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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科56巻5号

2002年05月発行

雑誌目次

特集 第55回日本臨床眼科学会 講演集(3) 特別講演

黄斑部局所ERGでなにがわかる?

著者: 三宅養三

ページ範囲:P.680 - P.688

 黄斑部局所ERGの歩みと,筆者らの3,000例に及ぶ症例の記録から得られた結果を総括した。黄斑部局所ERGは眼底モニター下に,矩形波刺激を用いて記録することにより,正確でかつ情報量に富んだ波形が得られることがわかった。これがなければ診断できない疾患として,occult macular dystrophyが同定された。黄斑手術の進歩に伴い,OCTなどの非侵襲的な黄斑部の層別形態検査と,a波,b波,d波,律動様小波の諸要素分析による黄斑部の層別機能検査とを組み合わせて評価することにより,黄斑部の病態についてより鮮明に理解することが可能となった。

原著

光干渉断層計で観察したピット黄斑症候群

著者: 森敏郎 ,   加藤千晶 ,   滕岩 ,   桑島利子 ,   朝倉章子

ページ範囲:P.689 - P.692

 21歳女性が2週間前からの左眼変視症で受診した。矯正視力は右1.2,左1.0であった。左眼視神経乳頭内の下耳側寄りに乳頭小窩(ピット)があり,これから黄斑にかけて剥離があった。剥離部の光干渉断層計(Optical coherence tomography:OCT)で網膜外層の分離と浮腫があり,硝子体腔と網膜下腔の直接の交通はなかった。乳頭に接する剥離部に網膜光凝固を2回行ったが剥離は改善せず,視力は0.2に低下した。硝子体手術とガスタンポナーデも無効であり,意図的に網膜裂孔を作成して網膜下液を吸引し,眼内光凝固とガスタンポナーデを行ったのち網膜剥離は軽快した。最終手術2か月後のOCTで網膜分離と黄斑剥離がなお残存していた。

片眼の結節性強膜炎と網膜下腫瘤性病変をきたしたベーチェット病の1例

著者: 浦野哲 ,   田口千香子 ,   末田順 ,   棚成都子 ,   吉村浩一 ,   疋田直文 ,   山川良治

ページ範囲:P.695 - P.699

 27歳女性が,5日前からの右眼充血で受診した。陰部潰瘍が5年前にあり,ベーチェット病と診断されていた。2年前に頸部リンパ節結核があった。眼底は正常であったが,右眼に前房蓄膿があった。4週後に結節性強膜炎が右眼に発症し,さらに前房蓄膿が生じた。結節性強膜炎に相当する眼底部位に白色腫瘤があり,網膜剥離が併発していた。真菌または結核性眼内炎を疑い,硝子体手術を行ったが,初診から3か月後に右眼は壊死性強膜炎を経て有痛性眼球癆になり,眼球摘出に至った。病理学的に眼底の白色腫瘤は脈絡膜膿瘍であった。その後左眼にぶどう膜炎が起こり,前房蓄膿、アフタ性口内炎,結節性紅斑が生じ,完全型のベーチェット病と診断が確定した。全経過を通じ,眼病変はコルヒチン,副腎皮質ステロイド,抗結核療法のいずれにも反応しなかった。初発眼症状が非定型的なために診断と治療が困難であったベーチエット病の症例である。

最近10年間のベーチェット病の推移

著者: 高沢朗子 ,   五嶋摩理 ,   小笠原勝則 ,   氏原弘 ,   宮永嘉隆 ,   小竹茂 ,   松原正男

ページ範囲:P.701 - P.705

 2000年までの10年間に当眼科を受診したベーチェット病患者を統計的に検索した。男性49例,女性58例で計107例である。初診患者数は,前半の5年間では年平均11.6名,後半5年間では3.4名であり,減少傾向があった。初診時の平均年齢は,1991年では45.8歳であり1以後ほぼ直線的に上昇して2000年には50.8歳になった。初診から3年後の視力損失度は,初診年が下るほど減少し,1995年以降はこれがマイナス化,すなわち視力経過が向上した。眼発作の頻度については,1996年以降,減少傾向があった。

白内障手術中に生じたcapsular block syndromeの3症例

著者: 土屋祐介 ,   渡辺博 ,   杤久保哲男

ページ範囲:P.707 - P.710

 白内障への超音波水晶体乳化吸引術中に,capsular block syndromeが3眼に生じた。3眼とも術前の散瞳が不十分で3mm程度であり,2眼には虹彩炎などの既往があった。このためにcontinuouscurvilinear capsulorrhexisが小さかった。水晶体嚢ブロックはhydrodissectionの直後に起こり,浅前房になり眼圧が上昇した。水晶体核を後方に押すなどの方法でブロックをただちに解除し,以後の経過は良好であった。

角膜切開によるソフトシェル法を併用した小児先天白内障手術

著者: 今泉綾子 ,   高江洲杉恵 ,   早川和久 ,   澤口昭一

ページ範囲:P.711 - P.714

 先天白内障4例8眼に水晶体摘出手術を行った。年齢は7か月から5歳であり,術後6か月以上の経過を観察した。術式は角膜切開アプローチで,ヒーロン®とビスコート®を使用し,ソフトシエル法を併用して前嚢切開,水晶体吸引,後嚢吸引を行い,その部経由で前部硝子体を切除した。2眼には眼内レンズを挿入し,嚢内に固定した。術中合併症はなかった。術後合併症として2眼に後発白内障が生じたが,視力には影響しなかった。本術式は先天白内障に有用であると結論される。

脈絡膜新生血管に対する経瞳孔的温熱療法

著者: 臥雲郷子 ,   立岩尚 ,   新井純 ,   黒岩さち子 ,   吉村長久

ページ範囲:P.715 - P.719

 加齢黄斑変性に伴う脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization:CNV)が中心窩下または傍中心窩にある17眼に,経瞳孔的温熱療法を行った。波長810nm半導体レーザーを用い,スポットサイズは1.2,2.0,3.0mmのいずれかとし,230〜560mWの出力で60秒間照射した。治療前の視力は0.02から0.6であった。治療後6〜13か月,平均8.47か月の経過観察で,視力は2段階以上の改善が2眼,変化なし10眼,悪化5眼であった。治療から6か月以後に3眼でCNVが再発した。若干の症例で,照射部で網膜が菲薄化し,脈絡毛細血管板が閉塞した。経瞳孔的温熱療法が中心窩下または傍中心窩にあるCNVに対して有効であり得ることを示す所見であるが,照射条件の設定が課題として残っている。

