥離では,水晶体摘出の上,周辺部硝子体切除と網膜裂孔を検索することが推奨される。

集団検診に適した簡便な矯正視力測定法

著者: 秋元東洋男

ページ範囲:P.535 - P.537

 目的:集団検診に適した簡便な矯正視力測定法の記述と評価。方法と対象:板付レンズに薄い枠を付加し,これで任意のレンズに針穴板を重ねることができる。まず針穴板がない状態で被験者に板付レンズを持たせ,最もよく見える球面レンズを選ばせる。次にそのレンズに針穴板を重ねて視力表を読ませる。眼科外来患者40名79眼をこの方法と従来法で検査した。結果:本法による視力と従来法による視力の相関係数と99%信頼区間は,従来法視力0.05から2.0の間で0.95(0.91〜0.97)であった。結論:本法は矯正視力測定法として有効である。

123I-IMP SPECTにて特徴的所見を呈した脈絡膜悪性黒色腫の1例

著者: 中矢家寿宏 ,   林暢紹 ,   小松丈記 ,   福島敦樹 ,   上野脩幸 ,   福本光孝

ページ範囲:P.538 - P.542

 50歳男性が5か月前からの左眼視力低下で受診した。6年前に胃癌手術を受けていた。左眼矯正視力は0.7で,後極部に半球形に隆起する黄白色病巣があり,超音波断層検査,磁気共鳴画像検査(MRI)などの所見から転移性脈絡膜腫瘍を疑い,放射線照射を行った。3か月後に左眼矯正視力が0.01に低下した。眼底の隆起性病変はきのこ状に増大していた。123I-IMP single photon emssion CT(SPECT)検査で,造影24時間後にほぼ左眼球全体に及ぶ強い集積があった。この結果,眼球摘出術を行い,病理組織学的に脈絡膜悪性黒色腫であることが判朋した。123I-IMP SPECTが脈絡膜悪性黒色腫の診断に有力であることを示す症例である。

ボツリヌスA毒素治療の閉瞼筋力に及ぼす効果

著者: 平井亜紀 ,   津山嘉彦 ,   溝田淳 ,   安達惠美子 ,   山崎広子

ページ範囲:P.543 - P.546

 本態性眼瞼痙攣21例と顔面痙攣19例に対して,ボツリヌスA毒素を眼瞼内5か所に注射した。治療効果は,閉瞼筋力とJankovic scoreで評価した。眼瞼痙攣では,注射1か月後で閉瞼筋力とJankovic scoreともに最大になり,2か月後には減弱した。顔面痙攣では,治療1か月後に効果が最大になり,治療効果が3か月間持続した。ボツリヌスA毒素の眼瞼内注射は,本態性眼瞼痙攣と顔面痙攣に有効な対症治療であると結論される。閉瞼筋力とJankovic scoreは同様の結果を示す簡便で優れた評価法であるが,より客観的な効果判定には閉瞼筋力が重要である。

シクロスポリン全身投与が奏効した壊死性強膜炎の1例

著者: 竹澤美貴子 ,   猪木多永子 ,   山上聡 ,   小幡博人 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.547 - P.550

 85歳女性が7日前からの左眼角膜混濁で受診した。実質型角膜ヘルペスを疑い,アシクロビルと抗生物質の局所投与とプレドニゾロン内服を開始した。5週後に角膜が穿孔した。プレドニゾロンを中止し,治療用コンタクトレンズの装用などで穿孔創は閉鎖したが,その1か月後に壊死性強膜炎が発症した。プレドニゾロン内服を再開し,非ステロイド性抗炎症薬の内服を開始した。さらに4か月後に前房蓄膿が生じたが前房水の培養は陰性であった。多発性胃潰瘍のためにプレドニゾロンを中止した6週後に壊死性強膜炎と思われる黄色結節が鼻側上方に生じた。シクロスポリン内服を開始して眼痛と壊死性強膜炎は軽快した。3か月後の再燃も同様に対処し,以後9か月間治癒した状態にある。副腎皮質ステロイド薬が投与困難または無効な壊死性強膜炎にシクロスポリン内服が奏効した症例である。

