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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科57巻7号

2003年07月発行

雑誌目次

特集 第56回日本臨床眼科学会講演集 (6)

黄斑円孔網膜剝離に対する耳側強膜短縮術併用の硝子体手術の成績

著者: 鈴木幸彦 ,   桜庭知己 ,   松橋英昭 ,   中沢満

ページ範囲:P.1193 - P.1197

要約 黄斑円孔網膜剝離33例33眼に対する硝子体手術を過去9年間に行った。うち9眼は最大幅6mmの耳側強膜短縮を併用した。両群とも,原則として黄斑上の膜様組織の除去を行い,全例にガスタンポナーデを行った。術後の再剝離が強膜非短縮群24眼中9眼(38%)に生じたが,短縮群では全例で復位が得られた。黄斑円孔網膜剝離では,硝子体手術に耳側強膜短縮を併用して眼軸長を短縮することで初回復位率を向上できる可能性がある。

黄斑剝離を伴う裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術・経強膜手術後の視力推移とOCT所見

著者: 有澤章子 ,   喜多美穂里 ,   桐山直子 ,   川越直顕 ,   樋口暁子 ,   鈴木拓也 ,   池口有紀 ,   小岸淳一 ,   河本知栄 ,   松本美保

ページ範囲:P.1199 - P.1201

要約 黄斑に及ぶ裂孔原性網膜剝離60眼のうち46眼には硝子体手術,14眼には経強膜手術を行った。両群間に術後視力と光干渉断層計(OCT)所見の差があるかを検索した。術前平均視力は硝子体手術群が0.06,経強膜手術群0.26であったが,術後平均視力はそれぞれ0.73と0.69で有意差がなかった。手術2週間後での2段階以上の視力改善率は,硝子体手術群で76%,経強膜手術群が36%で有意差があった(p=0.009)。この時点で検眼鏡的には全例で網膜が復位していたが,OCT上での残存剝離が硝子体手術群の13%,経強膜手術群の55%にあり,これらでの術後視力改善は残存剝離のない例よりも有意に少なかった(p=0.009)。硝子体手術群での術後早期からの視力改善には黄斑完全復位が関与していると結論される。

健常眼の高次波面収差の定量解析

著者: 伊藤美沙絵 ,   大野晃司 ,   清水公也 ,   相澤大輔 ,   鈴木雅信 ,   藤澤邦俊 ,   魚里博 ,   向野和雄

ページ範囲:P.1203 - P.1207

要約 目的:健常な眼球の光学系全体,すなわち全屈折の波面収差の定量的解析。対象と方法:屈折異常以外に異常がない90名115眼の全屈折を波面収差測定装置で測定し,装置に内蔵のZernikeの多項式に展開し算出した。収差,屈折度,5mmと7mmの瞳孔径による値を検討項目とした。結果:各次数が収差の総和に占める割合は,2次85.8%,3次8.1%,4次4.4%,5次1.7%であった。屈折度数と高次収差の間に相関はなかった(Spearmanの順位相関:r=0.042,p=0.742)。収差は瞳孔径5mmよりも7mmで有意に大きかった(Wilcoxon符号順位検定:p<0.01)。結論:高次収差は屈折度とは相関せず,瞳孔径が大きいとき高次収差が増大した。

コンタクトレンズ表面の涙の動き

著者: 新美勝彦 ,   塩瀬芳彦 ,   橋本紀子

ページ範囲:P.1209 - P.1213

要約 コンタクトレンズを使っている38名76眼について,レンズ表面の涙膜を観察した。男性2名,女性36名であり,70%が30歳未満であった。5秒間の閉瞼ののち,涙膜の状態を自然状態で約4分間ビデオに記録した。ハードコンタクトレンズでは,開瞼数秒後に涙膜が消失し,広範囲に表面が露出した。ソフトコンタクトレンズでは,多数の涙膜破裂点が融合して線状に拡大した。次の瞬目でコンタクトレンズの表面全体が涙膜で覆われるものには障害はなかったが,付着物があると涙膜の広がりが妨げられ,自覚症状を伴った。非接触型スペキュラーマイクロスコープを用いる今回の方法は,コンタクトレンズ表面の涙膜を良好に保つには,涙液量とともに瞬目運動が関与していることが観察できた。この方法は,コンタクトレンズ装用の適性や交換時期を判断するのにも有用である。

