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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科58巻13号

2004年12月発行

雑誌目次

特集 コンタクトレンズ2004

コンタクトレンズの進歩

著者: 植田喜一

ページ範囲:P.2203 - P.2210

 はじめに

 わが国でコンタクトレンズ(以下,CL)が眼科医療に導入されてすでに50年以上経つが,この間に多くの患者がその恩恵を受けてきた。

 CLの進歩は材質,製造法,デザインの開発によるといっても過言ではない。CLの材質は当初ガラスであったが,高分子化合物(プラスチック)となり飛躍的に発展した。また,手作業であった製造法もオートメーション化され,コンピュータで制御される精密機械により高品質なレンズが大量に製造されるようになった。CLのデザインにおいても製造技術の進歩に伴ってCLの光学部,周辺部それぞれに球面,非球面,トーリック面,モノカーブ,マルチカーブなどの加工を施すことが可能になり,特殊なデザインを有する付加価値の高いレンズも開発された。

 本稿では,主に素材の面から,CLの歴史を振り返り,現況と将来についてその概要を述べる。

コンタクトレンズにおける眼光学

著者: 魚里博

ページ範囲:P.2211 - P.2220

 はじめに

 コンタクトレンズ(以下,CL)と眼球光学系の光学概念を正しく理解しておくことは,レンズの処方やそれに必要な諸検査のみならず結果の解釈を誤らないために極めて重要であり,必須の要件である。基本的には幾何光学の知識で十分であるが,最近では,物理(波動)光学の知識が必要なものも登場している。もちろんCL単体の光学概念も大切であるが,眼球との合成系で矯正することを考えれば,眼球光学系の概念も極めて重要である。

 本稿では,CL,眼鏡,矯正手術などの各種屈折矯正法の光学特性に重点を置き,比較検討を行いながらコンタクトレンズにおける眼光学を解説する。

コンタクトレンズのバリエーション

著者: 梶田雅義

ページ範囲:P.2221 - P.2226

 はじめに

 コンタクトレンズは眼鏡では十分に矯正できない屈折異常のために,PMMA(polymethylmethacrylate)素材のハードレンズで始まった。その後,装用感の向上を求めてHEMA(hydroxyethyl meth-acrylate)素材のソフトレンズが加わった。旋盤を用いた手作業で単純な球面を組み合わせて作製されたコンタクトレンズも,コンピュータの発達に伴い作業が自動化され,さまざまなデザインのレンズ制作が可能になった。また,ソフトレンズではスピンキャストやモールド法などの製造法の開発に伴い,いろいろなデザインのレンズを安価に製造することができるようになり,コンタクトレンズのバリエーションは大きく膨れ上がってきている。素材,デザイン,使用方法,用途面からバリエーションを整理してみよう。

特殊症例に対するコンタクトレンズ

著者: 柳井亮二 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.2227 - P.2236

 はじめに

 コンタクトレンズ(以下,CL)は,近視,遠視などの屈折異常に対する屈折矯正用具として使用される。屈折異常のなかでも正乱視を伴った近視や遠視では眼鏡,CLが用いられ十分な効果を上げている。最近ではエキシマレーザーによる屈折矯正角膜手術や水晶体に対する手術によって,補助具なしで矯正することが可能となってきており,個々の症例の希望や特性に応じてこれらの屈折矯正法が選択できるようになってきた。しかしながら,円錐角膜や角膜移植後に代表されるような角膜形状異常をきたす疾患群では,角膜に起因する不正乱視のために眼鏡では十分な矯正視力が得られない。角膜に対する屈折矯正手術は禁忌であり,日常的に十分満足できる矯正視力が得られるかどうかはハードコンタクトレンズ(以下,HCL)による視力補正の可否に大きく依存する。つまり,角膜形状異常に伴う不正乱視に対する矯正法はHCL以外に選択の余地はなく,HCLが装用できなければ十分な矯正視力が得られない。したがって角膜不正乱視に対するCLの処方に際しては,単なる屈折異常に対する処方とは根本的に処方の考え方が異なる(表1)。

