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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科57巻3号

2003年03月発行

雑誌目次

特集 第56回日本臨床眼科学会講演集 (2)

上顎洞炎を併発した慢性関節リウマチ患者の角膜穿孔

著者: 金沢佑隆 ,   木下明夫 ,   谷口亮 ,   林田裕彦 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.239 - P.242

要約 58歳女性が右眼の結膜充血,眼脂,霧視を主訴として受診した。27歳のときに慢性関節リウマチと診断され,副腎皮質ステロイド薬を長期間使用していた。10週前に上顎洞炎と診断され,抗生物質の投与を受けていた。当科初診時に右眼に周辺部角膜の菲薄化,角膜穿孔と虹彩脱出があった。頭部MRI検査で,右上顎洞内の陰影と眼窩底の骨吸収があり,眼窩内への炎症の波及と,眼窩内容物の外側前方への圧排があった。抗生物質の追加投与,ステロイド点眼,治療用コンタクトレンズ装用を行い,耳鼻咽喉科手術後に表層角膜移植術を行った。本症例では,リウマチが基礎疾患としてあり,免疫学的機序による角膜の菲薄化に加え,上顎洞炎による眼窩内組織の感染と圧排などが角膜穿孔を起こしたと解釈される。

良性頭蓋内圧亢進症の7症例の神経眼科学的検討

著者: 石川弘 ,   加島陽二 ,   西田幸子

ページ範囲:P.243 - P.247

要約 良性頭蓋内圧亢進症の7症例について神経眼科学的に検討した。3症例が20歳未満であり,男性4例,女性3例で,肥満はなかった。若年者では外転神経麻痺による内斜視または複視,成人では一過性視矇や視力低下などの視覚異常が眼科受診の動機であった。良性頭蓋内圧亢進症は画像診断で異常が検出されないので,うっ血乳頭,視覚障害,眼球運動異常などの眼科的所見が早期診断の決め手になる。頭蓋内圧亢進が持続すると高度の視機能障害に至ることがあるので,注意深い神経眼科学的観察が必要である。

導涙手術による結膜囊内細菌の変化

著者: 浜津靖弘 ,   後藤恭孝 ,   田澤豊

ページ範囲:P.249 - P.252

要約 結膜囊内の細菌が涙囊鼻腔吻合術(DCR)前後でどのように変化するかを検索した。鼻涙管閉塞による流涙に対してDCRを行った患者のうち,術後に流涙が改善し,フルオレセイン残留試験で残留がなかった22例22眼を対象とした。年齢は48歳 から81歳,平均71歳であった。術前6か月間は抗生物質を使用せず,術後2か月間は抗生物質の点眼を行い,以後は無投薬として,手術の3か月後に結膜囊内の細菌を検査した。細菌は,術前では18眼(82%),術後では8眼(36%)から検出された。この減少は有意であり(p<0.005),結膜囊内の自浄作用がDCRで改善したと解釈された。術前後とも結膜囊内細菌が陽性であった群では,術後に陰性化した群よりも術前の流涙の継続期間が有意に長く,数年に及ぶ例があった。

マイボーム腺炎とマイボーム腺炎角膜上皮症の検討

著者: 山田利津子 ,   上野聰樹 ,   宮本豊一 ,   山田誠一 ,   糸川英樹

ページ範囲:P.253 - P.257

要約 過去2年間にコンタクトレンズ装用者13,492名を検索し,炎症所見を伴うマイボーム腺炎が5,712名(42.3%),マイボーム腺炎角膜上皮症が1,722名(12.8%)にあった。マイボーム腺炎は,標準型ソフトコンタクトレンズ装用者の73.2%,2週間頻回交換終日装用ソフトコンタクトレンズ装用者の64.7%,全体では52.1%にあった。角膜上皮症は,標準型ソフトコンタクトレンズ装用者の24.4%,標準型ハードコンタクトレンズ装用者の18.7%,全体では13.1%にあった。細菌検査で238例の検体中183例に好気性菌が検出され,内訳は表皮ブドウ球菌58.4%,黄色ブドウ球菌22.0%,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌16.8%であった。角膜上皮症への進展は,コンタクトレンズの不適切な取り扱いが大きく関係していた。

