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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科57巻9号

2003年09月発行

雑誌目次

連載 今月の話題

神経眼科 最近の話題―慢性進行性外眼筋麻痺と近縁疾患および眼球運動障害

著者: 加瀬学 ,   加藤英夫

ページ範囲:P.1407 - P.1416

 近年ヒトにおけるDNA解析がさまざまな分野で盛んになされるようになってきた。その口火となったのは,1970年代に入ってからの遺伝子操作技術とDNAの塩基配列決定技術の開発によるところが大きい。さらに1980年代になるとPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)などDNA分析の技術および方法論のいっそうの進歩により医学・生物学研究において大きな展開がなされた。臨床上でも多くの疾患で核DNA異常,最近ではミトコンドリアDNA異常も検出され,その臨床像との対比が注目されてきている。神経眼科領域ではミトコンドリアDNA異常を呈するLeber遺伝性視神経症についての報告が相次ぎその臨床像が確立しつつある。しかしながら,Leber遺伝性視神経症より古くから神経学者を巻き込んで大論争を繰り返し,結局遺伝子解析の結果ミトコンドリアDNA大欠失が発見された疾患がある。それが慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)である。ここでは慢性進行性外眼筋麻痺の研究の歴史,近縁疾患との鑑別,ミトコンドリア脳筋症を含めた大脳機能障害における眼球運動検査の意義について自験例を交えて述べる。

眼の遺伝病 49

CRX遺伝子異常と網膜変性(2)―Arg41Trp変異とArg43Cys変異をもつ錐体桿体ジストロフィの2家系

著者: 板橋俊隆 ,   和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.1420 - P.1423

はじめに

 前回は,CRX遺伝子Arg41Trp変異の1家系を報告した。今回は,前回同様,Arg41Trp変異とArg43Cys変異を認めた2家系2症例の臨床像を呈示する。Arg43Cys変異は現在までに報告がない変異であり,今回筆者らがArg43Cys変異を認めた家系は孤発例であるが,Arg41Trpと同様,ホメオドメインのなかにあり病的変異の可能性が大きいと考える。

日常みる角膜疾患 6

中毒性角膜症

著者: 平野晋司 ,   相良健 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.1424 - P.1427

症例

 [症例1]

 患者:68歳,男性

 現病歴:両眼の続発緑内障,糖尿病網膜症の診断により近医でチモロール,ラタノプロストおよび塩酸ドルゾラミドにより点眼加療を受けていた。2000年1月末から左眼の霧視,眼痛を自覚し,近医でチモロール,フルオロメトロン,ヒアルロン酸ナトリウム,オフロキサシン点眼およびアセタゾラミド内服に処方を変更されたが,症状が改善しないため2月14日に当科を受診した。

 既往歴:両眼の糖尿病角膜症があり,1994年に右眼に対して角膜上皮掻爬術を施行した。

緑内障手術手技・3

線維柱帯切開術(3)―シュレム管の同定

著者: 黒田真一郎

ページ範囲:P.1428 - P.1432

シュレム管の同定と開放(内壁と外壁との分離)

 内側フラップをやや上方に引っ張り外壁と内壁との境目に刃先を当てると,線維が裂けるようにシュレム管腔が確認できる(図1)。周りの強膜線維の色と管腔の色の違いに注意すればわかりやすい。前回述べたように,裂けた部位から吸引針で空気を入れると確実に同定できる。また,シュレム管のすぐ手前には強膜岬が輪部に平行に走っており,強膜岬の線維は強膜線維と明らかに異なっているため,強膜岬を確認するのもシュレム管を同定するのに有用である(図2)。

 フラップをシュレム管外壁と内壁が裂けるように引っ張りながら,レーザーブレードで線維を払うように切断し外壁と内壁を分離する(図3,4)。シュレム管内壁面が確認できれば,フラップ両端の外壁を角膜側へ切開しシュレム管全体を露出する(図5)。このとき,両端を確実に切開しシュレム管全幅が確認できるようにすることが重要である。

私のロービジョンケア・5

高齢視覚障害者の心を理解しよう

著者: 高橋広

ページ範囲:P.1434 - P.1438

 高齢化が急速に進んでいるわが国では,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性や白内障の増加に伴い,視覚障害者の高齢化も進行している。既報の北九州の視覚障害者実態調査でも61%は65歳以上の高齢者であった1)。また,脳梗塞や身体障害などを持つ高齢者も視覚に問題を抱えている場合が多い。そして,何よりも人は高齢になると誰でも,たとえ健康であっても,加齢による眼の変化を避けられない。このように,視覚に問題のある高齢者は無論のこと,多くの高齢者に対してロービジョンケアは重要で,ロービジョンクリニックにおいても高齢者は大きな課題となってきている1~3)。そこで今回は,視覚障害をもつ高齢者の心理状況について考えてみよう。