中心窩ポリープ状脈絡膜血管症に対する光凝固治療の成績

著者: 後藤謙元 ,   黒岩さち子 ,   立岩尚 ,   春日勇三 ,   臥雲郷子 ,   吉村長久

ページ範囲:P.721 - P.725

 中心窩下に滲出性病変が及ぶポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal choroidal vasculopathy)18例18眼にレーザー光凝固を行った。平均年齢は71歳(55〜83歳),凝固後の平均観察期間は21.5か月(8〜57か月)であった。異常血管網とポリープ状拡張血管がともに中心窩外にある2眼では全体を凝固した。中心窩下に異常血管網がある11眼ではポリープ状拡張血管を凝固した。中心窩下にポリープ状拡張血管がある5眼では,流入血管を凝固した。LogMAR視力は,0.2以上の改善が7眼,不変が8眼,悪化が3眼であり,視力転帰はほぼ良好であった。凝固方法の違いによる視力への影響は明らかでなかった。

両眼性糖尿病黄斑浮腫の網膜断層像の対称性

著者: 大谷倫裕 ,   岸章治

ページ範囲:P.726 - P.728

 両眼性糖尿病黄斑浮腫の網膜断層像の対称性を調べた。両眼に黄斑浮腫(中心窩厚200μm以上)のある糖尿病網膜症27例を対象とした。光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)にて網膜断層像を4群に分類し(A群:網膜膨化のみ,B群:網膜膨化+網膜剥離,C群:嚢胞様変化,D群:嚢胞様変化+網膜剥離),その対称性を調べた。54眼全例の網膜断層像は,A群9眼,B群7眼,C群25眼,D群13眼であった。左右の網膜断層像の型が一致したものは27例中17例(63%)で,17例の内訳は,A群2例,B群1例,C群9例,D群5例であった。D群での綱膜断層像の一致率が高かったことは,汎網膜光凝固の影響が強かったと考えられた。左右の中心窩厚は強い相関を示した(相関係数:0.72,p<0.001)。

傍中心窩網膜毛細血管網閉塞を伴う網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術後の血管再疎通と視力経過

著者: 佐藤弥生 ,   井海雄介 ,   安藤伸朗

ページ範囲:P.729 - P.732

 傍中心窩毛細血管網閉塞のある網膜静脈分枝閉塞症38眼に硝子体手術と後部硝子体剥離術を行い,視力経過と虚血改善効果を検討した。最終視力は,2段階以上の改善19眼,不変17眼,悪化が2眼であった。最高視力に達するまでの期間は,6か月未満が17眼6か月以上12か月未満が8眼,1年以上が13眼であった。中心窩周囲の毛細血管閉塞は,再疎通21眼,不変15眼であり,悪化はなかった。網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術により,視力と傍中心窩毛細血管網閉塞が改善することがあると結論される。最高視力に達するまでに1年以上が必要な事例がある。

硝子体非切除黄斑上膜剥離術の長期予後

著者: 水谷吉宏 ,   佐藤幸裕 ,   島田宏之

ページ範囲:P.733 - P.736

 硝子体を切除せずに膜剥離術を行った特発性黄斑上膜34例34眼の長期経過を検索した。年齢は50歳から75歳1平均63歳であった。術後観察期間は1年以上とした。術前と比較して,術後1年と2年で核白内障進行による近視化があった。対側眼との比較で、高度に近視化した1眼の影響で術1年後に屈折度に有意差があったが,術2年後には術眼と対側眼に有意な屈折度の差はなかった(p=0.26)。黄斑上膜の再発が13眼(38%)にあり,硝子体切除を併用する膜剥離術で筆者らが報告した19%よりも有意に高率であった(p=0.03)。以上,硝子体を切除しない膜剥離術では近視化が生じるが,その程度は小さいと結論される。

緑内障の検眼鏡的眼底所見と視野の関連性

著者: 市岡伊久子

ページ範囲:P.737 - P.742

 緑内障の疑いがある252人,421眼を検索した。眼底検査には細隙灯顕微鏡にコンタクトレンズを併用した。症例の内訳は,正常眼圧緑内障192眼,嚢性緑内障と開放隅角緑内障88眼,急性隅角閉塞緑内障25眼,高眼圧症25眼などであった。ハンフリー視野計のglaucoma hemifield testが正常範囲にある12眼のすべてに神経線維層欠損(nerve fiver layer defect:NFLD)があった。乳頭陥凹が偏位している例では,ハンフリー30-2静的視野検査でのmean deviationが有意に低下またはcor—rected pattern standard deviationが上昇していた。Zoneβと豹紋状眼底の症例では,その程度に応じて視野感度が低下していた。閉塞隅角緑内障では乳頭陥凹が小さく,神経線維層欠損の頻度が小さかった。初期緑内障の診断と重症度の判定では,神経線維層欠損と乳頭陥凹の程度が特に重要であった。閉塞隅角緑内障,zoneβと豹紋状眼底が目立つ例では,眼底所見による緑内障の程度判定は困難であった。

緑内障眼における近視型乳頭と非近視型乳頭間の傍乳頭網脈絡膜萎縮の比較解析

著者: 荒川妙 ,   富田剛司 ,   国松志保 ,   鈴木康之 ,   新家眞 ,   梁建進

ページ範囲:P.743 - P.746

 耳側コーヌスなど近視型乳頭が,緑内障性傍乳頭網脈絡膜萎縮に及ぼす影響を検索した。対象として,正常眼圧緑内障患者で近視型乳頭のある24例24眼と,これがない21例21眼を選んだ。傍乳頭網脈絡膜萎縮を網膜断層計を使って画像解析し,視野障害との関連を比較した。近視型乳頭では非近視型乳頭に比べ,同程度の視野障害があっても傍乳頭網脈絡膜萎縮が大きいが,視野障害指数との相関は小さかった。正常眼圧緑内障での傍乳頭網脈絡膜萎縮の病態生理学的意義が,近視型乳頭の有無によって異なる可能性がある。

要精査児受診結果による3歳児健診の有効性

著者: 草場喜一郎 ,   伴由利子 ,   谷口さよ子 ,   宮尾章彦

ページ範囲:P.747 - P.752

 過去6年間の3歳児健診の2次検診で眼精密検査が必要と判定され,3次検診を受けた135例を検討した。依頼内容の内訳は,視力精査109例,眼位異常20例,その他6例であった。視力精査依頼109例171眼では,2次検診時の矯正視力1.0未満が100例162眼(94.7%)にあり,そのうち治療により1.0以上の矯正視力が75眼(78.1%)で得られた。眼位異常で依頼された20例では,精密検査で10例(50%)に眼位異常があった。以上の結果は,当地域での3歳児健診が有効に機能していることを示している。

