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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科57巻1号

2003年01月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

正常眼圧緑内障眼の視神経乳頭における病理組織変化

著者: 福地健郎 ,   上田潤 ,   阿部春樹

ページ範囲:P.9 - P.15

 正常眼圧緑内障(NTG)の病因機構にアプローチするきっかけとして,自験例を含めた報告例をまとめ,これまでに明らかにされている原発開放隅角緑内障(POAG)眼,実験緑内障眼の変化と比較した。これまでに報告されている限りでは,NTG眼の視神経乳頭部を含む病理組織学的所見はほぼPOAG眼,実験緑内障眼に類似している。ただし,篩状板はより貧弱で崩壊所見が強く,軸索の腫脹,空洞状変性が各所でみられた。NTGにおいても基本となるメカニズムはPOAG眼などと類似しているが,視神経障害が生じやすい背景や助長する因子はNTGでより強い可能性がある。

眼の遺伝病 41

ハーバード便り(1)

著者: 和田裕子

ページ範囲:P.16 - P.17

 早いもので「眼の遺伝病」も40回が過ぎました。40回といえば,すでに連載を始めて3年以上経過したことになります。はじめにこのお話を玉井信教授からいただいたときは,毎月の締切に追われ,継続できるかどうか,実験と臨床との両立ができるかどうかという多くの不安と,挑戦してみたいというわくわくした気持ちが入り交じっていたことを覚えています。「臨床眼科」誌上にシリーズで報告するということは,確実に遺伝子異常を見つける必要があり,さらにその詳細な臨床像が必要になります。それを毎月報告するわけですから,成し遂げたときの充実感は想像をはるかに超えるものだろうという気持ちはありましたが,不安のほうがそれ以上に大きかったと思います。

 今回は少し趣きを変えて,ボストンでの留学生活を連載の一部として報告させていただくことになりました。本当に光栄で,感謝の気持ちでいっぱいです。ここでは,今後,留学を考えている先生方に,私が留学生活で経験できたことを伝えることができればと思います。

あのころ あのとき 25

医師への道のり,多くの支え

著者: 小林俊策

ページ範囲:P.19 - P.21

 昭和20年8月15日,夏真っ盛りの暑いさなか,私は,当時在学していた中国奉天(現在の瀋陽)にあった満州医科大学(図1)の卒業を9月に控えながら,学生寮の友人達とマージャン卓を囲んで笑いながら楽しんでいた。その時,“ドンドン”とドアがたたかれ,友人の1人がかけこんできた。

 「お前たち何をしている! 日本は戦争に敗けたんだぞ」と叫びながらマージャンのテーブルをけりあげた。もちろんパイは大きく飛び散った。

 「ここで戦うんだ」,「殺されるかもしれない」と皆で言いあったが,とにもかくにもその夜は何ごともなく過ぎていった。

 附属病院は中国国府軍に接収され,出入りが禁じられたので,学生達はその後,満州医科大学の同窓会の先輩たちが市内の所々に作った診療所で全員働かせてもらえることになった。日本人・中国人・朝鮮人・ロシア人と,多くの国籍の患者がつぎつぎとやってくるので,各科で診療の手助けをしながら帰国を待った。奉天から貨物列車でコロ島に行き,船で帰国の途に着いたのは,昭和21年夏であった。

他科との連携

診療依頼および連絡用紙

著者: 土屋款

ページ範囲:P.66 - P.67

 眼科において他科との連携を考えたとき,他科とは内科,脳神経外科,耳鼻咽喉科,形成外科などですが,聖マリアンナ医科大学病院眼科(以下,当院)では外来患者,入院患者ともにすべての科で関わっています。というのは,すべての科の医師との連絡として当院では,「診療依頼および連絡用紙」という用紙があり,この用紙を使って患者の状態,状況の報告や検査,治療などの依頼をしています。この「診療依頼および連絡用紙」について書きたいと思います。

 私が,「診療依頼および連絡用紙」を初めて書いたのは,研修医1年目のときに受け持ちの入院患者についてでした。書き方指導のときにまず教えられたことは,診療を依頼する他科の先生に失礼のないようにすること,わかりやすい内容にすることなどを言われました。始まりは「いつも大変お世話になっております」で,最後に「お忙しいところ恐縮ですが,よろしく御高診お願いいたします」の2つの文は忘れずに入れておくようにと言われました。そうしたことから,忘れる前に用紙の最初と最後にはじめから2つの文をまず入れておき,その後に診療依頼文を書くことにしました。

