icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科57巻10号

2003年10月発行

雑誌目次

特集 網膜色素変性症の最前線

序説―厚生省特定疾患調査研究班の取り組みをふり返って

著者: 玉井信

ページ範囲:P.1520 - P.1521

 日本における網膜色素変性の基礎,および臨床研究は,昭和40年代に厚生省に組織された難病対策課が始めた特定疾患対策研究事業の1つとして,昭和47年に網膜色素変性症を取り上げられたことに始まるといってもよい。この経緯については「日本眼科の歴史」第3巻に詳しい。略述すると,研究班は「網膜色素変性症の臨床・病因・疫学に関する研究」と題され,昭和48年,三島済一教授(東京大学)の班長のもとに班員17名,研究協力者28名で発足した。班研究の目的を,日本でまだ系統的に研究されていなかった本疾患の病因や疫学研究など幅広くしたため,眼科臨床研究者はもちろんのこと,小児科,神経内科,産婦人科,精神科,衛生学,国立遺伝学研究所人類遺伝学部などの先生方も加わっており,難病解明に対する意気込みを伺うことができる。その後,昭和52年に植村恭夫教授(慶應大学)が班長に就任し,高度近視,脈絡膜異常,黄斑部異常による網膜脈絡膜萎縮の3つの分科会に分けられ,11~15名の研究班員,4~5名の研究協力者によって進められた。さらに昭和58年に中島章教授(順天堂大学),昭和63年に松井瑞夫教授(日本大学),平成5年に本田孔士教授(京都大学)が班長になられ,その研究活動が引き継がれた。

 この研究班は眼科学会が主体の唯一の研究班として,時代とともに厚生省の考え方や時代の要請,また班研究を担当される先生方の方針を反映しており興味深い。平成8年,玉井信(東北大学)が班長になった時点で,厚生省の指示により難治性視神経症も取り上げられた。これらの研究経過をみると,時代とともに網膜色素変性症の病因に対する考え方に反映され,また取り上げる疾患も定型網膜色素変性症から広い意味での網膜ジストロフィー,そして高度近視や老人性円盤状黄斑変性(加齢性黄斑変性)へと広がり,名称も少しずつ変わってきたことを示している。また研究内容も科学の進歩に伴い,初期の疫学調査,疾患の診断基準の作成から,培養技術を利用した網膜色素上皮の研究,レーザー照射機器の臨床応用に伴う黄斑疾患に対する治療の試みなどが話題となり,さらにDNA診断の基礎的研究が昭和61年度に,翌年には色素変性症の分子遺伝学的研究が始めて発表され,この研究班と班員の活動が常に時代の最先端の成果を生み出してきていることを示している。

網膜色素変性症の病態(1)―遺伝子解析を中心に

著者: 和田裕子

ページ範囲:P.1522 - P.1528

はじめに

 網膜色素変性は,夜盲,視野狭窄,視力低下を主訴とする遺伝性の網膜変性疾患である。長年,家族発症で,さらに夜盲,視野狭窄を示す疾患の存在は知られていた。1851年にHelmholtzによりOphthalmoscopeが発明され,1853年にvon Tright,また1854年にRueteにより網膜色素変性の症例が報告された1,2)

 Dondersら3~4)により,1855年に「Retinitis pigmentosa」という言葉がこの疾患に対して初めて用いられた。Retinitis pigmentosaは「炎症性」の意味が大きく,実際には本疾患は「dystrophy」,または「genetically determined degeneration」の意味が強い疾患である。現在までに,網膜色素変性に対しては「retinitis pigmentosa」,「tapeoretinal degeneration」,「primary pigmentary retinal degeneration」,「pigmentary retinopathy」,「rod-cone dystrophy」などさまざまな言葉が用いられているが,海外,または本邦では「retinitis pigmento-sa」,または「網膜色素変性」が広く普及している。