 本稿では,円錐角膜および角膜移植術後角膜に対するCL処方の問題点とその対処法について総括することを目的として最近の知見を概説する。

コンタクトレンズ・ケア

著者: 小玉裕司

ページ範囲:P.2237 - P.2241

 はじめに

 コンタクトレンズ(以下,CL)はハードコンタクトレンズ(以下,HCL)とソフトコンタクトレンズ(以下,SCL)に大別されているが,ディスポーザブルレンズ以外はケアを必要とし,CLを装用することによって生じるレンズの汚れを落とす洗浄液や蛋白除去剤,あるいは保存液の持つ役割は共通である。そしてSCLにおいては,微生物の汚染に対して消毒という過程を経なければならず,従来は煮沸消毒のみが認められていたが,最近,新しい消毒法(コールド消毒法)が次々とわが国にも登場している。ケア用品は薬事法の規制を受ける医薬品,医薬部外品と薬事法の規制を受けない雑品の3つに分けられる。医薬品には局方精製水,CL装着液,医薬部外品にはSCL用コールド消毒剤,雑品にはCL用洗浄剤,CL用保存剤,CL用洗浄保存剤,CL用溶解水が含まれる。ここでは,HCLのなかでも現在主流になっているガス透過性ハードコンタクトレンズ(rigid gas permeable contact lens:RGPCL)とSCLに分けてコンタクトレンズ・ケアについて解説する。

コンタクトレンズにおける感染症と角結膜障害

著者: 高浦典子

ページ範囲:P.2242 - P.2246

 はじめに

 現在,わが国でのコンタクトレンズ(以下,CL)の利用者は1,000万人以上といわれている。特に1991年に日本で初の連続装用ディスポーザブルコンタクトレンズ(extended wear disposable soft contact lense:EW-DSCL)が発売されて以来,DSCLは多様化し利用者数はさらに増加傾向にある。一方で使用方法を遵守しないCL装用者や,CL装用が原因と考える角膜潰瘍も数多くみられる。また,CLのケア方法についても従来の煮沸消毒から,より簡便にできる化学消毒法へと変化している。なかでもMPS(multipurpose solution)は操作が簡便で,急速に普及しているケア方法であるが,グラム陰性菌に対して消毒効果が弱く,真菌,アメーバに対しては消毒効果がほとんど期待できないと報告されている1)。CLおよびケア製品の主流となりつつあるMPSの細菌汚染と角結膜障害の関係ついて当科で行った調査と文献から検討し,CL装用者に多い角膜感染症についての治療法についても述べてみたい。

連載 眼の遺伝病64

RPGR遺伝子異常による網膜変性(2)―Thr255Ile変異とX染色体劣性網膜色素変性

著者: 板橋俊隆 ,   和田裕子 ,   玉井信

ページ範囲:P.2250 - P.2252

 前回と同様,RPGR遺伝子異常を認めたX染色体劣性網膜色素変性家系の遺伝子解析結果と臨床像について示す。RPGR遺伝子はRCC-1(regulator of chromatin condensation-1)を含む蛋白をコードしており,この蛋白はsmall GTPase Ranによるグアニン塩基変換因子で,細胞内輸送に関与していると報告されている1~3)。その部位はエクソン2~10の間に存在し,エクソンORF15の遺伝子異常を除いた変異の多くはこのドメイン内に確認されている4)。多数のミスセンス変異がRCC-1ドメイン内に発見されており,これはRPGR蛋白におけるRCC-1ドメインが視細胞の生存と機能にいかに重要であるかを示している。

日常みる角膜疾患21

アカントアメーバ角膜炎

著者: 川本晃司 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.2254 - P.2258

 症例

 患者:60歳,男性

 主訴:右眼の眼痛,流涙,視力障害

 現病歴:高度近視眼のため,数十年来ハードコンタクトレンズを装用していた。2001年11月,右眼を木の枝で受傷し右眼眼痛,充血,視力障害が出現したため近医を受診した。右角膜潰瘍と診断され眼軟膏と人工涙液点眼薬で加療されていたが改善しなかった。その後も眼痛,球結膜充血が持続したために,当科を紹介され受診した。

