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文献詳細

雑誌文献

臨床眼科57巻11号

2003年10月発行

文献概要

特集 眼感染症診療ガイド コラム 眼感染症への取り組み・いまむかし

病原体との和平交渉

著者: 今井由美1

所属機関: 1カリフォルニア大学

ページ範囲:P.112 - P.113

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 抗菌薬,抗ウイルス薬やワクチンの開発と改良により,確かに人間の歴史において長年の脅威であった感染症の危機は激減したといえるでしょう。医療現場にしても研究分野にしても,感染症は話題の中心から遠ざかっていた時期もあったかもしれません。しかしながら,近年ただならぬニュースが舞い込んできます。AIDS,エボラ,西ナイル,そして新型肺炎(SARS)といったように,一世代の人間の記憶のなかでも絶えず危機管理を警鐘する感染症の名が聞かれているように思います。ましてや彼ら病原体側の歴史からすれば,先進国の医療現場で影を潜めた時期なんて,とるに足らない「一休み」だったのではないでしょうか。というよりむしろ,休憩後の彼らの活動は局面を新たにしているように見受けます。

 いま,まさしく日を追うごとにSARSに関するニュースが飛び込んできている時期ですが,先日テレビでここカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)内の研究者がインタビューに応じているのを見ました。誰が呼ぶのか知りませんがGene Hunterとかいう異名を持つ彼のところにも米国厚生省疾病管理・予防センター(CDC)から原因解明の依頼があり,コロナウイルスの新種あるいは変異株だと自作のgene arrayガラススライドを見せて説明しつつ,こんなことを言っていました。「現代の人間社会では抗菌薬などの過剰使用,人や物資の盛んな移動,未開発地域の開拓,これらによって変異株や新種株,さらにはまったく新しい病原体が出現・蔓延する可能性は大いにあり,感染症対策は新たな局面を迎えている。」近年の感染症の原因と対策を考えてみるとき,大概の人は彼と同様の視点を持つでしょうが,なかでも医療従事者あるいは医学研究者の直接的影響が大きいのは,やはり「変異」でしょう。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1308

印刷版ISSN:0370-5579

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