過去15年における視覚障害者の施設への入所原因

著者: 秦裕美 ,   米澤美智 ,   中西勉 ,   李俊哉 ,   簗島謙次

ページ範囲:P.259 - P.262

要約 視覚障害者更生施設,重度身体障害者援護施設,その他の授産施設に入所している視覚障害者の状況を2001年に調査した。男性883人と女性427人,合計1,310人について,29施設から回答があった。視覚障害の原因は,網膜色素変性症25%,視神経萎縮15%,糖尿病網膜症9%が上位であった。1986年に行った同様の調査と比べて,今回は女性の割合が23%から33%に増加していた。残存視機能については,全盲者の割合が増加し,ロービジョン者の割合が減少した。以上の結果はリハビリテーションを行う際に考慮されるべきである。

硝子体手術を必要とした初回強膜内陥術後の網膜剝離再発例

著者: 宮村紀毅 ,   北岡隆 ,   林田裕彦 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.263 - P.266

要約 裂孔原性網膜剝離に対して強膜内陥術を行っても復位が得られず,硝子体手術を必要とした24例24眼の臨床像を検索した。裂孔不明,硝子体出血の合併,深部裂孔のある胞状網膜剝離,後部硝子体剝離のある白内障の合併などの6眼(25%)では,初回手術としての硝子体手術を積極的に行うべきであった。無水晶体眼,眼内レンズ挿入眼,中等度以上の白内障,巨大裂孔,深さが異なる複数の裂孔など9眼を加えた15眼(63%)が,硝子体手術の適応と判断された。

同一患者の両眼におけるアクリルレンズおよびシリコーンレンズの術後経過

著者: 松井英一郎 ,   有澤武士 ,   堀田一樹

ページ範囲:P.267 - P.270

要約 白内障手術を45例90眼に行い,各症例とも1眼にアクリル眼内レンズ(IOL),他眼にシリコーンIOLを挿入した。年齢は39歳から90歳,平均70.1歳であった。アクリルIOLは3.5mm強角膜切開から鑷子で挿入し,シリコーンIOLは3.0mm強角膜切開からインジェクタで挿入した。術翌日の視力は,シリコーンIOL挿入眼で有意に改善した。惹起乱視は,術後1か月以外ではアクリルIOL挿入眼のほうが有意に大きかった。これらの所見は70歳以上の患者で顕著であった。眼圧,予想屈折値との差,後発白内障は両群間に差がなかった。高齢者では切開創が小さく,ストレスが少ない術式を選択すべきである。

シャープエッジPMMA眼内レンズの後囊混濁の抑制効果

著者: 中村昌弘 ,   江口万祐子 ,   伊勢武比古 ,   小俣仁 ,   筑田眞

ページ範囲:P.271 - P.274

要約 PMMAを素材とする眼内レンズ光学部の縁の形状を変え,その後囊混濁抑制効果を評価した。ワンピース眼内レンズ(HOYA社)を用い,20例の白内障患者に対して,片眼にはノーマルエッジ,他眼にはシャープエッジにしたものを挿入した。患者の年齢は60歳から85歳,平均70歳であった。手術から3か月後に,前眼部画像解析装置で後囊混濁を定量的に測定した。左右眼の視力には差がなかった。後囊混濁濃度は,シャープエッジ眼内レンズ挿入眼が有意に低かった(p<0.01)。

岩手医科大学における未熟児網膜症の推移

著者: 鍋島隆司 ,   後藤寿裕 ,   宮本博之 ,   田澤豊

ページ範囲:P.275 - P.280

要約 2001年までの5年間に当科で遭遇した未熟児網膜症を回顧し,1996年までの2年半の前回の状況と比較した。5年間に新生児集中治療室(NICU)に入室した患児1,082名の14.3%に未熟児網膜症が発症した。前回の発症率は16.2%であり,両者間に有意差はなかった。平均在胎期間は前回よりも短縮し,平均出生体重は減少していた。未熟児網膜症の病期は,2,3,4,5期がそれぞれ47.1%,47.1%,3.9%,1.9%であり,重症例の割合が前回よりも増加していた。出生体重と3期以上に進行した症例の頻度の間,および出生体重と治療を要した症例の割合との間には,それぞれ強い相関があった。