 既往歴・家族歴:糖尿病,高血圧,狭心症,幼少時に右角膜化学外傷

 初診時所見:視力は右0.01(矯正不能),左0.05(0.6 x S-9.0D()cyl-2.5D Ax 145°),眼圧は右14mmHg,左12mmHgであった。細隙灯顕微鏡検査において右眼球結膜の毛様充血を伴った著明な結膜充血と,角膜中央に角膜実質の浮腫を伴ったフルオレセインで染色される潰瘍を認めた(図1)。12時方向の角膜実質浅層に新生血管の侵入を認めた。また角膜中央部にデスメ膜の皺襞も認められた。前房内に炎症所見は認められなかった。中間透光体では両眼とも加齢によると考えられる水晶体皮質の混濁を認めた。眼底検査では近視眼に伴う豹紋状眼底を認めたほかは両眼とも特に異常所見は認められなかった。角膜知覚検査では両眼とも知覚の低下は認められなかった。

眼科手術のテクニック

中京式rescue lensを用いた核落下症例に対する安全・簡単な対処法

著者: 市川一夫

ページ範囲:P.2260 - P.2261

 はじめに

 核落下は,白内障手術に伴う合併症のなかで感染症,駆出性出血に次いで忌むべき地位にあると考えられる。しかし幸いなことにこの合併症は,正しく対処すれば視力低下を残さずに済ますことができる合併症でもある。

 対処法のなかで確実安全な方法は,経毛様体扁平部硝子体手術により硝子体を切除し,その後,核をカッターか超音波チップで除去することであるが,どの施設でも容易に行えるというものではない。筆者らのグループでは,15施設で日帰り白内障手術を施行しているが,硝子体手術が行えるのは3施設である。これまでは,中京病院や近くの硝子体手術のできる病院に転送していたため患者の負担は大きかった。しかし2年前より中京式rescue lensを用いて白内障専用機器に付いている前部硝子体カッターで核落下が比較的安全にかつ簡単に対処できるようになったので今回紹介する。

あのころ あのとき47

論文を書くということ(2)―医局や研究の発展,それは社会の発展にもつながる

著者: 宮永嘉隆

ページ範囲:P.2262 - P.2264

 昭和44年,恩師,河本正一先生から新しくできる国家公務員共済組合病院の眼科へ赴任するよう命令が下った。そこで新しく眼科を開設し,一人医長である。病院の期待は大きく,神奈川県では初めてという光凝固装置を購入してその病院は私を快く迎え入れてくれた。当時の光凝固はキセノンアークが主体であり,レーザーはまだルビーレーザーが少しあるくらで普及していなかった。

他科との連携

眼科に転科して

著者: 藤田陽子

ページ範囲:P.2268 - P.2269

外科医としての5年間

 私は現在,眼科医としては3年目になりますが,その前の5年間は外科医をしておりました。テーマが“他科との連携”ということで,複数の科を経験した私に話が来たと思われますので,まず外科医と眼科医の連携について思い出してみました。外科医の頃に眼科との連携が重要であった症例といえば,術後カンジダ血症の患者さんに眼底検査をしていただいたことくらいでしょう。眼科に来て外科の経験が役に立ったことは,ちょっとした発熱や腹痛くらいなら診察できることくらいでしょうか。外科時代の同僚や眼科の先輩にもリサーチしてみましたが,やはり外傷の際に連携が必要なくらいでした。両方の科を経験している私からみても,外科と眼科の連携はそれほど頻度の高いものではないのかもしれません。

 しかし外科と眼科の連携という話題を離れますと,話は変わります。まず,外科医にとって他科との連携とは,手術を安全に行うために最も重要なものです。麻酔科はいうに及ばず,内科,婦人科,泌尿器科など他科との緊密な連携なしには,合併症の多い患者さんの手術を成功させることはできません。一方,眼科に来て感じたのは,眼科にはあらゆる科からの紹介患者さんが来られるなあということです。一般的には,内科から糖尿病の患者さんが紹介される頻度が一番高いと思いますが,そのほか,脳外科や神経内科からも,脳血管障害,脳腫瘍,多発性硬化症などの患者さんが多く紹介されます。逆に,時には眼症状で眼科を受診された患者さんが他科の疾患であることがわかることもあります。ここで,少ない私の経験のなかからですが,眼科医として他科との連携の重要性を実感した症例を紹介したいと思います。