先天色覚異常者におけるLED式道路交通信号灯色の見え方

著者: 西尾佳晃 ,   北原健二 ,   池村雄二 ,   杉本實喜男 ,   伊澤昭一 ,   伊藤薫平 ,   神田橋宗行

ページ範囲:P.753 - P.757

 先天色覚異常者におけるlight-emitting diode (LED)式道路交通信号灯色の見え方について検討する目的で,LED式および電球式信号灯のシミュレーション装置を試作し,色覚正常者5名,先天色覚異常者18名に対し検査を施行した。その結果,色覚正常者では誤答はみられなかった。先天色覚異常者では,LED式,電球式ともに18名中11名(61%)に誤答がみられた。誤答率は赤および黄で,電球式に比べてLED式において高い傾向がみられた。したがって,LED式道路交通信号灯においては,先天色覚異常者においても容易に見分けられるような色以外の情報を要するものと思われた。

偽落屑症候群における水晶体上皮細胞および偽落屑物の形態学的・生化学的検討

著者: 松本直 ,   斉藤伸行 ,   松橋正和

ページ範囲:P.759 - P.763

 偽落屑症候群10眼に白内障手術を行い,偽落屑物と水晶体上皮細胞を検索した。加齢白内障10眼から得られた前嚢を対照とした。形態的な観察には,位相差倒立顕微鏡と走査電子顕微鏡を用いた。水晶体上皮細胞の面積は両群間に有意差がなかった。ガスクロマトグラフィーによる水晶体上皮の脂肪酸組成についても,両群間に有意差がなかった。偽落屑物が水晶体上皮細胞に障害を及ぼしていないことが,これらの結果から推定された。薄層クロマトグラフィーで,偽落屑物にシアリルルイスXが含まれていることが示された。シアリルルイスXは細胞接着分子であるので,これが偽落屑物が眼内組織に付着する一因である可能性が示唆された。

黄斑円孔手術後の長期視力経過

著者: 中村宗平 ,   熊谷和之 ,   古川真里子 ,   渥美一成 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.765 - P.769

 特発性黄斑円孔58例59眼に手術を行い,2年以上の視力経過を検索した。症例は術前・術後の併発症がなく,初回手術で円孔閉鎖が得られたものとした。有水晶体眼には水晶体乳化吸引と眼内レンズ挿入を行った。硝子体ゲル切除後に後部硝子体剥離がなければ作製し,黄斑上膜があれば除去した。内境界膜剥離や網膜色素上皮掻爬は行わなかった。相乗平均視力は,術前0.28,術後1年0.66,最終観察時0.79であり,手術により有意に改善した(p<0.001),術後1年と最終観察時の視力は,47眼(80%)で改善または不変であり,12眼(20%)で低下した。これら2群間で,術前視力,年齢,円孔径,推定発症期間,屈折についての有意差はなかった。最終経過時の視力に関係する因子は術前視力と年齢であった。黄斑円孔では,術後2年以上にわたって視力が改善・維持される可能性が高い。

特発性黄斑上膜の術前OCT所見と術後視力の関係

著者: 杉田稔 ,   高島保之 ,   荒木理子 ,   馬場順子 ,   山川良治

ページ範囲:P.771 - P.774

 特発性黄斑上膜15眼に硝子体手術を行い,術前の光干渉断層計(optical coherence tomogra—phy:OCT)による所見と,術前後の視力,蛍光眼底造影所見との関達を検索した。12眼には同時に水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入を行った。他の3眼はすでに偽水晶体眼であった。術前の中心窩厚と手術6か月後の対数視力の間には有意な相関があった(r=−0.53,p=0.04)。術前の蛍光眼底造影で黄斑部に色素漏出がある6眼では,漏出のない7眼よりも術後視力が有意に悪く(p=0.03),術後の中心窩厚も有意に厚かった。

網膜中心静脈閉塞症の網膜断層像と視力転帰

著者: 山口由美子 ,   大谷倫裕 ,   岸章治

ページ範囲:P.775 - P.778

 推定発症から3か月以内の網膜中心静脈閉塞症24眼で,網膜断層像と視力転帰の関係を調べた。全例に光干渉断層計とフルオレセイン蛍光眼底造影を行った。急性期の視力は0.03から1.2,対数平均0.25で,最終視力は手動弁から1.2,平均0.15であり,両者間に有意な相関はなかった(p=0.053)。黄斑浮腫は,網膜の膨化(100%),嚢胞様変化(92%),漿液性網膜剥離(58%)などから構成されていた。急性期の中心窩厚は410〜1.200μm,平均780μmであり,これと最終視力には中等度の負の相関があった(r=−0.64,p<0.01)。急性期の中心窩厚は,網膜中心静脈閉塞症の視力転帰の指標となり得る。

下肢静脈血栓症および肺血栓塞栓症に合併した網膜中心静脈閉塞症の1例

著者: 高木和子 ,   齋藤了一 ,   大谷信夫 ,   宮本潤子 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.779 - P.781

 77歳女性が,3か月前からの左眼視力低下で受診した。高血圧と高脂血症が10年前からあり,2年前に両側下肢静脈血栓症に両側下肺の血栓塞栓症を続発し,抗凝固剤ワーファリンを内服していた。矯正視力は右1.0,左手動弁であり,右眼に網膜細動脈硬化,左眼に硝子体出血があった。左眼への硝子体手術中に網膜中心静脈閉塞症が発見された。全身検索で血栓形成に関係する血液学的異常はなかった。高血圧と高脂血症により粥状動脈硬化,静脈の拡張と蛇行が続発したことが網膜中心静脈閉塞症を誘発したと推測した。本症例は,下肢静脈血栓症,肺血栓塞栓症,網膜中心静脈閉塞症が併発した最初の報告例である。

片眼性の加齢黄斑変性と頸動脈ドップラー

著者: 伊藤裕子 ,   市邊義章 ,   田中俊一 ,   岡本直之 ,   清水公也

ページ範囲:P.783 - P.785

 加齢黄斑変性の発症要因を知る目的で,片眼性の加齢黄斑変性18例に頸動脈ドップラー検査を行った。検索項目は,総頸動脈の内膜中膜厚,プラーク,血管抵抗指数,血流速度である。年齢は46歳から80歳,平均68.5歳であり,男性11名,女性7名であった。血流速度には左右差がなかったが,総頸動脈の内膜中膜は患側で厚く,プラークは患側で多く,血管抵抗指数は患側で高かった。総頸動脈の内膜中膜厚、プラーク,血管抵抗指数はいずれも動脈硬化に関係する因子であり,これらが加齢黄斑変性の片眼発に関与する可能性がある。