臨床報告

開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査

著者: 吉川啓司

ページ範囲:P.35 - P.40

要約 点眼薬で3か月以上治療中の開放隅角緑内障145例について,治療開始時に点眼薬名,点眼回数,点眼時刻を説明した上で,その治療状況を面接法により調査した。年齢は29歳から82歳,平均59.9±12.9歳である。点眼薬名は62例(42.8%)が記憶し,点眼回数は135例(93.1%),点眼時刻ないし間隔は114例(78.7%)が指示に従っていた。点眼薬名の記憶は,女性よりも男性(p<0.01),高年者よりも若年者(p<0.001),点眼期間が長いほど(p<0.01)良好であった。点眼方法の指示には,受診頻度が高いほど(p<0.05),点眼薬の追加がある場合(p<0.05),点眼期間が短いほど(p<0.001)よく従っていた。

増殖糖尿病網膜症の臨床像と硝子体中血管内皮細胞増殖因子

著者: 横井匡彦 ,   大神一浩 ,   渡辺一順 ,   大野重昭 ,   古館直樹 ,   加瀬学

ページ範囲:P.41 - P.45

要約 増殖糖尿病網膜症24眼で,硝子体手術中に採取した硝子体中の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)値を検索した。11眼では光凝固の既往がなく,13眼では汎網膜光凝固が行われていた。硝子体VEGF値は,光凝固未施行群では2,707±1,171pg/ml,施行群では903±584pg/mlであり,未施行群では施行群よりも有意に高値であった(p<0.01)。網膜剝離や増殖膜の有無でVEGF値に差はなかった。未施行群では硝子体出血があるときVEGFが高かったが(p<0.05),施行群では硝子体出血は関係しなかった。増殖糖尿病網膜症で硝子体VEGF値と関係する臨床像は,網膜上の新生血管と,虹彩または隅角ルベオーシスであると推察された。

眼内レンズ挿入術後の眼球破裂に対し一期的に硝子体手術を行った2症例

著者: 坂本英久 ,   馬場恵子 ,   小野英樹 ,   久保田敏昭 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.49 - P.54

要約 鈍的外傷により眼球破裂を起こした2眼に,創の縫合と硝子体手術を当科受診当日に行った。1例は63歳女性で,受傷の7年10か月前に超音波白内障手術と眼内レンズ挿入術を受けていた。他の1例は77歳女性で,受傷の4年5か月前に黄斑円孔に対して硝子体手術,超音波白内障手術,眼内レンズ挿入術が行われていた。両症例とも,眼球破裂創は過去の眼内レンズ挿入術創が拡大するかたちで生じていた。第1例には前房と硝子体出血,第2例には全網膜剝離が併発していた。経過は良好であり,第1例の矯正視力は光覚弁から0.9に,第2例では零から0.04に回復した。鈍的外傷による眼球破裂では視力予後が不良であることが多いが,これら2症例では受傷早期の硝子体手術により良好な結果を得ることができた。

短絡電気火花による両眼角膜熱傷の1例

著者: 鶴岡智 ,   小林顕 ,   白尾裕 ,   朝井靖彦 ,   川筋綾子 ,   八田尚人

ページ範囲:P.73 - P.76

要約 34歳男性が,古紙プレス機の200V分電盤を掃除していて,電源が短絡した火花によって両眼に角膜熱傷が生じた。受傷2時間後の初診時の矯正視力は,両眼とも0.05であった。角膜中央部から鼻側に,角膜の2/3を占める混濁と,多数の銅の粒が角膜上に付着していた。洗眼後,角膜銅片異物と,壊死混濁した角膜上皮を除去した。抗生物質と副腎皮質ステロイド薬で感染予防と消炎をはかり,さらに治療用ソフトコンタクトレンズを装用させた。角膜上皮欠損はすみやかに修復し,受傷後3日後に消失した。受傷2週間後に矯正視力は両眼とも1.0に回復した。