臨床報告

網膜中心静脈閉塞症に併発する黄斑浮腫に対する内境界膜剝離

著者: 古川真理子 ,   熊谷和之 ,   荻野誠周 ,   吉田ゆみ子

ページ範囲:P.2275 - P.2279

 網膜中心静脈閉塞症に併発した黄斑浮腫78例78眼に硝子体手術を行った。発症から3か月以内の45眼を新鮮例,それ以上の33眼を遷延例とした。37眼では内境界膜を剝離し,41眼では剝離しなかった。黄斑浮腫吸収までの平均期間は,新鮮例で内境界膜を剝離した23眼では6.0月,剝離しない22眼では4.6月で,有意差はなかった(p=0.31)。同じく遷延例で内境界膜を剝離した14眼では3.9月,剝離しない19眼では7.9月で,有意差はなかった(p=0.057)。LogMAR視力の改善度は,新鮮例での内境界膜剝離眼では0.32,非剝離眼では0.19で,有意差はなかった(p=0.41)。同じく遷延例での内境界膜剝離眼では0.29,非剝離眼では0.21で,有意差はなかった(p=0.60)。重回帰分析で,内境界膜を剝離することは浮腫吸収と術後視力に対する有意な因子ではなかった。網膜中心静脈閉塞症に併発した黄斑浮腫への硝子体手術では,内境界膜剝離は視力改善効果はない。

屈折矯正手術3年後の視神経乳頭形状の比較

著者: 金成愛 ,   庄司信行 ,   有本あこ ,   清水公也

ページ範囲:P.2281 - P.2284

 Laser in situ keratomileusis(LASIK)による屈折手術を行った9例9眼で,3年後の視神経乳頭の形状の変化を検索した。術中の一過性高眼圧の影響を知ることが目的である。年齢は平均28.0±5.2歳,平均屈折値は術前-7.1±2.3D,術後-0.64±1.2Dであった。乳頭形状の検索にはHeidelberg Retina Tomographを使った。その結果,すべてのパラメーターは,術前と術3年後で有意差はなかった。LASIK術中に生じる一過性高眼圧は,3年後の視神経乳頭の形状に影響しないと結論される。

輪状締結術後に一過性網膜外層斑状浮腫をきたした症例

著者: 谷内修太郎 ,   田中稔 ,   北川均 ,   竹林宏 ,   清川正敏 ,   葉田野宜子 ,   本田美樹 ,   椎名慶子 ,   村上晶

ページ範囲:P.2285 - P.2287

 57歳女性が右眼網膜剝離として紹介され受診した。2か月前から右眼に飛蚊症があった。矯正視力は右眼0.1,左眼1.2であり,眼圧は右眼7mmHg,左眼12mmHgであった。右眼には上方に裂孔と限局性剝離,下方に裂孔と胞状の剝離があり黄斑に及んでいた。2日後にシリコーンスポンジで輪状締結術を行った。裂孔は冷凍凝固で処理した。経過は良好で,10日後の視力は0.2であった。手術から2か月後に網膜外層に散在性の斑状混濁が生じた。蛍光眼底造影で斑状混濁に一致して過蛍光があった。斑状混濁は緩慢に寛解し4年6か月後に消失したが,視力は0.6であった。手術の6年後に視力は1.0に回復した。手術中に一過性の高眼圧があったことが,その2か月後に網膜の斑状混濁が生じ遷延した原因である可能性がある。

アテロコラーゲンによる涙道閉鎖―涙液減少症69例における臨床試験

著者: 濱野孝 ,   林邦彦 ,   宮田和典 ,   中安清夫

ページ範囲:P.2289 - P.2294

 目的:体温でゲル化するアテロコラーゲン溶液を用いた涙道閉鎖処置の治療効果の評価。対象:Sjögren症候群26例を含む,涙液分泌減少症69例135眼。観察期間は8週間。結果:フェノールレッド糸法による涙液量は,処置直前と比較して処置後に有意に増加した(1週間目p<0.005,4および8週間目p<0.05;Wilcoxonの符号付順位検定)。フルオレセインスコアとローズベンガルスコアは処置後に有意に減少した(1,4および8週間目p<0.0001)。他覚的評価および自覚的評価の両方において,56例(81.2%)で効果が確認された。結論:アテロコラーゲンによる涙道閉鎖処置は,涙液分泌減少症の治療の1つとして有用である。

