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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科57巻8号

2003年08月発行

雑誌目次

特集 ベーチェット病研究の最近の進歩

序説

著者: 大野重昭

ページ範囲:P.1298 - P.1300

はじめに

 ベーチェット病がスモン病などと並んで最初の厚生省特定疾患(いわゆる難病)に認定され,厚生省特定疾患ベーチェット病調査研究班が組織されたのは1972(昭和47)年であった。その後現在に至るまで本研究班は一貫して継続され,31年後の今日に至っている。私は1996(平成8)年から2002(平成14)年までの6年間,第5代の厚生科学研究(特定疾患対策事業)ベーチェット病に関する調査研究班班長を務めた。この序説では,本研究班の最近の研究成果1,2)をもとに,ベーチェット病研究の進歩について概説してみたい。

ベーチェット病の分子遺伝学

著者: 水木信久 ,   大野重昭 ,   猪子英俊

ページ範囲:P.1302 - P.1307

はじめに

 ベーチェット病は全身の諸臓器に急性の炎症を繰り返す原因不明の難治性炎症性疾患であり,再発性口腔内アフタ性潰瘍,眼症状,皮膚症状,陰部潰瘍を4主症状とする。本病はシルクロード周辺のモンゴロイドに多発し,欧米人には稀な疾患である。また,本病は人種を越えてHLA-B51抗原と顕著に相関しており,特定の内的遺伝素因のもとに何らかの外的環境要因が働いて発症する多因子性遺伝性疾患と考えられている。本稿では,ベーチェット病の病態,および分子遺伝学的発症機序について,最新の知見を交えて概説したい。

ベーチェット病の疫学

著者: 小竹聡

ページ範囲:P.1308 - P.1310

はじめに

 ベーチェット病は多臓器侵襲性の炎症性疾患で,増悪と寛解を繰り返しながら遷延経過をたどる難治性疾患である。本病は全身のほとんどすべての臓器に病変を形成しうるが,特に眼症状は失明にいたる重度の視力障害を招くことから眼科医としても注意を払うべき疾患である。本病の世界的な分布をみると,地中海沿岸諸国から中東,中国,韓国,日本を結ぶシルクロード沿いに多発している。病因は不明であるが,人種を越えて本病患者のHLA-B51の頻度が高いことから,HLAに連鎖する素因の役割が重視されている1~3)。ただし,発症率の高い日系人でもカリフォルニアやハワイなどの在住者には本病の発症はなく4),内因のほかに環境要因の関与が必要と考えられている。

 本稿ではわが国,特に北海道における本病患者の疫学動向を探り,とりわけ眼病変について,最近の患者に変化があるかどうかを検討した。

ベーチェット病の臨床像

著者: 川島秀俊

ページ範囲:P.1312 - P.1316

はじめに

 ベーチェット病は,トルコの皮膚科医であるBehçetが,口内アフタ,外陰部潰瘍,眼炎症の三主症状を呈する患者を1937年に報告1,2)したのが最初とされている。しかし実はそれをさかのぼること7年前,ギリシャの眼科医Adamantiadesが,同じような三主症状とさらに関節症状を伴う患者の報告をしていた3)。このような経緯から,1960年代には,本疾患をAdamantiades-Behçet diseaseと呼ぶべきとの論点が展開された状況も認められるが,ベーチェット病(Behçet's disease)という疾患名がいつともなく定着し,今日に至っている。

 本疾患は,その国際的分布が,アジアから地中海地域のシルクロード沿いに多く発症していることから,「シルクロード病」ともいわれることはよく知られている。HLA-B51とベーチェット病との強い関連性は,microsatellite marker(HLA-B遺伝子近傍)を用いた近年の分析でも,さまざまな人種において再確認されている4)。本邦での1991年の時点での患者総数は推定1万6千人であり5),新規発症患者は減少傾向にあるものの,累積患者数は増えている。調査研究班発足当初,すなわち,成人の後天的失明の約12%をベーチェット病眼疾が占めていた当時と比べると6),幾種類かの新たな治療薬剤が導入されはしたが7),本疾患に対する治療成績はいまだ満足のいくものではなく,今後さらなる展開が期待されている。