コンタクトレンズケア行動に影響する心理社会的要因に関する予備的研究

著者: 樋口倫子 ,   橋本佐由理 ,   宗像恒次 ,   劉頴 ,   樋口裕彦

ページ範囲:P.1215 - P.1220

要約 コンタクトレンズのケア行動に影響する心理社会的要因を,コンタクトレンズ使用者203名について調査した。自記式質問紙表を配布し,実行されているコンタクトレンズのケア行動と被調査者の心理特性の記入を求めた。その結果,コンタクトレンズのケア実行度には年齢と正の相関があり,感情や感覚を認知して表現することの困難度(アレキシサイミア傾向)と負の相関があった。コンタクトレンズのケア実行度は,ハードないし従来型ソフトコンタクトレンズ使用者よりも,1日型ディスポーザブルないし頻回交換ソフトコンタクトレンズ使用者のほうが高かった。望ましいコンタクトレンズのセルフケア行動の支援には,使用者自身の感情や感覚の認知能力と表現能力を向上させるための,心理的援助が必要と考えられる。

抗真菌薬に対する薬剤アレルギーを生じた真菌性眼内炎の1例

著者: 鈴木美奈子 ,   渡辺洋一郎 ,   飯島康仁 ,   伊藤典彦 ,   水木信久

ページ範囲:P.1221 - P.1224

要約 45歳男性が2週間前からの両眼飛蚊症と霧視で受診した。その数週前に直腸異物に対して手術を受け,経静脈高カロリー栄養(IVH)が行われていた。7年前にペニシリンアレルギーがあった。矯正視力は右0.9,左0.7で,硝子体混濁と眼底の白色病変が両眼にあり,真菌眼内炎第2期と診断した。フルコナゾールの点滴と内服で視力が回復したが,中毒性表皮壊死症が出現した。左眼病変が悪化し,ミコナゾールの点滴を開始した。8日後に薬疹が生じ,イトラコナゾール内服に変更した。40日後に肝機能が生じ,アムホテリシンB点滴に切り替えた。その17日後に低カリウム血症と血管炎が生じ,これを中止した。経過中に第3b期で手術を行った左眼は0.3,第4期で手術を行った右眼は手動弁の最終矯正視力であった。全身投与した4種の抗真菌薬すべてに薬剤アレルギーないし副作用が生じた症例である。

強皮症に著明な脈絡膜循環障害を合併した1例

著者: 福本雅格 ,   奥英弘 ,   植木麻理 ,   喜田照代 ,   糸井恭子 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1225 - P.1228

要約 70歳女性が左眼視力低下で受診した。2年前から慢性関節リウマチに対して服薬中であったが,眼科受診後に強皮症(進行性全身性硬化症)と診断された。両眼の白内障として経過観察中に無症状の左眼乳頭浮腫が生じ,その5か月後にuveal effusionに似た非裂孔原性網膜剝離が左眼に生じた。フルオレセイン蛍光造影で,脈絡膜の充盈遅延とleopard spot patternがあった。インドシアニングリーン蛍光造影で,脈絡膜の部分的な充盈欠損があった。電気生理学的検査で,網膜全層の循環障害と網膜色素上皮の機能障害が認められた。Uveal effusionの素因となりうる小眼球や強膜肥厚はなく,強皮症による膠原線維の変性により,脈絡膜循環障害と網膜色素上皮の機能異常が生じ,非裂孔原性網膜剝離になったと考えられた。