網膜色素変性症の病態(2)―機能面を中心に

著者: 中村誠

ページ範囲:P.1530 - P.1534

はじめに

 平成8年度から13年度(1996~2001年)にわたり,玉井信班長のもとで厚生省特定疾患網脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班では,網膜変性疾患,視神経変性疾患,加齢性黄斑変性症を主な対象として活発な研究がなされ,数多くの成果が報告された。これらのうち,本稿では網膜色素変性症の主に機能面について,各施設からの研究成果を若干の文献的考察を加えて紹介する。なお,誌面の都合上,すべての成果を紹介できなかったことをお断りする。

網膜色素変性症の治療

著者: 中沢満

ページ範囲:P.1536 - P.1539

はじめに

 網膜色素変性の病態は,1990年頃からの分子生物学や分子遺伝学の急速な臨床医学への応用により大幅に理解が進み,一部では原因遺伝子の同定もなされるようになってきた。本邦においても厚生労働省特定疾患調査研究班を中心として遺伝子解析研究がなされ,いくつかの新規原因遺伝子変異が報告されてきたのは周知の通りである。臨床医学における遺伝子診断,および遺伝子解析研究の本来の目標はこの疾患の根本的原因を解明することにより,発症機序を明らかにして将来期待される新しい治療法開発への基礎データの提供を行うことにあるといえる。一方,本疾患の治療法開発に向けた研究も遺伝子解析研究の後を追うように,これまで明らかになった遺伝子解析の知見を利用しつつ,さまざまな新しい研究手法を組み合わせながら着実に進展してきている。

 本稿では「網膜色素変性の治療」に関係する近年の研究状況を総括することを目的として,薬物治療,遺伝子治療,人工視覚,および移植医療・再生医療の順に,筆者の理解の範囲でできるだけ簡単に報告する(表1)。

加齢黄斑変性の病態

著者: 吉田綾子 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.1540 - P.1545

はじめに

 加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)は高齢者の黄斑に生じる疾患で,高齢化社会の進行に伴い増加の一途をたどっている。Birdら1)は加齢に関連した黄斑の変化を加齢黄斑症(age-related maculopathy:ARM)としてまとめ,初期と後期に分けた。初期加齢黄斑症(early ARM)とはドルーゼンや網膜色素上皮細胞(retinal pigment epithelial cell:RPE)の異常がみられるもので,後期加齢黄斑症(late ARM)とは脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization:CNV)が関与する滲出型と,CNVが関与せず網膜色素上皮(retinal pigment epitheliun:RPE)や脈絡膜毛細血管の地図状萎縮病巣を認める萎縮型に分類される。すなわちlate ARMはAMDを指す。比較的視力予後がよい萎縮型に比べて,滲出型は視力低下をきたすことが多く,臨床的に重要な疾患となっている(図1)。滲出型AMDでは,黄斑に脈絡膜からRPE下,あるいは網膜下に新生血管が伸展し,出血や滲出性病変を生じ,最終的には瘢痕組織を形成する疾患である。その基本病態はCNVである。

加齢黄斑変性の治療(1)―外科的治療を中心に

著者: 阿部俊明

ページ範囲:P.1546 - P.1549

はじめに

 加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)は網膜色素上皮(retinal pigment epithelium:RPE),Bruch膜,脈絡膜レベルの加齢変化などのために,脈絡膜新生血管(choroidal ne-ovascularization:CNV)が網膜下に発生し,黄斑部を中心にさまざまな程度の出血,滲出物,漿液性網膜剝離などをきたす(図1)。眼内に出現する新生血管は,予後不良であることが多く,直接失明につながることもある。AMDは欧米では頻度が高く失明原因の第1位を占め,白人に多いと考えられてきた。しかし最近の九州大学の久山町の調査1)では,日本でも決して少なくなく,今後早急な対応が迫られる疾患の1つである。最近はAMDに対してさまざまな治療法が報告され,病態に応じた治療法がある程度選択されるようになってきた。しかし,一度病態が確立するといまだに確立された治療はなく,日常診療では対応に苦慮することが多い。