拒絶反応と考えられたヒト移植角膜片の電子顕微鏡的検討

著者: 久保田伸 ,   谷口寛恭 ,   金沢佑隆 ,   鬼塚摂子 ,   福田香織 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.551 - P.555

 70歳女性が8年前に白内障手術を受け,水庖性角膜症が発症し,3年前に全層角膜移植術を右眼に受けた。その後拒絶反応が生じ,全層角膜移植術が再び行われた。得られた移植片を透過電子顕微鏡で検索した。実質には変性した実質細胞や,アポトーシス小体を貧食するマクロファージが認められ,コラーゲン走行は不規則で空胞変性が認められた。デスメ膜下に厚い角膜後面膜が形成され,内皮細胞は変性,脱落していた。これらの所見は動物実験でみられる角膜拒絶反応と同様であり,そのなかにアポトーシス小体があることから,ヒト角膜拒絶反応にアポトーシスが関与していることが推定された。

六神丸を誤って眼に入れ眼障害をきたした1例

著者: 大久保真司 ,   武田久 ,   東出朋巳 ,   内山佳代

ページ範囲:P.556 - P.558

 77歳女性が強心剤である六神丸の顆粒を点眼薬と誤認して右眼に入れ,眼痛が生じた。2時間後の所見として,点状表層角膜炎,角膜上皮びらん,結膜浮腫,毛様充血,前房内微塵が右眼にあり,矯正視力は0.5であった。右眼を洗眼し,結膜嚢内の六神丸顆粒を除去したが,デスメ膜皺襞と角膜浮腫はさらに増強した。副腎皮質ステロイド薬の点眼と静注を行い,以後角膜の混濁浮腫は減少し,7日目にデスメ膜皺襞は消失した。家庭薬である六神丸が点眼薬に似た容器に入っていたための事故であり,注意が望まれる。

糖尿病網膜症に対する硝子体手術時のステロイド

著者: 三好永利子 ,   佐藤章子

ページ範囲:P.559 - P.562

 糖尿病網膜症46例69眼に硝子体手術を行い,フィブリン反応抑制を目的として術中・術後にプレドニゾロンを全身投与した。66眼に術中汎網膜眼内光凝固を行った。最終視力は0.7以上が24眼(35%),0.1以上が61眼(88%)であった。術後のフィブリン反応は15眼(22%)に起こり,視力転帰に影響を与えなかった。術前と退院時で血糖コントロール法に変化はなく,血清クレアチニン値がやや上昇したが透析導入には至らなかった。術中・術後のプレドニゾロン全身投与は術後のフィブリン反応を完全には防止しないが,短期間であるために全身状態に大きく影響しなかった。

多彩な眼症状を示した眼・中枢神経系悪性リンパ腫の1例

著者: 石田為久 ,   雑賀司珠也 ,   岡田由香 ,   大西克尚 ,   中井敦子

ページ範囲:P.563 - P.566

 67歳女性が3週前からの左眼視力低下で受診した。頭蓋内悪性リンパ腫の既往があり,6か月前に全脳の放射線照射を受けた。矯正視力は右1.0,左光覚弁で,左眼には硝子体混濁網膜中心静脈閉塞症様の出血,超音波検査で網膜剥離があった。眼科初診の2週間後に小脳に悪性リンパ腫の再発が発見されたが,眼内や視神経に腫瘍の浸潤はなかった。手術で得られた硝子体の細胞診で非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin lymphoma)と診断された。総量44Gyの放射線照射で病巣は鎮静化し,以後14か月間,光覚弁のまま左眼は安定している。多彩な眼内病変を呈した眼・中枢神経悪性リンパ腫の1例である。