先天白内障術後の長期経過

著者: 吉野真未 ,   中村邦彦 ,   黒坂大次郎 ,   大島剛

ページ範囲:P.1229 - P.1232

要約 目的:先天または発達白内障術後の長期経過の検討。対象と方法:過去30年間に当科で手術を行い,10年以上経過観察ができた15歳以下の41例71眼を対象とした。術式は経角膜輪部水晶体切除または吸引術で,前部硝子体切除術を併用した。結果:術後最高視力は,両眼性で生後6か月以内の手術群が,片眼性で生後3か月以内に手術群よりも良好であった(p=0.039)。緑内障が9例13眼(18%)に生じ,うち10眼には小角膜などの眼合併症があった。緑内障は13眼中6眼(46%)で術後10年以降に発症した。網膜剝離はなかった。結論:先天または発達白内障に対する手術後の合併症である緑内障は,術後10年以上を経て生じることがあり,注意が必要である。

ブロムフェナク点眼液の白内障術後投与における有効性と副作用の検討

著者: 髙松太 ,   城山敬康 ,   斎藤裕 ,   市川一夫

ページ範囲:P.1233 - P.1237

要約 白内障手術後に用いるブロムフェナク点眼液の抗炎症効果,視力変動,角膜上皮障害を2施設での186眼について検討した。ジクロフェナクの点眼をした108眼を対照として比較した。術後28日までの炎症と90日までの視力には,両群間に有意差がなかった。術後28日までの角膜上皮障害は,施設1ではジクロフェナク投与群にのみ生じ,施設2では両群間に差がなかったがジクロフェナク投与群にのみ重症例があった。以上の結果から,白内障術後の炎症と視力経過についてブロムフェナク点眼液はジクロフェナク点眼液と同様な効果があり,角膜上皮障害が少ないと評価される。

専門別研究会

眼科と東洋医学

著者: 樋口祥一

ページ範囲:P.1238 - P.1241

 漢方治療の困難さは,西洋医学の構造に慣れ親しんだ思考法と柔軟性に富んだ漢方解釈の多彩さとのギャップを埋めていくことの困難さだと思われる。その障害を少しでも取り除き,より多くの理解を得るためにこの研究会が存在するのだと考えている。

 そこで,今年は症例報告の6例以外に「証」についての3題のシンポジウムが行われた。

連載 今月の話題

波面収差解析と眼光学

著者: 魚里博

ページ範囲:P.1165 - P.1169

 眼の光学系は結像の不完全さ,収差を有している。色収差と単色収差があり,従来後者はザイデルの5収差分類が多用されてきた。しかし,最近では,角膜などの屈折矯正手術の発展に伴い,波面収差の測定や臨床評価が可能になり,従来の屈折度のみの評価から波面解析による眼球光学系のさらに詳細な評価へ発展しつつある。

眼の遺伝病 47

ロドプシン遺伝子異常と網膜色素変性(2)―ロドプシン遺伝子Glu181Lys変異を認めた常染色体優性網膜色素変性

著者: 和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.1170 - P.1172

 現在までにロドプシン遺伝子異常,およびその遺伝子異常が引き起こす臨床像は欧米諸国を中心に数多く報告されている。海外では常染色体優性網膜色素変性に高頻度に認められるロドプシン遺伝子異常であるが,日本ではその頻度はかなり低い。今回筆者らは,ロドプシン遺伝子Glu181Lys変異を認めた常染色体優性網膜色素変性の1家系を経験したので報告する。この変異は1991年にDryjaら1)により,さらに1994年にSagaら2)によりすでに日本人家系で報告されている変異である。Sagaらの報告によると,この変異をもつ患者の臨床像は若年発症の網膜変性を呈するとされており,筆者らが今回紹介するのも若年発症の家系であった。

日常みる角膜疾患 4

甲状腺眼症

著者: 川本晃司 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1174 - P.1177

 症 例

 [症例1]

 患者:59歳,男性

 主訴:両眼の視力低下と複視

 現病歴:2002年1月に,両上眼瞼の腫脹と正面視において複視を自覚するようになり,近医眼科から紹介されて当科を受診した。2002年6月24日に精査と加療を目的で当科へ入院となった。

