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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科58巻3号

2004年03月発行

雑誌目次

特集 第57回日本臨床眼科学会講演集 (1) 原著

網膜硝子体手術に用いたインドシアニングリーンの眼内残存期間

著者: 藤原貴光 ,   町田繁樹 ,   後藤寿裕 ,   田澤豊

ページ範囲:P.283 - P.288

 特発性黄斑円孔9眼に網膜硝子体手術を行い,インドシアニングリーン(ICG)で内境界膜を染色して剝離,除去した。術後27か月まで定期的に赤外蛍光眼底カメラで残存するICG蛍光を観察した。手術の1か月後では,乳頭,内境界膜を切除した部位以外の網膜,術前に黄斑円孔があった部位の網膜が過蛍光を呈した。内境界膜を切除した部位以外の網膜と黄斑部の過蛍光はそれぞれ術後6か月と9か月で消退した。乳頭の過蛍光は全例で術後21か月まで観察され,27か月で消退した。

網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対する組織プラスミノーゲン活性化因子の硝子体投与

著者: 大橋啓一 ,   西脇弘一 ,   宮本和明 ,   王英泰 ,   宮本紀子 ,   村上智昭 ,   中西秀雄 ,   高木均

ページ範囲:P.289 - P.294

 高度の囊胞様黄斑浮腫を伴う網膜中心静脈閉塞症13眼に対して,組織プラスミノーゲン活性化因子を硝子体腔内に投与した。発症から本治療までの期間は平均1.3か月であった。logMAR視力の平均値は術前1.19であり,術後1か月0.84,3か月0.80,6か月0.72と有意に改善した(p<0.01)。黄斑網膜厚(単位μm)の平均値は,術前928,術後1か月288,3か月293,6か月213と有意に減少した(p<0.01)。網膜剝離や硝子体出血などの合併症は皆無であった。網膜中心静脈閉塞症に併発した囊胞様黄斑浮腫に対する組織プラスミノーゲン活性化因子の硝子体注入は簡便かつ安全であり,視機能と網膜浮腫の改善に有効な治療法になる可能性がある。

水晶体,硝子体同時手術後の二次的眼内レンズ挿入術

著者: 有澤武士 ,   堀田一樹

ページ範囲:P.295 - P.299

 過去に超音波水晶体乳化吸引術と硝子体切除術が行われている50眼に眼内レンズを二次的に挿入した。14眼にはアクリルレンズ,36眼にはシリコーンレンズを使用した。原因疾患は,増殖糖尿病網膜症20眼,網膜剝離19眼,網膜細動脈瘤破裂6眼,網膜静脈分枝閉塞症4眼,原因不明の硝子体出血1眼であった。術後3か月以上の観察で,2段階以上の視力改善が16眼(32%),不変32眼(75%),悪化が2眼(4%)にあった。悪化の原因は後囊混濁の進行と網膜細動脈瘤の再破裂各1眼であった。重篤な合併症はなかった。術前20眼にあった虹彩後癒着は,術後3眼に減少した。これら3眼は全例がアクリルレンズ挿入眼で,シリコーンレンズ挿入眼よりも有意に多かった(p<0.01)。今回の症例群では,眼内レンズの二次的挿入術は安全で有効であると判断された。

ドルゾラミドからブリンゾラミドへの切り替え試験後の眼圧下降効果の比較

著者: 久保田みゆき ,   原岳 ,   久保田俊介 ,   橋本尚子 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.301 - P.303

 目的:ドルゾラミド1%点眼液とブリンゾラミド1%点眼液の眼圧下降効果の比較。対象と方法:ドルゾラミドを含む多剤併用で6か月以上眼圧が安定している原発開放隅角緑内障患者30例30眼を対象とした。男性と女性各15例で,年齢は32~87歳,平均64.2±13.3歳であった。患者の同意を得てドルゾラミド継続群15例とブリンゾラミド切り替え群15例に無作為に分け,両群の切り替え前後3か月間の眼圧平均値と,切り替え前後で同時期に測定した各1か月ごとの眼圧平均値を比較した。結果:実験開始前3か月間の眼圧平均値は,ドルゾラミド継続群が15.4±2.4mmHg,ブリンゾラミド切り替え群が15.6±3.6mmHgであった。両群間で,切り替え前後3か月間の平均眼圧値と,同時期の眼圧経過に有意差はなかった。結論:ドルゾラミド点眼液とブリンゾラミド点眼液には同等の眼圧下降効果がある。