虹彩結節を伴うぶどう膜炎

著者: 吉貴弘佳 ,   中林條 ,   小林かおり ,   小林博 ,   沖波聡

ページ範囲:P.77 - P.80

要約 虹彩結節を伴うぶどう膜炎を,1997年までの6年7か月間の自験例について検索した。ぶどう膜炎263例のうち,55例73眼(21%)に虹彩結節があった。内訳は,サルコイドーシスが17眼(23%),原田病15眼(21%),HTLV-1関連ぶどう膜炎12眼(16%)などであった。原田病遷延例では,虹彩結節があるもの13眼(87%),ないもの5眼(20%)であり,遷延化と虹彩結節の存在に有意差があった(p<0.01)。原田病発症時に虹彩結節があると再燃の頻度が有意に高かった(p=0.02)。原田病と比較して,サルコイドーシスでは虹彩結節があると隅角結節が有意に多かった(p=0.002)。

未熟児に発症した桐沢型ぶどう膜炎の1例

著者: 佐々田知子 ,   市川理恵

ページ範囲:P.83 - P.86

要約 在胎週数29週,1,308gで生まれた女児の左眼に硝子体混濁が生後48日目に発見された。生後28日目の眼底検査では,両眼の耳側周辺部に血管新生を伴う無血管野のみがあった。生後51日目に,左眼眼底の鼻上側に小出血を伴う黄白色滲出巣が生じ,桐沢型ぶどう膜炎と診断した。アシクロビルと副腎皮質ステロイド薬の全身投与を行ったが,発症から約1か月後に右眼にも同様の病変が生じた。左眼は再発を繰り返したが,病巣は消炎,変性し,発症から3か月以降は再燃はなかった。生後3か月ころから口唇と手指に水疱が繰り返して起こり,単純ヘルペスウイルス感染がその原因であると推定した。

カラー臨床報告

緑膿菌による壊死性強膜炎の1例

著者: 戸栗一郎 ,   久保田敏昭 ,   松浦敏恵 ,   鬼塚尚子

ページ範囲:P.25 - P.28

要約 65歳女性が右眼壊死性強膜炎として,発症から約10日後に紹介され受診した。20年前に翼状片手術が右眼に行われていた。慢性関節リウマチなど自己免疫疾患の既往はなかった。初診時視力は右1.0であり,右眼鼻側強膜が菲薄化し,結膜充血,毛様充血,前房の炎症所見があった。プレドニゾロン120mgを漸減投与したが病巣は拡大した。眼脂から培養で緑膿菌が検出され,これによる強膜炎と診断した。抗生物質の点眼と,塩酸シプロフロキサシン,トブラマイシン,ホスホマイシンの点滴を開始した。強膜菲薄化は停止し,徐々に結膜が病巣を被覆した。治療開始から13か月で強膜の菲薄化は残っているが,炎症は消失し,0.9の視力を維持している。片眼の壊死性強膜炎が緑膿菌感染で起こり得ることを示す症例である。

In situ hybridization法を用いてヒトパピローマウイルスを検出した結膜乳頭腫の再発例

著者: 伊藤由香 ,   小幡博人 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.29 - P.32

要約 再発を2回起こした20歳男性の左眼涙丘部の結膜乳頭腫に対し,ヒトパピローマウイルス(HPV)を検出する目的で,切除組織のin situ hybridizationを行った。ワイド・スペクトラムHPVプローブを用い,腫瘍の表層の細胞内に陽性像が認められた。再発性または多発性の若年者の結膜乳頭腫がHPVの感染によることを示す症例である。このような症例にはHPVの検索と,ウイルス感染を考慮して腫瘍細胞を播種させないような手術操作が必要である。

解説

コンタクトレンズによる角膜障害につき医師側の過失を認めた判決の教えるもの―大阪地裁堺支部,平成14年7月10日判決全文を読んで

著者: 岩瀬光

ページ範囲:P.68 - P.71

 1.はじめに

 本件は,コンタクトレンズ(以下,CL)を購入した原告が,その販売店およびそれに隣接して眼科診療所を開設する医師に対し,販売店従業員や眼科医師の不適切な説明,診療により左眼に角膜混濁や矯正視力低下などの後遺障害が残ったとして不法行為に基づく損害の賠償を求めた事案である。そして,この判決はわが国で初めて,CL販売店と,同店に実質上雇われている眼科医師の双方に過失責任を認めた判決である。

 現在,CLの相当量がCL量販店で販売されている(2000年の日本眼科医会報道用資料によると,社会人では24.9%が「CL販売店」で,30.6%が「眼科」で購入となっている)。そして最近ではアルバイト医師ではなく,眼科開業形態を取ることが多くなったとはいえ,実質上CL量販店に雇われたに等しい医師が診療にあたっていることが多い。こうした量販店でのCLによる角膜トラブルが増加している。