黄斑部内境界膜の微細構造とその元素分析

著者: 芦忠陽 ,   岸川泰宏 ,   津田恭央 ,   北岡隆 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.281 - P.284

要約 黄斑部の内境界膜の微細構造とこれに含まれる微量元素を検索した。資料は,眼窩腫瘍で摘出した70歳女性の正常な眼球と,黄斑円孔で手術を行った66歳と72歳女性から得られた。微細構造の検索には透過型電子顕微鏡を用い,微量元素はエネルギー分散型元素分析装置で分析した。3試料での黄斑部内境界膜には無構造な基質内に細線維が錯綜し,高電子密度の顆粒を含んでいた。微量元素としては鉄のみが検出され,正常眼と黄斑円孔眼とで差はなかった。

正常眼圧緑内障に対するチモロール・ゲルとラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果

著者: 橋本尚子 ,   原岳 ,   高橋康子 ,   久保田俊介 ,   久保田みゆき ,   水流忠彦

ページ範囲:P.288 - P.291

要約 正常眼圧緑内障33例について,チモロール・ゲルとラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果を検討した。チモロール単独使用で,治療前15.0±1.9mmHgの眼圧が4週後13.3±2.8mmHgに下降した(p<0.01)。ラタノプロスト単独使用で,治療前15.9±1.9mmHgの眼圧が4週後13.2±2.2mmHgに下降した(p<0.01)。チモロールにラタノプロストを追加したとき,13.3±2.8mmHgの眼圧が11.1±2.5mmHgに下降した(p<0.01)。ラタノプロストにチモロールを追加したとき,13.2±2.2mmHgの眼圧が12.0±3.3mmHgに下降した(p<0.05)。無治療時の眼圧から20%または30%眼圧を下降する目標達成率は,チモロール単独使用でそれぞれ20.0%と15.0%であり,併用で65.0%と40.0%に向上した。同様に,ラタノプロスト単独使用時の38.5%と7.7%が,併用で46.2%と30.8%に向上した。正常眼圧緑内障では,チモロール・ゲルとラタノプロストが単独で有意な眼圧下降効果を示し,両者の併用でより大きな効果が得られることが結論される。

LASIK後の角膜後面形状変化の測定における定点

著者: 丸谷弘 ,   名和良晃 ,   梶本秀和 ,   上田哲生 ,   枡田浩三 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.292 - P.294

要約 Laser in situ keratomileusis(LASIK)を行った近視15眼について,施行前後の角膜後面の形状を測定した。定点として角膜中心から7~10mmおよび6~8mmをとった場合の所見を比較した。LASIK施行前後の角膜後面突出については,両者間に有意差はなかった。さらに健常者2名について同様な測定を日を変えて計4回測定した。角膜後面突出量は,6~8mm定点よりも7~10mm定点のほうがばらつきが大きかった。定点を7~10mmにする場合には,角膜後面の周辺部が測定できないことが多く,測定不能部に隣接する眼瞼や睫毛が影響することが,このばらつきの原因であると推定される。このような事例では,定点を6~8mmにとっても差し支えないと考えられる。

眼窩筋炎として加療後に悪性リンパ腫へ進展した1例

著者: 高橋康子 ,   小幡博人 ,   金井信行 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.295 - P.299

要約 64歳女性が2か月前からの左眼の上眼瞼腫脹と眼球突出で受診した。磁気共鳴画像検査(MRI)で左眼上直筋に肥厚があり,眼窩筋炎と診断した。プレドニゾロン内服で軽快したが,18か月後に激しい眼痛,頭痛,複視が左眼に生じた。MRIで上直筋を中心に眼窩内に広がる腫瘍性病変があり,生検を行った。免疫組織化学的検索と免疫グロブリンの遺伝子再構成の結果から,悪性リンパ腫と診断した。眼窩筋炎で初発し,悪性リンパ腫に発展した1例である。

光干渉断層計にて経過観察を行った強度近視性黄斑円孔網膜剝離の1例

著者: 川添裕子 ,   馬場隆之 ,   広瀬晶 ,   森山無価 ,   望月啜

ページ範囲:P.301 - P.304

要約 65歳女性が6か月前からの左眼の変視症と中心暗点で受診した。左眼には-12Dの近視と,後部ぶどう腫内に限局する黄斑円孔網膜剝離があった。黄斑プロンベ縫着術により網膜剝離は復位し,術前0.02の矯正視力が術後1か月で0.15に改善した。光干渉断層計(OCT)による検索が網膜剝離の診断,網膜下液の状態,網膜復位の過程の観察に有用であった。