ゴルフによる眼外傷11症例

著者: 高玉篤 ,   斎藤弘明 ,   野入聡睦 ,   村上仁司 ,   佐藤浩介 ,   河井克仁

ページ範囲:P.567 - P.570

 過去5年間にゴルフプレー中に起こった眼外傷の自検例11例を検討した。すべて片眼性で,男性9例,女性2例であり,年齢は27歳から65歳,平均47歳であった。受傷原因は,打球7例,ゴルフ用品による受傷3例,電動カートからの転倒1例であった。主症状は,眼球破裂4例,前房出血3例,水晶体脱臼2例,強膜裂傷1例,角膜裂傷1例であった。7例に手術を行い,うち4例は失明し,眼球癆になった。失明した4例はすべて打球による受傷であり,うち3例では打球からの距離が150ヤード未満であった。ゴルフボールによる眼外傷は重症例が多く,予後不良例が多かった。

von Willebrand因子が高値で動脈炎性前部虚血性視神経症を疑った1例

著者: 澤田達 ,   岡田康平 ,   渡辺敏夫 ,   高井七重 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.571 - P.576

 79歳女性が3週前からの左眼霧視と側頭部痛で受診した。手と足関節などに疼痛があり,5か月前に慢性関節リウマチと診断され,ベタメタゾンを投与されていた。矯正視力は右0.7,左0.02であり,乳頭発赤が左眼にあった。蛍光眼底造影で乳頭に充盈欠損があり,赤沈が亢進し,血液検査でvon Willebrand因子が高値であった。側頭動脈の生検で巨細胞動脈炎の所見はなかったが,動脈炎性前部虚血性視神経症(AION)と診断した。ステロイドパルス療法などで赤沈は正常化し,左眼矯正視力が0.5に改善したが,von Willebrand因子は高値のままであった。AIONの診断と炎症の活動性を示す視標としてvon Willebrand因子が有用ではあるが,これがステロイド漸減の指標とはならないことを示す症例である。

Bowen病の臨床像の検討

著者: 森彩乃 ,   芦忠陽 ,   山川慶太 ,   津田恭央 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.577 - P.580

 過去8年間にBowen病と確定した球結膜腫瘍の自検例5例5眼につき,その臨床像を検索した。男性2例,女性3例で,年齢は47歳から89歳,平均73歳であった。初発症状は結膜充血3例と眼異物感2例で、病変は角結膜の鼻側に多かった。病理学的には全例が上皮内癌であった。全例で腫瘍を摘出し,2例で表層角膜移植術,1例で結膜被覆術を併用した。腫瘍摘出のみを行った34歳女性では3か月後に両発し,再手術を行った。3か月から24か月,平均14.8か月の経過観察期間中,全例が生存した。

眼窩内外転神経鞘腫の1例

著者: 田村泰 ,   齋藤和子 ,   山本博之 ,   安積淳 ,   根木昭 ,   大林千穂

ページ範囲:P.581 - P.584

 65歳男性が視覚障害の精査中に,磁気共鳴画像検査(MRDで右眼窩先端部の腫瘍を発見された。眼球突出や眼球運動障害はなかった。腫瘍は筋円錐内にあり,境界鮮明で,25×12mmの大きさであった。8週後に脳神経外科で経頭蓋的に腫瘍が摘出された。腫瘍は眼窩先端部から上眼窩裂を経て海綿静脈洞に進展していた。病理組織学的には神経鞘腫であった。術直後から右外転神経麻痺が生じた,外転神経原発の神経鞘腫が疑われた。術後5か月後に外転神経麻痺と複視はほぼ消失した。眼窩内外転神経鞘腫に外科的治療が奏効した症例である。

ガラクトシアリドーシスⅡb型の1例

著者: 山下彩奈 ,   長谷川榮一

ページ範囲:P.585 - P.588

 45歳女性が両眼の視力低下で受診した。両親がいとこ婚であった。矯正視力は右0.6,左0.4。両眼とも角膜実質深部と水晶体に微細な混濁があり,眼底には中心窩の桜実紅斑と視神経萎縮があった。知能障害,異常な顔貌,運動障害,ミオクローヌスなどはなく,末梢血リンパ球の空胞化と手掌の血管腫があった。白血球β—ガラクトシダーゼの低下があり,遺伝子解析で保護蛋白遺伝子の異常(SpDE×7)がホモの状態で存在した。以上から本症例をガラクトシアリドーシスⅡb型と診断した。