加齢黄斑変性の治療(2)―非外科的治療を中心に

著者: 湯沢美都子

ページ範囲:P.1550 - P.1556

はじめに

 加齢黄斑変性の脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization:CNV)に対する治療の検討が盛んになったのは1990年代に入ってからである。わずか10年間に,中心窩外のCNVについては光凝固の有用性が確立された。中心窩CNVについては各種治療の有用性の検討が進んでいる。予防治療の検討も始まった。本稿では加齢黄斑変性の外科的治療以外の進歩(表1)について紹介し,治療の未来について考えてみたい。

視神経症の病態と治療―レーベル遺伝性視神経症

著者: 小口芳久

ページ範囲:P.1558 - P.1562

はじめに

 レーベル遺伝性視神経症(Leber's hereditary optic neuropathy)は,Theodor Leber1)が1871年に報告した,主として10~20歳代にかけて両眼性に急性,あるいは亜急性の視力低下で発症し,通常1年以内に高度の視神経萎縮になる予後不良の遺伝性疾患である。今回,本疾患に対して教室で取り組んできた病態の解明,ならびに治療について解説する。

連載 他科との連携

ドライアイと他科との関連

著者: 清水一弘

ページ範囲:P.1564 - P.1565

 ドライアイは単なる乾き眼の範疇を超えて他臓器と非常に多彩なかかわり合いを持つ症侯群です。したがって他科との関連も自ずと切り離して考えることはできません。

 代表例はシェーグレン症侯群です。1933年スウェーデンの眼科医シェーグレンがドライアイとドライマウスの患者に関節リウマチを合併した患者を報告したのが最初です。自己免疫疾患の1つとされており,免疫機構に異常が生じ,自身の体の一部を非自己と認識して攻撃してしまう症侯群です。自己免疫疾患としてはリウマチに次いで2番目に多く年々増加傾向にあり,10万人以上の患者がいるといわれています。そのターゲットとなるのが,涙腺や唾液腺などの分泌腺で,重度のドライアイやドライマウスを発症します。40歳代以降の女性に多く,患者の9割が女性といわれています。内科では膠原病内科で治療されることが多いと思います。

眼の遺伝病 50

Peripherin/RDS遺伝子異常による網膜変性(9)―Arg172Trp変異をもつ常染色体優性黄斑変性の一家系

著者: 和田裕子 ,   板橋俊隆 ,   玉井信

ページ範囲:P.1578 - P.1580

 今回は,peripherin/RDS遺伝子のArg172Trp変異をもつ常染色体優性黄斑変性1家系を報告する。この変異は,すでに1993年にWellsらにより報告されている変異でり,日本人家系でも1995年に中沢ら1)により報告されている。

 コドン172に起きる変異は,本症例のように黄斑変性,または錐体ジストロフィーを示すことが多い。

眼科図譜341

眼球突出にて発見された脳血管障害の1例

著者: 槙島豊 ,   井端由紀郎

ページ範囲:P.1582 - P.1583

緒言

 眼球突出をきたす疾患の1つに頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF)がある1)が,今回,学校検診にて眼球突出を指摘され,脳血管異常が発見された症例を経験したので報告する。

日常みる角膜疾患 7

梅毒性角膜実質炎後角膜白斑

著者: 森重直行 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1584 - P.1586

症例

 患者:78歳,女性

 初診:2001年10月18日

 現病歴:両親から,幼少時より視力は悪かったといわれていた。最近徐々に視力が低下してきたため近医を受診したところ,両眼の角膜混濁を指摘され,当科を紹介され受診した。

 眼科的既往歴:左眼に網膜中心静脈分枝閉塞症(77歳時)