特発性黄斑円孔に対する網膜内境界膜剝離後の網膜厚

著者: 沖田和久 ,   荻野誠周 ,   渥美一成

ページ範囲:P.305 - P.309

要約 硝子体手術で閉鎖が得られた特発性黄斑円孔55眼について,術後1年以上の時点で網膜厚を測定した。内境界膜剝離を24眼で併用し,31眼では併用しなかった。網膜厚測定には光干渉断層計(OCT)を用いた。測定部位は,中心窩に相当する部位(中心網膜厚)と,中心窩から700μm離れた上下左右の4点(平均網膜厚)とした。中心網膜厚は,内境界膜剝離群で188.9±57.1μm,非剝離群で126.0±30.5μmであり,有意差があった(p<0.0001)。平均網膜厚と術後視力については,両群間に有意差はなかった。内境界膜剝離群では非剝離群よりも中心窩陥凹が減少していた。

妊娠が好影響を与えた再発性ぶどう膜炎の1例

著者: 山田喜三郎 ,   木許賢一 ,   池脇淳子 ,   中塚和夫 ,   八塚秀人

ページ範囲:P.311 - P.315

要約  26歳女性が1週間前からの右眼視力低下で受診した。右眼には,虹彩炎,硝子体混濁,網膜出血と白色滲出斑,網膜静脈炎,乳頭浮腫があり,ベーチェット病を疑った。左眼は正常で,全身にも異常はなかった。プレドニゾロンとコルヒチンの経口投与を中心に加療したが,網膜滲出斑などの病変が再発を繰り返した。初診から28か月後に妊娠していることが判明したが,人工流産した。その後再び妊娠し,正常男児を出産した。2度の妊娠中,服薬は自発的に中止していた。ぶどう膜炎は妊娠中は軽快していたが,流産と出産後には病変が増悪した。妊娠が臨床経過に好影響を与えたと考えられる症例であり,妊娠による免疫抑制因子の増加や細胞性免疫の低下による母体免疫の変化がこれに寄与したと推定される。

成人T細胞白血病に続発したサイトメガロウイルス網膜炎の1例

著者: 久志雅和 ,   新城光宏 ,   大城一郁 ,   岸本信三

ページ範囲:P.317 - P.320

要約 46歳女性が左眼霧視で受診した。1年前に成人T細胞白血病およびB型肝硬変と診断され,化学療法を受けていた。矯正視力は右0.8,左0.04であった。血管に沿う滲出斑と網膜出血が両眼の眼底にあった。サイトメガロウイルス(CMV)抗原陽性であり,サイトメガロウイルス網膜炎と診断した。ガンシクロビル点滴投与を開始し,その3週後に眼底所見が改善し,CMV抗原が陰性化した。成人T細胞白血病と化学療法による免疫抑制状態がサイトメガロウイルス網膜炎の誘因になったと推定される。

視野障害と眼球運動障害を呈したMELASの1症例

著者: 河本ひろ美 ,   安藤一彦 ,   網野猛志

ページ範囲:P.321 - P.324

要約 42歳男性に倦怠感,遠近感喪失,失調性歩行,言語障害が起こり,3週間後に右片麻痺が生じた。10年前から糖尿病があった。両側眼瞼下垂,全方向の眼球運動制限,右同名半盲があり,視力は良好であった。磁気共鳴画像検査(MRI)で,左側頭葉から後頭葉にかけて病巣があった。遺伝子検査でミトコンドリアDNAに点変異があり,さらに筋病理所見,脳卒中様症状と高乳酸血症などからMELAS(mitochondrial encephalomyopathy,lactic acidosis,and stroke-like episodes)の診断が確定した。