ベーチェット病の治療

著者: 藤野雄次郎 ,   川島秀俊

ページ範囲:P.1318 - P.1322

はじめに

 ベーチェット病は原因不明の難病であり,特に眼症は激しい炎症発作を繰り返し起こすことにより,網膜機能が荒廃し,重篤な視機能の低下を起こすことが多い。

 ベーチェット病眼症の治療には,眼炎症発作時に行う抗炎症療法と,眼炎症発作そのものを起こらなくする,またはその炎症の程度を減弱させるために継続的に行う眼発作抑制療法がある。眼発作抑制療法に用いる薬剤として,これまでコルヒチンとさまざまな免疫抑制薬,ステロイド薬が使用され,視機能維持に貢献をしてきたが,いまだにその薬効は十分ではない。ところで,免疫抑制薬は免疫学の進歩とともに免疫機能全般を抑制するシクロフォスファミドなどの薬剤から,Tリンパ球機能を選択的に抑制するシクロスポリンに取って代わり,近年では個々のサイトカインの抑制を目標にした抗サイトカイン治療薬も使用されようとしている。ここでは最近の新しい治療として抗TNFα抗体とインターフェロンを紹介し,また硝子体手術についても触れる。なお,これまでの治療については拙書1,2)を参照されたい。

ベーチェット病研究の動向

著者: 南場研一

ページ範囲:P.1324 - P.1326

はじめに

 現代の医学の進歩には目覚ましいものがあるが,それでもまだ解明されていない疾患は多い。ベーチェット病もその1つであり,なぜ突然眼炎症発作を繰り返すようになるのか,なぜ眼,皮膚,口腔粘膜,腸管など限られた臓器に発症するのか,何か惹起抗原はあるのかなど,まだまだ解明されていない点ばかりである。働き盛りの青年期に発作を頻発して急速に視力を失っていき,社会的にも疎外されていく患者の姿を見るといたたまれないものがあり,何とかこの疾患を解明し,新たな治療法を開発しなければならないと痛感する。ベーチェット病がシルクロード病と呼ばれているようにアジア,中近東を中心とした地域に特有の疾患であることを考えると,この疾患を解明するのは筆者ら日本人の責務ではないかと思われる。

 このようにまだまだ問題は山積みだが,これまでに解明されてきたこと,現在どのような研究が進行中であるかを中心にまとめてみる。

ベーチェット病患者のQOLと国際交流

著者: 西田朋美 ,   水木信久 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1328 - P.1332

はじめに

 ベーチェット病は,わが国の三大ぶどう膜炎の1つであり,現在も原因不明の難治性疾患の代表例である。厚生労働省の診断基準にも示されている通り,再発性口腔内アフタ,眼症状,皮膚症状,外陰部潰瘍を主症状とし,増悪と寛解を繰り返す全身性炎症疾患である。さらには,特殊型に代表されるように,血管,神経,腸管などにも反復性炎症を起こし得る。このように,全身的に症状が現れるうえ,原因もはっきりせず,治療法も確立しているとはいいがたい難病であるがゆえ,程度の差こそあれ患者,および患者家族は多岐にわたる悩みを抱えるケースが多い。ここでは眼症状を伴うベーチェット病患者のQOLに主に焦点をあてながら考察するとともに,最近徐々に整えられつつあるベーチェット病患者の国際交流に関して最新情報を含めて紹介する。

連載 眼の遺伝病 48

CRX遺伝子異常と網膜変性(1)―Arg41Trp変異と常染色体優性錐体かん体ジストロフィ

著者: 板橋俊隆 ,   和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.1334 - P.1337

はじめに

 1997年,CRX遺伝子が常染色体優性錐体桿体ジストロフィの原因遺伝子であることが報告され,翌年にはさらにCRX遺伝子変異はLeber先天盲も引き起こすことが報告された1~3)。現在までに,常染色体優性錐体桿体ジストロフィにおいて20種類以上のCRX遺伝子変異が報告されている1~2,4~8)。今回我々は,日本人常染色体優性錐体桿体ジストロフィの1家系4症例にCRX遺伝子のArg41Trp変異を確認したので,臨床像と合わせて報告する。この変異はすでに海外でも報告がある変異であるが,臨床像の詳細な報告は少なく,本家系は3世代にわたり,臨床経過を知るうえでも重要な症例と考えここに報告する。

日常みる角膜疾患 5

点状表層角膜症

著者: 齋藤淳 ,   近間泰一郎 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1338 - P.1340