 全身的合併症:特記すべきことはない。

 初診時所見:視力は右0.01(矯正不能),左0.4(0.5×S-1.0D cyl-1.0D Ax130°),眼圧は右19mmHg,左13mmHgであった。両眼角膜には,実質中層から深層にかけてghost vesselを伴う瘢痕を認めた(図1)。両眼とも水晶体はEmery分類でgradeIIの白内障を認めた。眼底は,左眼で小出血を認めたが,右眼は透見不能であった。眼軸長は右眼25.6mm,左眼24.3mmで,B-modeエコー上で右眼には後部ぶどう腫を認めたが,そのほか特記すべき所見は認めなかった。

緑内障手術手技・4

線維柱帯切開術(4)

著者: 黒田真一郎

ページ範囲:P.1588 - P.1592

プローブの挿入

 まず,プローブの径を決定することが大切である(プローブは,現在,直径13mm,14mm,15mmの3種類が市販されている)。シュレム管の露出を確認した後で,実際にプローブをシュレム管の上に置いて,シュレム管のカーブとプローブのカーブを合わせてみる(図1)。角膜径が大きいとプローブの径は大きいものが必要となるが(先天緑内障などで角膜径が大きくなっている場合や男性の場合),筆者は15mmを基本として使用している。

 プローブの径が小さいと,先から突き破るようになり内壁を切開しやすいが,早期穿孔を起こしやすくなる。逆に,径が大きいと早期穿孔の心配は少なくなるが,内壁を破り難くなる。

私のロービジョンケア・6

高齢者には見やすい工夫を―コントラストをつけよう

著者: 高橋広

ページ範囲:P.1594 - P.1598

 前回は,高齢視覚障害者の心の葛藤について述べたが,人はだれでも高齢になると,健康であっても加齢による変化は避けられず(表1),視機能は低下する1~4)。視力は低下し,視野は狭くなるといわれており,それに伴って日常生活上も問題が生じてくる。その意味から,全ての高齢者にはケア,すなわちロービジョンケアが必要である。まして,白内障,緑内障や加齢黄斑変性などは加齢とともに増加するし,網膜色素変性症や糖尿病網膜症患者も齢を重ねるのは自然の摂理である。このため,視覚障害者の約6割が65歳以上の高齢者である現実を鑑み5),ロービジョンケアは介護において大きな課題となっている。今回はこのような高齢者がものを見やすくなるための工夫,コントラストなどについて考えてみる。

あのころ あのとき 34

医への道のり(1)

著者: 佐野七郎

ページ範囲:P.1600 - P.1602

細隙灯顕微鏡による水晶体の光学的不連続帯の研究

 研究は,指導者(教授)の指導の先へ先へと歩まねばならない。着想と想像力と努力がよい結果を産み,成功へと導いていくと考える。

 「君の研究はどこまで進んでいるかね」。大橋孝平教授は,おもむろに口を開いた。昭和34年頃のことである。脳溢血の後遺症で半身麻痺となっておられ,自宅療養されていたので,指導は大橋教授の自宅で行われていた。その後,先生のいわれた水晶体の細隙灯顕微鏡(以下,細隙灯)所見をスケッチし,何枚かお見せして指示を待った。しばらくして「年齢によって,皮質と核の境目あたりの色が変わり,皮質と核の厚さが変わるが,水晶体の細隙灯による光学的不連続帯の年齢的変化を研究してほしい」といわれた。

 そのとき,私はすでに大橋教授のいわれることを予想していたから,年齢的変化の観察は半分以上進めていた。「もうすでにその研究に着手しています」という言葉をこらえて,控えめにして「分かりました」といって引き下がった。その後,私の研究は自分なりの考察を加えて,先へ先へと進んでいった。私の研究が大橋教授の思うように着々と進んでいくので大橋教授はご機嫌であった。謙虚な心を忘れずに,取り組む姿勢は大切である。