連載 今月の話題

ウイルス性結膜炎の院内感染

著者: 内尾英一

ページ範囲:P.393 - P.397

 ウイルス性結膜炎の院内感染はいつどこでも発生しうる危険性を依然として有しており,社会的な関心も高まっている。さまざまな感染経路の存在や院内感染を生じやすい血清型の存在,潜伏感染者は感染源か否かなどについて十分理解し,院内感染を防止することは眼科におけるリスクマネジメントの基本のひとつである。

眼の遺伝病・32

XLRS1遺伝子異常と網膜分離症(8)

著者: 和田裕子 ,   板橋俊隆 ,   玉井信

ページ範囲:P.398 - P.401

 今回は,XLRS1遺伝子,Arg102Trp変異を伴った1症例を報告する。Arg102Trp変異は今回の「XLRS1遺伝子異常と網膜分離症」シリーズの(1)と(5)(55巻6号および11号に掲載)でも臨床像を報告し,筆者らの検索では比較的高頻度変異の可能性が示唆された。Arg102Trp変異をもつ臨床像は多様性に富んでいるので,今回報告する症例の臨床像とも比較していただきたい。さらに臨床像と変異の種類には一定のルールは存在せず,網膜分離症が非常に表現型の多様性に富む疾患であることが確認できる。

眼科手術のテクニック・145

点眼麻酔下耳側角膜小切開での合併症の処理—(1)破嚢・硝子体脱出

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.402 - P.403

 2000年に私が行った白内障手術は3,025件で,そのうち嚢外摘出術で最初から行ったものが3件であり,そのほかは超音波乳化吸引術で行った。
 術中合併症は38眼(約1.3%)に認められ,破嚢が28眼,チン小帯断裂が10眼であった。術前から外傷などですでに断裂や破嚢が明らかにあったものを除くと合併症は27件(0.89%)であった。いずれにしろ,1か月に2件から3件くらい合併症を起こしていることになる。術者なら誰でも(例外的な人はあるかもしれないが),合併症の処理を経験しているはずである。

あのころ あのとき・16

糖尿病網膜症の分類に関する問題

著者: 福田雅俊

ページ範囲:P.405 - P.407

 私が文部省短期海外留学生として欧米に出張を命ぜられたのは1972(昭和47)年の夏であったが,当時の欧米では網膜症の分類など問題にしている研究者はほとんどいなかった。「網膜症には,単純と増殖の2型があれば,臨床上何も不自由はない」というのが彼らの意見だった。一方,10年ばかり前まで,わが国で最も普及していた網膜症の分類法はScott分類(1953-1957)で,京都府立医大の谷教授が留学土産に英国から持ち帰ったものであり,眼科の研究会でそれまで普及していたWagener分類(1946)よりは進歩的なものとして,わが国ではこれを全国的に使用することを申し合わせたものである。しかし,私が出張したときもこれが欧米で普及している様子はなく,英国内でも統一されてはいなかった。むしろ眼底写真の比較により,眼底所見別の重症度を羅列するHammersmith分類(1967),Airlie分類(1968)などが新しい分類として注目されはじめていた。
 Scott分類の当初の基本概念には,単純網膜症と増殖網膜症とは別個に発症し,互いの移行などはあり得ないということがあったらしく,どんなものが増殖網膜症の初期(Ⅰb期)であるのかわからなかった。1968(昭和43)年に「これこそ典型的なScottⅠb期ですよ」とのちに学会発表の折に谷先生からお言葉を戴いた症例(図1)に遭遇してから,私は,網膜症には単純,増殖相互の移行もあるのではないかと疑う気分が強くなった。ちょうど学園紛争の最中で,大学病院内科への入院,治療も大変なころだった。この症例は,過去に単純網膜症(Ⅱa)であったという既往歴もあった。その後も類似の増悪例を他に数例経験して,これはいよいよ怪しいと考えた。