症例

 患者:38歳,女性

 主訴:右眼の視力低下

 現病歴:約1年前から右眼の視力低下と異物感を自覚し,近医を受診したところ,結膜炎,角膜びらんと診断され,サルペリン(R)点眼と0.1%フルメトロン(R)点眼治療を受けた(1日4回)。3か月前に受診した際には右眼の角膜上皮欠損を認めたが,炎症所見は存在せず,サルペリン(R)点眼を中止し,0.1ヒアレイン(R)点眼(1日4回)と0.02%フルメトロン(R)点眼(1日3回)とに変更した。その後も症状の改善がみられなかったため,山口大学医学部附属病院眼科に紹介され受診した。

 既往歴:約1年前に,近医で右眼の急性結膜炎に対して点眼治療を受けた。それまでも麦粒腫を繰り返していた。

 家族歴:特記すべきことはない。

 初診時所見:視力は右0.2(0.7×+4.5D()cyl-3.5D Ax 45°),左1.5(矯正不能)で,右眼の角膜全体に点状表層角膜症(A3D31))が存在し,下方の輪部に結膜上皮の侵入を伴っていた。上眼瞼に脂漏性マイボーム腺機能不全を認めたが(図1),上眼瞼結膜の乳頭増殖や充血および輪部結膜の濾胞形成は観察されず,クラミジア感染を疑わせる濾胞性結膜炎はなかった。中間透光体,および眼底に異常はなかった。シルマーテストI法では右眼5mm,左眼6mmで,角膜知覚検査は右眼45mm,左眼60mm(Cochet-Bonnet知覚計),涙液層破壊時間(break up time:BUT)は右眼で8秒であった。フォトケラトスコープでは右眼に点状表層角膜症によるマイヤーリングの乱れが認められた(図2左)。

 治療および経過:初診時に12時方向の眼瞼縁に黄色や粘稠な分泌物を伴う脂漏性マイボーム腺機能不全,および球結膜充血がみられたが,瞼結膜の乳頭増殖や充血などの明らかな異常所見はなかった。病歴聴取では右眼のみに何度も麦粒腫を繰り返していることが判明した。原因は脂漏性マイボーム腺機能不全と判断し,治療としてミノマイシン(R)錠(100mg)1日2回内服とサルペリン(R)点眼右4回,さらに眼表面のクリアランスを促進する目的で,生理食塩水の点眼を適時使用するよう指示した。再診時には点状表層角膜症がA2D1まで改善し,視力は0.6(0.9)に向上した。2か月後の時点では点状表層角膜症はA1D1に,裸眼視力は1.5まで改善し,自覚症状は消失した(図3)。

緑内障手術手技・2

線維柱帯切開術(2)

著者: 黒田真一郎

ページ範囲:P.1342 - P.1345

テノン下麻酔

 テノン囊下麻酔:経結膜球後麻酔

 テノン囊を円蓋部方向に剝離し,強膜をじかに露出する。反対の手で強膜を固定し,反対の手で永田式経結膜球後針を用いて球後麻酔を行う(注射器は2.5ccを用いている)。このとき,針は直筋の間で,強膜に針先を沿わせるようにして球後まで挿入する(図1)(針先が球後まで達していることを確認して麻酔薬を注入する)。

私のロービジョンケア・4

ロービジョンクリニック

著者: 高橋広

ページ範囲:P.1346 - P.1350

 リハビリテーションには,医学的リハビリテーション(medical rehabilitation)と社会的リハビリテーション(social rehabilitation)という概念がある。肢体不自由や脳卒中などのリハビリテーション(医学的リハビリテーション)は病院の理学療法士や作業療法士などが行っており,最近は受障直後からのリハビリテーションが盛んになされるなど,リハビリテーション医学が飛躍的に発展を遂げている。そして,失語症や高次脳機能障害などの分野でも言語聴覚士が活躍している。一方,視覚障害者のリハビリテーションは,医療の場では眼鏡処方などを行い,視機能回復が困難であるとし,日常生活訓練や歩行訓練などは福祉や教育で行われるものとの考えが医療側に根強い(図1)1)。すなわち,眼科リハビリテーション(医学的リハビリテーション)は病名や失明の宣言・告知後,速やかに社会的リハビリテーションにつなぐことを主な仕事と考えられている。このため,視覚障害者である患者は視覚障害者のためのリハビリテーションを病院で受けることができない。また,視覚障害者の福祉施設側にも,真のリハビリテーションの担い手は社会的リハビリテーションであるとの意識が強い。このように,眼科医療は診断と治療,その後の訓練は教育や福祉という固定概念が確立し,両者間の壁は非常に高く,連携はほとんどない。しかし,連載第1回に記したように,私は福祉の人(現 国立函館視力障害センター山田信也氏)を医療に招き入れることによって,患者が癒され,ふたたび生きていく力を取り戻していくプロセスをまざまざと見てしまい2,3),また,眼科医が患者の治療中に,早期に,適切にロービジョンケアを開始すべきであると国立身体障害者リハビリテーションセンター病院の簗島謙次先生にも教えられた4)。そこで,私は山田氏と議論を交わし,従来の医学的リハビリテーションや社会的リハビリテーションといった固定概念では連携がとりにくいので別の名前を付したほうが得策であると結論し4),プライマリロービジョンケア(primary low vision care),基礎的ロービジョンケア(basic low vision care),実践的ロービジョンケア(advanced low vision care),先端的ロービジョンケア(high-graded low vision care)などの名称を提案した(図2)。