臨床報告

最近2年間の宮田眼科病院における全層角膜移植術の成績

著者: 丸岡真治 ,   子島良平 ,   大谷伸一郎 ,   田邊樹郎 ,   川口龍史 ,   月花慎 ,   中原正彰 ,   宮田和典

ページ範囲:P.1603 - P.1607

要約 過去2年間に宮田眼科病院で行われた全層角膜移植術の成績を検索した。総数は113例120眼であり,原因疾患は,角膜白斑57眼,水疱性角膜症51眼,円錐角膜6眼,角膜穿孔4眼,角膜変性2眼であった。術式は,全層角膜移植術単独が41眼で,これに水晶体囊外摘出術と眼内レンズ挿入術の併用が70眼,その他であった。術後合併症として,眼圧上昇17眼,移植片拒絶7眼,抜糸後の創口離開2眼があった。術後6か月以上観察できた113眼のうち,視力が0.1未満が11眼,0.1以上で0.4未満が42眼,0.4以上が60眼であった。最終診察時に111眼(92.5%)が透明治癒していた。

原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミー併用トラベクロトミーの長期経過

著者: 安藤雅子 ,   黒田真一郎 ,   寺内博夫 ,   永田誠

ページ範囲:P.1609 - P.1613

要約 1996年までの6年間に,サイヌソトミーを併用するトラベクトミーを原発開放隅角緑内障に対する初回手術として行い,5年以上経過を追うことのできた64例83眼を検討した。手術時の平均年齢は57.5±12.3歳,術後の観察期間は7.2±1.5年であった。術前の平均眼圧は23.6±4.6mmHg,術後5年目のそれは15.4±2.4mmHgであり,有意に下降していた(p<0.001)。生命数理法による20mmHg以下への生存率は0.68±0.05(累積生存率±標準誤差)であった。以上より,本術式では術後長期間にわたって有意な眼圧下降が維持され,有用な治療手技であると結論される。

先天性乳頭形成異常に伴う網膜剝離の自然寛解例

著者: 河原彩 ,   南政宏 ,   今村裕 ,   植木麻理 ,   佐藤文平 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1615 - P.1618

要約 乳頭形成異常に併発した網膜剝離2例が自然寛解した。1例は16歳女性で朝顔症候群が右眼にあった。右眼の視神経乳頭に接する上鼻側に胞状の剝離が生じた。剝離が黄斑部に及んでいないため手術を行わなかった。10週後に網膜下液は完全に消失した。ほかの1例は23歳男性で,3年前に左眼視力低下を自覚し,黄斑部の網膜剝離を伴うpit-macular症候群と診断されていた。光凝固が繰り返して行われていたが無効であった。当科を受診後,網膜下液は増減を繰り返し,16か月後に完全に消失した。矯正視力は初診時の0.05から0.15に向上した。両症例とも明らかな後部硝子体剝離はなく,網膜剝離が自然寛解した理由として,若年者であるために硝子体のタンポナーデ効果が大きかったことと,網膜色素上皮の機能が良好であったことが推定された。

Peripheral exudative hemorrhagic chorioretinopathyの1例

著者: 大内典子 ,   佐藤浩章 ,   高村浩 ,   佐藤武雄 ,   山下英俊

ページ範囲:P.1619 - P.1625

要約 75歳男性が網膜出血で紹介され受診した。8年前から左眼に変視があり,1年前に加齢黄斑変性と診断されていた。矯正視力は右0.8,左0.2であった。両眼の後極部に硬性ドルーゼンが多発し,右眼には乳頭鼻側に1.5乳頭径大の線維増殖膜,滲出斑,斑状出血があった。左眼には黄斑萎縮と,乳頭鼻側に滲出斑を伴う3乳頭径大の網膜下出血があった。フルオレセインとインドシアニングリーン蛍光眼底造影で左眼の乳頭鼻側の病巣に新生血管が検出された。両眼のperipheral exudative hemorrhagic chorioretinopathy:PEHCR(周辺部滲出性出血性脈絡網膜症)と診断した。左眼の乳頭鼻側の病巣に対してレーザー光凝固を2回行った。出血は徐々に吸収され,6か月後に新生血管は退縮した。初診から15か月後の矯正視力は,右0.9,左0.04であった。本症の悪化防止に光凝固が有効である可能性を示した1例である。