他科との連携

生活習慣病と眼

著者: 若林美宏

ページ範囲:P.603 - P.604

 高脂血症をベースとする循環器疾患や糖尿病などに代表される,いわゆる生活習慣病が増加しています。それに伴って眼科領域でもこれらとかかわりの深い疾患を診察する機会が増えており,内科をはじめ他科との連携がますます重要となってきていると思います。糖尿病網膜症の視機能予後は,初診時における網膜症の重症度とそれに対して適切な眼科治療を行ったか否かで大きく異なります。しかし光凝固や硝子体手術などの治療を実際に行い,その後,長期間経過をみていますと,良好な視機能維持に最も重要なことは糖尿病コントロールの善し悪しであることを痛感します。したがって私は糖尿病のコントロール状態には常に目を光らせ,患者さんにその重要性をよくお話し,内科と絶えず連携して眼の治療にあたることを心がけています。
 繰り返していた硝子体出血が吸収しだしたり,光凝固や硝子体手術が奏効し黄斑浮腫が消失したりする背景には良好な糖尿病コントロールが存在し,内科との連携プレーがうまくいっているケースです。逆に十分な光凝固や硝子体手術をしたにもかかわらず,難治の黄斑浮腫や新生血管緑内障により増悪するケースのほとんどは糖尿病コントロール不良例で,結果的に他科との連携はうまくいかなかった症例と考えます。網膜症がじわりじわりと進行しているにもかかわらず,定期的な内科受診を怠り,われわれが再三にわたって内科受診を勧めるにもかかわらず,断固として受診しない患者さんに時々出くわします。このような患者さんの診察では,眼科的な検査にのみ終始することなく,コントロールの重要性を時間をかけてよく説明し,内科受診をきちんとするようお話して,内科との連携がスムースにいくよう心がけるべきであると考えます。

今月の表紙

前嚢収縮

著者: 寺内渉 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.404 - P.404

 患者は72歳,女性。近医から白内障手術の目的で紹介され受診した。既往歴として50年前に原田病の入院治療がある。初診時所見は矯正視力が右0.04×-12.0D,左0.04×-11.0Dと強度近視で,眼圧は右12mmHg,左13mmHg,両眼底に網脈絡膜萎縮を認めた。2001年3月26に右眼,3月29日に左眼の水晶体乳化吸引術を施行し,術後の矯正視力は右0.05,左0.04と不変であった。術後3か月して右眼の前嚢収縮が強くなり,右視力は指数弁と低下したため前嚢切除術を施行した。術後6か月の現在,右矯正視力は0.06と経過良好である。
 表紙の写真は前嚢収縮を徹照法にて撮影したスリット写真である。徹照法は眼底の反帰光を利用する撮影法である。反射の弱い黄斑部を避け,反射の強い視神経乳頭の位置に固視点を誘導し,縦横必要なスリット長および幅にカットして撮影する。撮影条件はスリット長5mm,スリット幅8mmである。フォトスリットはコーワ社製SC1200,露出5(最大),フィルムはコダックエクタクローム400である。

解説

糖尿病網膜症による血管新生緑内障に関する最初の判決の教えるもの—札幌地裁平成13年8月27日判決全文を読んで

著者: 岩瀬光

ページ範囲:P.590 - P.593

1.はじめに
 糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障による失明に関する判決が日本で初めて札幌地裁で出された。血管新生緑内障になった状態で眼科医を初診したものであり,そこまで眼科医に送らずに糖尿病患者を抱え込んでいた内科医の責任ももちろん重大である(臨眼55巻5号(2001年)の筆者論文参照)。けれども,これほど重症であっても眼科医は何らかの対処をし,可能な限り失明を避ける努力をしなければ責任を問われることになる。
 本判決では,原告患者側が大学病院への転医を拒んだ事実が重要視された結果,被告医師側の法的責任は認められなかった。しかし,開業医が重症の血管新生緑内障を自分で継続治療をせざるを得なくなった結果,患者左眼が失明にいたり,裁判という法的紛争が起こり,被告医師側も苦労を負わされているとの意味で,「血管新生緑内障の治療をどのようにしたらよいか。またどのように説明し大病院に転医させていくべきか」に関しての重要な教訓になると思い,今回取り上げた。