あのころ あのとき 32

あのころから今もなお

著者: 岩田和雄

ページ範囲:P.1352 - P.1354

 小学校四年生の頃,近くの川で魚釣りに熱中していた。ノーベル文学賞のヘッセも,幼少時は魚釣りに夢中だったというが,それは子供の共通の楽しみであった。やがて大物の鯉釣りに憧れ,挑戦し始めたある日のこと,突然巨大な鯉がかかり,狂気していきなり竿をあげたために鯉が水面に顔を見せたとたん,糸が切れて逃げられてしまった。その口惜しかったこと。そしてまた別の日,あたりがなく釣糸を垂れたままにして遊びほうけているうちに,大きなあたりがきているのを近くにいた友がみつけ,私の代わりに竿をあげたところ,これがまた大きな鯉であった。それ以来,私の竿には二度と鯉はかからなかった。

 稀なチャンスを逃してしまうという宿命の糸が今に尾を引いているように思う。大小にかかわらず,新発見にめぐり合う幸運は誰にも訪れるものだ。パスツールは「観察の場では,幸運は待ち受ける心構え次第である」と述べたというが,偶然のチャンスを受け入れる準備の有無が成否の分かれ目となる。

他科との連携

奇妙な主訴

著者: 大黒伸行

ページ範囲:P.1364 - P.1365

 「他科との連携がうまくいった症例」という内容でエッセイ風にまとめてくださいという依頼を受けて,いままでに経験した症例について思いめぐらせてみた。考えてみると,糖尿病や高血圧,血液疾患や自己免疫疾患,脳腫瘍などの脳神経疾患などなど,日常診療でよく遭遇し,他科との連携が不可欠な眼疾患はたくさんある。実際,眼科検査が全身異常発見の端緒となったということはほとんどの眼科医が経験しているのではないだろうか。しかし,今回紹介する症例ほどその主訴が奇妙で最終診断に驚いた症例はなかった。今回,執筆する機会を得たのでぜひご紹介したいと思う。

 患者は60歳くらいの女性で,夫と一緒に来院された。主訴は「小さくて細い文字はよく見えるのだが,大きくて太い文字が読めない」というものであった。最初は相手の主訴がよく理解できなかったのだが,よくよく聞いてみると結局は「新聞などはよく読める。遠くの標識も見えるしテレビも問題ない。ただ,ポスターや看板の大きな字が,遠くからだと読めるのだが近づくと読めなくなる」ということであった。この症状は2年ほど前からで,いくつもの眼科で診てもらっており,白内障とか加齢性黄斑変性症とか診断されていたようだが,正直いって本気で相手にされていなかったようである。本人もこの症状が普通ではないことはわかっていたようで,夫もなぜこのような症状が出るのか不安であるとのことであった(確かにこのような尋常ではないことを自分が自覚すれば不安になるのも不思議ではない)。

臨床報告

糖尿病網膜症に対する硝子体手術前後の耳側縫線領域における蛍光眼底所見

著者: 根本大志 ,   安藤伸朗

ページ範囲:P.1367 - P.1371

要約 糖尿病網膜症18例21眼に硝子体手術を行い,その前後の蛍光眼底造影所見を検索した。年齢は50~78歳,平均64.6±10.4歳である。術後の所見は,手術から2~6か月,平均3.3±1.3か月の時点で観察した。手術を行わない15眼を対照とした。検索する眼底部位は,中心窩耳側の縫線領域に限定した。術後の毛細血管瘤数は術前に比べ,減少9眼,不変8眼,増加4眼であり,対照群と差がなかった。術後の無灌流野は減少7眼,不変9眼,増加5眼であり,対照群での減少0眼,不変10眼,増加5眼と比べ,減少について有意差があった(p<0.05)。以上の所見は,硝子体手術後に毛細血管瘤の増減がなく,無灌流野が減少したことを示している。