原発閉塞隅角緑内障に対する白内障手術の長期成績

著者: 佐藤章子 ,   下川良一 ,   蔦祐人

ページ範囲:P.1627 - P.1631

要約 過去6年間に原発閉塞隅角緑内障の治療として,30例40眼に超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行った。レーザー虹彩切開術を含む緑内障手術が29眼に行われていた。40眼を緑内障の急性発作歴がない23眼(A群),発作歴がある8眼(B群),急性発作中の9眼(C群)に分けた。1~6年(平均約41か月)の術後観察期間中,3群すべての平均眼圧は20mmHg以下であり,各群間に差はなかった。最終観察時に,A群の6眼とB群の2眼に緑内障薬が1剤だけ投与されていた。術後の周辺虹彩前癒着(peripheral anterior synechia:PAS)が2象限未満であった33眼では,28眼(85%)が投薬を必要としなかった。術後視力は37眼(93%)で2段階以上改善した。慢性閉塞隅角緑内障と虹彩レトラクター使用眼では,術後の角膜内皮細胞密度が有意に減少した。点眼で眼圧がコントロールされている慢性閉塞隅角緑内障と発症直後の急性閉塞隅角緑内障で,PASが2象限未満であれば水晶体乳化吸引術のみで持続的な眼圧下降が得られ,投薬の減量,または中止が可能であった。

今月の表紙

CRAO

著者: 出口達也 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.1568 - P.1568

 47歳,男性。前日夜8時ごろテレビを見ている最中,左眼の急激な視力低下に気づいたがそのまま放置した。当院受診時の左眼視力は光覚弁で,前眼部中間透光体に異常はなかった。眼底所見は,後極部全体に網膜の白濁,中心窩には桜美紅斑(cherry-red spot)がみられ,網膜動静脈は狭細化,一部動脈の血球にsluddingが観察された。

 蛍光造影所見は,腕網膜循環時間の遅延と一部網膜血管に流入欠損があった。また,ぞろぞろ流れる血球のsludding現象がみられた。撮影した眼底カメラはニコン社製NF-505,フィルムはコダックTmax400(増感1000)を使用した。

やさしい目で きびしい目で 46

達人への道―第2回 無駄は達人の美学

著者: 亀井裕子

ページ範囲:P.1569 - P.1569

 小春日和のあの日,彼女は私の前にいた。「最近物がだぶって見えて,めがねをかけてもよく見えない」というのだ。23歳の彼女には約5年間のソフトコンタクトレンズ装用歴があったが,普段はめがねなしでも生活できたという。

 どれどれ,いつものようにカルテの最初のページを見る。そこには,オートレフラクトメータ,オートケラトメータの値を示す紙が貼ってある。「うん? もしかして……」彼女の顔を,スリットへと誘導した。細いスリット光が角膜をひとなでした。「やっぱりそうか」。ブルーライトに換えて,青い光の中に浮き上がるリングを確認した。

ことば・ことば・ことば

エデマ

ページ範囲:P.1573 - P.1573

 一度「こう」と覚えた英語の発音はなかなか直りません。もし間違っていても,です。

 「霰粒腫はカラチオン」だと信じていました。ところがそれを「チャレイジア」という先生に出会い,びっくりしました。もう亡くなりましたが,日大の加藤謙教授です。完全な戦前派なのに,先生の英語は本格的な「本場じこみ」でした。

 こちらが正しく,相手が間違っている場合もあります。ずっと以前から気になっているのが,spaghetti,スパゲッティのことです。イタリア語なので,アクセントが最後から2番目の音節にきます。ところがこれをスパゲティと言う習慣が広まってきました。「けしからん」と思っても多勢に無勢です。せいぜいパスタを食べないことで抵抗しています。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?