あのころ あのとき 33

立体蛍光眼底造影法開発のころ

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.1448 - P.1451

蛍光眼底撮影の黎明期

 筆者が蛍光眼底造影にかかわったのは,慶應の眼科にいた昭和30年代後半である。当時 教室にあったZeissの眼底カメラを蛍光眼底造影用に改造しようと,フィルターを入れるためカメラ側面に開口部を作ったりしていた。このあと間もなく日大駿河台病院へ移り,引き続き蛍光眼底造影を始めるべく研究を続けた。光源光度の増加,閃光間隔の短縮,フィルターの改造といったたびに,自分自身が試験台になって実験を繰り返した。筆者自身おそらく蛍光眼底造影を受けたのは20回では済まないと思う。

 1960年後半に普及が始まった蛍光眼底造影の普及は速く,最初のシンポジウムが1968年,フランスのアルビで,当地の眼科医Pierre Amalicが開催した。このときに私は「日本の眼底カメラ」という演題で発表を行ったが,これが私の国際会議への初めての出席であった。

他科との連携

網膜投影ヘッドマウントディスプレイ装置の開発

著者: 白木邦彦

ページ範囲:P.1454 - P.1455

 現在,拡大読書器やコンピュータのディスプレイおよびテレビの画面として使用できる網膜投影ヘッドマウントディスプレイを視覚補助装置として開発しています。

 普段の診療で,両眼の加齢黄斑変性の患者さんが「以前は本を読むのが好きだったのですが,もう読めなくなりました」というのを聞いて,なんとかまた読んでもらえるようにならないかなと思っておりました。そのようなときに,網膜に直接映像を送り込む装置を考え出し実験的にも実証できているのだが,眼科で何か使い道ありませんかと聞かれたのが,現在開発を進めている装置にかかわるきっかけでした。

話題

錆輪の基礎と臨床

著者: 松原稔

ページ範囲:P.1441 - P.1446

 角膜に刺さった鉄粉の表面を覆う涙の溶存酸素濃度差が鉄粉表面に電位差を生み通気差電池をつくる。電池は電気化学反応で水酸化ナトリウムを生成し鉄粉に触れる角膜を溶解する。続いてその部分を水酸化第一鉄が充填して錆輪をつくる。鉄粉の組成,大きさ,角膜上にとどまった時間の組み合わせでいろいろな形の錆輪になるため,多彩な細隙灯顕微鏡像を呈し,多様な臨床症状をつくり,摘出の難易の度合いを決める。数日を経ると錆輪の周囲が溶けて錆輪はフィブリン膜で包まれて摘出は容易になるが,ボーマン層が破壊され濃い混濁を残す。人類が鉄を加工する術を会得したときから変わらない病態であるが,外眼部鉄錆症としての学術的知見は少ない1~3)。最近になり錆輪生成の機序を電気化学的に解明したことで角膜鉄粉異物の臨床所見を一元的に説明できるようになった15)

臨床報告

漿液性網膜剝離で初発し血栓性血小板減少性紫斑病と判明した1例

著者: 大島春香 ,   伊藤由香 ,   牧野伸二 ,   伊野田繁 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.1465 - P.1470

要約 51歳男性が両眼に変視症を自覚し,その当日に受診した。矯正視力は右0.8,左0.9であり,右眼に+0.75D,左眼に+2.0Dの遠視があった。両眼に乳頭から黄斑部に及ぶ境界鮮明な漿液性網膜剝離があった。蛍光眼底造影で造影早期に点状の過蛍光,後期に色素貯留が網膜剝離下にあり,原田病を疑った。血液検査で,血小板が6,000/μlと低く,溶血性貧血,肝機能障害,腎機能障害があり,塗抹標本で破砕赤血球があった。その後昏睡状態になり,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)と診断した。6回の血漿交換療法を行い,意識と眼底所見が回復し,両眼とも1.2の視力を得た。本症例は,漿液性網膜剝離で初発し,その後TTPと判明した初めての報告である。