やさしい目で きびしい目で・28

ドライアイは儲からない

著者: 石岡みさき

ページ範囲:P.595 - P.595

 「風が目にしみて涙が出る」という初診の方。大体こういう主訴はドライアイです(涙が出てドライアイとはこれ如何に?と思う方も多いようですが)。眼表面は強く染色され,シルマー検査では「クリアランスの悪いドライアイ」でした。「市販の目薬を使っていませんか?」と聞くと「いいえ,市販のは使っていませんが,内科でもらったものを使っています」という。どうやら白内障の点眼薬を使っているよう。点眼薬に含まれている防腐剤の影響を説明し,使用を中止するようお話しましたが,かかりつけの先生がせっかく疲れ目に効くといって出してくれた(そう説明があったそう)目薬をやめるのは惜しそうでした。
 これはマイナーな科を選んだひがみに聞こえるようですが,われわれ眼科医が「血圧が高いようだから飲み薬を出しましょう」といえば,患者さんも内科医もびっくりするでしょう。でも内科医が点眼薬を出しても,どうして誰も変に思わないのでしょうか?(時々,白内障術後の方にも内科から白内障治療薬が出ていることがあるそうです……。)

臨床報告

閉塞隅角緑内障に対する超音波乳化吸引,眼内レンズ挿入術の成績

著者: 戸栗一郎 ,   松浦敏恵 ,   久保田敏昭 ,   鬼塚尚子

ページ範囲:P.608 - P.612

 すでに瞳孔ブロックが解除した閉塞隅角緑内障に対して,白内障または眼圧コントロールを目的として,超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入を行った。一部には隅角癒着解離術を併用した。対象は16例19眼で,術前にレーザー虹彩切開術が18眼,周辺虹彩切除術が1眼に行われていた。術後3か月から36か月,平均7.1±12.9か月,経過を観察した。眼内レンズは全例で嚢内に挿入できた。術前眼圧は7〜38mmHg (16.7±8.1mmHg),術後3か月の眼圧は7〜19mmHg (13.8±3.4mmHg)であり,全例で20mmHg以下であった。視力は18眼(95%)で2段階以上に改善し,悪化例はなかった。角膜内皮細胞数は,術前2,420±508/mm2,術後1,942±652/mm2で,減少率は18.4±17.9%であった。以上のことから,瞳孔ブロック解除後の閉塞隅角緑内障と白内障に対して,超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術が有効であったと結論される。

真性小眼球に伴うuveal effusionに対するマイトマイシンC併用強膜開窓術

著者: 細田ひろみ ,   野田徹

ページ範囲:P.613 - P.616

 38歳女性が,両眼の視力低下で受診した。8か月前に両眼の真性小眼球に伴うuveal effusionと診断され,左側に強膜開窓術が3回行われたが,脈絡膜剥離は消退しなかった。当科初診時の矯正視力は右0.07,左0.3で,右+18D,左+16Dの遠視があり,眼軸長は左右とも15mmであった。両眼に脈絡膜剥離を伴う胞状の網膜剥離があった。右眼に8か所の強膜開窓術を行い,網膜剥離は消失したが,1年後にuveal effusionが再発した。各象限に一辺4mmの正方形の強膜切除を行い,0.04%マイトマイシンCを3分間塗布し,中心部に径1mmの強膜開窓を作った。4か月後に脈絡膜剥離は消退した,左眼にも同様の手術を行い,3週後に脈絡膜剥離は消退した。右眼は術後41か月間,左眼は33か月間再発がなく,右0.5,左0.4の矯正視力を維持している。真性小眼球に伴うuveal effusionに対して,マイトマイシンC併用の強膜開窓術が有効であった症例である。

汎ぶどう膜炎を伴う若年性関節リウマチの1例

著者: 松下恵理子 ,   福島敦樹 ,   林暢紹 ,   政岡則夫 ,   上野脩幸 ,   脇口宏

ページ範囲:P.617 - P.620

 4歳女児が8週前からの両眼の結膜充血で受診した。前医で抗核抗体が陽性であった。両眼に虹彩毛様体炎と硝子体混濁があり,眼底下方に滲出性病変があった。初診6週後に左足甲部に関節炎症状が生じ,小児科で若年性関節リウマチ(JRA)と診断された。プレドニゾロン全身投与で眼内の炎症が改善したが,漸減とともに再燃し,肥満などの副作用が出現した。シクロスポリン追加投与を行い,プレドニゾロン減量下で炎症が抑制できた。本症例は,若年性関節リウマチに前部ぶどう膜炎だけでなく汎ぶどう膜炎が併発しうることと,シクロスポリンが眼炎症に有効であることを示している。