副鼻腔炎原発の両側性上眼窩裂症候群

著者: 松永寛美 ,   久保田滋之 ,   佐藤美保 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.305 - P.307

 45歳男性が6日前の熱発と4日前からの複視で受診した。矯正視力は右0.8,左0.9であった。前眼部,中間透光体,眼底に異常所見はなく,視野は正常であった。中等度に散瞳し,Marcus Gunn瞳孔は陰性であった。両眼に深部痛があり,全方向に眼球運動が制限され,眼瞼下垂があった。磁気共鳴画像検査(MRI)を含む画像診断で両側の蝶形骨洞と篩骨洞に陰影があり,視神経障害がないことから,これら副鼻腔炎に続発した上眼窩裂症候群と診断した。蝶形骨洞開放術を行い,副腎皮質ステロイド薬と抗生物質を投与した。眼所見は改善し,複視は6か月後に消失した。

多クローン性高γグロブリン血症にみられた血液過粘稠度症候群網膜症の1例

著者: 大島春香 ,   牧野伸二 ,   近藤千佳 ,   金上貞夫 ,   水流忠彦

ページ範囲:P.309 - P.313

 72歳女性が4か月前に右眼視力の低下を自覚し,網膜出血で紹介され受診した。矯正視力は右0.5,左0.3であった。網膜静脈がソーセージ様に拡張し,著明に蛇行し,網膜出血,硝子体出血,毛細血管瘤,黄斑浮腫が併発していた。周辺網膜には無血管野があった。眼底所見から血液過粘稠度症候群が疑われた。血液検査で,貧血と赤血球の連銭形成像があり,血清総蛋白10.8g/dl,IgG 4,205mg/dl,IgM 463mg/dl,IgA 719mg/dlと著増していた。免疫電気泳動は多クローン性高γグロブリン血症の所見であった。血液粘稠度(正常値4.3~5.5cP)は12.2cPであった。以上の所見から血液過粘稠度症候群に続発した網膜症と診断した。治療として抗凝固薬を投与し,眼底周辺部の無血管野に光凝固を行った。初診から8か月後には,血液粘稠度が9.16cPになり,網膜静脈のソーセージ様拡張と蛇行が軽快し,網膜出血,硝子体出血,毛細血管瘤,黄斑浮腫が寛解し,矯正視力が右0.6,左0.5に改善した。血液過粘稠度症候群に続発した網膜症が,血液粘稠度の改善により軽快した1例である。

視神経乳頭所見と視野との対応が異なる視神経低形成に併発した開放隅角緑内障の2例

著者: 安藤彰 ,   大山奈美 ,   安田光代 ,   松村美代

ページ範囲:P.315 - P.320

 44歳と72歳女性を両眼の視神経低形成に併発した開放隅角緑内障と診断した。視野と視神経乳頭の対応が異なっていた。症例1では右眼下方視野に同心円状の狭窄,左眼下耳側視野に楔形の欠損と上下のBjerrum暗点があった。Heidelberg Retina Tomograph(HRT)で,Bjerrum暗点に相当する異常が検出されたが,視野の同心円状の狭窄と楔形の欠損に相当する異常は検出されなかった。症例2では両眼の耳側に楔形の視野欠損,右眼上方の視野欠損,左眼上下のBjerrum暗点があった。HRTで,楔形の視野欠損とBjerrum暗点に相当する異常が両眼に検出された。視神経低形成に伴う緑内障では,視野異常と乳頭所見とが合致しない事例があることを示す症例である。

アクリル眼内レンズの着色

著者: 牧山由希子 ,   榎本暢子 ,   園田憲太郎 ,   松川みう ,   山名隆幸

ページ範囲:P.321 - P.323

 眼内レンズを挿入した27例27眼について,術後の眼内レンズの着色の有無を細隙灯顕微鏡検査で追跡した。使用した眼内レンズはアクリル製で,VA60CA(HOYA)であった。眼内レンズの茶褐色の着色を4眼に認めた。手術から着色の発見までの期間は,それぞれ3週,4か月,5か月,10か月であった。術後の視力障害や,着色による自覚症状の訴えは皆無であった。着色の発見以後,その進行はなかった。4例中3例では僚眼に他社のアクリル眼内レンズが挿入されているが,着色は生じていない。筆者らは1年前からVA60CAの改良型であるVA60CBを140眼に挿入しているが,着色例は皆無である。今回の着色例については,VA60CAの製造または保存過程に問題があった可能性がある。