点眼瓶による流行性角結膜炎の院内感染

著者: 河本ひろ美 ,   安藤一彦

ページ範囲:P.786 - P.788

 流行性角結膜炎(epidemlc keratoconjunctivitis:EKC)の院内感染が28例に起こった。両眼性が19例,片眼性が9例である。発端者と推定されたのは,1月下旬に入院した重症のEKCを伴う膿庖性乾癬患者である。EKCは同時期に入院していた白内障術後患者3名に2月上旬から中旬にかけて発症し,2月中旬から3月中旬にかけて外来患者24名にも発症した。24名中13名は2月15日に受診しており,うち11名は散瞳による眼底検査を受けていた。X2検定で散瞳薬点眼とEKC発症との間に有意な相関があった(p<0.001)。眼科外来でEKCの集団発生があった原因として、散瞳薬点眼瓶の汚染が疑われた。

沖縄の白内障手術症例の特徴

著者: 早川和久 ,   酒井寛 ,   仲村佳巳 ,   仲村優子 ,   澤口昭一 ,   名嘉文子

ページ範囲:P.789 - P.793

 沖縄本島の2施設で手術が行われた白内障722眼の診療録を検索した。施設Aでは425眼,施設Bでは297眼である。Shaffer分類2度以下の狭隅角は,施設Aで106眼(24.9%),施設Bで130眼(43.8%)にあった。施設Aでの前房深度は2.30±0.60mm,眼軸長は22.7±1.2mmであり,施設Bと過去の久米島検診でのそれと差がなかった。施設AとBで同一術者が耳側透明角膜切開で行った手術の合併症は,虹彩脱出2眼,チン小帯断裂2眼,一過性眼圧上昇21眼であった。最終眼圧は平均3.4mmHg下降し,5眼に濾過手術を追加した。沖縄の白内障症例では狭隅角の頻度が高いことと,このような症例に耳側透明角膜切開が有用であることが結論される。

ラタノプロストによる眼圧下降と眼圧変動の抑制

著者: 三好和 ,   熊野けい子 ,   山川良治

ページ範囲:P.795 - P.798

 ラタノプロスト点眼による眼圧日内変動の変化を,原発開放隅角緑内障3例6眼について検索した。6眼とも手術の既往がなく,それまで使用中の眼圧下降薬全部または一部をラタノプロストの夜間1回点眼に切り替え,変更前とそれぞれ3,5,15か月後の眼圧と日内変動幅を測定した。ラタノプロスト使用前15.9±1.2mmHgの眼圧は変更後13.5±1.5mmHgになり,有意に下降した(p<0.01)。下降幅は4.0〜0.4mmHg,平均2.4mmHgであった。日内変動幅は,1日に11回測定した最高眼圧と最低眼圧の差と定義した。日内変動幅は,変更前6〜13mmHg,平均8.7mmHgであり,変更後2〜5mmHg,平均4.0mmHgになり、有意に減少した(p<0.005)。変更前後の眼圧変動幅の差は,最大8mmHg、最小2mmHg,平均4.7mmHgであった。ラタノプロスト点眼は,他の眼圧下降薬の点眼に比較して,平均眼圧を下降させ、眼圧日内変動を抑制した。

プロスタグランディン系点眼単独使用の正常眼圧緑内障に対する追加点眼としてのニプラジロール

著者: 水谷匡宏 ,   竹内篤 ,   小池伸子 ,   久田佳明 ,   菅敬文 ,   五十川博士 ,   中村幸生 ,   三宅豪一郎 ,   斉藤泰子 ,   岩城正佳

ページ範囲:P.799 - P.803

 プロスタグランティン系点眼薬を単独使用している正常眼圧緑内障15例に,ニプラジロール1日2回の点眼を追加併用した。ウノプロストン群8眼の平均眼圧(mmHg)は,ウノプロストン点眼前163であり,点眼後は15.0になり(p=0.259),ニプラジロール点眼開始24週後に13.3と有意に下降した(p=0.011)。ラタノプロスト点眼群7例では,ラタノプロスト点眼前17.6であり,点眼後15.4と有意に下降し(p=0.002),ニプラジロール開始24週後に13.7と有意に下降した(p=0.011)。プロスタグランディン系点眼薬を単独使用している正常眼圧緑内障に,ニプラジロール追加点眼は眼圧下降に有効である。

分娩後に発症した脈絡膜循環障害によると考えられる黄斑部病変の2例

著者: 川本由紀 ,   山家麗 ,   鈴木崇弘 ,   松倉修司

ページ範囲:P.805 - P.808

 分娩後の脈絡膜循環障害によると推定される黄斑部病変の2症例を経験した。1例は26歳で,10年前から全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)があり,以来プレドニゾロンを服用中であった。順調な妊娠後に38週で分娩し,その直後に右眼中心暗点を自覚した。矯正視力は右0.6,左1.2であった。右眼黄斑部に2乳頭径大の隆起があったが3週後に自然寛解し,1.2の視力を得た。他の1例は31歳で,分娩後に総量7.000mlの弛緩出血で出血性ショックになり,意識が回復した2日後に左眼視力障害を自覚した。4週後に眼科を受診した。矯正視力は右1.2,左0.5であった。眼底と蛍光眼底造影所見から,中心性漿液性網脈絡膜症と診断した。分娩から8週後に自然寛解し,1.0の視力に回復した。発症機序は異なるが,両症例とも妊娠中毒症を伴わない脈絡膜循環障害による一過性の黄斑部病変であると考えた。

急性後部多発性斑状網膜色素上皮症様所見を呈した原田病の1例

著者: 谷周造 ,   玉井浩子

ページ範囲:P.809 - P.812

 51歳女性が,1か月前からの右眼の色視症で受診した。矯正視力は左右とも1.5であった。前眼部と硝子体に炎症所見はなく,乳頭周囲網膜浮腫と後極部に黄白色斑が多発する所見が両眼にあった。フルオレセイン蛍光眼底造影では,乳頭からの蛍光漏出と,後極部の黄白色斑部位に一致する低蛍光があった。初診の20日後に虹彩毛様体炎と隅角結節が両眼に出現し,原田病と診断した。プレドニゾロンの全身投与で炎症は消退した。原田病では急性後部多発性斑状網膜色素上皮症に類似する眼底病変が生じうることを示す症例である。