強度近視黄斑円孔網膜剝離に対するトリアムシノロン硝子体手術

著者: 高橋京一 ,   橋本英明 ,   鈴木綾乃 ,   横田幸大 ,   岸章治

ページ範囲:P.2295 - P.2300

 目的:強度近視での黄斑円孔に続発した網膜剝離に対する硝子体手術による治癒率と,残存硝子体皮質の除去範囲との関係の検索。対象と方法:18人18眼を対象とし,レトロスペクティブに検索した。女17人,男1人で,年齢は52~81歳(平均66歳)6眼が偽水晶体眼であった。屈折は-6D~-21D(平均-14D)であった。全18眼に後部ぶどう腫があった。Weiss ringが17眼(94%)にあった。網膜剝離の範囲はぶどう腫内が10眼,それ以上が8眼であった。全例にトリアムシノロンを併用した硝子体切除とガスタンポナーデを行った。後部硝子体剝離がある17眼中14眼で硝子体皮質が網膜前に検出された。この硝子体皮質に対して,4眼ではぶどう腫内のみ,8眼では耳側の中間周辺部まで,2眼では硝子体基底部まで剝離した。13眼で円孔周囲の小範囲の内境界膜剝離を行った。結果:初回の網膜復位は,ぶどう腫内のみ残存硝子体皮質を剝離した4眼中1眼(25%)と,より広い範囲を剝離した10眼中9眼(90%)および残存硝子体皮質のなかった3眼中2眼で得られた。光干渉断層計で,黄斑円孔は3眼で閉鎖した。結論:強度近視黄斑円孔網膜剝離では,術前にWeiss ringがあっても高率に網膜前の硝子体皮質の残存がある。硝子体手術にトリアムシノロンを併用し,残存硝子体皮質を中間周辺部以遠まで除去することで網膜復位率が向上する。

IOLマスターによる眼軸長値を用いた眼内レンズパワー計算式の検討

著者: 山本真由 ,   高良由紀子 ,   野田敏雄 ,   深井寛伸 ,   稲富誠 ,   小出良平

ページ範囲:P.2301 - P.2305

 白内障手術における眼軸長を超音波式眼軸長測定器Aモード,光学式眼軸長測定器IOLマスターによりそれぞれ測定し,4つの眼内レンズパワー計算式(Holladay, SRK/T, Hoffer Q, SRKⅡ式)の予想屈折度精度を比較検討した。対象は白内障手術例118眼である。その結果,予想屈折度と術後屈折度の差が±1D未満におさまった症例の割合は,IOLマスターの術前眼軸長値を用いた場合Holladay式86%,SRK/T式83%,Aモードの眼軸長値を用いた場合Holladay式64%,SRK/T式68%で,IOLマスターの眼軸長値を用いた予想屈折度精度はAモードに比較し,有意に良好であった。

血管内リンパ腫による仮面症候群の1例

著者: 岩田大樹 ,   南場研一 ,   東こずえ ,   小竹聡 ,   大野重昭

ページ範囲:P.2307 - P.2311

 60歳女性が15か月前に右眼の虹彩炎と診断され,5か月前からの症状悪化で受診した。矯正視力は右0.15,左1.0であった。右眼には虹彩炎と硝子体混濁があり,耳側周辺部の網膜に滲出斑があった。蛍光眼底造影で網膜血管の透過性亢進はなかった。硝子体混濁が増悪し網膜滲出斑が隆起してきたために,初診から10か月後に入院し,ぶどう膜関係の検索を行った。サルコイドーシスは否定され仮面症候群が疑われたが,ぶどう膜炎の原因同定はできなかった。眼内病変はプレドニゾロン内服で軽快したが,紫斑,尿閉,汎血球減少が突発した。画像診断で脳虚血があり,脳生検で血管内リンパ腫(intravascular lymphoma)の診断が確定した。化学療法などを行ったが,全身状態が悪化し,不帰の転帰をとった。仮面症候群には副腎皮質ステロイド薬に反応することがあり,注意が必要である。