白内障手術により進行が停止したレーザー虹彩切開術後の角膜内皮減少症の1例

著者: 園田日出男 ,   中枝智子 ,   根本大志

ページ範囲:P.325 - P.328

 58歳女性の両眼に狭隅角があり,レーザー虹彩切開術が行われた。8年後に右眼視力が低下して再受診した。角膜浮腫が生じていた。矯正視力は右0.5,左1.2であった。両眼とも浅前房で,瞳孔ブロックがあった。角膜内皮細胞数はmm2あたり右407,左644であった。その4か月後に,角膜移植の前段階として水晶体摘出術と眼内レンズ挿入術を右眼に行った。術後3か月で角膜浮腫は消失し,視力が1.2に改善した。以後4年6か月の間この状態が維持され,角膜内皮細胞数は安定している。左眼では角膜内皮細胞の減少が続き,再受診の3年後に約250/mm2になり,水疱性角膜症が生じた。水晶体摘出術と眼内レンズ挿入術が行われ,角膜浮腫は限局化し,21か月後の角膜内皮細胞数は380/mm2であった。レーザー虹彩切開術後の角膜内皮減少症の原因として術後の房水灌流異常が推定され,白内障手術が角膜内皮減少症に有効であったと思われる症例である。

糖尿病眼手帳による患者教育への有用性

著者: 杉紀人 ,   山上博子 ,   斉藤由香 ,   大野隆一郎 ,   梯彰弘 ,   黒木昌寿 ,   石川三衛 ,   川上正舒

ページ範囲:P.329 - P.334

 「糖尿病眼手帳」の使用と未使用により,患者の眼合併症への認識度がどう異なるかを調査した。当院眼科に通院中の糖尿病患者104名を対象とした。男62名,女42名であり,年齢は63.0±10.1歳であった。54名には糖尿病眼手帳を配布し,50名には配布しなかった。以後2か月ごとに定期受診させ,6か月後に糖尿病網膜症についての設問を含むアンケート調査をした。満点は12点とした。問題に対する正解の平均点と標準偏差は,眼手帳使用群では9.9±1.9点,非使用群では8.7±2.3点であり,有意差があった(p<0.05)。網膜症についての認識とHbA1cの理解については,眼手帳使用群が非使用群よりも高い正解率を示した(p<0.05)。以上の結果から,糖尿病眼手帳は糖尿病眼合併症についての理解と意識を向上させる有効な手段であると判断された。

連載 今月の話題

眼表面再建術の最近の進歩

著者: 島﨑潤

ページ範囲:P.257 - P.260

 輪部移植や羊膜移植,そして培養上皮移植と,このところの眼表面再建法の進歩は目覚ましい。症例を重ねるにつれて,各治療法の適応や術後管理に関する知見も大いに進んだ。言い換えれば,手術にあたってどのような点に留意すべきなのか,どういう症例にはまだ「勝ち目がうすい」のか,という点がはっきりしてきたといえる。本稿ではこれまで蓄積されてきた本分野の新しい知見について概説する。

眼の遺伝病55

XLRS1遺伝子異常と網膜分離症(10)

著者: 和田裕子 ,   佐藤肇 ,   玉井信

ページ範囲:P.262 - P.264

 今回は,XLRS1遺伝子のGlu72Lys変異を認めた網膜分離症の1症例を報告する。この変異をもつ患者の臨床像は,すでにシリーズ5で報告しており,日本,海外から共通して報告されている変異である(表1)。