 既往歴・家族歴:甲状腺機能亢進症

 初診時所見:視力は右0.6(0.8×+1.5D()cyl-2.0D Ax130°),左0.4(矯正不能)で眼圧は右18mmHg,左16mmHgであった。両上眼瞼の硬性浮腫,眼瞼腫脹および閉瞼障害を認めた(図1a)。細隙灯顕微鏡検査において両眼球結膜の充血と,下方角膜にフルオレセインで染色される点状表層角膜症(A1D2)を認めた。眼底検査では,両眼の乳頭浮腫および網膜皺襞と右眼の乳頭出血を認めた。眼球突出度は,右16mm,左20mmで,Hess試験では両眼の高度な上転障害がみられた。眼窩部MRIでは,両眼の4直眼筋の著明な肥大を認めた(図1b)。甲状腺機能亢進症の既往と上記検査所見から甲状腺眼症と診断した。

 治療および経過:2002年5月26日からステロイドパルス療法(ソル・メドロール1,000mg)を開始した。第1クール施行後,両上眼瞼の硬性浮腫およぴ眼球突出に改善がみられた(右15mm,左18mm)。第2クール施行後,両眼の網膜皺襞は消失し,MRI検査では,上下および内外の直筋の肥厚が軽減し,眼球運動障害も改善した。これらに加え上眼瞼の腫脹が軽減すると閉瞼障害も改善され,それに伴い角膜障害も治癒し,視力も右1.0(矯正不能),左1.0(矯正不能)に回復した。以後,甲状腺眼症の再発はなく,外来で経過観察中である。

 [症例2]

 患者:53歳,女性1)

 主訴:両眼の眼痛と視力低下

 現病歴:1995年10月2日,両眼の眼痛および視力低下を自覚したため,当科を受診し,甲状腺機能亢進症に伴う両眼の悪性眼球突出症の診断で,入院となった。

 既往歴:Graves病のため半年前からメルカゾール(R)を内服中である。

 初診時所見:視力は右0.05(矯正不能),左0.08(矯正不能),眼圧は右18mmHg,左17mmHg,眼球突出度は両眼とも21.5mmで,両眼瞼は腫脹し閉瞼不能であった。細隙灯顕微鏡で両眼の角膜潰瘍,高度の結膜充血および結膜浮腫,前房内炎症を認めた。

 治療および経過:入院後,メルカゾール(R)内服により甲状腺機能は正常化した。外眼筋肥大に対しステロイドパルス療法を開始したが,眼球突出は進行し(両眼25mm),放射線治療(20 Gy)により突出度は両眼19mmに改善されたが,依然閉瞼は不能で,角膜潰瘍の改善もみられなかった。1996年3月22日に聖隷浜松病院に転院し,両眼の眼窩減圧術,Muller筋延長術および左眼の眼瞼形成術を施行した。術後眼球突出は改善し,結膜浮腫および眼瞼腫脹も軽快した。山口大学医学部附属病院に帰院後,角膜保護薬および抗生物質の点眼により両眼の角膜潰瘍は治癒したが,角膜中央部に混濁が残存した。その後,右眼視力は0.4(矯正不能)に改善したが,左眼視力は0.03(矯正不能)であった。1998年7月29日に,左眼の視力改善を目的に左眼全層角膜移植術(受容角膜径7.5mm,提供角膜径7.75mm)を施行し,拒絶反応などの合併症はみられず左眼の視力は0.5(矯正不能)まで回復した。

緑内障手術手技・1

線維柱帯切開術(1)

著者: 黒田真一郎

ページ範囲:P.1178 - P.1181

 眼科手術は日進月歩です。同時に揺るがぬ基礎的テクニックも要求されます。今月から,永田眼科 黒田真一郎先生に「私の緑内障手術のすべて」をコンセプトに連載をしていただきます。眼部での手術テクニックにとどまらず,体位,器具の扱いなどなど,「全貌」を開陳していただこうと思います。連載は1年間を予定しております。ご期待ください。(編集室)