TGFBI(BIGH3)遺伝子のArg555Gln変異を認めたReis-Bücklers角膜ジストロフィ

著者: 田中彩絵 ,   加藤卓次 ,   藤木慶子 ,   中安清夫 ,   金井淳 ,   小宮山和枝 ,   上田俊介

ページ範囲:P.621 - P.626

 目的:角膜ジストロフィには複数の遺伝子変異が関与する。Reis-Bücklers角膜ジストロフィ3家系4症例を検索した。
 所見:7歳,26歳,50歳,51歳の4症例すべてに,細隙灯顕微鏡検査でReis-Bücklers角膜ジストロフィの所見があった。すべてに,小児期からの再発性角膜びらんがあり,両眼に角膜上皮下混濁があった。全例に,TGFBI (BIGH3)遺伝子のArg555Gln (R555Q)の変異があつた。
 結論:Reis-Bücklers角膜ジストロフィでは,再発性角膜びらんと角膜上皮下混濁が特徴的な所見であり,Arg555Gln変異があることが確認された。

狭隅角眼の機能的隅角閉塞の頻度—超音波生体顕微鏡と隅角鏡検査の比較検討

著者: 三嶋弘一 ,   国松志保 ,   富田剛司 ,   鈴木康之 ,   新家眞

ページ範囲:P.627 - P.631

 超音波生体顕微鏡で検出された機能的隅角閉塞の頻度と隅角鏡所見との関連を検索した。対象は,van Herick法でgrade 2以下の狭隅角で周辺虹彩前癒着のない25例38眼である。隅角鏡検査で上下耳鼻側の4方向での隅角の広さを判定し,超音波生体顕微鏡で同じ部位の隅角断面像を明所と暗所で記録し,両所見を比較した。Shaffer分類1度以下の65部位では,機能的隅角閉塞が明所で31部位(48%),暗所で52部位(80%)にあった。同分類2度の85部位では,明所で13部位(15%),暗所28部位(33%)に機能的隅角閉塞があった。以上の結果から,狭隅角眼には隅角鏡検査で検出できない機能的隅角閉塞がありうることが結論される。

片眼外転運動制限にメチルプレドニゾロンパルス療法が奏効した多発性硬化症

著者: 奥川加寿子 ,   井上賢治 ,   高野清豪 ,   若倉雅登

ページ範囲:P.632 - P.636

 33歳女性が1か月前からのめまいと,10日前からの複視で受診した。初診時所見として,右眼の外転制限,複視,眼振があった。磁気共鳴画像検査(MRI)で,側脳室周囲の白質と右小脳核に多巣性の高信号があった。これらの所見から多発性硬化症と診断した。ただちにメチルプレドニゾロンパルス療法を2クール行った。3か月後にはMRI画像上での変化はなかったが,右眼の外転制限と複視は寛解した。片眼の外転制限を主症状とする多発性硬化症は稀であるが,これに対してステロイドパルス療法が奏効したと考えられる症例である。

第55回日本臨床眼科学会専門別研究会2001.10.11京都

地域予防眼科研究会

著者: 赤松恒彦

ページ範囲:P.638 - P.639

 研究会は小暮文雄(失明予防協会)が座長で開始された。

オキュラーサーフェス研究会

著者: 大橋裕一

ページ範囲:P.640 - P.641

 第2回のオキュラーサーフェス研究会は,2001年10月11日木曜日の午前中に京都国際会議場にて行われた。前半の1時間半は第10回眼アレルギー研究会,後半の1時間半は第20回ドライアイ研究会によるプログラムがとり行われ,盛況裏に終了した。以下に当日のサマリーを示す。来年も日本臨床眼科学会の專門別研究会の1つとして開催する予定である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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