移動性網膜下液を伴った後部強膜炎の1例

著者: 森祥平 ,   齋藤航 ,   横井匡彦 ,   大野重昭

ページ範囲:P.2313 - P.2316

 72歳女性が2か月前からの右眼の視力低下と眼痛で受診した。矯正視力は右0.03,左1.5で,眼圧は右8mmHg,左12mmHgであった。右眼の下方に胞状網膜剝離があり,体位変換で網膜下液が顕著に移動した。Bモード超音波検査で右眼球後壁が肥厚し,眼窩造影を併用したCT検査で強膜の肥厚と造影効果があり,後部強膜炎と診断された。プレドニゾロン60mg/日の経口投与で3か月後に網膜剝離が消退し,視力が0.2に回復した。移動性網膜下液を伴う網膜剝離では,後部強膜炎の可能性があることを示す症例である。

Kuhnt-Szymanowski変法(骨膜固定法)による麻痺性兎眼の治療

著者: 兼森良和

ページ範囲:P.2317 - P.2320

 麻痺性兎眼に対して下眼瞼瞼板の水平短縮と下眼瞼形成術を同時に行うKuhnt-Szymanowski法では,高度の下眼瞼下垂と外反がある場合には修正が不十分である。その改善法として,筆者の考案した下眼瞼皮膚切開線を側頭部の外側上方まで延長して外側上方に引き上げ,下眼瞼前葉を眼窩外側縁骨膜にanchor sutureで固定する骨膜固定法(Kuhnt-Szymanowski変法)を4例に行い,奏効した。この方法は特別な材料を必要とせず,高度の下眼瞼下垂と外反がある麻痺性兎眼に対して有効である。

心因性視覚障害児の治療予後と再発に影響する要因

著者: 樋口倫子 ,   宗像恒次 ,   橋本佐由理 ,   樋口裕彦

ページ範囲:P.2321 - P.2328

 治療終結後1年以上経過した心因性視覚障害児20例に対し治療の予後について調査を行った。20例の内訳は男児2例,女児18例で,初診時の年齢は6~15歳であった。調査の主な方法は,自記式質問紙票調査で,14例から有効回答が得られた。従来型治療5例(女児5例)と,Structured Association Technique(SAT)による心理療法を受けた9例(女児8例,男児1例)である。再発は従来型治療群で5例中2例(40%)とSATによる心理療法群では9例中1例(11%)に認められた。SAT療法介入群での予後良好例は,介入で改善した特性不安,自己抑制度,自己価値感や情緒的支援認知度が良好な状態で維持されていた。再発例では,本人と親がストレスを蓄積させやすい心理特性を有していた。再発を防止するには,患児と重要他者への心理的介入を行うことが必要であると考えられた。

日本人上眼瞼の組織所見

著者: 井出醇 ,   山崎太三 ,   三戸秀哲 ,   青島周明 ,   白澤信行

ページ範囲:P.2331 - P.2339

 日本人の上眼瞼の構造を,Whitnall靭帯まで含めて検索した。症例は64歳と68歳の男性および90歳女性の解剖研究用死体3体6眼瞼である。6検体とも眼窩隔膜と上眼瞼挙筋腱膜の合流部は瞼板上縁よりも上方であった。従来は眼窩脂肪と混同されていた線維脂肪組織が6検体すべてで眼瞼板上縁の高さまで下降していた。このために上眼瞼挙筋腱膜は眼輪筋前隔膜部上方の後面には付着しなかった。眼窩脂肪が上眼瞼縁近くまで下降する検体はなく,眼窩脂肪の下降脱出が「腫れぼったい東洋人の眼」の重要な原因ではない可能性が高い。線維脂肪組織が存在し,このために上眼瞼挙筋腱膜が眼輪筋前隔膜部上方の後面に付着できないために,開瞼時に分厚い眼瞼前葉の上半分が眼窩内に引き込まれないで残ることが「腫れぼったい東洋人の眼」の1つの原因である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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