トリパンブルー前囊染色を行った白内障手術成績

著者: 二井宏紀 ,   亀井千夏 ,   小沢信介

ページ範囲:P.325 - P.328

要約 白色白内障24眼にトリパンブルー前囊染色とソフトシェル法を用いた白内障手術の成績を検討した。術式は超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術である。ソフトシェル法のみを用いた核硬化が強い白内障24眼を対照とした。連続円形前囊切開の成功率は,前囊染色群79%,対照群100%であった。術後視力は両群とも良好であった。眼圧は両群ともに術翌日のみに上昇した。角膜内皮細胞減少率は,前囊染色群24.1%,対照群20.4%であり,両群間に有意差はなかった。前囊染色による合併症は術後12か月間には起こらなかった。白色白内障に対するトリパンブルー前囊染色を用いた白内障手術は有用かつ安全であった。

3世代にわたる先天白内障の1家系

著者: 木下明夫 ,   北岡隆 ,   嵩義則 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.329 - P.331

要約 少なくとも3世代にわたる先天白内障の家系に遭遇した。発端者は女児で,1歳を過ぎたころから両眼の瞳孔白濁に家族が気づいていたが,そのまま放置していた。1歳半検診のとき,両眼の白内障が発見された。4歳のときに当科を受診した。矯正視力は左右眼とも0.5であった。水晶体の前囊下混濁が両眼にあり,両眼の先天白内障と診断し,白内障手術を行った。家系内の4名が白内障手術を両眼に受けていた。手術時の年齢は,患児の父16歳,父方の叔父10代,父方の叔母19歳,父方の祖父30歳である。発端者を含めた5名の手術時の年齢には,4歳から30歳までと大きな差があった。本家系の先天白内障は,これ以外の眼または全身の合併症を伴わない常染色体優性遺伝であると考えられる。

硝子体ポケット・クローケ管の解剖学的関係と網膜硝子体界面症候群における病的役割の可能性

著者: 北岡隆 ,   宮村紀毅 ,   林田裕彦 ,   隈上武志 ,   雨宮次生

ページ範囲:P.333 - P.335

要約 第3期の特発性黄斑円孔10例10眼に硝子体手術を行った。男性3例,女性7例であり,年齢は58歳から77歳,平均67歳であった。術中に硝子体を可視化する目的で,中央部の硝子体を切除した直後にトリアムシノロン(triamcinolone acetonide)を硝子体腔に注入した。硝子体ゲルに付着したトリアムシノロンを手術顕微鏡で観察した結果,クローケ管は約2乳頭径,硝子体ポケットは約4乳頭径の大きさであった。両者間に薄い硝子体が介在していた。これが眼球運動の際に激しく動揺するときに,硝子体との癒着が強い黄斑部に牽引が及ぶ可能性があると推定された。この機序は,黄斑円孔ないし網膜硝子体界面症候群の発症原因の一部を説明できる。

専門別研究会

「画像診断」印象記

著者: 中尾雄三

ページ範囲:P.374 - P.375

 第56回日本臨床眼科学会(盛岡)での専門別研究会「画像診断」は例年と同じく,内容豊かな一般口演(12題)と教育講演が行われた。各セッションを担当された座長に発表口演の印象につき述べていただいた。

屈折調節研究会

著者: 前田直之

ページ範囲:P.376 - P.377

 今回は大阪大学担当ということで,不二門尚教授と前田で企画を考えさせていただいた。今年から日本臨床眼科学会の専門別研究会に復帰したので,できるだけ日常臨床に役立ち,かつ現状をアップデートできる内容にするべく,一般演題を募集せず,プログラムをベーシックコースと基調講演のみとした。ベーシックコースのテーマは「老視に対する屈折矯正」とし,眼鏡,コンタクトレンズ,IOL,屈折矯正手術,VDTでの老視への対応を論じてもらい,老視への対処の総括とした。また,基調講演は,小児に対する屈折検査と近視研究の現状をまとめていただくようにお願いした。

連載 今月の話題

光干渉断層計の最近の進歩

著者: 石川浩

ページ範囲:P.221 - P.227

 1992年Puliafito,Schumanらがマサチューセッツ工科大学(MIT)で開発した光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)が眼科臨床に応用されてから10年が経ち,米Carl Zeiss Meditec社(旧Humphrey社)が製品化したOCTもOCT1,OCT2と改良を重ね,2002年春には解像度約2倍,走査速度約5倍に改善されたOCT3が発表された。さらに,OCTテクノロジーは眼科だけではなく,整形外科・内科・産婦人科・泌尿器科など多くの臨床医学の場で応用されるようになってきている。ここではOCT3を中心とした眼科領域での最新トピックスを紹介するとともに,他科でどのように応用されているか,最先端のOCTテクノロジーはどうなっているのかを検討する。