虹彩母斑症候群における眼圧上昇メカニズムの病理組織学的検討

著者: 川嶋美和子 ,   山崎芳夫 ,   濵中輝彦

ページ範囲:P.813 - P.817

 66歳男性が数週前からの左眼霧視で受診した。10年前にも左眼霧視を自覚し,瞳孔の変形と高眼圧が指摘されている。初診時の左眼矯正視力は1.2,眼圧29mmHgで,角膜浮腫を認め,虹彩面上に有茎状で茶褐色の小結節が多数あった。隅角にはシュワルベ線を越える周辺虹彩前癒着(PAS)をほぼ全周に認めた。右眼は近視以外には正常所見であった。角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は,右眼2,951,左眼504であった。以上の所見から左眼の虹彩母斑症候群(Cogan-Reese症候群)と診断した。初診から5週後にマイトマイシンC併用線維柱帯切除術を行った。切除した隅角組織の病理所見では,メラノファージが線維柱帯間隙に充満し,シュレム管が極端に狭細化していた。本症候群での眼圧上昇には,線維柱帯間隙へのメラノファージ浸潤と、シュレム管の狭細化ないし閉塞が関与していると推定される。

高度近視黄斑円孔網膜剥離にインドシアニングリーン内境界膜剥離を併用した硝子体手術成績

著者: 南政宏 ,   今村裕 ,   植木麻理 ,   佐藤文平 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.819 - P.822

 高度近視に伴う黄斑円孔網膜剥離8例8眼に対して,インドシアニングリーン(indocyaninegreen:ICG)染色を用いた硝子体手術を施行し,その有用性につき検討した。手術では硝子体切除後に,ICGを後極部網膜に塗布したが,その結果,残存硝子体皮質の同定が容易となり,硝子体をより確実に除去することができた。また黄斑円孔周囲の内境界膜を剥離することで,黄斑円孔周囲の網膜接線方向の牽引を軽減できるものと考えられた。術後6か月以上の経過観察で,8眼中7眼は初回手術で復位を得た。術後黄斑円孔は検眼鏡的に閉鎖,もしくは不明瞭となった。ICG染色は,内境界膜剥離を容易にするだけではなく,残存硝子体皮質の確実な除去が可能となり,復位成績を向上させるうえで有用な方法であると考えられた。

レーザー治療前後で屈折変化を示した外傷性虹彩嚢腫の1例

著者: 元木竜一 ,   武田憲夫 ,   八代成子 ,   上原淳太郎 ,   北里久美

ページ範囲:P.823 - P.825

 51歳男性が左眼の充血と霧視で受診した。40年前にガラス片が左眼に飛入した既往がある。左眼瞳孔の上耳側に前房の1/4を占める虹彩嚢腫があり,嚢腫は角膜内皮に接触していた。後嚢下白内障があり,水晶体は嚢腫に圧迫され後方に偏位していた。過去の外傷に起因する外傷性虹彩嚢腫と診断した。鈍痛と霧視が増強したため,マルチカラーレーザーで嚢腫を穿孔し,嚢腫の縮小,鈍痛の消失,霧視の改善が得られた。レーザー治療前に−4.75Dあった乱視は,冶療3日後に-7.25D,5か月後に-2.0Dになった。等価球面度数は治療前−3.625D,3日後−6.325D,5か月後に−5.0Dになった。レーザー治療後に屈折が変化したのは,嚢腫の縮小に伴って水晶体が前方に移動し,その後,緩慢に元に戻ったためと推定した。

1995〜2000年の眼感染症における嫌気性菌の検出状況

著者: 大石正夫 ,   宮尾益也 ,   尾崎京子

ページ範囲:P.827 - P.830

 2000年までの6年間に,新潟大学医学部附属病院眼科感染症クリニックで眼感染症患者から669株の菌が検出され,嫌気菌は123症例146株(21.8%)であった。菌種はPfopionibacterium115株(78.8%)でもっとも多く,以下,Peptostreptococcus 8株(5.5%),Prevotella 6株(4.1%),Fusobacterium 3株,Actinomyces 1株などであった。原疾患は,角膜潰瘍24例,急性結膜炎22例,慢性結膜炎18例,角膜炎16例,慢性涙嚢炎16例などであった。検出菌の47.7%は嫌気菌単独で分離された。症例の75.6%に鼻涙管狭窄,副鼻腔炎,糖尿病などの基礎疾患があった。薬剤感受性検査では,全体的にペニシリンG,イミペネム,ミノサイクリンに高感受性を示した。グラム陽性菌はエリスロマイシンとオフロキサシンに,グラム陰性菌はエリスロマイシン,オフロキサシンとバンコマイシンに耐性を示すものがあった。

大分県におけるハナヒルDinobdella feroxのヒト結膜嚢寄生例

著者: 衞藤崇彦 ,   古嶋正俊 ,   村上智貴 ,   江下優樹 ,   高岡宏行 ,   鈴木博

ページ範囲:P.831 - P.834

 10歳男児が,左眼結膜の異物に気付き受診した。細隙灯顕微鏡検査で,左眼上方の結膜円蓋部に体長約10mmのヒル様の吸盤をもった動き回る虫体があり,その周囲の球結膜に軽度の充血があった。外眼部その他にこれ以外の異常はなかった。摘出した虫体を検索した結果,幼生期のハナヒルDinob—della feroxと同定した。受診の約5日前に患者は川で泳いでおり,その際に結膜嚢にハナヒルが侵入して寄生したと推定された。大分県では最初のハナヒルによるヒト寄生例である。

超音波白内障手術中の縮瞳に関するブロムフェナク点眼とジクロフェナク点眼との比較

著者: 宮里智子 ,   長嶺紀良 ,   中村秀夫 ,   早川和久 ,   澤口昭一

ページ範囲:P.835 - P.838

 白内障手術中の散瞳維持効果を,ジクロフェナクナトリウム(ジクロフェナク)とブロムフェナクナトリウム(ブロムフェナク)について比較した。両眼が同程度の白内障6例12眼に同一術者が手術を行った。手術の2時間前からトロピカミドとフェニレフリンを15分の間隔で点眼し,さらに一眼にはジクロフェナク,他眼にはブロムフェナクを30分間隔で点眼した。手術は耳側透明角膜切開による超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術で行い,瞳孔径を計測した。灌流液にはエピネフリンを添加しなかった。皮質吸引終了までの縮瞳率,手術終了時の最終縮瞳率には,ジクロフェナク群とブロムフェナク群とで有意差がなかった。ブロムフェナクの術前点眼は,従来から使われているジクロフェナクと同等の効果を示した。

緑内障手術により上脈絡膜出血をきたした2例

著者: 小島麻由 ,   木村英也 ,   野崎実穂 ,   岡部純子 ,   小椋祐一郎

ページ範囲:P.839 - P.842

 緑内障手術による上脈絡膜出血が2例2眼に生じた。1例は落屑症候群の79歳男性で,ad—vanced non-penetrating trabeculectomyの4日後に遅発性上脈絡膜出血が起こった。他の例は原発開放隅角緑内障の75歳男性で,suture canalization術中に,駆逐性上脈絡膜出血が生じた。両症例とも,硝子体手術と経強膜的血腫除去術を後日行った。両症例に共通して,高年齢と無水晶体眼があり,第1例には高血圧,無硝子体眼,術後低眼圧,第2例には高度近視が危険因子として存在した。このような危険因子がある患者での緑内障手術では十分な注意が必要である。