正常眼圧緑内障に対するニプラジロール点眼単独投与の眼圧下降効果

著者: 湯川英一 ,   竹谷太 ,   松浦豊明 ,   新田進人 ,   石橋秀俊 ,   森下仁子 ,   原嘉昭

ページ範囲:P.1471 - P.1475

要約 正常眼圧緑内障41例41眼にニプラジロール点眼を行い,眼圧下降効果を検索した。これらの症例は,常に眼圧が21mmHg以下であり,視野障害に一致する緑内障性乳頭陥凹があった。年齢は32~83歳,平均63歳である。21眼では眼圧が15mmHg以上で平均17.9±1.8mmHgであり,20眼では眼圧がこれ未満で平均12.6±1.1mmHgであった。両群とも点眼開始から6か月以上の観察で眼圧が有意に低下した(p<0.05)。中等度以上のoutflow pressureの下降は,それぞれ21眼中14眼(67%)と20眼中15眼(75%)であった。ニプラジロール点眼には,α1とβ遮断による眼圧下降効果や,眼血流増加,神経保護効果などがあり,正常眼圧緑内障に有効である可能性がある。

外傷性低眼圧黄斑症の5例

著者: 出田真二 ,   谷野富彦 ,   木村至 ,   大竹雄一郎 ,   宮田博 ,   小口芳久

ページ範囲:P.1477 - P.1480

要約 鈍的外傷に続発した低眼圧黄斑症の自験例5例5眼の経過を検索した。男性3例,女性2例であり,年齢は31~45歳であった。全例に隅角解離があり,その範囲は30~60°であった。2例では眼圧が特発的に正常化し,黄斑症は消失した。低眼圧の持続期間が長い1例と,隅角解離の広い2例には手術が奏効した。うち2例には,隅角解離がある部位に強角膜切開を行い,虹彩根部を10-0ナイロン糸で隅角に連続縫合して周辺虹彩前癒着を作製する新術式を用いた。この隅角連続縫着術は手技が簡単であり,特に広範囲の隅角解離に有効であると考えられる。

白内障手術後の細菌性眼内炎

著者: 中熊真一 ,   松本光希 ,   平田憲 ,   稲田晃一朗 ,   根木昭

ページ範囲:P.1481 - P.1485

要約 熊本大学医学部附属病院眼科で1999年3月までの7年3か月間に治療した白内障手術後の細菌性眼内炎15例16眼を検索した。術中合併症は破囊2眼,術後合併症は房水漏出と創口への虹彩嵌頓が各1眼にあった。白内障手術から眼内炎発症までの期間は2日~12か月(平均2.7か月)であった。硝子体切除術を15眼に行った。眼内炎発症から硝子体手術までの期間は,0日~11か月(平均1.1か月)であった。術後最終視力は,0.1未満が6眼,0.1~0.4が5眼,0.5以上が5眼であった。4例4眼に病原菌が検出された。内訳は,有芽胞菌,Micrococcus sp.,Propionibacterium acnes,Acinetobacter lwoffiの各1眼であった。

後囊切開後に眼内レンズ後面上に水晶体上皮細胞が増殖伸展した1例

著者: 松本年弘 ,   吉川麻里 ,   重藤真理子 ,   河野智英子

ページ範囲:P.1487 - P.1490

要約 85歳の男性に両眼の白内障手術とハイドロジェル眼内レンズ挿入を行った。術後の視力は左右とも1.2であった。18か月後に矯正視力が左右とも0.6に低下した。後発白内障があり,これに対してNd:YAGレーザーを左右とも27発照射し後囊を円形に切開した。視力は右1.0,左1.2に改善した。その6か月後に左眼視力が再び0.3に低下した。眼内レンズ後面に半透明膜があり,前部硝子体膜とは離れていた。これにNd:YAGレーザーを照射して視力は1.2に改善した。右眼視力は良好であったが,水晶体上皮細胞が後囊の切開縁から中央部に向かって増殖伸展し,左眼と同様な半透明膜を部分的に形成していた。Nd:YAGレーザーによる後囊切開で生じた細胞成長因子が眼内レンズに取り込まれ,これが水晶体上皮細胞が増殖する原因になったと推定された。