眼の遺伝病 43

PAX6遺伝子異常と無虹彩症(1)

著者: 鈴木健史 ,   和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.229 - P.231

 無虹彩症は,先天的に虹彩の一部またはすべてが欠損している疾患で,眼底の黄斑部低形成,緑内障を合併することが多い。また,PAX6遺伝子異常で,常染色体優性無虹彩症,常染色体優性角膜形成不全,Peter奇形が起こることは現在ではよく知られている。

 今回はPAX6遺伝子,エクソン9にArg240stop変異を認めた1家系を報告する。この変異は既に海外でも無虹彩症の家系で報告されている代表的な遺伝子異常である。

眼科図譜379

潰瘍性大腸炎に網膜中心静脈閉塞症を合併した1例

著者: 加藤正夫 ,   牧野伸二 ,   槙島豊 ,   金上貞夫 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.232 - P.234

緒言

 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC),クローン病などの炎症性腸疾患には眼合併症としてぶどう膜炎が知られているが,後眼部の合併症の報告は少ない1~4)。今回,UCに網膜中心静脈閉塞症(central retinal vein occlusion:CRVO)を合併した1例を経験したので報告する。

あのころ あのとき 27

視覚障害児との関わり

著者: 湖崎克

ページ範囲:P.235 - P.238

視覚障害児との出会い

 私と視覚障害児との最初の出会いは,医師免許取得1年後(昭和30年,1955年)に,教室の出張で奈良済生会病院に勤務していたときである。頼まれて奈良県立盲学校を検診した際,無眼球の子供を診て,眼科医になって間もない,いささか気負いのあった私にとって,これは大変な衝撃で,自分が今まで修めてきた眼科学が,その子に対して何の役にも立ってあげられない無力さを痛感したものである。

他科との連携

スペシャリスト時代の連携のありかた

著者: 市辺義章

ページ範囲:P.336 - P.337

 医学部を卒業して10年目にまた国家試験でもあったらぞっとする。自分の専門科なら何とかなるだろうが,他科となると30%も正解しないのではないか。新しい情報が次から次へとリアルタイムに飛び交う現代では,古いそしてあまり使わない知識はどんどん頭の中から追い出されてしまう。自分の専門分野は知識や経験が蓄積していきそれなりに目も肥えてくるが,他科の分野になると自信がない。それは他科のドクターも同じであろう。同じ眼底を眼科医が診るのと内科医が診るのとではかなり違うはずである。また,同じ眼科医どうしでもそれぞれ診かたが違うので思わぬ発見をすることがある。回診で鋭い指摘を先輩医師にされ,ドキッとした経験は誰にもあるだろう。人間は忘れるし,日々同じことをしていると視界が狭くなって物事を小さくしかみられないようになってしまう。新しい第三者の刺激や指摘が必要なのだ。本稿では筆者の経験を交えて眼科と他科との連携について考えてみたい。

 いろいろ検査しても確定に至らないぶどう膜炎は多い。ぶどう膜炎は全身疾患の一症状として現われることがあり,眼症状以外の所見が診断の参考になる。特にベーチェット病,サルコイドーシスを疑うとき,皮膚科や内科的な診断は非常に重要だ。本人,あるいは診察した医師までも単なる虫刺されだと思っていた発疹が,皮膚科での診察や生検でぶどう膜炎に伴う立派な一症状と判明したりする。BHL(両側肺門部リンパ節腫脹)も典型的なものだったら眼科医でもわかるが,微妙なものはCTを含めた内科的な判定が必要だ。眼症状が非典型的だったりすると,特に他科の所見は診断や治療に大きな意味を持つようになる。筆者自身も眼科的精査と同時に他科依頼をし,眼科以外の意見を必ず聞くようにしている。