私のロービジョンケア・3

病名・失明の告知

著者: 高橋広

ページ範囲:P.1182 - P.1185

 視覚障害者は,先天障害であっても,中途障害者であっても必ず患者として眼科医療機関を受診している。したがって,その対応によってその後の人生は一変するので,眼科医の役割は極めて重要である1~4)。特に,小児は視覚的および全身的発達期であるため,この時期のロービジョンケアはハビリテーションの要因が強い。また,患児を支える家族の果たす役割は非常に大きく5),彼らの協力なしには拡大鏡の使用や歩行などの日常生活訓練はあり得ない。このため,家族には病状やその予後をより的確に,わかりやすい言葉で明確に,時間をかけ十分な心理的配慮を行いながら説明すべきである。病名を聞いただけで,失明の恐怖に怯えているものに「将来は見えなくなります」などと一方的に失明を告知すべきではない。その後のケアや福祉や社会的援助などを提示できない場合は,病名や失明の告知はむしろ慎むべきである。

 網膜色素変性の診断を受け,「将来は見えなくなる」などと告げられ,苦悩していた症例を次に紹介する。

あのころ あのとき 31

「巻頭言」を書いたころ

著者: 有澤武

ページ範囲:P.1188 - P.1189

 このほど「臨床眼科」から「あのころ,あのとき」欄への寄稿を求められた。

 これまでも,私は,社団法人日本眼科医会の会長を務めたりして,その機関誌「日本の眼科」に巻頭言のようなものを執筆してきた。その時も,私としては「今,もっとも求められていることがら」に焦点を当てて執筆したのであったが,振り返ってみると,当時の巻頭言の「真髄」がいまなお現在の問題点につながっているように思え,一部,当時の巻頭言を引用しつつ,執筆の求めに応ずることにした。

他科との連携

透析カンファレンスの現場から

著者: 大澤俊介

ページ範囲:P.1243 - P.1244

 「他科との連携」について何かあればとのお話をいただき,私のような若輩の稚拙な文章で誠にお恥ずかしい限りなのですが,「他科との連携」の言葉を反芻しながらまず脳裏に浮かんだ当院血液浄化部での透析カンファレンス(入院中の透析患者の状態に関して透析担当医が中心になって各科医師,看護師,臨床工学技士などが集まるカンファレンス)について少し書かせていただこうと思います。

臨床報告

色光を用いたLow Vision Evaluatorによる末期緑内障患者の視機能評価

著者: 高橋佳奈 ,   中川陽一 ,   桑原創一郎 ,   布施昇男 ,   秋山博 ,   中澤徹 ,   番裕美子 ,   玉井信

ページ範囲:P.1257 - P.1260

要約 末期緑内障36眼の視機能を,色光を用いる全視野刺激型光覚刺激装置(Low Vision Evaluator)で検索した。矯正視力は,0.5以上が29眼,0.4未満が7眼であり,中心視野に緑内障性感度低下があった。光覚刺激装置では,刺激用ゴーグル内に20cd/m2の白色背景光をおき,刺激光として,赤色(644nm),青色(470nm),緑色(525nm)の発光ダイオードを用いた。本装置の青色を用いた測定結果は,ハンフリー静的視野計で得られたtotal deviationの中心4点と高い相関を示した(r=0.72,p<0.001)。本装置が末期緑内障眼の視機能の評価に有用であることを示す所見である。

眼科におけるクリニカルパスの評価

著者: 脇屋純子 ,   久保田敏昭 ,   巣山弥生 ,   鬼塚尚子 ,   毛利由加 ,   大久保緑 ,   野口加奈子 ,   和田多美子

ページ範囲:P.1261 - P.1265

要約 当院眼科に医療チーム用のクリニカルパス(CP)を導入した。CPの対象は,白内障,斜視,緑内障,白内障・緑内障同時手術,黄斑円孔硝子体手術,増殖糖尿病網膜症硝子体手術,網膜剝離バックル手術,網膜剝離硝子体手術,その他の硝子体手術の9種類とした。その使用状況とバリアンス(逸脱症例)を10か月間検討した。眼科病棟の入院患者は214名で,うち134名158眼に手術を行った。CP使用例は125眼,不使用例は23眼で,その他に角膜移植や涙囊鼻腔吻合術などCPの非適応症例10眼があった。バリアンスは全体で51.2%に発生した。白内障手術でのバリアンス発生は38%で,他の手術ではバリアンス発生が高かった。バリアンス発生の最も多い理由は患者合併症であった。