 他方,ソフトコンタクトレンズ(以下,SCL)の消毒法は従来の煮沸消毒からマルチパーパスソリューション(以下,MPS)によるコールド消毒が主流になってきている。その場合,「これ1本で浸け置きだけでOK」の宣伝で,「蛋白除去」や「こすり洗い」がないがしろになっている事実がある。これによるCLトラブルも増加している。

 今回の判決は,こうした背景の中で起こった事件に関するもので,CL量販店やそこに雇われた医師ばかりでなく,CLを扱うすべての眼科医師にとっても警鐘となるものだと考えられる。

今月の表紙

デメス膜剝離(Descemet's membrane detachment)

著者: 福井勝彦

ページ範囲:P.34 - P.34

 74歳男性。右眼白内障に対し超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行の際,角膜創から27Gの鈍針を角膜実質とデメス膜の間に挿入,ヒアルロン酸が注入されてデメス膜剝離を起こした症例である。旭川医科大学附属病院眼科を紹介され受診した際の視力は0.1(0.5),眼圧は14mmHgで,角膜のほぼ中央部に直径約4mmの円形のデメス膜剝離を認めた。眼内レンズは囊外に挿入されていた。前房内からのアプローチにて剝離部に切開を加え,洗浄およびSF6によるタンポナーデを施行,術後デメス膜剝離は完全に復位し,視力0.4(1.0)となった。

 透明な角膜ほど細隙光によるチンダル現象が得られ難い。チンダル効果が得られる最小のスリット幅に調整,フォーカスは角膜前面に合わせた。カメラ側を鼻側方向へ30~40度傾斜させて角膜前面と剝離したデメス膜までを含めて焦点が合うように撮影した。フォトスリットは,焦点深度が浅いため詳細な病変部の解像度と焦点深度の深さの双方を確保できる撮影倍率(1.6倍)を選択することがポイントである。撮影光源のキャッチライトを病巣部から避ける位置に被検者の眼の向きを固視灯でわずかに移動させる。スリットに背景照明を加えると周囲の組織との位置関係を把握することができ,より病変部を理解しやすくなる。フォトスリットはコーワ社製SC-1200,フィルムはFUJI-RHP(ISO400)。

やさしい目で きびしい目で 37

「検診」について考えさせられる話

著者: 岩瀬愛子

ページ範囲:P.57 - P.57

 日本緑内障学会は,平成12・13年度で,岐阜県多治見市で緑内障の疫学調査を兼ねた大規模な眼科検診を実施した。40歳以上の市民のうち,無作為抽出対象者に選ばれた方には検診への協力をお願いする一方で,1人でも多くの希望者が受診できるようにと,常設検診会場の他に市内の体育館などの公共施設を利用した巡回検診を実施した結果,17,800人が受診する一大プロジェクトになった。結果の解析が今進められているが,現地でのエピソードの中から,「検診」について考えさせられる話を2つ拾ってみた。

 症例1 74歳男性。一次検査の眼底写真と視野検査異常で二次検査に回った。男性「私の趣味はドライブ。先週運転免許を更新したばかりで,無事故無違反40年です! 視力検査で全然引っかかったことはない。現に昨日は福島に嫁いだ娘の家に中央高速と首都高速と東北自動車道を乗り継いで行ってきたばかりです。なんで,私の眼が悪いんだ!」私「あなたの眼は緑内障だと思います。視力は確かに両眼1.5ですが,視野検査の結果,中心10度ぐらいのまわりに見えていないところがあります」男性「もう運転できないということですか。眼には自信があるんですよ」。現行の運転免許用検査や職場検診など「視力」だけの検査を受けていると,視野異常は見つけられない。緑内障の症状がいかに自覚されにくいかの1例であった。

ことば・ことば・ことば

ページ範囲:P.59 - P.59

 イギリスの歴史で最大の出来事といえば,1066年のNorman Conquest「ノルマン人による征服」だと思います。それまではアングロサクソンの人々の国だったのが,これを機にフランス系統の貴族が支配することになったからです。ちょうど元冦のときに神風が吹かず,日本が負けた場合に相当するでしょうか。

 これで英語も大きく変わりました。フランス語も同時に入ってきたので,単語によっては同じものを指すのに2つの呼び方ができました。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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