臨床報告

白内障硝子体同時手術および白内障単独手術の術後目標屈折値と実測値の差

著者: 鬼塚尚子 ,   久保田敏昭 ,   仙波晶子 ,   戸栗一郎 ,   巣山弥生

ページ範囲:P.347 - P.350

要約 白内障硝子体同時手術を40眼に行い,PMMAワンピース眼内レンズを挿入した。術後の屈折値を,実測値と予想値について検索した。白内障単独手術を行った89眼を対照とし,内訳はPMMAワンピース眼内レンズ50眼,アクリルレンズ39眼であった。術後の屈折誤差は,同時手術眼で-0.15±0.55D,PMMAレンズ挿入の単独手術眼で+0.25±0.62D,アクリルレンズ挿入の単独手術眼で+0.29±0.71Dであった。同時手術眼での値は単独手術眼よりも有意に近視側にずれた。単独手術群では眼内レンズの種類による差はなかった。

糖尿病網膜症のpigment epithelium-derived factorと血管内皮細胞増殖因子

著者: 西川真生 ,   緒方奈保子 ,   西村哲哉 ,   三間由美子 ,   松村美代

ページ範囲:P.351 - P.355

要約 Pigment epithelium derived factor(PEDF)は強力な血管新生抑制作用が報告されている。増殖型糖尿病網膜症(PDR)21例23眼,非増殖型糖尿病網膜症(NPDR)2例3眼の硝子体内PEDF濃度および血管内皮細胞増殖因子(VEGF)濃度をELISAで測定した。PDRのPEDF濃度は平均0.81μg/mlと低値を示し,NPDRは2.44μg/mlと高値であった。一方,硝子体内VEGF濃度はPDRで平均2,090pg/ml,NPDRは平均15pg/mlであった。PDRは硝子体内PEDF濃度が低く,PEDFによる血管新生抑制効果に乏しいと思われた。

調節性内斜視に対する遠視矯正laser in situ keratomileusisの効果

著者: 伊藤美沙絵 ,   大野晃司 ,   高崎恵理子 ,   神垣久美子 ,   相澤大輔 ,   鈴木雅信 ,   向野和雄 ,   清水公也

ページ範囲:P.357 - P.362

目的:調節性内斜視に対する遠視矯正LASIKの成績の評価。症例:屈折性調節性内斜視4例。男性1例,女性3例で,年齢は22歳から30歳。全例に眼精疲労の訴えがあり,3名が遠視用眼鏡を使用中であった。裸眼での術前近見視力は平均0.3,等価球面度数は平均+5.36±1.43D,裸眼での近見水平眼位は10△~45△の内斜であった。結果:LASIK後の裸眼での近見視力は平均1.0,等価球面度数は平均+0.25±1.16D,裸眼での近見水平眼位は8△の内斜ないし正位であった。全症例で裸眼近見視力が向上し,眼鏡から解放され,水平眼位が改善した。上下斜視のない水平斜視のみの症例では,近見両眼視機能が改善した。結論:遠視矯正LASIKは,調節性内斜視に有効である。ただし,上下斜視が併発しているときには他の治療を併用することが必要である。

治療的全層角膜移植術が奏効した角膜真菌症の1例

著者: 濱生仁子 ,   足立格郁 ,   鈴木克佳 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.363 - P.366

要約 47歳男性が当初は左眼の細菌性角膜潰瘍,その後,角膜真菌症としての治療を受けた。改善がなく,発症から4か月後に当科を紹介され受診した。視力は光覚弁で,角膜潰瘍底に硬い石灰様沈着物があり,前房蓄膿と強い結膜充血があった。薬物治療の限界と判断し,治療的全層角膜移植術を行った。病巣部の組織には,石灰様沈着物の後方に真菌が高密度で集簇していた。術後の経過は良好で,炎症の再燃や,白内障以外の重篤な合併症はなく,術後1年に0.5の矯正視力を得た。適切な薬物治療で消炎しない真菌性角膜潰瘍に対して治療的全層角膜移植術が奏効した症例である。

涙囊鼻腔吻合術鼻外法の再発例12例

著者: 高木郁江 ,   巣山弥生 ,   後藤美和子

ページ範囲:P.369 - P.373

要約 鼻外法による涙囊鼻腔吻合術後の再発に対して再手術を行った12例を検討した。10例では再閉塞が術後3か月以内に起こった。CT涙道造影所見で高頻度に篩骨洞が涙囊窩骨と鼻腔間にあり,これが吻合口での肉芽腫形成の最大の原因と考えられた。また吻合の位置が下方過ぎると鼻涙管の後方への傾斜のため,吻合が後方に作られるので,篩骨洞突出例と同様に篩骨洞の影響で再発することが考えられた。鼻腔内異常と涙小管狭窄が原因であると疑われた症例が各1例あった。再発を防ぐには,術前に篩骨洞突出の有無とその程度を知り,手術の際に吻合部位と吻合口の大きさを考慮し,粘膜縫合を丁寧にして篩骨洞の影響を受けないようにすることが重要である。鼻内異常や涙小管狭窄の有無にも注意が必要である。