網膜静脈閉塞症に対する高圧酸素療法の効果

著者: 志熊徹也 ,   飯野倫子 ,   松島千景 ,   石山善三 ,   松澤豪

ページ範囲:P.1267 - P.1270

要約 網膜静脈閉塞症15例15眼に対して高圧酸素療法を行った。内訳は網膜中心静脈閉塞症3眼と網膜静脈分枝閉塞症12眼である。年齢は37歳から76歳,平均58.5±10.5歳である。全例に検眼鏡的または蛍光眼底造影で黄斑浮腫があった。高圧酸素療法を行わない同様な所見がある12例12眼を対照とした。高圧酸素療法は1回1時間で連日行い,10回を1クールとして1ないし2クールを実施した。治療から6か月後の視力で効果を判定した。発症から治療開始までの期間は,効果と無関係であった。高血圧,脳硬塞,糖尿病などの全身疾患がない症例では,これがある症例よりも効果が有意に良好であった。黄斑出血よりも浮腫が広範囲にある症例では,対照に比べ,視力改善例が多かった。全身疾患がなく,黄斑浮腫が出血よりも高度である網膜静脈閉塞症に対して,高圧酸素療法が有効であると結論される。

眼球打撲の既往がなく前房出血・眼痛を併発した網膜剝離の1例

著者: 山﨑厚志 ,   石原美香 ,   佐々木勇二 ,   井上幸次

ページ範囲:P.1271 - P.1274

要約 65歳女性が3日前に突発した右眼の眼痛と視力低下で受診した。左眼に-15Dの近視があり,矯正視力は右手動弁,左0.8であった。眼圧は右6mmHg,左13mmHgで,右眼の前房が5.8mmと深く,フィブリンを伴う前房出血があった。隅角は正常所見であった。右眼底は透見不能,左眼底には近視性変化があった。眼軸長は右33.57mm,左31.05mmであった。超音波検査で右眼に全網膜剝離があった。右眼に水晶体摘出術と硝子体手術を行い,乳頭下方に裂孔があり,網膜と硝子体間に広範な癒着があった。網膜は復位し,最終的に0.3の視力が得られた。高度近視眼での網膜剝離が前房出血で発見された1例である。

カラー臨床報告

眼瞼結膜に限局したクリプトコッカス症の1例

著者: 北條昌芳 ,   阿部俊明 ,   鹿野哲也 ,   玉井信

ページ範囲:P.1253 - P.1255

要約 55歳女性が左眼の上下瞼結膜に黒い塊があるのに気づいて受診した。8年前にアレルギー性結膜炎と診断され,デキサメタゾンの点眼を続けていた。結膜結石があり,数回の結石除去術を受けていた。視力は良好で,眼底その他に異常はなかった。左眼の瞼結膜に偽膜形成があり,上の瞼結膜に1個,下の瞼結膜に9個の黒色塊があった。生検で黒色塊はクリプトコッカス症と診断した。残りの黒色塊を除去し,ステロイド薬点眼を中止させた。以後の再発はない。瞼結膜のクリプトコッカス症は稀であるが,長期の副腎皮質ステロイド薬の点眼による眼局所の免疫力低下が引き金になったと推定した。