 本症例は,われわれが調べた範囲では家族歴がない症例であるが,遺伝子変異の確定は,今後の遺伝カウンセリングが重要な役割を果たすと考える。

日常みる角膜疾患12

細菌性角膜潰瘍―診断

著者: 森重直行 ,   西田輝夫

ページ範囲:P.266 - P.269

 症 例

 患者:10歳,女児

 現病歴:2003年6月10日に,コンパスの柄で左眼を受傷した。6月11日より眼痛が生じたため,近医を受診した。左眼角膜潰瘍の診断にて,2003年6月12日,当院を紹介され受診となり,加療目的で同日入院となった。入院時視力は右眼1.5(矯正不能),左眼1.0(矯正不能)であった。左眼に著明な結膜充血を認め,角膜中央部に直径4.7×5.2mmの上皮欠損と,その中に直径2mmの感染病巣を認めた(図1)。病巣部周辺角膜実質には著明な細胞浸潤と実質浮腫を認めた。前房深度は正常で,著明な前房内細胞とフィブリンの析出および前房蓄膿を認めた。眼底は透見不良であったが,超音波検査上眼内異物の存在や眼内炎,網膜剝離を疑わせる所見は認められなかった。

緑内障手術手技・9

線維柱帯切除術(1)

著者: 黒田真一郎

ページ範囲:P.270 - P.273

 セッティング

 ベッド・顕微鏡

 ベッド,顕微鏡のセットは線維柱帯切開術(トラベクロトミー)の場合とほとんど同様に考えればよい。上方からのアプローチの場合は,やや顎を下げぎみに調節する。トラベクレクトミーは濾過胞を作製する術式であるため,下方からのアプローチは例外を除いて行わない。

私のロービジョンケア・11

ロービジョンケアの担い手―看護職の役割

著者: 高橋広

ページ範囲:P.274 - P.278

 ロービジョンケアは一般外来から始まる1)。眼疾患の病態から考え,失明の可能性や視覚的困難が予想できたり,患者が視覚的支障を訴えた時点からロービジョンケアを導入すべきであると筆者は確信している。そして,待ち時間に視能訓練士や看護師などのコ・メディカルが日常生活状況を把握し,点眼,内服や注射の方法を指導したり,歩行の介助や日常生活の工夫を教授し,福祉サービス情報をも提供できる。医療スタッフのやる気と努力(創意工夫)がこれらのことを可能にすると述べてきた。これに対して,一部の視能訓練士や看護職からは,現在の忙しい状況のなかではロービジョンケアを行うことは無理で,理想論にすぎないとの批判を受けた。そこで,筆者は第57回日本臨床眼科学会ナーシングプログラム「ロービジョンケアと看護」で,「ロービジョンケアにおける医療連携の重要性―看護職の役割」と題し,ロービジョンケアを行っている眼科で実際にどの職種がロービジョンケアを担っているかを発表した。

 本稿では,その結果をふまえ,ロービジョンケアにおいての担い手としての看護職の役割を考えてみる。

他科との連携

他科への診療依頼―思いやりのある紹介状

著者: 河原澄枝

ページ範囲:P.280 - P.282

 日常の診療で,患者さんの紹介や情報交換のために他科の医師に紹介状を書く機会がたびたびありますが,この紹介状を“わかりやすく”書くことは難しいと私は常々思っています。

 血圧や血糖コントロールの依頼,そのほかはっきり病名や病態がわかっている患者さんの紹介状の作成は比較的容易ですが,まだ診断がついていない患者さんの診察を依頼するときには,とても悩みます。私はぶどう膜炎の患者さんを診察する機会が多いので,サルコイドーシスやベーチェット病,リウマチ関連疾患などの患者さんを他科に紹介することがありますが,これらの患者さんの診療依頼状の作成は,目的(肺病変や眼外病変の有無・診断など)がはっきりしているので比較的簡単です。

臨床報告

鈴木式アイチェックチャートによる緑内障性視野異常の自己検出

著者: 勝島晴美

ページ範囲:P.345 - P.348

 鈴木式アイチェックチャートは,視野異常の有無を自分で簡単に検出できる視野検査表である。正常者75例75眼と,ハンフリー視野計プログラム30-2で視野異常が確認された緑内障患者137例137眼について,本チャートの視野異常検出能力を検討した。感度は53.5%,特異度は84%であった。緑内障眼での異常検出率は病期の進行に伴って増加した。病期をAulhorn分類Greve変法で分類するとき,異常検出率は0期7.1%,1期38.1%,2期53.3%,3期70.0%,4期78.6%,5期85.3%であった。高度の視野障害がある2眼は,再検査でも異常を自覚しなかった。