網膜切開術を併用した硝子体手術で良好な結果を得たstageV未熟児網膜症の1例

著者: 横尾葉子 ,   近藤寛之 ,   大里正彦 ,   大島健司

ページ範囲:P.1373 - P.1375

要約 生後5か月の女児が未熟児網膜症で受診した。在胎26週で生まれ,生下時体重は924gであった。生後2か月で未熟児網膜症が発見され,両眼にレーザー光凝固が行われたが,当科受診時には後水晶体線維症を伴う全網膜剝離があり,右眼は未熟児網膜症の第5期,左眼は第4期の状態にあった。ただちに硝子体手術を両眼に行ったが網膜は復位しなかった。左眼には以後5か月間に2度の硝子体手術を行ったが,そのまま全剝離に終わった。右眼には,初診から11か月間に2度の硝子体手術,輪状締結術,さらに全周の網膜切開術と一過性のシリコーンオイル注入を行った。生後5年の現在,右眼の網膜は復位し,0.1の矯正視力を保っている。進行した未熟児網膜症に対して網膜切開術が奏効した1例である。

トラベクレクトミーを併用した眼内レンズ手術の術後屈折誤差

著者: 平田裕也 ,   木村忠貴 ,   大橋広弥 ,   尾崎志郎 ,   山名隆幸

ページ範囲:P.1377 - P.1380

要約 線維柱帯切除術,超音波乳化吸引術,眼内レンズ(IOL)挿入術の同時手術を13眼に行い,予想屈折値と術後の実測屈折値との差を検討した。年齢,性別,IOL度数をマッチさせた白内障手術単独例13例を対照とした。IOLは,すべてマルチピース型アクリルレンズを使用し,囊内に固定した。IOL度数の計算にはSRK-T式を用い,術後屈折値は自動屈折計による等価球面度数で表示した。術後屈折値と予想屈折値との差は,同時手術群で-0.54±0.73D,単独手術群で0.55±1.00Dであり,両群間に有意差があった(p<0.05)。同時手術では平均1.1D近視側にずれるため,SRK-T式が修正される必要がある。

視神経炎との鑑別が困難であった再発性前部虚血性視神経症

著者: 加藤正幸 ,   松浦豊明 ,   湯川英一 ,   丸岡真治 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.1381 - P.1386

要約 66歳女性が1週前からの右偏頭痛,右眼痛と視力低下で受診した。矯正視力は右0.01,左1.0であった。右眼に上半盲と相対的求心路瞳孔反応障害(relative afferent pupillary defect:RAPD)があり,右眼に乳頭浮腫があった。臨床症状と検査所見から前部虚血性視神経症と診断し,副腎皮質ステロイド薬とプロスタグランジンE1の点滴を行い,視力と視野は改善した。その後2か月間に2回の視神経症の再発が右眼に起こり,初回は下半盲,2回目には中心暗点を伴っていた。そのつど同様な治療で寛解し,以後10か月間の経過は順調である。本症例ではプロスタグランジンE1の点滴が有効であったと考えられる。

片眼性脈絡膜剝離の1例

著者: 静川紀子 ,   田川博 ,   斎藤哲哉 ,   三田村佳典 ,   母坪雅子 ,   大塚賢二

ページ範囲:P.1387 - P.1391

要約 外傷や眼手術の既往がない77歳男性が数日前からの右眼の視野狭窄で受診した。矯正視力は右0.3,左1.0で,眼圧は右15mmHg,左13mmHgであった。右眼底の周辺部全周に網膜剝離を伴わない脈絡膜剝離があった。蛍光眼底造影で網膜色素上皮のレベルに点状の過蛍光があった。プレドニゾロンの内服開始から5日後に脈絡膜剝離が消退しはじめ,5週後に消失した。寛解後のインドシアニングリーン蛍光眼底造影で右眼脈絡膜の充盈遅延があり,循環障害が疑われた。原因不明の脈絡膜剝離が片眼に生じた稀な症例であり,炎症性である可能性がある。