網膜色素変性症での脈絡膜循環の減少

著者: 横地みどり ,   岸章治

ページ範囲:P.843 - P.846

 網膜色素変性症11名21眼の脈絡膜循環を,フルオレセインとインドシアニングリーン(ICG)広角蛍光造影で検索した。年齢は16歳から74歳,平均50.3歳であった。網膜色素上皮が健常な後極部では,両造影法とも正常所見が得られた。すなわち,フルオレセイン造影では脈絡膜の背景蛍光がブロックされ,ICG造影では脈絡毛細管板由来のベール状蛍光があり,その後方の脈絡膜血管もほぼ正常であった。網膜色素上皮が萎縮した中間周辺部では,フルオレセイン造影で透見される脈絡膜血管が細く,背景蛍光が暗かった。ICG造影では21眼すべてでベール状蛍光が欠如し,脈絡膜血管が狭細化していた。網膜色素上皮の健常部と萎縮部との境界は,フルオレセイン造影では過蛍光,ICG造影ではベール状蛍光を呈した。網膜色素変性症での網膜色素上皮の萎縮部に脈絡毛細管板の循環不全があることから,脈絡毛細管板の循環が網膜色素上皮の状態を反映していると考えられる。

格子状変性への予防的光凝固が無効であった症例の検討

著者: 板倉宏高 ,   大谷倫裕 ,   岸章治

ページ範囲:P.847 - P.851

 格子状変性への予防的光凝固後に,裂孔原性網膜剥離が発症した9例9眼を過去3年間に経験した。男性6例,女性3例で,年齢は18歳から72歳,平均45±18歳である。5例では網膜剥離の他眼の格子状変性に対して,その他の4例ではたまたま発見された格子状変性に対して予防的光凝固が行われていた。光凝固から網膜剥離が発症するまでの期間は2年5か月から19年,平均7.5±5.2年であった。網膜剥離の原因には2つのパターンがあった。5眼は弁状裂孔で,全例に後部硝子体剥離があった。4眼は萎縮円孔,3眼には後部硝子体剥離がなかった。以上の症例は,予防的光凝固が必ずしも奏効しないことを示している。奏効しなかったのは,おそらく全例で後部硝子体剥離が末発の時期に光凝固が行われたためと推定した。

ジクロフェナクナトリウム点眼が原因と考えられた角膜潰瘍の2例

著者: 氏岡晶子 ,   松本光希 ,   宮嶋聖也 ,   谷原秀信

ページ範囲:P.852 - P.856

 抗炎症薬ジクロフェナクナトリウムを点眼中の2例2眼に角膜潰瘍が生じた。1例は76歳女性で,右眼に白内障術前の処置として本剤の点眼が1日4回行われ,点眼開始から5日後に角膜中央のやや下方に深い潰瘍が生じた。涙液分泌減少を思わせる所見が同時にあった。その後,角膜が穿孔し,深層角膜移植が行われた。他の1例はアトピー性皮膚炎,気管支喘息,精神発達遅延がある23歳男性で,右眼網膜剥離のためにシリコーンオイルによる硝子体置換術を受け,シリコーンオイル除去手術後に本剤,オフロキサシン,ベタメタゾンをそれぞれ1日4回点限していた。点眼開始から18日後に内下方の角膜に潰瘍が生じた。本剤の点眼を中止し,抗菌薬と副腎皮質ステロイド薬の点眼で上皮再生が得られた。

脈絡膜骨腫2例のフルオレセインおよびインドシアニングリーン蛍光眼底造影所見

著者: 松永寛美 ,   川野敏夫 ,   加藤勝 ,   堀田喜裕 ,   高橋邦昌

ページ範囲:P.857 - P.862

 脈絡膜骨腫の2例4眼を検索した。症例は23歳女性と25歳男性で,骨腫の短径は4眼とも8乳頭径以上であった。病変部は,骨腫の中央部の黄白色部位,それよりも周辺にある燈色部位,軽度の色素沈着を伴う萎縮部位の3つに大別できた。フルオレセイン蛍光造影では,骨腫全体が早期から後期に至る過蛍光を呈し,内部の血管の造影と組織染によると解釈された。過蛍光の程度は橙色部位よりも黄白色部位で強く,橙色部位では網膜色素上皮が正常に近い状態にあることを示していると解釈された。インドシアニングリーン蛍光造影では,萎縮部位を除いて骨腫全体が過蛍光を呈し,腫瘍内の血管が豊畠であることを示していると解釈された。橙色部位では低蛍光を示す部位があり,腫瘍内の血管の未熟さ,または腫瘍によるブロックと解釈された。

外転運動障害で初発した上咽頭癌の1例

著者: 荘司琢郎 ,   菅原正容 ,   高村浩 ,   山下英俊

ページ範囲:P.863 - P.866

 59歳男性が10か月前から複視を自覚した。既往として約30年にわたる右聾があった。初診時に右眼の外転神経麻痺があり,コンピュータ断層画像(CT)と磁気共鳴画像(MRI),上咽頭生検により,海綿静脈洞にまで浸潤した上咽頭癌と診断された。腫瘍は耳管を閉塞させた後に頭蓋内浸潤し,海綿静脈洞の外転神経を障害していた。以前からの聾のため耳症状を自覚せず,眼症状のみを主訴に診断に至った。眼球運動において外転障害を呈する症例では,上咽頭腫瘍も鑑別疾患として常に念頭におくべきと考えられた。

視神経炎の光干渉断層計による所見

著者: 吾妻潤子 ,   山下美和子 ,   小川明日香 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.867 - P.870

 74歳男性が3週前からの右眼視力低下で受診した。視力は右0.04,左1.2であった。右眼視神経乳頭は充血,腫脹し,急性視神経炎と診断した。光干渉断層計(opticai coherence tomography:OCT)による検査で、乳頭周囲の網膜に視神経線維層の肥厚があり,視細胞層に細胞間の間隙があった。プレドニゾロンの全身投与開始52日後に右眼視力は0.2に改善し,治療前にあった上記OCT所見は減少した。OCTは視神経炎の治療効果の判定に有用である。