Viscocanalostomyの術後結果

著者: 三宅三平

ページ範囲:P.349 - P.353

 過去4年間に139眼に対して行ったviscocanalostomy(VC)の結果をまとめた。対象は開放隅角緑内障,白内障または硝子体手術後の緑内障,続発緑内障などであり,3剤以上の点眼で眼圧コントロールが不良な症例が基本である。99眼にはVCを単独で実施し,40眼には白内障手術を同時に行った。術前の薬物使用中の眼圧は,単独群29.0±7.3mmHg,同時手術群24.2±8.1mmHgであった。手術1か月後の眼圧は,単独群15.4±3.1mmHg,同時手術群13.3±3.5mmHgであり,術後36か月までの平均眼圧は,点眼を行わない症例で14.1~16.0mmHg,点眼を併用した全症例で15.3~16.5mmHgの範囲にあった。手術後早期の眼圧がその後高くなる傾向はなかった。個々の症例での眼圧は,13~18mmHgの範囲にあるものが多かった。12mmHg以下が無点眼群で5.3~15.1%,全症例群で6.5~21.2%あり,14mmHg以下が無点眼群で16.0~34.4%,全症例群で20.0~42.4%あった。全期間中,同時手術群での眼圧は単独群よりも1.1~3.3mmHg低値であった。以上の結果から,VCは,14mmHg以下の眼圧を得る頻度がやや低く,術後に点眼を必要とする頻度がやや高いが,術後管理が容易かつ安全で,マイトマイシンCを必要としないなどの利点があり,緑内障手術として有用であると結論される。

当科における涙小管断裂の手術

著者: 根間千秋 ,   忍足和浩 ,   高島直子 ,   岡田アナベルあやめ ,   樋田哲夫

ページ範囲:P.355 - P.358

 涙小管断裂23例に対して手術を行った。受傷から手術までの期間は0~27日,平均4.4日であった。22例で下涙小管のみが断裂していた。21例では手術顕微鏡による断裂部位の確認ができた。涙小管の損傷を避けるために先細ゾンデは使用しなかった。ヌンチャク型シリコーンチューブが有用であった。21例で涙小管が再建できたが,再建不能であった2例でも眼瞼再建により流涙症が生じなかったことから,正常な位置への眼瞼再建が重要であると考えた。本疾患には緊急性はないが,眼瞼浮腫がひいてから5日以内に手術を行うことが望ましい。

多剤併用時におけるブナゾシンのラタノプロストへの併用効果

著者: 岩切亮 ,   小林博 ,   小林かおり ,   沖波聡

ページ範囲:P.359 - P.362

 目的:ラタノプロストを含む多剤治療眼でのブナゾシン追加による眼圧下降効果の検討。対象と方法:チモロール0.5%,ラタノプロスト0.005%,ドルゾラミド1%を3か月以上点眼している原発開放隅角緑内障50名50眼が対象。25眼にブナゾシン0.01%を追加し,他の25眼には追加せず対照群とした。眼圧,自覚症状,他覚所見を3か月間観察した。結果:実験開始前の眼圧は,ブナゾシン投与群が22.4±1.8mmHg,対象群が22.2±2.0mmHgで有意差はなかった。ブナゾシン投与群の眼圧は,4週後で-1.4±2.1mmHg(p=0.0046),12週後で-2.0±1.7mmHg(p=0.0008)と有意に下降した。2週後に比較し,12週後の眼圧下降はさらに有意であった(p=0.0344)。対照群の眼圧は,実験開始後のいずれの時点でも,開始前と比較して有意な変化はなかった。結論:多剤使用眼では,ブナゾシン追加によって有意に眼圧が下降した。2週後の眼圧下降は比較的小さく,時間の経過とともに眼圧がさらに有意に下降したことから,ブナゾシン併用の効果判定には4週間以上の投与が必要である。