今月の表紙

Multifocal choroiditis associated with progressive subretinal fibrosis

著者: 福井勝彦 ,   大野重昭

ページ範囲:P.1333 - P.1333

 患者は29歳,女性。左眼の視力低下と中心暗点を自覚し近医を受診した。精査目的にて3か月後の1994年5月9日に当院を紹介され受診した。視力は右眼0.06(1.5×-5.0D),左眼0.01(0.02×-5.0D),眼圧は両眼とも14mmHgであった。前眼部に炎症所見はなく水晶体も透明であった。また,硝子体にも混濁や炎症は認められなかった。網膜電位図(ERG)は右眼が正常で,左眼は振幅の減弱が認められた。生化学的検査所見はIgAが452.5mg/dl(正常値100~360),血清検査の抗ストレプトリジンO価(ASO)が256(正常値50以下)と高値を示したが抗核抗体,抗DNAは正常範囲であった。ウイルス検査は未施行である。

 左眼眼底には黄斑部に瘢痕化した星状の網膜下増殖組織と黄斑部を中心に後極部にかけて多発性のやや萎縮化した黄白色斑状病巣が脈絡膜から網膜色素上皮レベルに散在していた。右眼眼底に異常は認められなかった。走査型レーザー検眼鏡(SLO)によるmicroperimetryで右眼にはscotoma(暗点)を認めなかったが,左眼の黄斑部の瘢痕病巣部とその周囲にdense scotomaを認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影では,多発性の黄白色斑状病巣は,初期像では低蛍光のなかに脈絡膜大血管の透見できるwindow defectによる過蛍光を示し,後期像では組織染により過蛍光を示した。黄斑部の網膜下増殖組織は初期像で蛍光遮断よる低蛍光,後期像では組織染により過蛍光を示した。インドシアニングリーン蛍光造影眼底撮影では,左眼眼底の黄白色斑状病巣は造影早期から後期まで低蛍光を示し,脈絡膜中大血管の透見できる部位もみられた。約7か月後(写真)では,左眼の後極部から周辺部にかけて黄白色斑状病巣の数が増加し,黄斑部の星状の網膜下増殖組織と陳旧性の黄白色斑状病巣は拡大し辺縁の色素沈着が増強していた。文献的検索からmultifocal choroiditis associated with progressive subretinal fibrosisと考えられた症例である。

やさしい目で きびしい目で 44

産休,育休(2)

著者: 外園千恵

ページ範囲:P.1355 - P.1355

 前回のつづきとして今回は,産休,育児休暇を取るにあたっての具体的テクニックと心構えについてお話しします。

 まず出産がわかった段階で,切迫流産や早産にならないように,仕事をしていない妊婦さん以上に細心の注意を払わなくてはいけません。日曜に遠出をして遊び,翌週に切迫流産で勤務停止などということは言語道断です。かつて切迫で急に休んだ後輩が,その直前に自転車を乗り回していたと聞いて本当に驚きました。勤務時間内はちょっとした合間に横になるなど周囲に迷惑をかけずに休む工夫をし,プライベートの時間は家事の手を抜いて体への負担を減らしましょう。仕事をしている分プライベート時間は安静に,遊ぶことは控える必要があります。それでも切迫になった場合には,速やかに上司に事情を伝えて休みましょう。誠意を持ってまじめに働いていれば,休むことになってしまっても引け目を感じる必要はありませんが,突然のことに誰が代理で診療してくれたのかを把握して,感謝の気持ちを持つようにしましょう。切迫で休む見込み期間を職場に伝えなくてはなりません(何も伝えてこない人がいますが,論外です)。産科的に見込みをたてるのが難しいことは確かですが,短めに職場に伝えて追加で休み続けるよりも,長めに伝えて可能なら切り上げて復帰するほうがずっとよいです。無事出産したら報告することはもちろん,産後1か月頃に母子の健康状態と,いつから復帰できるかを上司に伝えましょう。

ことば・ことば・ことば

裏の意味

ページ範囲:P.1359 - P.1359

 単語には2つ以上の意味がしばしばあります。大概の場合には「おもての意味」を知っていればそれで通用するのですが,ときには大問題になります。

 その昔,ある小型車が開発され,その名前としてsnowbird「ユキホオジロ」が内定しました。ところが「コカイン常習者」という別の意味が辞書にあることが発見されて大騒ぎになり,結局「青い鳥」にすることで解決しました。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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