今月の表紙

YAGレーザーの誤照射

著者: 内田強 ,   玉井信

ページ範囲:P.228 - P.228

 YAGレーザーを使った実験中に生じた誤照射の症例。防御ゴーグルを外したまま実験装置の光軸合わせ作業をしていたところ,誤ってターゲットからの反射光を右眼で覗いてしまい受傷した。装置の仕様は波長1,064nm,power最大50mJ,pulse幅最大5nsであるが,受傷時の出力は不明。受傷直後,視力低下と中心暗点を訴え当科受診。受診時視力 右0.5(矯正不能),左1.5(矯正不能)。眼底所見は,右黄斑部に400μm程度の凝固斑および網膜下出血,アーケード下方に少量の硝子体出血を認めた。2週間後,色素上皮の肥厚を伴う変性,1か月後には黄斑上膜・網膜皺襞・黄斑円孔を形成し,2か月後には黄斑上膜の肥厚を呈した。

 写真は受傷直後からの経時的変化を撮影した。機材はコーワ社製眼底カメラPROIIIを使用し,画角35度にて撮影。フィルムはFUJICHROME PROVIA 100Fを使用。

やさしい目で きびしい目で 39

患者に優しい医療と厳しい医療改革―都心の勤務医の葛藤

著者: 大越貴志子

ページ範囲:P.339 - P.339

 私は20年前から東京都中央区の聖路加国際病院に勤務し,網膜硝子体を専門に治療を行っているが,都心でも,時々驚くような症例を経験する。この女性もその1人だ。63歳。なぜか半年以上放置した網膜剝離で,無論,増殖硝子体網膜症になっている。まず散瞳薬の点眼を拒否されたため,看護師が10分以上時間をかけて説得し,ようやく眼底検査を行い,手術を勧めたが,納得がいかない様子。忙しい外来の最中に,手術をするしないで30分以上時間をかけてよく話し合ったが,その日は結論は出ず,その後,インターネットで網膜剝離の情報を得た娘さんの説得があり,理解し納得できたとのことで,医師のムンテラよりもインターネットの情報を信じ,手術を受けることになった。ところが,今度は友人のアドバイスとやらで手術方法について一悶着あり,失明をくい止めるためと思い,誠心誠意時間をかけて説得したが話がかみ合わず,最後は,「この病院はキリスト教精神に従ったすばらしい病院と思っていた。見えなくなったらこの病院で手術を受けるんだと長年思っていた。それなのに,医師はみな身勝手で患者の気持ちを理解してくれない」と部長にまで捨てぜりふを残し,帰っていった。もう二度と来ないと思ったら,再度手術を受けたいとのことで1週間後に来院した。幸い手術も成功し,事なきを得たが,スタッフ一同みな振り回され疲れ果てた。

 都心では,医療情報過多であり,かつ病院の数も多い。セカンドオピニオン,サードオピニオンを求めて受診する患者さんも多い。すべての患者さんに丁寧に接し,かつ正しい医療を行うには相当のエネルギーと時間を要する。

ことば・ことば・ことば

複数形

ページ範囲:P.341 - P.341

 その昔,英語の授業で「sheepは単数でも複数でも同じ形」と教わりました。「ヒツジは特別扱いをされている素晴らしい動物」と思ったものです。

 ところが違いました。エジンバラでの学会のあと,レンタカーでスコットランドをずっと走ってきました。実に雄大な景色で,氷河が削ってできたU字形の谷の底に道が通っています。放牧されているヒツジが見事な点景なのですが,じっと動かずに草を食べていて,まるで白い石が置いてあるような感じなのです。はじめからモノ扱いなのが単複同形である理由だと理解しました。ドイツ語でもdas Schafと中性名詞なのです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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