最近の話題から

白内障術後眼内炎に関して医師の過失を認めなかった判決の教えるもの―千葉地裁松戸支部,平成14年3月29日判決―東京地裁判決と比較しながら

著者: 岩瀬光 ,   羽柴駿

ページ範囲:P.1276 - P.1279

 1.はじめに

 千葉地裁松戸支部から白内障術後眼内炎に関する判決(以下,松戸支部判決)が2002(平成14)年3月29日に出された。白内障術後眼内炎に関しては2つ目の判決と考えられる。白内障術後眼内炎について最初に出された東京地裁,2001(平成13)年1月29日判決(以下,東京地裁判決)が医師の過失を認めた(臨眼55:1764-1765筆者論文参照)のに対し,この松戸支部判決は医師の過失を認めなかった。後述するように,この2つの事案は「時間経過」が極めて似ているが,医師の対応には差があった。2つの判決の結果を分けた点はどこにあるのかを分析し,眼科専門医の今後の対応の参考にしたいと思い筆を執った。

 なお,東京地裁判決もこの松戸支部判決も双方控訴せず確定している。

今月の表紙

水晶体脱臼

著者: 中平めぐみ ,   三宅養三

ページ範囲:P.1173 - P.1173

 症例は63歳男性。右眼の異物感,視力低下,圧迫感を主訴に近医を受診した。細隙灯顕微鏡検査で4~6時に結合を残すのみで,ほぼ全周にわたる水晶体の亜脱臼を認めたため当院を紹介され受診となった。外傷の既往や血液生化学的異常を伴う全身疾患はない。来院時の右眼視力は0.04(1.2)で,すでに水晶体は硝子体腔に落下していた。水晶体囊の破損はなく,前房や硝子体の炎症所見を認めなかったため,経過観察となった。4日後,突然の嘔気,嘔吐症状が出現し,当院救急外来を受診した。受診時の右眼眼圧は58mmHgであった。硝子体腔にあった落下水晶体は,前房内に移動していた。瞳孔は水晶体後面でブロックされ,隅角は上方3~9時にかけて閉塞していた。上方輪部に強角膜弁を作成し囊ごと水晶体を摘出した。視力は現在(1.2),眼圧は正常範囲内である。

 撮影は,コーワ社製のフォトスリットランプSC-1200を用い,フィルムはコダック社エクタクローム400を使用した。(亀田総合病院眼科 中平めぐみ)

やさしい目で きびしい目で 43

産休,育休(1)

著者: 外園千恵

ページ範囲:P.1245 - P.1245

 世間では育児休暇という言葉が当たり前に使われるようになり,わが京都府立医大眼科でも育児休暇を取る医師がボチボチ出てきました。私が長男を出産した14年前には,産休をとる医師もまだ少なく,「育児休暇」なんて考えもできない状況でしたから,随分と社会風潮も変わってきたなと感じます。

 これまで10数年,医局の後輩が産休をとることに大なり小なりかかわってきましたが,ある一定の法則があることに気付きました。社会性の高さというものが,出産というイベントを通して露見するということです。その医師が仕事をどのように自分のなかで位置づけているか,どれだけ社会人として一人前であるか,が出産を機に出てしまうのです。研修医時代にとても真面目で仕事ができても,驚くほどに社会性がなく,自己中心的であることがわかることがあります。無事出産できたことを医局に連絡もせず,ひどい場合には産後6週を過ぎても何の連絡もないことがあります。無事の出産を上司というのは願っており心配しています。またいつから復帰できるかは,留守の間をやりくりしている身には大変重要です。そんな事情が,出産する側に見えていないということがあるのです。片や,そんなに仕事はできなくとも出産後に,母子ともに健康で順調であること,予定通りに復帰できるということ,産休をとっていることのお詫びと感謝を知らせてくる人もいます。どちらの医師に社会性が高いかは誰が考えても明らかです。

ことば・ことば・ことば

灰色

ページ範囲:P.1247 - P.1247

 いつも一対になって出てくる単語があります。リトマス試験紙なら酸性とアルカリ性,船なら取舵と面舵がその例です。リトマス試験紙の場合には,red/acidと語呂合わせで「赤は酸性」と覚えました。その一方,取舵は左,面舵は右に曲がるのですが,暗記は困難です。

 これが英語のlarboard/starboardとなると完全に駄目です。どちらかが右舷でもう一方が左舷なのですが,こればかりはいくら考えても答えがでないのです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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