広島県御調町における眼科検診

著者: 岡田真弓 ,   塚本秀利 ,   高松倫也 ,   岡田康志 ,   向井聖 ,   三嶋弘

ページ範囲:P.871 - P.873

 広島県御調町で緑内障などの検出を目的として眼科検診を実施した。住民約8,000人のうち278名が受診し,視力,眼圧,細隙灯顕微鏡,眼底撮影の検査を受けた。69名(25%)が要精査と判定され,うち27名(10%)43眼に乳頭所見から緑内障が疑われた。69名中47名(68%)が二次検診を受け,10名18眼が緑内障と診断された。視神経乳頭評価の緑内障スクリーニングにおける敏感度は94%であった。一般住民を対象とする健康診断では,視神経乳頭の評価に加えて簡便な視野検査を導入することが望ましい。

連載 今月の話題

インターフェロン網膜症

著者: 早坂依里子

ページ範囲:P.663 - P.667

 近年インターフェロンの使用の増加とともに,インターフェロン網膜症の症例が数多く報告されるようになった。日本では,特に慢性C型肝炎に対してインターフェロン療法がよく行われている。自験例とこれまでの報告を参考に,インターフェロン網膜症の特徴について概説する。

眼の遺伝病・33

ミトコンドリア遺伝子異常(1)

著者: 高橋佳奈 ,   竹下孝之 ,   和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.669 - P.671

はじめに
 Leber遺伝性視神経症(Leber hereditary opticneuropathy:レーベル病)は,通常,若い男性に生じる両眼性視神経症で,急性期に特徴的な視神経乳頭所見を示し,最終的には両眼性視神経萎縮を呈して,永続的な視力低下をきたすことの多い疾患である。1988年に本症にミトコンドリア遺伝子の変異が認められることが報告され1),現在までにprimary mutationとして,いずれも複合体INADH脱水素酵素サブユニットの遺伝子内に存在する3460,11778,14484番塩基対の変異が報告されている2,3)
 日本人においては,なかでも最も予後不良である11778変異が90%を占めるといわれている。今回は11778変異を伴ったレーベル視神経症の1例を報告する。

眼科手術のテクニック・146

点眼麻酔下耳側角膜小切開の合併症の処理—(2)眼内レンズ硝子体中落下

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.672 - P.673

 角膜切開はその創口の強度を保つために3.2mm以下であることが必要と報告されおり,fold—able IOLは必要不可欠なレンズである。しかしそれゆえ切開創口の拡大の選択がしにくく,合併症の対処に工夫の要ることが多い。今回はその1例を紹介し,その処理方法を示す。
 症例は核硬度Ⅳで,皮質吸引が問題なく手術は終了したが,インジェクターで眼内レンズ挿入時にレンズが少し通常より早く出てハプティクスにより後嚢が裂け,眼内レンズが硝子体中に落下したものである(図1,2)。切開創口からレンチ氏レンズフック(カティーナK3-5526)にてハプティクスをつかみ出し(図3),レンズ鑷子に持ち替え,サイドポートから核スパーテルをレンズ下に入れ,レンズを嚢内に浮かしながら創口にあるハプティクスをレンズ鑷子にて回転させつつ,嚢外に固定する(図4)。その後,対側のハプティクスをレンズフックで嚢外に上昇させ,回転させながら固定する(図5〜7)。21Gバイマニュアル還流ハンドピースの用意のない施設であったので,サイドポートから粘弾性物質とオビソートを入れるとともに,その注入針で切開創口との間にある硝子体を瞳孔領上の顕微鏡下にある硝子体の観察しやすい位置に移動させ,切開創口から前眼部硝子体カッターを挿入し,ドライビトレクトミーにて前房および後房嚢内の硝子体を切除した(図8,9)。手術終了時の写真は図10に示した。

あのころ あのとき・17

教員生活42年の想い出

著者: 徳田久弥

ページ範囲:P.674 - P.676

 東京大学(含む分院)に足かけ16年,熊本大学に10年,そして杏林大学の初代教授として16年,計42年を大学で過ごした。東大分院は2001年3月をもって幕を閉じ,感無量の思いがする。東大では庄司・中島実両教授と萩原教授にお仕えし,分院では桐沢助教授の宿題報告「眼科領域における化学療法」に同志6人と心血を注いだ。先生が東北大学教授に栄転されたあと,萩原教授の命で本院の講師(外来医長)となり,5年間JJOの編集に携わった。その頃ベーチェット病がわが国でも注目され,萩原教授が特別講演で取り上げられ,そのお手伝いをした。また沖中内科の糖尿病外来患者の眼所見を担当し,熊大助教授になってからも附属の体質研究所と協力して,糖尿病患者の眼障害の調査とアロキサン糖尿家兎による実験研究を続けることになった。

他科との連携

「アタP」に勝るとも劣らない看護婦さんの愛の“手”

著者: 清水暢夫

ページ範囲:P.885 - P.886

 超音波白内障手術は最近のマスコミの報道や口コミにより,多くの患者さんが,簡単で苦痛もなく無意識のうちに終わると解釈している。ところがわれわれ術者の側からは,インフォームドコンセントが重視されており,手術方法から合併症まで説明しなければならない。万一の場合として,核落下や駆逐性出血まで説明している。このため患者さんは,マスコミや口コミなどで理解していた手術に対する概念と医師側の説明との間に,かなりの違いがあることに驚いてしまう。手術中にこんなはずではなかったと思い込み,異常な緊張に駆られてしまう。手術中の操作をすべて痛みと感じてしまう人がいる。そして冷静さを失い眼瞼に力を入れたり,眼球を動かしたり,顔を動かしてしまう。そこで私は,術前の局所麻酔では痛みはとれるが行っている操作はある程度わかり,また,術中に眼球を下転させたり上転させたりと協力してもらう必要のあること,痛みと行っている操作の感じは違うことを説明している。すると,さらに緊張してしまう(らしい)。特に2回目(反対眼)の手術では,前回の手術の記憶と比較してしまうことから緊張する人が多い。局麻の欠点と思われる。
 そこで,ここ数年前より当院においては,当日,患者さんを受け持つ手術室の看護婦が,手術前日に病室を訪問し,患者さんに手術室での手順の説明をしたり,術中に看護婦が側に付いて手を握り,何か異常があったときには患者さんが手を強く握りしめて合図をするようにと説明している。これにより患者さんと看護婦の信頼関係がより密接になっている。そして当日,手術の際には看護婦が脇に座って手を握り,気分は悪くないかとか,もう少しで手術は終わりますよと話しかけている。このことにより患者さんの緊張はかなり緩和され,痛みに対しても神経が和らいでいるようだ。ひいては合併症の軽減につながっている。手術室の看護婦さんに感謝している次第である。