片眼虹彩への浸潤で発見された悪性リンパ腫の1例

著者: 番裕美子 ,   阿部俊明 ,   高橋佳奈 ,   玉井信 ,   長谷川隆文 ,   一迫玲

ページ範囲:P.363 - P.367

 73歳男性の左眼に土が飛入し,前房混濁が発見された。抗菌薬や消炎薬で軽快せず,発症から5週後に紹介され受診した。左眼視力は0.4で,角膜後面沈着物と虹彩ルベオーシスがあった。眼底には異常所見がなかった。腫瘍性病変を疑い,前房水の生検を2回行ったが確定診断は得られなかった。当眼科受診の頃から左上半身に知覚と運動障害があり,腫瘍細胞の中枢神経への浸潤が疑われた。当眼科受診の5週後に診断的虹彩切除を行い,びまん性大細胞型B細胞性悪性リンパ腫の診断が確定した。右動眼神経麻痺が生じ,放射線照射と化学療法などを行ったが全身状態が悪化し,当眼科初診から10か月後に逝去した。悪性リンパ腫が,消炎治療に反応しない片眼性ぶどう膜炎の原因になり,著明な虹彩浸潤を起こすことを示す1例である。

Vogt-小柳-原田病新鮮例に対するステロイド大量療法とパルス療法の比較

著者: 北明大洲 ,   寺山亜希子 ,   南場研一 ,   小竹聡 ,   大野重昭

ページ範囲:P.369 - P.372

 Vogt-小柳-原田病の新鮮例に対するステロイドの大量療法とパルス療法の効果を比較した。対象は発症から1か月以内で未治療の自験例30例である。男性11例,女性19例で,年齢は21~67歳,平均38歳であった。大量療法とパルス療法の選択は無作為に行った。大量療法ではプレドニゾロン200mg/日を初回量とし,パルス療法ではメチルプレドニゾロン1,000mg/日を3日間続け,以後漸減した。大量療法群16例とパルス療法群14例との間に,治療開始前の所見には差がなかった。全症例で1.0以上の最終視力が得られた。大量療法群では夕焼け状眼底の頻度が有意に高かった。再発,遷延,副作用については両群間に差がなかった。本症の新鮮例に対し,ステロイド薬の大量療法とパルス療法は同等に有効であると結論される。

新型光干渉断層計(OCT3)にて検討したpunctate inner choroidopathyの1例

著者: 後藤昌久 ,   山田晴彦 ,   河原澄枝 ,   松村美代

ページ範囲:P.375 - P.380

 26歳女性が3か月前からの右眼中心暗点で受診した。両眼に約-8Dの近視があり,矯正視力は右0.15,左1.2であった。右眼後極部に灰白色の小斑状病変が多発し,浮腫を伴う滲出性変化が中心窩にあった。フルオレセインとインドシアニングリーン蛍光眼底造影で,黄斑部に脈絡膜新生血管があった。新型光干渉断層計(OCT3)で,斑状病変部位には網膜深層に高反射があり,黄斑部には2型脈絡膜新生血管と思われるドーム状の高反射が検出された。これらの所見から,脈絡膜新生血管を伴うpunctate inner choroidopathyと診断した。6か月後に黄斑部の浮腫は消失し,脈絡膜新生血管は線維性瘢痕となり,右眼の矯正視力は0.8に改善した。光干渉断層計では,網膜色素上皮に萎縮があり,斑状病変部では網膜色素上皮よりも外層の反射が亢進していた。画像の解像力が改善した新型光干渉断層計では病変部の詳細な評価が可能であり,本疾患の診断と経過観察に有用であった。

内境界膜剝離後眼底に認めるDONFL様変化の長期経過

著者: 田村和寛 ,   松井淑江 ,   杉本琢二 ,   菅沢英彦 ,   石郷岡均 ,   荻野誠周

ページ範囲:P.381 - P.385

 内境界膜剝離を併用した硝子体手術を行い,12か月以上の経過観察ができた65眼中35眼(54%)にdissociated optic nerve fiber layer(DONFL)様の変化が生じた。その内訳は,黄斑上膜13眼中10眼(77%),黄斑円孔33眼中17眼(52%),網膜静脈分枝閉塞症19眼中4眼(21%)である。黄斑上膜と黄斑円孔では,DONFL様変化の有無による視力の差はなかったが,網膜感度はDONFL変化がある群で有意によかった。DONFLの発生率は,術中のインドシアニングリーンの使用の有無と無関係であった。6眼では経過観察中にDONFL様変化が不明瞭になった。観察期間中に,DONFL様変化が視機能に及ぼす影響は認めていない。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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