レーザー虹彩切開中に水晶体脱臼し,後に瞳孔ブロックを生じた1例

著者: 薬師川浩 ,   林理 ,   西田保裕

ページ範囲:P.1491 - P.1494

要約 62歳女性が左眼瞼腫脹で受診した。3日前にベッドから転落し,左眼を床で打撲した。眼圧は右17mmHg,左45mmHgであり,急性閉塞隅角緑内障と診断した。水晶体は正常な位置にあった。高浸透圧薬の点滴で眼圧を下降させたのち,レーザー虹彩切開術を鼻上側に行った。虹彩を穿孔した直後に前房が深くなり,水晶体が硝子体腔内に脱臼し硝子体が瞳孔から脱出した。翌日の左眼圧は20mmHgで前房は深く,角膜は透明であった。眼底検査のために散瞳薬を点眼したところ,水晶体が前房に移動して嵌頓し,瞳孔ブロックによる急性緑内障が発症した。眼圧を下降させたのち,レーザー虹彩切開術を鼻下側に行い,瞳孔ブロックを解除できた。以後1年間,左眼は安定している。水晶体が脱臼しているときには,散瞳薬の使用と頭位に注意する必要がある。

網膜剝離術後感染症の検討

著者: 今泉綾子 ,   中村秀夫 ,   早川和久

ページ範囲:P.1495 - P.1498

要約 過去10年間に琉球大学附属病院眼科で経験した網膜剝離の術後感染を検索した。手術症例の総数は495例544眼である。内訳は男性292例322眼,女性203例222眼で,4眼にアトピー性皮膚炎があった。このうち2例2眼に術後感染が起こった。いずれもアトピー性皮膚炎がある男性で,年齢は25歳と29歳である。術式は強膜バックル術であった。充血,眼脂など感染の症状は,両例とも網膜剝離手術の1週間後に生じた。以上より,アトピー性皮膚炎がある症例に強膜バックル術による網膜剝離手術を行った場合には術後感染が起こりやすいので,術前術後の管理を特に入念に行う必要がある。

今月の表紙

デスメ膜前角膜ジストロフィー

著者: 大家義則

ページ範囲:P.1417 - P.1417

 症例は39歳,女性。コンタクトレンズを作製しに近医を受診したところ,角膜内皮面の異常を指摘され,精査目的にて大阪大学医学部附属病院眼科を紹介され受診した。自覚症状はない。初診時視力は右0.06(1.5),左0.2(1.5)であった。内皮スペキュラーでは異常を認めない。角膜実質深層に不規則な沈着を認め,デスメ膜前角膜ジストロフィーと診断された。

 本症はデスメ膜のすぐ前の角膜実質深層に限局した,数々の小さな多形性の混濁が存在するものを一括した名称である。通常視力低下をきたすことはなく,治療の必要はない。女性にやや多いといわれ,リポフスチン様の物質を含む細胞形質内の空胞により拡大された角膜実質深層の異常なケラトサイトがみられることから,加齢性の変性が原因と考えられている。常染色体優性遺伝が示唆されているが,遺伝形式に関しては,はっきりしていない。またX染色体性遺伝の魚鱗癬を合併することがある。

やさしい目で きびしい目で 45

達人への道―第1回 ある達人との出会い

著者: 亀井裕子

ページ範囲:P.1457 - P.1457

 冬のある日,私は横浜のとあるホテルで朝食をとっていた。ベイサイドに建ち,国際会議場に隣接するこのホテルは,同業者の利用が多い。この日もそんなあわただしい日であった。

 ゆっくりとモーニングコーヒーを味わっている私の目に,品のよい老紳士が映った。彼は,朝の日差しまぶしい窓際の席にいた。黒服が彼と親しげに話をしている。彼の著書が出版されたので,1冊進呈するというような話をしていた。どうも,彼はこのホテルの,しかもこの席の常連であるらしい。それに気づいたのは,このあとに展開される彼の行動からであった。

ことば・ことば・ことば

原著

ページ範囲:P.1459 - P.1459

 初版が大正14(1925)年に出た石原忍先生の「小眼科学」は画期的な教科書でした。当時の医学書のほとんどが「縦書き」だったのに,「横書き」を採用したからです。ちなみに日眼会誌(日本眼科学会雑誌)が横書きになったのは,昭和2(1927)年の第30巻からでした。

 この「小眼科学」のお陰で疾患概念がキチンと整理されました。また,日眼総会での一般講演の順番も,かなり長い期間,この本の順序に従っていました。その結果として,眼瞼や結膜疾患の発表を学会の初日にもってくるのがずっと慣例になり,最終日にくるのは緑内障と眼窩関係でした。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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