今月の表紙

瞳孔膜遺残

著者: 冨山香織 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.677 - P.677

 患者は71歳,女性。2000年10月,左眼の視力低下を自覚し宮田眼科病院を受診した。初診時,網状になった瞳孔膜が虹彩巻縮輪から伸びており,褐色色素斑が水晶体表面に付着していた。白内障も認められ,視力は0.2(矯正不能)であった。2001年4月に白内障手術(PEA+PCL)と同時に瞳孔膜切除を行い,術後の視力は1.0(1.2)に改論された。
 撮影装置はコーワ社製PHOT SLIT LANP SC−1200を使い,フィルムはフジカラー400PROVIA,倍率は16倍,拡散フィルターを使用し,瞳孔膜を立体的に浮き出るように撮影した。

第55回日本臨床眼科学会専門別研究会2001.10.11京都

眼先天異常

著者: 野呂充 ,   玉井信

ページ範囲:P.874 - P.875

[一般講演]
 1.外表徴候に乏しいマルファン症候群の1例
 向所真規,瀧畑能子(滋賀県立小児保健センター)
 今回われわれは水晶体偏位,心血管異常を認めるが,高身長以外の骨格異常を認めないマルファン症候群の1例を経験したので報告する。

やさしい目で きびしい目で・29

グループ開業の両国眼科クリニック

著者: 石岡みさき

ページ範囲:P.877 - P.877

 私の父は内科医ですが「いつ開業するんだ」と私に聞きます。「もう開業しているじゃない」と言うと「いや,そんな複数のドクターでやるやつじゃなく,やっぱり自分一人でやる開業が本当の開業だ」と言うのです。父にとっては,医者の出世は大学で地位を上げていくか,開業で儲けるかのどちらかしかないらしく,私のやっていることはかなり怪しくうっるらしいのです。
 当院両国眼科クリニックは,1)グループ開業:気の合う仲間で医療法人を設立。経営に口出しするスポンサーもなく,また手術,専門外来と担当が決まっているので,足りない部分を補いあいながら,自由にやっています。仲間がいるので,私自身は研究が続けられるのと学会へも参加できるので助かります。

臨床報告

ぶどう膜炎を伴った眼窩偽リンパ腫の1例

著者: 浜野浩司 ,   坂本貴子 ,   高木武司

ページ範囲:P.887 - P.890

 45歳女性が左眼の下眼瞼腫脹,結膜充血,眼球運動に伴う違和感で受診した。矯正視力は右1.2,左0.6で,左眼に眼球突出,球結膜充血,外転と下転障害があった。中間透光体と眼底には異常がなかった。画像診断で左眼外眼筋の下方に浸潤性の腫瘍があった。眼窩腫瘍亜全摘出術を行い,病理組織学的には偽リンパ腫(reactive lymphoid hyperplasia)であった。角膜後面沈着物を伴う前部ぶどう膜炎が手術の8日後に左眼,1か月後に右眼に生じた。眼窩腫瘍は4回再発したが,プレドニゾロンの全身投与で腫瘍は縮小し,眼球突出は消失し,眼位と眼球運動は正常化した。約2年後に前部ぶどう膜炎が消失し,最終視力は左右眼とも1.0であった。悪性腫瘍の眼外転移の所見はなかった。二原的にぶどう膜炎が発症したと推定する所見はなく,眼窩偽リンパ腫が前部ぶどう膜に浸潤したものと考えられた。

アレルギー性結膜炎患者,春季カタル患者の血漿オステオポンチン濃度

著者: 松浦範子 ,   内尾英一 ,   中沢正年 ,   南陸彦 ,   上出利光 ,   青木功喜 ,   大野重昭

ページ範囲:P.893 - P.896

 アレルギー性結膜炎11例と春季カタル18例につき,血漿オステオポンチン濃度を酵素抗体法キットを使って測定した。健常者12例を対照とした。平均年齢は,アレルギー性結膜炎では32歳,春季カタルでは16歳,対照群では30歳であった。オステオポンチン濃度は,アレルギー性結膜炎と春季カタルそれぞれで対照群よりも有意に高値であった(p<0.05)。アレルギー性結膜炎と春季カタルとの間に有意差はなかった。春季カタルでアトピー性皮膚炎のある10例では,皮膚炎のない8例よりも有意に高値であった。インテグリンを介する細胞接着に関与する酸性糖蛋白であるオステオポンチンが,アレルギー性結膜疾患に関与している可能性があることを示す所見である。

Empty sella症候群に合併した視神経炎の1例

著者: 平田文郷 ,   田村広徳

ページ範囲:P.897 - P.901

 74歳女性が5日前から右眼の下方視野障害で受診した。矯正視力は,右指数弁,左0.4であった。右眼に相対的求心路瞳孔反応障害があった。両眼とも視神経乳頭に異常はなかった。磁気共鳴画像法(MRI)で,右眼に球後視神経炎に相当する所見と,empty sellaがあった。3週後に左眼に視神経炎が発症し,副腎皮質ステロイドのパルス療法を開始したが,十分な視力改善は得られなかった。視機能障害にempty sellaが関与している可能性があることが推定された。矢状断のMRIが本症例でのemptysellaの診断に有用であった。

渦状混濁を呈したアミオダロン角膜症の1例

著者: 池辺徹 ,   調枝聡治 ,   佐藤恭一

ページ範囲:P.902 - P.905

 52歳女性に,心筋梗塞後の頻拍に対して1日量200mgのアミオダロン投薬が開始され,14か月後に両眼の渦状角膜症が発見された。その後も投薬が続けられ,角膜浅層の渦状薄茶色の混濁は変動しながら持続した。角膜表面には異常がなかった。投薬開始から29か月後に死亡するまで視力障害はなかった。本症の角膜混濁がドライアイの涙液干渉像に類似することから,色素沈着は涙液を介する可能性がある。

眼トキソカラ症に対する治療法の検討

著者: 浦野哲 ,   田口千香子 ,   棚成都子 ,   吉村浩一 ,   疋田直文 ,   山川良治 ,   赤尾信明 ,   望月學

ページ範囲:P.908 - P.913

 過去11年間に加療した眼トキソカラ症16例を検討した。男性11例,女性5例であり,すべて片眼性であった。年齢は9歳から73歳,平均38歳であり,12例が20歳以上であった。病型はwilk—insonらの3型に加え,異なる病型が同時にある混合型の4型に分類した。内訳は,周辺部型10例,後極部型2例,眼内炎型2例,混合型2例であった。病変がすでに固定している2例を除く14例に全身的に薬物を投与し,7例で病巣が沈静化した。再燃した7例中4例に網膜冷凍凝固を行い,3例が再燃した。硝子体手術は6例(再燃4例,増殖硝子体網膜症1例、硝子体出血1例)に行い,病巣が除去できた3例では以後再燃がなかった。最終視力は改善6例,不変7例,悪化1例であった。保存的治療後に再燃した例には硝子体手術が有効であるが,抗原が存在する病巣を除去する必要がある。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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